広告:ここはグリーン・ウッド (第1巻) (白泉社文庫)
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■女子中学生たちの出席番号(2)

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千里はその日帰宅してから、生徒手帳の写真を“制服を着て”撮ってきてと言われていたことを思いだした。
 
「制服ということは、やはり学生服で行かないといけないんだろうな」
と思い、不本意ながら学生服を身につける。
 
すると朝は入らなかった学生服が今は入った。
「あれ〜。ちゃんと入る」
と不思議に思う。
 
それでバスで町に出ようと思ったら定期券が見当たらない。あれ〜?私どこに置いたっけ?と思う。取り敢えず自転車で町に出た。
 
するとS中に登って行く道の近くで、小学校の時に同じクラスだった佳美(今年は2組)と遭遇する。それで千里は自転車から降り、彼女に声を掛けた。
 
「佳美、今帰るとこ?」
「うん。千里、もう大丈夫?」
と佳美は千里の体調を心配してくれた。
 
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自転車を押しながら彼女としばし話をする。
 
「ありがとう。もう大丈夫だけど、私、何か記憶が混乱してるみたいだから、変なこと言ったらごめんね」
「やはり、後遺症なのかな。でも髪は切らなかったんだね」
 
「念のため、もう少し体調がよくなってから切りますと言ってる」
「そのままバックレておけばいいよ」
「実はそれを狙ってる」
「あはは」
 
という感じで佳美とは会話をした。千里は自分が学生服なんて着てたら、友だちとして付き合ってくれないかなと不安だったのに、佳美とはこれまで通り会話できたことで安心した(千里が女声で話しているからだと思う)。
 
しかし佳美はかくして“学生服を着た千里”の第1号目撃者になったのである。
 
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千里は指定の印刷屋さんに行き、
「S中の生徒ですが、入学式の時に休んでいて生徒手帳の写真を撮れなかったので、こちらで撮ってもらってと言われたのですが」
と言った。
 
「ああ、はいはい。こちらに座ってね」
と60代くらいの女性に言われて撮影用の席に座る。それで70歳くらいの人(社長さん?)に写真を撮ってもらった。そして、1年1組13番・村山千里・男、と名前等を受付用紙に記入し、また自転車でC町に戻った。
 

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“月曜日”(千里の中学登校初日)の5時間目は体育であった。
 
千里はこの日丸一日体操服で過ごしているので、体育のために着替える必要がない。それで更衣室前の廊下でみんなが着替えるのを待っていた。やがて女子更衣室から蓮菜が出てくる。
 
「中に入ってれば良かったのに」
と言われるが、
「私が女子更衣室に入るのはまずいのでは」
などと千里が言うので
「君はやはりおかしい」
と蓮菜に言われた。
 

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ともかくも、蓮菜やその後出て来た恵香などと一緒に体育館に行った。雪が降っていたので、今日の体育は屋内である。
 
この日はマット運動をしたが、千里は男子の列に並ぼうとして
「こら、何やってる」
と蓮菜に言われて、女子の列に連行された。
 
前転・後転・倒立と、スムーズにできたので「運動神経いいね」と女子を指導している広沢先生から褒められた。
 
「千里君、ここでバク転を決めてみよう」
と玖美子が乗せるので
「えー?」
と言いながらも、やってみせる。
 
「うまいね、村山さん」
と先生。
 
「この子、小学校の運動会のチアではかなりアクロバット的なことしてましたから」
と美那から言われる。
 
「それは凄い。何かやってみてよ」
「千里、後方回転・半ひねりやってみよう」
「いきなりそんな大技を・・・」
と言ったものの、みんながうまく乗せる。それで千里も
「失敗したらごめーん」
と言ってから、女装、もとい!助走を付けて踏み切り板で踏み切り、空中で1回転する間に身体を半分ひねって、後ろ向きに着地した。
 
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「なんか軽ーくやってる」
と見ていた男子の方からも声が掛かる。
 
「凄いね。ここまで出来るならチア部より体操部に欲しいくらい」
などと広沢先生は言うが、玖美子が千里をハグして
 
「ダメです。この子は剣道部ですから」
と言うと
「ああ、もう部活入っているのね。だったら残念ね」
などと先生は言っていた。
 
しかし千里は、なるほどー。部活はどれかひとつにさっさと入っていたほうがよけいな勧誘をされなくて済んで楽なんだなと思った。
 
(でも今、玖美子に胸を触られたなと思った)
 

