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■夏の日の想い出・破水(3)

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「そそ。レイシーがそういうのうまいのよ」
「へー、レイシーさんがアレンジしたんですか。あ、これコピーもらえます?私も知り合いに聞かせます」
「うんうん。良かったらあちこち売り込んでよ。今度自主制作CD作るつもりだから、できあがったら1枚あげるね」
「わあ、楽しみにしてます」
と言って私は自分の住所を書いて渡した。
 
それで私はこの音源を畠山さんや丸花さん、津田先生などにお聴かせした(と思う)。
 
結局スリーピーマイスはその年の11月にメジャーデビューすることになるが、メジャーデビューするにあたってこの曲は『仮面武闘会』と改題された。スリーピーマイスの3人が振袖を着てフェンシングの仮面のようなものを付け日本刀を持って踊るというB級っぽい怪しげなPVも制作された。
 
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彼女たちをデビューさせることになったプロダクションは○○プロの友好プロダクションのひとつで、後に丸花さんが「あれはケイちゃんからこの人たちいいです〜、と言って音源を聴かせてくれたから、僕も行けると思って、パンクバンドとかも抱えているあそこを紹介したじゃん」などと言っていたから、やはり私が丸花さんに聴かせたのが彼女たちのメジャーデビューの後押しになったのだろうと思う。
 
ただその付近の記憶も、当時の超絶ビジーな時間の中でとても曖昧である。
 
(ちなみに穂津美さんたちも、ローズ+リリーの片割れが私であることには、12月に例の大騒動の時に私が記者会見をしているのを見て初めて気付きびっくりしたと言っていた)
 
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なお、穂津美さんはこのスリーピーマイスの活動開始に伴ってKARIONのバックバンドから離れ、それ以降、バックバンドのキーボード奏者は私で固定される。
 

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私と政子が唐突にステージに立たされた日(8月3日)の時期は実はスタジオでサウザンズの音源制作にも関わっていた。毎日ギターやベースのチューニングをすると共に、1曲私のヴァイオリン演奏を加えた楽曲もある。
 
サウザンズの音源制作は8月7日に終わったが、翌8日私と政子はローズ+リリーとして初めて名乗ったライブ、戸島遊園地でのライブを行った(これを奈緒に見られた)。
 
そしてその翌日の8月9日に私は間違いなく『雪の恋人たち』『坂道』の音源を畠山さんにお聴かせしている。
 

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「これがその期間限定で作ったユニットの子とのデュエットか」
と畠山さんは、うなるように言った。
 
この日は私と畠山さんと和泉の3人だけだった。
 
「この歌の歌詞は誰が書いたの?」と和泉が訊く。
「この歌っている相手の子」
 
「私、負けない」とメラメラした瞳で和泉は言った。
 
ライバル宣言だなと私は受け取った。
 
「編曲は蘭子ちゃん?」
「そうです。ミックスダウンも」
 
「これ、蘭子ちゃんが編曲・ミックスダウンしてなきゃ、あまり売れない歌になってたかも知れない」
「ふふふ」
「魅せ方が巧妙だよ」
と畠山さんは言う。
 
「蘭子ちゃんの歌は和泉ちゃんの歌と傾向が似てて、基本的にうますぎるんだよ。ポップスじゃなくてクラシック歌手を目指してもいいくらいうまい。でもKARIONでは、ふつうにうまい小風ちゃん・美空ちゃんとの組合せで、ほどよい聴き良さに仕上がっている。でもこの蘭子ちゃんとお友だちとの歌の場合、相手は明らかに下手。でもその下手さを親しみやすさとして利用して編曲・ミックスをしている」
 
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「これもし売れたら、多分冬より、相手の子の方に人気が集中するよ」
と和泉が言う。
 
「うん。私はそれでいい」
 
「自分で光り輝く力を持ちながら、敢えて引き立て役に徹するんだ?」
 
「このユニットでは私、最初から性別をカムアウトするつもりでいます。父にも今月中に話をしようと思っています。今回の△△社さんのプロジェクトは今月いっぱいで終わるみたいだから、その後、あらためてデモ音源を持ってあちこち売り込みに行こうかな、と。その時、私が女の子でないとしても、引き立て役であれば、あまり問題無いでしょ?」
 
結局世間からはどうしても「色物」と見られてしまう宿命のある自分を活かす一番の方法は、別の女の子をスターとして据え置き、自分はその引き立て役になることだという結論に、当時私は達していた。その素材として政子という強烈なキャラクターは代えがたい存在だと思っていた。
 
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「いや、あちこち売り込みに行かなくても、うちと契約してよ。メジャーにも僕が売り込むからさ。性別問題があっても、これだけうまくて、蘭子ちゃんがこれだけ女の子らしければ問題にならない」
と畠山さん。
 
