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■夏の日の想い出・限界突破(2)

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「きれいにできたね」
「うん。ヴァイオリンを変えただけでこんなに変わるとは」
 
「じゃ来週までに今度は『パッヘルベルのカノン』練習しようよ」
「いいよ、ってか次は24日ね」
「じゃ、それで」
「マーサ頑張ってね」
「冬もフルート、もう少し広い音域まで出るように頑張ってね」
 

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11月20-23日は奄美・沖縄・宮古と遠征し、24日はいったん東京に戻って政子と一緒にスリファーズのデビューイベントに出席する。
 
そのイベントの後、スリファーズは甲斐さんと一緒に関東周辺でのキャンペーンに行ったが、私と政子は津田社長に誘われて食べ放題の焼肉屋さんに行った。
 
「わあい、食べ放題って大好き」
と言って政子は楽しそうに食べている。
 
「いや、マリちゃんを食べ放題じゃない所に連れて行くと財布が限界突破するから」
と津田さん。
「すみませーん」
と私が謝る。私たちが高2の時、日光に設営のバイトで行った後、津田さんがスタッフ一同を連れてステーキハウスに行ったら、マリがひとりで男子5人分くらい食べて津田さんが伝票とマリの前にある皿の山を見て絶句してた、などということがあった。
 
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「でも今日のお客さん、凄く反応が良かったですね」
「うん。スリファーズは売れるという予感がするよ。インディーズでは全然実績がないけど、あの子たちはあまり地道に売るタイプじゃないと思うんだよね。ある程度宣伝費を掛けて売り出した方がどーんと行く気がしてる」
 
「記者さんたちの反応が良かったから、きっとたくさん書いてもらえますよ」
「CDも取り敢えず持ち込んだ分を含めてCDショップにあった分が売り切れちゃったしね」
「PVの再生回数がさっきから見る度にぐいぐい上がってますよ」
 
「ね、ね、ケイ、さっき小学校以降で男湯に入ったことないって言ってたけど」
「あっと、それはまたその内お話しようね」
 

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「ところでスリファーズにマリ&ケイの名前で曲を提供してもらったし、kazu-manaの方も、鈴蘭杏梨の名義をマリ&ケイに戻す?」
「そうですね。そちらはそのままでいいかと。鈴蘭杏梨というブランド名ということで」
「そうだね。それもいいね」
 
と津田さんは頷いていた。
 
「君たち本体の活動はどうなの?」
「秋にアルバムの制作をしたんですけどね。須藤さんは今月くらいに予定していたローズクォーツのアルバムと同時発売したかったみたいで、リリースが延期されています」
「ローズクォーツのアルバムはまだできないの?」
「そうなんですよ。色々スケジュールが割り込んできて」
 
「ってかさ、ここだけの話、須藤君ってスケジュール組むの下手だよね?」
と津田さん。
 
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「あ、それは感じてました。なんか時間が空いてたら全体的な戦略とか優先度とか考えずに何でも放り込んでしまうから。それで結果的にローズクォーツのアルバム制作もずれ込んでる気がします。ローズ+リリーが高2の時、恐ろしいスケジュールになってしまったのも、あの須藤さんの性格という気がするし。今回は、津田さんや町添さんのアドバイスで、UTPとは委託契約にしたおかげで、私は自由に行動できるんですけどね。ただローズクォーツがハードスケジュールで動いてるから、結局、私も付き合ってますが」
 
「拒否権はあるんでしょ?」
「ありますけど、今はもう少し付き合ってもいいかな、と」
「限界突破しないようにね」
「はい」
 

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「急ぎではないんだけど、君たちにもう少し負荷掛けても大丈夫?」
「ソングライトですか?」
 
「そそ。今うちの事務所に出入りしている中学生で、歌のうまい子がいてね。中3で高校受験を目の前に控えているんで、高校に入った後、春から売り出したいと思っているのだけど、鈴蘭杏梨でも、マリ&ケイでもいいんだけど、曲を提供してもらえないかなと思って」
 
「じゃ、今度その子の歌っている所を生で見せてください」
「うん。槇原愛っていう子なんだけどね。一応これプロフと写真と歌の録音」
といって資料とUSBメモリを渡される。
 
私はその場でUSBメモリをパソコンにコピーし再生してみた。
 
「わりとうまいですね」
「うん。中学生にしては歌唱力あるよね。ケイちゃん次はいつ時間取れる?」
 
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私は手帳を確認した。
「6日と8日が空いてます。いづれも午後6時過ぎなら」
「中学生だからどっちみち平日は夕方以降になるね。じゃ6日夕方に本人をうちに来させるから、見に来てもらえないかな?」
「いいですよ」
 
