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■夏の日の想い出・愛と別れの日々(2)

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2021年11月、政子は3度目の妊娠をした。
 
「大輔さんの子供?」
と私は尋ねたのだが政子は言葉を濁した。
 
「どうなんだろう。私もよく分からないのよね」
「マーサ、他の男の人とも付き合ってたんだっけ?」
「私は二股してないよ」
「じゃ、大輔さんの子供じゃないの?」
「彼はそう思ってるみたいなんだけどねー」
 
私は政子の真意を測りかねた。
 
しかし政子はこの妊娠をきっかけに、大輔との結婚を考え始めたようにも見えた。大輔には前妻の青島リンナとの間に夏絵という女の子(当時3歳)がいて、ふたりが離婚した後、リンナがすぐに俳優の高橋俊郎さんと結婚したため、夏絵は大輔が引き取って育てていた。とはいっても実質的に育てていたのは大輔のお母さんである。なおリンナは高橋の子供・敦子をこの年5月に産んでいる(敦子は夏絵の異父妹ということになる)。
 
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政子はしばしば夏絵を自宅に連れてきて、あやめとも遊ばせていた。一緒に遊園地に行ったりもしていた。夏絵は政子になついたし、あやめとも意気投合した感じであった。夏絵が2018年8月生まれ、あやめが2019年2月生まれで同学年。この3歳の女の子連合に1歳の大輝が完璧に圧倒されていたようであったが、私や政子のお母さんもてんてこ舞いとなる。
 

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そして政子は2022年8月3日、女の子を出産。かえでと名前を付けた。くしくも夏絵と同じ誕生日であった(4つ違い)。
 
「夏絵ちゃんの妹だよ」
と私が夏絵に言ってあげると嬉しそうな顔で赤ちゃんを見ていた。
 
「わたし、2人もいもうと、できちゃった」
「敦子ちゃんもいるもんね」
「でもあつこには、なかなかあえないのよね。かえでとはいつでもあえる?」
「もちろん。毎日見に来てもいいよ」
「うん」
 
それで実際、夏絵がうちを訪問する頻度は上がり、政子や大輔が連れてこられない時でも、お祖母さん(大輔の母)に連れられて、こちらにやってきていた。
 
「かえでって、あつこのいもうとにもなるの?」
「うーん。それは妹じゃないのよね」
「なんだかむずかしいね」
 
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敦子から見ると、かえでは、異父姉である夏絵の異母妹なので、血縁的に無関係である。しかし「妹と似たようなもの」と言ってあげたので、敦子にも見せてあげたいと言い、私がリンナの家に行って敦子を預かり、政子の家に連れてきて夏絵と一緒に、かえでを《鑑賞》したりもしていた。
 
あやめが3歳半・大輝が1歳9ヶ月で、夏絵もよく来ているし、政子の家はなかなか賑やかなことになった。でも政子は母親の自覚があまり無いようで、お乳もあげない!ので授乳はもっぱら私がしていたし、御飯を作るのも私か政子のお母さんで、政子はのんびりと詩を書いたり、ヴァイオリンやピアノを弾いたりして過ごしていた。
 
「冬子さん、まるでうちのお嫁さんみたい」
と政子のお母さんから言われる。
 
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「私、それでもいいですよー。政子さんの奥さんということで」
 

「だけど、最近大輔さん、うちにあまり来ないね」
と夕食時にお母さんが言う。11月頃のことであった。
 
「アルバムの制作に入ったみたいなので、スタジオにずっと詰めていて時間が取れないんだと思いますよ」
と私は答えておく。
 
大輔は、かえでが生まれた時は物凄い喜びようで病院にも毎日来ていたし、退院してからも、かなり入り浸りになっていて、一時期はこの実家の離れが事実上、政子と大輔との新居という感じになっていた。
 
(ただしかえでは私が母屋のほうで育てている)
 
「あの子、大輔さんと結婚するのよね?」
「だと思いますよ。それで私もかえでは私の養子にはせずにそのままにしているんですよ。でも結婚するのなら、かえでを認知してもらっても良かったと思うんですけどねー。なんで認知を拒否したんでしょうね」
 
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「大輔さんの子供なんでしょ?」
とお母さんは訊く。
 
「本人は曖昧な言い方してますけど、妊娠した時に他に付き合っていた男性が居たわけでもないから、そうだと思うんですけどねー。でも大輝の時も亮平さんの認知を拒否したし」
 