「たださ」
と和泉は言った。
「そちらのプロジェクト、本当に今月だけで終わるの?」
「へ?」
「うん。それが僕も心配。このまま人気出ちゃったりしないかな」
「えー?」
 
そのことは実際、私は想定外のことであった。
 

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その日の夕方、私は丸花さんに会って、やはり音源をお聴かせした。お電話をして、音源を作ったので良かったら聴いてくださいと言ったら、会って聴くとおっしゃったので、夕方、ファミレスで会い、イヤホンでお聴かせする。
 
「実はね、先日ある所で、君がひとりで歌っている音源を聴いた」
「それ・・・もしかして『花園の君』『あなたがいない部屋』ということは?」
「あ、そうそう。そんなタイトルだった」
 
じゃモーリーさん、ほんとにあの音源をあちこちに売り込んでくれてるんだ!でも私にもちょうだいよ〜。
 
「どうでしょうか?」
「あれも素晴らしいと思ったが、こちらの方がいい」
「そうですか」
 
「あの音源は美しすぎる。うますぎるんだよ。鑑賞するにはいいけど、売れるかどうかは微妙だと思った。この音源は間違いなく売れる音源だよ」
 
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そして丸花さんは言った。
 
「今度浦中にも言っておくからさ。スズメちゃんの方は、例の件何とかしてよ」
「父へのカムアウトですよね。頑張ります」
「うん。それさえクリアできたら、こちらは始動するから」
 
「はい、ただ、他の事務所との話もあるので」
「そこはまあ話し合いだな」
と丸花さんは笑顔で言った。
 

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8月のある日、私は自分の部屋で高校の女子制服(夏服)に着替えて、居間でテレビを見ていた父の前に出た。
 
「あれ?お客さんでしたか、いらっしゃい」
と言う父に私は
「お父さん、私、冬彦だよ」
と女声で言った。
 
「へ?」
と言って目をぱちくりさせた父は
「お前冬彦!? へー。なんかそうしてると、まるで女の子みたいだな。何かの余興か?」
と笑って言う。
 
「お父さん、私ね」
と言って、自分の性別のことをカムアウトしようとした時、父の携帯が鳴る。
 
「あ、待って」
と言って、父は携帯に出た。
 
「はい、はい。えー!? 分かりました。すぐ行きます」
と言った父は
「すぐ出かけなきゃいけなくなった」
と言って慌ただしく背広に着替えて出かける。
 
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「冬彦、ほんとにお前女装が可愛いぞ。いっそ性転換してもいいかもな」
などと言って飛び出して行った。
 
私はどっと疲れて椅子に腰を下ろした。
母がポンポンと肩を優しく叩いた。
 

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須藤美智子が主導する「ローズ+リリー」プロジェクトの方では、8月10日に大阪のイベントに参加する。そしてここでパラコンズのくっくにキスされるという事件もあった。翌日須藤さんは私たちを呼んで「CDを作ろう」と言い、スタジオを3時間借りてバタバタと5曲を吹き込んだ。伴奏は全部須藤さんが打ち込んだMIDIである。
 
さて、ここで実は私は「ちょっとしたイタヅラ」をした。このことは永遠に秘密である。
 
スタジオから戻ってきて須藤さんは事務所の中の自分の机の上でパソコン上でCubaseを使ってミックスダウン作業を始めた。ところが作業中に電話が掛かってきて「ごめーん。2時間ほど出てくるから、お昼食べて休んでて。戻って来てからジャケ写を取りに行こう」と言って出かけてしまう。
 
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そこで私は政子に言った。
「ボクこれちょっと見せてもらっているから、政子は近くで御飯食べておいでよ」
「うん。冬はお腹すかないの?」
「うん。昨日大阪と往復してまだ疲れが残ってるからあまり入らない」
「OK。じゃひとりで食べてくるね」
 
そしてひとりになったところで私は須藤さんが編集仕掛けの画面を少しいじり始めた。須藤さんの性格はだいたい把握していた。ここでデータが少々変わっていてもたぶん気付かない。
 
私の編集方針はシンプルである。「耳に馴染みやすくすること!」
 
あまり時間が無いので、恐らく中核曲になると思われた『ふたりの愛ランド』
に絞って私は編集した。逆に須藤さんはこの曲は軽視している感じで、表題曲の『明るい水』とそれに準じる扱いの『七色テントウ虫』に力を入れている感じだった。スタジオ技術者として1年以上、多数のアルバム制作に関わってきた経験と勘が、このCDの中では絶対『ふたりの愛ランド』が中核だと私に告げていた。そして須藤さんが軽視している分、きっと多少変更されていても気付きにくい!
 
