広告:ここはグリーン・ウッド (第5巻) (白泉社文庫)
[携帯Top] [文字サイズ]

■夏の日の想い出・クリスマスの想い出(2)

[*前頁][0目次][#次頁]
1  2  3  4 
前頁次頁目次

↓ ↑ Bottom Top

陸上部の練習も10月の大会を過ぎると、急に参加者が減ってしまう。4月頃は練習に出て来ていた部員が30人くらいいたのに、この頃は、3年生はもう抜けてしまって、2年の男子の人が部長を継ぎ、2年の女子の人が副部長を継いでいたが、その部長と副部長以外ではいつもボクを入れて3〜4人しか出てこず、自然と練習も男子と女子と合同の練習になって、5〜6人で練習をしていた。この頃になるとボクも練習前のジョギングで周回遅れになることもなく、ロードでもだいたい他の部員と同じくらいのペースで走ることができるようになっていた。
 
特にボクは肺活量が大きいおかげで上り坂でも全然バテることなく走ることができて、上り坂の続く部分では逆に他の部員さんたちから「ちょっと待って−」
などと言われたりするほどであった。
 
↓ ↑ Bottom Top

「3月に駅伝大会があるからさ、お前、上り坂の区間の担当、な」
などと部長さんから言われていた。自分でも上り坂にはけっこう自信が持てる気がした。
 
男子と女子の合同練習なので、体力的には女子の方にあわせる形になり、この時期の練習はあまりきつくなく、楽しい時間を過ごす感じだった。ボクは一応長距離ランナーなので、毎日3000mとかを走ってタイムを計られていたけど、それが終わると、他の部員と一緒に砲丸投げとか、走り高跳びとかをよくやっていた。
 
砲丸投げをする時、最初ふつうに男子の砲丸を使うと、どうにもうまく投げられなかった。
「唐本、腕が細いもんなあ。お前女子の砲丸を使ってみるか?」
「はい」
ということで、女子用の軽い砲丸を使うと、一応きれいなフォームで投げることができた。
「よし、お前はそちらを使ってろ。重いの投げて肩壊したらいかんから」
と部長さんから言われていた。
 
↓ ↑ Bottom Top


11月のある日曜日、練習が終わったあと、みんなでボウリングにでも行こうということになった。その日出て来ていたのはボク以外に男子3人、女子2人で合計6人だった。最初に少し試投してみた。ボクはボールが重たくてうまく投げられず、速攻でガーターになってしまった。
 
「お前の腕力じゃ、そのボールは無理だよ。女子用の軽いボール使った方がいい」
「でも指が入るかしら」
「ちょっと持ってみ」
「はい」
「あ、無理なく入る感じね」
「こいつ、指も細いもん」
 
その女子用のボールを持って試投してみると、きれいにボールはまっすぐ転がっていき、ピンの真ん中に当たる。
「おっ、ストライクか?」と隣にいた桜木先輩が言ったが、ボクのボールは真ん中のピンだけ倒して、両側2本を残してしまった。
「ボールにパワーが無いから全部倒せないんだな」
「すみませーん」
「でも投げ方はそんな感じでいいよ」
 
↓ ↑ Bottom Top

「ねぇねぇ、男女で対抗戦しない?」と副部長の絵里花。
「いいけど、人数が4人と2人だぜ」
「冬ちゃんを女の子の方にトレードしちゃう」
「ああ、いいかもね。唐本、女の子の方でもいい?」
「あ、はい。全然問題無いです」
 
「じゃ、唐本をそちらに入れて、女の子の方は30点のハンディね」
「冬ちゃんのハンディはどうする?」
「今投げたの見てたらハンディ30でいいようだ」
「OK」
 
ということで、ボクは女子の方のチームに入れられて、女子と同じハンディでボーリングをしたが、ボクはスペアもほとんど取れないまま、9フレームまで行き、最後の最後で初めてストライクを取った。ボクの投げるボールは基本的に真ん中に飛んでいくのだけど、力が無いので、いつも6〜7ビン、よくて8ピンしか倒せず、2投目でも、うまく端を狙ってなげることができないので、両側に立っているピンを1本も倒せないままということが多かったのである。
 
