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■チョコが好き!(3)

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翌日、大学に出て行き、院生室に行ったらその日は誰もいなかったが、部屋の端末を使って、少し事例の調査をしていた時に篭原さんが入ってきた。
 
「こんにちは〜」
「あ、こんにちは」
 
「ね、ね、昨日のテレビ見たよ」
「わあ」
「山村君、女装すると、あんなに美人になるんだね」
「いや、お恥ずかしい」
 
「恥ずかしがらなくてもいいじゃん。もしかして、普段から女装してる?」
「してない、してない」
「ほんと?だって、あんなに美人になるのに。女装しないの、もったいないよ」
「そう?」
「うん。いっそ、性転換しちゃってもいいんじゃない?」
「あはは」
 
「あちら、回復してきた?」
「それが、3日後に検査したのでは、精液の中に精子が全く無かったんだよね」
「へー。そうなるんだっけ?」
「先生の話では、たぶん生殖細胞の回復の方に使われているから、精子の生産が減っているんだろうって」
「ああ、なるほど。それなら納得できるね」
「でも、先生が自分で実験した時は、精子は完全には無くならなくて、一応あったらしいんだけどね」
「個人差が大きいのかな?」
 
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「確かに生殖細胞が減った場合、回復優先になるから、それ考えると、この方法って、生殖細胞を少し減らすだけでも、かなり精子の数を減らすことができるんじゃないかって、言ってた」
「それって、凄く効果的な避妊法じゃん」
「だよね。でも個人差が大きいと、どのくらいで避妊になるかがつかみにくいから、ある程度事例を積み重ねないと、なかなか実用化できないかもって」
「じゃ、次は真崎君が生け贄だな」
「あはは」
 
「でも先生ったらさ、もしほんとに精子の数がずっと回復しなくて無精子症になっちゃったら、ごめんね、なんて脅すんだから」
「その時は、ホントに性転換しちゃえば?」
「えー?」
「だって、あんなに美人になれるんだもん。女の子になっちゃってもいいよ」
「うーん。。。」
「それで、先生の奥さんにしてもらったら、お金の心配無しでずっと研究してられるじゃん」
「うーん。。。それもいいかな、って気がしてきた」
「うふふ。もし女の子になりたくなったら、色々教えてあげるよ、女の子のこと」
「ははは」
 
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大学を出てから、大型書店に寄りたかったので町に出て、目的の本屋さんに入り、しばしあれこれ立ち読みする。今日のところは、いまいちピンと来る本が無かったので、結局買わずに店を出た。お腹が空いたので、近くのマクドナルドに入り、えびフィレオのセットを頼んで食べていたら、「あれ?信生さん?」という声がしたので、そちらを見ると、隣のテーブルの女性がこちらを見ている。
 
「えーっと・・・」と僕は戸惑うようにスカートスーツの女性を見る。誰だっけ?
「あ、分からなかった? 私、宏海です」
「・・・えー!?」
 
それは先日のテレビ番組収録で一緒になった、「4番の人」宏海であった。僕はトレイを持って隣のテーブルに移る。
 
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「こんばんは。でもその格好は?」と僕は尋ねる。
「あ、私、夜はいつもこういう格好で」
「あの・・・お仕事か何かですか?」
「うん。この後、◇◇ホテルのラウンジでピアノ弾くんだよ。ピアノ弾く時はドレス着るけどね」
「へー!」
「私、昼間は男として会社勤めしていて、夜には女としてピアニストなの」
そう語る宏海の声は女声である。
 
「声が・・・」
「あ、私、男の声も女の声も出せるから」
「すごい」
 
「いやあ、あそこで『人間鑑定局』に出てって、スタッフの人に腕掴まれて頼まれた時は、私みたいな、いわば本職が出ていいもんだろうかって思ったけどね。でも、その後、信生さんが連れて来られて『わ、もっと凄い人いるから、私はいいよね』と思ったんだけどね。信生さんも普段女装してるんでしょ?」
 
