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■夏の日の想い出・限界突破(3)

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そういう訳で政子を客席に座らせて、私とアスカはリハーサルを始めた。
 
今日のライブはクライスラーの作品を中心に演奏する。
 
おなじみの『愛の喜び』『愛の悲しみ』『美しきロスマリン』をはじめ、『ウィーン奇想曲』『中国の太鼓』『踊る人形』『ロンドンデリーの歌』
『おもちゃの兵士の行進曲』『アンダンテカンタービレ』『悪魔のトリル』
などなどクライスラー作曲あるいは編曲の曲を16曲演奏する。今日は一般向けのコンサートなので、親しみやすい曲を中心に選曲している。
 
政子が食い入るようなまなざしでステージを見ているのを感じつつ、私はアスカのヴァイオリンの伴奏をしていた。
 
曲間で拍手もせずにじっと見ていた政子が最後の曲を演奏し終わり、私とアスカが握手をしたところで、凄い拍手をして立ってステージに寄ってきた。
 
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「アスカさん、凄いです! 感激しました」
「うん。強烈な視線で見られてるなと思って演奏してた」
 
「たぶん今の演奏聴いただけで、マーサのヴァイオリンが進化したよ」
「そんな気がする。ああ、何か今自分で少し弾きたい気分」
 
などと言っていたら、アスカのお母さんが
「ちょっと弾いてご覧よ」
と言うので、政子はケースからサイレント・ヴァイオリンを取りだす。私が持参の小型スピーカーに接続して、調弦した上で政子に渡した。
 
政子は『パッヘルベルのカノン』を演奏した。私と合わせるためにかなり練習した曲ではあるが、私と合わせた時からは格段に進歩していると思った。
 

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「ふーん。始めて2ヶ月の演奏には見えない」
 
「政子は子供の頃ヴァイオリンを習ってたんですよ。短期間で辞めたらしいですが。当時の1/4(4分の1)ヴァイオリンが残ってます」
「なるほど。それにしても10年ぶりくらい?で2ヶ月でここまで戻すのは凄いよ」
 
「政子は昨日聴いた時より明らかに進歩してます。さっきのアスカさんの演奏を聴いたからですよ」
「なるほど。じゃ本番を聴いたらまた進化するね」
「だと思います」
 
「でもライブってものを見ると私ワクワクするなあ。私も何かしたい気分」
「政子がもっと弾けるようになったら、幕間で弾いてもらってもいいけどね。さすがにまだ無理だね」
 
「政子ちゃん、そんなにステージに立ちたかったら、今日の司会でもする?」
「え?いいんですか?」
「いいよね、お母ちゃん?」
「ええ。じゃ私が司会用に持って来たドレス貸してあげるよ」
 
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そういう訳で、その日のリサイタルの司会を政子がやることになった。
 
取り敢えず昼食を食べに4人で近くのファミレスに行く。私は最初に宣言した。
「今日のお昼は私のおごりね」
 
「あら、それは悪いわよ。私が出すわ」
とアスカのお母さんが言うが
「いえ。私が出した方がいいというのは40-50分後には分かります」
と私は言った。
 
お昼は4人で楽しく音楽関係の話題で盛り上がった。元々政子は自分の歌唱力の割に耳が良いので、やはりポップスでも音程の正しい歌手・ユニットに関心が向いていて、結果的にはアスカの好みと重なる部分があり、けっこうふたりは意気投合している感じであった。
 
「ね、ね、もしかしてアスカさん、色々冬の秘密を知ってません?」
「うーん。。。。何が秘密なのだろう。よく分からないなあ。でも冬って、何だか公然の秘密の多い子だよ」
「やはり・・・・」
 
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「まあ、そういう昔のことは本人に直接訊けばよい。同棲してるんでしょ?いくらでも聞き出す時間はありそう」
とアスカも言う。
 
「それが、なかなか自白しないんですよね〜」と政子。
「大丈夫。冬が言ってることはだいたい全部嘘だから、逆を考えれば良い」
 
「なるほど!」
私は何も答えずに笑っていた。
 
「アスカさんの見解として冬が女の子の身体になったのっていつと思います?」
「うーんとね。今の所有力な説はお母さんのお腹の中、12週目頃に性器が分化した直後だね」
「そうだったのか」
「そんなのどうやって性転換するの?」
「レーザービームで睾丸を破壊すれば、胎内で男性化が起きないから女の子の外見で生まれてくる。人間の身体は本来女性型だから」
「無茶な」
 
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政子はおしゃべりしながらも5分単位でテーブルの上のボタンを押してウェイトレスを呼ぶとオーダーを入れていた。ウェイトレスは空になった皿を下げていくので、そのことにアスカの母は気付かなかったようである。
 
