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■女たちのベビーラッシュ(2)

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2018年7月29日(日).
 
ローズ+リリーのマリは多忙なケイに代わって単独キャンペーンで仙台を訪れていたのだが、途中で気分が悪くなり退席する。その時の様子がどうも・・・なのでひとりの記者が質問した。
 
「ひょっとしてマリさん、妊娠なさったということは?」
「あ、はい。予定日は確か3月だったかな」
 
それで大騒動になった。夕方からの2度目のキャンペーンには急遽ケイが仙台に赴いて出席したのだが、マリはケイと入れ替わりに東京に帰ってしまったので、ふたりはこの日は会わずじまいになった。
 
それで
「ケイさん、マリさんのお腹の中の子供の父親はやはり噂のあるNさんですか?」
と訊かれて、それまで政子の妊娠のことを全く知らなかったケイは困ってしまう。その日は曖昧な答えに終始した。
 
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ケイがマリから、その子の父親のことを聞くのは1週間後になり、ケイは自分が父親と知って仰天することになる。
 
政子はこの時、冬子が去勢手術を受けた前夜に1度だけセックスした時の精子を冷凍保存しておいて、それを使って妊娠したのだと説明した。
 
その精液の存在は冬子は実は知っていたのを知らないふりをしていた。しかし冬子はその精液は破棄されていたと考えていた。それで政子がそのことに気付かないうちに、高校時代に若葉と一緒に冷凍保存した精液のアンプルを1本転送しておいたのである。
 
だから冬子は、政子が妊娠に使ったのは高校1年の時に冷凍した精液だろうと考えた。
 
その推察は結果的には当たっていたのだが、実際に政子がこの時使用した精液は、冬子が転送した精液ではなく、若葉が政子に提供してあげたアンプルである。
 
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冬子の精液は、政子が1個、若葉が4x2個(内1x2個は冬子が転送)、奈緒が1個所有していたのだが、みんな冬子本人には告げないまま勝手に使用している。
 
結果的に冬子は4人の子供の父親、1人の子供の母親となるのだが、それはもう少し先の物語である。
 
(4人:政子の子供あやめ・かえで、若葉の子供政葉、奈緒の子供ミドリ。冬子を母とする子供:もも)
 

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2018年8月3日。青島リンナとその夫で後に中田政子(マリ)の恋人にもなる百道大輔との間の子供、夏絵が生まれた。
 
大輔は直前まで
「俺は子供生まれてもロックしかしないから、赤ん坊はお前ひとりで育てろよ」
 
などと言っていたので、リンナもその覚悟でいたのだが、実際に生まれてみると物凄い可愛がりようで、本当は子煩悩であった所を見せた。
 
この人って世間に見せているマメで真面目な気質と、自分を含めてごく親しい人にだけ見せる、少し乱暴でいい加減な気質の、どちらが本当の気質なのか、よく分からないと、リンナはその様子を見ながら思いつつも、幸せな気分であった。
 
なお、百道大輔は桜川悠子の父・百道良輔の実弟である。
 
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従って夏絵は悠子の従妹になり、悠子が先日産んだ美季は夏絵の従姪である。
 
無軌道で何度も逮捕歴があり、多くのレコード会社にそっぽを向かれている良輔に対して、大輔は品行方正な歌手と、世間では見られていた。お酒もタバコも吸わず、毎日10kmのジョギングをして粗食という生活で、何度も自然派雑誌に取材されたことがある(リンナもそういう“ロハス”な生活スタイルは大好きである)。
 
良輔はかなりお金に困っていたが、大輔は兄の無心を一切拒否して、絶対にお金を貸さないようにしていた。
 

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千里1が大変なことになっている時期、実は千里2も千里3も海外に出ていた。8月下旬、まず千里2が帰国する。状況は《きーちゃん》から聞いていたものの、自分の分身が打ちひしがれている様子を《きーちゃん》が撮影してくれていた動画で見て、直接慰めてあげたい気分であった。
 