「認知してもらえばいいのに。あの子の考えは私にもさっぱり分からない」
「私も分かりません!」
 

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そして2022年12月24日のことであった。
 
「大輔さん、いらっしゃらないわね」
とお母さんが言う。
 
その日はクリスマスイブなので、大輔も家に来て、政子の両親、政子と私、あやめ・大輝・かえで・夏絵の4人と、合計9人でミニ・クリスマスパーティーをすることになっていた。
 
大輔は8時頃来るということだったので、待っていたのだが9時を過ぎても大輔は来なかった。あやめたちが我慢しきれないので、いったんクリスマスケーキを切って、あやめ・夏絵・大輝に食べさせ、一息付いたところで3人を寝せる。
 
ここの母屋には2階に両親の寝室と六畳と四畳半の部屋がある。この時期には子供たちは六畳の部屋で寝せて、だいたい政子の母か私が添い寝していることが多かった。この日も政子の母が3人を寝かせつけた上で10時半頃、居間に戻ってきた。かえでも既に寝ている。
 
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「メール送るけど返事無い」
と政子が言う。
 
結局11時を過ぎたところで、私が
「取り敢えず先に始めてましょう」
と言って、シャンパンを抜き、4人で乾杯してケーキやチキン、ローストビーフなどを食べながら歓談する。それで12時過ぎに両親にも休んでもらった。
 

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私と政子は徹夜態勢で、ずっとふたりでおしゃべりしながら大輔を待っていた。
 
「大輔、なんかにハマっちゃったのかなあ」
と政子。
 
「途中で中断できないような作業をしてるんだよ」
と私は答える。
 
楽曲の制作をしていると、そういうのは割とよくあることである。どうかすると数日不眠不休で作業を続けて、やっとひとつの曲が完成することもある。途中で食事などにも出られないので、スタッフの人に買って来てもらったり出前を取ったりすることもある。
 
そして2022年12月25日の午前4時過ぎ、車が停まる音がして玄関でベルが鳴る。
 
「やっと来たみたいね」
と私はホッとして言った。政子は嬉しそうな顔をして玄関へ飛んで行く。
 
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私はてっきり政子が大輔といっしょに入ってくるものと思っていた。ところがどうも様子がおかしい。
 
「どうしたの?」
と言って私も玄関の所に出て行く。
 
玄関の所に立っていたのは大輔ではなく、背広姿の男性2人であった。そして政子が私に抱きつく。
 
「大輔が・・・・」
と言ったまま政子は泣き出してしまった。
 
「どうしたんです?」
私は男性2人に尋ねた。
 
「新宿署の者ですが、百道大輔さんと良輔さんが亡くなられたので少しお話を聞きたいと思いまして」
と男性は警察手帳の身分証明書欄を見せて私に言った。
 

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それから数ヶ月は大変であった。
 
百道良輔・大輔のふたりは薬物の大量摂取によるショック死ということであった。1時頃に良輔のガールフレンドが良輔の自宅マンションを訪ねてきて、2人が倒れているのを発見し、119番通報をした。救急車で運ばれたものの、医師はふたりの死亡を確認する。死後半日程度経っており死亡推定時刻は24日の午後2時か3時頃ということであった。明らかに薬物中毒とみられたので警察に通報が行き、病院に駆けつけてきた母親や、通報したガールフレンドからも事情聴取をした。それで大輔が政子と交際中であったことも母親から聞いて、警察がこちらにやってきたということだったようである。お母さんはずっと警察の聴取を受けていたため、政子に連絡ができなかったのである。
 
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薬物事件ということで、良輔のガールフレンドも政子も薬物検査を受けさせられた。ついでに私まで検査されたし、前妻のリンナも検査を受けた。むろん私と政子にリンナも陰性であったが、良輔のガールフレンドは陽性で即逮捕された。
 
関係者の証言からふたりが常日頃から薬物を使用していたことが明らかになった。
 
政子は全然気付かなかった!と言っていたが、前妻のリンナが「政子のことを考えて、今、薬は我慢している」と大輔が言っていたという証言をしたので、政子の言葉を警察も信用してくれた。リンナ自身は大輔が薬を使っていたことを知っていたことで犯人隠匿罪が疑われ任意で取り調べを受けたものの、検察は通報しなかっただけでは「隠匿」不成立と判断し不起訴とした。ただしリンナは社会的な責任を取るといい、向こう半年間の音楽活動自粛を発表した。
 
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結局、良輔のガールフレンドをはじめ数人の友人(全員逮捕済み)の証言から、大輔はしばらく薬をしていなかったものの、今回のアルバム制作中に兄から誘われてまた薬をやってしまったということが推測された。
 
