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■夏の日の想い出・あの人たちのその後(2)

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翌朝、まだ私がベッドの中でうとうとしていた時、少し早めに起きた政子が私のパソコンでニュースを見ていて「え!?」と声を上げた。
 
「どうしたの?」
「《ローズ+リリー》の本家、《リリーフラワーズ》華々しくデビュー、だって」
「へ?」
 
政子がパソコンをベッドの所まで持って来てくれた。
 
>人気女子大生デュオ《ローズ+リリー》が、元々《リリーフラワーズ》の代役として生まれたものであることをご存じだろうか?3年間にわたるヨーロッパでの修行を終えて、その本家デュオ《リリーフラワーズ》がとうとう日本に帰ってきた! その類い希な美しいハーモニーを是非体感あれ。
 
などと煽り文句が書かれている。
 
「リリーフラワーズ、メジャーデビューシングル『白いハーモニー』本日絶賛発売」
 
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と書かれていた。記事を読むと今日、都内のCDショップでメジャーデビューのイベントを開くようである。
 
「へー。じゃ、あの2人これまでずっとヨーロッパにいたのかな」
「そうなんだろうね。でもよく生きて帰って来れたね。無銭旅行とか、死と隣り合わせだよ」
「全く。治安が日本とは全然違うからね、特に女の子は別の危険も多いしね」
 
9時前に美智子から電話があったが、リリーフラワーズの件では、向こうもびっくりしたということだった。取り敢えず偵察に行ってくると言っていた。
 
こちらは10時に松山市内のショッピングモールでキャンペーンをした後、車で高松まで移動し、14時から高松市内のショッピングモールでキャンペーン。それから更に車で移動して、17時から徳島市内でキャンペーンというスケジュールだった。キャンペーンが終了してから、徳島郊外のファミレスで夕食を取っていたら美智子から連絡が入った。お客さんも少ないので、そのまま座席で取って小声で話した。
 
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「お疲れ様。どうだった?」と美智子。
 
「まずまずの反応です。『いけない花嫁』のリピート部分が覚えやすいので、鼻歌で歌ってる人もあって、いい感じだな、と思いました」と私。
「うん。あれは覚えやすいよね」
「それでリリーフラワーズ、どうでした?」
「うーん。。。。。前の方が良かった」
「あら」
「昔ほどの高音が出てないんだよね。リリーフラワーズといえば、あの高音のハーモニーが良かったのに」
「それって、たぶん、あまり練習してなかったのでは?この3年間」
「でしょうね」
「きっと、生きてくだけで精一杯だったんですよ」
 
「うんうん。で、明日のテレビの歌番組に出るらしいから、そちらでも見るといいよ。明日はそのくらいの時間帯、ホテルに入ってるよね」
「ええ。入ってるはずです」
 
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その日はレコード会社の人に車で岡山まで送ってもらい、岡山市内のホテルに泊まる。翌日は岡山・広島・下関と新幹線で移動しながらキャンペーンをして、新幹線で神戸に入り、神戸で泊まった。
 
「このホテルって、ローズ+リリーのキャンペーンで泊まったね」
「そうそう。私たちが初めて一緒にホテル泊したところ」
「あの日はシングル2部屋だったもんね」
「結局ひとつの部屋で寝たけどね」
 
私たちはちょっと懐かしいような気分だった。ゆっくりテレビを見ようということで外食はせずにコンビニで晩御飯とおやつを買ってホテルの部屋に入り、まずはおしゃべりしながら御飯を食べていたら、急に創作意欲が沸き、ボクたちは『液晶の嘘』という作品を書いた。
 
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書き上げたところでテレビを付けたら、これからリリーフラワーズが出演する番組が始まるところだった。最初に出演者が全員ステージ上に出て来て紹介される。
 
「ねえ・・・今リリーフラワーズいた?」
「見なかったね。遅れて来るのかな?」
 
番組が進んでいく。個人的に知り合いの歌手も数人出ている。ボクたちはそれを見ながら、あれこれ雑談をしながらテレビを見ていた。そして番組がかなり進んでから司会者が申し訳無さそうな顔をして言った。
 
「えー。本日《リリーフラワーズ》がこの番組に出演する予定だったのですが現時点でまだスタジオに来ておりません。連絡を試みたのですが、本人たちと連絡が取れない、とマネージャーさんが言っております。こちらとしても順序を変更して最後まで待ったのですが、いまだに来て頂けないということで、結局彼女たちの歌声を放送することができません。そういうわけで時間が空いてしまいましたので、たいへん申し訳ないのですが、今、演奏してもらいましたバインディング・スクリューのみなさん、続けてもう1曲演奏してもらうわけには行かないでしょうか?」
 
