【△・瀬を早み】(3)

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2017年11月3日、千里1は川島信次と結納をおこなった。千里1は玲羅に出席を打診したのだが「私はこの結婚には反対だから、結婚式については考えてもいいけど、結納は出ない」と言われてしまい、結局母だけが東京に出てきてくれることになった。
 
千里の母は、2011年に貴司との縁談が壊れてしまったこと、そしてその後も千里がその貴司と不倫関係を続けていたようであることに心を痛めていたので、その千里が別の男性と結婚することになったというのを喜んでくれたのである。その様子を玲羅から聞き、千里2が罪悪感を感じた。
 
そういう訳でこの結納は、千里(千里1)・津気子、信次、康子の4人だけで行われたのであった。康子と津気子は初対面になった。
 
結納式を手順通りに終えた後で、4人は式の日取りについて話し合い、3月17日(土)友引に挙式をおこなうことを決めた。
 

この結納が行われた日、多紀音はこの結納を何とかぶち壊せないかと、そのホテルまで出てきた。フォーマルドレスを着てホテルのフロントに行き、関係者のようなふりをして
「川島家と村山家の結納は何号室でしたっけ?」
などと訊く。
 
「913号室でございます」
とフロントの女性は答えた。
 
それで多紀音はエレベータで9階まで上り、913号室を探す。
 
ところが見つからない!
 
エレベータを降りて左手に901-915と書かれていたので、そちらに歩いていったのだが、912号室の向かいは914号、隣は915号なのである。
 
「あれ〜?どこ〜?」
などと思いながら、キョロキョロしていたら、
 
「危ない!」
という声がする。
 
え!?と思って振り返るとワゴンに食器を積んだホテルスタッフが目の前にいる。そして次の瞬間、ガチャンという音がして、ワゴンは多紀音に衝突し、食器が崩れるようにして多紀音の上に落ちてきた。
 
「お客様!大変申し訳ございません。お怪我はありませんか?」
と言って、女性スタッフが歩み寄る。
 
「大丈夫」
と言って立ち上がったものの、洋服が酷いことになっている。食器は全て金属製だったので、壊れたりもせず、おかげて多紀音も怪我したりはしなかった。
 
「洋服は弁償致します」
「大丈夫ですよ。安物だから」
「でしたら、クリーニング代を」
 
と言って、ホテルスタッフは自分の財布から福沢諭吉を3枚取り出して多紀音に渡した。
 
クリーニング代にしては多すぎる。しかし、このスタッフはこのことを上司に知られたくないのかもと思った。
 
「ありがとう。私も不注意だったかも」
「どちらかの結婚式にでもご出席でしたか?」
「いや、帰る所だったの。だから大丈夫」
 
この時、多紀音はあまり騒ぎになって、それが信次に見られたら、言い訳ができないという気持ちがあったのである。それでお着替えになるなら、どこか部屋を開けますのでとスタッフが言うのを辞退して、急いでエレベータに行き下の階に降りて逃げ出してしまった。
 
その後ろ姿を見てホテルスタッフに扮した《びゃくちゃん》は、
「まあ殺したのがバレたら後で千里に叱られそうだし。死なない程度にしておかなくちゃ」
などと独り言を呟いた。
 
なお、このホテルに913号室というのは存在しない。
 

ちなみにこの結納の日、千里2は郷愁村でローズ+リリーの制作会議に出て、その後、マリと囲碁対決をしたのをPV用に撮影されていた。
 
また千里3は明日のWリーグの試合に向けて川崎の体育館で練習に熱が入っていた。千里3は自分が結婚しようとしているなんて全く知らない!
 

千里と貴司はだいたい毎月1回下旬にデートしているのだが、9月23日は日本代表の祝賀会が都内であったので、千里3は貴司に
 
「悪い。今月はどうにも都合が付かないからいつものデートはパスさせて」
とメールを送っておいた。
 
そのメールに貴司は首をひねった。千里からは「結婚するからもう会わないようにしよう」とお手紙が来たばかりだったので、会わないのは当然だろうと思っていた。また、千里との関係が終わってしまったと思い込んだので、美映にハマり込んでいったのもあった。
 
10月22日は千里3は21-22日に名古屋でWリーグの試合があり、22日は貴司も大阪実業団のリーグ戦があったので、22日夜、大阪市内のホテルでふたりは密会している。千里が試合後大阪に移動して一緒に食事をし、ホテルで一晩過ごしている。阿倍子には何も言っていないが、貴司が自宅に戻らないのは最近日常茶飯事になっているので、貴司が帰宅しなくても彼女は何も言わない。正直、貴司も阿倍子も自分たちの破綻は時間の問題と思っていた。
 

千里と貴司は、基本的に毎月下旬の22日に近い休日に、わざわざ事前に約束しなくても必ず大阪市内のNホテルで会っている。予定を変更する時だけ連絡することにしている。10月22日、貴司は「今月は来てくれないかなあ」と思いながらNホテルのエントランス付近に居たら、千里が来てくれたので、凄く喜んでいた。
 
「どうしたの?今日は」
と千里(千里3)は不思議そうに尋ねる。
 
「だって千里が来てくれたから」
「毎月会ってるじゃん。先月は全日本の祝賀会で来れなかったけどさ」
「そうだよね」
 
例によって貴司は千里にセックスしたいと言ったが、千里は例によって結婚している男性とセックスなんかできない言い、結局貴司が自分でするのを千里が見ていてあげた(貴司はそばに千里が居ない限り自慰もできないように男性能力が封印されている)。
 
「ね、貴司。年明けくらいに2人目の子供を仕込みたいんだけど」
 
千里3も2018年の秋に小春を産み直すことになっているのは知っている。それは千里の卵子と貴司の精子を結合させて身体を作らなければならない。また千里3も《きーちゃん》から、小春が2017年7月に“狐としての生”を終え、中有の世界に旅立ったことを聞いている。
 
「それ阿倍子に妊娠させるの?」
「貴司が妊娠してもいいけど」
 
実際千里3も、実質は自分が妊娠するにしても、誰かに形式上の母になってもらう必要があることを認識している。それは貴司が阿倍子と結婚しているのであれば阿倍子でもいいかと思っていた。むろん貴司でもよい!
 
