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■桃で生まれた桃(3)

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「ところで殿様、最近沖合の島々を根城にした鬼のような者たちが随分荒らし回っておりまして、村でも食べ物や作物を盗られたり、塩田の土手を壊されたりして困っておりまして。もしよかったら警護のお侍様など出しては頂けませんでしょうか?」
 
と庄屋さんは殿様に言いました。
 
「ああ、その話は聞いていた。塩田を壊されるのは困る。家老に話しておくから、細かいことはそちらと話し合え」
 
「ありがとうございます!」
 
それで家老様と話した所、お侍さんを交代で常時2人くらいずつ、塩田の警備に派遣してもらえることになりました。
 

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そしてまた1年経った11歳の春、殿様は桃に今年こそ城にあがらないか?と言ってきました。そこで庄屋は申し上げました。
 
「桃はかなり様々な教養を身につけました。しかし歌や詩を詠んだり(歌は和歌のこと、詩は漢詩のこと)することもできません。そのあたりを勉強させたいので、まだ少し待って頂けませんでしょうか」
 
殿様は不愉快そうに言いました。
 
「だったら桃に言え。黍津池(きびついけ)の水は何斗あるか。数えてみよ。ちゃんと数えたら1年待ってやる」
 
この時、殿様としては山の木の数を数えられたのだから、池の水も数えられるかも知れないと思ったのです。
 
しかし庄屋はそんなの無理だぁと思い、暗い気持ちで村に帰り報告しました。桃は笑顔で言いました。
 
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「数えられるよ」
 
それで桃は庄屋夫妻と、村の若者で桃の剣術の練習相手をいつも務めてくれている、猿太郎・鳥助と一緒に城下に出て行きました。
 
昨年は村人総出で来たのに対して今年は少数なので、殿様もおや?と思いましたが、桃は殿様に船を一艘貸して欲しいと頼みました。
 
それで貸し与えると、桃は2人の若者と一緒に船に乗り、船頭をしている猿太郎が船を操って、黍津池のあちこちで錘(おもり)を付けた紐を垂らします。そしてその度に紐に刻んでおいた目盛を見て記録していきます。この作業は1日掛かりましたが、作業が終わった時には予め殿様に用意してもらっていた黍津池の図面の上に沢山の数字が書き込まれていました。
 
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翌日、左官をしている鳥助が粘土を練ってなにやら模型のようなものを作りました。桃はその模型のあちこちを物差しで測り、「ここはもっと削って」とか「ここは少し粘土を盛って」とか指示しています。この模型が結局その日の夕方近くまで掛けてできあがりました。
 
そして桃はこの模型の上に水を入れました。そして模型を傾けて水を樽に移します。すると1斗樽1つと7割くらいありました。7割ほどになった樽の水の量を枡できちんと計りました。
 
「殿様、この模型は池の水深を池の中100ヶ所で測って、同じ形に作りました。但し、長さは1000分の1、深さは100分の1にしています。ですから元の池は広さが600間×550間(1090m x 1000m)、深さが10尺(約3m)ほどなのですが、この模型は0.6間×0.55間つまり3.6尺×3.3尺(1.09m x 1.0m) 、深さは1寸(3cm)ほどになっています」
 
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「それでこの模型に水を満たし、それを樽に移してから枡で計りましたら、1斗と6升7合2勺つまり16.72升(30.096L)ありました。これを元のサイズに直すのに1億倍すると16億7200万升つまり1672万石ということになります。ですからお殿様、黍津池の水の量は1672万石にございます(*5)」
 
と桃は殿様に言いました。
 
「その1億倍という所がよく分からないのだが」
と殿様は本当に悩むように言います。
 
「たとえば同じ大きさの箱を縦に10個、横に10個、更に上向きに10個積むと10×10×10で1000個になりますでしょう?」
と桃は言う。
 
殿様はしばらく考えていた。
 
「そうか!だから縦1000分の1、横1000分の1、深さ100分の1の模型で計ったら、1000 x 1000 x 100 で 1,0000,0000倍にしなければならないわけか」
 
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「はい、そういうことでございます」
と言って桃は微笑んだ。
 

