【娘たち、男と女の間には】(4)
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(C) Eriki Kawaguchi 2019-10-20
龍虎は4月19-20日も普通に学校に行ったが、19日はズボン、20日はスカートだった。クラスメイトたちは、きっとその日の気分で好きな方を穿いているのだろうと思ったようである。20日の授業が終わってから羽田に移動し、コスモス、鱒渕、葉月と一緒に4人でタイに渡った(和泉や写真家は先行してプーケットに行っている)。
《わっちゃん》は転送や人体位置交換の“鍵”を《くうちゃん》から預かり、千里に擬態して千里のパスポート(M3)を持って、龍虎たちより一足先にタイに渡航し、龍虎たちと同じホテルの別の部屋に入った。
撮影は21-22日に“佐斗志”の撮影、23-24日に“友利恵”の撮影をする。それで、龍虎たちはこのように担当する計画を立てていた。
4.20(学校)龍虎F (渡航M)
4.21 AM 龍虎N PM 龍虎M
4.22 AM 龍虎N PM 龍虎M
4.23 AM 龍虎F PM 龍虎N
4.24 AM 龍虎F PM 龍虎N (帰国M)
4.25(学校)龍虎M
実際には撮影がかなりヘビーなので、午前と午後で分けるのではなく2時間交替くらいで入れ替わって撮影に応じていた。
ここで予定外のことが起きる。それは撮影に同行した鱒渕が「疲れたみたいだから少し休みます」と言って部屋に戻ったのだが、《くうちゃん》の見立てでは「帰国するまでに死亡する。既に瀕死の状態」というのである。
そこで鱒渕を千里の“エネルギーの海”の中に放り込み、治療することにした。ここに数日放り込んでおけば、蓄積した疲労の解消による体力・免疫力の回復で取り敢えず数ヶ月は持ちそうということだった。その先は《くうちゃん》も「分からない。本人の体力と運次第」と言った。
そして治療中の鱒渕に代わって、《わっちゃん》が彼女の振りをして撮影に立ち会い、龍虎の位置交換を積極的に行ったのである。
22日までに佐斗志の撮影が終わったことから龍虎Mは一足先に帰すことにした。彼には女子水着は着けられない(タックしても、そもそも男性器の存在しないFとはお股の形が変わってしまう。Nは男性器を取り外して!おけば問題無い)。
ここでMに千里のパスポートを持たせて帰国させることにした。
《わっちゃん》はタイに来る時千里のパスポート(M3)を使っているのだが、帰りは鱒渕のパスポートを使うことにしたので、誰かが千里のパスポートで日本に帰国する必要があった。その役をMに頼んだのである。
それで結果的にMは女装して千里のふりをして帰国するはめになった。
龍虎Mは22日深夜の便で日本に戻り、23日朝にパスポート(M3)を千里(千里3)に返した。そして23日は撮影の疲れから赤羽のマンションでひたすら眠っていた。
パスポートを受け取った千里3は23-24日の午前中深川アリーナに行って練習していたのだが、24日、“風田コーチ”(に扮した《えっちゃん》)と“坂口代表”(に扮した《つーちゃん》)が来て、今回のアジア選手権は若手中心で臨みたいので、その上の世代の千里や玲央美は海外に出て別メニューで能力の向上を図ってほしいということになったと告げる。それで千里には明日にもフランスに飛んでLFBのマルセイユというチームに練習生として参加して欲しいと言った。玲央美はスペインのLFBバルセロナに行くという話だった。
実は千里の3分裂以来、3人の千里がかち合わないように必死に調整をしていた《きーちゃん》に、千里2が声を掛け「私が3つに分裂したみたいね」と言って、自分が分裂を知っていることを打ち明け、千里2・きーちゃん・京平の3人で協力して調整していこうと言って、その3人による《△プロジェクト》が発足していた。京平が入ったのは、“千里”は毎日京平に会いに来るからである。
(京平は実は、お母ちゃんと今までの3倍一緒に居られて嬉しいが、話題にも気をつける必要がある。1歳児がここまで気遣いするのは全くお疲れ様である。
なお3分裂に気付いた順序は、くうちゃん→丸山アイ→千里3→わっちゃん→京平→千里2→きーちゃん、の順序である。
きーちゃんと千里2は4月20日から22日まで3人が同じ場所に現れないよう気をつけて調整作業をしていたのだが、23日の国香の結婚式などでは、かなりヒヤッとする事態もあり、3人が同じ日本国内に居たら、いづれ破綻は避けられないとして、3人の内2人は外国に出そうということになった。
それで千里2は自分はアメリカに行くから3番をヨーロッパに行かせて欲しいと言い、ヨーロッパにコネがある《えっちゃん》が心当たりを当たったところ、フランスのマルセイユが受け入れてくれることになった。それでこういう話を持って来たのである。
ところで千里1が近々日本代表の遠征でアメリカに渡る予定だった。1番が持っているパスポート(M1)と3番が持っているパスポート(M3)は千里分裂の際にできたクローンなので、記録も連動するしそもそも同じ番号である。それで《きーちゃん》は千里3が持っていたパスポート(前日龍虎Mから受け取った物)を別のパスポート (F) にすり替えてしまった。