「僕は妊娠できないと思う」
「やってみないと分からないよ。男の娘のはずの私だって妊娠したんだから」
 
といって、千里はバッグの中にいつも入れているDNA鑑定書を出して見せる。
 
「そうなんだよね。京平は僕と千里の間の子供なんだよね、間違い無く」
 
「これもあるけど」
と言って千里3はふたりの婚姻届も見せる。
 
「それほんとにごめん」
「まあいいよ。貴司が阿倍子さんと離婚するまでこれで虐めるから」
 

11月4-5日には小牧市で全日本社会人バスケットボール選手権大会が行われ、東京の40 minutesが同じく東京のジョイフルゴールドを破って優勝した。
 
両者は全日本の東京都大会決勝でも激突し、そちらは40 minutesが涙を呑んだのだが、社会人選手権では雪辱を果たした。ローキューツは3位だった。
 

11月6日(月).
 
千里1は信次・桃香と一緒に新幹線で仙台まで行き、2015-2016に和実の代理母出産をしてもらった病院を訪れ、あの時と同様にして、卵子を採取して体外受精をした上で代理母さんにお願いして子供を作りたいと言った。
 
ここで医師は3人を見て勘違いしていたのだが、最初そのことに双方気付かなかった。
 
「なるほど。ご友人から卵子を提供してもらって、ご夫婦の子供にしたいんですね」
 
「はい、特別養子縁組です」
「ただ特別養子縁組は、法的な夫婦でないとできないんですよ」
「ちゃんと法的に夫婦になるから大丈夫ですよ」
「養子縁組で戸籍をひとつにしていてもダメなんですよ。婚姻でないと」
 
「大丈夫です。ちゃんと法的な性別も女性に変更終了していますから婚姻できますよ」
と信次が言った。
 
「ああ、そうなんですか!失礼しました。では本当に高園さんと川島さんが婚姻した上で、村山さんの卵子の提供を受けて高園さんの精子と結合させるんですね。でしたら、念のため簡単な検査をしたいので、高園さん、精子をこれに取ってもらえませんか?そちらの採精室の中で」
 
と言って、医師はガラスの容器を桃香に渡す。
 
「それと村山さんには卵巣年齢を確認するための血液検査をお願いしたいのですが」
と更に医師は言う。
 
「えっと・・・」
と桃香は容器を持ったまま一瞬考えたものの、医師が役割を勘違いしていることに気付く。
 
「済みません。精子を提供するのは川島で、川島と夫婦になるのが村山で、私が卵子提供者なのですが」
と桃香が言うと
 
「え?川島さんは性別を女性に変更できたのに、まだ睾丸があるんですか?」
と医師は戸惑うように言う。
 
「いえ、私は天然女性の卵子提供者、性転換して女性に性別を変更したのは村山で、その夫になる予定の精子提供者が川島です」
と桃香は説明する。
 
「え!??」
 
そういう訳で、3人の性別を医師に納得させるのに数分かかったのであった。
 
医師は、女性にしか見えない千里を卵子提供者と思い込み、普通に男に見える桃香と信次がゲイの夫婦と思い込んでしまった。そして桃香と信次を見比べると信次の方がいかにも“妻”に見えるので、性別を女性に変更したというのは信次なのだろうと判断してしまったのである。
 
「それ面白そう。私から卵子を取って、桃香の精子と掛け合わせて、信次に妊娠してもらおう」
と千里が笑いながら言うので
 
「お医者さんを更に混乱させるようなことを言わないように」
と桃香が注意した。
 

若干の混乱の上で取り敢えず信次が精子の採取を行うとともに、性病やAIDSに感染していないかを確認するため、結局、3人とも血液検査をされた。
 
実際の代理母のプロジェクトは婚姻届が受理された後、戸籍謄本を提出してからでないと契約ができないということだったので、この後は、入籍後に進めることになる。
 
血液検査等の結果は郵便で3人各々に通知されたのだが、千里(千里1)は自分が受け取った検査結果の中に
 
「アンチミュラー管ホルモン(AMH)は8.5ng/ml(*1)で、あなたの卵巣年齢は20歳くらいです」
 
という文章が印刷されていたのは、気にしないことにした!!
 
(*1)AMH(Anti muellerian hormone) は元々は性分化を司るホルモン、正確には「女性化を防止するホルモン」である。胎児の未分化な中腎組織に精巣から分泌されたAMHが作用すると、ミュラー管の発達が抑制され、代りにウォルフ管が発達して精巣上体や精管が形成される。一方、女性の場合はAMHがほとんど存在しないため、ミュラー管が発達して卵管や子宮が形成される。
 
AMHは成人女性の場合も前胞状卵胞(二次卵胞)の顆粒膜細胞から微量ながら分泌される。卵子の元になる原始卵胞は約375日掛けて多数のライバルと競いあって排卵直前の卵胞にまで育って行くが、その中で290日ほど競争を生き抜いて発育したのが前胞状卵胞である。AMHの濃度が高いのはこの段階の卵胞がよく形成されていることを表し、より妊娠しやすい状態にあると考えられる。
 
AMHの基準値は、資料によりかなりの差異があるのだが、20代では7-8ng/ml以下(平均4ng/ml)、30代で4-6ng/ml以下(平均2ng/ml)、40代になると1-3ng/ml以下(平均0.5ng/ml)くらいである。千里の数値は実際には10代後半くらいの女性の数値だが、判定プログラムには20代未満まで判定するケースが想定されておらず「20歳くらい」と表示されたものと思われる。実際10代で不妊治療をするのは普通考えられない。
 
実際問題として千里の卵巣は2000年9月に骨髄液を採取してIPS細胞を作り女性器に育てたものなので、2001年生れの女性の生殖器並みのはずである。つまり千里の卵巣の実年齢は本当は16歳なのである。AMHの数値が高いのは当然である。京平を妊娠した時は実年齢13歳で、ギリギリ妊娠可能な年齢だった。つまりあれは中学生が妊娠出産したようなものである。
 

11月9日(金)。
 
信次の兄・太一が唐突に女性を連れて実家に来て
「俺この子と結婚したいんだけど、いいよね?」
 
と言った。女性は
 
「片野亜矢芽と申します。突然の訪問申し訳ありません」
 
と礼儀正しく挨拶する。亜矢芽はイギンのフォーマル(実は母親からの借り物)を着ているが、太一はトレーナーに穴の空いたジーンズである。
 
康子は驚いたものの、女性が妊娠していて来年7月に産まれる予定と聞くと
 
「それ私が了承するも何もないじゃん!」
と呆れて言った。
 
「うん。だから追認して」
「まあいいけどね。済みませんね、いいかげんな息子で」
と康子は亜矢芽に謝った。
 
「私もごめんなさい。その日は安全日だからつけなくても大丈夫かなと思っちゃったんですけど」
「あれは、しちゃうと排卵が起きたりするのよ」
「それ、お医者さんからも言われました!」
 
