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■徴兵検査の朝(1)

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カズシは憂鬱な気分で家を出た。今日は徴兵検査の日である。
 
我が国では20歳になった男子は全員徴兵検査を受ける義務がある。検査の結果合格となれば、4年間の兵役義務が待っている。現在我が国は定常的な戦争は行っていないものの、国連や多国籍軍による平和維持活動やテロ防止活動のため、世界に軍隊が派遣されており、中には危険な地域もあるので毎年数百人単位の戦死者が出ている。確率的には戦死率は1%程度ということになるが、それでも死ぬ可能性はあるし、死ななくても大怪我をしたり、また人が死ぬ場面、自分が人を撃つ場面に遭遇して、強いトラウマとなり、鬱病などになる人も多い。 
そこで様々な形で徴兵忌避をしようとする人達もいるが、悪質な場合、最高刑は死刑である。
 
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先輩の中には直前に醤油を大量に飲んで、肝機能障害があるかのように装った人もいたが、これはよくある手法なのですぐバレて、刑罰は食らわなかったものの、即刻前線に行かされた。
 
ある先輩は自分の入信している宗教で人を傷つける行為が禁止されているので、兵隊にはならないと主張した。外国ではこういう人は代わりに社会奉仕などに回される所もあるらしいが、我が国では厳罰を食らう。この人は懲役刑を宣告され、いまだに刑務所の中にいる。
 
笑っちゃったのが別の先輩である。男だから徴兵されるのだから女なら不合格になるだろうというので女装して徴兵検査に出かけた。確かに女の格好で行って「帰れ」と言われて、そのまま帰された例もあるらしいのだが、その先輩の場合は、試験官の中にたまたま彼を知っている人がいて「お前、普段は男の格好してるじゃないか」と指摘され、偽装女装がバレてしまって、その場でバリカンで頭を刈られ、ふつうに乙種合格してしまった(帰りは丸刈りで女の服を着て帰宅したので無茶苦茶恥ずかしかったらしい)。
 
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カズシは三人兄弟の三男である。長男のヒロシは高校時代にラグビーの選手だっただけあって体格が良く、運動能力にも優れていて甲種合格した。甲種合格は名誉なこととして、たくさん祝福されていた。剣術にも射撃にも優れていたので、海兵隊に入り、4年間の兵役の間に多数の戦地に赴き、多くの手柄を上げ、下士官試験を受けて正規兵となり、現在は出世して少尉である。
 
次男のタカシは身体はそれほどでもなかったが頭が良かった。それで士官学校に入って(そのため徴兵検査は受けていない)技術士官となり、兄より出世して大尉になっている。彼は戦地に赴いたりはせず、国内で勤務している。無人戦闘機のパイロットの資格を持っており、戦乱が起きた時はそれを(国内の基地で)操縦して、多数の戦果を上げているようである。
 
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運動能力が高い長男、頭の良い次男に比べて、何の取り柄も無かったのがカズシであった。いつも父から「兄たちを見習え」と言われて育った。学校の成績は下から数えた方が早かったし、体育では野球などやると、打てば三振、守ればトンネル、投げれば暴投、受ければ後逸。カズシはいつも劣等感漬けの状態で育った。高校もそこそこの学校に行ったが、まさか通るまいと思って受けた大学に奇跡的に合格して、4年間理学部の学生として過ごした。
 
通常徴兵検査は20歳で行われるのだが、理系の大学生だけは特例で、大学を卒業してから受けることになっている。
 
それで高校の同級生の中には既に徴兵されて軍務に就いている人も多かったのだが、カズシはこの3月に大学を卒業し、4月1日に行われる大学卒業者向けの徴兵検査に臨んだのであった。
 
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徴兵検査の3日前。カズシは髪を切りに行かねばと思った。検査を受ける時には丸刈りで行くのが原則である。それまでカズシは髪をかなり伸ばしていた。これは短髪にしていると毎月髪を切らないといけないが、長髪なら3ヶ月に1度程度切るだけでも済むので、経費節約というのがあった。もうひとつは、長兄よりは少しは自分のことを理解してくれている次兄のタカシが「お前は髪が長い方が似合うよ」と言ってくれていたからであった。
 
しかしさすがにこの髪では徴兵検査は受けられないと思って、床屋さんにいくのに学生アパートを出たのであるが、これまで年に数回行っていた床屋さんの所に行くと閉まっていて「長らくの御愛顧ありがとうございます。当店は閉店しました」という貼り紙があった。
 
