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■女子バスケット選手の日々・2016オールジャパン編(3)

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16:00からの第3試合では、花園さんたちのエレクトロ・ウィッカが古豪フラミンゴーズを破った。この試合で花園さんは11本もスリーを放り込む活躍を見せた。花園さんには大野百合絵がマッチアップしたのだが、
 
「今日の亜津子さん、凄すぎる!」
と言っていた。
 

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17:50、千里たち40 minutesのメンバーは代々木第2体育館のフロアに入った。
 
千里は4年前に千葉ローキューツでオールジャパンに出てきた時も準々決勝でレッドインパルスに敗れているのだが、今日40 minutesが準々決勝で対戦する相手も、そのレッドインパルスであった。
 
18:00、センターコートにレッドインパルスと40 minutesの選手が整列する。スターターが名前を呼ばれてコートに入る。両軍のスターティング5はこのようになっていた。
 
40 雪子/千里/星乃/暢子/誠美
RI 入野/餅原/広川/渡辺/三輪
 
餅原さんは広川主将より3つ下の28歳で結婚のため今期限りの引退を表明している。千里が昨年春にレッドインパルスの練習場に最初行った時、彼女との1on1には全く勝てなかった。しかし今は日々の練習ではもう7割くらい千里が勝てるようになっている。千里が4月からレッドインパルスに加入するのは餅原さんの後継含みであるが、千里は最後のオールジャパンとなる餅原さんへのはなむけに、この試合ではたとえゲームに負けても彼女との対決には勝たなければならないと思っていた。
 
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ティップオフは誠美が取って雪子が攻め上がるが、そこに入野朋美がピタリと付いて自由にはさせない。2人は世田谷区の体育館での自主練習仲間ではあるが、公式戦での対決は実に2007年のインターハイ以来9年ぶりである。入野が雪子の速攻を防いでいる内に他のメンバーが各々自分がマークする相手の傍に寄る。千里には餅原マミ、星乃には広川妙子、暢子には渡辺純子(元札幌P高校)、誠美には三輪容子が付いた。
 
千里が餅原を振り切ってエンドライン方向に走り込む。雪子が千里の走る方向に振りかぶる。入野が一瞬そちらに視線をやる。
 
がボールは反対側のサイドの星乃の所に飛んで行く。しかし広川はそれを読んでいて、ボールをカット。しかし星乃は広川がカットしてバウンドしたボールを飛び付くようにして確保し、体勢を崩しながら床を這うようなパスで暢子にボールをつなぐ。暢子が渡辺を振り切って中に進入し、シュートしようとする。しかしそこに三輪が覆い被さるようにして邪魔する。暢子は空中でパスの体勢に変えて千里にボールを送る。千里が受け取るとボールを持ち直しもせずに即スリーを撃つ。餅原はジャンプしたものの届かない。
 
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縫い目が斜めだったのでボールはカーブのような軌道を描くもののゴールにダイレクトに飛び込む。
 
0-3.
 
試合は40 minutesの先行で始まった。
 

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両者とも複雑にボールを繋いでいくので、一瞬でも気を抜くとどこにボールがあるか見失いそうである。どちらもマンツーマン・ディフェンスなので、各々の技術と技術、パワーとパワー、スピードとスピードがぶつかり合う。千里はこの日無茶苦茶気合いが入りまくっていた、
 
元旦の早朝、伊香保温泉の湯の中で花野子と色々話したことで、自分の気持ちが凄くまとまっている。そのためこの日は迷いの無いプレイをした。千里は餅原を抜いたり振り切ったりしてどんどん攻めたし、餅原は全部千里に停められた。たまらず松山コーチは餅原を下げて若い柚野美杉を投入する。高校を出て即入団し1年目の選手である。彼女は若いだけあってエネルギーはたっぷりあるし、ひじょうに足の速い選手である。千里を尊敬していて「サンの弟子のつもりで頑張ります」などと普段言っている。一応シューティングガード登録になっているが、これだけ足が速ければ、むしろポイントガードもできるのではないかと千里は普段の練習でも思っていた。
 
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しかし彼女と千里では経験があまりにも違いすぎる。ちょっとした呼吸の隙に簡単に抜いてしまう。そして彼女が攻めてきた場合は、彼女の呼吸を読んで停めてしまう。このあたりはふだん一緒に練習している相手だけにこちらとしては把握しやすい。
 