太一たちは結婚式とか要らないから入籍だけすると言ったのだが、康子が式はちゃんと挙げた方がいいと主張。結局、3月17日に信次と千里の結婚式をした翌18日、今度は太一と亜矢芽の結婚式をすることになった。
 
なお、この時点での戸籍の状態であるが、太一と信次は川島厳蔵と前妻との間の子として戸籍には記載されており、康子は後妻なので、実はふたりの子供と法的な親子関係は無い。更に信次は既に分籍しており、川島家の戸籍にはお互い法的関係も遺伝子上の関係も無い太一と康子が残っている状態である。太一が婚姻のため新しい戸籍を作れば、康子がひとりその戸籍に取り残されることになる。
 
(なお遺伝子的には、太一は厳蔵の愛人・露菜が別の男の種で産んだ子、信次は厳蔵と康子(当時は愛人)の子である。厳蔵には多数の愛人がいた)
 

11月10日。与党の老齢の代議士で、いくつもの大臣職を歴任し、政界のドンと呼ばれたPが亡くなった。
 
このニュースを見て、千里2は
「いよいよ来るな」
と感じた。
 
千里以外にもこのニュースから、約半年後に始まる音楽業界の大騒動を予測した人物が数人居た。
 
沖縄でこのニュースを見た照屋清子は、紅川会長に電話を掛けた。
「内密にちょっとお話ししたいことがあるんです。私、ノロという立場上、あまりここを離れられないので、お忙しい所を大変申し訳無いのですが、こちらに一度来て頂けませんでしょうか?」
 
ちょうどその日は長崎の実家に寄っていた久保早紀は
「取り敢えずビットコイン・キャッシュを少し売るか」
などと呟き、それからある人物に電話を掛けた。
 
「以前言っていた話だけど、適当そうな人物見つかりました? へー、TS大学の?うん。じゃ一度一緒にその人と会いませんか? いよいよミューズ・プロジェクトを始めましょう」
 
11月13-15日、青葉は短水路の日本選手権に出るため東京に出てきたのだが、その時、冬子から東京に出てきているなら、時間が取れたら寄ってと言われていた。しかし特に何か用事がある訳でもないようだったので、今回はパスさせてもらって、彪志のアパートに泊まった。
 
その青葉の行動を確認して、千里2は《きーちゃん》に頼み、青葉に擬態して冬子のマンションに行ってもらうと、幾つかの注意を冬子にしてもらった。
 
・『フック船長』を書いた琴沢幸穂は千里姉や冬子さんの強烈なライバルになる可能性もある。負けないように頑張って下さい。
 
・上島先生としばらく会わないようにして下さい。特に何か一緒にやろうみたいな話は絶対に断ってください。上島先生は近い内に大きなトラブルに巻き込まれます。冬子さんまで巻き込まれたら、日本の音楽業界が崩壊します。
 

11月17日、青葉がローズ+リリーのアルバムに入れる『ふるさと』という曲のデータ(Cubaseのプロジェクトデータ)を千里1の所に送付した。千里1はこれを《あたかもケイが書いたかのような曲》に改変して《きーちゃん》に渡した。そして《きーちゃん》は最終調整のために千里2に渡したのだが、千里2はデータを見て、すぐにこれは元々冬子(ケイ)が書いたものだと気付いた。それで、メロディーをケイが書いたであろう元の形に修復してしまった!更に和音の使い方などを高校時代の冬子の流儀に変更して、20日にケイのマンションまで持っていった。
 
ケイはデータを再生してみてギョッとしているようだった。
 
「ちなみにこれが青葉が書いたオリジナル、その後青葉の友人が編曲したもの、そしてこれが最終的に私が調整したもの」
と言って千里が3枚の譜面を並べると、冬子は何だか悩んでいた。
 
この日はカウントダウンライブで『雪を割る鈴』に使うバヤンのことで冬子と話した。実際のバヤンという楽器を見せてもらったら、ボタンの並びが、千里が以前使ったことのあるドイツ式アコーデオンと似ているので「これなら練習すれば弾けると思う」と言って、持ち帰り練習することにした。
 

信次は会社の健康診断でひっかかり「要精密検査」と言われ、病院にやってきた。レントゲンを撮られたり、よく分からない注射を打たれたりする。
 
医師は言った。
 
「腫瘍が出来ています。見た感じは良性のものにみえますが、念のため組織検査をさせてください」
 
それであらためて大きな病院で1日入院して更に検査を受けることになり、紹介状を書いてもらった。
 
「面倒くさいなあ。俺忙しいのに」
などと信次は呟いていた。
 
しかし会社からの指示で受けている健康診断なので結果は上司にも報告しなければならない。すると上司は
 
「君、結婚も控えているんだろ?健康的な不安は取り除いておかなきゃいけないよ」
と言われ、1日入院することになった。
 

11月25-26日。全日本バスケットの3次ラウンドが行われ、ここまで勝ち上がってきたアマのチームとトッププロチームが対決した。
 
ほとんどの対戦でプロ側が勝ったが、唯一、佐藤玲央美たちのジョイフルゴールドだけが、プロチームを撃破してお正月の全日本(オールジャパン)への出場を決めた。
 
この大会にレッドインパルスの一員として出場したのはむろん千里3である。千里2の方は、25日夕方東京に戻った後、フランスに移動して11月26日15:30(日本時間26日23:30)からの試合に出た。
 

11月25日に青葉が(高岡で)友人同士集まって、成人式の振袖の事前撮影会をしたいので、東京付近の友人を運んでくれないかと千里2に打診があった。
 
「奈々美ちゃんがいなければ簡単なんだけどね」
「なんかまずかったっけ?」
「26日に全日本の3次予選があるんだよ。奈々美は当然私はその試合に出ると思っている」
「わっごめん!」
 
ちなみに奈々美が所属している東京W大は東京都予選で敗退している。東京の代表はジョイフルゴールドであった。各都道府県から1チームのみしか勝ち上がれないというシステムのおかげで、東京・愛知・大阪で多くの強豪チームが消えてしまっている。
 
