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■夏の日の想い出・クリスマスの想い出高校編(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2011-12-31

 
ボクは陸上部にいた中学1年の時、1年先輩の絵里花のピンチヒッターで、女の子サンタの衣装を着て、クリスマスケーキの配達をした。絵里花のお父さんがケーキ屋さんをしていて、そのケーキを絵里花が配っていたのだが、配達の途中で足を捻ってしまい、たまたま現場に居合わせたボクが代わりに配りましょうか?と言い出して、絵里花が着ていたサンタの服もピッタリだったので、「ではお願い」ということになったのである。
 
それが好評だったので、中2の時は最初から「今年もお願い」と頼まれた。1年の時は8軒に配っただけであったが、中2の時は絵里花がちょうど高校受験の前であったこともあり、全面的に引き受けて2日間で50軒ほどに配り、バイト代もたくさん頂いてしまった。中3の時はこちらが受検勉強中なのでパスさせてもらったが、高1になって「また今年もお願いね」と絵里花から言われた。
 
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(高2の時は写真週刊誌の報道で大騒動の最中だったので無理(絵里花も大学受検だったので結局貞子が引け受けた)。高3の時は大学の受験前で無理、大学に入ってからは芸能活動が忙しくなり、また顔も知られてしまったので無理ということで、この年が最後のサンタガールとなった)
 
この年は24日が月曜日だったので、配達の要望は23日の日曜日が最も多く、21日金曜日から24日月曜日までに分散していたが、絵里花も高2で時間が取れるので2人で配ったこともあり、わりと楽だった。
 
「冬ちゃん、3年前からすると、けっこう色っぽくなってきたわねえ」と絵里花のお母さんはニコニコして言う。絵里花のお母さんにはもうこの頃はボクが男の子であることはバレていたのだが、ボクが時々絵里花の家に来て、女装させてもらったりしているのを「たまの息抜きにはいいかもね」などといって容認してくれていた。「ただ、親御さんにもその内ちゃんと言った方がいいわよ」などとも言っていたが。ボクもこの頃には、親にカムアウトする時期はあまり先ではないような気もしていた。
 
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金曜日は学校が終わってから、いったん自宅に戻り、セーターとジーンズに着替え、ダウンジャケットを着て絵里花の家に行き、女の子サンタの衣装に着換えてから自転車でお店に行き、荷台にケーキを積んで配って回った。
 
3度もやると、以前配ったことのある家もけっこうあり「昨年は違う子が来たけど、今年はまたあなたなのね」などと言われたりもした。中1の時にボクが最初に配った家の女性で、ボクにぜひ歌手か女優になりなさいよ、などと言っていた人は、その年は「ねえ、ねえ、こういうオーディションあるけど受けてみない?」などと言ってパンフレットまでくれた。
 
なお、彼女は後にローズ+リリーの正体がばれて大騒動になって、ボクと政子が引き籠もり状態に陥っていた時、(場所はその年ケーキを配った貞子から聞いたといって)ボクの自宅までやってきて励ましてくれた。ボクはお礼にサインを書いて渡した。引き籠もり期間中にサインを書いたのはその1枚だけだし、彼女が「きっと、ケイちゃんは復活できるから」と言ってくれたのも、とても大きな心の支えになった。
 
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23日の配達は午前中にやった後、残りは夕方からということで、午後は絵里花から、都内のホテルであるクリスマスパーティーに誘われた。
 
「女の子限定のパーティーだけど、冬子は女の子だから、いいよね?」
などと絵里花に言われ、少し可愛い感じの服を着せてもらい、お化粧もされてハーフウィッグまで付けてもらった。絵里花のお母さんが「わぁ!可愛い!」
と凄く喜んで、絵里花と並んでいるところの写真もたくさん撮られた。絵里花もかなり可愛い格好をしている。電車に乗ってふたりで都心まで出た。
 
これは外資系の化粧品会社主催のクリスマスパーティである。来ているのは半分くらいが全国のその化粧品の代理店・販売店の人たちであるが、販売店の店頭などで、利用者などに配られた招待状をもらった一般の女性もかなり来ていたようである。
 
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絵里花の高校の2年先輩で晃子さんという人がこのパーティーで行われる歌謡ステージで歌うことになっていた。ボクはそういう名前の歌手は全然聞いたことが無かったので「どんな歌を歌ってる人?」と聞く。
 
