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■桃で生まれた桃(2)

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桃は、特異な生まれ方をしただけあって、小さい頃から不思議な面も見せていました。
 
桃が生まれた翌年、クマが桃をおんぶして、庄屋さんの所に行っていた時、軒先で庄屋さんと話していたら、桃が突然大きな声で泣き出しました。クマがどんなにあやしても泣き止みません。
 
それで困っていたら、奥から庄屋の奥さんが出てきます。
 
「あんた、にわか女だから、なかなかうまく対処できないよね。ちょっとかしてごらん」
と言って桃を受け取り、高い高いとか、いないいないばあ、とかしてあげると笑い始めました。
 
「やはり元々女の人にはかなわない!」
などとクマが言っていた時のことです。
 
突然ドーン!!という大きな音がするので見てみると、裏の崖から大きな岩が落ちてきて、庄屋さんの屋敷の奥を潰していました。
 
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「私、今まであそこに居たのに」
と言って、庄屋の奥さんは腰を抜かしてしまいました。
 
「桃ちゃんが泣いていなかったら、お前、潰されていたな」
と庄屋さんも半分青ざめながら言いました。
 

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桃は他にもよく、無くしたものを見つけてくれることがありました。しばしば村人から頼まれて、シンやクマが桃を連れてあちこちの家にお邪魔しては失せ物を発見していました。
 
桃が4歳の時、村は深刻な旱(ひでり)で水不足から作物が育たず、また厳しい天候のため、暑さにやられて死ぬ者もありました。村は海に面しているものの、海の水を畑に蒔いたらそれこそ作物は全滅してしまいます。しかしこのままにしておいても、作物は全滅しそうな状況でした。村の水源の溜め池もほとんど干上がってしまっています。
 
そんな時、桃を連れてシンが村の集まりに出ていた時、桃が唐突に
 
「おじぞうさまのした」
 
と言ったのです。
 
出席した村人たちは顔を見合わせたものの、いつも失せ物を見つけてくれている桃のことばです。そこに何かあるかもと言い、村の端のお地蔵様の下を掘ってみたら、なにやら随分と土が湿っています。これはひょっとしてというので頑張って掘ると、3mほど掘った所で、真水(まみず)が湧いているのを発見しました。結局5mほど掘ると、そこから豊かな水が出てきたのです。
 
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この水によって村は救われ、この年の干魃を何とか乗り切ることができたのでした。収穫も例年よりはずいぶん少ないものの、何とかなる範囲でした。畑の面積が少なく、今年の収穫量だけではやっていけない家には、村全体で助け合って、食糧なども確保してあげました。
 

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年貢に関しては、厳しい状況を訴え、軽減してもらおうというので、庄屋をはじめ何人かで殿様に陳情に行くことにしました。
 
幸いにも家老さんが話を聞いてくれて、殿様に取り次いでくれました。殿様はそこまで厳しい状況であれば干魃の被害があった村は全部、年貢を例年の2割減にしてやろうと言ってくれました。また桃たちの村は塩が特産物で、年貢の2割は塩で納めていたのですが、今年は塩の比率を高めてよいというお許しも出ました。
 
殿様はその作物が全滅しそうになった時に、村の女の子の託宣?から湧き水が見つかったという話に興味を持ちました。
 
「その娘に会いたい。連れて参れ」
などと言います。
 
村人たちは困惑したものの、まさか4歳の娘を側室にするなどと言い出したりはすまいと考え、シン・クマの夫婦と庄屋夫婦に連れられ、桃は殿様の城に行くことになりました。
 
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「そちはよく失せ物を見つけるそうだな」
と殿様が言います。
 
「はい、よく村の人に頼まれて探し出してくれます」
と庄屋が言います。
 
「それどころか、崖崩れで私が死ぬ所だったのを助けてくれたこともあったんですよ」
と庄屋の妻は言いました。
 
「それはなかなか凄い」
と言ってから殿様は言いました。
 
「桃とやら。余(よ)は実は、将軍様拝領の正宗の銘刀をどこに置いてしまったのか分からなくなり、数日前から探しているのだ。そなた、どこにあるか分からないか?」
 
庄屋やシンはびっくりします。そんな大事なもののありかを尋ねられて、もし桃が見つけきれなかったら、手討ちにされるかもしれません。
 
ところが桃は難無く言いました。
 
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「とらのびょうぶのうら」
 
殿様は驚いた顔をすると、その部屋に置かれた虎の屏風の裏を見ます。確かにそこには正宗の銘刀を収めた桐の箱がありました。
 
取り出して中身も確認しました。
 
「桃、そなたは本当に凄い。褒美を取らせよう」
と言い、たくさんの小判を賜りました。
 

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桃は5歳になりましたが、ふつうの男の子ならする、袴着(はかまぎ)は、させませんでした。実は男の子用の袴を穿かせてみたのですが、全然似合わないので、やはりやめておこうということにしたのです。
 