もし鱒渕が倒れていなくて、予定通り25日朝に千里のパスポートを持って帰国していたら、ここでパスポート交換ができなったので、結果的には綱渡りだった。
しかし実は千里3にもこれが好都合だった。(F)のパスポートにはスペインでの就労ビザがセットされているので、ヨーロッパに居やすいのである。
一方、千里2自身は自分で調べて、アメリカのWBCBLのスワローズというチームがシーズン開幕直前に中心選手が怪我して困っていることを知り、そこに自分を売り込みに行って採用してもらった。WBCBLのいい所は選手は無給なので、就労ビザ無しでも参加できることである。これは外国の選手が気軽に参加して“武者修行”できるように、あえて無給にしているのである。
(WBCBL自体、ほぼ個人経営に近いので、お金が無いし、参加しているチームも経営規模の小さな所が多いという事情もあるにはある)
《つーちゃん》と《えっちゃん》は《きーちゃん》の友人だが、工作活動に自分ひとりでは手が足りないので、日本に呼び寄せた。ヨーロッパに長年住んでいる《えっちゃん》が取り敢えず千里3に付いていき、《つーちゃん》が千里2に付いて回ってサポートすることになった。
(他の眷属は全員千里1に付いている)
ところで“本物の”玲央美の方は、《すーちゃん》の友人からフランスLFBに所属するオルレアン・ピューセル・バスケット (Orleans Pucelles Basket) OPB というチームを紹介してもらった。
(La Pucelle d'Orleans “オルレアンの乙女”といえばジャンヌ・ダルク (Jeanne d'Arc) の異称)
それで「どうせ日本代表も海外に出るし」と思い、風田コーチに許可を取って4月25日、実は千里3と同じ便でフランスに渡った。
NRT 11:00(AF275 B77W)16:30 CDG
2人はお互いに同じ便に乗っていることに気付かず、成田でもパリでも遭遇しなかった。千里3はシャルル・ド・ゴール空港(CDG)から国内便に乗り継いでマルセイユに行き、玲央美は鉄道でオルレアンに向かった。
それで玲央美は翌26日に“テスト”を受ける。ドリブルやシュートを見たり、何人かの選手とマッチングした。その結果
「身長もまあまあだし、スリーも上手いし、素質はあるけどプロのレベルではない。でもわざわざ日本から来たし、しばらく練習生になってみる?その間は無給で。就労ビザが必要なら書類は書くよ」
と言われた。
でも男と疑われなかったのは初めてだ!と玲央美は思った。身長の高い子がゴロゴロ居るのである。
それで玲央美は取り敢えずオルレアンに練習生として入団。秋のシーズン開始までロースター入りを目指して練習に励むことになった。選手登録名は Leo である。
練習生の間は給与も無いが《すーちゃん》がオルレアン市内にアパートを借りてくれた。
「ここの家賃は?」
「千里が払うから大丈夫。あの子、お金持ちだし、自分が何に幾ら使っているかとか全く把握してないから、オルレアンのアパート代金とか引き落とされていても全然気付かないよ」
「まあ千里ならいいか」
玲央美は《すーちゃん》の友人でパリ在住の《コアちゃん》という子に頼んで就労ビザの申請をすることにした。玲央美は28日までオルレアンの育成チーム練習に参加させてもらい「日本代表の活動があるので」と断って、29日夕方の便でアメリカのダラスに移動した。
CDG 4/29(Sat) 17:10 (AA48 787-9) 4/30 9:35 DFW
そして成田からの便(4.30 11:10 - 8:55 DFW)でダラスに来ていた代表チームに合流した。
一方マルセイユに渡った千里3だが、チームに行き、こちらも玲央美同様テストを受けさせられる。合格点はもらったものの、現時点ではフランスでの就労ビザが無いので、取り敢えず無報酬の練習生ということになった。ビザに関しては運営会社が書類を書いてくれるということで、それを使って千里3に付いてきた《えっちゃん》が申請作業をすることになった。なお、住む場所は事前に市内のアパルトマンが借りてあった。家賃は自分で払ってと言われたのでカード払いにしておいた。
千里3はこちらでしばらく暮らすなら車が欲しいなと思い、グラナダに置いているイビサを取ってくることにした。これに《えっちゃん》に付き合ってもらうのだが、この時、どさくさ紛れに千里3は《えっちゃん》を自分の直接の眷属にしてしまった。現在は主はおらず千里2が仮の主になっていたので、横取りが可能だったのである。
これからしばらく、千里3はマルセイユでチーム練習に励みながら、週に2〜3回グラナダに行き、翻訳の仕事をするということになる。自分の手に負えない言語については《きーちゃん》に頼んで、分かる子に翻訳してもらっていた。
なお、千里3はグラナダのレオパルダの運営会社に、マルセイユに移籍したことを連絡し、マルセイユで書いてもらった在籍証明書を送ったら、グラナダからマルセイユへの引越代金として 22000 eur もらえることになった。昨年 15000 eur 既にもらっているので差額の 7000 eur (84万円) を受け取った。
ちなみに、千里の眷属の中で《くうちゃん》管理ではない子たちはこのようになった。
