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■桃で生まれた桃(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2017-09-04
 
ある所におじいさんとおばあさんがいました。ふたりには子供がなく、ずっと欲しいと思っていつも村の鎮守様でお祈りしていました。
 
ある日、おじいさんは山へ柴刈り(しばかり)に、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
 
柴刈りというのは山林に入って、下草や灌木を刈って林の成長を助ける仕事で、林を管理している親方から手間賃をもらって日々の生活の糧にするのです。親方のもとでは、若い人は枝を払ったりする仕事もしていました。おじいさんも若い頃はそういう仕事をしていたのですが、年を取るとそういうこともできなくなり、今では筋力が無くても何とかなる仕事をしているのです。
 
一方おばあさんは、おじいさんがお仕事に行っている間に川で洗濯をしていたのですが、昔の洗濯は洗濯機があるわけでもなく、洗剤があるわけでもなく、洗濯板さえもありませんから(*1)、水流の中で手でモミモミして洗うしかなく、時間も掛かれば手も冷たくなり、特に年老いた女性には結構な重労働でした。しかしそれでもおばあさんは近所の子供の多くて洗濯まで手が回らない家などから洗濯を請け負い、荷車に積んで川へ行くと、頑張って洗って、それで日銭を稼いでいたのです。
 
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(*1)洗濯板は1797年にヨーロッパで発明され、日本には明治時代に入ってきた。桃太郎の時代にはまだ存在しない。
 

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それでおばあんが大量の洗濯物を頑張って洗っていたら、川の上流から桃が2つ流れて来ました。おばあさんは
 
「甘い桃はこっちに来い、不味い桃はあっちに行け」
と唱えていましたが、その内1個の桃がこちらに流れて来ます。それでおばあさんはその桃を拾い上げ、洗濯の仕事が終わった後、自分の家に持ち帰りました。
 
おじいさんが帰って来てから一緒に食べるつもりだったのですが、桃を見ているうちに我慢できなくなってしまいます。
 
「おじいさんには半分残しておけばいいよね」
 
と言って、桃を半分に切ると、片方を食べてしまいました。
 

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その日、おじいさんが柴刈りの仕事を終えて帰宅すると、若い男がいるので、びっくりします。
 
「誰だお前?」
「おじいさん、私の顔を忘れた?私だよ」
 
「お前、シンの・・・孫?」
 
その若者は自分の妻の若い頃にそっくりだったのです。
 
「私シンだよ。この桃を食べたら若くなっちゃったんだよ」
と言って、半分切った桃を見せます。
 
「クマちゃんも食べてごらんよ」
と妻の若い頃そっくりの若者が言うので、おじいさんは半信半疑でその半分残った桃を食べてみました。
 
すると突然身体に変化が生じます。
 
「これはどうなるんだ!?」
と声をあげている内に、身体が若くなっていき、やがて20歳くらいの娘になってしまいました。
 
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「クマちゃんも若くなったね」
とシンが嬉しそうに言います。
 

「若くなったのはいいけど女になってしまった!チンコが無くなった!!」
 
「私も男になっちゃった。でもこんなに若くなったのなら、いいんじゃない?」
 
「お前、まさかチンコあるの?」
「うん。なんかこれあると楽しいね。いじったら大きくなるんだよ。面白ーい」
「俺はチンコが無くなって死にたい気分だ」
 
「ねえねえ、せっかく若くなったんだからさ、この際、性別が変わっちゃったことは気にせず、楽しいことしようよ」
と若者になってしまったおばあさんが言います。
 
「まさか・・・俺がお前の女房になるの?」
「夫婦なんだから、どちらが男でどちらが女かなんて、別に大きな問題じゃないじゃん」
 
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「俺にとっては大きな問題だ!」
と若い娘になってしまったおじいさんは言います。
 
「気にしない気にしない。私、一度自分が相手に入れてみたいと思っていたのよね〜」
というと、若者になったおばあさんは、娘になったおじいさんを押し倒してしまいました。
 

