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■春和(1)

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(c)Eriko Kawaguchi 2011.10.09
 
この物語は「春眠」のすぐ後から始まる。
 
7月最初の週末を古い知人である出雲の直美の所で過ごした青葉は3日日曜日の午後、出雲市を15:35発の「やくも24号」で岡山に出た。そして新幹線ホームで新大阪方面行きを待っていた時のことであった。
 
「おーい、青葉〜」という声で振り向く。
「わあ、彪志〜」と青葉は満面の笑顔を見せて、駆け寄って抱きつこうとして隣にいる人物に気付いた。
「あ、お父様、ご無沙汰しておりました」と青葉は彪志の父にペコリと挨拶した。
 
「青葉ちゃんか!久しぶりだね」
「はい」
「2年前も可愛い子だと思ったけど、すっかり美人になってる」
「ありがとうございます」
「帰りも一緒になるとは思わなかったな」と彪志。
「うん。びっくりした」と青葉。
「愛の力だね」と彪志。
「あはは。でも今から一ノ関に戻れるの?」
「今度ののぞみに乗れば東京に22:13に着くから、それから24時間営業のレンタカー屋さんで車を借りて一ノ関まで走る」とお父さん。
「そうか!車が使えたら、そういうことができるんですね。わあ、私も早く免許取りたいなあ」
「俺、今年取りたかったんだけどね〜、受験勉強で忙しいから無理」
「11月生まれだと無理だよね」
 
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やがて新幹線が来たので乗り込み、自由席の3席並びの所に座った。彪志が真ん中になるのは確定として、窓側の席を青葉とお父さんが譲り合ったが、「私が新大阪で降りますし」と青葉が言うので、結局お父さんが窓側の席に着いた。
 
「先月は、彪志さんには父と姉の仮葬儀にも出てもらって助かりました。うちは親族まるごとやられた感じで、参列者が全然居なかったから」
「未雨ちゃんの一応元同級生でもあったしね」
「私と佐竹さん親子と彪志さんと、あと姉の同級生が3人来てくれて、何とか少しは形になったかなという感じでした」
「ほんと大変だったよね」とお父さん。
「あと、お母さんが見つかってないと言ってたっけ?」
「はい。母まで見つかったところで全員の本葬儀をするつもりです」
「彪志、その時はまた行ってあげなさい」
「うん。行くつもり」
 
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「ところで一昨日は、こちらに来る時、青葉ちゃんのおかげで彪志が寝台特急に乗れたということで、ありがとうございます」とお父さん。
「いえ、偶然2人でも乗れる個室のチケットを持っていたもので」
「夜はその・・・何やらあった・・・・んですよね」と小さい声で父。「はい。彪志さんと少し秘め事をしました」と青葉は笑顔で答える。
「全く、中学生相手に何やっとんじゃ?と叱った所でして」と父。
「ふしだらな娘で御免なさい。でも一昨夜はなんか自然にそうなってしまって」
 
青葉は昨日その件を母と千里に電話して言ったが、千里も途中から替わった桃香も「おお頑張れ」と言っていたのに対して母は「中学生には早すぎるよ」
と注意した上で「でも、好きなんだったら仕方ないよね」と優しく言った。「でも自分を大事にするんだよ」とも言っていた。
 
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「いや、一昨夜はそこまでしとかないと次、青葉に永久に会えないような気がしたんだ」と彪志。
「今日また会えてるじゃないか」とお父さん。
「たぶん、あそこまでしたことで運命の歯車が変わったんだと思います」
と青葉はにこやかに言った。お父さんは大きく頷いていた。お父さんはこの手の話(意識や行動で運命が変わっていくという考え方)を理解してくれる人のようで彪志が霊感を発達させてきたのも、お父さんの考え方の影響があるんだろうな、と時々青葉は思っていた。
 
「大船渡と八戸に住んでた2年間に全然会えなかったのが、高岡と一ノ関になってから、今日でもう会えたのが5回目。でもこの距離だといつ全然会えない状態になっても不思議じゃないですよね。でも、彪志さんとは何か縁があるみたいだなあ、と私も思ったりします。私みたいな女の子だと縁があるのがご迷惑かも知れないけど」
 
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「そんなことないよ。でも2年ぶりに会って、あらためて見てるけど、青葉ちゃんって、やはり普通に女の子だよね」
「はい、私自身は普通に女の子のつもりです」と青葉は笑顔で答える。
「ますます女らしくなってる気がするし。息子の彼女じゃなかったら僕でもちょっとよろめきそうだ」
「親父ってロリコンだったのか?」
 