やがて、そろそろ出ましょうかという時になって私とアスカの母の間で伝票の取り合いが起きたが、いったん伝票を握ったアスカの母が「ん?」という表情をする。
「この枚数は・・・・」
「政子がたくさん追加オーダーをしたので」
と言って私は笑う。
 
そして最後の伝票に書かれた金額に目を丸くしている。
 
「ということで、ここは私が出しますので」
と言って伝票をアスカ母の手の中からさっと取った。
 

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客の入りは1200人のホールに8割くらいという感じであった。超有名クラスでもなければ、このくらいは普通である。
 
やがて客電が落ち、幕が上がる。拍手が来る。アスカがヴァイオリンを持って立っている。スタインウェイ・コンサートグランドの前に座る私と頷き合って演奏を始める。『美しきロスマリン』である。実はこの曲だけ使用楽器が異なる。今アスカは私のヴァイオリンを弾いている。なぜかというと、アスカがこのヴァイオリンに付けた名前が《ロスマリン》だからである!
 
ちなみにアスカがロスマリンの次にメインに使っていたヴァイオリンの名前は『アンジェラ』、そして1年前からメインに使用し始めたのが『ルツィアーナ』
である。
 
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演奏が終わり大きな拍手が来る。
 
司会者用のドレスに身を包んだ政子が舞台の左端に姿を現し挨拶する。
 
「みなさま、こんにちは。本日は蘭若アスカのリサイタルにお越し頂き、ありがとうございます。短い時間ですが、最後までお楽しみ下さい」
 
「ただいま演奏しました曲はクライスラー作曲『美しきロスマリン, Schoen Rosmarin』です。とても可愛い曲ですね。本日はクライスラー作曲の曲、クライスラー編曲の曲を中心に演奏していきます」
 
「クライスラーはオーストリア・ウィーン生まれの世界的なヴァイオリニストですが、最初ウィーン・フィルの入団試験を受けた時は何と落とされてるんですね。こんな凄い人でも挫折の日々があったのかと思うと親しみを感じてしまいます。それでは次は同じクライスラーの作品で『愛の喜び,Liebesfreud』です」
 
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私と政子はいつも歌の練習に加えて、きちんと口を開けて明瞭にことばを発音する練習も日々やっている。それで政子の言葉は専門のアナウンサーのようにきれいにホールに響いた。たぶん政子の素性を知らない人の中には職業アナウンサーかなと思った人もいたろうなと私は思った。
 
ただ、場内で隣同士でささやくような姿があったので、結構正体がバレている感じはした。むろん、クラシックのリサイタルなので観客もわきまえており、ここで「マリちゃーん」などといった声が掛かったりはしない。
 
政子が解説をしている間にアスカのお母さんが出てきてヴァイオリンを交換していた。2曲目『愛の喜び』の演奏がスタートする。
 

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演奏はその後『愛の悲しみ』『ウィーン奇想曲』と続いていく。8曲演奏した所で一時休憩となり、観客がトイレに行く。私たちも控室で休憩する。政子はおやつを食べている。
 
「政子ちゃんよく食べるのにスリムねぇ」
とアスカの母が感心している。
 
「外は細くても中身が詰まっているということは?」とアスカ。
「42kgです」と政子は答える。
「私より体重軽いんですよ。私が45kgだから」と私。
「冬ちゃんだって相当細いのに、更に細いなんて凄い」
 
「政子は詩人なので、詩を書いていると痩せるんです。囲碁や将棋の棋士がタイトル戦とかやると、盤の前に座っているだけなのに体重が2〜3kg落ちるというでしょう。あれと同じですよ」
「なるほど〜。どんな詩を書くの?」
 
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というので、私は着想が得られたら曲を付けようと思ってバッグに入れていた政子の詩を数点見せる。
 
「政子ちゃん・・・・」とアスカのお母さん。
「はい?」
「あなた、天才詩人だ!」
 
「はい、みんなから言われます」
「あ、そういう反応の仕方、私大好き」とアスカが微笑んでいる。
 
「まあ、アスカさんも私も政子も一流同士だよね」
と私は言った。
「うん。一流同士仲良くしよう」
と言ってアスカは政子に握手を求めた。
 
「詩は手書きなんだね」
「政子は紙にしか詩を書きません。そして書きだしたらノンストップです。逆に停まってしまうともう続きが書けません」
「ほんとに天才の書き方だ。モーツァルト型なんだね。冬もだけど」
「ええ。モーツァルト型同士で相性がいいみたいです」
 
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後半は『スペイン舞曲』(ファリャ作曲・クライスラー編)から始まり、『スラブ舞曲』(ドボルザーク作曲・クライスラー編)の1番,3番などと少し本格的な曲を弾いた上で『ロンドンデリーの歌』『悪魔のトリル』
『踊る人形』などまたおなじみの曲に戻ってくる。
 