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今まで住んでいたおじいさん・おばあさんの姿が無くなり、代わりに若い男と女がその家に居るので、近所の人は不審に思いました。
 
その男女が老夫婦を殺して居座っているのではと疑う人もあり、庄屋さんが調べに来ました。
 
するとふたりは、自分たちは、ここに住んでいたクマとシンの本人であるということ。川の上流から流れてきた不思議な桃を食べたら若返ってしまい、ついでに性別も逆になってしまったと主張します。
 
にわかに信じられない話でしたが、庄屋や近所の人たちがふたりに色々質問すると、ふたりはクマとシンでなければ知らないことを知っていました。それにふたりの若い頃の容貌を覚えている人たちが、確かに若い頃のシンとクマにそっくりであると言ったので、それで「殺人」の疑いは晴れ、ふたりは村人として受け入れられたのです。
 
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「しかしシンちゃんが男になって。クマちゃんが女になってしまったのか」
と庄屋はまだ半分信じられないような気持ちで言います。
 
「男っていいね〜。おちんちん付いてるの楽しい〜」
とシンが言うのに対して、クマは
「俺チンコが無くなって泣きたい気分だよ。小便するのにも、いちいち座ってしなきゃいけないんだぜ」
などと言っています。
 
「あんたたち、身体の性別は変わっても、中身は元の男と女、そのままみたいだな」
と庄屋さんは呆れて言いました。
 

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ふたりはお仕事を交換することにしました。
 
おばあさんだったのが若者になったシンは、クマに代わって山林の保守作業に出て行きますが、身体が若いので木に登って、枝を払ったりする仕事もしました。
 
「あんたこないだまで婆さんだったとは思えん」
と親方も感心し、お給料も今までの倍くれました。
 
おじいさんだったのが娘になってしまったクマは、シンに代わってお洗濯の仕事に出て行きます。
 
「あんた本当に女になったの?」
とみんなから訊かれます。
 
「こんなにおっぱいも大きくなってしまって」
と言うので
「どれどれ」
と言って触られます。
 
「私よりおっぱい大きいじゃん!」
「おちんちんも無くなったの?」
「立っておしっこしようとして、空振りするからああ、無くなってしまったんだと悲しくなる」
 
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「ちょっと見せてよ」
「いいけど」
 
それでまだ着慣れていない女物の服の裾をちょっと広げてみます(昔は上流の女以外は、下着などつけていない)。すると確かに女の形になっているので
 
「ほんとに女になっちゃったんだね」
と言って感心されます。
 
ひとりの女が
「穴もあるの?」
と小さな声で訊きます。
 
クマが力なくこくりと頷くと
「凄いねー!」
とまたまた感心されました。
 
クマは女にはなってしまったものの、何と言っても若くなっているのでこれまでのシンよりずっと力がありました。それで洗濯物も今までより速くこなすことができるようになり、手間賃も多く稼げるようになりました。
 

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そういう訳でふたりは日々の仕事の収入が増えて暮らし向きも少しずつ良くなってきました。また若返って性別も変わったというふたりをわざわざ見に来る人まであり、その人達は「見学料」を置いていってくれました。
 
それでふたりは借り物の土地に建てた粗末な小屋に住んでいたのですが、やがてその土地を買い取り、贅沢なものではないものの、こじんまりとした家を建てることもできました。
 
「雨がしのげるのはいいねえ」
「そうだね。これまでの家は雨が降ると家の中で傘を差さないといけなかったから」
 
また元おばあさんのシンが若返りの桃を拾った川には自分も桃を見つけようとする人がたくさん来るようになります。
 
「でも若返るのはいいけど、女になってしまってもいいわけ?」
「この際、若くなれたら男は辞めてもいい」
「チンコ無いと、座って小便しないといけないし、女と楽しいこともできんぞ」
「若い娘になったら、どこかの金持ちの旦那の後添えにでもなる」
 
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押し寄せているのは奥さんに先立たれた年寄りの男が多いのですが、一部年老いた女も居ました。
 
