【女の子たちの魔術戦争】(その1)

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※この作品はフィクションです。作品内で述べられている法的な処理もあくまで「お話」です。また作品内で記述した魔術的なものは「鍵」を外しています。鍵は想像しないことをお勧めします。この作品は2017-2019年の暦を使用しています。
 
それは桃香が早月を出産し、千里がソフトハウスに勤めながら桃香母娘を経済的に支援しはじめた頃のことであった。千里は最近、忙しい仕事の合間を縫って、茶道の教室に通っていた。当時千里は就職3年目で係長の肩書きを持ち、20人ほどを動員する大きなシステム開発のリーダーをしていたのでほんとに時間が無かったのだが、精神的な負荷が大きい分、無理にでも都合を付けて、心を落ち着ける時間を取りたかったのであった。当時千里はアパートで一人暮らしで、桃香たちのアパートとは2kmほど離れていたが、千里はよく自分のミラを運転して、桃香たちの様子を見に来ていた。ちなみにこのミラは千里が中古屋さんで3万円で買った車で購入時の走行距離が20万kmを越えていた。千里は「走る奇跡だね」などと言っていた。 
千里の茶道教室出席はどうしても不定期になりがちではあったが、和服をきれいに着こなし、おしとやかな作法でお茶を点てたり頂いたりする千里は、先生からも褒められることが多かった。千里は一緒の教室の他の生徒さんとも仲良くなったが、その中で特によく話をしていたのが、50代の女性で康子さんという人だった。その人は華道と着付けの免状を持っているのだがなぜか茶道にはあまり縁が無かったということで50過ぎてから茶道教室に通い始めたということだった。千里は着付けの免状は持っていないものの、学生時代からよく和服を着ていたので、自分で振袖でも着れるし、他人にも着付けてあげることができる。康子は千里に「あなたならすぐ免状取れるから試験受ければいいのに」とも言っていた。 
康子は息子が2人いるということで、千里ちゃん、うちの息子のどちらかの嫁にならない?などとも言っていたが、柔らかくお断りしておいた。性転換して女になった身としては、普通には結婚できないものと覚悟していたし、性転換していること自体をわざわざ言いたくも無かった。千里はふともう5年前になってしまった性転換手術の時のことを思い起こしていた。

 
「いよいよ明日だね」わざわざプーケットまで手術の付き添いに来てくれた桃香が千里に声を掛けた。
「うん。昨日くらいまではドキドキしてたんだけど、今は心の中が澄み切った感じで、明鏡止水の境地ってのかな、それに近い感じ」
「20年間付き合ったおちんちんとお別れする感想は?」
「特にないかな」
「千里、去年の去勢手術の時も感想は無いって言ったね」
「うん。よくMTFの人には間違って付いていたものを取ってもらうんだとか感想言う人もいるけど、それって一種の言い訳じゃないかな、なんて思ったりする。私は自分で決めて体を改造することにしたわけだから、決めた通り進むだけ」
「それでいいと思うよ」
 
「ねえ千里、明日は女の子になっちゃうんだから、最後の記念に1回Hさせてよ」
「無理だよ。これもう立たないもん」
「仕方ないなあ。じゃフェラでいい」
「うん、それなら」
 
桃香は千里の病院着のズボンを少し降ろすと、優しくそれを舐めてあげた。ゆっくりとしたペースで、それはかなりの時間に及んだ。もちろんそれは舐められたからといって立ったりはしないが、千里はとても心地よかった。 
面会時刻終了のアナウンスが流れる。きっとナースが巡回してくる。
桃香は名残惜しそうにフェラをやめた。
「でも。これで千里のおちんちんは永遠に私の物。だってこれ明日には無くなっちゃうんだから、これを舐めたのは私が最後になるもん」
「最後でなくても桃香以外に舐めた人はいないけど・・・でも舐めると自分のものになるの?」と笑いながら千里が言う。
「だって『つばを付ける』というしね。そうだ!これ私の物になったことだし、先生に言ったら、明日の手術で切り取ったあと、私もらえるかな」
「桃香持って帰るつもり?」
「うん。去年摘出した、千里のたまたまもまだ冷凍保存してるよ」
「いいけど」千里は苦笑した。
 
