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■夏の日の想い出・あの人たちのその後(4)

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その日は秋田駅1926の特急つがる7号で青森に入り、深夜の青函フェリーで函館に渡る。夜中3:20の到着なので、それから函館市内のホテルに入り、朝まで寝た。さすがに疲れていたのでホテルについてすぐ寝たのだが、明け方私たちは愛し合い、その後『ビトゥイーン・ラブ』という曲を書いた。
 
翌日は午前中に函館でキャンペーンをしてから、函館空港から12:40のHAC便で丘珠空港に飛び、札幌市内でキャンペーン。それから札幌駅からスーパーカムイで旭川に移動。旭川市内でキャンペーンをして、その日は旭川市内で泊まった。
 
キャンペーンは明日朝の便で東京に戻ってから、お昼から東京周辺で何ヶ所かすれば終了なので、「明日で終わりだね」「今日の移動は疲れたね」などと言いながら、私たちはホテルでゆっくりと休んだ。(当然たくさん愛し合った)
 
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夜中目が覚めて、政子が「お腹空いた」というので、私はコンビニにおやつを調達に出かけた。政子の好きなラミー、リクエストのあったカツゲンのほか、さきいか、どら焼き、などをカゴに入れ、おでんを少しチョイスしようと思い、お店の人に声を掛けた。
 
「すみません。おでんを・・・あ」
「あ!」
 
それはローズ+リリーでデビューする以前に、一度は彼女の代役、一度は一緒にステージで歌ったことのある歌手の晃子さんだった。
 
「こういうところで遭遇するとは」と私。
「奇遇だね!」と晃子。
 
「でも久しぶりですね。でもコンビニに勤めてるとは思わなかった」
「勤めてるというより、オーナーなの。私結婚してね。旦那と一緒にここのコンビニしてるのよ」
「わあ、ご結婚なさったんですか。それはおめでとうございます」
 
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「ちょうど冬ちゃんたちがローズ+リリーで凄い売れてる時期に出会って、ちょうど例の騒動の最中に結婚したんだよね」
「わあ」
「それで、そのまま旭川に来ちゃったもんだから」
「私も何か忙しかったし、絵里花とも、その後、なかなか会えなくて。晃子さんの消息も聞かず仕舞いでした」
 
「でも、私、冬ちゃんが男の子だったなんて、全然気付かなかったよ」
「えへへ」
「だって、あんなにきれいな高音が出るのに」
「晃子さんと一緒に歌った頃は、まだヘッドボイスの出し方が甘くて、あまり音量が出なかったんですよね。今はけっこうな音量が出るし、ミドルボイスときれいにつながるから、高音の曲はけっこう得意です」
 
「以前FMの番組で聴いた曲でさ『天使に逢えたら』って曲。あれCD出さないの?」
「今年の初め頃出そうかって話があったんですよね。でも震災でそのあたりのスケジュールが吹っ飛んじゃって」
「ああ」
「でも、あの曲は絶対出しますよ。自分でもお気に入りの曲のひとつだもん」
「楽しみにしてる。あ、今日はお仕事?」
「ええ。夕方、この先のイオンで新曲キャンペーンやりました」
「ほんと!?わあ、行きたかったなあ」
 
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コンビニで買ったおでんやおやつを持ってホテルに戻ると政子から「遅いよ」
と言われた。
「ごめん、ごめん。お店の人が偶然にも古い知り合いで、つい話し込んじゃって。でも、おかげでおまけで時間の経った肉まん、もらっちゃったよ」
 
「へー。何か今回のキャンペーンはあちこちで出会いがあるね。肉まんいただきまーす」と政子
「そうだよね。それも古い知り合いばかり」
「ほんとに。知り合いって、女の子だよね?」
「もちろん。私、男の子の友だちってほとんどいないもん」
「大阪で会った子も古い女友だちなんでしょ?」
「うん。まあ。政子には隠してもバレるから言っちゃうけど、中学時代の恋人だよ。大阪で遭遇したのは」
 
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「やはりね。あの曲見た瞬間、そんな気がしたもん。今コンビニで会ったのも?」
「私がマーサ以前に恋人にしたのは大阪で会った人だけだよ。結局私が振られたんだけどね。コンビニの人は、中学の時の先輩の高校の先輩」
「ややこしいな」
「結婚して、今旦那と一緒にコンビニをやってるんだよ」
「なんだ。結婚してるならいいや」
 
