[携帯Top] [文字サイズ]
■夏の日の想い出・小3編(3)
[*
前p 0
目次 8
時間索引 #
次p]
「わあ・・・・」
「冬もそのうち、手術で女の子に変えてもらったら?」とリナが笑顔で言う。
「そうだね〜。でも、どんな手術なんだろ?」
「やっぱり、お股の形を女の子の形に作り直すんだろうね」
「おちんちんとたまたまは取るんだろうね」
「あ、おっぱいも大きくするんじゃない?」
僕はその「男の子から女の子に変える手術」というのに興味を持った。お股を女の子の形にする。女の子の形か・・・・
僕は幼稚園の頃女の子の友だちとしたお医者さんごっこで、女の子のお股には、割れ目ちゃんがあることは知っている。また1度だけ、近所の小さな女の子がおしっこをしているところを偶然目撃したことがあるので、その割れ目の中からおしっこが出てくる、つまりあの中におしっこの出てくる所があることだけは知っている。しかしそれだけなのか、他にもあの割れ目の中に何かあるのかはちょっと謎だった。
「女の子から男の子にするには、おちんちん移植するのかもね。おっぱいは取るのかなあ」
「あ、男の子から女の子になる人から取ったおちんちんを移植すればいいんじゃない?」
「ああ、なるほど」
「そういえば、僕のおちんちん取って、麻央にくっつければいい、なんて言われてるなあ」
「ああ、いいかもね。麻央にはおちんちんあってもいいと思うよ」
「冬は、おちんちん無くてもいいんでしょ?」
「うん、無くてもいい気がするよ」と僕は答えた。
女の子のお股の構造については、その年の2学期に学校の授業で少しだけ知ることになる。
その日の午後、運動会の前に校庭の草むしりをするということで、僕たちは各自スコップを持って校庭に散っていた。僕は何となく仲良しの女の子たちと一緒におしゃべりしながら作業していた。その時、学級委員長の女子が僕たちのグループの所に寄ってきて
「ね、3年生の女子だけ視聴覚教室に集合だって」
と言った。
僕はへー、女子だけ何をするんだろ?と思った。
一緒に作業していた女の子たちが立ち上がり、行きかけたが、その時僕が一人取り残された格好になったのに気付き、麻央が「冬もおいでよ」と言った。
「あ、そうだね。冬ちゃんって半分女の子だもん。来ていいと思うな。それに一人で草むしり続けるの寂しいでしょ」と他の子も言う。
それで、僕は彼女たちに付いていってしまった。
60人ほど入る視聴覚教室が3年女子でいっぱいだ。同じクラスの子が数人僕に気付いたが何も言わない。僕は教室の長椅子に、麻央とリナに挟まれて座った。少々定員オーバーなので、ふたりと身体が接触する。なぜかドキッとしたが、麻央から「冬って、身体の感触が女の子だよね」と小声で言われた。
「あ、そうそう。他の男の子みたいに硬くないよね」とリナも言う。
「この柔らかさって女の子の身体だよ」
やがて、保健室の先生が前に立って「男の子と女の子の違い」という授業を始めた。スライドなどを使って、男の子の身体の構造、女の子の身体の構造、について説明する。
男の子と女の子の腰の付近のイラストが横から見たところと前から見たところで表示され、男の子の性器の名前として陰茎、睾丸、という名前が提示され、女の子の性器の名前として、陰核、膣、子宮、卵巣、という名前が提示された。それで僕は女の子の割れ目の中に陰核、尿道口、膣というものがあり、その膣が赤ちゃんを育てる部屋である子宮とつながっていることを知る。
そして先生は早い子だと4年生くらいから、男子の睾丸の中で精子の生産が始まり、女子の卵巣の中で卵子の成熟が始まることを説明する。精子が「生産」されるものであるのに対して、卵子は産まれた時から既に存在していて、「成熟」されるものであるという違いは興味深く感じた。
そしてその成熟した卵子が子宮まで出てきて「月経」というものが起きることを知る。その日の「女子だけの授業」の主たる目的はその月経が突然来ても慌てることのないように、心構えをさせるためのものだったようである。ふつうは小学4〜5年生から始まるものであるが、早い子は3年生で始まってしまう子もいるらしい。実際「私、もう生理来ちゃってる」と発言した子がひとりいた。3年女子の中でもとりわけ身体の大きな子である。やはり身体の成長の早い子はそれだけ早く来るのだろう。「生理」というのが「月経」