(*5) 長さの単位は10寸で1尺(約30.30cm)、6尺で1間(けん 1.818m)、60間で1町(109m)である。体積の単位は10合で1升(1800cc)、10升で1斗(18L)、10斗で1石(こく 180L=0.18KL)である。1立方m=1KLであることに注意。なお日本の面積の単位は1間×1間が1坪であるものの(1.818m x 1.818m = 3.3m2)、体積の単位は長さの単位との直接的関係が存在しない。1辺1尺の立方体の体積は27.8Lで1斗半ほど(1.546斗)になる。なお琵琶湖の水は27.5km3=1428億石、東京ドームは124万KL=689万石。
 

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殿様は考えました。この子は、できたら妻にしたいが、妻でなくても、この子を部下に欲しいと。
 
「そなた、もし他に好きな男がいるとかで、余の妻になるのが気が進まないのであれば、妻にならなくてもよいから、余の部下にならんか?女侍に取り立てて用人(ようにん)にするぞ。取り敢えず、そちに黍津の苗字を授ける」
 
「苗字ありがたく拝領致します。でもすみません。ご奉公はもうしばらくご猶予をください」
「だったら1年後にまたお前を呼ぶぞ」
 
殿様はそう言うと、歌や詩を習いたいと言っていたなと思い、和歌や漢詩の先生を村に派遣しました。
 

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そして1年後。桃が12歳の春、殿様は突然村に自らお成りになると、庄屋の家に上がり込み、桃を連れてこいとおっしゃったのでした。
 
庄屋は驚き、急ぎ桃の家に行きます。そしてどうしたらよいものか、シン・クマと相談しました。
 
「もう男の子だというのを言ってしまう?」
とクマは言いますが
 
「それやったら、桃や私たちが手討ちになるのはいいとしても、村にもきっと災禍が降りかかる」
とシンが言います。
 
すると桃は
 
「私が行って、お断りしてくる」
と言い、白い着物を用意してくれるように言います。
 
「白い服って婚礼衣装かい?」
「死に装束よ」
「え〜〜!?」
 
ともかくも桃の言うとおり、シンと庄屋は桃に白い着物を着せると、庄屋の妻が先導して庄屋の屋敷に行きました。
 
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桃は殿様の前に出ると平伏して言いました。
 
「殿様、度々のお召しの話を延ばし延ばしにして大変申し訳ありません。しかし私は殿様のご寵愛を受けることはできないのでございます」
 
「やはり言い交わした男がいるのか?」
と殿様が訊きます。
 
「その点に関してはどうか追及しないでください。お気に召さないというのであればこの場で腹を切る覚悟で参りました」
 
「それで白装束か・・・」
と言って殿様は考えます。
 
「だったら、桃、そちに命じる。近年この付近の海岸を荒らし回っている鬼どもを捕らえよ」
 
「はい?」
 
「聞く所によると、そいつらは人間とは思えぬ身の丈で、赤い顔をしていて、人間ではなく鬼ではないかという噂じゃ。言葉も鬼の言葉を話すという。そいつらが沿岸の作物や、網に掛かった魚などを盗ったり、あるいは塩田を壊したりして、甚だ困っている。その鬼どもを捕らえたら、お前の好きな男と結婚してよいぞ。余の所に死ぬ気で来たのであれば、鬼を倒すのも怖くあるまい?」
 
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そんなことを言いながら、きっと桃なら何とかすると殿様は考えたのです。
 
「分かりました。鬼を屈服させてきます」
と言って、桃は殿様に頭を下げました。
 
殿様もいったんこの日はお城にお帰りになりました。
 

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殿様が帰った後、桃はその《鬼》たちのことを庄屋さんに聞きました。
 
「4−5年前から現れ始めた。最初は普通の海賊だと思ったのだよ。でもどうも見た感じが違っていて」
 
と庄屋さんは言います。
 
「身の丈は7尺近く、赤ら顔だが、仲間には黒い顔の者もあるという。私たちには分からない言葉を話す。とにかく乱暴で網を切ったり、罠を壊したり、塩田の土手を壊したりするのが困る。うちの村の塩田は、警備の侍を派遣してもらってからは、あまり荒されなくなったが、他の村ではまだ荒らされているところがある。本拠地は音古村の沖合にある女護島(おなごしま)だと思う。島の周囲に岩礁が多くて近寄りにくいんだよ。何度か討伐隊を作ったこともあるんだが、その岩礁に阻まれて上陸できなかった。1艘だけ接岸に成功したんだけど、見張りの者に海に放り込まれて退散してきた。最近では鬼が居るというので、女護島(おなごしま)ではなく鬼ヶ島(おにがしま)と呼んでいる者もあるよ」
 
