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■春合(2)

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12月30日のお昼頃、冬子と政子が到着するので、それから会議をして、リハーサルも行った。過去のローズ+リリーのライブではステージへの出入りが物凄く複雑で大変だったのが、かなり簡易化され、楽になっていた。これも楽器の数を減らした効用のようである。また、引っ込んですぐ出てくる場合は出入りするのだけで大変だから、そのままステージに居てということにしたのも大きい。
 
12月31日には、朝9時からゲートを開けて客を入れる。一般客は身分証明書を照合しながらで大変だが、ファンクラブ会員は会員証タッチと顔認証で通れるので楽である。それより前に出店関係者は入場しており、既にお店を開けている所もある。
 
青葉・世梨奈・美津穂の3人はお店が出ているサイドストリートを眺めて歩いていたのだが、行列ができているのにどんどんはけている店がある。
 
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「あ、制服が可愛い」
と世梨奈が声を挙げる。
 
「マベルだね」
と青葉。
 
「何のお店?」
「京都のメイド喫茶だよ。“私の可愛い人” Ma Belle.」
「どこの言葉? アラビア語?」
と世梨奈が言うと美津穂が
「フランス語だよ。ついでに世梨奈ってフランス語は専門なのでは?」
「フランス文化専攻だった」
「フランス語できないの?」
「ボンジョルノくらいは分かるけど」
「それはイタリア語!」
「あれぇ?」
 
「でもこれだけたくさん女の子がいたら1人くらい男の娘が混じっていても分からないよね」
「そのくらいは居るかもよ」
 
青葉は中で働いているメイドの中に和実を見る。
 
「あ、和実だ」
「お友だち?」
「そうそう。あの子は仙台で同系統のメイド喫茶クレールというのをやっているんだけど応援に来たのかな」
 
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向こうもこちらに気づくと手を振っていたが、忙しそうなので声を掛けるのは控えた。メニューはドリップコーヒー・カフェオレ400円、カフェラテ500円、オムライス800円(全て税込み)ということだったので、青葉が2人には「おごるよ」と言って、カフェラテとオムライスを3個ずつ注文した。Paypay、しかも楽なバーコード払いで払えるので、小銭のやりとりも不要だし間違いも起きにくい。お店側もかなり楽だろう。Paypayのシステムは主催者側で用意したようである。
 
「ラテアートが美しい!」
と声があがる。
 
模様はランダムのようで、青葉のはリーフ、世梨奈はレイヤーハート、美津穂はローズだったが、どれもこのまま保存しておきたいような美しさである。世梨奈が3つともスマホで写真を撮っている。
 
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「よくこれだけ客が来る中でこんなの作ってるね」
「だからカフェオレより100円高いんだろけど、これ見たらみんなカフェラテを頼むと思う」
「あとでまた来てみよう。別の模様も見たい」
「同じ模様になったりして」
「それは確率の問題だな。模様は何種類あるんだろう?」
「和実は100種類くらい作れるらしいよ。普通は5種類くらいの人が多いみたい」
「5種類としても、再度来れば別のに当たる確率は結構ある気がする」
 
(5種類のみの場合で3人で再度買いに行き新しい模様に当たる確率は1-0.63= 0.784 約8割の確率で別の模様を見られる。正確な所は個々の制作者が使えるパターンが個々に異なるのでその情報が無い限り計算不能)
 
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夕方から§§ミュージックのタレントたちによる前座が始まる。今井葉月はドレスを着て、東雲はるこ・大崎志乃舞に伴奏してもらってカーペンターズのナンバーを歌っていた。普通に女性歌手にしか見えない。
 
この子は既に自分の性別を忘れているよなあ、と青葉は思った。この子がもし暴走中の千里1と握手していたら完全に女の子に変身していたろうなどとも考える。
 
実は既に性転換していたりして!?
 
この前座中に再度マベルにカフェラテを買いに行ったら、チューリップ、ロゼッタ、パンダに当たった。
 
「パンダは技法が違うね」
「うん。これは注ぎ口だけで作ったものではなくて、その後コーヒースティックでお絵描きしている」
「複雑な模様はその手法でしか作れない気がする」
「でもロゼッタみたいな凄い模様を注ぎ口だけで作る人も凄い」
「誰でも習えばできるようになるのかなぁ」
「いや素質もある気がする」
「うん。私とか絶対無理」
と世梨奈。
「素質というより性格かもね」
と青葉は言った。
 
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ローズ+リリーが出演する本編は22時から始まり、青葉は篠笛で2曲、フルート1曲、アルトサックス1曲、そしてキーボードで5曲に参加した。世梨奈は全てフルート、美津穂は全てクラリネットである。
 
