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昨年は男女ともインターハイ道予選で決勝リーグまで行っていたので男女とも総合に参加したのだが(特に男子は初参加)、今年は男子はbest8止まりだったので参加できなかった。そこで宇田先生の発案で、薫をマネージャー登録して帯同してきた。
薫は男子としてバスケ協会には登録されているものの、ふつうにユニフォーム(但し背番号が無い)を着ていると、女子のマネージャーに見えてしまう。試合前の練習タイムにはコート上でBチームに入れて練習に参加させた。そして実際問題として、薫がコートインはできなくても、ベンチに座ってくれているだけでも、千里としてはかなり心強かった。
初戦の相手は短大生のチームであった。年齢が近いこともあって、正直高校生と大差ない気がした。少なくとも札幌P高校の方がずっと強いと思った。
3年生の2人は温存することも考えたのだが、むしろ出して試合感覚を取り戻してもらった方がよいと考え、メグミ/千里/穂礼/揚羽/麻樹 というスターターで出て行く。実際、穂礼さんは最初何度かイージーミスをしたが、すぐに快調な動きになった。
割と強い高校の出身者が多いようで、油断はできないし、臨機応変のプレイをしてくる。練習タイムに見た感じよりは手強かった。
しかしこちらが冷静に攻めれば、揚羽も、交代で出たリリカも、しっかり得点を取ってくれるし、千里も気持ちよくスリーを放り込む。麻樹さんがリバウンドに燃えて取りまくってくれたし、穂礼さんも相手選手を押しのけてのシュートなど、1−2年生のお手本にしたい感じであった。
その後、雪子・リリカ・寿絵・夏恋・睦子・敦子といったメンツを代わる代わる出して、個々の過度の消耗を避けるとともにみんなに経験をつませる。蘭や来未も短時間出す。ポイントガードも1メグミ2雪子3敦子4メグミと使った。千里は第2ピリオドは夏恋に、第3ピリオドは結里にシューティングガードをさせて休んだ。それでも最終的に12点差で勝利することができた。
なお、高校生チームで1回戦を突破したのはN高校だけであった。教員チームに当たったM高校の橘花は「格が違った」と言って、むしろ負けてさぱさばした感じであった。
午後の2回戦で当たったのは、札幌のクラブチームである。1回戦で専門学校のチームを破って勝ち上がってきた。最初から全力で行った方が良いということで、雪子/千里/寿絵/揚羽/麻樹 というスターティング5で出て行った。
相手はほとんどが30代の選手で、どうも企業チームや実業団などで活躍していた選手が主体という感じであった。個々の選手がもの凄くうまい!
テクニックではうちのチーム随一の雪子が、マッチアップでかなり負けたこともあり、第1ピリオドでは、18対14とリードを許す。
こういう相手にはやはりパワーよりスキル重視ということで、第2ピリオドでは雪子/千里/穂礼/夏恋/リリカ とフォワード陣を一新して出て行く。すると相手の動きを読むのが上手い穂礼、相手に幻惑されずに自分のペースでプレイする夏恋が、向こうのペースを乱す感じになって、相手チームに無理矢理ほころびを作る感じになった。それでこのピリオド 16対16の同点で行く。
第3ピリオドではメグミ/結里/寿絵/睦子/揚羽というメンツで、更に相手のペースを乱す感じでプレイする。途中で結里を敦子に、睦子を蘭にと替えながらゲームを進めるが、このピリオドも何とか18対16で持ちこたえた。ここまで52対46である。
そして最終ピリオドでは雪子/千里/穂礼/揚羽/麻樹というメンツにして全力で行く。向こうの年齢が高いことから、疲れが見え始めた所に、千里・揚羽が頑張って得点し、麻樹もリバウンドを高確率で押さえ、残り3分の所で64対64と追いつく。