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「OKです!」という声が返ってきて、バインディング・スクリューは彼らが2年前にビッグヒットを飛ばした曲を演奏しはじめた。
 
私と政子は見つめ合って、そして大笑いした。
 
「テレビ番組のドタキャンやるとは、いい度胸だね」
「こんなことしたのは、きっと t.A.T.u.以来だよね」
「私たち、さんざん和製t.A.T.u. って言われたけど、さすが私たちの本家のリリーフラワーズだけのことあるね」
 
番組はバインディング・スクリューの曲の2コーラス目の途中でフェイドアウトして、CMに切り替わった。
 
そしてその日以来、リリーフラワーズの消息は知れなかった。ふたりが笑顔で談笑しながら成田空港を歩いていたのを見たという証言が複数あった。噂では今度はアメリカで無銭旅行をしているなどという話も伝わってきていた。前日発売されたリリーフラワーズの「メジャーデビュー」CDは、発売中止扱いになり店頭から回収されてしまった。
 
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私はローズ+リリーでもお世話になっていたリリーフラワーズの元々の後見人・吉住尚人さん(彼も今回の「デビュー」は寝耳に水だったらしい)に連絡を取って、吉住さんの口添えでレコード会社から廃棄予定だったこのCDを1枚分けてもらい、自分のCDコレクションに加えた。リリーフラワーズはインディーズ時代にも1枚CDを出していて、100枚ほど売れているのだが、この2枚のCDが棚に並んでいるのは、私と吉住さんの2人だけかもね、などと思ったりもした。
 

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「起承転決/いけない花嫁」のキャンペーンは14日は神戸・西宮・大阪・京都と動き回った。九州・四国・中国では、ステージのそばにサングラスを掛けてパンツスーツで立っている政子に気付いたお客さんはあまり居なかったのだが、さすがに神戸や大阪などでは気付いた人がけっこういて、ローズクォーツのサインだけでなくローズ+リリーのサインまで求められることもけっこうあった。政子も最近は人前に出てこういう触れ合いをすることに、あまり抵抗がなくなってきたようで、気軽にサインに応じて握手したりしていた。
 
大阪のHNSレコードでキャンペーンをやった後、どこかでお昼を食べてから京都に移動する予定だったのだが、政子が「買物してきていい?」というので、
「京阪の京橋駅14時半の特急に乗りたいんだけど、ひとりで京阪京橋駅まで来れる?」
「大丈夫と思う」
というので、別れて梅田に出て、三番街のスパゲティ屋さんに入り、注文をしてから、何気なく視線を泳がせていたら、通路をはさんだ向こう側のテーブルにいた女性と目が合った。
 
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「あ・・・」
と向こうもこちらを認識したようであった。私は席を立ってそちらのテープルの彼女の向かい側に座った。
「こんにちは。私が分かりました?」と私。
「うん」
と彼女は明るい声で答えた。それは中学時代に私と一時期恋人関係にあったSであった。
 
「元気そうね」と私。
「そちらも元気そう。私、ローズ+リリーのCDも、ローズクォーツのCDも全部持ってるよ」
「ほんと?ありがとう」
「私ね。ローズ+リリーが『その時』でデビューした時、すぐケイは冬ちゃんだって分かった」
「凄い。。。。。。今何してるの?大学生?」
 
「うん。高校の途中で実は大阪に引っ越してまたまた転校したんだよね。それで、そのままこちらで大学に進学して。父がまた引っ越して九州に行っちゃったから、今は大阪で一人暮らし」
「わあ。。。いい恋できた?」
 
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「うん。冬ちゃんが占ってくれた通り、高校で彼氏できたよ。大阪に引っ越してきてすぐ。その彼と今も付き合ってて、実は週末同棲状態」
「おお、それは良かったね」
「冬ちゃんも、いい恋できてるみたいね」
「え?」
「マリちゃんとラブラブなんでしょ?」
とSは悪戯っぽい目で見ていう。
 
「うん。まあ。。。マリとは半ば同棲状態。一応、他に彼氏もいるんだけどね。そのうち婚約しようって約束している人」
「へ?それ婚約じゃないわけ?」
「うん。婚約は当面しないという約束」
「変なの」
と笑う時の可愛い笑顔は中学の時のままだ。
 
オーダーしていたスパゲティが来た。Sの方にも来た。見ると同じ品だったので、私たちは思わず笑ってしまった。食べながら話す。
 
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「でも、冬ちゃんって、女の子と男の子のそれぞれと恋ができるんだ」
「マリの方もだよ。私との関係とは別に彼氏いるし」
「不思議な関係だね」
「うん。高校時代からの親友には、結局二股じゃん、なんて言われてるけど」
「でも当人同士がよければ、それでいいんじゃないの?」
「ということに、させてもらってる」
 
