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■夏の日の想い出・受験生の夏(4)

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焼きそばとおにぎりのセットを会場横の斜面に座って食べていたら、△△社の甲斐さんが通りかかった。
「あ、おはようございまーす」
とボクは挨拶した。
 
「こんにちは〜。楽しんでる?」
「ええ。いいチケットありがとうございました」
「受験勉強忙しいだろうけど、このくらいの息抜きはいいかなと思ってね」
「でも凄いメンツですよね。このイベント。なんか凄い刺激受けちゃった」
「またやりたくなったりしない? あ、ごめん。今日は勧誘しないことにしてた」
「あはは。高校卒業してから考えさせてください。でも凄く創作意欲が沸いて」
「へー」
 
「休憩時間に思いついたメロディーいくつか書き留めたんですよ。あとで帰宅してから、整理し直してみます」
「五線紙ちょうだいって言われたけど、私も今日は持って来てなくて。そんなの自分で持ち歩けばいいのにと、よく思うんですけどね」
と政子が笑いながら言う。
 
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「私がたまたま英語のノート持ってたんで、それで代用して書き留めてました」
と仁恵。「線が1本足りないけど」
 
「いいのできたらまた見せてくださいね」
と甲斐さんは言っていた。
 
午後からは2バンド演奏して休憩、そして最後に3バンド演奏が続いてフィナーレとなる。最後に登場したバンドは現在国内で最高の人気を誇るロックバンドであった。演奏する曲目も、誰もが知っている曲ばかりである。ここまでの声援で少し疲れていた人も、また元気が出て、みんな凄い手拍子・歓声を送る。かなり興奮している子もいた。最後の曲が終わった瞬間、政子など興奮してボクに抱きついてきたほどであった。「ちょっとちょっとマーサ。またフライデーされちゃう」
 
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イベントが終わったのは16時頃だった。ボクたちはどうせ出るのに時間が掛かるし、ということでゆっくりと移動して電車の駅まで行った。
 
「なんか興奮しちゃってどこかで鎮めないと帰れない気分」と政子。
「水の中にでも飛び込んで鎮める?」とボクが言うと
「あ、それいいね。ね。みんなでプールとか行かない?」と政子が言う。「えー?でも水着持ってないよ」と仁恵。
 
「そのくらい買えばいいじゃん。私少し余分にお金持ってきてるから、みんなの水着代くらいおごっちゃうよ」と政子。
「あ。じゃ私がプールの入場料出しちゃう」とボク。
「そうか。ふたりともお金持ちだもんね。ここはたかっちゃおう」と仁恵が笑っていうので、それで4人でプールに行くことになった。
 
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プールの最寄り駅の駅ビル内にあるファッションタウンで、思い思いの水着を調達した。ボクは他の2人には気付かれないように普通にちょっと手を握るような感じで折り畳んだ諭吉さんを1枚政子に手渡した。政子は目でありがとと言っていた。
 
政子はセパレートだが胸のあたりは広く覆うタイプ。仁恵はタンクトップ型で下はパンティ型の上にショートパンツを重ねるタイプ、礼美はビキニの上下、ボクはワンピース型を選んだ。
「冬、パレオとか付いてるのでなくていいの?」と仁恵が心配そうに訊くがボクはOKサインを出して「問題無し」と笑顔で答えた。
 
プールに行って四人分のチケットを買い、ロッカーの鍵付きの赤いタグを4本もらう。一緒にがやがや話しながら、更衣室に入った。礼美が少し心配そうにボクを見ていたが、その視線に気付いた政子が「あ、冬の着替えは心配不要」
などと明るい声で言う。
 
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「んー。じゃ、先に着替えちゃおう」
などとボクは言って、みんなに背を向け壁の方を向いたまま、全部服を脱いでしまった。
「冬のヌードは後ろから見る限り、完璧に女の子だから」
と政子が笑いながら言っている。
「下着姿は見てたけど、ヌードは初めて見た」と仁恵。
「すごーい。ウェストがきゅっとくびれてる」と礼美。
「ふふふ。大公開」と言ってボクは胸を手で隠したままくるっと360度回転してまた壁の方を向き、そのまま手早くワンピース水着を手早く身につけてしまう。
 
