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(c)Eriko Kawaguchi 2012-02-12
目が覚めた。
僕はベッドの枕元にある黄色いボタンを押した。
天井から機械の触手が降りてくる。僕はパジャマのズボンとショーツを下げ、布団と毛布もめくった。触手が僕のおちんちんを掴むと、やわらかな刺激を始めた。
時々、なぜ僕たちはこういうことをしているのだろう?と思うことがあるがとりあえず、この毎朝のセレモニーは気持ちいいから、悪い気はしない。少し後ろめたい気持ちはあるのだけど・・・・
快楽が多分10分くらい続いたあと、精液があふれ出す。その精液は触手のそばにある容器に収められた。触手と容器が天井の穴に消えていった。僕はしばらく快楽の余韻にひたっていた。
やがて台所の方から「朝御飯だよ、6251-2223」と優しい声が聞こえる。僕は枕元に置いているパンティライナーをショーツに付け、ショーツを上げる。パジャマのズボンも上にあげて、パジャマ姿のまま台所に行った。今日の朝ごはんは、トースト2枚、ハムエッグ、野菜サラダにコーヒーである。
カロリーは620kcalと、台所の端末に表示されている。僕らの食事は基本的にきちんとカロリーコントロールされていて、僕は1日に21単位(1680kcal)を摂ることになっている。パーティーなどで食べ過ぎたりした後は数日間かけて調整が行われる。
端末に流れてくるニュースの類を見ながら、僕は朝御飯を食べた。食事はまあ美味しいよな、と思う。食事が終わると僕は食器を洗い、シンクのそばの水切りカゴに収める。さて、学校に行こうと思った時、『マザー』の音声が響いた。
「6251-2223、来月はクリスマスだけど、プレゼント何が良い?」
僕は少し考えてこう答えた。
「おっぱいが欲しいな」
『マザー』はしばらく考えていたようだったが、やがてこう答えた。
「君が条件を満たしていることは確認した。承認を取らなければならないので10分以上30分以内、待って欲しい」
「いいよ」
僕はトイレをした後、部屋に戻ると着替えを始める。タンスを開けて、真っ白いブラウスを取り出し、パジャマを脱いで身につける。リボンを付ける。寒いのでウールのベストを着た上で制服のブレザーを着た。ニーソを穿き、制服のスカートを穿いた。
僕の着替えは1年前までは男の子の服が支給されていた。しかし1年前のクリスマスに「女の子の服が着たい」とお願いしたら、それ以降、支給されるのが、女の子の服に変えられた。最初は家の中や近所に出歩く時だけそれを着ていたが、半月後に「承認が取れたよ」と言われて女子制服のセットも支給されたので、それで学校に出て行くようになった。
僕が女子の制服を着て学校に出て行った時、最初は学校の友人達も驚いたようであったが、「可愛いね」「似合ってる」などと言ってくれて、女の子の友人たちと一緒におしゃべりしたり、お茶を飲んだりする機会なども増えた。
タンスの中にあった男の子の服は、その1ヶ月後に撤去されていたので、僕は毎日ショーツ、ブラジャー、キャミソール、といった女の子の下着をつけ、スカートを穿くようになった。
僕が着替え終わり、今日持って行く教科書などを再確認していたら、マザーがさっきの返事をくれた。
「6251-2223、承認が取れたよ。クーポンを発行するから12月24日の夜22時に指定の病院に行くように」
「うん」
「それからバスト大きくしたらそれを支える筋肉が必要だから、これから毎日腕立て伏せ100回」
「わあ、頑張ります!」
僕は台所の端末から出て来たクーポンを学生手帳にはさむと、笑顔でマザーに「行ってきます」と言い、部屋を出た。自動でドアがロックされる。生体認証されるので、僕以外がこのドアの前に立ってもドアは開かない。古い時代には「鍵」というものを使っていたらしいが、現代ではそのようなものは必要無い。
バス停に行くと、やがて学校方面に行くバスが来た。乗り込む。何人か見知っている友人がいたので会釈する。奥の方にクラスメイトの美雪がいて手招きしていたので、行ってその隣に座った。
「ねえ、なんか今日数学の抜き打ちテストがあるらしいよ」と美雪が言う。
「えー?うっそー」
「行列の計算が出るらしい」
「きゃー、あのあたり、私怪しいのに」
学校まで行く間に、他にも何人か知っている子が乗ってきて、おしゃべりの輪が広がっていく。こういうの、楽しいなと思う。男の子していた時には無かった世界だ。バスから降りて学校の方へ行く。校門のところに立っている先生に「おはようございます」と言って、中に入っていく。校庭で野球部の女の子たちが朝練をしていた。
「わあ、みんな頑張るなあ」と僕が言ったら、美雪が
「そういえば、野球って、昔は男の子のスポーツだったらしいね」