政子はプロフィールを見ている。
「へー。△△ミュージックスクールに通ってるんですか」
「うん。というか、うちから紹介して通わせているというか」
「ああ、なるほど。3歳の時からピアノとヴァイオリンに、・・・三味線!?」
「ああ、お母さんが民謡の先生なもので」
「へー」
 
「写真は無いんですか?」
「あれ? 入ってない?」
「えーっと・・・」
 
といって探すが見当たらない。
 
「あれ? ごめん。入れ忘れたかな」
「あ、構いませんよ。近い内に会うんなら全然問題無いです」
 
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津田さんと別れてから私たちはマンションに戻り、少し愛し合ってから、フルートとヴァイオリンを合わせた。
 
「マーサ、一週単位でどんどんうまくなってる」
「冬もフルート、かなりよく音が出るようになってきたね」
「うん。自分でも最初の頃出てた音とは全然違うなと感じてるよ」
 
「冬、明日は?」
「ふつうに大学に行く。ちょっと行かないとやばい」
「ああ、あまり休みすぎると留年という事態も」
「そちらの限界を突破しないように勉強しなくちゃ」
 

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私はその後、25日夕から12月6日朝に掛けて九州・中国・北陸と駆け回った。6日朝は北陸から夜行バスでの帰着だったので、さすがに身体が悲鳴をあげていた。それでも頑張って大学に行き講義を受け、夕方△△社に行く。
 
「おはようございまーす」
と言って政子とふたりで玄関を入ると、そこにセーラー服を着た少女がいた。
 
「あれ?三千花ちゃん?」
「あれ?冬・・・子さん!」
 
「知り合い?」と政子が訊く。
「うん。従姉の子供。従姪(いとこめい)ってのかな」
 
そこにいたのは、従姉の友見(聖見の姉)の娘の三千花であった。友見一家は埼玉県に住んでいる。
 
「あ、こちらからは冬子さんは従叔母(いとこおば)になるのかな」
「なんか難しいな。でもまあ冬は《いとこおじ》じゃなくて《いとこおば》ということで良かったね」
 
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「ところで三千花ちゃん、こんな所に何の用?」
「実は私今歌のレッスン受けてて、春くらいにデビューなんて話もあって」
「すごーい! いつの間に」
「もっとも今高校受験で大変だから、それが終わるまでは何もできないですけど」
「へー」
 
「冬子さんはここの事務所と何か関わってるんですか?」
「うん。私とマリは以前ここの事務所に所属してたんだよ」
「へー!知らなかった」
 
「三千花ちゃん、ソロでデビューするの?」
「はい。その予定です。今日は何だか、偉い作曲家の先生に引き合わせるからと言われて。怖い先生だったらどうしよう?なんてちょっと不安」
 
私と政子は顔を見合わせた。
 
「ね、三千花ちゃん、その先生の名前は?」
「鈴蘭杏梨先生っていうらしいんです。この事務所の kazu-mana とかいうデュオに曲を提供しておられる先生らしいです。その先生の作品CDで聴いてみたけど何だか軟弱で甘ったるい感じで私の好みじゃないなあ」
 
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私と政子は再度顔を見合わせた。
 
「ね、槇原愛って名前知らない?」
「あれ?冬子さん、どうして私の芸名知ってるんですか? 先月頂いたんですが、恥ずかしいからまだお母ちゃんにも言ってなかったのに」
 
「あ、えっと私とマリがその鈴蘭杏梨なんだけどね」
「えー!?」
 
などと言っていた時、事務所の奥から津田さんが出てきた。
 
「あ、ごめん、ごめん、待たせた?」
などとは言ったものの、私たちの異様な雰囲気に気付く。
 
「君たち、どうかしたの?」
 

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「それはまた凄い偶然だね〜。ケイちゃんと愛ちゃんが親戚だったとは」
と言って応接室で、津田さんは笑っていた。
 
「じゃ鈴蘭杏梨って、マリ&ケイの別名だったんですか?」と三千花。「けっこう世間では知られてるかと思ったんだけどね」と私。
「まあでもそのことは一応非公開だからね、建前的には」と津田さん。
 
「ごめんなさい。私、変なこと言ってしまって」
「無問題。マリが燃えてるから、多分kazu-manaとは全然別傾向の曲を渡せると思う」
と私は笑って言う。政子も全然気にしている様子は無い。
 
「愛ちゃん、何か変なこと言ったの?」と津田さんが訊く。
「いや、ほんとにごめんなさいです」
と三千花は恐縮して縮こまっていた。
 
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「ただですね、津田社長」
「うん」
「この子、性格的にロック系が好きでしょ? Red Hot Chili Peppers とかArctic Monkeys とか、聴いてるみたいだし。フォーク系のkazu-manaとはアレンジャーを変えた方がいいと思うんです」
三千花本人も頷いている。
 