翌日。手術は1日に4人行われるのだが千里はその4番目だったので、夕方4時頃から手術が始まり、6時頃に終了した。桃香はコーディネーターの人に通訳してもらい医師に頼んで、千里から切り取ったペニスの残骸(海綿体部分)をケースに入れてもらった。血を抜ききれいに洗浄してあった。桃香は千里に見せてあげようかと思ったが、本人は手術後の激痛に苦しんでいたので、自分のバッグにしまい、千里の手を握ってあげ、おなかのあたりをさすってあげた。
あの時、桃香に手を握ってもらっていたのが凄く心強かったなあと千里は回想していた。ほんと遺書書かなきゃかと思ったもん、あの時は。
 
ミラを運転してその桃香の家に着く。中から赤ちゃんの泣き声が聞こえる。「こんばんは、桃香。早月ちゃんはご機嫌斜めね」「ああ、千里いいところに来た。ちょっとおっぱい貸して」「え?また?」早月はどうも千里のおっぱいでも、乳首に吸い付いていたら結構満足して寝てしまうのである。
「私少し寝たいから。おやすみ」といって、早月を渡して、奥の部屋に行き寝てしまう。やれやれと千里は座り込んで早月を自分の乳房に吸いつかせる。千里は自分では子供を産めないものの、こうしているとちょっとだけ母親の気分を味わえて、幸せな気持ちがした。
 
性転換手術を終えたあとで戸籍の性別を変更する時、千里は桃香に
「私、女になっちゃっていい?」と訊いた。
「何言ってんの?今更。女になりたかったんでしょ?」
「その・・・私が女になっちゃったら、桃香とは女同士だからさ」
桃香は千里が言いたいことは分かっていたが明快に答えた。
「私はレスビアンなんだよ。私千里のこと好きだけど、千里が男の子
だったら、私困るもん」
「そうだよね」
と千里は頷いて裁判所に「性別の取扱いの変更」の審判の申立書を出したのであった。そうして、千里と桃香は戸籍上婚姻できない関係になった。 

「ごめんね」信次は、多紀音からの交際の申し込みを優しく断った。
「どうして?私のことが嫌い?」多紀音は食い下がったが、信次はそれに答えず伝票を持って席を立った。多紀音はそのままずっとそこに座って泣いていた。 

康子はその日も朝から家の近くの神社にお参りすると、朝日に向かって祈願した。「どうか、うちの息子たちに良い嫁が来ますように。そして私が生きているうちに孫の顔が見られますように」と。
 
康子は数年前に癌と診断されていた。ただ発見が早期であったのと、投与してもらっている制癌剤が相性が良いようなのとで、進行は遅く、うまくいけば完全に治癒するかも知れないとは言われていた。ただ病気が病気だけに、あと何年もは生きられないかも知れないという気もしていた。しかし息子2人が結婚どころか、恋人を作るそぶりも見せず、やきもきしていた。
 

桃香はその日、ちょうど田舎から出てきていた母に早月の世話を頼んで買い物に出かけ、スーパーの連絡通路を歩いている時、ふと占いの看板に目を留めた。理学修士で合理主義者の桃香としては占いにはあまり興味が無かったのだが、その時はなぜかたまには見てもらうかなという気になり、感じの良さそうな40代くらいの女性の占い師の前に座った。
 
「恋愛でお悩みですか?」
うん。まあ20代の女性にはそう言っておけば結構当たるだろうなと桃香は思い「ええまあ」と曖昧に答える。生年月日と出生場所を聞かれたので教えると、占い師はノートパソコンでホロスコープを出して見ながら
語り始めた。桃香は今時は占いもハイテクなんだなと思った。
「運命の人とは既に会っているようですね。気になっている人はいます?」
「うーん。そうですね」
「その人とはどうもなかなか愛のサイクルが合いませんが、さ来年くらいに大きな進展のチャンスが訪れます」
「へー」
桃香は最低限の返事しかしない。これでは相手は占いにくいだろうなという気はした。桃香は占い師の中にしばしばコールドリーディングをする人がいるのを知っていて、それをひじょうに嫌っていた。
 