その代わり、この年、桃は巫女さんの装束を着けて春祭で舞を舞いました。この舞があまりにも美しく、また神々しく、みんなが見とれていましたし、《神様の反応》がとても良かったのを、宮司をはじめ何人か霊感のある人が感じました。
 
それでこの年は、昨年の不作を補ってあまりあるような豊作になったのです。
 
一方、桃は殿様に完璧に興味を持たれてしまい、度々城に呼び出されました。殿様は桃に失せ物を探させたり、射覆(せきふ*3)をさせたりしましたが、桃は失せ物はすぐ見つけてくれますし、射覆ではピタリと中のものを言い当て、度々褒美をもらいました。しかし桃は殿様からもらった褒美は、一切自分の物にせず、村に寄付して、何かの場合のための蓄えとしました。
 
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(*3)射覆(せきふ)とは、箱の中に何か物を入れ、その中身を見ないまま言い当てるゲーム。平安時代に宮中で盛んに行われた。安倍晴明の師でもある賀茂忠行はその名人であった。現代でも占い師の腕試しに行われたりする。
 

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桃は七歳になると、他の女の子と同様に「帯解き」をしました。それまでは着物に縫い付けてある細い紐で服をしばっていたのを、その紐を取り外し、大人と同じように、幅の広い帯で締めるようにするものです。桃は可愛い子供サイズの着物を着て帯を締め、お化粧までしてもらって、お祝いの会をしました。
 
桃がいつもその託宣的な力で村人を助けているので、たくさん人が寄ってきてお祝いをしてくれました。
 
殿様まで桃にお祝いを贈ってきたのですが、これについては庄屋やシンは少し心配しました。そして案の定、数日たってからお城からあらためてお使いが来て言ったのです。
 
「七歳になったのなら、城に登らないか? 取り敢えず母君付きの女童になるとよい」
 
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これは当然適当な年齢になれば側室に・・・という話でしょう。
 

シンとクマは困りましたし、庄屋さんも困りました。
 
もし桃が実は男の子だなんて言ったら、殿様は怒って何を言い出すか分かりません。
 
それで庄屋さんは殿様に申し上げました。
 
「桃は田舎者で何も教養がないので、今お城にあげましたら、失笑を買うと思います。とりあえず文字を習わせようと思います。それで少し教養ができてからにさせて頂けませんでしょうか?」
 
すると殿様も
「確かに教養が無いと居並ぶ女中たちに馬鹿にされるかも知れんなあ。だったら勉強代をやろう」
 
と言って、桃がたくさんお勉強できるように字を書く手本とか、竹取物語、御伽草子などの子供向けの優しい本までくれました。
 
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それで桃は字の勉強をすることになりますが、桃自身、そしてシンも提案して村の子供みんなで字の勉強をするようにしました。
 

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1年経った8歳の春、殿様はまた桃にそろそろ城にあがらないか?と言ってきました。そこで庄屋は申し上げました。
 
「桃は何とか字は読み書きできるようになりましたが、管弦などができません。とりあえずお琴など習わせようかと思います。それまで待って頂けませんでしょうか?」
 
すると殿様も
「確かに琴や笛ができぬと、女中達からあれこれ陰で言われるかも知れんなあ。だったら勉強代をやろう」
 
と言って、桃に練習用の箏、高麗笛、胡弓、を下さり、また歌や踊りの師範まで村に派遣しました。
 

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1年経った9歳の春、殿様はまた桃にそろそろ城にあがらないか?と言ってきました。そこで庄屋は申し上げました。
 
「桃は何とか字の読み書きや管弦なども覚えてはきましたが、字の勉強もまだまだですし、管弦も一応弾けるという程度で、まだ人にお聴かせできるほどのものではありません。また算術も全然できません。もう少し上達するまでお待ちいただけませんでしょうか?(*4)」
 
