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■夏の日の想い出・音の伝説(2)

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私と政子も中村さんがUTPの事務所(アカデミーの本部はUTP事務所に同居している)に来訪した折、少し話した。
 
「いつ東京に戻って来られたんですか?」
「正月明けに戻って来た。実は年末で勤めていた料理店が閉店になって」
「あらあ」
「個人的な交流のあった歌手の吉野鉄心さんに呼ばれて、アルバム制作のお手伝いをしてたんだよ。主に作曲、制作、それにギター伴奏をしたんだけどね。その間、吉野さんが家賃とかまで払ってくれて」
 
「わあ、良かったですね」と私。
 
「そうそう。それで共演したベーシストがちょっと凄い人でね」
「上手いんですか?」
「まあ俺よりは上手い。でも凄いのはそれより耳が聞こえないことなんだよ」
「耳が聞こえないのに演奏できるんですか!?」
 
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「ギターやベースはフレットが付いてるから、正しいポジションで押さえて鳴らせばその音が出るんだよね。だから耳が聞こえなくても指使いが正確にできれば、ちゃんと正しい音を出せる。キーボードなんかもそうだよね。ヴァイオリンじゃ耳が聞こえないと厳しいだろうけど」
 
「チューニングは他の人がしてあげるんですか?」
「今の世の中、チューニングメーターというものがある」
「あ、そうか! 音痴の人でもチューニングできる機械だと思ってたけど、耳の聞こえない人にはとても助かる機械ですね」
「そうそう」
 
「それにしても凄い」
「うん。彼は凄いよ。彼と一緒に音作りしていて、耳が聞こえてる自分はもっと頑張らなきゃという気持ちになってきた。何か新しいことを始めたい気分」
 
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「わあ、ぜひそれは始めましょうよ」
 
「でも取り敢えず3月中旬でその仕事が終わるんで、さてこの後どこで何をしようかなと思ってた所で、諸伏さんからお声が掛かってね。それで取り敢えず東京に居座ることにした」
 
本来の講師報酬はそんなに高くないのだが、中村さんに関しては宣伝効果を期待して、家賃を全額アカデミーが負担することにしたのである。
 
「でもやはり新しいバンドとか結成するんですか?」
「それも考えてはみたんだけど、それをやるにはまだもう少し自分的には充電時間が欲しい気もするんだよね。取り敢えずここの講師を何年かした後かな」
 
「その内、私たちとも一緒に何かしましょう」
 
などと半分外交辞令的な挨拶でその日は対談を終えた。
 
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詩津紅たちと6台のピアノでのセッションをした週の週末は、ローズ・クォーツ・グランド・オーケストラのオーディション、そして第1回目の練習を行った。(練習には美野里や詩津紅たちにも来てもらった)
 
練習が終わった後、駅の方に歩いて行く中、何となく指揮者の渡部さん、第一ヴァイオリンの桑村さん、タカ、宝珠さん、それに私と政子の6人でグループっぽくなったので「もし良かったら軽食でも一緒に」と言ってみたらタカが「飲める所がいい」などというので、6人で居酒屋さんに入った。
 
渡部さんはお酒を控えているようだったが、桑村さん、タカ、宝珠さんがビールを頼み、私たちは烏龍茶で乾杯する。
 
「でも本当にみなさん上手い人ばかりですね」と宝珠さん。
「いや、こんな上手い人たちと共演させてもらっていいのかなと正直申し訳無いくらい。オーディション受けてたら俺落ちてそう」とタカが言うが
 
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「いや、星居さんのギターテクは充分高いと思う。調和して演奏するのも上手いし」
と桑村さんが褒める。
 
「しかし演奏陣も凄いけど、マリさん・ケイさんの歌も素晴らしい。とても安定してる」と渡部さんは言う。
「この話が来てから、ローズ+リリーのCDを全部聴いたんだけど、マリさんはデビュー当初から物凄く進歩したね」
「はい、私天才ですから」とマリ。
 
「うんうん。歌の上達の仕方も作詞も天才。ケイさんも凄い。ケイさんは元々歌が上手かったけど、初期の頃のCDを注意して聴いても、とても男性歌手の声には聞こえないんだよね。よくこういう発声法を身につけたよね。誰かに指導を受けた?」
 
「何人かアドバイスしてくれた人はいるけど、ほとんど独学ですね」
「そのアドバイスした人の話を聞きたいな」と政子。
「声変わりが来なかった訳じゃないんでしょ?」と宝珠さん。
「来ました。私の地声はこんな感じです」
と私は滅多に他人には聞かせない男声を出してみる。
 
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「すごーい。でもその声もやや中性的かな」と宝珠さん。
「うん。女性と思い込んでいたら女性の声に聞こえるかも」と渡部さん。「和*ア*子の声なんかと雰囲気似てる」と桑村さん。
 
