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須佐之男命(すさのおのみこと)の6世の孫(異説では子供)が大国主命(おおくにぬしのみこと)ですが、この「大国主命」の名前をもらうのは、今回の物語よりの次のエピソードになります。命は最初は大己貴命(おおなむぢのみこと)という名前でした。このお名前は大穴牟遅命とも書きますが「牟遅」は「持」と同じで、大穴持命、つまり立派なヴァギナを持った神という意味であるとも言われます。それだとまるで多産の女神のようですが「大」は「多」と同じで、奥さんがたくさんいるという意味と解釈されているようです。
大己貴命(大国主命)は島根県の出雲大社(杵築大社−きづきのおおやしろ−)の神様ですが、奈良県の三輪山(大神神社−おおみわじんじゃ−)の大物主神(おおものぬしのかみ)とも同一視されています。この「大物主」というのは立派なペニスを持った神という意味だという説もあります。
いづれにしても大己貴神・大物主神という名前には、性的な意味合いが濃く込められており、農業で重視される多産・豊饒の神様という性格がかなり濃いものと思われます。須佐之男命の八股大蛇退治が一般に治水事業のことと解釈されていますが、その子供(或いは子孫)の大国主命がその治水されたあとを受けて農地開発をしたということなのでしょう。
■八上姫への求婚
さて、大己貴命にはたくさんのお兄さんがいました。ある時、兄弟は因幡国(鳥取県)に八上姫という大変美しいお姫様がいることを聞き、競ってプロボーズに行こうという話になりました。その時、大己貴命もプロポーズするために因幡に行こうとするのですが、要領が悪いため、兄たちの荷物を全部持たされてしまいました。そのため、彼一人が遅れてたくさんの荷物を背負い、ふうふう言って因幡へと向かい歩いていきました。
■因幡の白兎
さて、因幡国に一匹の白兎がいましたが、洪水で流されて、沖合の淤岐島(おきのしま−現在の白兎海岸の沖数十mの所にある兎の形をした島−)まで行ってやっと止まりました。水が引いてから本土に帰ろうとするのですが、数十mの海を泳ぎ切る自信がありません。困っていたところ、ちょうど海に和迩(鰐?)がいるのを見て、こんなことを言いました。
「おおい、和迩くん。僕の仲間と君たちの仲間とどちらが多いか比べっこしないか?」「うん。いいよ。どうやって比べる?」「君たちの仲間を呼んできてさ、ここから岸辺までずらっと並んでみてくれないか?僕がその上を飛び跳ねながら数をかぞえるから」
和迩は「OK」といって仲間をたくさん呼んできて、淤岐島から岸辺までずらっと並びました。兎はシメシメと思い、これで岸に戻れると喜んで数を数えながら和迩たちの上を飛び跳ねて行きました。そしてもうすぐ岸というところまで来た時「やぁい、間抜けな和迩たちめ。僕は岸に戻りたかっただけさ。数比べなんて嘘だよーん」と言ってしまいました。
すると和迩は怒ります。兎を捕まえて、その体中の皮を、頭の上から足の先、ちんちんの先まで剥いで、丸裸にしてしまいました。
■兄たちのアドバイス
白兎が皮を剥がれて痛い痛いと転げ回っていたところに、大己貴命の兄たちがやってきました。兎は兄たちに「痛みを止めるいい方法はないものでしょうか」と尋ねます。すると兄たちはいかにも親切そうに「すぐに海水で身を洗い、風に当たっていなさい」と言いました。兎は喜んでそうしましたが、痛みはますますひどくなりました。
■大己貴命のアドバイス
そこへ遅れてやってきたのが大己貴命です。命は白兎にどうしたのだと訊きます。兎が事情を話すと、それでは川に行って真水で身体をきれいに洗い、蒲の花粉を蒔いた上に寝転がりなさいと教えてあげました。命は兎を心配してしばらく付いていてあげました。兎が言われた通りにすると、痛みはずいぶん楽になり、兎は命は本当に感謝します。そして、一行が八上姫にプロポーズに行くところだと聞くと、白兎は「きっと姫の心を射止めるのはあなたですよ」と予言しました。
そしてそれはその通りになったのでした。
■兄たちに殺される
一番出来の悪い弟の大己貴命が八上姫の心を射止めたということで兄達は怒り、あいつを殺してやろうと考えました。兄たちは大己貴命を誘って山に狩りに行き、今から猪を追っていくからそっちで待ちかまえててくれと言い、山の上から真っ赤に焼いた大岩を転がしました。それをまともにくらって大己貴命は死んでしまいます。
するとそれを悲しんだ大己貴命の母が神産巣日神(かみむすびのかみ−出雲神界の最高神)に願い出て、薬を司る女神様が二人遣わされ、大己貴命は蘇生しました。
大己貴命が生き返ったのを見て兄たちはまた彼をだまして森の中に連れ出し、今度は大きな木の洞の中に閉じこめ出られなくしてしまいました。しかしまた大己貴命の母がそれを見つけだし何とか木の中から救出しました。
しかしこう兄達の迫害が続いていては。その内蘇生不能な状態で殺されかねないと考えた母は、しばらく須佐之男命のところに身を寄せるよう言います。そこで大己貴命は根の国に住む須佐之男命の所へ行くことにしました。