↓ ↑ Bottom Top

ここまで男子が3人で451点、女子は私が62点で、既に終わった2人が合計で270点。私の分まで入れてハンディも足して422点だった。ここで私が6点とかで終わっていると完璧に女子の負けだったが、私のストライクでギリギリ逆転の可能性が出て来た。
 
私の2投目。
 
ストライク。歓声が上がる。「冬ちゃん開眼した?」などと同じ1年の女子、前村貞子さんから肩を触られる。「えー?たまたまだと思う」と言いながら3投目。
 
これで9本倒すと引き分け、もしストライクが出れば女子の勝ちという場面である。
 
ボクの投げたボールはレーンの真ん中をゆっくりと転がっていく。やがてピンに当たり、当たって飛んだピンが他のピンを倒し・・・・
 
「あーー」
「残念」
 
↓ ↑ Bottom Top

ボクの最後の投球はピンを8本倒し、両側のピンが1本ずつ残った。
 
「451対450で男子の勝ち」
 
ボウリング場を出てから、スーパーで、負けた女子(ボクを含む)3人でお金を出し合ってコカコーラのファミリーサイズと紙コップを買い、みんなで飲んでその日は終了となった。
 
何となく男子と女子に別れて町から自分たちの校区のほうに帰ったが、貞子から「冬は私たちと一緒」などと言われて、副部長の絵里花と3人で何となく会話をしながら歩いて帰ることになった。
 

↓ ↑ Bottom Top

「こないだまで『唐本君』なんて呼んでたけど、冬ちゃんでいいよね?」
「うん。いいよ。小学校の低学年の頃とか女の子の友だちからそう呼ばれてたし」
「もしかして男の子の友だちより女の子の友だちの方が多かったとか?」
「男の子の友だちいなかった」
 
「やっぱりね・・・・なんか4月に最初に見た時にも何となくそんな感じがしたのよね」と貞子。
「あ、私もそんな気がした」と絵里花。
「冬ちゃん・・・と私も呼んでいいよね。冬ちゃん、男子たちが下ネタとか言ったりすると顔を赤らめてるでしょ」
 
「ちょっと、ああいうの苦手だから」
「あ、けっこうこの子、女の子っぽいと思ってたのよね」
「そう?」
「女の子になりたいの?」
「うーん。。。自分でもそのあたりはわからない」
 
↓ ↑ Bottom Top

「でも惜しいなあ。冬ちゃんがホントの女の子なら、冬ちゃんのスピードなら、女子の部でなら入賞狙えるのに」と絵里花。
「今はみんなの練習に付いて行くだけで精一杯だし」
「それは男子の方の基準でだもん」
「でも性転換したら女子として出られるんじゃないの?」と貞子。
「性転換!?」
 
「その内する気ないの?」
「うーん。。。」
「女装はいつもしてるんでしょ?」
「え?しないよー」
「そう?怪しいなあ」
「怪しいよね」
 

↓ ↑ Bottom Top

12月19日の日曜日。その日は雪が降っていて、ホワイトクリスマスの雰囲気になっていた。その年は24日が金曜なので、その週末がクリスマス前最後の週末ということになり、町はクリスマス一色の雰囲気だった。
 
その日は陸上部の練習もなく、ボクは商店街に冬休みにやりたい参考書と問題集を買いに行っていた。思ったようなものが見つからずに少し遅くなり、もう暮れはじめる。自分の家の近くまで来るバスが無かったので自宅から1kmほどの所まで来るバスに乗り、そのバス停で降りて、雪が降る中を自宅まで歩いてボクは帰って行っていた。
 
そして住宅街の角をちょっと曲がった時、自転車を押している女の子とぶつかりそうになる。
「あ、ごめんなさい」とボクはとっさに女の子っぽい声で言ってしまった。「あ、ごめんなさい」と向こうも言うが
 
↓ ↑ Bottom Top

「あれ、冬ちゃんだ」
「絵里花先輩、お疲れ様です。バイトですか?」
「というよりうちケーキ屋さんだから私も動員されてケーキの配達。今この近辺で4軒配り終えて、いったん店まで帰るところ」
「わあ、そうだったんだ。でも可愛い衣装ですね」
「うん。ちょっと可愛いよね」
 