「私が24日にそちらに連れて行って、私は25日に新幹線で帰るからさ、帰りは青葉が運転してよ」
 
「分かった、それで行こう」
 

それで千里2は24日に冬子のエルグランドを借りて、桃香と早月、純美礼、空帆と奈々美を乗せて、高岡まで走った。実際には奈々美も途中の運転を交替してくれた。
 
ところで先月千里(千里1)が高岡に来た時、朋子にかなり結婚に対する疑問を呈されたのだが、それでも一応朋子は千里の結婚を認めてくれたし、信次を歓迎・歓待してくれた。その時、千里1は11月3日に結納をするので、次来た時は指輪を見せるね、などと言っていた。
 
今回千里2が高岡に来た所で、朋子から結納のことを尋ねられるが、千里2は結納の日は郷愁村でローズ+リリーの制作をやっていたので、結納のことなど、全く知らない。
 
それで質問に対してしどろもどろになる(千里2は1番に代わりたーいと思いながら会話している)。更には
 
「そうだ、婚約指輪を見せてよ」
と言われるのに対して
 
「ごめーん。持ってくるの忘れてきた」
などと言う。
 
それで朋子は、やはり千里はこの結婚にあまり気が進まない思いなのでは?という疑問を持ったのであった。普通ならエンゲージリングなんてもらったら、嬉しくてみんなに見せたがるものではないのか?それを忘れてくるなんて、あり得ないと思ったのである。
 
25日の午前中に市内のホテルで撮影会をし、(振袖を脱いでから)お食事会をした。その後、千里2は新幹線で東京に戻った。また青葉は奈々美・純美礼・空帆を乗せてエルグランドで26日(日)に東京に戻った。
 
そして桃香は最近千里があまりアパートに寄ってくれないこともあり、しばらく高岡で早月と一緒に過ごすことにした。
 

11月は25-26日は、千里の全日本3次ラウンドにぶつかっていたので、11月19日に千里(千里3)と貴司はデートした。
 
先月はふたりとも試合の後だったのでしなかったのだが、この日は普段のデートのように、体育館で一緒に練習して汗を流してから、ホテルの部屋に入り、いちゃいちゃした時を過ごした。
 
貴司は千里の“川島さんとの関係”が気になったものの、楽しい雰囲気に水を差すだけだしと思い、その話は尋ねなかった。
 
「じゃ次のデートは12月23日に」
「OKOK。クリスマス・イブイブデートだね」
「私たちが結婚できなかった5周年記念で」
「勘弁してよぉ」
「いや、私とちゃんと結婚してくれるまではひたすら虐める」
 

11月30日、最近貴司と深みにはまりつつあるという気がしていた美映は、やはり不倫はよくないから別れようと貴司に提案。貴司も同意したものの、ふたりは“ラストデート”で大阪市郊外のホテルに行った。
 
ふたりのホテルデートはこれが最初で最後になった。
 
貴司の男性器が大きくならないので
「もしかしてED?」
と訊くのだが、貴司は
「悪い。妻以外の前では立たないんだ」
などと言う。
 
何て堅物(かたぶつ)なの!と美映は呆れたのだが、そんなことを言っている貴司が可愛く思えて、立たないままの貴司のおちんちんを自分の間に挟んだり転がしたりして遊んだ。女の子のオナニーみたいに指で押さえてぐりぐりしてあげたら「気持ちいい!」などと声を挙げているので、若干貴司のセクシャリティに疑問を感じた。
 
「指でもよければコンちゃん付けて、入れてあげようか?」
「いや。それは苦手」
 
苦手というのは経験はある訳か・・・と思ったが、深くは考えないことにする。
 
最後はワインで乾杯してからキスして別れた。
 
美映は
「結構楽しかったな。さて、次の“たかし”を見つけなければ」
などと考えていた。
 
美映は小学1年生の時以来、これまで10回以上恋愛しているが、相手の名前が全員「たかし」なのである! だから細川貴司と出会った時、この人と恋愛することになるかもという予感が最初からあった。
 
もっとも美映は恋愛自体はたくさんしていても、実はセックス未経験である。
 
中学時代には相手の家で服を着たまま抱き合い、スカートの中に手を入れられてあそこを直接指でいじられたことがあるが、彼のお母さんが帰宅したので慌てて中断した。高校時代には体育館倉庫で、あわやということもあったのだが、人が来る音がして未遂に終わっている。専門学校時代にバイト先の男の子とホテルに行ったものの、彼はゲイで「入れて欲しい」と言われたので、入れる側は体験した(結構楽しかった)。
 
しかしまだ入れられる側は体験していない。今回は貴司と、とうとうセックスすることになると思っていたのに、肩すかしになってしまった。
 
「次こそはセックス経験したいなあ」
などと、美映は思わず口に出していた。
 

貴司と美映が大阪郊外のホテルでデートした夜、千里1は信次と千葉市郊外のホテルに行っていた。
 
実はふたりは9月16日に婚約した後、1度もデートしていなかったのである。10月に北海道と富山に行って、千里の母の津気子と朋子に会った時も宿泊は別々だったのでセックスしていない。11月3日に結納した時も、結納後にデートしていたら千里が会社から呼び出されて急行したので空振りである。
 
この日信次は提案した。
 
「ジャンケンしてさ。勝った方が男役をしない?」
「何それ〜〜?」
 
「これ知ってるよね?」
と言って、ハーネスと***を見せる。
 
「凄いものを持って来たね。買ったの?」
「あ、うん」
「またプライスシールが付いているなと思って」
「あわわ」
 
慌てて信次はそれを剥がした。しかしこれを千里が知っていたので安心した。
 
「だから千里ちゃんが勝ったらこれで僕に入れていいから、僕が勝ったら、千里ちゃんに生で入れさせてよ」
 
なーんだ。要するに生でやりたいのかと千里は思った。それで
「いいよ」
と了承する。
 

それでジャンケンした。信次が勝った。
「うっそー!?」
と言っている。
 
千里は「よほど嬉しかったのね」と思ったが、信次は自分が負けるつもりだったのである。信次は実はじゃんけんで人に勝った記憶が全く無い。だから自分は負けるだろうと思ってジャンケンを提案したのであった。
 
ところが千里はジャンケンの結果を自在に操れる。千里のこの技が通用しなかった人は過去に誰も居ない。それで信次が勝つような手を出したのである。
 
(翌年6月4日に千里2が虚空(丸山アイ)とジャンケンして意図と反する結果が出て驚くことになる)
 
