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■6251-2223(3)

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翌朝目を覚ましたら6時少し前だった。いつもなら起きるとすぐにアームが降りてきて、射精させられるのだが、それが来ない。何か物足りない気持ちだったが、僕はとりあえずトイレに行ってきた。
 
おしっこをした後で、陰嚢を触ってみる。わあ!確かに玉が無くなってる!って、手術の様子を自分で見てたのに、と思って少し笑ってしまう。
 
でも豊胸手術の後の痛みは3日くらい続いたのに、去勢の痛みはもうほとんど無い。豊胸では胸に挿入するバッグ(自分のIPS細胞から作られた脂肪で作られたもの)を埋め込むために長さ10cmくらいの切開が行われるので無茶苦茶痛いのだが、去勢は1cm程度だから、その分、痛みが消えるのも早いのだろう。手術に掛かる時間も豊胸は1時間掛かるが、去勢は1分である。
 
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ふつうに朝御飯が出て来たので食べる。今日はお正月ということで「お餅」
という特別なものである。ふだんでもオーダーすれば出してもらえるが、お正月や誕生日の食べ物として定着している。お餅の食べ方も色々あってどれも美味しいのだが、特に1月1日の朝御飯では「お雑煮」という料理に仕上げてあった。
 
「手術の痕は傷まない?」とマザーが尋ねる。
「うん、もう殆ど痛まないよ」
「それは良かった。今日は君のために『振袖』が用意してあるからクーポンを持って服屋さんに行って着せてもらうといい」
「わあ、あれ着たかったんだ!」
 

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振袖は16歳になったら女の子がお正月に着ることのできる美しい服である。去年のお正月は僕はもう家の中では女の子の服を着ていたのだけど、まだ、女の子の服に切り替えたばかりで、振袖を着ることはできなかった。今年はもう1年間、女の子の服で過ごしてきたので、着てよいことになったようであった。
 
台所の端末から出て来たクーポンを持ち、外出の用意をして出かける。バスに乗って町に出て、指定されている服屋さんに行く。お正月なので振袖を着るために来ている女の子がたくさん並んでいた。
 
僕はお店にある5種類の標準タイプの中のどれかを選ぶように言われ、赤い色調がベースで、鳥や花の柄の振袖を選んだ。店の奥に誘導され、着せてもらう。この振袖を着るのが、なかなか大変で、複雑な手順を必要とした。慣れている人がやってくれているはずなのに、着終わるまで30分ほど掛かってしまった。
 
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「あなたは今年は成人式ですね」
「あ、はい」
この国では18歳で成人である。
 
「成人式でもまたこの振袖を着てもらいますから、今日は帰ったら脱いで畳んでおいてください。たたみ方の解説書お渡ししますね」
「はい」
「成人式が行われる2月1日に、この振袖を持って、うちに来てください。また着付けをしますので」
「ありがとうございます」
 

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お店を出てから、まずは初詣に行く。
 
友人たちと一緒に行くことにしていたので待ち合わせ場所まで行くと、みんな振袖を着て、集まってきていた。
 
「わあ、可愛い。6251-2223ったら、振袖が凄く似合うね」
「僕も今かなり感激している。去年まで指をくわえて見ていたから」
「去年は初詣どうしたの?」
「ひとりで行ったよ。セーターとスカート着ていったけど」
「電話してくれたら一緒に行ったのに」
「その頃、美雪たちの電話番号知らなかったもん」
 
女の子10人ほどで一緒に神社の境内に入り、参道を歩いて行って、拝殿前でお祈りをする。手首の所のバーコードを使って、僕はお賽銭に600ユニット支払った。
「お賽銭、幾ら入れた?」
「私は600。美雪は?」
「わあ頑張るなあ。私は300入れた。普段なら100なんだけどね。卒業試験の合格祈願」
「私は、卒業試験の分と、早く完全な女の子になれますようにって」
「なるほど」
 