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「いえ、してないです。あれ、初めての女装でした」
「ほんとに?てっきり同系統の人だと思ったのに」
「でも、女装楽しかったです」
「だよね。凄くなじんでる感じだったし」
 
「あ、私のピアノの演奏、7時から8時までなんだけど、もしよかったら、その後、少し飲まない?」
「ええ、いいですよ。じゃ、宏海さんのピアノ演奏も聴かせてください」
「うん」
 

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マクドナルドでバーガーを食べながら、しばし世間話などをする。僕たちは携帯のアドレスと番号を交換した。その後一緒に◇◇ホテルに行く。控え室に行くと、宏海は持っていた衣装バッグの中から白いドレスを出し、それに着替えた。下着は最初から女物の下着を付けていた。
 
「会社行く時は男物の下着なんだけどね。いったん家に戻って、女物の下着を付けて、女物の服を着て、お化粧して。その変身していく感覚がたまらなく快感なんだよね」
「ああ、何となく想像が付くなあ。こないだの女装、気持ち良かったもん」
「でしょ?信生もこれまで経験無かったんだったら、いい機会だし、女装始めちゃいなよ。お化粧とか、教えてあげるよ」
「あ、お化粧はちょっと覚えてみたいかも」
 
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一緒にラウンジに行く。宏海が「こちら付き添いです」と僕のことを言ってくれたので、そのまま中に入り、隅の方に並んでいる椅子に座った。ウェイトレスさんが「どうぞ」と言って、お茶を持ってきてくれた。お茶くらいはいいだろうなと思い「ありがとうございます」と言って頂く。
 
宏海の演奏が始まる。最初は『スターダスト』だ。美しいメロディーが宏海のピアノから流れ出してくる。ああ、自分もピアノとか習いたかったなあ、などと思った。妹が幼稚園の頃からピアノを習いだしたので、自分も習いたいと言ったら、親から「男がピアノ習ってどうする?」などと言われてしまった。
 
1曲演奏が終わると、客席のところどころから拍手が鳴る。僕も笑顔で拍手をした。曲目はそのあと『マスカレード』『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』
『ダニー・ボーイ』『ムーンリバー』『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』
『メモリーズ・オブ・ユー』『ミスティ』とジャズのスタンダードナンバーが続いていく。夜のラウンジには、ほんとにジャズが似合う。
 
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宏海の演奏は「技術的に巧い」だけでなく「聴かせ方が上手い」という感じだ。ピアノは、シンセサイザーなどと違い一種類の音色しか出ないはずなのに、そこから、まるで極彩色のような豊かなサウンドが出てくる感じであった。素敵な演奏だと思って、僕は聴き惚れていた。
 
ヴァレンタインデーが近いからか。『バレンタイン・キッス』『チョコレイト・ディスコ』を弾いたあと、最後は『セレソ・ローサ』で締めた。この最後の曲だけは弾き語りをした。宏海は美しい女声でこのラテンの名曲を歌い上げる。客席から一際大きな拍手が起きた。宏海は客席の方に向かってお辞儀をして退場。僕もそれに従った。
 

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宏海が元のスカートスーツに着替えたあと、一緒に居酒屋さんに行き、鶏軟骨の唐揚げや焼き鳥、フィッシュフライなどを食べながら、水割り片手にいろいろ会話をした。
 
「へー。じゃ、物心付いた頃から、女の子になりたかったんですか?」
「うん。でも、今みたいな時代と違うから、親の理解なんて全く得られなかったしね。ほんと、密かに女装していた感じ」と宏海は言う。
 
「高校出てから一人暮らし始めて、やっとおおっぴらに女装するようになって。大学には女装して出て行ってたけど、そのまま就職できないから仕方なく、男装で就職して、今みたいな二重生活になっちゃった。ピアノ教室にはずっと女装で行ってて、ホテルのラウンジの演奏は先輩が結婚してやめる時に後任にって推薦してもらったんだよね。ホテル側は私の性別のことは承知の上で、あなたくらいに女らしければいいでしょうと言ってもらえた」
「よかったですね」
 
