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■女たちの復活の日(3)

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「へー!町添さんが社長になっちゃったんですか!」
 
氷川係長から連絡を受けて、宮古島でのんびりとお茶を飲んでいた冬子は驚いて言った(正確には驚いたふりをした)。
 
「それで加藤さんが取締役制作部長になった」
 
「まあ部長になっていいくらい加藤さんは仕事してましたよ」
「うん。加藤さんは凄い。私も入社以来ずっとお手本にしてたもん。加藤さんが独身なら、結婚したいくらい尊敬してた」
と氷川さんは言う。
 
「氷川さん、結婚とかの予定は?」
「まあ彼氏が居ないからね。セックスはたまにするけど、恋人にしたいと思うほどの男は居ないなあ。実は加藤さん、直接の上司では無くなった時に誘惑してみたけどうまく逃げられた」
「あはは」
 
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その事件は冬子や千里たちの間では有名な事件だ。加藤次長が氷川真友子からレイプされかかり、洋服も剥がされたあわれな姿で男性の部下の部屋に逃げ込んだのであった(男女逆なら懲戒解雇されている所)。
 
しかし恋愛はしないがセックスはする、などとは大胆だが、氷川さんほどの女性を魅了できる男性は、そうそう居ないのでは冬子は思った。
 
「氷川さん、漢らしいし、いっそ女の子と結婚したらどうですか?」
と横から政子が言う。
 
「ああ。うちの母からは『あんたには奥さんが必要かも』と言われたことあるよ。実際私料理はするけど洗濯とか掃除とか苦手だし。でも女の子と寝たこともあるけど、私は男の人とする方が好きかなと思った。女同士って、お互いの舞台裏が全部見えちゃう感じでさ」
「氷川さんが誰と寝たのか興味あります」
 
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「友だちからも、私、漢らしいとか、男みたいと言われるし、若い社員の中には私が性転換した元男と思ってたという人も居たよ」
と氷川さん。
 
「性転換した元男性なら、きっともっと女っぽいですよ」
と政子。
 
「ケイちゃんとか春奈ちゃんとか見てると、そんな気もするね」
と氷川さんは言った。
 

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結局この町添新体制による社内改革で氷川さんはJPOP部門の課長に就任することになる。
 
解任された村上社長・佐田副社長らや黒岩さんたちは別途新しいレコード会社MSMを立ち上げた。元々村上さんにスカウトされて★★レコードに入ったKARIONの元担当・滝口さんや、滝口さんが外れた後担当をしてくれていた土居さんもそちらに移籍した。他にも結構そちらに移籍する社員も居たし、最近売上を落としていてレコード会社の営業体制に不満を持っていたアーティストが10組ほどそちらに移籍し、昨年RC大賞の新人賞を取ったアイドル歌手ユニット・フローズン・ヨーグルツなどまで移籍して、★★レコード社内は動揺した。
 
しかし町添さんが関連会社も含めて全社員を全国数ヶ所の体育館に集め、新しい会社のあり方について熱弁を振るうと、賛同する声が多数あがり、★★レコードは熱気あふれる会社に生まれ変わる。
 
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なお、新しいKARIONの担当は、一時的に今里さんが暫定的に担当したが、年末には、元スリファーズや遠上笑美子の担当で、系列のイベント会社に出向していた鷲尾さんが出戻りして就任することになる。
 
7月の時点で町添新社長が会社再構築の柱として考えていたのは昨年デビューして2枚目のシングル『恋の八高線』が80万DLの大ヒットを飛ばし(最優秀新人賞ではないものの)RC大賞の新人賞も取った17-18歳の女性トリオ Trine Bubble であった。このヒットは売上こそ80万DLでも、八高線の乗車率が5倍になったという伝説を生み出し、実質ミリオン並みの反響があった。
 
そしてその『恋の八高線』は元々、ローズ+リリーが過去のアルバムに入れていた曲のカバーであり、この時点で売っていた3枚目のシングル『ダイヤモンド千里浜』はマリ&ケイが2月に超多忙状態の中で書いて提供した曲で、4月に発売して6月末時点で45万DL売れておりダブルプラチナは確実の情勢だった。これも千里浜に大量の観光客が押し寄せる騒ぎになっていた。関東ドームのライブチケットは事前のリサーチでは瞬殺で売り切れることが予想されていた。
 
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当然次の曲もマリ&ケイでとプロジェクト側では考えている。その意味で★★レコードの社運はケイが復活できるかどうかに掛かっていた。
 

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冬子たちは紅川さんの家にしばらく滞在していたが、7月3日の早朝、冬子は夢を見ていた。
 
何やら難しい字がスーパーインポーズのように脳裏を流れていく。
 
故於是天照大御神見畏、開天石屋戸而、刺許母理坐也。爾高天原皆暗、葦原中国悉闇、因此而常夜往。
 
冬子はどこか物凄く暗い場所に居た。どこだろう?ここは。
 
「マーサ?」
と政子を呼ぶが声は無い。
 
「真央?」
「若葉?」
「コト?」
と親友の名前を数人呼んでみた(後で恋人である正望の名前を呼ばなかったことに気付き、少し悩んだ)。
 
誰も返事をしない。
 
その時、ふと思いついて「青葉?」と呼んだら
「冬子さんこっち」
という声がする。
 
見ると、なぜかセーラー服を着た青葉が立っていて
「外の世界に連れて行ってあげる」
と言い、冬子の手を引く。それで冬子が行きかけた時、その青葉を押しのける人物がある。
 
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「千里!?」
 
千里は、一糸まとわぬ姿で立っていた。そして唐突にサンバを踊り出す。すると青葉もアゴゴを打ちながら、一緒にセーラー服のまま踊り出す。が、踊りながら唐突にスカートを脱いでしまう!?
 