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「実は昨夜去勢されちゃったんだよね。突然言われてびっくりしちゃった」
「わあ、じゃもう男の子じゃなくなったんだ」
「うん。今朝起きて触ってみて、玉が無くなってるの再確認して、とても嬉しい気分になった」
「じゃ、次はもう性転換手術だね」
「うん。そこまで既に承認されているのか、あるいはあらためて申請しないといけないのか・・・」
「明日あたり、夜中に突然手術されちゃったりして」
「あはは。だといいなあ」
 
その日は振袖のまま学校に出かけてみんなと一緒に午後から補習授業を受けた。
 

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1月前半はとにかく卒業試験に向けての勉強で明け暮れた。
僕たちはグループ通話にして、夜2時くらいまで一緒に話ながら勉強をしていた。
 
1月15日、僕らは高校卒業試験を受けた。
男子と女子は別会場なのだが、僕は女子たちと一緒の会場が指定されていた。試験は国語、数学2、外国語、理科2、社会2の5教科・8科目で、800点満点の300点以上取れば一応合格だが、国立大学に行きたいなら500点以上、僕が狙っている医学部に行きたい場合は700点以上は取っておかないと厳しい。
 
「どう?感触は?」
と僕たちはお昼休みに中庭に集まり、お弁当を食べながら話していた。
 
「私、ダメかも・・」などと由美子が言っている。
「まだこの後の試験で挽回できるよ」
「でも私、国語に賭けてたのに、回答欄が最後まで行ったら1つずれてたのよ!」
「ああ、それはよくありがちだから、時々確認しないといけないのよ」
 
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試験は2日間にわたって行われた。僕はかなり良い感触で試験を終了した。しかしさすがに2日間にわたって凄い緊張の中にいると、クタクタになる。試験終了後、友だち同士で集まり、ロビーでしばらく話した後、みんなで一緒に町にでも行って打ち上げしようかなどという話になり、がやがやとやりながら会場の門を出た。
 
その時、こちらに救急隊員のような人が近づいてきた。その向こうには救急車が駐まっている。
 
「6251-2223さん、いますか?」
「私ですけど」
「緊急入院していただきますので、一緒に来てください」
「え?なんで入院なんですか?」
「今夜、性転換手術を受けていただきます」
「えー!?」
 
「嫌なら拒否もできますが。但しその場合、以後10年は性転換手術は受けられません」
「受けます!」
「では行きましょう」
 
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美雪たちが「わあ、良かったね」「頑張ってね」などと言っている。僕はみんなに手を振り、救急車に乗り込んだ。
 

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救急車はサイレンは鳴らさずに、ふつうに走って病院まで行った。
 
病院で念のため手首の所の識別チップ、更に生体認証で本人確認がされてから、診察室に行き、簡単なチェックをされる。先生から手術の方式の説明を受け、手術同意書と何かあっても文句言わないという誓約書にサインをした。これでもう僕は「まな板の上の鯉」も同然である。
 
病室に入り、病室着に着換える。1週間入院することになる。点滴の針を刺され術前の点滴をうけた。
 
男性の看護師さんから「性転換手術前に1度射精してみる?」などと言われたが「もうこれ立ちませんから」と言ったら「僕行かせるのうまいよ」などと言われた。「じゃ。試しに」というと、看護師さんは僕のおちんちんを握り、ゆっくりと刺激を始める。
 
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何?この感覚。。。。。
 
「君、機械射精しか経験無いでしょ?」「あ、はい」「上手な人の手でやるともっと気持ちいいし、女の子との生セックスすると、もっと気持ちいいんだよ」
「そんな、性転換をためらわせるような言葉掛けないでください」
と僕は笑って言った。
 
確かにそれは物凄く気持ち良かった。しかしそれでも「逝く」感覚までは到達しなかった。「うーん。けっこう自信あったんだけどな」と看護師さんは何か悔しがっていた。
 
「でもね。ここで射精を勧めるのは、まだ迷っている子をふるい落とすためでもある」
と看護師さんは言った。
「ああ、そういうことですか」
「やっぱり男を捨てたくない、と思っちゃう子がたまにいるんだよね」
「まあ、手術しちゃったら、もう元には戻せませんからね」
「僕は最後のゲートキーパー」
「私はそのゲート、通過したみたいね」
 
