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■合唱隊物語(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2014-11-22
 
その年は災害の当たり年ともいうべき年だった。
 
特にウテロが住むバジロ郡の被害は凄まじく、国は軍隊を派遣して瓦礫の片付けや川岸の補修、また炊き出しなども行ったが、人々は途方に暮れていた。 
ウテロの通う学校でもクラスの3割ほどの生徒が欠けていた。死んだ者もあれば、もう少し被害の少ない他地域へ移住していった者、そして「売り飛ばされた者」もいるという噂だったが、学校側もひとりひとりの生徒の消息はつかめていなかった。ウテロは「売られた」子って、その後どうなるんだろうと訝った。 

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あまりに酷い災害であったため、王太子殿下ご夫妻がバジロ地方を慰問に来た。ウテロも町の広場に行ったが、王太子殿下はとても格好いい感じの人だった。そして妃殿下はとても美しい人だった。素敵だなあと思って眺める。
 
妃殿下直属の国立合唱隊も一緒に来ていて、美しい称賛歌を披露した。見た感じ、20歳から30歳くらいの女性20人ほどで構成されていたが、ウテロはその美しい響きに涙した。
 
「妃殿下って美人さんだよね」
「うん。あの人が次のお后になるんだったらいいなあ」
「妃殿下って合唱隊の出身らしいよね」
「そうそう。合唱隊にいたのを王太子殿下に見初められて結婚したんだよ」
 
へー。じゃ妃殿下も歌がうまいのかなと思いながらウテロは合唱隊の歌を聴いていた。
 
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やがてご夫妻が次の町に行くため、馬車の方に行く。その時ちょうどウテロのそばを通った。ウテロは歌に感動して涙を浮かべていたのだが、妃殿下はそのウテロを見ると、手をお取りになり、
 
「少年よ。どんなに辛いことがあっても決して諦めてはいけません。神はいつも私たちを見ています。必ずやそなたにも幸いがあるでしょう」
 
とおっしゃった。ウテロはその妃殿下の美しい声と言葉に感動して
 
「ありがとうございます。がんばります」
と答えた。
 

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その数日後の晩のこと。ウテロはお腹を蹴られるような衝撃で目を覚ます。見ると兄のレグルが寝返りを打って、足をウテロのお腹の上に放り投げたようであった。ウテロはその足をどけてから、ついでにトイレに行こうと思い、部屋を出た。トイレは家の外にある。そこでおしっこをしてから出ようとした時のこと。 
「子供たちは?」
「みんな寝てるよ」
 
両親の声がする。
 
「もう限界だよ。なあ、いっそ子供たち全部殺して俺たちも死なないか?」
 
父がとんでもないことを言うのでウテロは驚く。
 
「私もそれ考えた。だけどさ。どうせみんな死ぬくらいなら、何人かだけ間引かないかい?」
 
間引くって何だろ?とウテロは疑問に思う。
 
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「うーん。それもひとつの手かな。とにかく子供8人はもう食わせていけん」
「とりあえず2人くらいになれば何とかなるよ」
「じゃ6人間引くのかい?」
 
ウテロは「間引く」の意味は分からなかったものの、どうもやばいことのようだと考える。
 
「長女のジューンはお嫁にやっちゃおうよ」
「こんな時に嫁のもらい手なんてあるか?」
 
「***のご隠居がさ、前々からあの子をめかけにくれないかと言ってたのよ」
「何だ。めかけなのか?」
「この際、いいじゃん。支度金に5万フェルくれると言ってるし」
「そんなにもらえたらかなり助かるぞ」
「だろ。それから三女のアンナは女衒に売ろうよ」
「あんな小さい子、買ってくれるのか?」
「最初は半玉と言って行儀作法を習いながら、小間使いみたいなことをするんだよ。そして初潮が来たら、客を取るんだ」
「ふーん、そうなっているのか」
 
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「男の子だけど、長男のトーマは軍隊に入れよう」
「あの子は身体が頑丈だからな」
「次男のジョンは坊さんにするんだよ」
「あの子は本が好きみたいだから、それもいいかな」
「そして四男のレグルと五男のウテロを間引こう」
 
え?僕、間引かれるの?でも間引くって結局何のこと?
 