「じゃ潔く生で受け入れるね」
と言って千里は信次にキスし、裸になってベッドに横たわった。
 
信次は、絶対入れてもらえると思ったのに〜!と思いながら、仕方なく千里の上に覆い被さった。
 
(でも生は凄く気持ちよかった−優子と2年前のクリスマスイブにして以来である)
 

同じ夜、阿倍子は晴安と密会していた。
 
ふたりは最近何度か町で遭遇したりして、結構長時間話していたのだが、この日は晴安が
「プレクリスマスデートしない?」
と誘ったのである。阿倍子は貴司が23日は仕事で帰れないと言っていたのを思い起こす。きっと千里とデートするのだろうと思ったものの、この4年間さんざん浮気をされて、阿倍子もどうでもいい気分になりつつあった。
 
離婚はいつ頃かなぁ、などと思っている。京平にも
「ママがお父ちゃんと別れたら、京平どちらに付いていく?」
などと訊いていた。阿倍子は京平が自分より千里の方が好きみたいだというのを感じていたので、きっとお父ちゃんの所に行くと言うと思った。
 
ところが京平は
「ボク、ママと一緒に居るよ」
と答えたので、阿倍子は感激して京平を抱きしめた。
 
この時点で京平はお父ちゃん(貴司)とお母ちゃん(千里)が結婚するのはたぶんまだ3年くらい先で、お父ちゃんは短期間別の女性と結婚することになると泳次郎様から聞いていたので、知らない女の人と暮らすよりママ(阿倍子)の方がいいと思っていた。またママがあまりにも虚弱体質で自分でもいいから付いてないと危なっかしいと思っていた。必要な時はお母ちゃん呼べばいいし、と考えている。最近ママとお母ちゃんって何だか仲が良いし!?(なぜ仲良くできるのかは京平の理解を超えている)
 
この日阿倍子は京平を託児施設に預かってもらい、ふたりは京都で密会したのである。
 
晴安は女装だった。
「その格好で来るとは思わなかった」
「僕はできたらずっとこの格好で暮らしたい」
「だったら将来私と結婚することがあったら、そういう格好で家の中に居てもいいよ」
「外出は?」
「ひとりでどうぞ」
 

それでもふたりは、まるで女の友人同士のように祗園界隈から先斗町界隈まで歩き、リーズナブルなお店で食事をし、その後(晴安が)予約していたホテルに入った。ホテルの前まで来たとき、阿倍子は一瞬晴安を見たものの、抵抗はしなかった。
 
「ここで何するの?」
と部屋の中でベッドに腰掛けて阿倍子は訊く。
 
「君が欲しい」
「私たちどちらも結婚しているよ」
「それでも欲しい」
 
「ふーん」
と言ってから阿倍子は
「シャワー浴びてくるね」
と言って浴室に行き、お化粧を落とし、身体を洗った。そして身体を拭くと裸で浴室を出てベッドに入る。
 
「私疲れたから寝るね〜〜〜〜〜」
と言って目をつぶる。
 
そして5分後、阿倍子は10年ぶりの快感を感じることになったのである。
 
(阿倍子は前夫と結婚していた頃、最後の方は体外受精しかしていなかったのでセックスはしておらず夫婦仲は完璧に冷え込んでいた)
 
「ね。僕も妻と別れるから、君も旦那と別れない?慰謝料が必要ならビットコインが値上がりしているの売却して、お金作るから」
 
と晴安は言ったが、阿倍子は微笑むだけで、明確な返事はしなかった。
 

信次と千里がデートしている千葉市郊外のホテルでは、1回戦が終わった後、2人とも少し眠ってしまった。やがて起きた所でお酒でも飲もうよと言って、冷蔵庫の中で冷えている冷酒を出してタンブラーに注ぎ乾杯する。
 
千里は雨宮先生のお陰でワインには結構詳しくなっているのだが、日本酒はあまりよく分からない。しかしこのお酒はけっこう美味しいと思った。
 
「これ美味しいね」
「うん。僕も美味しいと思った」
などといった所から、しばらく会話をする。その会話が途切れた所で信次は言った。
 
「今は僕が千里ちゃんに入れたから、今度は千里ちゃんが僕に入れてくれない?」
「え〜?」
と千里は驚いたものの、
「ひょっとして入れられるのが好きなの?」
と訊く。
 
「あ、いや、ちょっとどんな感じかなあと思って」
「私下手だよ」
「下手でもいいよ」
「じゃ」
 
それで千里は“男役セット”を装着し、コンちゃんを付ける。信次は仰向けに寝て膝を曲げ、入れやすい体勢になっている。それで千里は角度を考えながら、ゆっくりと入れてあげた。こういう体勢を知っているって、ひょっとして、あちらなのかな〜?とも思う。それにそもそも、凄くスムーズに入った。まるで女性に入れているみたいなスムーズな入り方だった。
 
これはここを未経験の人ではあり得ないと千里は思う。入れられるのに慣れていないと、ここは堅くて簡単には入らないのである。何度も入れている内に、ちゃんと入るようになるのでAを使う風俗嬢などは自分で入れてかなり練習している。
 
ふーん。もしかしたらもしかしてなのかな?などと千里は思った。だったら私、信次の期待にはこたえられないけど、と思いながらも、まあいいよねと思って、千里は信次に覆い被さった。
 

この夜、美映と貴司のセックス(?)、千里1と信次のセックス、阿倍子と晴安のセックスは同時進行で行われた。
 
さて、貴司は“千里”以外とはセックスできない呪が掛かっている。過去にこの呪を破ってまんまと貴司とのセックスに成功したのは、千里に変装してセックスし、光太郎の肉体を作るための精液を獲得した虚空のみである。
 
また一方、京平は半ば無意識に「ママとパパが仲良くして欲しい」という呪を掛けていて、阿倍子は貴司と結婚している限り、“貴司以外の男性”とはセックスできないようになっている。
 
(京平は物理的年齢は2歳でも“中身”は中学生男子程度なのでセックスについても知っている)
 
この「貴司は千里以外とセックスできない」「阿倍子は貴司以外とセックスできない」という、2つの呪は対立していて、その結果ひじょうに微妙なことがこの夜起きたのだが、その全容を知っていたのは《くうちゃん》のみであった。
 
■要点
・貴司の男性器が美映の女性器に接触した瞬間、貴司に掛かっている呪により、美映の女性器が千里1の女性器と交換されてしまった(次の生理または出産まではそのままになる)。
 