良輔が持っていたメモから、薬物を買っていた芸能人やスポーツ選手が大量にリストアップされ、合計100人以上が事情聴取と薬物検査を受け、多数の逮捕者を出す騒ぎになる。百道良輔は薬物の売人をしていたのであった。テレビ番組やドラマに出演している人も多く、撮影済みのビデオが使えない事態が多発する。出演者が歯抜けになって多くの番組が打切りに追い込まれることになった。主力選手が逮捕されて戦力ががた落ちになった球団などもあった。良輔の過去の交際相手まで調べられたので、元恋人であったUTPの須藤さんまで取り調べを受けたようである。
 
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「私、良輔と別れたの、もう30年も前なのに」
と須藤さんは文句を言っていた。
 
「みっちゃんが良輔さんと付き合ってたなんて全然知らなかった」
「まだ私も若かったからね。なんかああいうのに憧れちゃったんだよ」
「男性と同棲していたことあるって言ってたのが良輔さん?」
「そうそう。まあ若気の至りだよ」
 
事務所でそんな話をしていたら、若手アーティストのツアーに帯同していたマネージャーの英子ちゃんが入って来る。
 
「お疲れ様〜」
「精算したいんですけど、(桜川)管理部長は?」
「あ、今日はお休みなのよ。私が精算するね」
と言って、須藤さんが自分でツアーの精算の処理をしてあげた。
 
「1万円足りない」
「すみませーん。給料から引いといてください」
 
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と言って英子ちゃんは恐縮している。ツアーに帯同していると、どうしても使いたくない所でお金を使う必要が出てくる。基本的にそういうのは出すなと言っているのだが、その場の雰囲気で出してしまう場合もある。かくして一般にツアーに帯同しているマネージャーにしても、レコード会社や現地イベント会社の担当者にしても、出張精算が赤になってしまうことがよくあるのである。
 
厳密にいうと使い込みなのだが、仕事の上での営業的な観点からやむを得ないものとして、実際には最終的にボーナスで調整してあげているのが現状である。
 
「でも管理部長は風邪か何かですか?」
「うん。熱があるとかでここ一週間ほど休んでいるんだよ」
 

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「マリさんは大丈夫ですか?」
と英子は政子を気遣って言った。
 
「最初の数日はまるで死んだようにしていた。最近やっと自分で動ける状態になってきたよ」
と私は答える。
 
「お葬式はどうしたんですか?」
と英子。
 
「何せ良輔と関わりのあった人が軒並み逮捕されて塀の中だからさ、良輔の彼女も拘置中だし。誰も仕切れる人がいないから、仕方ないから私が仕切って内輪だけの葬式をしてあげたよ」
と須藤さんは言う。
 
須藤さんが事実上の葬儀委員長になり、悠子に受け付けに立たせて親戚やごく少数の大輔の友人だけ出席して、葬儀は行われた(良輔の友人はほぼ塀の中)。喪主はお母さんだが、お母さんはショックで呆然としていた。良輔も近い内に例のガールフレンドと結婚するつもりだったらしく、お母さんとしては息子2人が結婚して幸せな生活をするのを夢見ていたのが、一転しての悲劇で本当にショックが大きすぎたようであった。
 
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けっこうな子煩悩であった父親が死んで夏絵が泣きはらしているのを政子は抱きしめていたが、その政子も魂が抜けたようにボーっとしていた。結局、大輔の前妻・青島リンナが状況を見かねて、あれこれ動いてくれたので、須藤さん・私・リンナの3人で葬儀を運用するような感じになった。
 
「私、お腹空いたー」
と夏絵が言うのに、政子もボーっとしていて何もしてくれない。私も忙しくて手が回らないなあと思っていたら、悠子が
 
「夏絵ちゃん、むこうにおにぎりがあったよ。うちの美季が食べているから、一緒に食べていて。何なら美季と遊んでいるといいよ」
などと声を掛けて、手を引いて連れて行った。
 
「みきちゃんとさっきいっしょにかけっこしたら、しかられた」
「うん。遊ぶのはいいけど、駆けっこはやめとこうね」
 
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悠子はなぜか自分の娘・美季を連れて来ていたのである。美季は2018年生まれで夏絵と同い年だ。悠子は美季を産んでまもなく離婚してしまったのだが、通夜にも葬式の日にも「面倒を見てくれる人がいなかったので」と言って、美季を連れて来ていた。私は須藤さんが悠子を助手に連れてくるのなら、美季は窓香か誰かにでも預けさせればいいのにと思ったのだが、実際には夏絵も同い年の女の子が居て、結構元気付けられていたようであった。
 
桜川悠子が実は須藤さんと百道良輔の間の娘であったこと、つまり夏絵の従姉でもあったことを私が知ったのは、それから7年も後のことであった。だから美季は夏絵の従姪でもあったのだ。
 

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