そして最後『アンダンテ・カンタービレ』(チャイコフスキー作曲・
クライスラー編)を弾いたところで幕が降りる。
 
大きな拍手。それが時間を掛けてアンコールの拍手に変わる。
 
幕があがり、アスカと私が出て行く。私はピアノの前に座る。アスカが自分でアンコールの御礼を言う。
 
「それではクライスラーの作品ではありませんが『タイスの瞑想曲』」
 
と言って演奏を始める。美しいメロディーに聴衆が聴き惚れている。
 
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音が消え入るように小さくなっていき、完全にその響きが消えてから数秒置いて大きな拍手。アスカが聴衆に向かってお辞儀をする。私に出てくるよう言って一緒にお辞儀をする。そして幕は下がらないままふたりで舞台袖に下がる。
 
拍手が再度アンコールの拍手に変わる。
 
私たちは再び出て行く。アスカが再度アンコールの御礼を述べる。
 
「それではツィゴイネルワイゼン」
 
とアスカが言うと、観客から「わぁ」という声とともに大きな拍手がある。私とアスカで頷き合って演奏を始める。
 
激しい曲だ。体力も使う。演奏会の最後の最後にこれを弾くというのは半分気合いで弾くようなものである。ただ、こういう曲をラストに演奏するというのは物凄い高揚感がある。私も残っている体力を全部使い切るような気持ちでピアノを弾いていた。
 
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終曲。拍手。アスカがお辞儀をして拍手と歓声に応える。アスカがヴァイオリンを教えている中学生が花束を持って来て贈呈する。その花束を掲げて再度お辞儀をして幕が降りる。そして政子が
 
「本日の演奏はこれをもちまして終了致します。最後までご静聴いただき、誠にありがとうございました」
 
と締めのアナウンスをした。
 

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私と政子は演奏終了後、アスカたちへの挨拶もそこそこに、手早くドレスを脱いで普通の服に着替え、羽田に急行した。福岡空港行きの便に飛び乗る。
 
「でもアスカさん、ほんとにうまいなあ。私感動した」
「小さい頃からお母さんからスパルタ教育受けてたみたいだから。この曲を弾けるようになるまで御飯無し、とか言われて、泣きながら弾いてたらしいよ」
「きゃー、私には絶対耐えられない、それ」
「うん。いろんな意味でマーサには無理だね」
 
「冬、いつもアスカさんの伴奏してるの?」
「ライブでは去年が初めて。今年が2度目」
「へー。コンクールとかでも伴奏するの?」
「それは無理。コンクールの伴奏は自分でもピアノコンクールに出られるクラスのピアニストでないと出来ない。ここ3年くらいはピアノ科の先輩で今大学院に在学中の恭子さんという人に頼んでいる。この人も今まで何度もピアノのコンテストで優勝している若手有望株だよ」
 
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「へー。その人にライブでは頼まないんだ?」
「いくつかの理由がある。ひとつはそもそもこの年末のライブは私とアスカさんのふたりで立案したものだということ、ひとつは恭子さんは多忙だということ、そして割と現実的な話として恭子さんに頼むと伴奏料が高額になって収支が辛いこと」
「なるほど!」
 
「それと最後にここだけの話。ピアニストが私の方が、集客力が出るんだよ」
「ああ」
 
「公演のパンフレットに小さく Pf.唐本冬子 と書かれているだけで絶対200枚は多く売れてる」
「そういう営業してたのか」
 
と言ってから政子は初めて私の足下にあるヴァイオリンケースを入れた布袋に気付いて言った。
 
「あれ?そのヴァイオリンは」と政子が訊く。
「今日のプログラムで最初に演奏した『美しきロスマリン』は私のヴァイオリンで弾いたんだよ。それを引き取ってきた」
 
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「手荷物に預けなかったの?」
「そんな恐ろしいことできません。マーサだってそのヴァイオリン足下に置いてるし」
「預けるの面倒と思っただけ」
 
「なるほど。私はこの子を持ち歩く時は、いつもこうやってセキュリティケーブル付けて自分のスカートのベルト穴とかに留めてるよ。今度セキュリティケーブル、マーサの分も買ってあげるよ」
 
「うん、おねがい。たしかにヴァイオリン高いもんね。でも冬、ふつうのヴァイオリンも持ってたんだ?」
 
「アスカさんが小学生の頃に弾いてたヴァイオリンなんだよ。アスカさんって楽器に名前付ける癖があってさ。この子の名前が『ロスマリン』なんで、あの曲だけこの子で弾いたんだ」
 
「へー!」
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■夏の日の想い出・限界突破(3)

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