絵里花先輩は女の子のサンタの衣装を着ていた。
 
「でも大変ですね。こんな雪の日に。自転車滑りやすいから気をつけて下さいね」
「自転車は押してるだけ。リヤカー代わりだもん」
「なるほど」
「さて、いちど店まで行ってたしかあと8軒配れば終わりの筈」
「わあ、頑張って下さい」
 
そんな立ち話をしていた時、向こうから走ってきた軽自動車がボクたちの前で突然スリップした。
「きゃっ」「わっ」(ちなみに前のがボクの声、後のが絵里花さんの声)
 
↓ ↑ Bottom Top

軽自動車はスリップしたまま、ボクたちがいた近くの電柱に激突していた。ボクは慌てて駆け寄り、運転席の中に声を掛けた。
「大丈夫ですか?」
「う、うん。何とか。あたたたた」
「救急車呼びます」
 
ボクはその人の携帯を借りて119に掛け、交通事故であることを伝える。その時絵里花さんがまだ起き上がっていないことに気付いた。
 
「絵里花先輩、大丈夫ですか?」
「えっと・・・少し足を捻ったみたい」
「ありゃあ・・・・」
 
絵里花さんに促し、お母さんに電話して迎えに来てもらうことにした。119で呼んだ救急車より先に絵里花さんのお母さんの車が到着した。ボクは事故の目撃者なので気が咎めたが、運転手さんは大丈夫そうだし、携帯の番号だけメモさせてもらって、絵里花さんのお母さんと一緒に絵里花さんを連れて、自転車は車の荷室に積んで、絵里花さんの自宅に戻った。
 
↓ ↑ Bottom Top

「ちょっと湿布してれば治るよ」と絵里花さん。
「念のため病院に行ったほうがいいです」とボク。
「うん。月曜日にでも病院に連れていく」とお母さん。
 
「でもごめーん。配達あと8軒残ってるのに」と絵里花さん。
「それは私がやるよ」とお母さん。
「何でしたら、私がしましょうか?お母さんは絵里花先輩に付いててあげてください」と私は自分でもそれまで思っていなかった言葉を発していた。
 
「あ、いいかもね」と絵里花さん。
「冬子ちゃん、私と体格あまり変わらないから、私の衣装入りそう」
え?衣装??
 

↓ ↑ Bottom Top

ボクは突然「冬子」と呼ばれて少し戸惑った。でも今日はボクはセーターにジーンズ、その上にダウンジャケットを着ていて、身体の線がよくわからない。それにさっきお母さんと会った時からずっと、というかその前に絵里花さんと会った時からずっと、ボクは女の子の声にも聞こえる声で話していた。それにうちの中学は髪型の規制が緩いので、ボクはけっこう髪を伸ばしていた。多分お母さんはボクを女の子と思っているよね、ということにすぐ思い至る。
 
「あら、お願いできたらそれがいいかもね。40歳のおばさんサンタが行くより中学生の女の子サンタが行くほうが、喜んでもらえるしね」
「じゃ、決まり。だいたいお母ちゃんじゃ、私の服入らないし。ね、冬子ちゃん、今まで私が着ていた衣装で悪いけど、それ着てみてもらえる?」
「はい」
 
↓ ↑ Bottom Top

ボクはこうなった以上、変にあれこれ言わない方が良いと割り切った。衣装を借りて、隣の部屋で手早く着換えて、戻って来る。
「わあ、可愛い」
「冬子ちゃんって、こういう可愛い系の服が凄く似合うんだ・・・」
「じゃ、届け先の住所とかを」
「じゃお店に行ってもらえる?電話しておくから」
 
そういう訳で、その夜、とりあえず自分の家には、足首をねんざした先輩のピンチヒッターで配達のバイトをするので1時間くらい遅くなると電話を入れ、絵里花さんの自転車でお店まで走っていき、荷台にケーキを4個積んで、道順付きの地図ももらった。最初の家まで、雪道に気をつけながら走って行く。
 
