広告:不思議の国の少年アリス (1) (新書館ウィングス文庫)
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■ブルーアーマーよ永久(とわ)に(4)

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****年。大統領の女装同性愛スキャンダルに端を発した政治闘争はこの国を100年もの間引っ張ってきた保守党が下野し、万年野党だった共和党が1世紀ぶりの政権を獲得するという事態に進展した。
 
そして新しい政権は原子力に対する厳しい規制を行った。
 
国内の全ての原子力発電所が停止させられた。そのため多くの工場が操業停止に追い込まれ労使紛争が起きたものの政府は脱原子力政策を強行した。原子力電池などで動作する車や工作機器が使用を禁じられ、その規制は更に原子炉を搭載したブルーアーマーたちにまで及んだ。
 
「酷い。いくら人権の無いモノが対象だからといって。この処置は酷すぎる」
とエイコは怒っていた。
 
原子炉を搭載したブルーアーマーは危険だからというので、本土から1000kmも離れた離島に全員強制隔離されることになったのである。
 
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「政権が交代すればまた戻れるかも知れないよ。僕は何とか頑張るからエイコ身体を壊さないように」
 
そう言い残して僕は隔離される島に行く船に乗せられた。
 

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隔離対象になったブルーアーマーは全部で100万体という話だった(ブルーアーマーは人ではないので「人(にん)」ではなく「体(たい)」または「個」で数えられる)。正直向こうの島で100万人も暮らせるのだろうかと僕は疑問を感じていた。
 
僕が乗った船にはたぶん2000人くらいの原子力ブルーアーマーが乗船している。1000kmも離れた島まで行くので、片道半月も掛かる。
 
ちょうど台風が接近していて船は揺れていた。
 
本土を出たのが夕方である。夜中の0時頃、嵐が激しくなってきたが、その嵐の中で僕は砲弾の音を聞いた気がした。
 
へ?
 
「大変だ。政府直属の直参軍がこの船を攻撃している」
「え〜〜?」
「政府はハナっから、俺たちを隔離なんかする気は無かったんだ。原子炉なんて危険だから海溝の底にでもみんな沈めてしまうつもりなんだよ。船ごと」
 
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「なんて奴らだ!」
 
僕たちは憤ったものの、こちらには何も武器が無い。激しい砲撃を受けて僕らの船は沈んでしまった。
 
いやだ・・・・まだ死にたくない。
 
僕はその時、本気でそう思った。
 

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気がついた時、僕は海を泳いでいた。
 
半分意識が飛んでいたのだが、死にたくないという気持ちから僕の手足が必死に動いてくれたようだ。僕は自分が裸になっているのに気づいた。服を着ていると泳ぐのに邪魔だから、脱いでしまったのだろう。嵐の中なので泳ぐのは辛かったが、泳ぐのをやめたら、その時点で深い海に引き込まれて死んでしまうのだからどんなに辛くても僕は泳ぐしかなかった。
 
そしてどれだけの時間が経ったか分からない。
 
僕はどこかの海岸にたどりついていた。
 
向こうに人影が見えた。僕はそのまま気を失った。
 

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気がつくと、どこか屋根のある場所で、ひとりの少女が僕を介抱してくれていた。中学生くらいだろうか。
 
「あなた言葉分かる?」
などと訊かれる。外国人とでも思われたろうか。
 
「分かります。私、一応ヤプー人だから」
「ああ、良かった。でもあなた不思議な身体してた。あなた男?女?」
「少なくとも男ではないかな」
「ですよねー。ちんちん付いてなかったもん」
 
それで彼女は僕を女性と思ったようである。ブルーアーマーを見たことないのかな。都会ではけっこうあの独特なふんわりとしたシルエットのボトムを着て歩いている「モノ」はいるのだが、田舎では珍しいかも知れない。
 
それで彼女は僕が女ならと言って、女物の服をめぐんでくれた。自分の母親の服の捨てることにしていたものだという。僕はおっぱいも無いのにブラジャーを一応つけて、女物のパンティを穿き、中年女性が好んで着る青い花柄のブラウスを着て、女性の象徴である赤いスカートを穿いた。
 
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彼女はいろいろ食べ物もめぐんでくれた。僕はふつうの食べ物を食べることはできるものの消化する機能が無いから食べても無意味なだけである。しかし食べないと怪しまれるだろう。幸いにも僕はいつもエイコが「形だけだけど」と言って作ってくれる御飯をたべていたので、ふつうの食べ物を食べること自体には慣れていた。
 