市川ドラゴンズ(播磨工務店)のメンバーに関しては、取り敢えず2番が、バレンシア・ハルコンズのメンバーに関してはフランスに行くことになった3番が管理することにして《きーちゃん》がその調整をしたのだが、7月以降2番の方が海外に行くことになったため《きーちゃん》の誘導で管理を交換した(ドラゴンズやハルコンズのメンバーの多くはこの交換に気付かなかった)。
仙台コシネルズのメンバーについては取り敢えず1番の担当にしていたのだが、7月以降1番が管理できない状態になってしまったので、国内にいる3番がそちらも面倒を見ることになった。
小春は1番に付いていたのだが、7月4日の事件で千里1の身代わりになって死亡する。
《きーちゃん》がお手上げだったのが《わっちゃん》である。彼女は《きーちゃん》たちとは別のチャンネルで千里とつながっていたので、4月の落雷の後、《わっちゃん》の居場所を知るすべが無かった。眷属たちの間でも議論があったのだが、千里とのコネクションが切れて、フリーになってしまったか、或いは落雷の際に死亡したのかもと他の眷属たちには思われていた。知っていたのは《くうちゃん》だけだが、彼は基本的に何も語らない。《わっちゃん》は他の眷属から発見されないように巧みに行動して、千里3をサポートした。
《ほしちゃん》は千里2の眷属だが、4月の時点で千里3のことが純粋に心配だったので3番に付けて影からサポートして欲しいと言っておいた。しかし《えっちゃん》が千里3の傍には付くようになったので、呼び戻して自分の日常のサポートをしてもらうようにした。当時2番にはそういう雑務を任せられる眷属が他に居なかった。
《つーちゃん》は4月の段階では千里2が仮の主になっていたが、夏頃正式に千里2の眷属となった。彼女は《きーちゃん》の依頼により、4月から7月途中まで《わっちゃん》の代わりに千葉玉依姫神社のメンテをしたほか、千里2の楽譜入力係をすることにもなる。なお千里1の楽譜入力は《たいちゃん》がしている。
《えっちゃん》も同様に千里2は夏の段階で彼女を自分の直接の眷属にしたつもりでいたのだが、実は彼女はその前に千里3が自分の眷属にしていたのでこの眷属化は無効だった。結果的に彼女は本人も気付かないまま二重スパイ状態になっていた。千里2は彼女を千里3のそばに置いておくことで千里3の動向を完全キャッチしているつもりだったのだが、実は千里3に都合のいい情報だけを流していたのである。これは千里2と千里3が“手打ち”する(2019.6)まで続く。それ以降は千里2・千里3の話し合いで千里3専属になる。
《えっちゃん》は7月中旬以降千里3に付いて日本国内に居たので《つーちゃん》から千葉の玉依姫神社のお世話を引き継いだ。彼女は長年ヨーロッパに住んでいたのでクリスチャンらしいが「どこの神様も尊いもの」と言って、しっかりご奉仕し、《姫様》にも気に入られていた。(彼女の感覚では日本の“神様”はヨーロッパの天使のようなものだと思っているようだ)
2017年4月に話を戻す。
プーケットに写真集撮影に行ったアクアたちだが、23-24日に“友利恵”の写真撮影が終了し、夜の便で日本に戻った。実際には飛行機に乗ったのはNでFは《わっちゃん》に転送してもらっている。そしてNも帰国したらマンションに帰り、25日の学校はずっとマンションで寝ていた龍虎Mが出て行き、仕事は先に転送してもらっていたFが行っている。
(基本的に学校に行くのと仕事に行くのは別の子)
一方、鱒渕のふりをして帰国した《わっちゃん》は
「疲れたので自宅に戻って寝ています。夕方の打合せには出てきます」
と言って、鱒渕の自宅に戻り、台所の窓のロックを外した上で、室内で倒れているふりをする。それを打合せに出て来ないので不審に思った田所デスクが見に行って発見。管理会社に連絡して鍵を開けてもらう。ここで本当に意識を失ったままの鱒渕と位置交換。鱒渕本人が病院に運び込まれることになった。
鱒渕は昏睡状態であったものの、お見舞いに行った龍虎が彼女にキス・・・ではなくて、彼女の手を握ると意識回復した(そのように《くうちゃん》が設定しておいたのである)。
目覚めると本人はいたって元気な様子で、すぐにも仕事に復帰すると言ったものの、コスモスが「完全に回復するまでは入院していなさい」と言って、当面病院で療養することになった。
アクアのゴールデンウィークのツアーが目前である。しかし鱒渕がダウンしたので、コスモスは病床の鱒渕に尋ねて、何をしなければならないかを書き取った。コスモスはその作業量の膨大さに絶句する。
「あんた、これを1人でやってたの?」
「すみません。要領が悪いものでひとつひとつに時間が掛かって」
「いや、要領とかいう問題では無い」
4月26日(水)の夜、テレビ番組の収録を終えたアクア(F)を∞∞プロの菱沼伊代(32)が迎えた。
「私が鱒渕ちゃんに代わって、あんたのゴールデンウィーク・ツアーを統括することになったから」
「わあ、よろしくお願いします」
「それで今晩一晩、ちょっとデートしない?朝まで」
「はい?」
「セックスくらいさせてあげてもいいよ」
「ごめんなさい!僕、性欲が無いんです!」
アクア(F)は、自分ではやばそうだと思い「トイレに行ってきます」と言って個室の中でMと交替した。まだ制服の予備を作っていないので中身だけ交換!したのだが、Mはスカートを穿いているのを認識して・・・喜んだ!