「ああ、なるほど」
「ロック系の得意なアレンジャーさんにお願いしてもらえるよう下川先生には言ってもらえませんか」
「了解」
 
「じゃ、春までに曲は用意しておくから、受験勉強頑張ってね」
「はい!」
 

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私はこの後、7日は夕方から休めたものの、8日は富士宮ノエルの新曲発表会に顔を出し、9日は名古屋、10日は静岡まで新幹線往復でローズクォーツのドサ回りに付き合い、11日は政子と2人でロシアフェアに行ったが、この時花村唯香のライブステージで、私とマリが伴奏を務めることになった。
 
政子はロシア大使館が所有している1400万円クラスのヴァイオリンを借りたのだが、政子は調弦できないとか、譜面が読めないなどと発言して大使館の人を不安がらせたものの、美事にその銘器を弾きこなして、美しい音色を添え、大使館の人をホッとさせていた。
 
「政子、しっかり弾きこなしてたね」
「うん。凄くいい感じで音が出るなと思って弾いてた。でもね」
「うん」
「感覚が遠い気がした」
「へー」
「ヴァイオリンがクジラでさ、私はそのお腹の肉をちょっとだけ食べてる感じだったんだよ」
 
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「マーサらしい表現だけど、つまりマーサの技術がヴァイオリンの能力に足りないということだろうね。いっぱい練習するといいよ」
「うん。とりあえず、うちのアルちゃんを弾きこなしてからだね」
「アルちゃん?」
「アルティーダだからアルちゃん」
「へー」
「ちなみに10月に買ったヴァイオリンは初めて買った4/4(4分の4)ヴァイオリンで中国娘だから、イーちゃん」
 
「中国語の数なんだ!」
「そそ。イー・アル・サン・ス−。だから次に買うのはサンちゃんかも」
「サイレント・ヴァイオリンは?」
「そちらは別系統だから、ユキちゃん」
「どこからそんな名前が・・・・」
 
「ちなみに冬に渡したフルートはハナちゃんね」
 
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翌日、夕方から博多でローズクォーツのドサ回りの最後のライブが予定されていたが、政子は「博多のラーメンが食べたいから付いてく」と言った。
「あ、旅先でもヴァイオリン練習したいからユキちゃん(サイレント・ヴァイオリン)連れて行こうかな」
などと言うので
 
「あ、いいんじゃない」
と答えた。
 
「だったらさ、旅支度して付いてきて」
「もう今から出るの?」
「寄る所があるんだよ」
 
それで私は政子を都内のホールに連れて行った。
 
「蘭若アスカ、ヴァイオリン・リサイタル?」
「まだ♪♪大学に在学中なんだけど、既に国内外のヴァイオリンコンクールで10回くらい優勝している、若手注目株だよ」
「へー」
 
「あれ?でもリサイタルは午後からだよ」
「これからリハーサルがあるから」
と言って、政子を楽屋口の方に案内する。
 
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「お友だち?」
「私の従姉」
「えー? 冬の従姉にそんな人がいたんだ!」
 
楽屋口から中に入っていくと、ちょうどアスカとお母さんが何か話している所に出くわす。
 
「おーい、遅ーい」
とアスカから言われる。
 
「ごめん、ごめん。あ、これ私の相棒のマリこと中田政子」
「よろしく〜」とアスカ。
「ということで、こちら私の従姉の蘭若アスカ」
「初めまして、よろしくお願いします」と政子。
 
「じゃ早速リハーサル始めるよ」
「OK。マーサは観客席で見てて。勉強になるよ」
「ん? 冬は何するの?」
「今日のリサイタルのピアノ伴奏」
「へー!」
「去年もしたんだよ」
「えーー!? いつの間に」
 
「この子が中学生の頃まではだいたい私がいつも伴奏してたんですけどね〜。私のピアノの腕ではもう間に合わなくなってしまって、この子が高校生の頃からは、かなり冬ちゃんに練習の伴奏もお願いしてたんですよね」
とアスカの母が言う。
「へー、そんなに冬ってピアノがうまかったのか」
 
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「マーサ、特にヴァイオリンには興味無いかなと思って去年は誘わなかった。あそうそう、アスカさん。政子は10月からヴァイオリンの練習始めたんですよ」
 
「へー。ヴァイオリンケース持ってるね? どんなの弾いてるの?」
というので政子がサイレント・ヴァイオリンを見せると
「なるほど、こいつか!」
と笑っていた。
 

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