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■女子バスケット選手の日々・2016オールジャパン編(2)

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「でも英美ちゃん、あらためて凄いね」
と千里は言う。
 
「私はウィンターカップに出場したかったんですけどね」
と福井英美。
 
北海道ではインターハイ道予選BEST4チームの内、ウィンターカップに出られなかったチームが北海道総合に出場するのである。但し総合は大学生や社会人チームに勝って優勝しなければオールジャパンに出られないのでそれもまた大変である。
 
「やはりP高校の壁は厚いよね。私たちやその一つ下が出られたのもP高校が予選免除になったおかげだから。でも今年は最後だし狙おうよ」
と暢子が言う。
 
「はい、頑張ります」
と英美は明るい声で答えた。
 
「大先輩たちは次の試合だよね。頑張ってね。優勝するつもりで」
と南野コーチも笑顔で激励してくれたので
 
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「はい、そちらも頑張って下さい。決勝戦で会いましょう」
と笑顔で言ってから千里たちは他のメンバーの所に合流した。
 

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14:40から千里たちの試合が始まる。相手は九州代表として出てきた大学生チームだが、千里たちの敵では無かった。年齢的にはこちらの主力は24-26歳で、21-22歳が中心の向こうより高いものの、身体の鍛え方が違うし、経験も違う。
 
麻依子も橘花も、桂華も星乃も、夕子も暢子も、相手選手を圧倒する。リバウンドも森下誠美や松崎由実がほとんど取ってしまうので、試合は一方的になってしまった。
 
前半で20-43とダブルスコアにして後半はこちらは主力を休ませたものの差は全く縮まらず、結局42-87で大勝した。
 
取り敢えずこの日は東急−半蔵門線ラインで江東区に戻り、地元の焼肉店で初日の祝勝会をあげた。
 
「元日から焼肉というのもいいね」
「年末ずっと練習してたから、うちおせちとかも用意してない」
「うち餅も買ってないや」
「オールジャパンが終わってから1月15日の小正月でおせち・お雑煮にしてもいいんじゃない?」
「うん、そうさせてもらおう」
 
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なおこの日行われた1回戦には各地区代表8チーム、社会人3チーム、大学4チーム、高校1チームが出場し、地区代表3チーム、社会人3チーム、大学1チームと高校チーム(インターハイ覇者・愛知J学園)が生き残った。地区代表で生き残ったのは旭川N高校の他、東海地区から出てきた岐阜F女子高と関東地区代表の江戸娘である。結果的に今年のオールジャパンでは高校生チームが3つも2日目に駒を進めることとなった。
 

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2日目、この日は昨日勝ち上がった8チームと、Wリーグの下位3チーム、大学の上位4チーム、そして東北代表として出てきてはいるが実質プロ並みの力を持つ山形D銀行が対戦する。鶴田早苗がいるチームである。なおこの日の試合は1フロアに2面取るのではなく駒沢体育館と代々木第2体育館の各々センターコートで4試合ずつ行われる。千里たちは代々木第2体育館であった。
 
千里たちのこの日の相手はWリーグ下位のシグナス・スクイレルである。
 
千里はコートに立った時、観客席からじっと見つめる佐藤玲央美の姿を認めた。このチームは玲央美にとっては因縁のチームである。
 
玲央美は高校を卒業後、このチームの前身のスカイ・スクイレルに入団する予定で契約も交わしユニフォームももらっていた。ところが親会社の白邦航空が入団直前の3月に倒産してしまったことからチームも解散してしまったのである。一応後継チームとしてシグナス・スクイレルが結成されたものの、そちらに参加したスカイ・スクイレルの選手はわずか4人。社員契約方式でバスケに専念できる環境でもなかったため、玲央美はそこには加入せず、元日本代表・藍川真璃子と一緒にトレーニングを重ねる道を選ぶ。そしてその練習仲間が参加する形で翌年実質的に新しい実業団チーム・ジョイフルゴールドが誕生した。
 
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現在のシグナス・スクイレルには当時の選手も全く残っていない。どうも入れ替わりの激しいチームのようだ。
 
戦っていて千里は昨日の大学生チームとそんなに違わない気がした。試合は49-90で快勝した。
 

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この日も40 minutesのメンバーは試合終了後江東区に戻って、お寿司屋さんで祝勝会を開いた。今回は祝勝会は全て江東区内の飲食店でやろうという方針である。地域に愛されるチームを目指すのと、江東区の人達に40 minutesを知ってもらうのと2つの目的を兼ねてやっている。
 
2日目の結果。地区代表で唯一2回戦からの登場になった山形D銀行は伊香秋子の所属するW大学に敗れて初戦で消えた。高校生チーム3つは全て勝って3回戦に進出。その他、今日勝ったのは社会人2チーム、大学1チーム、Wリーグ1チームである。
 
