[*
前頁][0
目次][#
次頁]
そう言われて、僕は初めて顔に違和感があることに気付いた。何?これ?
「ふふふ。鏡貸してあげるね」
と言って、理彩はベッドのそばに置いていたポーチから、小さな折りたたみ式のミラーを取り出して、僕に貸してくれた。
「ぶっ」
「可愛いよ」と理彩がニコニコして言う。
僕は顔にお化粧を施されていた。
「命(めい)って、女の子と見ても美人の部類の気がするなと思ってたけど、お化粧すると、ますます美人になるね」
「あはは」
「スカート穿いて、その顔で、コンビニとかにでも行ってくる?」
「さすがに勘弁して」と言って僕は笑った。
「恥ずかしがることないのに。女装外出なんて今まで山ほどしてるじゃん」
と言って、理彩は僕の唇にキスをした。僕たちは舌を絡め合って、相手をむさぼった。
「でも、ほんと僕、高校卒業を機会に女装はやめようかと思ってんだよね」
「あ、それは無理。だって、私命(めい)のおちんちん切っちゃったから。もう命(めい)は女の子だから、女の子の服着るしかないよ」
「え?」
そう言われて自分の股間に触ってみると、そこにあるべき棒が無い!
慌てて僕は布団から出てみた。
タックされてる!
「びっくりした。ほんとに切られたかと思った」
「ね。これも命(めい)のために買っておいたの。着けてみない?」
と言って理彩は、凄く可愛い、黄色地に茶色の上品なレースの入ったブラとショーツのセットを手渡した。僕も「わあ、可愛い」と言って、それを身につけた。タックしたお股に女の子ショーツを着けると、スッキリしたラインがとても馴染んで、自分で自分に興奮してしまう感じだ。ショーツはゴムになってなくて単に布が陰部を覆うタイプ。こういうのはタックしてないと「こぼれてしまう」から着けられない。
「へへ。写真撮っちゃえ」と言って理彩は僕の下着姿を携帯で写真に撮る。
「もう・・・・理彩、こんな写真ばかり撮るんだから。でもいいや。理彩と恋人になれたし」
「恋人か・・・それなんだけどさ、あんなことした後で言うのも何だけどそれ保留にしてくれない?」
「へ?」
「私、やっぱりこういう女の子の格好している命(めい)が好きなんだ。だから、これからはずっと女の子の友だちとして私と付き合ってくれないかな?」
「僕、男の子として理彩と恋人になりたい」
「うん。それを少し先送りしたいの」
「どうして?」
「私、命(めい)のこと好きだけど、それ友だちとして好きなのかも知れない気がして」
「こういう関係作っておいて、それはないよ!」
「たまにセックスしちゃうかも知れない、お友達ってのではダメ?」
「嫌だ。恋人になりたい」
「じゃ、お友達として1年間付き合って、それでやっぱり恋人の方がいいと思えたら、あらためて恋人になってもいい」
「1年間・・・・」
「私さ、物心付いた頃から、そばに命(めい)がいたし。私自身、命(めい)のことを事実上彼氏と思ってきたけど、命(めい)以外の男の子のこと、全然知らないなと思ってさ」
「知らなくてもいいじゃん。僕も頑張って男の子として振る舞うから」
「ううん。命(めい)はやはり女の子でいて欲しいの。私、男の子の命(めい)より女の子の命(めい)が好き。だから、私と命(めい)の関係は恋人になるとしたらレスビアンだと思うの」
「うーん・・・・」
「だから、私レスビアンじゃない、男女の恋もしてみたいのよね。1年間私にわがまま許してくれない? 他の男の子ともセックスしちゃうかも知れないけど、しばらくは見逃して欲しいの。命(めい)のこともずっと好きだから」
「それって、浮気宣言?」
「浮気になるのかな。。。。。でも、凄く好きな男の子できちゃったら、その子と結婚しちゃうかも。そうなったら、ごめんね」
「結婚式に殴り込みする」
「それもいいな・・・・花嫁の略奪ってロマンティック。私を奪い取ってくれたら、命(めい)と結婚するよ」