演奏が終了したのは0:15くらいで、その後ミューズセンター内の会議室に入り、打ち上げに参加する。小浜市議さんの音頭で乾杯した後宴会となる。冬子、加藤課長、も感謝の言葉を述べた。
 
ここは焼き肉ができるように排煙をしっかり作ってあるので、但馬牛の焼き肉をしていたが、美味しかった。他に様々なオードブル、飲み物、ケーキなどもある。
 
青葉は秋乃風花さんや近藤妃美貴さんなどと話していたが、1時頃秋乃さんが「飲んべえは放置して寝た方がいいよ」と言うので、世梨奈・美津穂と一緒にケーキを1個ずつ持って引き上げた。出る時飲み物とおやつのキットカットをもらった。部屋ではケーキは冷蔵庫に入れて、シャワーを浴び、ぐっすり眠った。
 
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1月1日朝はミューズセンターの食堂で、おせちとお雑煮を食べ、お昼のサンダーバードと北陸新幹線で世梨奈・美津穂と一緒に高岡に帰還した。
 
敦賀12:0213:20金沢13:28-13:41新高岡-
 

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高岡の自宅に戻った青葉は郵便物の中にB5サイズの大きな封筒があるのを見た。差出人は津幡町役場である。何かの書類だろうかと思って開いてみたら津幡町の広報誌1月号であった。
 
青葉はページを開いて吹き出した。
 
“火牛スポーツセンター体育館落成”
 
という大きな文字が躍っていたのである。
 
町長さんったら、結局勝手に“火牛”にしちゃってるよ!
 
それで折角“エグゼルシス・デ・ファイユ津幡”という名前を付けたのに、一般には“火牛スポーツセンター”あるいは“火牛アリーナ”と呼ばれるようになり、数ヶ月以内に各社のカーナビにもその名前で登録されてしまうのである。
 
更に・・・・・
 
小浜で冬子からもらったローズ+リリーの2月のツアー日程表を見ていたらしっかり、このように書かれていた。
 
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2.22(土) 石川県・津幡町火牛アリーナ(10000)
 
なんで私が承認もしていない名前を冬子さんがもう先に使っている訳??
 
(犯人は千里姉以外考えられない)
 

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ローズ+リリーのカウントダウン・イベントに出演した中で、信濃町ガールズなどの§§ミュージック関係者およびマリ・ケイらは、1月1日の朝の新幹線で博多に移動し、アクアのお正月ライブに出演、あるいはサポートなどをした。
 
ライブの後で恒例の§§ミュージック新年会が行われたが、その会で多数の所属タレントと楽しく会話しながら、アクアは不安を覚えていた。
 
アクアは3月には高校を卒業する。これまでは(建前としては)仕事は学校の授業が終わった放課後と休日のみということになっていたものの、高校を卒業した以上、毎日朝から晩までひたすら仕事をするようになりそうな気がして、いくら自分が3人いても、体力持つだろうか?という不安を感じていた。
 
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龍虎の高校卒業で、龍虎以上に不安を感じているのは来年度は高校3年生になる今井葉月である。彼はアクアがデビューして以来、仕事の引き合いが多いアクアのボディダブルや、リハーサル役をしてきた(リハーサル役は初期の頃は高崎ひろか、次いで白鳥リズムがしていたが、ひろかも忙しくなり、リズムもデビューしたので西湖に回ってくるようになった)。
 
アクアがまだ高校生の内は、仕事をするのは、平日の夕方以降と土日祝日に限られているものの、彼が高校を卒業してしまうと、毎日朝から晩まで仕事をすることになり、その代役を務める西湖も休日だろうと平日だろうと構わず呼び出され、全く学校に行けなくなってしまうのでは?と不安を感じていたのである。
 
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「ボク、高校は中退することになるかも知れないな」
と西湖は考えていた。
 

12月24日に収録された『新人アナウンサーお宅紹介』と花園亜津子・川島千里のシュート対決は〒〒テレビでは1月2日(木)のローカル番組で放送されたのだが、ローカルだけではもったいないと言われて、シュート対決だけは1月4日(土)の全国放送のバラエティ番組の中でも放送された。
 
石川・富山の視聴者は『霊界探訪』を見ているので、千里の素性も知っていたのだが、千里1が髪を短くしていたこともあり、他の地域の視聴者の大半が亜津子と対決した人物・“川島千里”の正体が分からなかった。しかし、佐藤玲央美が
「髪が短いように見える髪型にしていたから、分からなかった人も多いだろうけど、あれは村山千里ですよ」とツイッターでコメントしたら
 
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「なんだ!村山だったのか」
「道理で」
「髪が長くないと全然分からん」
「さすが2人の対決は見応えがある」
という反応になった。
 