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私がほぼ編集を終えた頃、政子が戻って来て
「冬〜おみやげ」
と言って、山のような量のパンを置く。
 
「こんなに入らないよう〜」
「じゃ一緒に食べよう」
と政子は言い、実際には9割くらい政子が食べた。
 
やがて須藤さんが戻って来て、私たちはジャケ写を取りに写真スタジオに行った。
 

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写真スタジオから戻って来てから、須藤さんは写真の編集を甲斐さんに任せて自分はCubaseの編集を続けた。
「うん。だいたいできたかな」
と須藤さんが言った頃、甲斐さんも写真の編集を終えてデータを持って来た。
 
その時私は言った。
「須藤さん、私もCubase勉強しているので、よかったらこのCubaseのデータをコピーさせてもらえませんか?」
「ああ、いいよ」
 
と言って須藤さんはデータを私のUSBメモリーにコピーしてくれた。
「ありがとうございます」
 
ここで私がこの「元データ」をもらっておいたのが後で意味を持つことになる。
 

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このCDを作った日の翌日、私たちは水戸に行き、ローズ+リリーとしての3回目のライブを行った。この時昨日プレスしたCDを持って行ったのだが、全部売り切れてしまった。須藤さんは買えなかった人たちに「通販しますから」と言ってホームページのアドレスを書いて配っていたが、そのホームページはその日東京に戻ってから、須藤さんが1時間ででっち上げて立ち上げた。
 
このあたり須藤さんの無計画性・行き当たりばったりな性格というのが、良くも悪くも出ていたという気がする。きちんと計画して行動するタイプであれば、ローズ+リリーは売れる機会を逸していたであろう。
 
14-15日は私と政子はお盆の追悼イベントの会場設営をしていたのだが、そこに須藤さんが来て、私に言う。
「ね、唐本君、昨日コピーしてたCubaseのデータ、明日でも良いから持って来てくれない?」
「はい」
 
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「いや。実はさ、CDが売り切れちゃったでしょ。それで再版しなきゃというのでデータを探したんだけど見つからなくて」
 
見つからなくてじゃなくて、再版になることはあるまいと思ったから削除したんじゃないかと私は思ったが「分かりました。持って来ます」と答えた。
 
実際ジャケ写のデータも「見つからない」と言って、素材集の薔薇と百合の写真を使ってCD制作用のデータを作成していた。
 
なお、この1日で売り切れてしまった第1ロットCDを私は3枚だけ自分用に確保していた。そして1枚は畠山さん、1枚は丸花さんに渡し、1枚は自分用に持っていた。しかし翌月やっと熱海温泉で偶然雨宮先生と遭遇することができた時、残りの1枚(本来は自分用)を差し上げたので、結局この記念すべき第1ロットのCDを私は1枚も持っていない。
 
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後から聞いた話では、どうもこのCDが1日で売り切れたという話を聞いた浦中さんが、このユニットは化けるのではと考えて、私たちのメジャーデビューについて検討を始めたらしい。
 
最初、浦中さんは実際にどこかに聞きに行こうとしたらしいが、そこにふらりと丸花社長がやってきて、しかもローズ+リリーのCDを持っている。聴いてみると良い雰囲気である。丸花さんは更に私たちの別の音源も浦中さんに聴かせた。「むしろこの自主制作音源の方がいいですね」と浦中さんは言ったという。
 
「この子たち売れるよ」
と丸花さんが言うので、社長が言うのであればということで浦中さんはすぐに★★レコードの町添さんに連絡した。町添さんは次のローズ+リリーのイベントが浦和で行われた16日に秋月さんを偵察に派遣した。しかしその日会場に持ち込まれた2ロット目のCDも全部売り切れ、秋月さんはCDを買って帰ることができなかった。
 
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秋月さんが「この子たち、すごっくいいです」と報告したので、次は加藤課長と一緒に30日の富士急ハイランドのイベントを見に行くことにした。その間、実はレコード会社では興信所を使って私と政子の「素行調査」も実施したらしい。その内容についてはずっと後になって秋月さんが笑いながら私に教えてくれた。
 
その週、私はだいたい日中は補習に出ていて、夕方はスタジオに行っていた。
 
調査した興信所の人は私を女の子と思い込んでいるので、朝の登校中の私は(実は学生服姿なので)どうしても発見できなかった。しかし下校する時は私は女子制服姿なので、それをキャッチして尾行する。それで私がどこにも寄り道せずにバイト先のスタジオに入り、そこでの仕事を終えたら、まっすぐ帰宅するのを確認する。
 
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■夏の日の想い出・破水(3)

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