「ちょっとタロットで見てみましょうか」
といって占い師はタロットカードをシャッフルしはじめ、やがてひとつにカードをまとめて、何枚か抜き出した。
「あれ?」
「どうしました?」
「うーん。。。。お相手の方が・・・その、ちょっと女性的な方ですか?」
桃香はびっくりした。
「ええ、そうです」
「あ、じゃこの読みでいいですね。うーん。その方はいったんあなたから離れて別の人に近づく。。。あれれ???ちょっとすみません」
占い師が悩んでいる。
「あの・・・大変失礼ですが、お相手の方は女性ということは?」
「よく分かりましたね」
「立ち入ったことを聞いてしまい申し訳ありませんでした。お相手の女性はいったん、他の男の人と結ばれるようです」
千里なら、それあるだろうな・・・・と桃香は思うとともにちょっとショックだった。
「でも、そう遠くない時期にあなたのところに戻って来ます」
桃香はその占い師が慰めでそう言っているのではないことを感じた。
 
桃香は帰りの電車の中で占い師のことばを思い起こしていた。
「彼女がいったんあなたから離れていっても絶望しないでください。それは彼女自身が次なる段階へ進むための通過儀礼のようなものですから。そして彼女が遭遇する困難を乗り越えるため、あなたの力が必要です。あなたと彼女との縁(えにし)は、ふつうの恋愛関係を超越した、もっと深いものです」
 
千里、恋人作っちゃうのかな・・・・思えば、学生時代から千里はけっこういろいろな男の子に恋をしていた。桃香はそんな千里を姉のような感じで暖かく見守っていたし、告白できないというのを背中を押してあげたりもした。もっともいつも玉砕するばかりで、千里の恋が叶うことはなかったが。 
(元)男の子だというのは凄いハンディだけど、あれだけ玉砕したんだもん。ひとりくらい、千里の性別を気にせず愛してくれる人がいてくれてもいいよね。でも、その人と結局長く続かないのかな。。。そのあたりが分からん。まあでもそのあたりは運命に任せるしかないのか・・・・・

多紀音は古い友人の形見のその本を開いた。その友人はその本の中身は素人が読むものではないと言っていたのだが、彼女が若くして急性白血病で亡くなったあと、お母さんの許可を得て、形見にと頂いてきた本である。表紙からしてちょっと怖い感じだった。中身は英語だ。しかも難しい単語がかなり並んでいる。どうもラテン語やヘブライ語の単語が混じっているようだ。多紀音は辞書を片手にその本を読み始めた。
 

信次は母親からひどく折檻される夢を見て、目が覚めてしまった。小さい頃の記憶がしばしばよみがえってくる。
 
信次も兄の太一も、母からいつも虐待を受けていた。あの頃は本当に毎日が地獄という感じだった。その地獄から開放されたのは、信次が小学1年生の時母が自殺してしまった時だった。あの時の母の壮絶な死に様も幼い心に強く刻み込まれている。
 
思えば信次が女性不信気味なのも、あの子供の頃の体験があるからだろう。父は母が亡くなって半年後に再婚した。新しい母はとても優しく、ふたりを可愛がってくれた。だから兄も自分も新しい母をまるで恋人のように愛しんだ。 
信次はふと自分が女性と恋愛できないのは、実の母に虐待されて女性不信があるのと同時に、新しい母に優しくされすぎて、その母から離れたくない気持ちがあるのかも知れないという気もした。その母は最近「あんたら、恋人とか作らないの?私も孫の顔を見たいわ」とよく言っている。確かにいい人がいたら結婚して母を安心させてやりたい気持ちはあるけど。。。うーん。いい人か・・・・ 
そんなことを思いながら、恋愛運を見てみようと思って占いサイトで恋愛関係の運などを見ていたら、幾つかのサイトで「恋の始まりは近し」と出た。ふーんと思う。この手の占いって耳障りのいいこと並べてるだけだからなあ、などと思ったりする。信次は本来は占いがあまり好きでない。色々なサイトを見ているうち「あなたの余命」という占いがあった。この手のもよくあるよなと思い、誕生日を入れたあといくつかの質問に答えていく。結果を見るとというボタンを押した時、信次はぎょっとした。
 