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体育の授業が終わった後、千里は大技を披露して本人も少し興奮していたこともあり、何となく流れで女子たちと一緒に体育館を出て、更衣室に向かう。みんなと一緒に何も考えずに女子更衣室に入った。すると更衣室の中で、みんなと同様に体操服を着ている小春が
 
「千里、着替え持ってきてあげたよ」
と言って、千里にミズノの青いスポーツバッグを渡した。それがあまりに自然だったので、千里は
 
「ありがとう」
 
と言って受け取る。そして美那とおしゃべりしながら、体操服を脱ぐ。汗掻いたから下着も交換しようと思ってアンダーシャツを脱ぎブラも外す。小春が渡してくれたスポーツバッグからタオルを出して身体を拭いてから、洗濯済みのブラを取り出して着け、キャミソールを着る。パンティも交換しようと思い、運動中に穿いていたのを脱ぎ、スポーツバッグから1枚取り出して穿いた。
 
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千里とおしゃべりしながら着替えている美那は、下着までは交換しないので、体操服を脱いだ後、もうブラウスを着ている。それで千里は自分もスポーツバッグからブラウスを取り出して着た。美那はもう制服のスカートを穿いて上着を着ようとしていた。千里もスポーツバッグからセーラー服のスカートを取り出し、穿こうとして・・・手が止まった。
 
「私・・・セーラー服着ていいんだっけ?」
「はぁ!?」
と美那が呆れている。
 
「こら千里」
と言って、蓮菜が後から千里の首に抱きついた。そして千里の左耳元で言う。
 
「私、セーラー服で通学するからね、と言っていたのはどこのトイツだ?スイス?フランス?世界保健機関」
 
親友のボディアタックで、千里はひとつの壁を乗り越えた。
 
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「私言ってたよね!セーラー服で通学するって」
 
蓮菜の言葉で実は封印されていた記憶のひとつが蘇ったのである。
 
「たくさん言ってた」
と美那も言う(千里の封印が外れたことで美那の封印も外れた)。
 
「着ちゃおう」
と千里は言うと、そのままセーラー服のスカートを穿き、上着を着てリボンを締めた。
 
「よしよし」
と蓮菜は千里の頭を撫でてあげた。
 

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これが千里の中学でのセーラー服姿の、(同級生たちへの)初披露であった。
 
(朝のセーラー服姿を見たのは、杏子・教頭・秋田先生・小春だけ)
 
美那が小さく拍手してくれた。
 
玖美子や優美絵などもこちらを笑顔で見ていた。
 
「ところで世界保健機関って何だっけ?」
「感染症や自然災害で国際的に協力するための組織。今はSARSで大忙し。World Health Organization 略称はWHO. 英語読みしたらフーで“誰?”」
 
「難しすぎるダジャレだ」
 
しかし、ここまでの出来事で(この)千里も開き直りができて、この日の6時間目、そして翌日からは普通にセーラー服で授業を受け、女子トイレ・女子更衣室を使用するようになった。千里が体操服のまま授業を受けたのは、この登校初日の午前中のみだった。
 
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6時間目が終わり帰りの会・掃除をしてから、千里は(セーラー服姿で)蓮菜と2人、病院に向かった。沙苗のお見舞いである。デイパックを背負って、青いスポーツバッグを持って帰る。
 
学校から歩いて行ける距離なので歩いて行く。
 
「あれ?この病院なの?」
と千里は訊いた。
「何で?」
 
「私もここに入院してた」
「うん。同じ病院。私、2人ともお見舞いしたもん」
「お見舞いに来てくれたの?ごめーん。私全然覚えてない」
「2人とも意識失ってたからね」
「そうだったのか」
 
「要するに、千里も沙苗(さなえ)も4月6日夜に倒れて病院に運び込まれた。ここがその夜の当番医だったからだと思う」
「なるほどー!それで同じ病院に入院していたのか」
 
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沙苗が入院している病室は蓮菜が知っていたので、3Fの3008号室に向かう。
 
「ふーん。3階なのか」
「千里は4階だったね」
「うん。4021号室だったかな」
「4012号室だよ」
「あれ〜!?」
「千里はほんとにこの手の数字を覚えきれない」
と蓮菜は呆れる。
 