「ケイは声変わりが来始めの頃に去勢しちゃったから、声変わり軽く済んだんですよ。だから喉仏もほとんど目立たない」
と政子が言う。
 
「そんな小学生で去勢とかしないって」
「あ、生まれてすぐ去勢したんだっけ?」
「んな馬鹿な。去勢したのは大学に入ってからだよ」
「ほんとかなあ」
 
「まあ凄い努力して今の発声を身につけたんだろうね」
 
と宝珠さんがフォローしてくれたが、それを聞いて渡部さんが
 
「そうだ。努力の発声というと、今日こちらに来る途中、田中鈴厨子と会ったよ」
と言い出した。
 
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「あ、渡部先生は以前田中先生とテレビ番組で共演なさっていたんでしたね」
「南の島ホリデイでしたっけ?」
「そうそう。彼女が番組のホステス役で、いろんな歌手を迎えて一緒に唱歌とか名曲とか歌ったりするの。それで僕がその伴奏楽団を指揮していて、彼女とは結構コミカルなやりとりとかもしてたんだ。台本だけどね」
「へー」
 
「そんなつながりがあったから、彼女が突然耳が聞こえなくなったという時はお見舞いに行ったけど、当時は物凄く落ち込んでいたね」
 
「歌手にとって聴覚を失うのは辛すぎます」
「うん。それで実際何度か自殺未遂もしたんだよ。報道はプロダクションが押さえたんだけど」
「まあ、当時のあそこのプロダクションなら、テレビ新聞雑誌社全部押さえられたでしょうね」
「うんうん。影響力が凄かったからね」
 
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「だから作曲者として再起して、花村かほりの『帰りたい』をヒットさせてレコード大賞取った時は僕も自分のことみたいに嬉しくてね。でっかい花束を贈った」
「わあ」
 
「そして声も頑張って口話法の読話・発話を身につけてね。静かな所で集中していれば相手が耳が聞こえてないことに気付かないくらいうまく日常会話が出来る」
「凄いですね。本当に努力なさったんでしょうね」
 
「あ、田中鈴厨子って何か聞いたような名前だと思ったら、こないだスタジオで会ったおばちゃんか」
と政子が言う。
「マリ、その『おばちゃん』という言葉は使ったらダメ」
「あ、ごめーん。お姉さん?」
「いや。先生でいいよ」
「あっそーか」
 
宝珠さんが笑いをこらえていた。
 
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「まあ、いいおばちゃんになったけどね。昔はアイドルだったから、ライブでは男の子たちの物凄い歓声が起きてたんだけどね」
と渡部さん。
「その歓声を上げてた男の子たちも今は良いおじさんですよね」
と桑村さんが言う。
「そうそう。年というのは無情だよ。誰でも年々年を取っていく」
 
「でも聴覚を失ったのに、作曲であれだけ活躍しておられるのは凄いです」
「うん。現役時代には全然作曲とかしてなかったみたいに見えるけど、実際は結構書いてたらしいね。それで様々なペンネーム使って、自分のアルバムに入れたり他の歌手に提供したりもしてたらしいよ」
「へー」
「アイドルがそういう活動してるとアイドルっぽくないというので公にはできなかったみたい」
「なるほど」
 
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「でもだからこそ今作曲ができるんですね」
「うん。耳が聞こえていた頃に全然作曲したことが無かったらさすがに厳しいんじゃないかなあ」
「作曲の工程が分かってるから、頭の中で鳴り響く音を頼りに曲が書けるんでしょうね」
 
「でもね」と渡部さんは言った。
「僕は彼女に『歌わない?』と時々言ってるの」
「歌えるんですか?」とタカが尋ねる。
 
「コーワコーで聞こえなくても声出せるんでしょ?こないだ話してたのも結構しっかりしてたね」
と政子が言うので
「口話法ね」と私は訂正する。
 
「うん。彼女は口話法うまいよ。それだけきちんと発話できるなら、それで歌うこともできるはずだと僕は言うのだけど、そこまでは自信が無いと言うんだ」
 
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「正しい声が出ているかどうかも不安なのに、正しい音で出ているかというのは更に不安でしょうね。自分で確かめる方法が無いから」
「うん。でもそのあたりは例えば今出した音が高すぎる場合は赤い札、低すぎる場合は青い札、みたいな感じで補助者が教えてあげたら、正しい音で出す練習はできると思うんだ」
 
「原理的にはそうかも知れませんが、本人が乗り越えるべき壁は大きいんでしょうね」
と宝珠さんが言う。
 
「うん。凄く大変だと思うけど、できないことは無いと思うんだよね。特にあの子は昔から努力の子だったもん」
 
やがてそろそろ出ようかという話になる。
 
「さて、割り勘でいいかな」と言って渡部さんは伝票を取ったがギョッとしている。ふとテーブルを見ると、マリの横に物凄い数の皿が積み上げられている。
 
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私は苦笑して「今日のお会計は私に出させてください」と言った。
「あ、それじゃ、御御馳走様」
と渡部さんは言いつつ、マリの横の皿から目が動かない感じであった。
 