「え?え?」
「何も付いてなかったよね?」
「付いてないように見えるでしょ」と政子は笑っている。
 
ボクはそして、またくるりと右足だけで180度回転して両手を軽く広げ
「着替え終了」と言って、みんなのほうを向く。
「そっか、胸も入れてるんだった」と仁恵。
「今日は熱狂したら踊るだろうしと思って肌に粘着する外れにくいタイプのパッドを付けてきてたのよねー。だから泳いでも平気」
「おまたの所、何も無いみたいに見えるんだけど」と礼美。
 
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「だって、冬は女の子だらけの大部屋の楽屋でふつうに着替えていたんだから」
と政子が笑いながら言うと、仁恵も礼美も大きく納得したような顔をした。
 
「さ、私達も着替えちゃおう、着替えちゃおう。あ、そうそう。冬は女の子の裸も見慣れているし、それで興奮したりするような子じゃないから」
「じゃ、ホントに女の子と思っていいんだ」と礼美。
「そういうこと」と政子。
ボクは何も言わずに笑っていたが、政子はやはりボクの一番の理解者だなあと思っていた。
 
政子がボクの見ているところで平気で裸になって水着に着替えるので、仁恵も礼美もそれに続いた。そしてボクらは一緒にシャワー室を通って、プールに出た。
 
プールでは、ほてった身体を冷やすのが第1目的という感じだったので、みんなで水浴びして、水を掛け合ったりして遊んだ。
 
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礼美は「せっかくここに来たら」と言って、ウォーターシューターに行って何度も滑り降りていた。やがて仁恵が少し疲れたといってプールサイドに上がり、座って休む。ボクと政子はまだ少し興奮が冷めやらない感じだったので「ね、少し泳ぐ?」「うん」
 
などと声を掛けて25mプールの方に行き、同じコースを政子が先行して、その後をボクが追う形でクロールで数往復した。それでけっこう気持ちはクールダウンできた。
 
仁恵も25mプールのプールサイドの方に移ってきてボクらの泳ぎを見ていたが、泳ぎ終わって、ボクらが上がってくると
「すごーい。ふたりとも水泳得意なのね。でも同じコースで泳いでいて追突したりしないのね」
などと言う。ボクと政子は笑顔で顔を見合わせた。
 
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「冬のほうが泳ぐのうまいから、私のペースに合わせて泳いでくれるの。狭い公共のプールで2人で泳ぐのに2コース取っちゃったら迷惑でしょ。だから、1コースだけで泳ぐのに、こういうやり方で泳ぐんだ」
と政子が説明した。
「ターンの時だけだよね。ぶつからないように気をつけるの」
とボクは付け加えた。
 
「わあ、そういうことだったのか!」と仁恵は言ったがすぐに
「でも、それってふたりの息がぴったりということじゃん」と付け加えた。
 
「うーん。何となく合うんだよね」
「うんうん」
「でも、ふたりで時々一緒にプールに来てるのね」
「そう何度ででもないよね」
「うん。一緒に来たのは5回目くらいかな」
 
ボクたちはプールのあと、マクドナルドで軽食を食べてから、その日解散した。
 
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夏休みの間、ボクは学校の補習授業で政子や仁恵と会い、自動車学校では礼美と会って、いろいろなおしゃべりを楽しんだ。またボクたちは時々数人で街で会って合同受験勉強を兼ねたおしゃべりを楽しんだ。
 
友人の噂話などと同時に
「御成敗式目は何年?」「1223年」「違う。1232年」などといった会話も飛び交っていた。礼美は
 
「冬の言うようにさ、参考書見ながらホントに自分で理解できるようになるまで時間掛けて英文を読んでたら、なんか少しずつほんとに文章読む力が付いてきた気がする」などと言っていた。
 
8月23日に模試があるので、その成績次第ではほんとにボクや政子が受ける予定の大学を狙うかもなどと言っていた。「頑張って」とボク達は礼美を応援した。礼美はその模試の直前、8月21日に自動車学校の卒業試験に合格、模試を23日に受けて翌24日には免許センターで学科試験を受け、免許を見事取得した。ボクは電話で合格の連絡を受け、その日の夕方街で会って祝福した。
 
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ボクは自動車学校の授業を受けている間以外はほとんどの時間を受験勉強に充てていたので、23日の模試にはかなりの手応えを感じた。
 