あなたの余命はあと13ヶ月です、と表示された。
 
信次は少しショックを受けたものの、馬鹿馬鹿しいと思い、パソコンの電源を落として、寝直すことにした。明日は朝から会社で検討中の新しいコンピュータシステムの打ち合わせだ。しっかり寝ておかなくては。信次はシステムを従来のものから入れ替えることに元々消極的であったが、先日から来ているソフトハウスのSEさんが感じが良いしとても明快な発想をするので、少しずつ考えが変わって来つつあった。

 
多紀音はその「秘薬」をお茶に混ぜた。黒魔術の本に載っていたレシピである。無味無臭だから気付かれることは無いはず。
 
信次が新規のシステムのことで朝からソフトハウスのSEと会議室で打ち合わせをしている。他の人と接触しないから絶好のチャンスだ。この秘薬の入ったお茶を飲むと、それを飲み終わってから最初に見た女性を好きになってしまう。だから、これを信次のお茶に混ぜ、次にお茶を交換しに自分が行けば、自動的に自分は信次が「最初に見た女性」になれる。
 
まずは届けて来よう、と思ってお盆を持った時、オフィスの電話が鳴った。あいにく女性陣がみんな離席している。
 
もう、こんな時なのにと思い、お盆をいったん置いて電話機に飛びつき、受話器をとった。「お待たせしました。○○建設でございます」
 
電話は顧客からのクレームだった。とにかく話を聞いてあげなければならない。ところがその話が長い。多紀音はお茶が気になって仕方ない。そこに別の女子社員が戻って来た。お茶の乗ったお盆を見て「これ、会議室?」と尋ねる。多紀音は「うん、お願い」と言った。
 
社員用の茶碗と、来客用の茶碗は違う。惚れ薬の入ったお茶が誤って来客に行ってしまうことは無い。お茶を出してから彼女が部屋を出るまでの間に信次がお茶を飲み干してしまうこともないだろうから、彼女が「信次が最初に見た女性」
になる可能性は無いと踏んだ。
 
彼女がお茶を会議室にデリバーして戻った後も、クレームの電話は続いていた。かなり疲れてきた頃、やっと向こうは納得して話を終えてくれた。多紀音は大きく息をつく。さっきお茶を出してから30分くらい。次のお茶を持って行くには少し早い。しかしまた何かでつかまってしまい、自分以外の女子社員が次のお茶を持って行くことになってしまうとまずい。多紀音はコーヒーを入れて持って行くことにし、コーヒーメーカーを作動させ、できたてのコーヒーを2つカップにそそぎ、お盆に載せて会議室へ行った。よし、これで自分は信次に惚れてもらえる。期待を胸に「失礼します」といってドアを開けた。そして絶句した。嘘・・・・・
 
信次と打ち合わせしていた、ソフトハウスのSEというのは女性だった。。。。。
 
それから2ヶ月ほどが過ぎた。千里は今回新規に打ち合わせしているシステムの客先担当者から、社交的な儀礼以上の好意を受けているのを感じていた。しかし千里は最近恋愛に少し慎重になっていたので、やわらかく、かわすようにしていた。ところがそれが逆に彼の熱意を燃やす結果になってしまったようであった。システムの概要が固まり、正式に発注をもらった日、千里は彼から個人的な話がしたいと言われ、なりゆき上断れないので近くの喫茶店に席を移して話を聞いたところ、彼から結婚を前提にした交際をして欲しいと申し込まれてしまった。千里は、ビジネスが絡んでいることなので即答できない。上司と相談の上で回答させて欲しいと言い、信次も了承した。
 