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「でも大学を出て就職する時、髪を切るのが悲しかったなあ。学生時代は、胸くらいの長さにしてたんだけど、さすがにそれでは男として就職できないから、切ったんだけど。今は仕方ないから、こうやってウィッグ付けてる」
 
「大変ですね。昼間のお仕事は何してるんですか?」
「銀行員」
「へー。でも銀行って、何か残業が大変そうなイメージなのに」
「私は支店勤務の一般職採用だし、役職付けるよとか総合職に変わらない?って言われるのから逃げてるから、残業はまず無いよ。どうにもならない時は、ピアノ教室関係の友人にピンチヒッターを頼むこともあるけどね」
「わあ」
 
その晩は結局、かなり遅くまで飲み、終電が無くなってしまったので、宏海はカプセルホテルに泊まると言っていたのを、うちに来ませんかと誘い、僕の家に泊めた。
 
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翌朝、ありあわせのもので朝御飯を一緒に食べていたら
「ねえ、女装してみない?」と宏海から言われた。
「えー?」
「いいじゃん。こないだの女物の下着や化粧品はまだ持ってるでしょ」
「うん」
「上着やスカートは私の予備を貸してあげるし。お化粧も手伝ってあげるよ」
 
宏海は今着ているスカートスーツ以外に、衣装バッグの中に、何かあった時のための着替え用の普段着を1セット入れていた。それを貸してくれるということらしい。
 
僕は宏海にうまくおだてられて「じゃ、ちょっと女装してみようかなあ」などと言ってしまった。
 
まずお風呂場で足の毛を剃ってくるように言われる。自分で剃ろうとしたが、うまく剃れないので、ヘルプを頼むと、少し剃ってくれて、剃る時の要領を教えてくれた。
「でも、ほんとに女装したことなかったのね」と宏海はあらためて言う。
「無いですよー」
 
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そのあとこないだ使った女性用の下着(洗濯済み)を身につける。あの付近の収め方は宏海が口で説明してくれたので、やってみたらうまく出来た。これはちょっと面白いと思った。ブラジャーはホックを留めきれなかったので、宏海に留めてもらう。その後、借り物のブラウスを着るが、ボタンの付き方が逆になっていると、こんなに留めにくいとは思わなかった。
 
「慣れだけどね−」と宏海は言う。
 
スカートを穿くが、どちらが前か分からない。
「うーん。スカートって、しばしば本当にどちらが前かよく分からないもの、あるのよね。このスカートの場合は、ファスナーが前かな」
 
鏡に映してみる。可愛い!
 
「ほんとに可愛くなるなあ。信生、女装の素質あるよ」
「それって、使い道のよく分からない素質だなあ」
「女の子になりたい、とか思ったことは無いの?」
「無い、無い」
「それなら、ストレス解消とかで、お遊びで女装してみるのもいいかもね」
「なるほど」
 
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そのあと、お化粧をやり方を教えてもらいながら、ひとつひとつやってみた。眉毛の処理はうまくできないので、カットしてもらう。
「眉毛用のコームと眉毛切りのセットが100円ショップにあるから買っておくといいよ」
「へー。何でも100円であるもんだね」
 
ファンデは取り敢えず顔全体に塗る。アイカラーは塗る範囲がなかなか難しい。
「ある程度試行錯誤して、いい雰囲気になる塗り方を覚えるといいね」
「うん」
 
アイライナーは怖くて自信が無かったので、これもやってもらった。塗られていてもちょっと怖い。アイブロウを丁寧に1本ずつ入れていく。それからマスカラを塗ってビューラーでカールさせる。これがなかなかうまく睫毛を掴めない。
「これも練習あるのみね」
「女の子たち、よくこれを毎日やってるなあ」
「やってると楽しくなるよ」
「ああ」
 
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チークを2種類の色で入れ、最後にルージュを塗る。「口角」などという言葉を初めて聞いたので、思わずどんな字を書くのか尋ねてしまった。
 
鏡に映してみる。なんか癖になりそうな感じだ。いいなあ、と思ってしまう。
 

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