「確かに管弦はある程度の腕が無いと、馬鹿にされたりするかも知れんなあ。算術もある程度できた方が良い。ではそれを少し待とう」
 
そう言って、殿様は少し難しい本なども桃に送り、引き続き、琴や笛の師範を派遣し、また算術の師範、ソロバンの師範も派遣して勉強させました。
 
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(*4)明治以前の桃太郎の話では、桃太郎が怠け者として描かれている。
 
ある地方の物語では、友人が、薪取りに行こうと誘いに来たら「草履が無いから行かない」と言い、草履を持って来てあげると「しょいこが無いから行かない」と言い、それを持って来てあげると「鎌が無いから行かない」と言い、それも持って来てあげると、仕方なく出かけた、ということになっている。
 
別の地方の物語では1度目は「今日は草鞋を作っているから」2日目は「今日は草鞋の引きそを引くから」3日目は「今日は草鞋の緒を立てるから」と言ってなかなか動こうとしない。
 
今回の殿様からの勧誘を引き延ばすエピソードはこの怠ける桃太郎の話の代わりに入れたものである。
 
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更に1年経った10歳の春、殿様は桃にいいかげん城にあがらないか?と言ってきました。そこで庄屋は申し上げました。
 
「桃はかなり本も読むようになりましたし、管弦も何とか人に聞かせられる程度にはなりました。しかし田舎育ちですので、行儀作法が全く分かっておりません。それを学ばせるのにもう少しお時間を頂けませんか?」
 
しかし既に3年も待っている殿様は不機嫌になります。
 
「いったいいつまで桃に勉強をさせているのか?」
「ですからもう少し」
 
かなり押し問答をしている内に殿様はこんなことを言い出しました。
 
「桃に言え。美坂山(みさかやま)に生えている木の数を数えてみよ。それを数えることができたら、1年待ってやると」
 
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山に生えている木の数なんて、ひとつひとつ数えて行こうとしても、すぐにどの木を数えたか、まだ数えてないか分からなくなるに決まっています。
 
難題を与えられて困ったなと思いながら庄屋さんは村に戻りました。
 
それで相談するのですが、桃は言いました。
 
「数えられるよ」
「ほんとに?」
「庄屋さん、お金が掛かってもいいから、掌(てのひら)くらいの大きさの布と糊をたくさん用意してください」
 
それで庄屋は村の者たちに言って、たくさん布を出してもらい、それを掌くらいの大きさに切っていきます。それだけでは足りないので、城下の商店などにも頼んで、たくさん用意しました。一方で麦の粉を使ってたくさん糊を作りました。
 
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桃が山の中にある木の数を数えると言うので、その日は殿様も見物に来ました。
 
朝から一斉に村人が山に入り、山中の木の幹に糊で布を貼っていきます。作業はけっこうな時間を要し、午後3時頃にやっと終わりました。ここで殿様の配下の侍たちにも協力してもらい貼り付けそこねている木が無いか確認しました。何本か漏れがあったので、新たに貼り付けました。
 
そして翌日はまた村人たちが朝から山に入り、昨日貼り付けた布を回収しました。この作業がまた午後3時くらいまでかかります。そして一通り終わった後、また侍たちにも協力してもらって、外し忘れがないか確認しました。何本か残っているのを発見し、きちんと回収しました。
 
そして3日目、この布を数えたのです。数える時、桃は布を10枚単位でまとめて糸で縛り、それを10組集めて赤い紐でくくり、それを更に10組集めて1000枚単位にしたものを青い紐でくくらせました。それを更に10個単位で集積して10000枚単位にして、そこに札を立てていきました。
 
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その結果、布は38万4721枚あることが分かりました。
 
「殿様、申し上げます。美坂山の木は全部で38万4721本です」
 
殿様は本気で感心しました。
 
「美事である。余はますますそなたが欲しくなったぞ」
と嬉しそうに言うと、桃に1年間の猶予をくれました。むろん村人には使用した布の代金に加えて、充分な褒美を取らせました。
 
また庄屋が行儀作法のことを言っていたので、行儀作法の先生も村に派遣して桃に指導させました。またついでに剣術も学ばせようといって、女子の剣術指導に慣れている人を村に寄越してくれました。それで桃は行儀作法に加えて剣術も学ぶことになります。
 
桃はチャンバラみたいなの、嫌だなあと思ったものの、師範が非力な女性の筋力に合わせた指導をしてくれるので、意外に無理なく覚えられました。それで桃はどんどん剣術の腕を上げていきます。村の若者たちも練習相手になってくれましたが、桃がどんどんうまくなるので、その内誰も桃には勝てなくなりました。
 
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