冬子は目をパチクリさせてその姿を見ていた。
 
天宇受売命、為神懸而、掛出胸乳、裳緒忍垂於番登也。爾高天原動而、八百萬神共笑。
 

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北海道育ちの千里も、岩手育ちの青葉も、ふたりとも肌が白い。その白さが暗闇の中でまるで太陽のように光っていた。全裸の千里は、下半身だけ裸の青葉の伴奏でサンバを踊りながら、円を描くように目の前を動き回っていた。冬子はその千里の動く軌跡を見ているうち、宮古島に来る時に機内で見たルカン礁を連想した。
 
するとそこにルカン礁が見えているような気がしてくる。
 
美しい円形の環礁。そして碧色の海。
 
冬子はまるでその礁湖に吸い込まれていくような気がした。ああ。私はここに還(かえ)っていってもいいのかな?
 
そう思った時、後ろからガシッと抱きしめられる。
 
千里である。
 
千里は今度は巫女の衣装を着ていた。
 
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「そっちに行ってはダメ。そこから引き出すんだよ。大自然と一体化してもいいけど、主導権を取るのは自分」
 
そう言うと千里は冬子に小さな鈴を渡してくれた。
 
「これ、冬子の落とし物」
 
冬子がその鈴を受け取り、いつ落としたんだろうと考えていたら、千里は、いきなり冬子の唇にキスをした。
 
え〜〜〜〜〜〜〜〜!?
 
と思ったが、良く見ると冬子にキスしたのは政子であった。
 
「私はいつもここにいるよ」
と政子は言った。
 
その途端、天から大量の星が降ってくるような感覚があった。
 

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冬子はハッとして目を覚ました。時計を見ると4時すぎである。隣で寝ている政子を起こす。
 
「なに?」
「ちょっと外に出てみない?」
「ん?」
 
2人が外に出てみると、天文薄明が近いようで東の空が少し明るくなりかけているが、西の空はまだ暗いし、星がけっこう見える。
 
その時、その西の空で星がひとつ流れた。
 
「あ、流れ星だ! 願い事、願い事」
と言って政子は何やら唱えている。バナナとかプリンとかいった単語が聞こえたのは、聞かなかったことにする!
 
更に星が流れる。
「あ、また流れ星」
 
そしてまた星が流れる。
「何?何が起きてるの? 流れ星がいっぱい」
 
西の空には、その後もどんどん流れ星が生まれ、一度に3〜4個同時に流れることもあった。冬子と政子は、ずっとその天体ショーを言葉も発しないまま見詰めていた。それはまさに星降る夜という感じであった。
 
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次第に空が明るくなってくると、さすがに見られる流れ星の数は減るがそれでもけっこう流れているのを見る。やがて東の空から太陽が登ってくると、その天体ショーはもう見ることができなくなった。しかしその後もふたりはじっと西の空を眺めていた。
 
(宮古島のこの日の天文薄明は4:25, 夜明けは5:21、日出は5:54 この夜は地球の裏側では日食が起きていたのだが、チリで日食が始まった頃宮古島では天文薄明が始まり、宮古島の夜明け後すぐにチリでは皆既日食が起きている)
 

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於是天照大御神、以為怪、細開天石屋戸而、内告者。因吾隠坐而、以為天原自闇、亦葦原中国皆闇矣、何由以天宇受売者為樂、亦八百萬神諸笑。天照大御神逾思奇而、稍自戸出而。臨坐之時、其所隠立之天手力男神、取其御手引出。故天照大御神出坐之時、高天原及葦原中国自得照明。
 
紅川さんの娘さんが
「お早うございます」
 
と言って離れに顔を出して、朝食の用意ができたことを告げた時、そこには、冬子が一心不乱に五線紙に音符を書き綴っていて、政子が隣でのんびりと朝のコーヒーを飲んでいる姿があった。
 
この朝、流星群を見た人は冬子たちの他には誰もいなかったようである。冬子は後にこの朝のことを思い出す度に、あれは現実だったのか、それとも夢だったのか、分からなくなってしまう。
 
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東京の∴∴ミュージックでは、KARIONの次のアルバムに向けて、畠山社長とKARIONのリーダー和泉、トラベリングベルズの黒木信司、それに★★レコードの今里さんが打ち合わせをしていた。
 