「なるほど。レグルは大飯食らいだし、ウテロは身体が弱くて農作業ができん」
「それで三男のフッドと次女のマリアだけ残す。フッドは農作業を黙々とするし、マリアはあと2年くらいしたら嫁さんに出せると思うんだ」
 
「それなら何とかなるかもしれないね」
「よし、じゃ間引く準備してくる」
 

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ウテロは、とりあえず部屋に戻らなければならない気がした。それで両親が納屋に何か探しに入ったのを見送って、そっと母屋に戻ると、布団の中に戻る。 
しばらくしたらそっと戸を開ける音がする。薄目を開けて確認すると両親だ。僕を「間引き」に来たのかなと思う。でも「間引く」って結局何なのさ? 
父がいきなりウテロの身体に馬乗りになって両手をぎゅっと押さえた。それと同時に顔に何か冷たいものがかぶせられた。何これ? 息ができないよ! 
その瞬間、ウテロはやっと「間引く」というのは殺すことなんだということを理解した。だったら家に戻らずに逃げれば良かった! でも逃げてもどうやって食べていけばいいんだろう。
 
でも死にたくないよお。神様たすけて!
 
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そんなことを考えた時、突然稲光がしたかと思うと、ほとんど間髪を入れずにドーーーーーン!という大きな音がした。それで部屋の中にいた子供たち全員が起きてしまう。ウテロも父の力が一瞬緩んだ隙に手をふりほどいて、顔に掛けられている「水に濡らした紙」を取り除いた。
 
長兄のトーマが窓を開けて音のした方を見ている。
 
「教会の一本杉に落雷したみたい」
「燃えてるね」
と長女のジューンも言う。
 
ウテロも兄・姉たちのそばに行き窓の外に見える大きな炎を見ていた。そしてウテロは神様が助けてくれたんだ、というのを実感した。
 

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朝になると、両親はジューンに**さんとこの妾(めかけ)になれと告げた。「いいよ」とジューンは無表情で答えた。ジューンも現在の家の窮状は理解しているので、自分が「売られるのだな」というのを認識しても、それに異議は唱えないのだろう。
 
両親は次いで、トーマに軍隊への入隊、ジョンに出家することを命じた。「分かった。行くよ」
とふたりとも答えた。
 
ジューンの婚儀はその日の夕方行われた。ジューンは結局無表情のまま、金持ちの旦那の妾として嫁いでいった。妾って辛いのかなと思ったが、婚儀にも出席していたそこの正妻さんが何だか優しそうでジューンにも色々声を掛けてあげているのが、せめてもの救いかなとウテロは思った。
 
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その晩、トーマがウテロに今夜は自分のそばで寝るように言った。そのお陰か、両親はその夜はウテロを殺しには来なかった。
 
翌日、トーマは軍への入隊手続きを取り、ジョンは頭を丸めて入道の儀式を受けおのおの旅だって行った。
 

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そして夕方、女衒(ぜげん)のゴーダがやってきた。
 
「で、どの子を売るんだい?」
とゴーダは言った。
 
「この子なんだけどね」
と言って母はウテロより2つ年下のアンナを指さすが、アンナは明らかに怯えている。女衒の意味は分かっていなくても何だか怖い人らしいというのはアンナも知っている。
 
「私、どうなるの?」
「大丈夫だよ。可愛い洋服を着て、美味しいもの食べられるんだから」
 
するとアンナが不安がっているのを見て、次女のマリアが言う。
 
「おじさん、私も一緒に買ってくれない? この子、まだ何も知らないから、私が少しずつ教えてあげるからさ。私はすぐ客を取れるよ」
 
「ふーん。もう月の物が来てるのかい?」
「うん。去年くらいから来てるよ」
 
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「じゃ、どうだろう? この子も一緒に買おうか?」
と言って母を見ると、母は
「それは助かるよ」
などと言っている。
 

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それで2人まとめて3万フェルで買うという話がまとまる。
 
「そちらのお嬢ちゃんは? あんたもう月の物来てるのかい?」
とゴーダはウテロを見て言った。
 
へ?月の物?それって女の子だけじゃないの?男の子でも月の物って来るんだっけ?とウテロが悩んでいると、
 
「いや、ゴーダさん、これは男の子ですよ」
と母は言う。
 
「あれ?そうだったの。ごめんごめん」
と言ってからゴーダは少し考えるようにして
 
「君、歌はうまい?」
と訊く。
 
「うまいかどうか分からないですけど、歌うのは好きです」
「何か歌ってみて」
 
それでウテロは称賛歌の102番を歌ってみせた。
 
「うまいじゃん。ね、ね、この子、合唱隊に入れないかい?これだけ歌えたらきっと入れてくれるよ。入れば支度金で5万フェルもらえるよ」
 
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「そんなに?」
と母は驚く。
 
「俺が手数料に2万もらって、あんたには3万ってのでどうだい?」
「それはいいけど、もし入れてもらえなかったら?」
 
「ああ。その時は、男娼として売るよ。これだけ可愛ければ売れるから。ただしその場合は1万フェルくらいしかもらえないけどね」
「それでも悪くないね」
 
などと母は言っている。私もマリアやアンナも、もはや商品なんだなというのをウテロは思った。
 
結局、母はその場で1万フェル受け取り、私が合唱隊に入れたら更に2万フェル渡すということで合意した。アンナ・マリアを売ったお金3万と合わせて4万受け取る。
 

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それでウテロ、アンナ、マリアは身の回りのものだけ持って旅支度をした。そこに父が帰ってくる。母はそれと入れ替わりにウテロたちを送り出した。ウテロの後ろで母が
 