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そしてちょうどその晩のことだった。私と政子がベッドの上でイチャイチャしてた所に町添さんから電話があった。
 
「ケイちゃん、間島香野美さんって知ってる?」
「ゆきみすず先生ですね。某ユニットでお世話になりましたので、面識はあります」
 
ゆきみすずはKARIONの初期の作品の作詞者である。この人は美智子と同じサンデーシスターズの出身だが、シスターズの中では最年長の部類に入り、美智子より5つくらい年上だったはずである。作詞者としては「ゆきみすず」、歌手としては本名の「間島香野美」を使い分けている。
 
「ああ、そういえばそうだったね。実は彼女が歌手デビュー30周年でね」
「わあ、凄い」
「ここ10年ほどは実際の歌手としての活動は少なくて、もっぱらソングライター、特に作詞者としての活動がメインになってるんだけど、歌手を引退した訳では無いので、記念のアルバム制作とコンサートを開こうという企画が出ていて」
「それはおめでとうございます」
「ということで、忙しいのに申し訳無いのだけど、1〜2曲、アルバムに入れる曲を提供してもらえないかと思って」
「いいですよ。アルバムのイメージみたいなのはありますか?」
「タイトルは『音の伝説』というのだけどね」
 
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「伝説か・・・・部長」
「うん」
「間島先生の歌手デビューって、田中鈴厨子先生とのペアでしたよね」
「そうそう。スノーベル。田中鈴厨子もサンデーシスターズでそちらはすずくりこだったから、ゆき・すずでスノーベルなんだけどね。それで3年ほど活動した後で間島さんが結婚するということでいったん解散した。だから今回は久しぷりに、ゆきみすず作詞・すずくりこ作曲の歌が作られる。もっとも当時はそのペアで書いても他人名義に仮託されていたのだけどね。印税はちゃんと本人達に渡されているのだけど」
「ああ」
 
実はこの時期、★★レコード内部ではワンティスの曲の作詞者名義問題で大騒動になっていたのであった。
 
「いっそそのお二人のデュエットを再現できませんか?」
「それは無理だよ。田中鈴厨子は耳が全く聞こえなくてね。補聴器とかでも使って少しでも聞こえるなら何とかなるのかも知れないけど」
 
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そこで私は渡部賢一さんと田中鈴厨子のことを話したこと、渡部さんがかなり積極的に歌手復帰を勧めていることを話した。またnakaから聞いた耳の聞こえないベーシストのことも話した。
 
「ふーん。その話を聞くとひょっとして歌えるのかも知れないという気になってくるね」
 
「歌うタイミングについては、たとえば間島先生と向かい合ってもらい、間島先生が歌う唇の動きを見ながら一緒に歌ってもらうという手もあるとなんて話もしたんです」
「ああ。それなら何とかなりそうだね。しかし音程はどうする?」
「喉の使い方と音程との関係を把握する訓練をしてもらうんです。この感じの喉で声を出せば、この高さの音になるというのを覚えてしまえばちゃんと歌えるはず、と渡部先生はおっしゃるんですけどね」
 
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「なんかケイちゃんの話を聞いてたら歌えそうな気がしてきた。ちょっとその辺り調べてみる」
「はい、お願いします。もし歌えたら、田中先生自身、物凄く自信を回復できるんじゃないかと思うんです」
「うんうん」
 

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その週の金曜日、★★レコードで会議が行われた。
 
町添部長、加藤課長、ゆきみすず担当の小池さん、技術部の則竹さん、それに渡部賢一さん、私と琴絵!、そして聴覚障碍者の歌唱について論文を書いたことのあった****大学の太田准教授といったメンツであった。
 
最初に町添部長が解説する。
「聴覚障碍者の歌というと手話歌ですか?なんと随分聞かれたんだけど、聴覚に障碍を持っている子供とかが普通に歌ったりしてる例もあるんですね。私も太田先生に連れられて支援学校に行って、耳の聞こえない子供たちが歌っている所を見学させてもらったのだけど、調子っ外れで歌っている子や単音程でラップみたいに歌っている子もいるけど、けっこう良い音程で歌っている子もいてね。そのあたりは障碍の程度の差もあるけど個人差も大きいという話だった」
 
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加藤課長も補足する。
「それとこれもケイさんから教えて頂いて、耳が聞こえないペーシストがいるということで、その人が他のレコード会社ではあるのですが、吉野鉄心のアルバムの製作に参加して、更にはライブでの伴奏もするということだったので、練習しておられる所にお邪魔して聴かせてもらったのですが、しっかり演奏しておられるので驚きました。音でタイミングを取れないのでドラムスの人の方を向いてそのスティックの動きを見てベースを弾いてるんですね。ケイ先生が言っておられたように、ゆきさんとすずさんが向かい合って歌うというのはアリだと思いました」
 
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