「うーん。全然売れてないみたいね。高校在学中に大手のレコード会社からCDを出したんだけど、200-300枚しか売れなかったらしい」
「ああ、それは悲惨だね」
「大手レコード会社との契約も切られちゃって、その後、インディーズで2枚CD出したけど、これも全く売れてないみたい」
「まあ厳しい世界だからね」
 

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少しパーティーで食事などをつまんだりジュースを飲んだりして雰囲気を楽しんだあと、晃子さんの楽屋におじゃました。
 
「こんにちは。お元気?」
「久しぶり〜、絵里花。そちらは?」
「私の妹分で、冬子って言うの。中学の陸上部の後輩なんだけどね」
「よろしくお願いします。唐本冬子です」
 
「わあ、可愛い!よろしく〜。ちょっと外人さん好みの美人だね」
「ああ!そういわれたらそうかも。目鼻立ちがハッキリしてるもんね」
 
「あれ?でも晃子さん、少し顔色が悪くない?」
「実は風邪引いちゃって。でもステージだから頑張る」
「何を歌うんですか?」と私。
 
「まずは『荒野(あらの)の果てに』、ユーミンの『恋人がサンタクロース』、SPEEDの『ホワイトラブ』、山下達郎の『クリスマス・イブ』、最後に『きよしこの夜』。基本的に全部日本語」
「自分の持ち歌は歌わないんですか?」とボク。
「却下されちゃった。でもこういう場で歌わせてもらえるだけでもありがたいから」
「大変ですね」
 
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しばらく話していたのだが、風邪のせいか喉の調子も悪いようで、ずっと喉飴を舐めている。
「何だか吐き気がする。ちょっと熱計ってみよう」
と言って計ってみたら39度2分もある!
 
「これ、ちょっとやばいですよ。少し横になった方がいいかも」
いくつか椅子を並べて横になり、晃子さんのお母さんがコートなどを掛けたら、そのまま眠ってしまったようである。
 
「昨日は大阪でやはり似たような感じのクリスマスイベントで歌って、その後泊まったホテルの空調がどうも調子悪くて、それで喉を痛めちゃったみたいなのよね。一応お医者さんに行って注射も打ってもらったんだけど。本当はお医者さんから、2-3日寝ておくように言われたんですけど、仕事を休めないからといって出て来たのですが・・・・」とお母さん。
 
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「移動が多いと体調管理も大変ですよね」と私。
「でも、晃子さんってどんな歌を歌っておられるんですか?」
「あ、興味あるならCDあげるわ」とお母さんは言って、CDを3枚くれた。「ありがとうございます。CDプレイヤーあります?」ときくと、ポータブルのCDプレイヤーを出してくれたので、イヤホンで聴いてみる。
 
最初に聴いた大手レコード会社から出たというCDを聴いてみる。うーん・・・とボクは論評に困ってしまった。歌詞が適当、曲が適当、編曲が適当、伴奏はどうも打ち込みっぽいがその打ち込みが適当。ほとんどやっつけ仕事の雰囲気。ついでに歌も音程を外している。これはさすがにきつい。200-300枚も売れたというのが奇跡に思えた。
 
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次にインディーズで出したというCDを聴いてみた。こちらはまともな曲だ!少し素人っぽい作りの曲だと思ったが、お母さんに尋ねたら、本人が作詞作曲したらしい。大手からデビューした時は、素人以下の曲しかもらえなかったということか。ただ、このインディーズ版のを聴いても、根本的に歌が下手なので、どうにもならない気がする。逆に言うと、よくこの歌唱力で、大手からデビューしようという話にまでなったものだとボクは内心思った。
 
「インディーズで出した曲の方がいいですね。歌唱力を鍛えていけば、また道は開けていくと思います」とボクは少し言葉を選びながら言った。
 
ボクと絵里花は、晃子さんのお母さんから、いろいろ歌手をしていての苦労話や逆に楽しかった話などを聞いていたが、1時間近くして、少しお母さんがそわそわしだす。「あと少ししたらステージなんだけど、この子行けるかしら?」
 
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ボクは晃子さんの額に手を当ててみたが、かなり熱い。お母さんに体温を計ってもらったら、39度5分。さっきより上がっている!これはどちらかというと、このまま病院に連れて行きたいくらいの体温である。その時、楽屋のドアがノックされた。お母さんがドアを開ける。
 
「It's about time. Akiko(そろそろだよ、晃子)」
どうもこのパーティーのマネージャーさんのようであった。そろそろ出てきてもいいはずの晃子さんが出てこないので楽屋まで来てみたのであろう。
 