の別名だということも知る。
でも確かにお股から突然血が出てきたら、びっくりするだろうなと僕は思った。男の子は精子が生産されるようになるとどうなるのだろう?その精子もどこからか出てくるのだろうか?と僕は疑問に思ったが、その日の授業は女子向けの授業なので、男の子の方のことはあまり詳しく触れられず、女子に対して月経が来た時の対処法や過ごし方について、先生はよくよく説明していた。
僕は漠然と、自分にも月経が来たらいいなあ、精子なんてできなくてもいいのに、などと思いながら、説明を聞いていた。
保健室の先生の授業は30分ほどであった。授業が終わって視聴覚教室から出るが、そろそろ草むしりの方も終わるという話で、僕たちはなかよしの子たちと一緒に、そのまま教室へ向かった。
「ナプキン、うちのトイレにも置いてある。お姉ちゃんやお母ちゃんが使ってるんだと思うけど」と私が言うと
「ああ、うちのお姉ちゃんも使ってるよ。生理の時って結構たいへんみたい」
とリナ。
「女って面倒くさいなあ。私、男だったら月経なんかにならなくても済むのに」
と麻央。
「あ、やっぱり麻央って男の子になりたいんだ?」
「でもきっと男の子は男の子で大変なんじゃないの?」
「そうかもねー」
「男の子は射精っての毎日するんだってよ」とひとりの子。
「何それ?」
「精子ってどんどん生産されるから、毎日外に出してあげないといけないんだって」
「へー。それも辛いのかなあ」
「さあ、私男の兄弟いないから分からないや」
「あ、うちも男の兄弟いない」
「射精は気持ちいいらしいよ」と麻央が言うと
「わあ、それは羨ましい」と一同から声が上がる。
「冬は射精ってしたことある?」
「よく分かんない」
「じゃ、まだ来てないのかな」
「僕射精じゃなくて、月経が来ればいいのになあ」
「ああ、来たらいいね」とリナが優しく言った。
その年の秋、日曜日に麻央の家で、リナ・美佳と一緒に遊んでいたら
「あ、ごめーん。ガールスカウトに行かなきゃ」
と言う。麻央は小学2年生の時からガールスカウトをしており、夏にキャンプに参加しなかったのも、そちらの大会と日程が重なってしまったためである。
「そうだ。みんなも見学に来る?」
などというので、3人でぞろぞろと麻央に付いていった。小学3年生までは「ブラウニー」と言って4年生から「ジュニア」になるのだが、そのブラウニーの制服が格好良い。
「わあ、いいなあ」
などと僕やリナも言う。
集合場所に行くと麻央は指導者の人に「友人が見学します」と言って許可をもらう。「そちらお名前は?」と訊かれたので、麻央は一瞬悪戯っぽい目をしてから
「リナちゃん、美佳ちゃん、冬子ちゃんです」
と言った。
その日は最初公園でパトロール(班のこと)ごとに別れて何か報告しあったりしていたが、その内、清掃活動に行こうということになる。その時、指導者の女性が
「ね、君たち見学者も清掃活動に参加する?」
というので「はい」と言うと、
「じゃ、君たちも制服着てみる? 体験入隊ということで」
と言われる。
僕たちはちょっと顔を見合わせたが、あの格好良い制服を着れるのなら悪くない。「はい。着ます。お願いします」とリナが代表して答えると、僕たちの背丈を見て、制服を3着渡してくれた。公園のトイレで着替えて来なさいと言われる。
僕たちは一緒にトイレに行った。リナと美佳が女子トイレに入り、僕は男子トイレに入ろうとしたが「待て。一緒にこっちに来なさい」と言われて女子トイレに連れ込まれる。
「今日は、冬は女の子で通そうね」
「女の子のボーイスカウトはいるけど、男の子のガールスカウトはいないからね」
