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特進クラスでは0時限目と7時限目が設定されることになった。0時限目は7:25〜8:15, 7時限目は15:20〜16:10 である。春代たち3グループの勉強会はこの後、17時のスクールバス出発までの時間に行われるようになった(勉強会メンバーはこれを8時限目と呼んでいた)。一応7時限目が終わった後から部活に行ってもいいことにはなっていたが、実際には特進コースの子は全員部活をやめた。
今まで勉強会に参加してなかった子で、男子は西川君と服部君が中心となって4つ目の勉強会を立ち上げ、主として基礎力を固める教材で勉強を進めた。
松浦君たちの勉強会にいた子で、そちらのレベルを辛く感じていた子がひとりこちらに移動してきた。一方、女子の2人は玖美たちの勉強会に参加した。春代たちの勉強会にも出てみたものの「ハイレベルすぎる!」「この勉強会の内容を理解するのに塾に行かなきゃ」などと言って、玖美たちの方へ行った。
また7〜8時限目で放課後が潰れるため、特進クラスだけは掃除は昼休みの昼食後に行うようになった。また特進クラスでは土曜日も平日と同様に0時限目から7時限目まで授業を行うことになった。
スクールバスに関しても、通常のスクールバスは6:30〜8:00の時間帯で運行していて、8:00学校着では0時限目に間に合わないため、特進クラスの子のため、廃校になった小学校が使っていたスクールバスを整備してもらい、5:45〜7:15という時間帯で運行する便を設置した。つまり朝だけスクールバスは2便運行されることになったのである。
早便のバスは小学生向けに可愛いウサギさんの絵が描かれたままであったので、この早便に乗る子は「ウサギ組」とも呼ばれていた。またこれまでスクールバスを運行していなかった土曜日にも朝の早便と夕方の17時の便のスクールバスが運行されることになり、スクールバスに(有料で)同乗できる地域住民からも歓迎された。
これら特進コースに関する予算が、村出身の県会議員の尽力もあり、認められたのである。
また特進コースの生徒には、学校での授業の他に進研ゼミの受講を推奨した。実際には、勉強会グループの子たちの中には1年生の時から進研ゼミを取り敢えず受けるだけは受けていた子が多かった(ちゃんとやるかは別として)が、週に1度くらい、「国公立スタンダード」組と「私大スタンダード」組に分かれて答え合わせなどをするようになったので、全員まじめにちゃんとテキストをするようになった。
なお、理彩たち4人は進研ゼミも「難関国公立コース」を受講した上にZ会も受けるようになった。春代はZ会の問題が「分からねー」と言ってよく理彩や命(めい)に電話してきたが、理彩たちも教えることでまた勉強になっていたし、春代も2人に助けられて最後まで挫折せずにZ会をやりとげられた。
特進コースの子たちの進路指導は、最初全体の進路指導をしていたB先生がやっていたのだが、B先生は大学に進学する子の指導の経験が無く、入試制度自体もよく分かっていなかったし、どこの大学がどのくらいの難易度かという感覚も全然出来ていなかった。そこで親たちから、強い不安と不満の声が寄せられ、結局2学期以降は、特進組の大学選択や本人の性格や将来の希望職業絡みの学部選択などに関しては、担任のH先生がふだんの学習指導とあわせてお世話をすることになり、B先生は就職組の指導に専念することになった。
もっとも、そのH先生も
「大きい声では言えないけど、一橋大とか東工大がそんなに難関大学とは僕も知らなかったし、関関同立とかMARCHなんて言葉も聞いたことなかった」
などと言っていた。
「去年の3年生たちの受験を応援していた時期は僕もまだ県外の大学についてはほんとに無知だったんだよ」
H先生は春先から何度も大阪の予備校を訪問しては、そのあたりの「受検勉強の勉強」をしていたようであった。
3年生の夏休みには、補習をやりたいという話はあったものの、今年は色々新たな取り組みを始めたので、そこまで予算が取れないということで見送りになってしまった。とりわけ、夏休みに補習をするとなると、その間スクールバスを運行しなければならず、この費用がどうにも出なかったらしい。夏休みの補習は来年の課題とされた。
夏休みの間、理彩たちは、取り敢えず理彩・命(めい)・春代・香川君の4人で勉強会をすることにし、各々の保護者に頼み込んで、交替で車を出して、4人がいちばん集まりやすい村の中学に集まることにした。中学の時の春代の担任がまだ在籍していたので連絡をして打診してみたら、空いてる教室を使ってもよいということだったので借りることにしたのであった。
同じ勉強会の他の5人は、同様にして彼女たちの出身中学がやはり空き教室を使ってもいいという許可を出してくれたということで、そちらに集まることになった。
8月の前半は、命(めい)と理彩が大阪の予備校に行って集中講座を受けてきたし、春代と香川君も奈良市内の学習塾の夏期講座を受けた。その間、愛花たち5人は相変わらず中学の教室を借りての勉強会をしていたらしい。
8月のお盆から20日までは勉強会をお休みしたが、21日の模試が終わった後、突然10日間分のスクールバス運行用ガソリン代の予算が取れたということで、22日から31日までは、希望者だけ、補習授業を行うことになった。最初はバスのガソリン代は出るが、運転手さんの報酬まで出ないということで、保護者の誰かが運転しようかという話もあったが、結局いつもの運転手さんが10日だけならいいよといって無償で運転を引け受けてくれた。