旭川N高校は今日はインカレ2位の大学とかなり競ったものの最後は1年生の「自称ベンチウォーマー」久田美波のスリーポイントがブザービーターで決まり、1点差で辛勝した。N高校の試合は駒沢体育館の方で千里たちは見ることができなかったので試合終了後、おめでとうございますのメールを宇田先生に送っておいた。
 
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玲央美たちのジョイフルゴールドは大学3位のチームに勝って3回戦に進出したが、社会人3位のバタフライズは大学1位のTS大学に負けてここで消えた。TS大学は現在はジョイフルゴールドに所属する前田彰恵が昨年3月まで在籍していたチームで現在もユニバ代表候補だった広川久美が所属している。久美と目が合ったので千里は手を振っておいた。また江戸娘はWリーグ下位のハイプレッシャーズに敗れた。ハイプレッシャーズには元釧路Z高校/TS大学の松前乃々羽が居る。
 
そして1月3日の3回戦には未登場の8チームが全て登場する。
 

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オールジャパンは32チームで行われるが、1回戦・2回戦・3回戦はそれぞれ8試合ずつ行われる方式になっている。つまり16チームが1回戦を戦い、それに勝ち残った8チームと2回戦からのチーム8つが戦い、それで勝ち残ったチームと3回戦からのチーム8つが戦う。
 
そしてその3回戦から加わるチームは全てWリーグの上位チームである。つまりオールジャパンは3回戦に物凄く高い壁があるのである。
 
1月3日の3回戦も代々木第2体育館と駒沢体育館センターコートで4試合ずつ行われる。
 
代々木第2体育館
12:00 W大学×−○サンフラワーズ
14:00 ハイプレッシャーズ×−○エレクトロ・ウィッカ
16:00 40 minutes−ブリリアント・バニーズ
18:00 ジョイフルゴールド−ブリッツ・レインディア
 
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駒沢体育館
12:00 愛知J学園高校×−○ビューティーマジック
14:00 岐阜F女子高×−○レッドインパルス
16:00 旭川N高校−ステラ・ストラダ
18:00 TS大学−フラミンゴーズ
 
千里たちは第3試合だが、第2試合までは4つとも今日から登場したWリーグ上位チームが勝っている。高校生チームは2つ消えて残る1校の旭川N高校は千里たちと同じ時間帯だ。
 
千里はコートに入って客席を見ていて次の試合に出るジョイフルゴールドの佐藤玲央美と、第1試合に出ていたサンフラワーズの三木エレンが怖い顔でこちらを見ているのに気づく。玲央美に向かって笑顔で手を振ったら玲央美も表情を崩して手を振ってくれた。
 

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16:00。代々木第2体育館センターコートに40 minutesとブリリアントバニーズの選手が整列する。ブリリアントバニーズには以前代表活動で一緒になったことのある183cmの富田路子や元愛知J学園高校の大秋メイなどがいる。富田は2010年にU18代表になっている子だ。彼女も「ボク少女」メーリングリストの仲間なので、誠美が手を振ったらこちらに会釈していた。
 
その誠美と富田のティップオフで試合が始まるが、ブリリアントバニーズがこちらを全く研究していなかったのは明らかであった。千里がスリーを入れても最初の内は「ふーん。よく入ったね」みたいな顔をしている。しかし第1ピリオドだけで3本も入れると「これはやばいかも」という顔になる。それで最初は向こうのシューターの人が千里にはマッチアップしていたものの、自分から志願した雰囲気の大秋メイに交代する。しかしメイでは千里は停められない。シューターの人よりはマシだったものの、7−8割はこちらが勝つ。
 
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それで第2ピリオドになると、とうとう向こうのエースが千里のマーカーになるものの、千里の動きを事前に研究していない人が千里を停めるのは困難である。どんどんフリーになり、どんどんスリーを放り込む。
 
そして千里だけに注意を奪われていると、橘花や星乃たちが中に進入して得点を挙げていく。千里が休んでいる間に出ている渚紗は千里とはまた違うタイプのシューターなので、明らかに守備に混乱が生じていた。
 
そういう訳で、この試合は67-90というまさかの大差で40 minutesが勝利をおさめたのであった。
 
試合中、千里は客席から見つめる玲央美と三木さんの熱い視線を心地良く受け止めていた。玲央美は次の試合準備のため途中から居なくなったが、逆に後半は前の試合に出ていた花園亜津子がこの試合をじっと見ていた。
 
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玲央美は後で聞くと、やはり千里がプロ相手に全くひけをとらずに伸び伸びとプレイしているのを見て「よし。自分たちもやっちゃる」とかなり燃えたらしい。
 