「若返るのもだけど、男になるほうに興味がある」
などと彼女たちは言っていました。
 

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シンとクマが桃を食べて若返ってから10ヶ月後、若い娘になってしまったクマが可愛い赤ちゃんを産みました。
 
クマは自分が子供を産むなんてことになるとは、生まれてこの方、考えたことも無かったので
 
「苦しい。死ぬ〜。もう殺して!」
などと叫びながら、村の年老いた産婆に
 
「あんた、女になった以上、この苦しみに耐えなきゃだめ」
とたしなめられ、産気づいてから半日ほどの苦しみに耐えて、やっと産み落としたのでした。
 
「何とかなったろ?」
「もう死んだ方がマシだと何度も思った」
「でもあんたもこれで本当に一人前の女だね」
と産婆から言われて
「俺、男に戻りたいよぉ」
などとクマは泣き言を言っていました。
 
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赤ちゃんは男の子でした。それで桃を食べて若返った夫婦から生まれたというので「桃太郎」と名付けられます(*2)。
 

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(*2)桃太郎の生まれ方については、明治時代に小学校の教科書に収録された際、桃から生まれたことにされてしまったものの、それ以前は、川から流れてきた桃を食べた老夫婦が若返り、それで子供が産まれたというのが一般的であった(ただし性別は逆転しない)。むろん、桃から生まれたというバージョンも無かった訳では無い。
 
また川上から流れて来たのが桃ではなく箱であったというバージョンも多い。また桃あるいは箱から出てきたのが女の子であったという話もある。このタイプの話には、その子があまりにも美人だったので、さらわれたりしないように、桃太郎という男名前を付けて育てたというバージョンと、その川で拾われた娘とおじいさんとの間に子供が産まれ、その子供が桃太郎になるというバージョンがある。
 
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桃太郎は幼い頃から病弱で、何度も病気にかかり、今にも死ぬのではないかと思わされることがあり、シンとクマを心配させました。
 
ある時、桃太郎の病気を診てくれた大きな町の医者が言いました。
 
「このような病弱な子は女の子の服を着せて育てると丈夫に育つとも昔から言われている」
 
そこでシンとクマは桃太郎に女の子の服を着せ、名前もあらためて「桃」と呼ぶようにしました。
 
すると不思議なことに、その後は桃はあまり病気をしなくなり、無事に三歳の「髪置き」も済ませることができました。
 

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「ああ、桃ちゃんも髪置きをしたんだ?」
と近所の人が言います。
 
「なんか女の子の格好をさせるようになってから、病気をしなくなったから。寺の和尚さんに相談したら、十三歳になるまではこのままでいいんじゃないかって。だから普通の女の子と同じように髪置きをしたんだよ」
とシンは説明しました。
 
「でも桃ちゃん、身体も細いし、可愛い顔しているから、そういう女の子の服が似合っているね」
 
「ほんとほんと。このまま女の子にしてあげてもいい感じだよ」
とシンは言いました。
 

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実際、桃は病気はしなくなったとはいっても、そんなに身体が丈夫な方ではなく村の子供たちの遊びでも、男の子たちに混じって棒でチャンバラしたり、竹馬で遊んだりするより、女の子に混じってあやとりをしたり人形遊びをしたりする方を好みました。
 
なお、当時は男も女もあまり下着をつけるのは一般的ではなかったのですが、桃の場合は、着物がはだけた時に、男の子の印が見えてしまうと、みんなが引いてしまうだろうということで、いつも湯文字を着けていました。桃が下着を着けている理由を知らない子はお金持ちの娘さんなのかなと思っている場合もあったようです。それで
 
「桃ちゃん、ひな人形とかは買わないの?」
と言う人もありました。
 
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桃がそれをお母さんのクマに言うと
 
「あまり高いものでも無かったら買ってもいいかもね」
と言い、シンが用事で町に出た時に、買ってきてくれました。それで翌年の雛祭りには、ひな人形を飾り、近所の友だちの女の子たちも呼んでお祝いをしたりもしていました。
 

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