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桃はその話を聞き、鬼ヶ島こと女護島の場所を示した地図なども見せてもらいました。そしてしばらく考えていましたが、言いました。
 
「庄屋様の叔父さんに長崎で蘭学を学んだ方がおられましたね?(*6)」
「ああ。犬蔵という奴だけど」
「今どこにおられましたっけ?」
「浪速で医者の弟子をしている」
「その方をちょっと呼んで頂けませんか?」
「医者が必要なのかね?」
 
「ちょっと考えたことがあるんです」
と桃は言った。
 

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(*6)この付近は若干のごまかしがある。この物語はだいたい17世紀半ば頃を想定して書いているが、蘭学が起きたのは18世紀末頃である。しかし瀬戸内海地方で入浜式塩田が作られるようになったのは17世紀半ばである。
 

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犬蔵は一週間ほどでこちらに来てくれました。彼は桃に同行することに同意してくれます。それで桃と、前回も桃に同行してくれた猿太郎・鳥助を加えた4人で鬼ヶ島に行くことにしました。
 
犬蔵が言いました。
 
「しばらく長崎とか、浪速とかに住んでいたらさ、うちの村の黍団子(きびだんご)が恋しくなってしまって。あれ作ってくれない?」
 
「私が作りますよ」
と桃は微笑んで言い、たくさん黍団子を作ると、同行してくれる3人に配りました。お弁当にも持って行くことにしました。
 
「でもこのメンツは割と強いかも知れんという気がするよ」
と鳥助が言います。
 
「猿は船を操れて、腕っ節が強い。俺は身軽だし工作ごとが得意。犬蔵さんは誰か怪我したら頼れる」
 
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「そして実はこの中で桃ちゃんがいちばん剣術が強い」
「ふふふ」
「やはりしっかりした師範に教えられたからだろうなあ。適当にチャンバラで遊んでいた俺や鳥では、桃ちゃんに全くかなわない」
 
「まあ私は腕力では猿ちゃんや鳥ちゃんに全然かなわないけどね」
と桃は言った。
 
「でも桃ちゃんが本当は男だなんてのは、忘れてしまいそうだよ」
と猿太郎が言います。
 
「え!?桃ちゃんって女の子じゃないの?」
と犬蔵が驚いて言います。
 
「それは内緒」
 
「桃ちゃん、実は南蛮渡来の薬で女の子の身体になったのではという噂があるんだけど」
と鳥助。
 
「そんな薬あるのかしら?」
と桃は犬蔵に投げます。
 
「聞いたことない。しかし男を女に変えたり、女を男に変えたりする方法は存在するらしい」
 
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「へー!」
 
「私も詳しいことは聞いてない」
 
「それちょっと興味あるなあ」
と桃は言います。
 
「だったら次に長崎に行った時に、和蘭陀(おらんだ)人の医者に尋ねてみるよ」
と犬蔵も言いました。
 

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4人は組頭さんも付き添って音古村まで行き、そこの庄屋さんと会って、色々話を聞きました。そして用意してもらった小舟を夜中の3時頃、ちょうど満潮の時刻に漕ぎだして密かに鬼ヶ島へ向かいます。この日は新月で真っ暗闇の上に大潮で暗礁にぶつかりにくい夜でした。つまり鬼ヶ島への侵入を試みるには絶好の夜だったのです。
 
猿太郎は星明かりだけを頼りに、事前に音古村の漁師に教えてもらった岩礁の位置を頭の中に入れて船を漕ぎます。そして4人はこの日は全員真っ黒の服を着ていて、見張りの鬼に見つかりにくいようにしていました。更に猿太郎は村の海岸からまっすぐ鬼ヶ島を目指すのでは無く、より見つかりにくいように鬼ヶ島の横から近づくルートを取りました。
 
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