「アンナだけじゃなくて、マリア・ウテロも一緒に買ってもらったよ。それで2万フェルももらったよ」
 
などと言っているのが聞こえた。つまり2万だけ父に渡して、残り2万は自分でへそくりにするつもりなのだろう。
 
ウテロたち一行は3日ほど掛けて旅をしてバジロ郡の郡都であるホルドの町まで行った。途中ゴーダは親切だったし、食べ物もいいものを食べさせてくれた。 
「ゴーダさん、もっと怖い人かと思った」
とウテロが言うと
 
「おまえたちは商品だからね。商品は丁寧に扱わないと」
などと言っていた。
 
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先に娼館に行き、ここでアンナ・マリアと別れた。たぶんこれがお互い会うのは最後なんだろうなという思いがして、ウテロはアンナともマリアとも抱き合って涙を流した。
 
ゴーダはふたりを娼館に15万フェルで売った。母に3万渡しているから12万が彼の儲けだ。
 
「嫌がって泣く子とか居ない?」
とウテロはゴーダに訊いてみた。
 
「大半がそうだよ。マリアちゃんみたいにしっかりした子は珍しい。あの子はきっと凄い稼ぎ手になるだろうね」
「へー。アンナだけだったらきっと凄く泣いてたと思ったから」
「まあ、それが普通だよ。自分のこれからのことが不安だろうしね」
 
「でもゴーダさん、客を取るってどういうことするんですか?」
 
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ウテロがそんなことを訊くとゴーダは吹き出した。
「何か変なことだったでしょうか?」
「いや、いいよ。まあ君は知る必要のないことだよ」
 
「へー。なんか辛いことなんですか?」
「辛くないよ。むしろ気持ちいい」
「へー!気持ちいいことしてお金もらえるんですか?」
「まあ女の子にしかできないことなんだけどね」
「そうですか。じゃ僕にはできないんですね」
「そうだねえ。とりあえず今は無理だね」
「おとなになったらできるんですか?」
「できるようになる子もいるよ」
「ふーん」
 

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やがてゴーダに連れられて、合唱予備学校と書かれた所に着く。
 
「ここなんですか?」
「合唱隊に入るには、ここで最低1年間歌の勉強をして、更に2年間合唱基礎学校、さらに2年間合唱高等学校で学んで、それで優秀な子だけが合唱隊に採用される」
 
「採用されなかったら」
「まあいろいろだな。予備学校を卒業できるのは半分、基礎学校を卒業できる子が入学した子のだいたい2割、高等学校はまたその中の2割だけど、合唱隊は定員があるから欠員が出ない限り新たな採用はない。だから卒業しても合唱隊に入れず、修道院とかに行く子も多いよ」
 
「あ、修道院には行けるんですか?」
「まあな」
 
と言って、ゴーダは言葉を濁すようにした。
 
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受付の所で入学希望者であることを告げると、鉄製の門が開いて中に案内される。60歳くらいの女性と40歳くらいの女性が面接してくれた。
 
「何か適当な歌を歌ってみて」
と言われるので、大好きな称賛歌を歌ってみせる。するとふたりの女性はパチパチと拍手してくれた。
 
「合格です」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
 
ゴーダは支度金として10万フェルもらっていた。ゴーダは母には支度金は5万と言っていた。母には5万だから2万をゴーダが取って母が3万と言っていたが、実際にはゴーダの取り分は7万である。しかし母はきっと父には1万だったと言うのだろう。
 

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予備学校では衣服は規定のものが支給され、それを着なければならなかった。持って来ていた私服は没収された。服は下着も含めて全て質素な麻で作られており、真っ白であった。外側に着る服は上下が一体になっており、腰から下はゆるやかに台形状に裾が広がっている。長さは膝下まであるが、股は無く、まるでスカートみたいだとウテロは思った。
 
「女の人のローブみたいな服ですね」
「修道士の服装ですよ」
「あ、そういえば修道士さんってこんな服着てますね」
 
下着を見てまた戸惑う。
 
「パンツに前開きが無いんですけど」
「ここでの生活は全てシンプルで貫かれていますから、余計な物は付けないんです」
「なるほど」
 
とは言ったものの、トイレの時にどうすればいいんだろうと少し悩んだ。 
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