彼女はどうも親に黙って僕をかくまってくれていたようである。僕は1週間ほどで体力を回復して、御礼を言って彼女が僕をかくまっていた小屋を離れた。僕が出発する時、彼女は僕に取り敢えずの食費などと言って1000円硬貨もくれた。僕は本当によく御礼を言ってから旅立った。
 

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僕はほんとに20年ぶりくらいにひとりで町を歩いていた。エイコや娘たちに付き添われて歩くのが常になっていたから、ひとりで歩くのに不安を感じるくらいだ。でも今自分は女の服を着ているので、誰もブルーアーマーが勝手に単独行動しているとは思われないだろう。
 
僕は町の住居表示を見たり、鉄道があったので駅を何とか探したりして、ここがストーンハンド州の田舎町であることを知った。僕はコンビニでお茶を買って1000円硬貨を細かくし、電話代を作った。そして夜になるのを待って公衆電話からエイコの携帯に電話を掛けた。
 
「ヒロシなの?生きてるの?」
「うん。何とかかな」
「今どこ?」
 
それで僕は自分の居場所を伝える。それで彼女が迎えに来てくれることになった。
 
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車で拾ってもらった僕は、エイコの熱いキスの洗礼を受けた。
 
「でも何て格好? まるで女の人みたい」
「浜辺まで泳ぎ着いたのを中学生くらいの女の子に助けてもらったんだよ。田舎なんでブルーアーマーを知らなかったのかも」
「でもいっそ女の振りしているのもいいかもね。ヒロシ、去勢されてから長くてもうヒゲとかも生えてなかったし」
 
「ある意味、女みたいな体質になってるかもね」
「でもよく泳ぎ着いたね」
「考えてみたけど100kmくらいの距離を泳いだと思う」
「すごーい」
「だって僕水泳の県大会で準優勝したし」
「そうだった。水泳はあの頃から得意だったんだね」
「エイコに言われて身体を鍛えていたおかげだよ」
「そしてエネルギー自体は無尽に取り出せる原子炉を持っていたからだよね」
「うん。火力じゃガス欠になってる」
 
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結局エイコは僕の件をバッくれることにしたようだ。
 
隔離島へ行く船が嵐で沈んで全員絶望と伝えられていたので、エイコは泣いて僕の葬式を出したらしい。だから僕という「モノ」はもう消滅したことになっている。まあ人間の戸籍からは20年前に抹消されていたんだけどね!
 
僕は顔の整形手術を受けさせられて、男らしさを減らし女らしさを強調した顔立ちにしてもらった。結果的に前とはけっこう違った風貌の顔になった。そして、エイコがひとり暮らしの寂しさを埋めるのに、一緒に暮らすことにした古い女友達ということにして、共同生活を再開した。
 
しかし女ということにしているので、僕は頑張って女言葉を覚えさせられた。女としての基本的な常識は覚えてもらわなくちゃと言われて、お化粧はもちろん、料理や裁縫、女性に人気のタレントの名前なども覚えさせられた。
 
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でも・・・これなんか楽しい!?
 
スカートを穿いて歩くのは最初はちょっと抵抗があったものの、慣れるとそうでもなくなった。女として「パス」するようにと言われて、おっぱいを大きくする手術も受けさせられた。
 
なんかどんどん女性化させられているみたい!
 
娘たちには落ち着いたところで、僕があの事故から生き延びて、また強制隔離されないように女を装って生活していることを打ち明けた。娘たちは僕が死んだと思っていたので、泣いて喜んでくれた。
 
僕はこの20年間、自分はエイコのお荷物になっているんじゃないかという気持ちがあった。しかし僕もエイコや娘にとって、一応大事な存在だったんだな、というのを認識して僕は自分の生きる希望を回復させた。
 
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翌年。急進的な政策を採っていた共和党はあまりにも性急すぎる原子力政策の転換が引き起こした不況に反発した労働者たちの手による事実上のクーデターで倒れた。旧保守党の若手政治家を中心として結成された第三勢力・新生党が新たに政権を取った。
 
新政権は原子力発電所については停止政策を維持する代わりに代替エネルギーの発電所(太陽光発電所・風力発電所・人力発電所!)を大量に建設して逼迫する電力需要の対策を取った。
 
そして原子力ブルーアーマーについては、きちんと点検を受けていれば問題は無いという方針を打ち出すとともに、逆に火力や水力のブルーアーマーについても半年に1度の定期点検を義務付けた。
 