「そのつもりは無いけどね。で・・・将来、性別変更するの?」
「それは確実にします。変更できるのが20歳からなので、20歳になったら即申請するつもりです」
「じゃ、僕も君が20歳になるまで、ふたりのことはゆっくり考えることにするよ」
「ありがとうございます」
「今度、また岩手に来る機会があったら、こちらの自宅に1度寄ってよ」
「はい。寄らせて頂きます。だいたい土日使って往復してますから」
「うん、土日なら僕も家にいると思うから」
「はい」
 
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やがて新幹線は新大阪に到着。青葉は米原に停まる別の新幹線に乗り換えるため、彪志たちに別れを告げて列車を降りた。そのあと青葉は米原から、しらさぎに乗って高岡に帰還した。
 
出雲市1533→1838岡山1849→1935新大阪1950→2025米原2105→2329高岡
 
翌4日月曜日、青葉がいつものように早朝ジョギングを終えて自宅に戻ると、もう母が起きていた。
「お早う。早いね」
「青葉こそ毎日早いよね。旅の疲れは無いの?」
「うん。しらさぎの車内でぐっすり寝てたし」
「ふだんは青葉、瞑想する時間だろうけど、今日は少し話したくてね」
「うん。。。彪志とのこと?」
「青葉、ふたりの男の子の間で心が揺れてたみたいだったけど、結局、彪志さんの方に決めたのね」
「うん。ランには電話して、ごめん。他に好きな男の子が出来ちゃったって言った」
「そう」
 
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「それでもずっと好きだからって言われちゃったけど」
「それは男の子のリップサービスよ」
「かもね。。。ラン、私以外にも好きな子いるって公言してたし」
「まあ、そういう男の子もけっこういるから。でも、いつ彪志さんのほうにしようって決めたの?まさか彪志さんとしちゃったから彪志さんに決めたんじゃないよね?」
 
「違うよ。決めたのは、5月下旬に会った時。正確には会った後」
「へー」
「5月上旬に会った時は久しぶりだね、寂しかったよ、みたいな話で終始したんだけど、下旬にまた会った時、凄い口説かれたんだ。その場でもかなり心が落ちてしまいそうだったけど、そのあとこちらに戻ってくる列車の中で自分の気持ちをあらためて考えてて・・・・私、やはり彪志のこと好きなのかも知れないって思うようになったの。やはり私、ランにキスされて、自分でもランに好きと言ってたことを気にしすぎてたのかなって」
 
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「青葉にとって、それ初恋でファーストキスだったのね」
「うん」
「それにこだわってしまうの当然よ。青葉、女の子なんだから」
「うん」青葉は微笑んで返事をした。
「女の子は誰でも初恋とファーストキスは忘れないよ」
「そうだね」
 
「Hは気持ち良かった?」
「気持ち良かった。あとキスの感覚もね、3年前にランとキスした時と全然違ってたの。ランにキスされた時、私の体内の気が凄い乱れちゃって、しばらく立てないくらいだったのに、今回彪志とキスした時は、単純に凄く気持ち良かった」
「それは青葉がキスという行為を自分で受け入れることができる年齢に達したからかもね」
「あ、そうか」
 
「それとキスされる時の気持ちの問題もあるよ。女の子は誰だって相手から突然キスされたらびっくりして混乱しちゃう。小学5年生ならまだ未熟だもん。立てなくなっても不思議じゃない。でも彪志さんとキスした時は青葉自身もキスしたかったんじゃないの?」
「うん。私もキスしたかった。だからか!」
 
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「でもHって、青葉、どこ使ったの?あちらの穴?」
「ううん。素股だよ」
「あらら。でもよく、そういうテク知ってたね」
「私、耳年増だから」と青葉は笑って言った。
 
しかしこの手の問題を母とふつうに話せるというのはいいなと青葉は思った。実の母とは小学2年頃以降、そもそもまともな話をした記憶が無い。
 
その日の放課後、コーラス部の通常の練習が終わってから、青葉だけソロパートの居残り練習をした。
「先週の火曜日以降見てなかったけどレベル落ちてないね」と寺田先生。
 
「毎日練習してました。火曜の夜はプロの歌手してる友人の家に泊まったので、自宅内に設置された防音室の中でたくさん歌い込みました」
「へー、そんなお友達がいたんだ!」
「私の歌を聴いてくれて、その場で録音して、それを一緒に聴きながら細かい点の注意とかもしてもらったんです」
「それでか?歌の表情が豊かになったと思った!」
 