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「ありゃ〜」と思い、町に出て、床屋さんを探した。しかし、あそこの床屋さんに大学入学以来ずっと通っていたので、どこに他の床屋があるのか分からない。適当に歩いていたものの全然見つからないので、困って大学時代のクラスメイトに電話してみた。
 
「ね、髪はどこで切った?」
「ああ、俺は○○町の○○理髪店だよ」
「ありがとう」
 
そういう訳で○○町までバスで移動する。
 
そして学友に聞いた理髪店の場所を探して歩いていた時、道でうずくまっているお婆さんを見かけた。
 
「どうしました?」
「ちょっと気分が悪くなって」
「それはいけない。病院に行きましょう」
「いや、それほどではないので、家まで帰れたら寝ておくのですが」
「だったら送りますよ」
 
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そういうとカズシはちょうど来たタクシーを捕まえて、老婆を乗せ、行き先を聞いて一緒に行った。そして一緒にお婆さんの自宅に入り、布団を敷いて寝せた。 
「お子さんかどなたかおられませんか?連絡しましょう」
「息子は2人いたけど戦争で死んでしまって」
「あらあ。他に身よりは?」
「全然居ないんですよ。一応息子が戦死したというので恩給をもらっているから、それで生活しているのですが」「ああ。じゃ、今日は少し私が付いてますよ」
「でもお忙しいのでは?」
 
「大学は卒業して、3日後に徴兵検査なんで今は無職で暇ですから」
「あら、あなた男の子? 髪が長いから女の子かと思った」
「あ、済みません。奥さんも女の人だし、男性とふたりきりでいるのはまずいですかね?」「あら、若いツバメでも欲しい感じだけどね」
「あはは」
 
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ということで、その日は夕方まで、そのお婆さんの家にいて、おしゃべりの相手をし、食事なども作ってあげた。それでお婆さんもだいぶ体力を回復してきたようであったので「お大事に」と言って帰宅した。
 
まあ髪切るのは明日でいいや、と思って寝る。それで翌日また○○町まで行き今度はちゃんと○○理髪店まで行ったのだが「本日定休日」という貼り紙がある。あぁ。。。と溜息を付いて引き返す。まあ明日切ればいいよね。
 
それで徴兵検査の前日、再度○○町の○○理髪店まで行った。客が多数待っていたので、自分も椅子に座り、漫画本でも取って読みながら待つ。今日は何だか客が多くて、かなり待つ気配であった。
 
しばらく待っていた時、店主さん?から話しかけられた。
 
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「済みません。今日は凄く混んでいるので、女の人は美容室に行ってもらえませんか?」「あ、えっと・・・」
「明日が徴兵検査で、髪を切りに来ている男性がたくさんいるんですよ」
 
自分もその髪を切りに来た男性なんだけど〜、と思ったものの、カズシは言われると反論したりせずに大人しく従ってしまう性格である。それで
 
「済みません」
と言って店を出てしまった。
 
うーん。。。。美容室? そんなもの行ったことないけど。でも美容室に行って丸刈りにしてくださいとか言ってもいいのか?
 
少し悩んでしまったが、取り敢えず美容室を探す。床屋さんがなかなか見つからなかったのに対して、美容室はすぐに見つかった。取り敢えず見つけた店に入る。ここも客が数人待っていたが、やがて案内された。床屋では鏡の前の傾けられる椅子に座って髪を切られていたので、鏡も無い、ふつうの椅子に座らせられて何かちょっと変な感じ。
 
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「徴兵検査受けるんで丸刈りに」
「お客さん、冗談がきついですね。短くするんですか?」
「あ、はい」
「じゃ、肩に掛からない程度くらいまで?」
「あ、そんなものかな」
 
カズシは自分は男で本当に丸刈りにして欲しいんだというのが言えず、流されるままに「女性としては短い」程度の髪の長さにされてしまった。
 
「とても可愛くなりましたよ」
「あ、そうかな」
 
などという会話をして料金を払ってお店を出た。
 
ショウウィンドウに映してみると、本当に女の子みたい! これやばくないかな〜という気がしたのだが、またどこかの床屋に行っても追い出されそうな気がする。うーん。。。もういいことにしよう! 徴兵検査場でちゃんと髪を切ってきてなかった者は丸刈りにされるとも聞くし、それでやってもらえばいいか。
 