「ふーん。女子トイレを使うんだ?」
「ごめんなさい。あんたは男子トイレ使ったら混乱の元だから女子トイレ使いなさいと言われているんです」
「確かにあんたが男子トイレに入って行ったら、ギョッとされる気がするよ」
「そうなんです」
「そもそもスカートだし」
「今の撮影の前に入ったドラマでは女役だったので、流れでこうなっちゃいました。これ実は撮影用衣装をそのまま借りてきたんですよ。着換える時間が無かったので」
「スカート、個人的にも好きなの?」
「わりと好きですよ。でもボクがスカート穿いて出歩いている所を盗撮されたことないです」
「それはうちの鈴木(社長)も不思議だと言っていた」
菱沼の運転するカムリ(私物らしい)で中央道を走り、適当なICで降りる。適当に通りがかったホテルにチェックインする。菱沼は
《菱沼伊代・菱沼龍子》
と記帳し、ツインの部屋に入った。
「じゃ、楽しいこと始めようよ」
と言って、伊代はいきなり龍虎(M)のお股をスカートの上から触った。Mは健全な男の子なので即反応する。
「ほんとに付いてたんだ!」
「こないだテレビで徹底的に性別検査されましたよ」
「あれ絶対何かトリック使ってると思ったのに。そっくりの替え玉の男の子をあらかじめ病院に入れておいたとか」
伊代は
「もう高校生だし、このくらいはいいよね?」
と言って、ホテルの冷蔵庫に入っていた勝沼ワインをグラス2個に注ぎ勧める。龍虎はおそるおそる飲んでみたが、飲んだ瞬間クラッと来た。でも美味しい!と思った。
伊代は龍虎を裸にしたりはしなかったものの、しばしば龍虎の胸とかお股とかを触りながら龍虎と様々な会話をする。
「大きくなってるね。ほんとにセックスとか体験してみない?これうまくやれば先っぽくらいは入れられるよ」
「ごめんなさい。性欲が無いので。これも物理的に反応しているだけなんです」
「だったらトイレに行って出してくる?」
「これ大きくなっている間は、おしっこ出ないんです」
話が全然通じていないものの、伊代は「まあいいや」と思った。
持ち込んだドリップ式のコーヒーを入れたり、軽いおやつなども食べながら夜通し話したが、明け方近くに伊代は言った。
「私完全に誤解していたよ。あんたは普通の男の子だ」
「そうなんです。でもみんなボクは女の子になりたいんだろうと思っているんです」
「うん。私もそう思っていたよ」
伊代は(4月27日)明け方、∞∞プロから女性マネージャーを2人呼び出し、1人には自分と龍虎を東京まで送ってもらい、もう1人には自分の車の回送を頼んだ。ワインは午前3時くらいまでにボトルを空かしてしまったので既に酔いは覚めているのだが、疲れているので安全を期して運転は避けたのである。
伊代は龍虎を赤羽のマンションまで送って行った後、自宅に送ってもらい3時間ほど仮眠してから§§ミュージックに出て行って、ツアーに向けての打合せをした。
一方龍虎(M)は「さすがに疲れた。学校はNに頼もう」と思い帰宅した。ところが帰宅するといきなりFに言われた。
「あんたお酒飲んだでしょ?」
「勧められてワインを少し」
「僕たちまで酔っちゃったじゃん」
「1人がお酒飲むと全員酔うのか!?」
「きっとFが妊娠したら全員おっぱい大きくなって、お乳も出るようになるね」
などとNが楽しそうに言っていた。
この日はFが学校に行き、夕方からのツアーの打合せはNが出た。
結局アクアのツアーは下記の体制で進めることになった。
菱沼伊代(Golden Six マネージャー)
楠本京華(丸山アイのマネージャー)
南国花野子・矢嶋梨乃(Golden Six)
吉田和紗(後の桜木ワルツ)・羽藤玲香(後の桜木レイア)・
ハナ(後の山下ルンバ)・佐藤ゆか・南田容子・吉沢蕾美
米本愛心(3月末で辞めたのに呼び出されて手伝わされ伴奏までした!)
実際問題として10人、最低でも5人くらいでやらないと手に負えない分量の仕事をこれまで鱒渕は1人でやっていたのである。年末のツアーの時は、サポートミュージシャンの事前顔合わせが無く、福岡でぶっつけ本番になってしまった問題でコスモスは鱒渕を叱ったのだが、こんなに作業量があったら、それくらい漏れても仕方ないとコスモスは思ったし、実際お見舞いに行った時に鱒渕に謝った。
この他に今井葉月と門脇真悠も「ひょっとしたら男手かも」と言われて、雑用でたくさん使われた。
ドームツアーの終了後は、取り敢えずアクアのファンクラブ会報の創刊号編集を主導した牛田典子(春風アルトの元マネージャー)に一時的に復帰してもらいチーフ・マネージャーとして統括してもらうことにした。川崎ゆりこも一時的に“マスター・マネージャー”という名目で可能な範囲の支援をする。
その他、桜木ワルツとハナ(山下ルンバ)については正規のサブマネージャーになってもらい、他に★★情報サービスから2ヶ月間限定(学校の夏休みが始まるまで)で、津島恭一さんを送迎のために借りた。
C学園に
「あのぉ、男性でもいいですか?」
と尋ねると、彼が既婚者であることもあり、
「身分の確かな方なら、構いませんよ」
と言って写真付き入構証(ICカード)を発行してもらったので、アクアをC学園に迎えに行く作業にも投入した。
また、ビザの失効で1月にハワイに帰国していた元エレメントガードのレイ(日本名:鷹木礼子)が無事就労ビザが降りて5月中旬に再来日したので、早速スケジュール管理係としてマネージング・チームに入ってもらった。
なお、彼女は「性転換手術受けてきます」などと言ってハワイに戻ったのだが、再来日した彼女を見る限りは性別が変わった感じは無かった!