その後は向こうも最後の力を振り絞って必死に戦ったが、ここまで来ると若い力がベテランの技をねじふせる感じになり、最終的に68対72で勝利した。
宿舎に入る。実はN高校が総合選手権で初日を突破して泊まることになったのは今回が初めてということだった。
「例年出てきては初日1回戦で敗退していたからね。宿泊をどうするかって悩んだんだけど、確保しておいて良かったよ」
と南野コーチが言う。ホテルを当日キャンセルしたら9割くらいキャンセル料を請求される。
「今年は戦力が充実してますからね」
「でも暢子と留実子が今回入ってないから」
「そうそう。そのメンツでは厳しいかなと思ったんだけど3年生2人が入ってくれただけで、かなり戦力が上がった」
宿舎は札幌市内のホテルである。部員は本来のツインに4人ずつ詰め込んで、南野コーチと宇田先生は各々シングルにしている。薫は千里・麻樹・夏恋と同部屋になっていた。
「薫、やっと女子部員と同室になるんですね」
「どうもそれで問題無いみたいだし」
「問題無いと思います。こないだの道大会でも合宿でも女子と一緒にお風呂入ってたくらいだから」
「薫ちゃんが寿絵ちゃんとさえ分けてくれたらと言うから、こういう部屋割りにしたよ」
と南野コーチは千里に言ってから
「薫ちゃん、寿絵ちゃんと仲悪いの?」
と訊くので
「寿絵が薫の性別疑惑の探求に燃えてるからですよ」
と笑いながら答えておいた。
「なるほど!そういうことだったのか」
「同室にしたら、寿絵は絶対夜中に薫のベッドに突撃して裸に剥こうとします」
「それは色々誤解を招く事態だな」
「だけどさ、薫、もし万が一仮に、おちんちんまだ付いてるんだったらさ、思い切ってスパッと切っちゃいなよ」
と、その寿絵は夕食時に薫に言っていた。
「切りたいけど、大きな血管が通ってるからね」
「お医者さんに切ってもらえばいいじゃん」
「未成年のは切ってくれないんだよ。それに性転換手術したら多分、回復とリハビリがインターハイに間に合わない」
「だけど私少し調べたんだけど、おちんちんの切り方も色々あるのね」
「そんなの調べたんだ?」
「薫に既にタマタマは無いという前提で」
「それ前提なの?」
「おちんちんの先っぽだけ切るとか、表面に出ている付け根から切るとか、完全に根元から切るとか」
「どうせ切るなら、私は根元から切りたい」
と薫は言うが、千里も同感だ。
「根元って付け根じゃないの?」
と質問が出る。
「おちんちんって、あれ皮膚の中に埋もれている部分もあるんでしょ?」
と寿絵。
「そうそう。おちんちんって前の方に付いてるみたいに見えるけど、皮膚の中に埋もれている本当の根っこは、タマタマより後ろの方にあるんだよ。だから深切断方式で完全に根元から切ると、おしっこは女の子と同じように真下に出るようになる。あと、凄い肥満の人は、何も切ってないのに、皮膚に埋もれてしまって、まるで付いてないように見える場合もある」
と薫。
「それは問題だな」
「太りすぎると男ではなくなるわけ?」
「いや、勃起すれば表面に出るよ」
「なーんだ」
「でもタマタマ取ってあったら、大きくならないよね?」
「うん」
「薫は既にタマタマ取っているから、表面に出ている所だけ切るのでも結構行けない?」
「いや、タマタマまだあるんだけど」
「絶対嘘だ。この表面だけ切る方法なら、切る面積が小さいから回復期間も短いと聞いたけど」
と寿絵は言うが、どうも情報源が怪しい感もある。
「見た目、おちんちんが無くなれば、埋もれてる根っこが残っていても、もう女子選手と同じでいいですよね?」
と寿絵は隣に座っている穂礼さんに訊く。穂礼さんは唐突なおちんちん切断論議に困ったような顔をしていた。
「まあ、おちんちんの突起が無いなら、女子と認めてもいいんじゃない?」
と答える。
「薫、どっちみち男子の方にも3月までは出られないんだから、今チョキンと表面から出てる部分を切っちゃえば、春までにはたぶん女子チームで稼働できるようになるよ。タイとかじゃ切ってくれないの?」
