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■女の子たちのティップオフ(2)

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深夜、千里は留萌に居る貴司に電話した。
 
「ごめんね。練習で疲れてるだろうに」
「いや、そちらも合宿でしょ。頑張ってる?」
「頑張ってるよ。やはり私、もっともっとレベルアップしなきゃ」
「でも千里、ほんとに成長したよ」
「そうかな。貴司にはまだまだかなわないけど」
「いや、こちらが負けそうと思うことある」
「ウィンターカップ頑張ってね。多分見に行くと思うし」
「うん。でも離れていてもさ」
「うん?」
「僕たちはいつも一緒だよ」
「うん!」
 

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千里が宿舎を抜け出して電話をしていた頃、薫もまたある人と電話をしていた。
 
「結局どうしたんですか?」
「病院まで行ったけど入る勇気がなくて帰って来た」
「私は病院の中まで入って診察も受けたんだけど、手術前に逃げ出しちゃった」
 
向こうがため息をつくのが聞こえる。
 
「なかなか勇気が無いよね。薫偉いよ、やっちゃうなんて」
「ヒナもめげずにまた挑戦するといいよ」
「うん。気持ちがたかぶった時を利用して」
 
「ピアノの方は練習進んでます?」
「ぼちぼち。練習曲の5番をギブアップして6番で行こうと思ってる。薫はバスケ練習進んでる?」
「4月まで大会に出られないんですよね。テンションが下がってしまいがちな所を女子部員たちと戯れて、けっこうそれで気持ちを鼓舞してる」
 
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「そちらでは女子高生してるんだよね?」
「うん。生徒手帳も女になってるよ」
「いいなあ。私は毎日がストレスだよ」
「私もトイレに行くたびにストレスだよ」
「それはこちらも同じ」
「でもヒナ、辛くなった時は、いつでも電話しなよ。昼間はなかなか話せないけど夜中は話せること多いと思うし。私でよければいつでも話し相手になるよ」
「ありがとう。また電話すると思う」
 

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合宿が終わって旭川に戻った月曜日、千里と暢子は昼休みに校長室に呼ばれて出て行った。教頭先生、宇田先生、南野コーチがいる。まあ座ってと言われるので座る。
 
「君たち今週末は総合選手権に出るよね?」
「はい。その翌週は新人戦、と慌ただしいです」
「でも私はお医者さんの出場許可が出ませんでした」
と暢子が言う。通常の生活にはもう支障は無いのだが、やはりバスケの試合は身体への負担が大きい。
 
「うん。若生君も花和君も出られないんだよね」
「そうなんですよ。それで非常に厳しい情勢です」
「まあ新人戦は規定で1−2年生しか出られないけど、総合選手権はその制限が無いよね」
と校長が言う。
 
「まさか、3年生も出られるんですか?」
と思わず暢子が訊いた。
 
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「実はOGから意見が出てきてね」
と校長先生が言う。
 
「へー!」
「今回の南体育館の改築で3000万円出してくれたOGが居るんだけど、その人が花和君の怪我に続いて若生君の盲腸があってウィンターカップ決勝も僅差で敗れたというのでね。これは緊急事態だ。特例で救済してあげて欲しいと申し入れてきたんだよ」
「わぁ」
 
3000万円も寄付してくれた人から言われたらさすがに学校側も折れざるを得なかったろう。でも3000万円も出せるって誰???寄付常連組の村埜さんや中村さんはどちらも100万円寄付してくれたことを聞いていた。
 
「理事長からはこちらに任せると言われたので、教頭と宇田君と話して、こういう条件で参加を認めることにした」
と言って校長は条件を挙げた。
 
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(1)今年のインターハイの本戦に出場実績があること
(2)既に進学先あるいは就職先に合格または内定していること
(3)本人に参加意志があること
(4)主将と監督の要請があること
(5)最大3名
 
「インターハイの本戦に出たのは、岬(久井奈)先輩、土田(穂礼)先輩、高橋(麻樹)先輩、広沢(透子)先輩、木崎(みどり)先輩の5人」
と千里は名前を挙げる。そして考える。
 
「木崎先輩は美容師志望で美容学校に行く予定ですけど、確か試験がまだ」
「うん。彼女はちょうど今週末が試験日なんだよ。間が悪いよね」
と宇田先生。
「岬先輩は歯科衛生士専門学校だけど先月受けた所は落ちちゃったんですよね」
「そうなんだよ。岬は歯科衛生士専門学校って、何も勉強してなくても適当に試験は書けば通るものと思い込んでいたらしい。それが実際どうも定員割れだったのに落とされたみたいで」
と宇田先生も困ったような顔で言う。
 
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「たぶん解答内容にあまりに非常識すぎるものがあったんだと思います。分からないならいっそ書かないほうがまだましなレベル」
「どうもそうらしい。それで落ちた後で慌てて勉強しはじめたようだ。12月中旬に別の所を受けるらしい」
 
「高橋先輩は内定してましたよね?」
「旭川A大学の福祉科に推薦入試で内定している」
「ご本人の意向もありますけど、もし高橋先輩に頼めたら心強いです!」
「うんうん。原口(揚羽)君の負担をかなり軽くできる。午前中話したら本人もぜひやらせてくれと言っていた。あの子はインターハイのJ学園戦の最後になってから目覚めて、それで実は密かにひとりでずっと練習していたらしいんだよ」
 
千里はほほえんだ。麻樹さんが練習している姿は実は何度か市の体育館などで見かけた。でも知らないことにしておいた。
 
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「広沢先輩はスポーツ専門学校、土田先輩はビジネス専門学校でしたけど」
「どちらも入試がまだなんだよ」
「じゃダメですか・・・」
「広沢君の所は例年受験者の1割くらいが落とされているから油断できない。でも土田君の所は事実上全入なんだよね。彼女の場合は岬君みたいなへまはしないだろうから」
「じゃ、お願いできます?」
「まあ少し拡大解釈で」
 