「マーサには隠し事できないもんなあ」
「冬の嘘のつき方が下手なだけ」
「マーサならばれないように嘘をつけるのだろうか」
「冬が気付かないだけ」
「うーん。確かにそうかも。マーサ、私に何か隠し事してる?」
 
「ふふふ。どうかな。そうだ『彼を取り戻せ』の歌詞出して。私が改造するから」
「はいはい」
「このまま世に出すのは私が許さないんだから」
「あはは。マーサも嫉妬するんだね」
「女の子に対してはね」
「そっか。コトとのことを言うとカリカリしてるもんね」
「まあね。でもコトには冬とのキスまでは許してあげてるから」
「ふふふ。コトもわざとマーサの前でキスして刺激して楽しんでる感じだし」
 
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政子は私が書いた『彼を取り戻せ』の歌詞をかなり大胆に加筆修正していった。また譜面の方も、五線紙を出して、それに書き写すように言い、作業が終わると元のレポート用紙は2枚とも、私にまるめてホテルのゴミ箱に捨てるよう言った。
 
少し後でこの曲の譜面を見た青葉は「この曲はマーブルだね」と言った。
「マーブル?」
「異質の波長が混ざってる。いつものマリ&ケイの曲って、冬子さんのピュアなトーンと、政子さんの突き抜けたソウルが縦糸と横糸みたいに絡まって、きれいな調和を作ってるんだけど、この曲には別の波長が混じってる。それが結果的に面白い雰囲気になってる。これ、もしかして、冬子さんの昔の恋人か何かと会って書いた?」
 
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「なんで、そういうことまで分かるのさ?」
と私は呆れて青葉に言った。
 

18日は旭川空港を9:50の便で羽田に戻り、午後から東京近辺のショッピング・モールでキャンペーンをし、最後は新宿のHNSレコードで打ち上げとなった。
 
私と政子はそのまま新宿の居酒屋で2人で祝杯を挙げた。政子は「疲れたから食うぞー」と言って、大量に料理を注文してモリモリ食べている。それを微笑ましく見ていたら、
「おーい」
と言って、私たちに声を掛けてきたカップルがいた。
 
「わーい、静香先輩に谷繁先輩。ここ座りませんか?」
と私たちは言って、ふたりを迎えた。高校の書道部の先輩カップルである。
 
「いいのかな。こちらも御飯食べようと思って来たところで」
「一緒に食べましょう。ちょうど仕事が終わって、打ち上げしようとしてたところなんです」
「わあ、お疲れ様。何人で打ち上げしてるの?」と谷繁先輩。
「ふたりですが」と私。
「え?」と言って谷繁先輩はテーブルを見つめている。
 
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静香先輩が
「政子はたくさん食べるのよ。男の子がいる時はあまりこういう実態見せないけどね」
と言って笑っている。
 
「谷繁先輩なら、まいっかな、ということで今夜は本気で食べます。あ、テーブルの上に並んでるのは適当に食べて、ほかメニュー見て好きなの取ってくださいね。冬に払わせるから」
「財布は唐本か!じゃ、ごちそうになるかな」
 
4人でテーブルを囲み、食べたり飲んだりしながら、おしゃべりを楽しんだ。飲み物は、女性陣3人はウーロン茶やオレンジジュース、レモンスカッシュなどであるが、谷繁先輩はビールを飲んでいる。
 
「へー。それじゃ九州から北海道まで全国キャンペーンしてきたの?」
「なかなかハードスケジュールだったね」
「四国とか北陸はひたすら車で走ってたね」
「飛行機使ったのって、東京から博多までと、旭川から東京までとの他は函館から丘珠までだけ。あとは列車と車の旅だった」
「若くないとできない旅だよね。私は付いて回っただけだけど、冬は歌を歌ってサインしてだもん。体力あるよね」
 
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「そのあたりって、やはり中学の陸上部で鍛えたのが役立ってるよ」
「冬の肺活量も陸上部で鍛えたものだって言ってたね」
「うん。結果的にあの時代が今の歌手活動を支えてるんだよね。でもマーサだって早朝ジョギング続けてるじゃん」
「うん。私もあれでやっぱり長い音符が歌えるようになった」
「凄いなあ。私もジョギングしようかなあ」
 
「ところで、その静香先輩の左手薬指の指輪の件、聞いていいですか?」
「えへへ。少し早めのクリスマスプレゼントってことでもらっちゃった」
「婚約したんですか?」
「まだ口約束だけだけどね」
「まだ俺も金が無いから、今はファッションリング。誕生石のサファイア」
「サファイアだって結構値が張りますね」
「そうなんだよねー。春頃から少しずつ貯めてた。本当はダイヤのリングを贈りたかったんだけど、顕微鏡で見ないといけないようなダイヤより、こちらのほうがいいと言うから」
「ダイヤのプラチナリングは、就職して1年くらいしてからでもいいからね」
「はいはい」
 