「4階は女性専用フロアだからね。千里は入(はい)れても沙苗は入(はい)れない」
「あれ?そういえば同じ部屋の入院患者さんが全員女の人だった」
「男と女を同じ病室に入れることはない」
「私・・・女性専用フロアの女部屋に入って良かったのかなあ」
 
「千里はやはりおかしい。6日に倒れる前までは堂々と女の子してたのに」
「そういえばそんな気もする」
「千里は、保険証も女だし、診察券も女だし、女部屋に入るのは当然」
「私、保険証で女なんだっけ?」
「家に帰ってから確認してみ」
「うん」
 
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千里が沙苗の入っている部屋(患者は沙苗以外、みんな男の人だった)に入っていくと、沙苗のお母さんが千里の手を取って
「千里ちゃん、本当にありがとうね」
などと言う。
 
「何でしたっけ?」
「だって、沙苗が倒れてたのを発見してくれたじゃん」
「あれ、夢だと思ってた」
 
「ああ。千里も入院してたから、記憶が混乱してるみたいですね」
と蓮菜は言った。
 
「あら、千里ちゃんも入院してたの?まさか沙苗を見付けてくれた時にあの寒さで風邪とか引いたりしたんじゃないよね?」
 
「関係無いですよ。ただの更年期障害ですから」
と蓮菜が言うと、
 
「へ!?」
と言ってお母さんは困惑していた。
 
(蓮菜はジョークで言ったのだが、事実を言い当てている)
 
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「それと更に、セーラー服まで頂いてありがとうございます」
「それも夢ではなかったのか」
 
「この子、ほんとに記憶が混乱してるみたいなんですよ。変なこと口走っても大目に見てあげてくださいね。その内“私男の子なんです”とか言い出しかねない」
と蓮菜は言う。
 
「千里ちゃんが男の子だったら、太陽が西から昇るわ」
と言って、お母さんは大笑いしていた。
 
「でもセーラー服をあげたんだ?」
と蓮菜が言うと、
「それ作らなきゃと言っていたんですけど、頂いたのがちょうどこの子に合うのでそのまま使わせてもらおうと言ってたんですよ」
と母。
 
「セーラー服を使うんですね?」
 
「ええ、その方向で、学校側も今の所好意的な反応なんです」
と言って、お母さんは現在の状況を話してくれた。
 
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「へー。だったら今、セーラー服で登校したいというので、学校側と交渉中なんですか?」
「教頭先生が女の先生というのもあって、よく理解してくださって、今細かい点を詰めている所なんですよ」
とお母さん。
 
「だから、私も千里ちゃんと同様に、セーラー服で頑張るかも」
と沙苗は言う。
 
「それ、私も心強いよ」
と千里は笑顔で言った。
 
お母さんは千里が元男の子などとは知らないので、首を傾げていた。
 
その後、お母さんは席を外してくれたので、千里たちは沙苗と、かなり突っ込んだ話をした。それは千里にとっても沙苗にとってもこの先の“女子中学生”生活に向けて自信を強めることになった。
 
「沙苗(さなえ)、部活の時、今度からは私と一緒に女子更衣室で着替えようよ」
「千里ちゃんと一緒になら、女子更衣室に入る勇気、持てるかも」
「誰も変に思わないからさ」
と千里は沙苗に言いつつ、きっと自分のことも、みんな変には思わない、と考えていた。
 
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「沙苗は男子更衣室使おうとしても追い出されると思うな」
と蓮菜。
「小学校の時も、かなり他の男子たちから迷惑がられていたみたいね」
と千里。
「だから何度もこちらにおいでよと誘ったのに」
「女子更衣室に行く勇気なくて」
「でも中学生になったんだから、ちゃんと女子の方にこないとダメだよ」
「うん」
 

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病院で2時間くらい話をしてから、ちょうど近くまで来たという蓮菜のお母さんの車に乗せてもらって一緒に帰宅した。
 
千里は帰宅してから、茶箪笥の引出しに入っている“1枚目”の健康保険証を取り出してみた。母の保険証の被扶養者欄に、確かに
 
「村山千里・平成3年3月3日生・長女」
「村山玲羅・平成4年7月23日生・次女」
 
と印刷されている。
 
「あれ〜。私、ほんとに保険証でも女になってる。私なんか色々頭の中が混乱しているみたい」
と千里は思った。
 

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