・晴安が阿倍子に入れようとした瞬間、晴安の男性器は“京平の呪に違反しないもの”と一時的に交換されてしまった(こちらはセックスが終わると元に戻る)。
 
■Timeline
22:00 信次P→千里V
22:30 貴司P→美映(V=千里)
23:00 千里D(本当は晴安P)→信次
23:00 晴安(P=千里D)→阿倍子V
 

信次と千里の1回戦で、信次は“生で”千里1に入れている。これは実は2人の最初で最後の生セックスとなった。
 
次に貴司と美映が遊んでいた時、既に美映の女性器は千里のもの(30分ほど前に信次のを受け入れている)に入れ替わっている。
 
ここで美映は、貴司の男性器から、いわゆる“がまん汁”が出ていて、その中の精子が自分の女性器に進入して受精に至ったのではと考えた。しかし実はこの女性器はそれ以前に生の男性器からの射精を経験していたのであって、がまん汁も何もなかったのである。
 
ずっと後、2021年の春に、桃香は「代理出産で、出産の母と遺伝子上の母が違うことがあるのなら、突っ込んだ父と遺伝子の父が違うこともあるかも知れない」と言うことになるが、この発言はかなり鋭い所を突いていた。
 
その後、千里は***を信次に入れたのだが、同時期に晴安が阿倍子に入れていて、それが京平の呪で阻害されたので、この2つのセックスは入れ替わってしまった。結果的に千里の***が阿倍子に入り、実は阿倍子に10年ぶりの快楽を感じさせたのは千里である。そして晴安は阿倍子に入れたつもりが信次に入れてしまったのである。
 

阿倍子への思いを遂げ、自身生まれて初めての(完全な)セックスを体験して、晴安は満足して眠ってしまった(晴安は妻の中ではどうしても逝けない)。彼はセックスをしてから1時間後くらいに目覚めるが、阿倍子は熟睡しているようだった。自分が避妊具を付けたままであるのに気付いたので外して、処分しようと思った。
 
ところがその時、思わぬ異臭に驚く。
 
これ・・・まさか、僕、入れる所間違っちゃった!?
 
うっそー!? 初めて女性の中で逝けたと思ったのに。。。
 
と晴安はがっかりした。
 
でも・・・阿倍子さんは満足したように眠っているな。彼女も旦那とセックスしてないと言ってたから、そちらでも満足しちゃったのかな?と考えて、次回は気をつけて入れる先を間違えないようにしよう、などと思っていた。
 

結局、様々な人の思惑の副作用で、晴安と信次がセックスしてしまったのだが、ここで、晴安はGIDだがゲイではないし、信次はゲイだがGIDではない。しかしふたりはこの日は晴安が男役・信次が女役の形で結合してしている。もっともふたりとも自分が男性とセックスしたとは思いもよらない。信次の“そこ”は充分開発されているので、女性のもの並みにスムーズに入る。それで晴安は変な所に入れていることに気付かなかった。
 
さて、信次は思っていた。
「千里ちゃんって、まるで普通の男性が入れるように入れてくれた。凄く気持ちよかった。やはり千里ちゃんって、基本は男の子なんだね。彼女は僕の理想の結婚相手だ!」
(本当に入れたのは晴安である)
 
また千里の方は「まるで女性のヴァギナに入れるみたいに」スムーズに入ったことで信次のセクシャリティに疑いを持つのだが、本当に千里が入れたのは阿倍子のヴァギナだったのである!
 
そして阿倍子は10年ぶりのセックスだったこと、晴安とは初めてだったことで多少の違和感はあったものの、晴安って女の子になりたいみたいだし、男性としては弱いから、このくらいだろうと思い、自身としては充分気持ち良かったので、満足して熟睡したのであった。
 
千里は信次の前立腺を刺激してあげたつもりだったが、結果的に阿倍子はGスポットを刺激されて気持ち良かった。
 

11月下旬、生理がずっと来ないことから、私どこかで間違って妊娠した?と不安になった多紀音は産婦人科を訪れてみた。
 
取り敢えず「妊娠」はしていないことを確認されてホッとする。セックスした覚えはないのだが、セックス無しで妊娠することもあるという話は聞いたことがあった。
 
ただ生理がもう2ヶ月近く来ていない理由について、医者は首をひねった。
 
「お薬も出しますので毎日飲んで下さい」
「分かりました」
「年内にもう一度来てください」
「はい」
 

12月4日(月).
 
テレビ番組としては最後の放送となった今年のYS大賞授与式が東京プリンスホテルで行われた。この授与式には千里2が出て行った。今年は千里が関わる歌手が何人も受賞していたのだが、千里は『マイナス1%の望み』を歌った品川ありさの席に川崎ゆりこと一緒に座った。アクアの所には青葉と絹川和泉が座った。
 
千里はゴールデンシックスの演奏の時に出て行ってフルートを吹いた。実は美空は最初からゴールデンシックスの席に座っていたので、KARIONのメンバーの中でこの部屋に居なかったのは小風だけであった!
 

12月初旬、信次は総合病院に1日入院して、組織検査を受けた。検査結果は1週間後に出た。
 
「良性ですね。手術して取り除くか、あるいは薬などで対処するかは、経過を見て判断しましょう。また来月来院してもらえますか?」
 
「あ、はい」
信次は、俺病院好きじゃないのにと思いながら答えた。
 

康子は毎朝近くの神社まで歩いて行って参拝するのを日課にしていたのだが、その日康子がいつものように100段の石段を登り拝殿で参拝してから、石段を降りようとした時、急に暗くなるので見ると、太陽が厚い雲に遮られた所だった。しかも、その雲の前を黒いカラスが横切っていった。
 
康子は急に胸騒ぎがした。
 
神社に戻り、拝殿の中に入って、おみくじを引く。末吉である。文章を見ていく内にこの下りが気になった。
 
《病気 神仏の加護を祈り、良き医師を求めよ》
 
康子は先日信次が1日入院して検査を受けたことと、この文章がつながっているような気がした。
 

それで康子は信次を強引に、癌や腫瘍の治療で定評のある大病院に連れて行った。
 
それで丸一日かけて検査を受ける。医師は言った。
「腫瘍は良性ではありますが、このままにしておくのは良くないです。手術して摘出するのをお勧めします」
 
医師は併せて抗癌剤や放射線治療もした方が良いと言った。
 
「でもこの子、今度結婚することになっていて、体外受精で子供も作るのですが」
「でしたら、治療を始める前に精子の保存をなさいませんか?」
 
「そうですね。念のため保存しようかな。でも4月くらいに体外受精をするので、治療を開始するのはそれ以降とかにはできませんかね?それに今仕事も忙しくて何日も僕が入院すると、会社が困るんですよ」
 