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「どこにお勤めするんですか?4月からは」
「スカイツリー」
「え?そこでバイトしてませんでした?」
「うん。そのまま正社員採用になる」
「へー」
「実質正社員みたいな仕事してるよね、既に」と静香先輩。
「うん。もうすぐオープンだからね。今無茶苦茶忙しい」
「わあ、頑張ってください」
 

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「ところでさ」と谷繁先輩は声を小さくする。
「お前たち、花見の消息知らない?」
と聞くと政子はあからさまに不快な顔をした。
 
「どうして突然?」と私は尋ねた。
「いや、花見のお母さんからこないだ何か知らないかって聞かれたんだよ」
と谷繁先輩。
「私も書道部関連の人何人かに聞いてみたけど、誰も知らなくて」
と静香先輩。
 
「たぶん、それ私が発端です」と私は言った。
「実は今月初旬に、花見さんと偶然遭遇したんですよ」
「え?」と谷繁先輩と静香先輩が言う。
 
政子はぷいと席を立つと「トイレ行ってくる」と言って席を離れてしまった。
 
「よほど怒ってるんだな・・・・」
と私は政子の後ろ姿を見ながら言った。
 
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「その時は埼玉で働いているってことだったんです。それまで沖縄から青森まで彷徨ってたらしいですけど。それでその後再度会うことにしてたのに、待ち合わせ場所に来ないので連絡してみたら会社を突然辞めたという話で」
「あぁぁ」
 
「お母さんにも連絡するよう言っておいたんですけどね」
「でも元気そうだった?」
「元気でしたよ。たくましくなった感じでした」
「それは良かった」
「その時に私が花見さんのお母さんに、そちらに連絡無いかと訊いたので、お母さんもまた知り合いにいろいろ連絡して探し始めたんでしょうね」
 
「でもあいつが以前起こしたレイプ事件」と谷繁先輩は難しい顔で言う。
「示談金で600万円払う約束だったのを実はまだ200万しか払えてないらしいんだよね」
「それはまた・・・・・」
「お父さんの勤め先が潰れてしまったらしくて。しかも長年かなりハードな仕事を続けていたのが禍して体調が悪くて、職探しもなかなかできないらしい。それで今生活にも困窮している状態で、これまで少しずつお父さんが代わりに払ってたのが今とても払えない状況みたいで。先方は、別にお金が欲しくてそういう金額で示談した訳じゃないからとは言ってくれているらしいけど、お母さんも途方に暮れてるみたいでね」
「大金ですもんね」
 
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「新聞広告でも出してみます?」
「啓介、全て許す、帰って来いとか?」
「そうそう、そんなの」
 
私たちは数日後に花見さんの家に行ってこの件に関してお母さんと話し合い、新聞広告を出してみることにした。その結果、年明けになって本人から電話があり、お母さんが今の家の状況を説明して、泣いて帰ってきてと訴えたので花見さんは3年ぶりに実家に戻った。しばらく関西近辺の工事現場で働いていたらしい。そして12月まで働いていた埼玉の食品製造会社に再度雇用してもらい、働き始める。示談金に関しては被害者の女性が結婚を考えているのでもう決着を付けて欲しいと言ってきたので、私が残額を立て替え払いし、今後は私に毎月少しずつ返してもらうようにした。
 
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花見さんはあらためてUTPの事務所に来て、私と美智子に謝罪した。美智子は
「まあ、あなたが謝罪に来たという事実だけは受け止めてあげる。許すわけじゃないけどね」
と言った。政子は応接室にお茶を持って入ってくると、私と美智子の前にお茶を置いた後、もうひとつのお茶を花見さんの頭に掛けて出て行った。さすがに美智子も「政子ちゃん!」と叱ったが、花見さんは「いや、いいです。政子のああいうのには慣れてますから」と言った。私が応接室を出て政子の所に行くと
「まあ、謝りにきたことだけは評価してあげる」
などと言っていたので、それを伝えてあげた。
 
花見さんが帰ってから私は政子からも美智子からも
「でも花見さんの件については、冬がいちばん怒るべきなのに」
と言われた。
 
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「うーん。私って、あまり人に怒ったりしないたちだから」
と私は笑って答えた。
 
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