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ということで放置してその日は寝ることにした。
 

それで徴兵検査の当日。カズシは取り敢えず髪はブラシで梳き、適当なポロシャツにジーンズを穿いて検査場となっている市の体育館に出かける。
 
バス停で体育館行きのバスを待っていた時、何故か眠たくなってしまい、うとうととした。夢の中に、先日町で助けたお婆さんが出てきた。
 
「先日はありがとうございました」
「お婆さん、そのあと体の調子はどうですか?」
「おかげさまで、何とかなってます」
「それは良かった」
 
「それでですね。親切にしていただいた御礼に、何か願い事があったら、叶えてあげようかと」「あはは、まるで昔話みたいですね」
「何かこうなったらいいなというの、ありませんか?」
「そうだなあ。今から受けに行く徴兵検査、不合格になるといいかな」
「あら、そんなのでいいの? 欲が無いわね」
 
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お婆さんはにこやかにそう言った。
 

バスのクラクションが鳴ってカズシは目を覚ました。目の前に体育館行きのバスがいる。慌てて飛び乗った。
 
バスの車窓から町の景色を眺める。平和な町並みだ。この国はここ100年ほど、本土が戦場になったことは無い。それは我が国が強力な軍事力を持っていることと、超大国との軍事同盟も結んでいるから、周辺国も手出しができないためであることはカズシとしても認めざるを得ない。むろんこの国は侵略戦争も行っていない。
 
しかしカズシは戦争は嫌いだ。
 
国連軍や多国籍軍絡みで戦闘に従事している兄たちが「今年は何人殺したかな」などと得意そうに言うのを聞いているだけで鬱になる。それもあって大学に入るのと同時に家を出てアパートで一人暮らしを始めた。
 
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なぜ人は戦争をするのだろう。お互いに少しずつ譲り合えば、何とか争いにならないようにできないものだろうか。カズシはそんなことをよく考えていた。 

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やがて体育館に到着する。カズシはふっと息をつくとバスを降りた。バスから降りた客のほとんどが丸刈りの若い男性だ。みんな徴兵検査を受けに行くのだろう。
 
体育館の前に列が出来ていたので、カズシもそれに並ぶ。
 
が後ろに並んでいた男性から声を掛けられる。
 
「君、これ徴兵検査の列なんだけど。バーゲンとかじゃないよ」
「あ、済みません。私も徴兵検査受けるんで」
「へ?」
「私、一応男です」
「え?そうなの?」
 
後ろの男性は首をひねっていたが、まいっかと思ったようであった。彼とはその後、少し言葉を交わした。彼はミノル君と言った。
 
やがて体育館の入口に来る。入口の所に軍曹の階級章を付けた人と数人の兵士が立っていて、入って行く男性たちから住所と名前を聞き、名簿にチェックしている。たまに何か文句言われている人もいる。どうも頭は「1分刈り」と決められているのに「5分刈り」だと言われている人や、ピアスは禁止だとかいわれている人などのようである。
 
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やがてカズシの番が来る。
「○○市○○町○○番○○号、タナカ・カズシです」
と言ったのだが
 
「ちょっと待て。お前女なのでは?」
と軍曹さんから言われる。
 
「男ですけど」
「なんだ?その髪は?」
「済みません。切ろうとしたのですが、どこも閉まってるか満杯でどうしても切れませんでした」「まあいい。検査の後で切るぞ」
「はい」
 
それで中に入った。服を脱いでパンツ1丁になるよういわれる。それでポロシャツとシャツを脱ぎ、ジーンズも入れて名札付きの駕籠に入れた。カズシが脱いだ所を見てミノル君が
 
「あ、やはり君、男なんだね」
と平らな胸を眺めながら言った。
 
「そうですね」
と言ってカズシは微笑む。何となく彼とは微妙な連帯感が出来ていた。 
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最初に採血されて、他の検査をしている最中に分析機に掛けられるようである。心電図、レントゲンを撮られたあと、身長、体重、視力、握力などを測られる。身長162cm, 体重48kg, 視力1.2/1.0, 色覚異常無、聴力異状無、握力25kg/20kg, 背筋70kg, 肺活量3000cc と数値が出てくる。その後、内科医に聴診器を当てられる。 
「握力・背筋とか肺活量も小さくて女子並みだけど、特に軍役に支障は無いね。君細いし筋力も無いみたいだけど、軍隊で毎日訓練やってれば、もう少し体格良くなるよ」などといわれた。どうも乙種合格しそうな雰囲気。やだなあ。
 

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その後、とっても憂鬱なものが待っている。性器検査だ。これまで穿いていたパンツも脱ぎ、全裸で泌尿器科医のチェックを受ける必要がある。それでその列に並ぶ。おちんちんを丸出しした男性の列。見ただけで逃げ出したい気分。でも自分もパンツを脱ぐ。
 
カズシはその時にやってようやく、その「異変」に気付いた。へ? 何?これ?何でこういうことになってんの??
 
カズシは取り敢えず股の所に手を当てた。
 
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