「分かりました。それでは4月くらいに手術をする方向で行きましょう」
 
精子の採取は年明けに2度おこなうことにした。
 
「ご結婚を控えている時期に辛いとは思うのですが、精子の採取の前には1週間ほどの禁欲をお願いしたいのですが」
 
「ああ、大丈夫です。今私も婚約者も物凄く忙しくて、ほとんどデートできていないので」
 

12月11-12日、東京北区のナショナル・トレーニング・センターで、女子日本代表のA代表、ユニバーシアード代表、U19代表の合同キャンプが行われた。
 
フル代表としては、千里や玲央美、湧見絵津子・渡辺純子などが参加している。ユニバーシアード代表では奈々美たちが参加している。U19では福井英美などが入っている。
 
最初にそのままのチーム同士で練習試合をしてみるも、当然フル代表の圧勝である。ユニバとU19でもユニバが大勝する。
 
福井英美(ビューティーマジック)は
 
「この1年で私、物凄く進化したつもりだったのに!」
などと言っていた。
 

12月16日にはWリーグのオールスターが行われた。今年は大田区体育館が会場となった。
 
千里(千里3)はもちろん東軍のファン投票で選ばれて出て行った。試合は千里や絵津子・純子らの活躍で101-82で東軍が圧勝。千里はスリーポイント女王とMVPまで獲得した。
 
なお、東軍は事実上Wリーグのトップ2チーム、サンドベージュとレッドインパルスの合体チームである。↓実際の構成チーム
 
東軍 サンドベージュ、レッドインパルス、 フリューゲルロースト、ハイプレッシャーズ、シグナススクイレル、バタフライズ
 
西軍 ブリッツレインディア、エレクトロウィッカ、ビューティーマジック、 ステラストラダ、フラミンゴーズ、ブリリアントバニーズ
 
ファン投票選出
 
東軍 田宮寛香・村山千里・湧見絵津子・渡辺純子・夢原円
西軍 水原由姫・神野晴鹿・伊香秋子・馬田恵子・福井英美
 

11月24日、ビットコインからのハードフォークでビットコイン・ダイヤモンドが生まれたが、若葉たち3人はすぐに売却する方向でプログラムに指示を与えた。新しいビットコイン・ダイヤモンド(BCD)は1BTCにつき10BCDずつ付与されたので3人のBCD付与数は若葉が250万BCD, 千里が35万BCD, 冬子が33.3万BCDとなった。
 
若葉のプログラムは1月13日に1BCD=0.1ETH(*1)となった所でBCDを売却した。それで若葉は25万ETH, 千里は3.5万ETH, 冬子は 3.33万ETHを得た。3人はビットコインキャッシュもイーサリアムに交換することにした。若葉のプログラムは12月20日に1BCH=4.8ETHで交換。若葉は30万BCH→144万ETH, 千里は3.6万BCH→17.28万ETH, 冬子は3.33万BCH→16万ETHになった。
 
(*1)ETHはイーサリアム(Ethereum). 他の記号は↓
BTC=Bitcoin, BTG=Bitcoin Gold, BCD=Bitcoin Diamond, BCH=Bitcoin cash,
主な仮想通貨のリストは例えば↓にある。
http://list.wiki/Cryptocurrencies
 
現在世の中に出回っている仮想通貨(Cryptocurrency/Altcoin)の種類は数千種類に及んでおり、もうとてもその総数は把握できない状態になっている(2018年の年初頃に2000か3000くらいと言われていた)が、そのほとんどが休眠しているか、事実上の詐欺である。
 

若葉たちは、ビットコインキャッシュ、ビットコイン・ゴールド、ビットコイン・ダイヤモンドから交換したイーサリアムをそのままドルに換えた。1月中旬に1ETH=1300 USDくらいのレートで交換したので、若葉は206.5万ETH→268.5B$, 千里は26.03万ETH→33.8B$, 冬子は24.33万ETH→31.6B$を得た。ここでB$=十億ドルでUSD=112JPYで計算するとこれは各々、3007億円、379億円、354億円に相当する。
 
3人ともアメリカ国内の銀行にも口座を持っているので、そこにドルのまま出金した。
 
(若葉はもとより日米仏独伊西に口座を持っている。冬子はアメリカのFMIレコードとの取引のためサマーガールズ出版ニューヨーク支店を設立している。千里はフィラデルバーグにも住所があるので日常の用途のために銀行口座を開設している−でも3人とも各銀行から問合せがあった!)
 
一方で3人はビットコインも引き上げた。こちらは日本円に換えて国内の銀行に置くことにした。少し送金時間が掛かることを覚悟で日本国内の取引所に移動してから日本円に換える。日本円に換えたのが1月上旬で194万円で交換できたので、若葉は25万BTC→4850億円、千里は3.5万BTC→679億円、冬子は3.33万BTC→647億円ほどになった。
 
(こちらも3人とも受取口座のある銀行から問合せがあった!!)
 
結局3人がこの2年間のマネーゲームで得たお金は若葉が7857-100=7757億円、千里が1058-33=1026億円、冬子は1001-20=981億円である。
 
むろんこの半額を税金として2019年3月に納めなければならない!
 
(実は納税のことを考えてビットコイン分は日本円に換えた。なお、仮想通貨の取引による利益は雑収入として本業での収入と合算されて総合課税される)
 

「しかしミュージシャンやっているのが馬鹿らしく感じるくらいの金額だ」
「1000億円って、10万人の男の娘を女の子に性転換させてあげられる金額だ」
「そう言われるとそれほど高額でもない気がする」
 
「日本全国の男の娘の総数ってどのくらいだろう?」
「30歳以下に限っていえば多分100万人くらい」
「10人に1人か・・・」
「籤でも引かせる?」
 
「まあこの儲け自体、宝くじにでも当たったと思って、このお金のことは、さっぱり忘れようよ」
「うん、これ忘れて本業にしっかり戻ることが大事」
「落語の芝浜だよね〜」
「若葉の本業は何だろう?」
「ムーランの社長かも」
「おお!頑張ってね」
「温泉も開業するからね〜」
「お客さん来るといいね」
 