「でも、他の男の子とも付き合ってみたいの?」
「うん。でもきっと1年後には命(めい)の所に戻ってくるよ。1年間だけ、命(めい)の彼女というポジションに休暇をくれない? その・・・1年間だけなら、命(めい)も他の女の子と付き合って、セックスしてもいいよ」
「僕はずっと待ってる。だって、僕が好きなのは理彩だけだもん」
「そうだね。私、凄くわがままなこと言ってるのは分かるんだけど」
「今はじゃ。。。。まだ恋人になれないの?」
「ごめんね。どうしてもセックスしたくなったら言って。その時、私に彼氏がいても命(めい)とセックスしてあげる」
「でも、それもあくまで、友だちとしてのセックスなの?」
「うん。1年後。来年の2月に再度、私たちの関係を話し合えない?もしその時、ふたりともフリーだったら婚約しよう。その時安いのでいいから指輪買ってよ」
「分かった。理彩がそんなこと言い出したら、絶対撤回しないし。でも僕は、ずっと理彩のこと好きだから。指輪のお金、貯金する」
「うん」
そう言うと、理彩は僕にキスをしてくれた。
大学に入ってすぐの頃、僕は一応男の子の服を着て学校に出て行っていたが、それでも「あれ?男の子なの?てっきり女の子と思っちゃった」などと言われるかと思えば逆に「なんだ。女の子だよね。男の子みたいな服だから間違った」
などと言われることもあった。
同じ理学部の新入生(クラスは別)で、高3の夏休みに予備校の講習で一緒になっていた女の子からも
「なんで、そんな男の子みたいな服着てるの?」
などと言われた。僕は一応「いや、私男だから」と言ったものの、彼女はそれを冗談と思っていたようで、ずっと僕のことは男装女子と思っていたようであった。
僕が一応教室で「男」を主張するので、男の子の友だちも3人できたが、むしろ女の子の友だちの方が多かった。そのクラスの女子6人全員ともとても仲良くなり、ゴールデンウィーク初日の4月28日には彼女らに誘われて、一緒に大阪市内のレジャープールに泳ぎに行った。僕は彼女らと一緒に女子更衣室に入り女の子水着を着た。胸も一応あるし(水着用ヌーブラだけど)、お股はタックして変な盛り上がりも無いので「おお、さすが」などと言われた。
「実はもう肉体改造済みだったりして?」
「うーん。そのあたりは企業秘密ということで」
などと僕は答えておいた。
当時、女の子の同級生とは町の書店などで遭遇したりした時に一緒にお茶を飲んだりすることもあったが、男の子の同級生の場合、相手が2人以上でないと「お茶したいけど、また今度」などと言われた。自分が嫌われてるのだろうか・・・・と一時期悩んだこともあったが、ある時、ひとりの男子から
「だって、斎藤とふたりでお茶飲んだりしたら、デートしたと思われる」
などと言われて、僕は更に悩むことになる。
4月には、神戸大に行った春代と香川君とも会い、理彩と4人で一緒に居酒屋で夕食を取ったこともあった。香川君はビールや水割りを飲んでいたけど、他の3人はもっぱらウーロン茶やジュースである。
「一瞬誰だっけと思った」と香川君。
「お化粧すると、凄い美人になっちゃうねー」と春代。
「1時間掛けてフルメイクされた」と僕は笑いながら言った。
「睫毛は100回くらいマスカラ塗ったからね」と理彩。
「パッチリ睫毛が凄い可愛い」
「服もそれ素敵だよね」
「これは昨日、本人連れ出して、色々試着させて選んだ」
「命(めい)きっと高校卒業したら、完全に女の子になっちゃうね、なんて拓斗と話してたんだけど、やはりそうなってるみたいね。もう学校にも女の子の格好で行ってるんでしょ?」と春代。
「まさか。行ってないよ。男の子の格好で出て行ってるよ。僕は高校卒業したら女装も卒業するつもりだったんだけど」と僕は言うが
「それ、絶対無理と私は主張してる」と理彩。
「あ、同意、同意」と春代も香川君も言う。