「元々は男の子だったのが女の子に性別変更したんだっけ?それとも元々女の子だったんだっけ?」
「個人情報で」
「もう日本の永住権取るか、あるいはいっそ帰化しなよ」
「検討する」
そういう訳で5月から7月までのアクアのマネージングは下記の6人で行った。
牛田典子・川崎ゆりこ・桜木ワルツ・ハナ(山下ルンバ)・鷹木礼子・津島恭一
この他に佐藤ゆか・南田容子なども適宜手伝う。
アクアのゴールデンウィークのツアーは5月5日の関東ドームで終了したのだが、龍虎の母は連休中ということもあり、5月3日に龍虎が札幌から戻ってきた後、ずっと赤羽のマンションに滞在してくれていた。
その母が滞在していた5月5日、連休前に龍虎が頼んでおいた追加の制服が届いた。これで3人が各々1つずつ制服を使えるようになったのだが、母は荷物を受け取り、それが制服だったので、「なんでこんなに何枚も制服が要るの?」と戸惑うように龍虎に尋ねた。
それで龍虎はまた言い訳をするのに苦労した。
「そうだ、お母ちゃん、明日結婚式に招待されているんだけど、結婚式って何を着ていけばいいのかなあ」
と龍虎は尋ねた。
実は明日5月6日(土)にリダンダンシー・リダンジョッシーの中村正隆と鹿島信子が都内のホテルで結婚式をあげるのである。アクアは信子と同じ"CBF"のメンバーということで招待されていたのだが、アクアは自分がCBFのメンバーになっていることを知らないし、会員証が送られてきていたことも忘れている。
母は言った。
「未婚の子は振袖じゃない?そうだ!例の夕香お母さんが着ていた青い振袖を着たら?」
といって、桐のタンスの最上段に入っている振袖を出してくる。
「着れるよね?」
「うん」
それで龍虎は自分でその母(長野夕香)の形見の振袖を着てみた。
「可愛い!」
と母(田代幸恵)は嬉しそうに言った。
姿見に映してみて、自分でも「いいなあ」と思う。しかし龍虎はハッとした。キャロルと自分の性別問題があれだけ騒動になった直後である。そういう時に振袖で人前に出るのは、あの問題で散々骨を折ってくれたコスモス社長に悪いという気がした。それで龍虎は言った。
「ボク、やはり制服で出席するよ。中高生は制服でいいはずだもん」
と言って、今日届いたばかりの新しい制服を手に取る。
「まあそれでもいいかもね。下はスカートだよね?」
「自粛してズボンにする」
「スカートの方が可愛いのに」
なお、ご祝儀の額が分からなかったので、コスモス社長に電話してみたら、社長はアクアが信子たちの結婚式に招待されたことが意外だったようで驚いていたが、「500万円にしなさい」と言った。
「500万円ですか!」
「アクアは超高額所得者だからね。でも休日だから高額現金を引き出せないよね?事務所に来たら、そのくらい貸すから」
「行きます」
それで(1人では怖いので)母に付き添ってもらい、電車で事務所まで行った。
赤羽(埼京線)新宿(中央線)信濃町
事務所に行くと、社長が金庫を開けて日本銀行の封印がついた100万円の札束5つ、そしてこの厚さの札束を入れられるマチの大きな祝儀袋を渡してくれた。祝儀袋の水引がまた美しい。
「この祝儀袋自体が凄く高くないですか?」
と母はコスモス社長に尋ねた。
「うん。水引の名人さんが作ったもので、祝儀袋自体が20万円する」
「ひぇー!!」
と龍虎は思わず悲鳴をあげた。母も絶句している。
「やはり中身が大きければ外側もいいものにしないとね。でも醍醐春海先生なんかは、200万円を100円ショップで5枚100円の祝儀袋に入れたりする」
「醍醐先生らしいです!安い物大好きだもん」
「でもアクアは豪華な祝儀袋にしよう。この祝儀袋の値段は事務所の経費で落としておくから」
「すみません。500万円も月曜日に返却しますね」
「5月末の振込から引いておくからいいよ」
「分かりました。それで」
「ところでアクアは何を着て出席するの?」
とコスモス社長は訊いた。
「高校生なので制服で」
「豪華なドレスとか着ればいいのに」
「性別問題で騒ぎになったばかりなので自粛します」
「それもいいかもね。制服の下はスカート?」
「ズボンにします。それも自粛して」
「スカート穿きたくないの?」
「我慢します」
アクアたちはもちろん帰りはタクシーで帰宅した!
翌日の結婚式で、アクアはみんなから
「ドレスとか着ればいいのに」
「振袖とか着てきたらよかったのに」
などと散々言われて、やはり振袖が良かったかなあ、などと心が揺らいだ。
ちなみにご祝儀に500万円を渡したのは3人(組)で、ローズ+リリー、丸山アイ、そしてアクアである。千里はアメリカ遠征中だったのだが、醍醐春海と葵照子の祝儀袋をケイが「言付かってきた」と言って、出していたが、醍醐春海分・葵照子分を各々200万円(合計400万円)、本当に100円ショップのいちばん安い祝儀袋に入れて出していた(正確にはPPC用紙で札束を包み、上に祝儀袋を貼り付けていた!)。
これ以外の芸能人はだいたい30-100万円くらいだったようである。フェイやヒロシも100万円であった。
(芸能人以外の招待客にはリダンリダンのサブリーダー葛城詩葉が「1万円でいい」というメールを回したのだが、料理が物凄く豪華だった(料理とお土産で5万円の予算)こともあり、追加で払った人もあり、大半の人が結局2−3万円払ったようである)
去勢していることを公表したキャロル前田が主演する『変身ポンポコ玉』の視聴率はその後も全く改善されず、スポンサーからの苦情もあって、とうとう5月いっぱいで打ち切られることが決まった(本来は8月までの予定で、撮影も全部終わっていた)。
キャロルはこれまでは倒れるくらい忙しく仕事をしていたのだが、全ての番組で番組改編に伴い降ろされることになり、6月いっぱいで全ての番組から姿を消した。事務所側が違約金を払ってキャロルとの契約を解除したことも明らかになった。どうも契約解除の結果降板することになったようだ。僅かに残った彼/女(**)のファンの間には、倒れて入院するくらいまで散々こき使っておいて、性別問題で解雇するって非道い、セクマイ差別ではという声もあった。訴訟を勧める人もあったようだが、彼/女は「いったん出直します」と公式アカウントの最後でツイートした。
(**)「彼/女」は「s/he」の訳語候補のひとつ。なおs/heの所有格はhis/r. 目的格は his/r, 目的代名詞は his/rs.