『あの子と合体してひとつになるのは、今は無理だよね?』
と《きーちゃん》に訊く。
 
『あの子に霊感が戻るまでは無理。どうしてもあの子が霊感を取り戻さなかった場合は、あの子をヨーロッパかどこかにでも旅に出して、千里3が成り代わる手もあるけど、千里3は千里1や2の存在を知らないから、あれこれ矛盾が吹き出す』
と《きーちゃん》。
 
《きーちゃん》は敢えて曖昧な表現をしたが、このままにしておくと、千里1は消滅してしまうのでは?と《千里2》は思った。
 
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『千里3じゃなくて私が合体する訳にはいかないの?私なら混乱を避けられるよ』
と千里2は言う。
 
『合体の順序は1+3が先。その後2が合体して元の1人に戻る。2のパワーが凄まじいから、エネルギーレベルが違いすぎて合体できないんだよ。1+3することで、2と合体できるレベルに近くなる』
と《きーちゃん》。
 
『私、3人まで行かなくても2人くらいいる方が仕事が進むんだけど』
と千里2は言う。
 
『千里も完璧にワーカーホリックだね』
と《きーちゃん》は呆れるように言った。
 
『でも千里1と3が合体した場合、記憶はどうなるの?』
『両方の記憶が残るよ。千里はそういう状態を問題無く処理できるはず』
『運動能力は?』
『強い方に合わせ付けられるはず。だからセミプロレベルの千里1ではなく、日本代表レベルの千里3の運動能力が残る』
 
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『普通の記憶はプラスで運動能力はorで上書きかぁ』
『大脳と小脳ではシステムが違うから』
 
『私と3が合体した時は運動能力は3優先?』
『ドリブル能力とかレイアップシュートとかは2の方が強い。スリーだけで言えば3の方が圧倒的に強い。だからレイアップとかは2の方が残って、スリーは3の方が残るはず』
『だったら、私スリーの練習は放置して、レイアップとかの練習頑張った方がいい?』
『千里って、わりとクールだよね?』
 

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8月21日(火)が信次の四十九日であったが、実際の四十九日法要は19日(日)に行われた。この時点でも千里1はまだ顔に表情が無く、お人形さんのような状態で喪主を務め、実際には青葉や康子が実質喪主の役目を務めていた。
 
23日(木)。千葉の川島家を(女性の姿の)羽衣が訪れた。
 
昨年7月、千里(千里1)が死んだのは、クロガーとの戦いで危機に陥った羽衣が千里からパワーを借りようとして、うっかり全生命エネルギーを引き出してしまい、エネルギーがゼロになってしまったためである。
 
しかしその時は小春が自分の生命エネルギーを千里に融通したことで千里1は蘇生することができた。但し千里1が死んだ時、千里1が持っていた霊感や眷属たちとのコネクションも全部消えてしまった。
 
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羽衣はこの件で千里の師匠である出羽の美鳳からひどく叱られ、千里の霊的な能力を修復することを約束した。ただ完全修復には2年くらいの時間が必要であると羽衣は言った。
 
この日羽衣が千里の所に来たのは、美鳳に頼まれて千里を神無(仮名)の出産に立ち会わせるためであった。千里と美映の生殖器は交換されており、美映の体内に存在する千里の生殖器が実際には妊娠しているので、妊娠している本人をその場に連れていく必要があったのである。
 
美映が入っている病院に着いた時点で、羽衣はこれまで千里に掛けていた“仮の天羽衣(あまのはごろも)”を取り外すと、この1年間彼が頑張って修復していた“本来の天羽衣”を着せてあげた。この結果、千里は並みの霊能者レベルの霊的能力を回復することになった。この後の“天羽衣”の修復は、千里がそれをまとったままの状態で継続する。
 
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千里1が羽衣に促されて病院内に入って行くと、貴司が廊下で待っていた。貴司が千里と会ったのは、約1年ぶりであった。阿倍子との離婚の時は、電話では話したが直接は会っていない。こんなに長い間ふたりが会わなかったのは高校3年の時以来であった(千里1としては)。
 
それまで心ここにあらず状態だった千里(千里1)であるが、貴司と会話している内に調子が出てきて、かなり自分を取り戻すことが出来た。そして赤ちゃんの産声が聞こえ、看護婦さんが廊下に出てきて「女の子が生まれましたよ」と告げた時は思わず喜んで、ふたりはキスしてしまった。
 