「へー。そういうのって時代で変わっていくんだね」
「逆にバドミントンなんてのは昔は女子のスポーツだったらしいし」
「わあ。でもバドミントンできる女子は格好良いと思うよ」
「うん。私もー。でも男の子が野球してるところって、何か想像できないなあ」
「ほんとに。まさかミニスカートは穿かないよね」
「ズボンだったと思うよ。でも野球といえばミニスカートってイメージ強いもんね」
「うんうん」
朝の朝礼が終わり、1時間目は家庭科の時間である。女子が家庭科で男子は武道の時間となっている。僕も昨年までは男子だったので武道の方に参加していたのだが、女子制服で通学するようになってから、家庭科の方に参加するように言われた。一応、家庭科と武道は任意選択科目なので、女子が武道をして男子が家庭科をしてもいいことになっている。実際そういう選択をしている子もいるが、大半の女子は家庭科、大半の男子は武道を選択している。今日の武道は射撃らしかった。
「6251-2223がそっちに行ってから、模範演技できる奴がいなくて寂しいよ」
などと男子の5592-4124から言われた。僕は武道はあまり好きじゃなかったのだけど、射撃だけは得意で、200m離れた的に5発撃つ内、4発は的の中央に命中させていた。
「5592-4124だって結構上手いし、2133-5192とかも凄いじゃん」
「うん。確かに2133-5192は上手いけど、6251-2223ほどじゃないもん」
彼は突然小さい声に切り替えて言った。
「ね、6251-2223が女の子になっちゃったのって、もしかして狙撃兵になりたくないから? お前の腕があったら、高校卒業して兵役に行ったら、間違いなく狙撃隊行きだもん」
「うーん。確かに人を殺すのはあまり好きじゃないけど、仕事ならできると思うよ。でも、僕、元々女の子になりたいって、小さい頃から思ってたから」
「へー。それまで、そんな雰囲気無かったから、突然女子制服で学校に来た時は、ほんとにみんなびっくりしたよ」
「ふふ」
今日の家庭科は、卵料理をいろいろ作ろうということで、目玉焼きから始まり玉子焼き、オムレツ、オムライスと作らされた。グループ分けされていて、各グループでひとりずつ、どれかを作っていく。僕はオムレツの担当だったが何とかうまく形にまとめられた。
「わあ、上手。かなり腕を上げたね」
「うん。1年前は料理なんて、まともにしたことなかったから、目玉焼きで失敗しちゃったもんなあ」
「だいぶ練習したんでしょ?」
「一時期は毎日晩御飯に卵料理何か作ってたよ。玉子焼きが何とかできるようになったのが夏かな。オムレツは秋からかなり練習してるけど、まだ少し不満」
「いや、これだけできたら、かなり良いと思うよ」
授業が終わってから誘い合ってトイレに行く。僕が初めて女子制服で学校に出て行った日、先生から呼ばれて「君の女子制服の通学に関しては承認されているということで連絡が来ている」と言われ、トイレは女子トイレを使うように言われた。それまでおしっこをする時に小便器で立ってしていたのを個室で座ってするようになって、最初の頃はけっこう興奮してついオナニーしてしまったものだが、すぐに慣れて、ふつうにするようになった。
女子トイレは男子トイレと違ってどうしても待ち行列ができているが、個室が空くのを待ちながら友人達といろいろおしゃべりしたりするのもまた楽しみである。男の子時代は特に友人とそんなに会話することも無かったのだが、女の子になってから、おしゃべりの楽しさを覚えた。
2時間目歴史の後、3時間目は体育であった。僕は着替えは個室更衣室を使うことになっていた。僕のように、戸籍上男でも女子として通学している子、逆に戸籍上女でも男子として通学している子は各学年に1〜2人いるので、その子たちのために男子更衣室・女子更衣室以外に、個室更衣室が用意されている。
体育の授業も男女別であるが、これも最初はかなりの戸惑いがあった。結構男子しかしない種目、女子しかしない種目もあるので、最初野球などはルールも分からなくて、失敗した。せっかくヒット打って1塁に出たのに、ベースから離れてはいけないと知らずにタッチアウトにされたりした。
夏に水着を着て水泳をする時は「あのあたり」をどうしたらいいものか悩んだのだが、保健の先生が「こうやって着るんだよ」と教えてくれて、お股に男の子の物が付いているのが分からないように女子用スクール水着を着ることができた。
しかし、そうやってお股のところをカバーして女子用スクール水着を着ていても、胸が無いのがちょっと恥ずかしい気がした。それを同じクラスの女の子に言ったら「大丈夫だよ。由美子なんかも、こーんなに胸が無いから」などとそばにいたクラスメイトを引き合いに出された。「そこまで言わなくていいじゃん」と由美子は文句を言っている。