過去のKARIONのアルバムはこのようになっている。
 
2008.09.03 1st『加利音』 2.6万枚
2009.03.27 2nd『みんなの歌』12万枚
2009.08.12 3rd『大宇宙』 24万枚
2010.08.18 4th『春夏秋』 22万枚
2011.07.06 5th『食生活』 28万枚
2012.08.08 6th『クロスオーバー』 26万枚
2013.09.25 7th『三角錐』 120万枚
2014.07.09 Best (8th) 80万枚
2014.08.27 (Mini)『動物たちの舞踏会』 60万枚
2015.02.04 9th『四・十二・二十四』 20万枚
2016.03.09 10th『メルヘンロード』40万枚
2017.04.12 11th『少女探偵隊』30万枚
2018.09.12 12th 『1024』12万枚
 
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KARIONの楽曲は、“最盛期”には、泉月こと和泉と冬子(水沢歌月)のペアで半分くらいを書き、残りを広田純子・花畑恵三、櫛紀香・黒木信司、葵照子・醍醐春海などといった作家の作品も入れて構成していた。むろんその時々で他の方から楽曲を頂く場合もある。
 
ところが冬子は昨年は上島雷太の代理で大量の楽曲を書いていた余波で、楽曲が書けなくなり、まだ不調から脱出していない。
 
また、醍醐春海こと千里は一昨年の夏頃から不調に陥り、なかなか良い曲が書けなくなっていた所で、昨年夏に新婚ほやほやの夫の急死という事態によるショックで全く楽曲が書けなくなっていた。こちらは春に何とか復活したものの、まだ完全な復調ではない上に、彼女自身が現在、不調に陥っている冬子の代理で結構な数の楽曲を書いていて、つまり冬子が復活するまではKARION向けの楽曲まで手が回らない状況である。
 
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それで、要するに、アルバムは作りたいものの、楽曲を揃えられないのである!
 
「花畑さんが、非常事態なんで頑張るけど、実際問題として年内に用意できる曲は3曲だと思う。KARION楽曲は要求水準が高いんだよ、とおっしゃってました」
 
「確かに水沢歌月・醍醐春海が稼働できない状態では花畑さん頼りではあるけどあまりご負担を掛ける訳にもいきませんよね。無理するとあとが恐いし」
 
「福留彰さんが心配して1〜2曲なら、またこちら向けに書いてもいいと言ってくれている」
「福留さんの曲は、他で楽曲調達のメドが立っても利用させてもらいたいですね」
 
「醍醐春海の妹の大宮万葉さんが1曲くらいは、KARIONにも書いていいですよと言ってくれている」
「昨年も頂きましたし、ぜひお願いしたいです」
 
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「琴沢幸穂さんからも1曲くらいは提供しますよと言われている」
「あの人もいい曲書くよね。それもお願いしたい」
 
「それにしても2年続けて歌月・春海が共に稼働できない状況下では楽曲の品質を確保するのは難しい」
 
そういった意見の中で和泉は
「どうしても《KARION品質》のアルバムが作れない場合、いっそ今年は制作を見送るのもひとつの選択肢だと思っています」
と言った。
 
「昨年の『1024』も多数の作家の方から曲を頂いていますが売上がよくなかったです。2年も続けてそういう構成を取ると、もう楽曲が枯渇しているのではと言われます。それに過去にやはり多数の作家の方から曲を頂いて構成した『四・十二・二十四』もセールスは悪かったです」
と和泉は指摘する。
 
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「しかし活動があまり停滞すると、KARIONは実質活動停止しているのではなどと言われかねない」
と黒木さんは心配して言う。
 
「小風が暇だ暇だと言っている。親が心配して見合いの話を持って来たらしいけど、まだ結婚はする気無いと言って断って、最近は日々カルチャースクール通い」
「カルチャースクールで何習ってるの?」
「陶芸。結構はまっている感じ」
「へー」
 

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その時、突然会議室のドアが開く。
 
「今重要会議中だから、入って来ないでと言ったろ?」
と反射的に畠山社長は言ってしまったが、入って来た人物を見て驚く。
 
「蘭子ちゃん!?」
 
「はーい。みなさん、お久しぶり〜」
と冬子の表情は明るい。
 
「宮古島に行っていると聞いたけど」
「今日戻って来ました。これお土産」
 
と言って冬子は五線紙を出した。
 
和泉が譜面を読む。
 
「水沢歌月が復活したね」
 

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そして冬子は社長に言った。
 
「KARIONの新しいアルバム作りましょう」
 
「今その話をしていたのだけど」
「楽曲揃えられる?」
「1曲はこの『星降る朝』で。岡崎天音(マリの別名義)作詞で悪いけど。他にも今から3〜4曲書くよ」
と冬子は笑顔で言った。
 
「だから和泉、3〜4本、詩を書いてよ」
と冬子は和泉に言ったが、和泉はキリリとした表情で
 
「曲を書いてもらうのを待ってる詩が30個くらいあるよ」
と答えた。
 
そして冬子はこの宮古島行きを境に、『郷愁』の制作で死んだ2017年夏以来の不調から復活したのであった。
 

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女たちの復活の日(3)

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