「命(めい)は今年中にはおっぱい大きくして、来年には去勢して、再来年には性転換して、その翌年には赤ちゃん産む、と私は予想してるんだけどね」と理彩。
「赤ちゃん産んじゃうの?」と春代。
「うん。多分私が父親」と理彩は言う。
「理彩、おちんちん持ってるの?」
「あ、命(めい)が切ったの、もらうから」
「なるほどー。じゃ、理彩、卵巣1つあげたら?」
「そうだね。せっかく2つあるし、命(めい)が性転換したら、お祝いにあげようか?」
「いや、だから性転換するつもりないし。今日はつい理彩に乗せられてこんな格好してるけど、僕は基本的に男の子でいるつもりだから」と言ってみたが「ダウト」と3人から声をそろえて言われた。
「だけど、春代と香川君、凄く仲が進展してる感じ」と理彩。
「あんたたちの仲には負けるよ」と春代。
「Hした?」と理彩。
「へへへ。こないだしちゃった。理彩たちはもう毎日やってたりしない?」
「取り敢えず毎週日曜の晩は一緒に寝てるよ」と理彩。
「日曜の晩って珍しいね。ふつうは金曜の晩にエンドレスじゃないの?」
「こいつ、金曜の晩は他の男の子とデートしてんだもん」
と僕は少し不満げな表情で言った。
「ああ・・・・浮気してんのか」と春代。
「うん。取り敢えず1年間は浮気たくさんしていいって命(めい)から許可もらったから」と理彩。
「許可も何も一方的に宣言されたに等しいんだけどね」と僕は言う。
「じゃ、斎藤も浮気しちゃったら?」と香川君。
「ううん。僕はずっと理彩オンリー」
「それだから、理彩が安心して浮気しちゃうんだよ」
と春代は呆れるように言う。
4月下旬には、この4人に加えて、京都の私立大学に行った子4人(全員女子)もあわせて8人で「女子会」をしたこともあった。
「こうやって女の子ばかりで集まると、何だか楽しいね」
「高校時代は私たち、他のクラスの子たちが遊んだりデートしたりしてるの横目に見ながらひたすら勉強してたからね。みんな彼氏作った?」
当時確かにぼくたち進学クラスは、他のクラスと全然その付近の雰囲気が違っていた。
「でも男の子抜きで、女の子だけだと、本音トークできていいよね」
などと京都組が言っていると、遠慮がちに香川君が
「あの・・・・僕、男なんだけど」と言う。
「あ・・・ひとり男の子がいたか。まあ、ひとりくらいはいいよ。生理の話とか、おっぱいの話とか、女の子のセックスの話とかは聞かなかった振りしておいてね」
などと言われている。香川君に続いて僕も
「えっと・・・僕も男なんだけど」
と言うと
「ダウト!」と言われた。
「だいたいスカート穿いて来ておいて、男の子だなんて言えないよね」
「全く」
「命(めい)は高校時代に既に女の子に性転換してたでしょ?」
「だって、女子トイレにいたし、女子用スクール水着で泳いでたし」
「体育の時間にも結構女子組にいたよね」
「男の子とデートもしてた」
「私廊下で命(めい)にぶつかった時、確かにバストの感触があって、あれ?と思った」
「夏になるとワイシャツからブラ線が見えてたよね」
「女子制服もけっこう着てなかった?」
「卒業アルバムに写ってた命(めい)の写真は全部女の子の格好してた」
「私命(めい)からナプキンもらったことある」
「あ、私は命(めい)にナプキンあげたことある」
「命(めい)の病院の診察券見たことある。性別 F になってた」
「私、休みの日に図書館とかショッピングセンターとかで命(めい)と会うと、いつも女の子の服を着てたよ」
「女の子浴衣着てる命(めい)と遭遇したことある」
「初詣の時に振袖着てたよ、命(めい)は」
「高校時代にもお化粧してる命(めい)を見たことある」
「バレンタインのチョコ売場で命(めい)に会ったことある」
などと京都組に言われている。
[*
前頁][0
目次][#
次頁]
Shinkon・理彩的見解(2)