そうそう。僕たちは、男の子は全員数字6桁か8桁の識別番号で呼ばれているが(稀に4桁の子もいる)女の子たちはみな固有名を持っている。生まれて以来それでやってきているので、あまり不思議に思ったことも無かったが、1年前から女子たちと一緒に行動するようになって、そういえば何でだろう?と思った。先生に訊くと
「うーん。何故と言われても・・・・。もうこういう命名って200年くらい前からの伝統だからねぇ」
などと言われた。
識別番号は重複しないように付けられている訳ではないみたいで、例えば412432という識別番号の人は僕たちの学年に3人いる。学籍簿上では412432A,412432B,412432Cと区別されているが、戸籍上の名前は全員412432である。なんかこういう「ありふれた識別番号」というのが結構存在するようである。「817145」なんてのも多い。僕の識別番号「6251-2223」というのは珍しいようで、これまで同じ番号の人に出会ったことが無い。
クリスマスイブは友だちの女の子たちと友人の家に集まって、クリスマスパーティーをした。協力して、フライドチキンを揚げたり、ローストビーフを焼いたり、サンドイッチやピザを作ったりした。ワインで乾杯して(この国では16歳以上になるとアルコール類を飲んでも良い)、大騒ぎをした。
「おい」とかなり酔った感じの由美子が絡んできた。
「私も胸無いけど、6251-2223も胸が無いなあ」
と由美子は僕の服の中に手を入れて胸を触っている。
「今夜おっぱい大きくする手術しちゃうよ」
「えー?そうなの?手術許可が出たんだ」
「うん。どこまで許可が下りてるのかがちょっと怖い」
「自分から申請したの?」
「うん」
「私も豊胸手術の申請してみようかなあ」
「女の子は赤ちゃん産むまではなかなか許可降りないって言うね」
「そうなのよねー。でも私くらい悲惨に胸が無かったら許可出ないかなあ」
「試してみる手はあるね」
「うん。でもサイズはどのくらいにするの?」
「良く分からない」
「トランスで胸大きくする時、Bサイズとか選ぶ子が多いらしいけど、女の子になっちゃったら、Bじゃ絶対寂しいから。最低Dくらいにした方がいいよ」
「そうなんだ!実はBくらいでいいかなと思ってた」
「いきなりDとかEにすると最初は胸が重たくて肩もこるだろうけど、すぐ慣れるよ」
「ああ、すぐ慣れるだろうなとは思う」
「でも豊胸の許可が下りたってことはさ、実は全部許可出てるんじゃないの?」
「そうだったらいいなあ。それ期待してて、何年も許可が出ない子もいるっていうしね」
「ああ、時々いるよね。私と同じマンションの住人で胸は13歳で許可が下りたのに、下の方の手術はもう24歳になるのに、いまだに許可が下りないっていう人がいるよ」
「わあ、可哀想」
20時すぎくらいまでみんなで騒いで解散する。みんなかなり酔っていたが、僕は手術を控えているのでアルコールは控えていた。いったん自宅に戻ってから準備をして病院に行く。この国では病院というものは24時間開いているものということになっている。個人病院では、昼間だけ、あるいは夜間だけという所もあるのだが、総合病院は基本的に24時間対応である。昼間は風邪や怪我などの患者が多いが、慢性疾患の患者や、僕みたいな美容形成の患者は夜間に受診する場合が多い。手術室も夜間の方が空いているので、この手の手術は夜間と相場が決まっている。
フロント(年配の人たちは「受付」とか言うが、僕らの世代では「フロント」という呼び方で定着していた)で手首の所に埋め込まれている識別チップをかざすと
「事前診察をしますので、3階の美容外科に行ってください」
と音声が帰ってきて、番号札が出て来た。それを持って3階に上がる。
やがて自分の番号が表示されたのを見て診察室に入った。40歳くらいの女性のお医者さんだ。
「名前と生年月日を言って下さい」
「6251-2223です。****年10月13日生まれ」
「はい、本人ですね。豊胸手術を受けるということでいいですね?」
「はい、お願いします」
女医さんは端末に表示されているカルテを見ている。
「血圧・血糖値などは正常ですね」
と言われる。僕らは毎朝、これらの数値をチェックされている。
体温・脈拍なども含めて、これらの計測値に異常があれば学校は休みで自宅でマザーにより治療されるか、重い場合は病院に転送される。
「バストのサイズはどのくらいを希望しますか?」
「Eカップにしてください」
「おお、かなり大きいね、それは」
「どうせ大きくするなら、どーんと大きくしようと思って」
「こないだ来た男の子はいきなりJカップにしたいと言って、さすがにそれは大きくて辛いよと説得してFカップにしたんだけどね。Eでもかなり大きいけど、いい?」
「はい」