「でも川島って何?村山は結婚したの?」
という質問がある。それに対して玲央美はこう答えた。
 
「2年前に実は結婚したんだけど、新婚3ヶ月で夫が事故死したんですよ。2018年のワールドカップでいまいち不調でスリーポイント女王を取れなかったのも、そのせいですよ。Wリーグや日本代表での登録名はチームや協会との話し合いで旧姓のままにしたみたい」
 
「新婚3ヶ月で旦那が事故死?」
「なんて悲惨な」
「いや、その精神状態でワールドカップに出ただけでも凄い」
 
とネットの住民たちはコメントしていた。
 
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この亜津子と千里1のシュート対決をテレビで見て千里3は千里2に電話した。
 
「どうも時が来たみたい。1番はかなり回復した。私があの子もらっていい?」
「いいよ。ここまできたら、私かそちらかと合体したほうが色々やりやすいと思う」
「パスポートも2個しかないから、2人の方が都合いいよね」
 

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それで翌日1月5日、千里3は新幹線で高岡まで行くと、桃香・朋子・青葉が不在であるのを確認した上で、高園家を訪問する。
 
自分が入って来たのを見て千里1は驚愕する。
 
「誰?あなた?」
「たぶんあなたと同一人物」
と千里3は語った。
 
千里1の後ろに付いていた子たちの中で、いまだに千里の分裂に気づいていなかった数人(たいちゃん・とうちゃんなど)も驚愕している。
 

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千里3は千里1に言った。
 
「テレビ見てびっくりした。だって自分がテレビに出ていて、あっちゃんとシューター対決してるんだもん。ここ3年くらい、ずっと疑問に思っていた。自分が完全ではない気がしていた。それは私が分裂していたからだったんだ。あの4月16日・落雷の夜以来」
と千里3は言った。
 
「私たちどうなるの?」
と千里1。
 
「ひとつに戻ろうよ」
「ちょっと怖い」
 
「怖くないよ。私たちはどちらも消えるわけでもない。分裂していた身体をひとつに戻すだけだよ。お互いの意識は残るはずだよ」
 
それでふたりは同じ方向を向いて並んだ。
 
明るい光がふたりを包み込み、やがて2人の千里は合体して1人になった。
 
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『特に何も変わってない気がする』
『まあそのままだよね。お互いの意識はそのまま生きているし』
『じゃ、この後は私たちは1人の千里としてすごしていけばいいのね』
『分離しようと思ったら分離できるよ。だから仕事が忙しい時は分離して仕事しようよ』
 
『楽しそう』
『2人になっていたら、食費は倍かかるけど』
『飛行機で移動するときは合体していれば1人分の運賃で済むね』
 
千里1と3はひとつになった体内で、微笑みあった。
 
この千里1と千里3が合体した状態を《くうちゃん》は《千里4》と呼んだ。1+3=4という趣旨である。この後しばらく千里は2番と4番の2人の状態で活動することになる。
 
最終的に1人に戻るのは、もう少し先である。
 
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千里4は髪をアップにして髪が長いのが分からないようにしてその日は1番のような振りをして過ごした。
 
お昼頃、西湖(今井葉月)から電話があり、何か深刻な相談があるということだった。千里は明日東京に戻るから、それからでもいい?と言い、彼の仕事が終わる23時頃に、彼のアパートで会うことにした。
 
その日、朋子は16時頃、桃香は18時頃戻って来た。桃香がお惣菜のトンカツを買ってきていたので、千里がお味噌汁を作って、それで晩御飯にした。
 
そして晩御飯が終わると千里は
「チームの活動が始まるから」
 
と言って、晩御飯の後、早月・由美・桃香を高岡に置いたまま、最終新幹線(高岡20:49-21:04富山21:20-23:32東京)でひとり東京に戻った。
 
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そして翌日1月6日(月)、球団事務所に行くと言った。
 
「3年前の夏以来、精神的に不調に陥って、“村山千里”と“川島十里”に分裂したかのような状態になって、チームにもご迷惑おかけしましたが、1人の千里に戻ることができましたので、2軍の川島十里の登録は抹消してください」
 
球団では本当に千里が元気になっているようなので歓迎し、2年半にわたって2軍に在籍した“66.村山十里/川島十里”は消滅。1軍選手で日本代表の33.村山千里のみが残ることとなった。
 
新しい千里(千里4)は川崎のマンションを正式の住所とする。名古屋でのガス爆発事故以来、実は千里1は住所不定状態にあったのだが、3番に吸収される形でやっと住所が定まった。1番は「こんなところにマンションがあったのか」と驚いていた。
 
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