「しかし払う税金は国家への貢献かな」
「勲章くらいもらってもいいけどな」
「若葉の伯母ちゃんの会社はいくらくらい納税してるの?」
「うーん。。。800億円くらいだと思う」
「若葉、それよりずっと多く納税することになるじゃん!」
「うん。私の来年の納税額は多分KDDIとかホンダ並みの納税額になる」
「恐ろしい!!」
「ほとんど個人なのに!」
 
「だからお母ちゃんから叱られる訳よ」
「なるほどー!!」
 
「私たちは偶然儲かったけど、逆に数百億円財産を無くした人たちもいるよね?」
「まあそういう人たちの方が多いだろうね」
 
2018年1月26日、日本の某取引所で仮想通貨NEMが52300万XEM(580億円相当)、取引所の管理の杜撰(ずさん)さから盗まれる事件が発生し、仮想通貨が軒並み暴落する事態が発生したが、その被害額より大きな利益を得た直後の3人は
 
「何か大したことない金額のような気がする」
などと言い合ったのであった。
 

12月下旬、多紀音は再度婦人科を訪れた。
 
まだ生理が再開しないというという話に医師は様々な検査をさせてもらった。その結果、医師はひとつの結論に達した。
 
「ショックだと思うので気を確かにして聞いてください。これは閉経しています」
 
多紀音はショックを受けて、その場で床に座り込んでしまった。顔面蒼白になり結局点滴を受けて病院のベッドで1時間ほど休むハメになる。
 
なんで私がこういう目に遭うの〜?
 
と考えてから、ハッとする。
 
これはきっと呪い返しだ。何らかの理由で呪いが跳ね返されてしまって自分に戻ってきた。悔しい。
 

12月23日(土・祝).
 
貴司と千里(千里3)は「結婚できなかった5周年」のデートをした。いつもの大阪のNホテルで、いつものようにモエ・エ・シャンドンのシャンパンをあけ、レストランのディナーを食べる。
 
貴司は千里から昔プレゼントしてもらったラルフローレンのスーツを着ている。千里は今日は豪華な加賀友禅の訪問着を着てきている。
 
「凄い服着てきたね」
「まあ6周年をやらずに済むといいね」
と千里が言ってみると
 
「その問題についてはノーコメントにさせて欲しい」
と貴司は言った。
 
ふーん、と千里は思う。以前は貴司は「自分は阿倍子と離婚しないから期待しないで欲しい」と言っていたのである。やはり1年前の布施暢彦(貴司の従兄)と室峰純奈(冬子の従姉)の結婚式の時から明らかに変わったと千里は思った。その時、千里は“京平の母・細川千里”として結婚式に出席し、保志絵から婚約指輪を再度もらったのである。
 
阿倍子さんへの離婚慰謝料は3000万円くらい払えばいいかなあ、などと千里は内心考えていた。
 

食事の後は、予約していた体育館に行き2時間ほど汗を流した。
 
この日貴司は千里に全く勝てなかった。
 
「貴司、練習不足!」
「感じた。僕はハイレベルな人との練習が足りないみたいだ」
「やはりBリーグに行きなよ」
「入れてくれる所あるかなあ」
「Wリーグでもいいよ」
「それは絶対入れてくれない!」
「ちょっと簡単な手術を受ければいいんだよ」
「あまり簡単では無い気がする」
「まあ結構痛かったね」
 
「それに今のチーム状態で僕が抜けると、どうにもならなくなるし」
「貴司がいてもどうにもならなくなっている気がする」
「それはそうなんだけどね」
 
貴司たちのチームは有力選手がどんどん辞めて行っている。昨シーズンは1部の七位だったが、入れ替え戦に勝利して、かろうじて2部陥落を免れた。今季はここまで1勝4敗だが、残り2試合が強い所ばかりである。残りを負けるとまた今年も入れ替え戦に出ることになるが、貴司は今年の陣容では入れ替え戦にとても勝てないと思っていた。
 

貴司の会社は2006年に創業者の孫にあたる丸正義邦(42)が双日の課長をしていたのを辞めて新社長に就任した時に生まれ変わった。アイデアマンの義邦氏は様々な新商品を生み出し、就任して1年で売上げを前年の3倍に伸ばした。バスケット部にも力を入れて2007年船越監督を招聘、この年大阪3部で優勝し2部に昇格。貴司が加入した2008年には2部準優勝。2009年には優勝して1部に昇格する。その後1部で優勝争いを続けていた。
 
ところが2014年、義邦氏は病に倒れ、叔父の昌二副社長(65)が経営の指揮を執ることになるが、次々と大型の受注に失敗する。社内でも昌二氏の経営に反発する社員が増え、内紛のような状態になって、バスケット部を統括していた高倉部長も2015年春に退職した。この時有力選手が2名辞めてbjリーグのチームに転出している。
 
その後、会社は急激に業績を落として、一時は給料の遅配まで起こす事態となる。それで銀行団により、昌二氏は病床の社長・義邦氏とともに解任され、銀行団は新たに銀行の支店長代理をしていた田中道宗(58)を新社長として送り込んで来た。
 
田中社長はリストラを進め、不採算部門の閉鎖、研究所と工場の売却まで行い、会社は開発生産型の会社から、アジアの新興企業から製品を買って国内で売るのを主体とする輸入販売会社に変貌してしまう。バスケット部もまず選手枠を10人まで減らされ、スポーツ手当も廃止。練習できるのも曜日限定になり、まともな練習ができない状態になってしまう。船越監督も2016年春に退任したし、大半の選手が辞めてしまった。貴司は実は日本代表の合宿に出ていて、戻って来ると誰も居ないので唖然とした。
 
貴司はマンションの住宅手当もカットされるのではと思ったのだが、結局貴司がアシスタントコーチ兼任になることで、そのコーチ待遇として住宅手当は維持された。結果的に貴司は辞めるに辞められなくなってしまう。
 
それで、チームは2016-2017シーズンでは7位に沈み、今シーズンは更に選手枠を8人に減らされ、開幕戦には2部から上がってきたばかりのチームに何とか勝ったもののその後全敗中。それも内容が悪く、全ての試合で大敗している。実際問題として貴司以外には現在まともな選手がおらず、相手チームが貴司にダブルチームを掛けると、なすすべも無い状態である。貴司自身、他のチームメイトとあまりにも実力差がありすぎて、コミュニケーションも取れない状況にある(そもそも貴司は男性と会話するのが苦手)。
 
 
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【△・瀬を早み】(3)