それで第4試合のジョイフルゴールド対ブリッツ・レインディアでは玲央美が物凄く頑張った。ブリッツ・レインディアは鞠原江美子のいるチームである。江美子は「玲央美もローザさんも怖いし、サクラはゴール下で圧倒的ですよ」と注意していたのだが、彼女はまだ1年目の新人という立場であったこともあり「大丈夫大丈夫。アマチュアには負けんよ。まあアジア選手権MVPの佐藤には念のため高橋が付こうか」などと言われていたらしい。
 
しかし試合は序盤からジョイフルゴールドが圧倒する。ブリッツ・レインディアは防戦一方になる。玲央美のマーカーに指名された中堅選手・高橋さんは玲央美に全く歯が立たなかった。たまらずベンチを温めていた江美子が玲央美のマークをするよう指名され、そのあとは玲央美と江美子という好ライバル同士の激しいやり合いで、玲央美の得点力はかなり落ちたものの、玲央美だけを抑えても、母賀ローザや高梁王子のパワーはあなどれない。
 
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特にパワフルな「アメリカ型フォワード」の王子は誰にも停められない。ファウルで停めようとしてもファウルした側がはじき飛ばされてしまう。更にちょっと油断していると昭子のスリーが美しく飛び込む。玲央美が休んでいる間に出てくる前田彰恵なども怖い存在だ。江美子は玲央美との対決で力を使い果たしていたので、さすがに彰恵の相手まではできず他の人がマッチアップしたものの、普通の選手ではとても彰恵に歯が立たない。
 
かくして試合は68-88でジョイフルゴールドが勝利した。
 

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この日駒沢体育館で行われていた後半2試合はいづれもWリーグ側が勝った。千里は宇田先生に「残念でしたね。またインハイで頑張って下さい」というメールを送っておいた。先生からは「そちらは優勝目指してね」と返信があった。
 
かくして3日目を終わって、Wリーグ6チーム・社会人2チームが残る形となった。例年ならここにはWリーグのチームしか残っていないので、社会人が2チームも残ったのは凄いことであった。
 
この日の祝勝会はまたまた江東区に戻り、中華料理屋さんで行った。1人2500円で食べ放題にしてもらったのだが、店主さんが途中で青くなる。その表情を見て、千里が「1人4000円払いますよ」と言ったら、店主さんが「助かります!」とホッとしたような表情で言った。まさか女子の集団がこんなに食べるとは思ってもいなかったようであった。
 
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「ちなみに本当にみなさん女性なんですよね?」
「うーん。性別は自己申告だから」
「もしちんちん付いてる人がいたら自主的に申告すること」
 
と言った声も出ていた。
 
「あんた実は付いてない?」
「こっそり切り落とすならハサミ貸そうか?」
などという声も出ていた。
 

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翌日1月4日は準々決勝の4試合が、いづれも代々木第2体育館で行われる。
 
12:00からの第1試合ではWリーグ1位のサンドベージュがステラ・ストラダを倒した。三木さんはこの試合で鬼気迫るものがあり、5本もスリーを放り込んで、中継の解説者が「こんなに入れられるなら3月で引退するのがもったいない」と言っていたらしい。
 
14:00からの第2試合では玲央美たちのジョイフルゴールドとWリーグの強豪ビューティーマジックが対戦した。ビューティーマジックには日吉紀美鹿に萩尾月香や鈴木志麻子がいる。鈴木は高校を出てからすぐここに入団したので既に中核選手である。彼女は2009-2010年にインターハイで活躍し、渡辺純子・湧見絵津子・加藤絵理とともに「高校四天王」と言われた選手である。この試合ではその鈴木がずっと玲央美にマッチアップした。一応玲央美が7割方勝っていたものの、玲央美の得点力を随分落とすことに成功した。
 
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ビューティーマジックはきちんとジョイフルゴールドを研究していたようで高梁王子対策もしっかりしていた。彼女には体格のある中国人選手がマッチアップしていた。またサクラ・ローザという身長のあるセンターに対応したのは愛媛Q女子高出身の186cmセンター大取優雨であった。サクラとの身長差を活かして、要領や勘で負けても背丈で何とかカバーするプレイでサクラといい勝負をしていた。また前田彰恵には、彼女を高校時代から知っている日吉紀美鹿がマッチアップしていた。
 
息を抜けない接戦が続いたものの、最後は72-74という僅差でビューティーマジックが勝った。
 
試合後、ビューティーマジックのキャプテンが
「あんたら強ぇ〜。また練習試合とかでやろうよ」
と言って玲央美と握手していた。
 
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女子バスケット選手の日々・2016オールジャパン編(2)

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