スカートを穿いて自転車に乗るのは初めての経験だったので、最初はけっこう戸惑ったが、サンタの衣装の短いスカートは、自転車を漕ぐのに邪魔にならないことにすぐ気付いた。スカートの中が見えちゃうことを気にしなければ!中身といってもタイツを穿いているのだけど。でも、誰か通りがかりの男の人が、ボクのスカートの中身に気を取られて転んだりしないといいなあ。
 
↓ ↑ Bottom Top

女の子サンタの衣装を着て人前に出ること自体は不思議と恥ずかしさは無かった。むしろこの時は、事故に遭遇して配達時間が少し遅れてしまったので、少しでもそれを取り戻せないかなということばかり考えていた。むろん自分が転んだりしたら元も子もないので、雪道でタイヤが取られやすい中だけど、慎重に自転車を漕いでいった。
 

↓ ↑ Bottom Top

最初の家を訪問する。
「こんばんは。○○屋です。遅くなりました。クリスマスケーキを持ってきました」
と女の子っぽい声で言う。
「はーい」と言って若い女の人が出てくる。
「きゃー。可愛いサンタさん!ね、中学生?」
「はい。中1です」
「ね、ね。記念写真撮っていい?」
「いいですよ」
 
こういう事態に関する指示は受けていなかったが、別に写真くらい構わないだろうと思い、ボクはこの家の女性と記念写真を撮った。
 
「でも、ほんとにあなた可愛いわねー。すっごく美人になるよ、きっと」
「ありがとうございます」
「あなた、そうだなあ。そんなに可愛いならお嫁さんに行っちゃうのもったいない。歌手か女優さんにでもならない?」
「そうですね。考えてみます」
 
↓ ↑ Bottom Top

ここの女性がなかなかボクを離してくれず、ここで10分近く話していた。ボクは済みません。次の配達があるのでといって勘弁してもらい、次の家に行った。
 
2軒目は30代くらいの男の人だったが、いきなり「遅い!」と言って怒られた。しかし、こちらの顔を見たとたん上機嫌になり、
「あれ、君可愛いね。ね、ね、少し上がってケーキひとくちでも食べて行かない?」
などと言われる。まさか配達に行ってナンパされるとは思わなかったが
「申し訳ありません。配達以上のことはしてはいけないと言われていますので」
と言って断り、次に行った。
 
その夜はそんな感じでまず4個のケーキを届け、いったん店に戻ってまた4個ケーキを積んで、また地図をもらって、それにそって配達をした。
 
↓ ↑ Bottom Top

配り終えたのは18時半くらいであった。
 
「ありがとう、助かったよ。君が自転車に乗れたので結果的に予定より早く済んでしまった」と絵里花さんのお父さん。
「ああ、絵里花さんは自転車乗れないから押して歩いてるって言っておられました」
「まあ近くだからいっかと思ったんだけどね」
「これ、ささやかな御礼」と言ってポチ袋をわたしてくれる。
「いえ、いいですよ。いつも先輩にはお世話になってるし」
「こういう時は受け取っておくものだよ」
「わかりました。では頂きます。ありがとうございました」
「また来年も頼みたいくらいだね」
「あはは、そうですね。では失礼します」
「はい、お疲れ様」
 
そういうやりとりをして、ボクは絵里花さんの家までまた自転車で戻り、元の服に着替えて、先輩の家を辞した。ボクが帰るころには、絵里花さんの足の痛みもかなり引いていた。
 
↓ ↑ Bottom Top

「ほんとにありがとう。助かったわ」とお母さん。
「これ、ほんの御礼」
「お父さんからも頂きました!」
「あら」
「二重取りしとけばいいよ」と絵里花さんが笑って言う。
「じゃ、押しつけちゃえ。あなた可愛いから倍額報酬」
「えー?顔で報酬が変わるんですか?」
「当然。芸能界とか見てごらんよ」と絵里花さん。
「冬子ちゃん、女優さんとかになったら、たくさん稼げるよ、きっと」
 

↓ ↑ Bottom Top

↓ ↑ Bottom Top

前頁次頁目次

[*前頁][0目次][#次頁]
1  2  3  4 
■夏の日の想い出・クリスマスの想い出(2)

広告:ウォーミーな美しさと豊かなボリューム感-ラクーンファー-ダウンコート