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「見るのも嫌ですから、しないでくださいという子が半分」
「そうでしょうね」
「射精はするけど、これで思い残すこと無くなりました、と言う子も多い」
「そのタイプは更に揺すぶれば落ちるかも」
「うん。実はそう」
 
「私、どうせ射精に至らないだろうと思ったし」
「君、去勢してからあまり時間たってないよね」
「1月1日に去勢しました」
「ああ、それでかな。まだ身体が男性的と思ったから、行けると思ったんだけど」
「私、心はもうずっと前から女ですから。去勢されて、毎朝の射精から解放されてホッとしましたから」
「なるほどね」
 
看護師さんは更に、ここに来る子の色々なパターンを話してくれて、その後、女性の看護師さんと交替した。女性の看護師さんは、今度は女の子の大変さをいろいろ話してくれた。
「さっきの看護師さん、『僕が最後のゲートキーパー』って言ってたのに、もうひとり、ゲートキーパーがいたんですね」
「ふふふ。よく分かってるね、君」
「ここで男の立場、女の立場から、揺さぶりを掛けて、思い直してしまう子をふるい落とすんですね」
「まあ、そういうシステムよ。あなたには効かないみたい」
「ええ。今すぐ手術室に連れてってもらってもいいですよ」
 
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「まあ、あと30分したら連れていくね。それまで世間話でもしましょ」
「はい」
 
実際、彼女との会話はその後、ほんとに雑談になってしまった。生理の話や、世間を生きていて感じる男女差別の感覚なども話してくれるが、生理の話なんてここ1年、同級生の女の子とたくさん話しているので、時々、向こうがたじたじとなっている感もあった。
 
「へー。じゃ、君、パンティライナーを常用してるんだ!」
「ええ。下着をあまり汚さないようにするのに便利なんです、あれ」
「でもお股に余計なの付いてたら、パンティライナーとかナプキンとか付けてたら、邪魔にならない?」
「僕のは、ふだんとっても小さいから、あまり邪魔にならないです。でも早く取っちゃいたいなとは思ってましたけど」
「そっかー」
 
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やがて手術の時間になった。お医者さんが部屋まで来て、僕に最終的な意志の確認をされた。「僕がお願いします」と言うと、手術着に着替えさせられ、ストレッチャーに乗せられた。
 
看護師さんたちの手で手術室まで運ばれる。
「今何時ですか?」
「23時40分。手術の執刀はたぶん0時ちょうど頃に始まると思う」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
 
豊胸手術の時と同様に、手術室の控え室でしばらく待つ。やがてひとつ前の手術が終わって、僕の番になった。手術室の台に乗せられ、様々な器具を取り付けられる。最後にもう1度意志確認をされてから、麻酔を打たれた。
 

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目が覚めると、病室にいた。まだ麻酔が効いているようで、下半身の感覚が無い。手を伸ばしたら、「何か棒のようなもの」にぶつかったので、あれ?何か身体に支えでも付けられているのかな?と思ったが、身体を少し起こしてみて、それが自分の足であることに気付いた!
 
感覚が消失していると自分の身体も「ただの物体」なんだなあ、と私は改めて思った。
 
やがて女性の看護師さんが来て「あ。目が覚めましたね」と言う。
「はい」
「痛いですか?」
「まだ麻酔が効いているので」
「切れたら痛くなると思いますが、我慢できない痛みだったらナースコールしてください」
「はい」
 
目が覚めてから1時間ほどたってから麻酔が切れ始める。確かに痛い!
でも、豊胸手術の時よりは痛みが少ない気がした。
 
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点滴をされている。おしっこはカテーテルでベッドそばにつり下げられたビニール製のバッグに導かれていた。病室には気が紛れるようにということで軽音楽が流れている。
 
やがてお医者さんが検診にまわってきた。
「気分が悪いとかはありませんか?」
「はい、それは大丈夫です。あの付近が痛いですけど」
「まあ。それは痛いから。あまり我慢できないようだったら薬を処方しますが痛み止めで痛みが無くなるわけでもないからね。100痛い所が80くらい痛いくらいに軽減されるだけだから」
「はい。痛いのは覚悟で手術受けてますから」
「うんうん」
 

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