広川vs星乃では経験の差で広川が7割くらい勝っている。渡辺と暢子の所は五分五分。三輪と誠美の所は誠美が6割、そして入野と雪子も雪子が6割という感じである。しかしシューティングガード対決の所で、餅原にしても柚野にしても千里に完璧に負ける。
 
それで第1ピリオドは千里のスリーが炸裂して12-21とまさかのダブルスコアである。Wリーグ今期2位の強豪レッドインパルスのお尻に火が付く事態となる。
 
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第2ピリオド、結局千里をどうにかしないと、どうにもならないと悟ったレッドインパルスはとうとう広川主将を千里のマークに付け、代わってSGに代えてパワーフォワードの桔梗乃愛を入れて来た。千里より1つ上の学年。愛知J学園高校出身だが、高校時代は全国大会では1度もベンチに座ることができなかった選手だ。しかし卒業後実業団に入って頭角を現し、2年前に所属していたチームが解散した所を松山コーチにスカウトされて加入した。
 
むろん普段の練習でもたくさん一緒にプレイしているが、ひじょうに器用な選手である。177cmの背丈を活かしてリバウンドも良く取り、どのポジションでもこなすが、取り敢えずパワーフォワードの登録になっている。ある意味、玲央美にちょっと似たタイプである。
 
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こちらはスモールフォワードの星乃を下げて橘花を入れた。渡辺純子のマッチアップは引き続き暢子になると見て、器用な桔梗対策に同じく器用な橘花を使おうという意図である。
 
この体制で広川さんはさすがに千里を完全に自由にはさせてくれない。少しでも隙あらばスティールしようと果敢にチェックしてくる。これで千里は第1ピリオドほどまでは好きにできなくなる。それでも勝負としては五分五分に近い感じだ。普段の練習の時は広川さんが8で千里が2くらいなので、広川さんは「嘘だろ!?」といった顔をしている。
 
一方の桔梗vs橘花は器用さではいい勝負ではあるもののスピードで橘花がまさっていることから、橘花が6割くらい勝つ感じになった。
 
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この結果、チーム全体の勝負として40 minutesがやや優勢な状態になる。それで第1ピリオドほど一方的ではないものの、結局16-20とこちらが4点多い状態で終わった。前半合計は28-41である。
 

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ハーフタイムを終えて控室から戻ってきたレッドインパルスの選手たちの顔がかなり厳しかった。こちらが千里や雪子を休ませているのを見て、広川妙子・桔梗乃愛・渡辺純子・勘屋江里菜とフォワードを4人並べる体制で来た。多少の点を取られるのは覚悟でそれ以上に取ってやろうという姿勢だ。
 
これに対してこちらは夕子/渚紗/桂華/麻依子/由実という布陣で臨む。このメンツが敢えてゆっくりとした攻めをして、相手のペースを狂わせる。前半出ていたメンツは女子の試合とは思えないほど高速に駆け回り、それでレッドインパルスは翻弄されていたのだが、一転してスローなプレイをする。それで相手は肩すかしを食ったような感じになった。夕子にしても麻依子にしても、とても丁寧なプレイをする選手だ。そして桂華は基本的にはゆっくりプレイするのが好きな選手なのだが、ゆっくりと動いていたかと思うと突然高速に攻め込んでゴールを狙う特技を持っている。相手はこの緩急の差に幻惑された。そして向こうがセンターを出していない分、由実はゴール下でボールを拾いまくった。
 
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結果的には相手の攻める気持ちが空回りするようになって、このピリオドを24-18で持ちこたえた。ここまで52-59である。
 
第4ピリオドでは千里を戻し、桂華に代えてまた違うタイプのフォワードである来夢を投入する。彼女はWリーグの複数チームで何年もプレイしている。むろんレッドインパルスとも何十回と対戦している。相手の攻めたくなるような穴を提示してはそこに誘い込んで潰すなど、トリッキーなプレイが物凄くうまい。総力戦で来たレッドインパルスの、特に若手選手がことごとく来夢にやられてしまう。そして長時間出ていてさすがに疲れの見えた広川を千里はこのピリオドでは圧倒した。
 
結果的にこのピリオドでは10-23の大差が付いてしまう。
 
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終了のブザーにレッドインパルスの選手たちが天を仰いだ。
 
「82対62でフォーティー・ミニッツの勝ち」
「ありがとうございました」
 
広川キャプテンが首を振りながら千里と握手して、そのままハグしあった。
 
「サン、お前ふだんの練習では手抜きしてないか?」
と苦笑いしながら言うので
「この数日で進化したんです」
と千里は答えた。
 
この日の試合で千里はスリーを14本も放り込んだ。
 
実際千里は1月1日早朝の温泉の中で花野子と話していて気持ちの整理ができたことで、物凄く強くなったのである。しかし千里の強さは観客席で見ているだけでは分からない。実際に対戦した人だけが知ることになる。
 