先生たちの報酬も出ないらしかったので、受講した生徒で話し合って、講義をしてくれた先生と運転手さんに、生徒たちの家でとれた、お米とか野菜とかをせめてものお礼にと贈った。
夏休み補習の1日目。命(めい)の格好を見た女子みんなから突っ込みが入る。
「可愛い服だね」
と、みんなは少し皮肉って言っているのだが、命(めい)は褒め言葉と受け取り
「ありがとう」
と笑顔で言っている。こういう格好しておいでよと唆した理彩は涼しい顔で他人の振りをしている。
「うん。服装は自由でいいってことだったし、涼しい服にしてみた」
「まあ、男物の服ではここまで涼しくできないよね」
橋本君なども
「凄い。ボートネックのシャツに膝上スカート。涼しそう。僕もそんな格好で出てこようかなあ」
などと、羨ましそうに言っている。
「正美も女装で出てくる?」と小枝が言うと
「どうしようかなぁ」と橋本君は迷っている様子。
「ついでにもうひとりくらい、女装しないかな」と杏夏も言っている。「あ、河合君は? 文化祭の時、ドレス着て嬉しそうにしてたけど」と百合。
「勘弁して。俺、女の服着ても男にしか見えないみたいだし」と河合君。河合君の思い人の浩香は笑っている。
「正美は女の子の服着ると、ちゃんと女の子に見えるもんね」と愛花。「ああ、河合君は女装少年、正美は男の娘になるかもね」と春代。
「じゃ、命(めい)は?」と小枝。
「命(めい)の場合は、男の子の服を着ても女の子にしか見えないね」と春代。「じゃ、純粋に女の子だね」と愛花が笑顔で言った。
やがて先生が入ってきて講義が始まる。出席を取ったとき、先生はいつものように女声で返事する命(めい)を見て「お、可愛いの着てるな」と言ったが、そのまま平然と授業を進めた。
「何か言われるかと思ったけど、何も言われなくてほっとした」
などと命(めい)が休み時間に言うと
「だって、うちの学年の生徒でも、先生でも、命(めい)の女装を見たこと無い人の方が少ないもん」
などと言われている。
「でも暑いね。もうプールに飛び込みたいくらいだよ」
と昼休みにお弁当を食べながらひとりが言うと
「あ、学校のプール、明日からは使えるらしいよ」
などと学級委員の玖美が言うので、翌日はみんな水着を持ってきて、昼休みに泳ぐことにした。
愛花・杏夏・小枝・百合の4人が真っ先に水着に着替えて取り敢えず水に浸かり、水を掛け合っていたら、理彩に連れられて命(めい)が少し恥ずかしそうな顔をしてやってきた。命(めい)は女子用のスクール水着をつけている。
「おぉ、命(めい)はちゃんとプールでも女子なんだ」
「昨日さんざん、女の子水着で泳ぎなよって唆したんだよね。女子更衣室で着換える勇気が無いなんて言うから、最初から着込んでおいでよって言って、昨日、私の中学時代の水着を渡しておいた」と理彩。
「じゃ、男子更衣室で着換えて来たの?」
「男子更衣室に行こうとしてたところを女子更衣室に連行して服を脱がせたよ」
「なーんだ、結局女子更衣室なんだ?」
「命(めい)は温泉の女湯にも入ったことあるからね。プールの女子更衣室くらい平気のはずなのに」
「ああん。それ、内緒にしてって言ってたのに!」と命(めい)が言う。「えー!? 命(めい)って女湯に入れる身体なの?」と杏夏が驚いている。
「でも、命(めい)、少なくとも水着姿は完璧に女の子じゃん」と愛花。
「胸あるし、お股はスッキリしてるし」
「もう性転換手術済みなんだっけ?」と小枝。
「あ、そのへんは企業秘密で」と理彩が言った。
命(めい)も最初は女子用水着姿をみんなの前に晒すのが恥ずかしかったようだが、実際にプールに入って泳ぎ出すと、泳いでいること自体が快適なので、だんだん調子が出て来て、少し泳いでは、他の女子とおしゃべりして、などというパターンで楽しむことが出来た。一応男子用の水泳パンツを穿いている橋本君が命(めい)を見て「わあ、すごーい。よくそんなの着れるね」と羨ましそうに言っている。
「逆に私もう男物の水着なんて着られない」と命(めい)。
「改造してるんだっけ?」
「うーん。そのあたりの問題より、心の問題」
「あぁ、何となく分かる。僕も着られるものなら女の子水着を着たい」
と橋本君が言うと
「着方を指導してあげようか?」と理彩が言う。
「ほんと? 教えてもらおうかな・・・」
「女の子水着を着るにはね、まずはおちんちんをチョキンと切って。。。」
「待て。奥田に任せると、本当に去勢されそうな気がする」
「当然」
命(めい)が笑ってまたプールに入り泳ぎ始めたので、愛花も隣のコースに入り泳ぐ。が、愛花はあまり泳ぎが得意ではないので、コースがずれてしまった。反対側の近くまで行った時、ちょうどターンしてきた命(めい)とぶつかりそうになる。
「わ、ごめん」
「こちらもごめん」
と言ってお互いに泳ぎを中断してその場に立つが、水の中で動きが完全にコントロールできないので身体が接触してしまう。愛花の身体が命(めい)の胸のところにぶつかる形になり、またまた「あ、ごめーん」などと言い合うのだが、その時、愛花は思った。
『すごーい、胸がリアル。しかもかなり大きい。パッド入れてるとばかり思ったのに、これパッドじゃないよね。どうやってんだろう?』