そして数十年来の大改革と後世に言われたのが、ブルーアーマーの自立法である。一定の試験を受けて、社会生活を営む能力があると認められたブルーアーマーについては、単独での外出を認め、一部の資格取得や仕事をすることを認めたのである。但し、この認定されたブルーアーマーは税金も人間並みに払わなければならないので、従来の「ペット並み」がいいか「自立型」がいいかは、本人が選択できるものとなった。
 
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これで多くのブルーアーマーが「自立型」に移行した。
 

しかし私はそのような道を進むことなく、むしろ女として埋没した生活をしていた。私は闇の手術を受けて、股間に女性の外性器に類似した形を作ってもらった。長く閉鎖されていた肛門を開け、尿道口も設置した。
 
すると不思議なことに、おしっこはこの手術を受けて3日もしたら出るようになったし、食べ物を食べるようになってから1週間で便も出るようになった。20年間もこういう機能は封印していたのに、排泄機能は死んでいなかったのだろう。人間の身体は不思議だ。
 
結果的に僕は外見上、女にしか見えない身体になってしまった。
 
エイコが言うには、政権が変わるとまたブルーアーマーに関する政策も変更されるおそれがある。もういっそ人間の女を装って生活していたほうが安寧に暮らせるというのである。
 
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僕はもう隔離なんてこりごりなのでエイコの意見に同意し、結果的に女性化を受け入れることになった。夫を亡くした女性が、別の男と暮らしているというのよりは、女同士で暮らしているということにした方が、世間的にはあれこれ憶測を招かなくてすむので、僕も女として生活する道を選ばざるを得なかった。
 
それに長年ブルーアーマーとして暮らしてきて、男性ホルモンの作用が消えてしまっていることから、僕の体型はもう男は装えないような体付きになっていたのである。
 

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あれから色々なことがあった。
 
そして、僕とエイコはもう60歳を過ぎていた。
 
僕たちは仲の良い女友達を世間的には装っているが、実はレスビアンの関係である。僕たちは結婚してから僕が刑罰を受けるまではふつうに男女のセックスをしていた。でも、ブルーアーマーになってからは僕に性的な機能が無いのでそういう戯れもずっと途絶えていた。僕たちは20年ほどただの友人のような暮らしをしていたのである。ところが僕がなりゆきで女を装って生活するようになってから、エイコは僕の「疑似女性器」に関心を持ち。うまく僕を乗せてレスビアン・ラブをするようになったのである。20年ぶりに逝った時はエイコも僕も感動だった。
 
レスビアン・ラブのいい所は、男女であれば、ちんちんが立たなくなってしまうともうセックスもできなくなるのに、女同士なら、死ぬまでセックスを楽しめることかも、などと僕は思っている。
 
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僕は人前では女を装い、女言葉で話し「私」という自称を使っているが、エイコとふたりだけの時は意識だけは男になって「僕」という自称を使っている。
 
上の娘の所の孫息子は成人テストがかなりやばかったもののE級でぎりぎり合格してホッとさせられた。下の娘の所は成人テストはまだだが、結局女の子が3人になった。
 
上の2人はDNA的にも女だったので3歳の頃に普通におちんちんを切ってヴァギナを開放する手術をしたのだが、いちばん下の子は実は男の子だった。でも性格的に男向きではない感じだったので、女の子として育てることにして、万能細胞で女性器を作って培養し、5歳の時に男性器を全て除去して女性器を埋め込む手術をして、戸籍も女子に変更したのである。手術が終わった時その子は
 
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「おちんちん取られるの不安だったけど、これも悪くないかも」
 
と言っていたらしい。もっとも2人の姉は既に小さい頃おちんちんの切断手術を受けているから
 
「おちんちんなんて、取っちゃうのが普通だよねー」
などと言っていたという。
 
その男の子から変わった女の子が、三姉妹の中ではいちばんの美人で、将来が楽しみだと娘は言っていた。
 
なお僕の体内の原子炉は一応ちゃんと半年に一度きちんと点検をしている。放射能漏れも一度も起きてない。高速増殖炉なので検査する度に燃料が増えているのが確認される。
 
「やはり研究用の実験品として大学の専門の先生たちの手で制作されているから品質が高いんだと思う。量産型は必ずしもちゃんと理解していない人が製造しているから、トラブルが置きやすい」
 
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「それは言えるかもね」
 
取り敢えず今の所、問題は無いようなので、何とか死ぬまでもってくれそうな感じではある。
 
ただし原子炉を内蔵している身体は死んでも火葬にはできないので、産業廃棄物として処分する必要があるらしい。やっぱり僕は基本的に人間ではなくモノなのであろう。
 
女装者って時々いるみたいだけど、僕の場合は女装物かな?
 
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