そういう訳で週末の総合選手権には麻樹さんと穂礼さんが参加してくれることになったのである。
 
もっとも穂礼さんは
「やりたい!でも最近トレーニングしてなかったから足手まといになったらごめんね」
などと言っていた。
 

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その日、千里は南体育館で練習に出てきている部員を前に言った。
 
「今週末の総合選手権に出るメンバー表を今日の夜21時までに提出しなければなりません。今回まだ暢子キャプテンと留実子は出られないのですが、特例で学校の許可が下りて、穂礼先輩と麻樹先輩が代わりに出てくれることになりました」
 
わあという歓声が上がる。
 
「それでメンバー表を書いていたのですが、14番までは固まったものの残りの4人、背番号15から18までで迷ったので、今日はトライアウトをしてメンバーを決めたいと思います」
と千里が言うと、みんながざわめく。
 
やり方を説明する。選考の対象者は「総合選手権に出たいと思う者」という条件で、練習に出てきているメンツで既に確定している11人以外の全員が参加を希望した。
 
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15から18までの背番号をゴールの向こう側に並べた状態でシュート合戦をする。レイアップ4本、フリースロー3本、スリーポイント3本を全員に打たせた。レイアップでは長身の薫を男子の方から連行してきて、ゴール前に立たせておいた(立っているだけで何もしないが、薫は立たれているだけでも弱い子はビビる)。
 
結果、シューティングガードの貫禄で結里が10本中8本入れて1抜けで15番の背番号を獲得。次いで7本入れた蘭が16番、6本入れた来未が17番を取ったが、5本がおらず4本入れたのが3人居たので、その3人でフリーの状態でレイアップシュートを4回ずつさせたところ、永子が4回全部入れて最後の枠を獲得した。3回しか入れられなかった川南が悔しがっていた。
 
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それで今回の総合選手権のベンチメンバーはこうなった。
 
PG.雪子(7) メグミ(12) SG.千里(4) 夏恋(10) 結里(15) SF.寿絵(5) 敦子(13) 永子(18) 穂礼(9) PF.睦子(11) 蘭(16) 来未(17) C.揚羽(8) リリカ(14) 麻樹(6)
 
暢子と留実子が抜けた穴を穂礼さんと麻樹さんで埋めた形だが背番号に若干の移動がある。キャプテンが4番を付けなければならないので千里が4番、今回の副キャプテンである寿絵が5番を付けて、留実子の6番を麻樹さん、寿絵の9番を穂礼さんが付ける。
 

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そして12月1日(土)。
 
千里たち女子バスケ部のメンバーは、札幌近郊の江別市に赴いた。この大会は略して総合選手権、正式には第62回北海道バスケットボール総合選手権大会 兼 女子第74回全日本総合バスケットボール選手権大会北海道予選会、というものであり、この大会に優勝するとお正月に行われる全日本総合、つまりオールジャパン(皇后杯)に出場することができる。
 
(作者注.実際のこの年の総合選手権は11月16-18日に行われましたが物語の展開の都合で変更しています)
 
オールジャパンには既にインターハイで優勝した愛知J学園の出場が決まっているし、岐阜F女子校や福岡C学園も各々予選を突破して出場を決めている。もし千里たちがこの大会で優勝できたら、お正月に東京体育館あるいは代々木アリーナ第2体育館で、それらの学校と対戦できる可能性もあるのである。
 
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ただ、この大会は高校生の大会ではない。「総合」の名の通り、様々な連盟に所属するチームが出てくる。今年の北海道大会の女子では高校4校、大学4校、専門学校が1校、教員チーム1、クラブチームが6であった。参加チームは全部で16だが、例年北海道ではウィンターカップに出場する高校生チームは参加しない。
 
高校チームはインターハイの道BEST4になったチームに参加権があるのだが、今年はBEST4になった、M高校・N高校・P高校・C学園の4者のうち札幌P高校がウィンターカップに出場するのでこの総合選手権には出ず、残りの3校が参加することになる。
 
もし先日の試合で自分たちが勝っていたら、この大会には出ていなかったんだと思うと、千里はあらためて悔しい思いがこみあげてきた。
 
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ところでこの日、千里はまた「女子高生の身体」に戻っていた。そのことで千里は《いんちゃん》に尋ねた。
 
『もしうちのチームがウィンターカップ道予選で優勝していたら、この総合には出なかった訳でしょ? 安寿さんは、うちが負けると分かっていたの?』
 
『違うよ。最初はウィンターカップ道予選を勝ち抜いて本戦に出る想定でスケジュールを作っていたんだよ。だけど負けたから組み直したんだ』
『組み直したの!?』
『ご主人様も大変みたいだけど、こういう予定の変化があった時は安寿さんも引っ張り出されて大変みたい。あれはこういうこと始めたことを若干後悔している感じ』
『後悔して思い直したりしないよね?』
『思い直して、千里が生まれた時から女の子だったことにしちゃったりして』
『それ悪くないけど、それやられると色々な思い出が消えてしまう気がする』
『まあ面倒なのは高校の間だけだから、何とか頑張ってくれると思うよ。女子大生になったら、どちらかというとその後始末だけのはず』
 
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『やはり神様にも先のことは分からないのね』
『ん?安寿さんは人間だけど』
『うっそー!?神様かと思ってた』
『神様と人間じゃ存在感が違うから、千里なら分かるはず』
『そんなの分からないよぉ。私、霊感とかも無いし』
 
《いんちゃん》が反応に困っている風なのを千里はなぜだろうと思った。
 

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