『変身ポンポコ玉』の後番組はキャロルと一緒に『変身ポンポコ玉』に主演していた七浜宇菜主演の『少女革命ウテナII』が8月まで放送されることになり、急遽5月下旬から撮影が行われた。前回姫宮アンシーを演じた横川れさとのスケジュールが取れず今回はれさとの親友でもある白島もれあがアンシーを演じる。
しかし宇菜ちゃんも全くお疲れ様である。
「宇菜ちゃんは男の子になりたい?」
とバラエティ番組で司会者の丸呑ジョージアに訊かれた宇菜は
「男の子になりたい!ジョージアさん、おちんちん譲って下さい」
などと言う。
「これはやれん!無くなったら女房も困るし」」
「だったら、私が奥さんのお世話もしてあげますよ」
「女房まで取られたら俺どうしたらええんよ?」
「代わりに宇菜になれば?セーラー服着て女子校に通っていいよ」
「俺がセーラー服着て女子校に入っていこうとしたら痴漢で捕まるわ」
などとやりとりをして笑いを取っていた。
ジョージアはその後で相棒の丸呑ワンダから
「お前がセーラー服着たら、どのくらい変態に見えるか」
と言って急遽用意されたビッグサイズのセーラー服を着せられたが
「これは酷い!」
「あかん、放送事故や」
と居並ぶ出演者から言われていた。宇菜も笑っていた。
「だけど女の子が男の子になりたい!とか言っても別に誰も変に思わないのに男が女になりたいと言ったら、たいてい変態とみなされるのは何でだろね?」
と何気なく丸呑ジョージアはセーラー服を着たまま言った。
それに対して答えた宇菜の言葉は、ネットでかなりの反響を呼んだ。
「それは男女差別だと思いますよ」
と宇菜は答えた。
「なんでそこに行く?」
「多くの人が男の方が女より優れた存在だと思っているからだと思うんですよね。例えば貧乏な人がお金持ちになりたい!と言っても誰も変に思わないでしょ?でもお金持ちの人が貧乏になりたい!と言ったら変態かと思われます」
「なるほど」
「キャロルちゃんとかアクアちゃんとかは、逆に女の方が男よりすぐれた存在だと思っているんですよ。だから、今の自分より、すぐれた存在である女に進化したいんでしょうね」
「それは面白い見方だという気がするよ」
「でも貧乏になりたかったら、お金を全部どこかに寄付してしまえばいいやん」
と丸呑ワンダが言う。
「だから女の子になりたいなら、ちんちんを取っちゃえばいいんですよ」
「おぉ!」
「でも女の子はちんちんを誰かにもらえないと男になれないから、ジョージアさん、ちんちんを私に下さい」
「なんでそうなるんや!?」
出演者一同大笑いする。
「アクアちゃんの場合は、多分私と似たタイプだと思うんですよ。私も男の子だったら良かったのにと小さい頃からずっと思っていたし、周囲からもそう言われて育っているけど、女である自分を受け入れているから、性転換手術まで受けて男になりたい訳じゃない」
「ふむふむ」
「きっとアクアちゃんも、さんざん男になるなんてもったいない。女の子になりなよとか、女の子だったら良かったのにとか言われて育っている。本人もまんざらでもない。でも彼も男である自分を渋々受け入れているんじゃないかな。だから性転換手術までして女の子になる気はないんですよ」
「宇菜、お前、アクアの凄い理解者かもしれんぞ」
とジョージアは言う。
「だから、ジョージアさん、おちんちん下さい」
「結局そこに行くんかい!?」
5月3日、桃香の祖父・高園和彦(にぎひこ)の一周忌が、無宗教で行われた。これに桃香は出産間近で出席できなかったが、青葉と朋子、それに千里が出席した。実際に出席したのは千里2である。千里は公式には海外遠征中だったのだが、実際に海外遠征しているのは千里1である(千里3はフランスにいる)。
2017年5月10日、桃香の子供・早月が誕生した。《きーちゃん》は3人の千里をうまく調整して分娩室や病室に出し入れし、3人ともに早月を抱かせた。
6月から龍虎の学校では水泳の授業が始まった。ここは女子校というのもあり、覗きなどの被害を避けるため、特別教室棟の地下1階に25m, 8コースの室内温水プールが作られている。
龍虎は実はこれまで泳いだことがなかったのだが、元々女子校には水泳が苦手な子が多い。初歩から丁寧に教えるよという話だったので、龍虎は頑張って泳ぎを覚えようと思った。
授業には男子用水着で出るつもりだったのだが(担当はN)、彩佳に男子用水着を取り上げられてしまい、女子水着を渡されたので(ほぼセクハラ+パワハラ)やむを得ず(?)女子水着で授業に出た。
「やはり龍ちゃん、おっぱいあるのね」
「やはり龍ちゃん、おちんちん無いのね」
と言われるのはいつものことである!
