広告:ここはグリーン・ウッド (第3巻) (白泉社文庫)
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■春時計(2)

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「『おじいさんの時計』の歌を聞いた時、ああ日登美は助かったと思ったんです」
と桜坂奈那は編集部で言った。そして歌う。
「百五十年躓かずにチックタックチックタック、おじいさんも躓かずにチックタックチックタック」
「今もまだ動いてるその時計♪」
「何か歌詞が違う気がする」
と幸花。
「さりげなく年数が改訂されてる」
と和栄。
 
この日は桜坂奈那は真珠から
「おやつの出前してくれない?君も食べていいから」
と言われて編集部に呼び出されていた。ウィングライナーで七尾から金沢まで出て来ている。ウィングライナーの金沢駅からは真珠がスペーシアで連れてきた。
 
奈那は最近結構編集部に顔を出している。
 
「だって、もう動かないとか寂しいじゃないですか。だから動くことにしましょうよ」
と奈那は言っている。彼女はフルコーラス歌った。
 
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「お祖父さんが大事にしてた古時計。棚に置くには大きすぎて床に置いてたのさ」
「お祖父さんより背丈はあったけど、重さは同じだった」
「お祖父さんの生まれた日の朝に買ってきた時計よ。悲しいことも楽しいことも子供の頃の想い出が全部詰まってる」
「百五十年躓かずにチックタックチックタック、おじいさんも躓かずにチックタックチックタック」
「今もまだ動いてるお祖父さんの時計♪」
「きれいな花嫁来た時は24を打ったのさ。時計の前に立ったなら悲しい事は忘れ」
「楽しい気持ちにしてくれる優しい時計」
「百五十年躓かずにチックタックチックタック、おじいさんも躓かずにチックタックチックタック」
「今もまだ動いてるお祖父さんの時計♪」
「真夜中にアラームが鳴った。お祖父さんの時計。旅立ちの時が来たのを皆に教えたのさ」
「お祖父さんの魂が天国に飛んでいく」
「お祖父さんが亡くなった時は一度停まったけれど、今はまた動き出したその時計」
「百五十年躓かずにチックタックチックタック、おじいさんも躓かずにチックタックチックタック」
「今もまだ動いてるお祖父さんの時計♪」
 
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「ふーん。今も動いてることにしたのと年数を変えた以外はよく知られている日本語詞(保富康午・訳詞)より原文に忠実な訳だね」
と神谷内さんは言った。
「同感ですね」
と和栄。
 
「よく知られた日本語歌詞だと“お祖父さんが生まれた朝に買って着た時計”と歌ってるけど、それだとお祖父さんは朝生まれて、それから時計を買ってきたように感じる。ところが英語の歌詞では“It was bought on the morn of the day that he was born,”となってる。お祖父さんが生まれたのより時計のほうが先っぽい。奈那ちゃんの訳はそこを“お祖父さんの生まれた日の朝に買ってきた時計”と正確に訳してる」
と神谷内。
「うーむ。お祖父さんが先か時計が先か」
と幸花。
「花嫁さん来た時に24を打ったのをちゃんと訳したのもいいですね」
と和栄。
「お祖父さんが時計を“良い召使い”だと言った所は敢えて訳さなかったね」
「だってお祖父さんと時計の関係は主従ではなくて友だちですよ」
と奈那は言う。
「うん。それでいいと思う」
と神谷内。
「同じ体重だったなんて歌ってるもんね。お祖父さんの分身だよね」
と和栄。
 
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「ところでモデルになった話で、お兄さんが亡くなった後、時計が狂いだしたというのは、振り子の紐を結び直すかなにかして、長さ変えちゃったんじゃないですかね」
「あ、私も思った。振り子の周期は紐の長さで決まるから」
 
振り子の周期は紐の長さの平方根に比例する。(T=2π√(L/g))
 
「私はいつもお兄さんがくるいを直してたんじゃ無いかと思った」
「実は別途クロノメーターとか持っててそれに合わせてたんだったりして」
「そちらこそ真・お祖父さんの時計だなあ」
 

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なお原詩はこのようである。
 
Grandfather's Clock (words by Henry Clay Work 1832-1884)
 
My grandfather's clock was too large for the shelf,
So it stood ninety years on the floor;
It was taller by half than the old man himself,
Though it weighed not a pennyweight more.
It was bought on the morn of the day that he was born,
And was always his treasure and pride.
But it stopped short never to go again,
When the old man died.
 
Ninety years without slumbering,
Tick, tock, tick, tock,
His life seconds numbering,
Tick, tock, tick, tock,
It stopped short never to go again,
When the old man died.
 
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In watching its pendulum swing to and fro,
Many hours had he spent while a boy;
And in childhood and manhood the clock seemed to know,
And to share both his grief and his joy.
For it struck twenty-four when he entered at the door,
With a blooming and beautiful bride.
But it stopped short never to go again,
When the old man died.
 
Ninety years without slumbering,
Tick, tock, tick, tock,
His life seconds numbering,
Tick, tock, tick, tock,
It stopped short never to go again,
When the old man died.
 
It rang an alarm in the dead of the night,
An alarm that for years had been dumb;
And we knew that his spirit was pluming his flight,
That his hour of departure had come.
Still the clock kept the time with a soft and muffled chime,
As we silently stood by his side.
But it stopped short never to go again,
When the old man died.
 
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Ninety years without slumbering,
Tick, tock, tick, tock,
His life seconds numbering,
Tick, tock, tick, tock,
It stopped short never to go again,
When the old man died.
 

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春時計(2)

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