千里は面倒なことになったと思い、自分の会社の社長に相談した。社長も困ったようであった。今回の受注額は1億円である。千里がふつうの女性なら交際してもらってもいいのだが、元男性という問題がある。社長は気の毒だけど、それを彼にカムアウトして欲しいと頼んだ。千里もそうしますと言う。それで向こうが千里との交際を諦めた場合は、千里をそのまま担当にするわけにはいかないので社長が代わってこのプロジェクトの指揮を執るということで先方の了承を得ようということにし、社長と一緒に先方を訪問して、少しお話をさせて下さいと言った。 
先方も社長が一緒に来訪したのに驚き、信次だけでなく上司の所長も一緒に出席した。千里はこんな場面で性別問題をカムアウトするのか!ともう逃げ出したい気分になったが、そうもできない。仕事上の責任感が羞恥心に勝った。 
「今回の訪問はシステムの件ではありません。実は先日のシステムの仕様確定のあとで、私は川島様から、個人的な交際を申し込まれました。しかし、そのお返事をする前に、私は告知しておかなければならないことがあります。それは私は、生まれた時は男性だったのを5年前に性転換手術を受けて女性に生まれ変わったということです。ちなみに戸籍は既に女性に訂正していますので、川島様と法的には結婚することは可能です。しかし、この事実を川島様にお伝えしないまま、この話をお受けすることはできないと思い、今日この場を設けさせて頂きました」
 
信次は本当に驚いて言葉が出ないようであった。所長さんも驚いたようで「あなたが元男性だなんて、一度も思わなかった」と言った。千里側の社長が補足する。
「それで、この交際申し込みの件を無かったことにするということであれば、このあとの打ち合わせがお互いにしづらいと思いますので、このシステムに関しては、私が打ち合わせや陣頭指揮を執ることにさせて頂ければと思っております」と。
 
信次は1晩だけ考えさせてください、とやっとのことで言った。
 
なお、この件は、この場にいる4人だけの胸の内にとどめ、今後のことは改めて○○建設の方から連絡するということになった。
 
その連絡は信次が言った通り、翌日にあり、また4人での会合がもたれた。その冒頭、信次はこう言った。
 
「まずあの場で即答できなかった僕を許して下さい。気持ちは固まっていたのだけど、即答していいのかどうか、自分で迷いが生じてしまったのです。結論からいえば、僕はあらためて申し入れます。結婚を前提にしたお付き合いをして欲しいと。過去の性別のことは、僕は気にしません」
 
「ほんとに気にしなくていいんですか?でもきっとご両親が」
「説得しますから大丈夫です」
 
向こうの所長さんが補足する。
「そういうことで本人の意志が固いので、私もこの件については特に何も言わないことにしました。ふたりの交際に関しては、ビジネス上の変な情実とかはふたりともしないことは信じていますので、このままこのふたりの担当で進めさせて頂いてよいでしょうか?それと、ふたりが交際していることはオープンにしても、そちらの性別問題に関しては、わたしたち4人だけが知ることとしておきましょう」
 
「ところで交際申し込み自体の返事を聞いてないのだけど」
 
千里は恋愛自体にここ数年消極的になっていたので正直なところあまり交際には気が進まなかったのだが、とりあえず交際するだけならいいかと思い
 
「交際申し込み、お受けします。よろしくお願いします」
 
と返事した。実際、親の説得なんて無理じゃなかろうかという気もしていた。 
また向こうの所長とこちらの社長との話し合いで、念のため双方にサブを付け、万一ふたりの交際が破局した場合は、担当を各々そちらのサブのほうに交替させるということでも同意した。
 

 
早速その晩、千里は信次からデートに誘われた。
居酒屋でビールを飲みながら歓談する。
「交際OKしてくれてありがとう」
「ううん。私のことを知った上で改めて交際申し込みしてくれて、こちらこそありがとう」
最初はお互い少しぎこちない会話が続いたが、少しずつ打ち解けていき、最後のほうはかなり話が盛り上がった。千里はこのくらい楽しく話せたら、結婚までいけなくても、少し良い思いができるかな、という気もした。 
初日のデートが終わり駅で別れたあと帰りの電車の中で信次は思っていた。千里ちゃん、御免。千里ちゃんを傷つけるから言えないけど、千里ちゃんが生まれた時は女の子ではなかったと聞いて、だから自分は千里ちゃんを一目見て好きになってしまったのかと思った。僕はたぶん純粋な女性とはうまく行かないもの。普通の女性と個人的にふたりきりになると凄く不安になっちゃうけど、今日は千里ちゃんとふたりきりで、とても心安らぐ思いだった。。。 
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