なお、アクアは全ての記憶が連動するので1人が水泳の練習をすれば他の子も同程度に泳げるようになる。しかし3人とも練習すれば3倍上達するよ、と言って、他の2人も、深川アリーナの地下のプール(千里からパスをもらったが、24時間使えるのがよい)や一般の市民プールなどで練習をしていた。
ちなみにMも男子水着を着るつもりでいたのに、なぜか水着バッグには女子水着が入っており、それで泳ぐことになってしまった(お約束)。
しかし3人で練習したおかげで、1学期の内にかなり泳げるようになった。
2017年6月上旬、アクアの9枚目のシングルの制作が行われた。
『憧れのビキニ』は岡崎天音(マリ)作詞・大宮万葉(青葉)作曲とクレジットしたが、実際には青葉が作詞作曲した曲で、水泳部に所属する彼女が、ビキニで練習しに来て、泳いでいる内に胸布が外れちゃったチームメイト(桜池布恋)を見て書いたものである。
『サンダーボルト−青天の霹靂』は葵照子(蓮菜)作詞・醍醐春海(千里)作曲とクレジットされているが、実際には千里2が作詞作曲した曲で、4月に千里が落雷に遭っ(て分裂し)た時のことを書いたものである。
今回はアクアのプロジェクトのディレクターであるKARIONの和泉の指揮で作業は進められた。和泉のコネで弦楽器奏者を5人(ヴァイオリン3・ヴィオラ・チェロ)入れており、プロデューサーの青葉も6月10-11日に新幹線で富山から出てきて参加。彼女のピッコロを『憧れのビキニ』にフィーチャーした。このピッコロは5月下旬に千里(実際は千里2)が青葉の所に送って来たもので、青葉は水泳大会の合間にこれをたくさん練習していた。
和泉は『サンダーボルト』に指定されている龍笛パートも青葉に吹いてくれないかと言った上で、
「『サンダーボルト』に落雷の効果音が欲しいけど、シンセサイザで落雷っぽい音が出せるよね?」
と和泉は言ったのだが、青葉は答えた。
「千里姉が13日に帰国しますから、それでスタジオに呼んでこのパートを吹いてもらってください。千里姉が龍笛を吹いたら、必ず落雷が起きて、その音が音源に混じりますから、どんなに音を遮蔽しているスタジオでも」
「千里ちゃんが吹いたら雷が落ちるの〜〜!?」
それで和泉が千里に電話したら、6月13日にヨーロッパ遠征から帰国してから吹いていいよということだった。それで13日夜に吹いてもらったら、本当に落雷が起きて録音にその音が混じったので和泉が感心するというより呆れていた。
「まあそれでローズ+リリーの音源製作にも私が龍笛を吹いて雷の音が混じっているものはいくつもある」
「うむむ」
ちなみに、この龍笛を吹いた千里は、実際にヨーロッパ遠征に行っていた千里(千里1)ではなく、和泉から電話を受けた千里(千里3)である。
また、アクアの方も、『憧れのビキニ』を歌ったのはアクアMで、『サンダーボルト』を歌ったのはアクアFである。これは『憧れのビキニ』はビキニの女の子を見た男の子の歌詞で、『サンダーボルト』は格好いい男の子を見て青天の霹靂のような衝撃を受けた女の子の歌詞だったからである。
例によってこの曲が発売された後、ファンたちは「『サンダーボルト』のアクア様って女の子っぽくて凄くいい!」と騒いでいた。おかげで発売後の個別ダウンロードはカップリング曲である『サンダーボルト』の方が圧倒的に多く、アクアは女の子にしてしまった方が人気が上がるのでは?とコスモスが悩むほどだった。
もっともキャロル前田のGID告白後の人気の落ち具合を見ると、やはり性別移行は厳しいんだろうなと悩む。
(この時点ではコスモスはまだアクアの分裂に気付いていない。知るのは9月9日)
2017年7月1日(土)、アクアが4月にプーケットで撮ってきた写真で構成した写真集『Double Green Sea』が発売された。
写真集の前半は“佐斗志”の写真集、後半は“友利恵”の写真集で、どちらも大半が水着写真だが、佐斗志の写真がラッシュガードを着けているものが多く、胸を曝している写真は少数であるのに対して、友利恵の写真集は水着そのままの写真が多く、ビキニの写真まで含まれている。
初日に予約分まで入れて20万冊売れたが、多くの人の意見は
「この写真集は後半の“友利恵”の部分だけでいい」
というものだった!
「やはりアクアは女の子なのでは?このボディラインはどう見ても女にしか見えん」
「ひょっとして、後半の写真の首から下は別の女の子なのでは?」
「いつもアクアのボディダブルを務めている今井葉月ちゃんということは?」
しかしそういう疑いを持たれないように、わざと1枚葉月の身体が映った写真を残している。それで葉月の身体にすげ替えているという説は否定される。
(葉月は全てのファンから女子だと思われている)
また更に、前半の男子水着のアクアの写真と、後半の女子水着のアクアの写真をスキャナで取り込み、拡大縮小/Photoshopのレンズ補正して重ねてみた人があり、両者が完全に重なるとして補正した写真も添えて報告していた。
それで前半と後半は同じ人物の写真であることが確認された。
「ということは、やはりアクアは女子なのでは?」
「アクア様は女の子に決まってるよ。何を今更」
この写真集は物凄く売れたので、話題になっているようだというので買ってみた人の中にはアクアのことを知らない人も結構いた。そういう人は、男女双子のアイドルの写真集なのだろうと思ったようである。
2017年7月5日(水)、アクアの9枚目のシングル『憧れのビキニ/サンダーボルト−青天の霹靂』が発売され、同日、青山ヒルズ1階の会議室で記者会見が行われた。
会見に出席したのは、アクア、コスモス、三田原、和泉、青葉である。
今回のシングルのPVはアクアにビキニを着せる訳にもいかないということで、アニメで制作した。
もっとも本人は着たそうな顔をしていたし、そもそも4日前に発売した写真集ではビキニ姿をたくさん曝している!