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「あと、水曜から金曜までは千葉の姉のアパートに滞在してたので、その近所のカラオケ屋さんに行って歌ってましたし、土日は出雲の友人の家で、一軒家だったので、そこで歌わせてもらってました」
 
「うん、偉い偉い」
「でも、他のみんなも凄く熱心に練習してるから、私はみんなの倍は練習しなくちゃと思って」
「川上さんの熱心さに引きずられて他の子も熱心にやってる感じもあるよ」
 
「あの。。。。先生」
「何?」
「先生、地区大会のメンバー表提出のギリギリまで、混声合唱で行くか女声合唱で行くか悩んでおられたでしょう?」
「うん、ほんとに悩んだ。純粋にレベルだけ取るなら女声合唱なんだろうけど男の子たちも今年は凄く熱心だったからね。川上さんの影響で女子たちが熱心になって、その子たちの一部にちょっと個人的にお熱な数人の男子が熱心になって、その影響で他の男子も熱心になって、といい連鎖反応だった」
 
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「それで、ひょっとして私を出すためには混声合唱にしなきゃいけなかった、なんてことはないですよね?」
「なにそれ?」
「いや。。。。ちょっと風の噂に耳にしたもので」
「誰がそんな馬鹿なこと言ってるの?何の根拠もない噂だわ」
「そうですか、良かった」
「だって、あなた女子部員なんだから、あなたを入れて女声合唱でも行けるよ」
「そうですよね」
「川上さん、そろそろ自分の性別にコンプレックス持つのやめた方がいい」
「はい」
 
翌日、お昼休みに図書館に行き、面白そうな本を2冊借りて出て来たところでばったり美由紀と遭遇した。
「あれ?もう借りたの?」
「うん。ちょっとロマンスとかも読んでみようかと思って」
「ジェーンエアにレミゼラブルか。安直だけどハッピーエンドはいいよね」
「たくさん泣けるよって言われたし」
「ね?昨日から、ちょっとどこかで話したいなと思ってたんだけど」
「あ・・・たぶんあれのことかな・・・・」
「たぶんそのことだね」
 
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ふたりで図書館のそばの芝生の上に座った。
「青葉、彼氏とのことで何か進展があったよね?」
「美由紀って、そういう所鋭いなあ。分かっちゃうのね」
「例の彪志君と何かあったの?」
 
「うん。彼と何と東京で遭遇しちゃったのよ、ほんと偶然に」
「それは凄い確率だね」
「なんか運命の糸に引き寄せられたって気がした」
「で・・・やっちゃった?」
「そこまで分かった?」
「開封済みって感じがしたよ」
「ああ、なんかやはり表に出ちゃうのか、そういうのって」
「気付く子は少ないだろうけどね。日香理も気付いたと思うよ」
 
「彼、急用で岡山に行くとこでさ。でも東京から先の切符が確保できてなかったの」
「青葉は出雲に行ったんだよね」
「そう。私の乗るサンライズは岡山から伯備線で山陰に行くから」
「一緒に乗ったのね」
「うん。私が取ってたチケット、1人でも2人でも乗れる部屋のだったから」
「それで、その中でしちゃったんだ」
「しちゃった」
 
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「ラン君とはどうするの?」
「彼には御免なさいって電話した。それでも諦めないって言われたけど」
「ラン君のそれ、たぶんある意味本気」
「そんな気はする。彼たくさん恋人作るけど、その1人1人に本気になるっぽい。でも御免なさいって言うしかない」
「いつかは選ばなきゃいけなかったことだもんね」
 
「うん」
「いつ彪志君の方に決めたの?」
「ほとんど決めたのは5月22日の夜だと思う。22日の午後に会った時に物凄く口説かれて。その場ではちゃんとした返事しなかったけど、こちらに戻る列車の中で考えていて、やはり私彪志のこと好きなのかなあって考え始めた。翌朝美由紀に『2人の男の子から好きと言われたらどうしよう?』て私が訊いた時、あれを訊いたこと自体が、自分の心が彪志のほうに振れつつあったかもという気もするの」
「なるほどねえ、青葉らしくない相談だと思った」
 
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「でもね、実は私ずっと前から彪志の方に決めてたのかもって気もするの」
「それはそうかもね。だってラン君とは全然連絡しあってなかったのに、彪志君とはずっと電話で話してたんでしょ?この2年間」
「そうなの。それが既に答えだった気がする。私、自分で自分の心を停めてたんだろうな」
 
「でも凄い遠距離恋愛だね」
「だよねー。直線距離でも400kmくらいある。実際の移動距離は800km以上」
「まあ、頑張ってね」
「うん。ありがとう」
 
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