美映の状態が安定してきた所で彼女に見られないように、千里は病院を出た。この時、千里は羽衣から、産褥パッドを付けるように言われた。そしてふと考えたら、あの付近が物凄く痛いことを認識する。
 
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後産まで終わった所で、美映と千里の生殖器が交換されたのである。これは実は、京平が掛けた呪が出産によって終了したためである。
 
この後、千里1は最低限の精神力を回復させ、常総ラボに行き《すーちゃん》を相手にバスケの練習を再開することになる(千里2と冬子の連携プレイによる)。
 

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ところでこの時生まれた赤ちゃんは最初、お股におちんちんが見当たらなかったので、てっきり女の子と思われ、看護婦さんは廊下で待っていた貴司たちに「女の子ですよ」と告げた。それで千里(千里1)は貴司に
 
「貴司、今度は女の子のパパになったね」
と言ったのだが、その後、この子の性別が問題になった。
 
この子のお股をよくよく観察すると、どうも女の子のお股とは少し違うような気がしたのである。それで医師がその付近を指で触ってみていた所、小さなおちんちんがあって、それが肌の中に埋もれていることが分かった。近くを触っていると、睾丸らしきものも体内に発見された。
 
それでこの子は男の子で、停留睾丸、しかもペニスも小さくて肌の中に埋もれていたことが判明したのである。そのペニスが埋もれて小さな凹みを作っていたのが、陰裂のように見えたのである。
 
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これが判明した時には既に千里(千里1)は帰ってしまっていたので、千里1は貴司の2番目の子供はてっきり女の子だと2年後まで思い込んでいた。
 

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さて、千里と羽衣がアテンザに乗って千葉に戻っていった後、それと入れ替わるようにミラが病院のそばまで走り寄っていた。
 
助手席に乗っていた人物は降りて行き、病院の中に入っていったが10分ほどで戻って来た。
 
そして
「作業完了」
と言ったので、運転席に座る《きーちゃん》はミラを出発させた。
 
この作業は、2017年正月に、千里が小春と約束したことに基づいて、それを千里2から《きーちゃん》に依頼し、実行されたものである。
 

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さて、この時生まれた子供の名前は、女の子なら環菜(かんな)、男の子なら秋緩(あきひろ)という名前にしようと、貴司と美映は話し合っていたのだが、この子の性別問題を考えて、ふたりは悩んだ。
 
「この子、確かに生物学的には男なのかもしれないけど、もしかしたら本人は女の子になりたいと思うかも」
と美映が言った。
 
「だったら、男女どちらでも使える名前にしておいた方が無難かもね」
と貴司も言う。
 
それで秋緩と環菜を合成して緩菜(かんな)という名前にすることにしたのである。性別については悩んだのだが、医者が
「普通に男で届けていいと思いますよ」
と言ったことから、男児として出生届を出すことにした。
 
千里(千里1)は貴司から、子供の名前は「緩菜」にしたと聞いたので、当初女の子が生まれた時の名前として用意していた「環菜」から字を変えたのかなと思い、まさか男の子であったとは思いもよらなかった。
 
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ところで、緩菜が生まれてからすぐ、病院では血液型の検査をしたのだが、緩菜はAB型であった。
 
ところで貴司はB型、美映はO型である。
 
つまり2人の子供としてはあり得ない組合せなのである。B型の親とO型の親からAB型の子供が産まれることはありえない。
 
これが母親がB型で父親がO型というのであれば、母親が浮気して他の男の種で妊娠した可能性がある。そういう場合、病院側は敢えて触れないでおく。しかしO型の母親がAB型の子供を産んだとなると大問題だ。
 
病院側は他の赤ちゃんの検体と誤った可能性を考え、緩菜の血液型を再調査したが、間違い無く緩菜はABであった。病院は取り違えの可能性を考えたが、普通の男の子・女の子なら、取り違えの可能性もあるが、停留睾丸の男の子なんて、他にはいない。(念のため入院中の全ての赤ちゃんのお股を確認した)
 
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女たちのベビーラッシュ(2)

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