僕も女子トイレに入ること自体にはあまり抵抗が無かったのでそのまま付いていく。女子トイレの個室が3つあったので、私たちはひとつずつに入った。私は着て来たポロシャツとジーンズのズボンを脱ぐと、渡された白いブラウスを着て、その上にジャンパースカートをかぶった。ネッカチーフは付け方が分からないので後で聞こうと思った。着替えた服を持って個室から出ると、ちょうどリナたちも相前後して出てきた。
ネッカチーフはリナが付け方分かるよと言うので、美佳も私も付けてもらう。そして集合場所に戻り、私たちは麻央たちのパトロールに臨時で組み込まれ、一緒に公園や通りの清掃活動をした。
「だけど夏のキャンプの時も思ったけど、冬のスカート姿ってホントに違和感無いね」と美佳。
「それボク見逃したんだよな−」と麻央。
「あのスカート、まだ持ってんの?」
「うん。タンスに入れてるよ」と私。
「じゃ今度学校に穿いておいでよ」
「えー?恥ずかしい」
「いいじゃん、誰も変に思わないって」
そんなことを言いながらもゴミを拾うが、なんでみんなこんなに道にゴミを捨てるんだろうね、というのを麻央以外のスカウトの人たちとも話した。
「全く道徳心がなってないよね」
「道にゴミを捨てることに罪悪感持たないのかなぁ」
「私なら、自分が捨てたゴミを誰かに拾って片付けられること自体が恥ずかしい」
と私が言うと
「ああ、私も思う」
と何人かのスカウトの人たちからも言われた。
「自分のお股を見せてるみたいなもんだよね」
とサブリーダーの人が大胆な発言をする。
「わあ、それ恥ずかしすぎる」
「あ、でも男の子には自分のおちんちん見せびらかす子がいるよね」
「ああ、いるいる」
「女の子はそんなの見せたりしないよね〜」
「冬もお股見せたりしないよね?」
「しないよ〜」
「あ、でも小さい頃一緒にお風呂入ったから、私は冬のお股見てるな」とリナ。
「私も、リナのお股見てる」
と私が言うと、
「ああ、羨ましい。ボクも見たい。今度一緒にお風呂入ろうよ」
などと麻央が言った。
1時間ほどの奉仕活動の後、公民館に入って、お料理をした。その日のお料理はフルーツポンチとサンドイッチ作りだった。
白玉粉に水を加えて丸くし、お湯に投入して茹で上げる。麻央が
「手にくっつく〜」
などと声をあげる。
「これ、水を入れすぎたかもね」と私が言うと
パトロールリーダーの人も「そうかも」と言い、粉を少しもらってきて追加。それで何とかなったが、麻央の作る団子は形が悪くて大きさもバラバラである。私やリナがきれいに丸めて、大きさも均等にしているので
「あんたたち、うまいな」
などと言われる。
「だっておうちでも作ってるもんね〜」と私とリナが言うと
「今度作る時呼んで」などと言っていた。
麻央の家は男ばかりなので、白玉粉の団子なんて作ったことないらしい。
サンドイッチ作りの方もパンの耳を包丁で切り落とすのがうまくできない子が多い。私がスイスイ切ってると
「あ、耳落としは冬に任せた」
などと言われて、結局、大半を私がひとりでやった。
「なんかうまく切れないよね〜。潰しちゃう」
「パンを切るのはちょっとした要領だよ」
と私は言った。
「おうちでパンを切るの?」
「ええ。うちでホームペーカリーで食パン焼いたりするので、それ切るのは私の係です」
と私がいうと
「偉いね〜。いいお嫁さんになれそう」
などと言われた。
そんな感じでその日の「体験入隊」は楽しく過ごしたのであった。
終わってから家が近所であるリナ・美佳と一緒に自宅への道を歩いていたらリナから
「冬は今日は自分のこと『私』って言ってたね」
と言われた。
「え、だってみんなから女の子と思われているのに『僕』なんて言えない」
「ふだんの冬の『僕』って何だか聞いてて凄い違和感あるんだよなー」
「実は僕も自分で違和感ある」
「今日の『私』はすごく自然だったよ」
「いっそ、普段も『私』で通しちゃったら?」
「冬、幼稚園の頃は自分のこと『私』って言ってたもんね」
「そうだなぁ・・・・」
「麻央の『ボク』はあれはあれで何となくハマってるよね」
「麻央が『私』とか『あたし』と言うのも想像できないな」
[*
前p 0
目次 8
時間索引 #
次p]
夏の日の想い出・小3編(3)