「Sorry. Akiko has broken down from cold.(済みません。風邪で倒れてしまって)」
「What?(何ですって?)」
「I'll wake her up. 晃子、晃子、何とか起きれない?」
「Yes. I will go」
といって目を覚まし、起き上がろうとするが、晃子さんは寝ていた椅子から立って2〜3歩歩きかけた所でふらふらとして倒れてしまった。
 
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「Isn't it serious? What are you going to do? If she can't sing, you should pay us 10,000 dollars by penal sum.(ちょっとまずくないですか?もし彼女が歌えなかったらペナルティとして120万円払ってもらいますよ」
すぐお金の話をするのが外人さんっぽいなと思った。しかしその時、ボクの頭の中で誰かに何かを言われたような気がした。そしてボクは反射的に言った。
 
「Can I sing instead of her?(私が代わりに歌ってはいけませんか?)」
「You can sing?(君、歌えるの?)」
「I am a good singer.(歌うのは得意です)」
「Try sing "Gloria"(「荒野の果てに」を歌ってみて)」
「OK」
 
ボクはこの曲は裏声で歌うしか無いと決断した。中1の頃にコーラス部の女の子と一緒に裏声でたくさん高音の歌を歌っていた頃のことを思い出した。あれ以降も裏声の練習はずっとしている。大きく息を吸い、目を瞑る。自分の部屋で何度も歌った音程を思い出す。この曲は物凄く発声練習になるのでいろんな音程で歌っているがいちばん安定して歌える音程を頭の中で模索して『確かこの高さのはず』
というのを思い出した。
 
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「荒野の果てに、夕日は落ちて、妙なる調べ、天より響く。
Glo- ---- ----- ----- -ria. In excelsis Deo,
Glo- ---- ----- ----- -ria. In excelsis De---o.」
 
「Gloria」の「ria」の部分が低い音程なので気をつけないと男声っぽくなる。そこは慎重に声を出した。
 
マネージャーさんの顔が明るくなっている。
「You sing good! though your voice is little small.(君歌が上手いね!声は小さいけど)」
「Can you amplify my voice through PA?(声はPAで増幅できますよね?)」
「Of course. Come within 15 minutes after changing to the stage costume.(もちろん。ステージ衣装に着替えて15分以内に来て)」
「Yes sir」
「One more thing. What's your stage name?(あ、そうそう。君のステージ名は?)」
「Hmm... Keiko」
 
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ボクは以前女装で町のドーナツ屋さんにいた時に名前を訊かれてとっさに名乗った時の名前を思い出し、答えた。
「Keiko. OK」
 
マネージャーさんは出て行った。
 

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「すごーい。冬子って、そんなに高い声が出るんだ!」と絵里花。
「裏声はけっこう鍛えた時期があったんですよね。高校に入ってからも、音楽の時間にバス・テノール・アルト・ソプラノ全部歌いますなどといって、裏声でさんざんソプラノを歌っていたし。でも裏声はあまりボリュームが出ないのが欠点で。でも今日のステージ、両脇に大型のスピーカーが置いてあったし、PAの装置が置いてあるのも見ていたから、PAが入るなら声量の足りない分はPAで増幅してくれるはず、と思ったんです」
「観察力が鋭いね、冬子」
 
「お母さん、晃子さんのステージ衣装を貸してください」
「でも冬ちゃん、歌詞分かる?」と絵里花が心配そうに訊く。
「荒野の果てに、恋人がサンタクロース、ホワイトラブ、クリスマスイブ、きよしこの夜、全部問題無いよ」
「でもピアノを弾きながらだけど」
「だからいい。自分が歌える音程で弾いちゃう」
「あ、そうか!」
 
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お母さんが晃子さんのステージ衣装を渡してくれた。その場で着換える。裾が大きく広がるドレスだ。素敵な衣装だなと思う。こんなの自分でも欲しいな、と思ってから、そんなのどこで着るんだ?と自分で心の中で苦笑する。
 
幸いにもウエストは問題無く入った。再度ウィッグをしっかり固定してから、ティアラを付けてもらった。晃子さんのお母さんが急いでメイクをしてくれる。譜面を持ち、ボクはステージに向かった。お母さんは晃子さんのそばに付いててもらい、絵里花に付き添ってもらった。
 
ステージではギターを持った男性デュオが歌っていた。
 
「Next of them, your turn, Keiko(次が君の番だよ、ケイコ)」
とマネージャーさんが言う。
「I see(分かりました)」
 
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