「もう性転換しちゃったんだよね?」
「うん。もう戸籍も女になってるよ」
と言って、私はバッグの中から国民健康保険の保険証を出して見せてあげた。
「ああ、名前も冬子になってるんだ」
「うん。性別と一緒に名前も変えた」
 
「ね・・・・名刺とかもらっちゃってもいい?」
「いいよ」
と私は言うと、営業用の「ケイ」名義の名刺と、事務用のUTP専務肩書きの「唐本冬子」名義の名刺を渡した。
「きれーい。カラー印刷なのね。まるで写真みたい」
「うん。けっこうこういう雰囲気で作ってる人いるよ。今はみんな自分でプリンタで印刷するからね。自由度が高いんだ。みんな凝ったの作ってる」
「舞妓さんの花名刺みたいな世界に近づいてるのかな」
「あ!そうかも」
 
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「ね・・・またタロットで占ってくれたりしない?」
「今手元にタロットが無いよ。あ!」
 
私はここに来る途中の本屋さんで何気なく買った雑誌をバッグの中から取りだした。折り込み付録で、切り離して使うタロットが付いていた。
 
「このタロットでもいい?」
「うん」
 
私は雑誌からそのタロットのシートを切り離し、切り取り線で分離して22枚の小さなタロットを得た。
 
「何を占うの?」
「今付き合ってる彼と結婚できるか」
「うーん。占う必要があるのかな?」
私は自分の意志で決めれば済むことを占いに頼るのは嫌いだ。
 
しかし「うん。ちょっと気になることがあって」と彼女が言うので、私はタロットをシャッフルすると、5枚取り出してギリシャ十字の形に並べた。タロットをするのは彼女を5年前に占って以来である。カードをめくっていくと、左が恋人、真ん中が隠者、右が月、下が悪魔、上が力であった。
なるほど。占って欲しいと言われた訳だ、と私は思った。
 
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「彼氏、浮気してるね」
と私はストレートに言った。
「やっぱり・・・」
「今のままにしておくと、テンション落ちていくよ」
「その浮気って一時的なもの?」
 
「うーん。今はまだ一時的なものだけど、バレなかったら、そっちはそっちで続いてく。そして、そちらの方が本気になっちゃう」
「放置しちゃだめってことね」
「うん。自分を選ぶのか、その相手を選ぶのか、はっきりしろと言った方がいい。今なら勝ち目あるよ。これ」
「そっか。頑張ってみるか」
「この雰囲気だと、浮気を指摘するだけでも、かなり彼としては考えるだろうね」
 
そう言いながら、私は上のカードのそばにもう1枚出した。女帝のカードだ。
「彼としては、Sちゃんのことはとても大事。だから失いたくないと思ってる。でも、このままにしていたら、それも分からなくなってしまう」
「ありがとう。ちょっと作戦考えてみる」
「あ・・・・」
 
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「どうしたの?」
「Sちゃん、五線紙なんて持ってないよね」
「さすがに持ってないなあ。レポート用紙ならあるけどね」
「あ、それでいい。頂戴」
「うん」
 
私はSからレポート用紙を受け取ると、雑誌の端を使って罫線の間に1本ずつ線を入れて簡易五線紙を作り、そこに、今湧いてきたメロディーを記入して行った。Sはコーヒーを飲みながら「へー」という感じの顔をしてこちらを見ている。曲はモチーフだけ五線に記入して、曲の構成は A B A C A B D のような感じで別途書いた。このくらい書いておけば、あとでちゃんと曲として組み立てることができるはずだ。紙のいちばん上に『Get Him Back』と書いた。更に歌詞も浮かんできたので、もう1枚レポート用紙をもらい、それに浮かんできた詩を書き綴って行った。
 
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「凄いね。そんな感じで作曲してるんだ。これってもしかして私への応援歌?」
「そうだよ。Get him back. Win back your boyfriend! 結構突然こんなふうにメロディーや歌詞が浮かぶことあるんだよね。自分で五線紙を持ち歩けばいいんだろうけど、何だかね。。。人から用紙をもらった方が、うまく書ける気がして」
「面白い」
「マリと一緒にいることが多いから、たいていマリから五線紙もらうんだけど、大学の友だちとかからもらったりすることもある」
「人からもらうことで、その人のパワーも少し借りるのかもね」
「あ、たぶんそうだと思う」
 
私はSと握手して別れた。駅の方に向かいながら、政子から「浮気した?」
とか聞かれそうと思った。
 
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■夏の日の想い出・あの人たちのその後(2)

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