「切りたいのはやまやまだけど、高校生に手術してくれる所なんて外国でもまず無いから」
「その時は年齢ごまかして」
「ごまかせないって。パスポート見られたら一目瞭然」
「じゃパスポート偽造して」
「逮捕されるよ!」
試合は2日目に入る。
今日は午前中に準決勝の2試合、午後から決勝が行われる。ここまで勝ちあがってきたのは、N高校の他は、クラブチーム2つと大学生チーム1つである。準決勝で当たるのは、函館の女子大生チームであった。2回戦ではM高校に勝った教員チームを倒して準決勝に上がってきている。
「わあ、あの人、去年函館F高校のキャプテンやってた人だ」
と寿絵が言う。
「強かった?」
「無茶苦茶強かった」
「その時、居たのは今日のチームでは2年生では寿絵だけなのか」
「だね。当時1年でベンチに入ってたのは、私と暢子と留実子の3人だけだもん」
「うちのチームってメンバーの入れ替わりが激しかったりして」
と雪子が言う。
「まあ、2年生の終わりで進学組が抜けて、就職・専門学校組は3年生の夏で抜けるから、メンバーの入れ替えが年に2度起きるんだよね」
と穂礼が言う。
「あちらさん、強いね」
と試合前の練習を見ていて、千里の隣に座る薫も言った。
「どうやったら勝てると思う?」
と千里は訊く。
「へー。この相手に勝つつもりなんだ?」
「もちろん」
「そうだなあ。永子を使ってみる?」
「へー!」
南野コーチもそれは面白いかもというので、スターティング5は、雪子/千里/永子/穂礼/揚羽で始めた。ティップオフは、揚羽が身長差では5-6cm勝っていたのに、うまく相手が自分たちの側にタップして、相手チームの攻撃から始まる。
そしてこちらが守備体制を整える前に、フォワードの人がすばやく制限エリアに侵入して、華麗にレイアップシュートを決めた。揚羽は相手の気魄に押されて、ブロックするのも、リバウンドのためにジャンプするのも忘れているくらい、浮き足立ってしまった。
しかしゲームが進行するにつれ、千里は薫の意図が少し分かった。
永子は4月にバスケ部に入ってきた時は、バスケットの素人だった。入部テストでも、28m走(コートの端から端まで走る)はまあまあだったものの、ドリブルがまともにできなかったし、レイアップシュートもフリースローも1本も入れられなかったので落とされた。
しかし他にも落とされた4人と一緒に「球拾いでも洗濯係でもいいから入れて欲しい」と南野コーチに直訴。その積極性を買って5人とも入部を認めたのである。そしてその後彼女たちは、3年生で「自称万年補欠」の美々さんと靖子さんにバスケの基本から指導を受けたし、毎日体力や筋力を付けるトレーニングを頑張った。特に永子は他の子の倍くらい練習していた。それで先月のC学園戦ではマネージャーとして初めて試合のベンチに座り、とうとうウィンターカップ道予選では選手として登録された。
「自称・補欠の星」である。
彼女はほとんどゼロの状態から、試合ではその才能を発揮できないものの基礎的な能力は高い美々さんと、自分ではあまり上手くなくてもバスケの理論には詳しい靖子さんに育てられているので、ひじょうに筋がいい選手に育っている。
基本にとっても忠実なプレイをする。
そもそも相手の強さが分かっていないので、ビビることなく、普段通りのプレイをする。
その永子のプレイを見て、雪子や揚羽が自分を取り戻すことができた。千里や穂礼は少々強い相手にも気合い負けしない。それで序盤からN高校は相手の強さにひどくは萎縮せず、自分たちのペースでプレイすることができて、第1ピリオドを20対18と、わずか2点差で持ちこたえることができた。
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女の子たちのティップオフ(3)