模試の成績が出たのは9月になり2学期が始まってすぐだった。
「唐本、今のお前の成績なら国立の千葉とか埼玉でも行けるぞ」
と進路指導の先生が言ったが
 
「いえ、△△△に行きたいです」と答えた。
「もしかして中田(政子)と同じ所に行きたいのか?」
「ええ。それもあります。お互いに第一の親友なので。それと大学入ったら音楽活動を再開するつもりなので、ある程度自由度のある大学のほうが助かるので」
「ああ、それがあるなら仕方ないなあ」
と進路指導の先生はそれで納得してくれたようであった。
 
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模試の成績は政子は可もなく不可もなくという感じであった。
「何とか△△△の合格圏はキープしてるけど、気を抜くとやばいなあ」
「時々一緒に勉強会とかしようよ」
「うんうん」
 
そういう訳で、ボクたちは毎週土曜日に政子の家に集まり、3時間くらい一緒に勉強をした。土曜日にしたのはボクが毎週日曜日に自動車学校に行って1時間車を運転してくるからである。
「私やばーい。合格したあと全然車の運転してないから、もう忘れかけてるかも」
などと礼美が言っていた。
 
「そんなの実際にやればすぐ思い出すよ」
「もうMT車の始動できないかも」
「実際に運転するのはほとんどAT車だから忘れても平気」
 
礼美は模試の成績が1学期に比べてかなり上昇していて先生にも頑張ったなと褒められたという。△△△狙ってもいいですか?と聞いたら、かなり努力しないといけないけど、狙ってみる価値はあると言われたと。みんなで頑張れ頑張れと言った。仁恵は国立の□□を狙っているのだが、今回の模試では前回より少し上げて合格ラインぎりぎり付近まで来ているので、あと少し頑張れば何とかなるかもということだった。
 
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勉強会のメンツは日によって色々であったが、ボクと政子以外では、仁恵と礼美の出席率がいちばん高かった。それ以外で顔を出していたのは琴絵・奈緒・紀美香・理桜・圭子などといったメンツである。いちばん多い時で12人集まった時もあった。
 
常連の中では、模試の成績はもちろん仁恵がいちばん良くて、ボクがそれに次ぐくらいの成績だが、英語はボクのほうが得意なので、けっこうお互い刺激になっていた。政子の場合、数学は答えは分かるが途中の式が書けないし、英語も外人さんと実際に話すと英語がペラペラなのに文法とかあまり理解していないというホントに試験向きではない実力の持ち主なので色々苦労していた。
 
「レミ、形容詞と副詞をきちんと区別しよう。アメリカの会話語だとわりとShe made it quick. みたいな感じで形容詞を副詞の代用に使うこともあるんだけど、文法的には She made it quickly.と動詞を修飾する場合は形容詞ではなくて副詞を使うのが正しい。形容詞は名詞を修飾する時」
「あ、そうか。私確かにその辺が曖昧だった」
 
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ボクにしても仁恵にしても、人に教えることでまた自分の頭の中が整理される。
 
「仁恵〜。歴史の年数が覚えきれないよう。東ローマ帝国の滅亡は1435年?」
「1453年だよ。冬って器用な間違い方するよね。しばしば数字が入れ替わってる」
「こういう単純な数字覚えるの苦手」
 
勉強の話が大半だが、女の子が何人も集まれば雑談も多い。
 
「ところで冬は、夏の間何度か女子制服着てたよね」と政子。
「うん。学校で仁恵から借りて試着させてもらったこともあったし」とボク。「ああ、あれ凄く可愛かった」と仁恵。
「冬服は着たことないの?」
「無い無い」
 
「じゃ、私の冬服着てみない?」
「あはは、いいけど」
 
ということで勉強の合間の息抜きにボクは政子の女子制服冬服を借りて、隣の部屋でそれに着替えてきた。
「わあ、似合ってる」
「うんうん。可愛い」
 
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「私は女の子の冬をずっと見てきたからさ、学生服着てる時の冬が不自然に感じちゃうんだよね。やはり、こういう服着てるのが自然だなあ」
政子と礼美が携帯で記念写真を撮る。ボクは自分の携帯ででも撮影してもらった。
 
「冬服、作らないの? 今から作っても着るの半年だけだけど、お金には余裕あるでしょ?」
「そうだなあ」
 

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