千里は餅原さんとも柚野美杉ともハグ、他の多くの選手とも握手した。
 
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この結果今年のオールジャパン女子BEST4は、サンドベージュ、ビューティーマジック、エレクトロ・ウィッカ、40 minutesということになった。BEST4にトップリーグ以外のチームが顔を並べたのは1999年の日本体育大学以来なんと17年ぶりのことであった。
 
準決勝は日を置いて、1月9日(土)に行われる。
 

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1月4日の祝勝会はやはり江東区内に戻って、しゃぶしゃぶのお店で食べ放題でおこなったが、空の皿がどんどん積み上げられていくのをお店のスタッフさんが呆然とした顔で眺めていた。今日も
「ほんとにみなさん女性なんですか?」
と訊かれた。
 
「ところで千里、祝勝会の費用がかなりかさんでないか?」
と橘花が心配して言ってくれたが、千里は
「みんな頑張ってるから、そのくらいOKOK」
と笑顔で言っておいた。
 

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1月9日(土)。
 
この日は場所を移して大勢の観客が入る代々木第1体育館のセンターコートで11:00からと13:00から女子の準決勝2試合が行われる。
 
第1試合では三木エレンたちのサンドベージュがビューティーマジックを倒した。この日も三木さんは3本スリーを入れた。
 
そして13:00からの第2試合。千里たち40 minutesの相手はエレクトロ・ウィッカ、つまり花園亜津子が所属するチームである。他に日本代表正ポイントガード・武藤博美、元愛知J学園でユニバーシアード代表でもあった加藤絵理、元大阪E女学院の河原恭子などが所属している。
 
各々のスターティング5が1人ずつ名前を呼ばれて、チームメイトとハイタッチしてコート上に入る。今日のスターターはこうなっていた。
 
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40 雪子/千里/星乃/暢子/誠美
EW 武藤/花園/河原/加藤/馬田
 
花園亜津子は例によってティップオフ前に千里のそばに寄ってきて
 
「今日はまたスリーポイント競争しようね〜」
とあっかるく言った。
「じゃ12対6で」
と千里は笑顔で答える。
「それ私が12でいい?」
と亜津子は言ってからティップオフに備える位置(千里と星乃の中間くらいの位置)に陣取った。
 
馬田恵子は190cmの身長。中国生れだが2008年の夏に日本に帰化して日本代表にもなった選手で、実は彼女がエレクトロ・ウィッカの正選手になった煽りで186cmの森下誠美は選手枠から弾き出されてしまい、特例移籍でローキューツに入った経緯がある。誠美にとっては因縁の相手だ。
 
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そのふたりが中央サークルで相対し、審判が投げたボールに向かってジャンプする。誠美が物凄い迫力でボールをタップし、雪子がボールを確保。そのまま速攻で攻めて行く。雪子は後ろから追って走っていた千里に、そちらを見ずにパス。千里は受け取ると即撃つ。
 
0-3.
 
試合開始わずか4秒で40 minutesが先取点を挙げてゲームは始まった。
 

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どちらもマンツーマンを選択する。マッチアップは武藤−雪子、花園−千里、河原−星乃、加藤−暢子、馬田−誠美と自然な組合せになった。
 
河原−星乃、加藤−暢子は高校の時以来の顔合わせである。武藤−雪子は6月にユニバ代表対フル代表の練習試合をした時以来半年ぶりだが、前回は痛み分けになっている。
 
そして花園−千里は、今年ずっと日本代表として一緒にやってきた仲である。お互いの手の内は全て分かっている。
 
・・・・と花園は思ったのだが、3分で自分の思い違いを認識する。
 
今日の千里は花園が思っていたような千里では無かった。
 
全く停められない。
 
千里は花園を振り切ったり抜いたりして、どんどんシュートを撃つ。花園の攻撃は千里に完璧に停められる。
 
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花園は「信じられない」という顔をしていた。
 

向こうがタイムを取る。何やら話し合っている、というより揉めてる!?
 
結局揉めたまま1分が経ち、やむを得ずコートに戻る。
 
しかし花園は決意を秘めた表情をしていた。
 

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女子バスケット選手の日々・2016オールジャパン編(3)

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