和泉は千里にも出席を要請したのだが、合宿中なので出席できないとお返事があった。
自分が分裂していることに全く気付いていない千里1は日本代表の合宿を続けていた。
4.25-29 女子日本代表候補 第2次強化合宿 NTC
4.30-5.13 日本代表アメリカ遠征 ダラス、サンアントニオ、シアトル
5.18-23 女子日本代表候補 第3次強化合宿 NTC
5.24-6.13 女子日本代表候補 ヨーロッパ遠征 スペイン、マケドニア、セルビア
6.18-7.10(日-月) 女子日本代表候補 第4次強化合宿 NTC 15名
そして運命の2017年7月4日、千里1は桃香から「早月の体調が悪い」と言われて様子を見るために無断で一時外出した後、合宿所に戻ろうとして(乗り継ぎを間違って)東京駅に来るのだが、霊能者同士の激しい戦闘が行われていることに気付く。すぐ待避しようとしたのだが、ちょうどそこに、アクアの記者会見に出席するため、北陸新幹線で青葉が到着した。
千里は青葉を守ろうとして、結局、羽衣とクロガーの戦闘に巻き込まれて死亡してしまう。青葉は千里が自分を守ろうとして死んだことを知らない。しかし“何度も死亡したことのある”千里だからこそ蘇生できたのであって、青葉だったら完全に死亡していた所だった。
千里が死んだ時、ちょうど今まさに生命の火が消えようとしていた小春が、残っていた自分の生命エネルギーを全部千里に渡して代わりに自分が死亡。その後、青葉・千里2・千里3の連携プレイで千里は何とか蘇生した。
しかし蘇生はしたものの千里1は(死んでいた時間が長かったこともあり)その霊的能力を全て失い、かなりの記憶を失い、バスケットや音楽の能力も大幅に低下していて、直後の練習試合を見た監督から代表落ちを宣告された。
千里2は《きーちゃん》と話し合って、千里3を緊急帰国させることにした。
千里3は連絡を受けた《えっちゃん》から、カフェで朝ごはんを食べていた所を「日本バスケット協会から、すぐ来てという連絡が入ったから」と言われ、(マジで)訳が分からない内に飛行機に乗せられてしまった。アパルトマンの洗濯物・洗い物や作曲作業中のパソコンも放置したままである。
MRS 7/12(Wed) 7:10 (AF7673 A321) 8:40 CDG (1'30)
CDG 7/12(Wed)13:35 (AF276 777-300ER) 7/13 8:20 NRT (11'45)
バスケット協会は千里(千里1)が代表落ちした翌日の7月5日、アジアカップに出場する12名の女子日本代表を発表していたのだが、その後1人怪我人が出てしまった。それで代わりに誰を召集するかという話をしていた所に、千里(千里3)がキョロキョロと人を探すような様子でやってきた。
この時、代表の練習は明日からだったのだが、早く合宿所に入っていた玲央美が自主練習をしていた。千里を見て「これマルセイユにいるほうの千里じゃん」と気付き、鋭いパスを送る。
千里は即反応してボールをキャッチすると、玲央美に向かって行く。
華麗なフェイントで玲央美を抜くとスリーポイント・ラインの所からシュート。ボールはダイレクトにゴールする。
「おぉ!!」
とマーシャル監督が声を挙げた。
「千里、復活したね」
と玲央美は首脳陣に聞かせるために言う。
「玲央美はスペインから呼び戻されたの?」
と千里3は訊いた。これは《きーちゃん》に聞かせるために言っている。
「スペイン?何それ?」
「玲央美はスペインリーグに行ってたんでしょ?」
「そんな所行ってない」
実際玲央美が参加しているのはフランスのLFBの育成チームなのでスペインには行っていない。玲央美は左倉アキを身代りにフランスに置いて、こちらに来ている。
「やはりまだ脳内は混乱しているようだが、バスケットは復活しましたよ」
と風田コーチが監督に言った。
それで千里(千里3)は代表落ち宣告の僅か10日後、日本代表に復帰したのである。
そのことがバスケ協会のサイトで公表されていちばんびっくりしたのは《姫様》から
「千里は全ての能力を喪失した。この喪失は不可逆だ」
と言われてショックを受けていた、青葉だった!
(姫様は代表復帰のお知らせに気付いた青葉が千里と電話(実は千里2につながった)した時に“全然別人の”千里がいることに気付き仰天し、そのあと分裂に気付いた−でも青葉には言わなかった!言わない方が面白そうと思ったからである!)
千里3がNTCに行き、代表復帰を要請された頃、千里1は《きーちゃん》の誘導で、レッドインパルスの川崎の体育館に行き、どうしても体調が戻らないので2軍に落としてほしいと申し入れた。
首脳陣は本当に調子が悪そうなのを見て
「2軍への移行は5月締め切りだから、今更移行できないけど、2軍扱いにしよう」
と言って返した。
それで千里(千里1)は、翌日から川崎の1軍の体育館ではなく、横浜の2軍の体育館に行くことになった。
ところがその後、今度はNTCから《きーちゃん》の誘導で千里3が川崎の体育館にやってくる。表情と雰囲気がさっき見た千里と全く違うので、黒江コーチが鋭いパスを送る。千里はそのボールを美しくシュートした。
「あのぉ、どうかしたんですか?」
と千里3。
「この子、午前中に来た子とは別人だと思いません?」
と黒江コーチ。
「うん。だからこういうことにしない?」
と松山ヘッドコーチが言う。
「2軍に落とした村山君は村山十里、ここにいる村山君は村山千里くらいで」
「ああ、そんな感じでいいと思いますよ」
と黒江咲子。
レッドインパルスの首脳陣は、千里が(恐らく春に遭った落雷の影響で)一時的に二重人格状態になっているのではと思ったのである。
それで、レッドインパルスには1軍に 33.村山千里、2軍に 66.村山十里、という登録がなされることになった。実務的には1軍の登録は春に登録したままで、2軍に新たに村山十里を登録した。
そして千里3は日本女子代表の1人としてアジアカップが行われるインド・ベンガルールに渡航した。
NRT 7/19(Wed) 11:15 (AI307 787-8) 17:00 DEL
DEL 20:30 (AI504 A321-Sharklets) 23:15 BLR
《きーちゃん》は千里3がインドに行っている間に、3番が帰国後用賀や経堂にあまり来ないようにするため、川崎市内・津田山駅の近くに新たに駐車場付きマンションを契約し、そこに住んでもらうようにした。
マルセイユのアパルトマンにあった制作環境は《きーちゃん》本人が行って全て津田山に持って来た。ついでに洗濯もして、洋服なども全てこちらに移した。他の眷属に頼む訳にはいかないし、《えっちゃん》は千里3に付いているので1人でこの作業をしたが、短期間に何度も日本とフランスを往復するので、なかなかハードだった。
なお車は千里3にアテンザを使わせ、千里2は新たに購入したトヨタ・オーリスを使用する。そのほか《きーちゃん》専用にホンダ・シャトルを買ってもらった。
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【娘たち、男と女の間には】(4)