【娘たち、男と女の間には】(3)
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(C) Eriki Kawaguchi 2019-10-19
(2017年)2月19日は龍虎が進学予定のC学園高校の制服採寸会だったのだが、龍虎は“女子制服”は必要ないしと思って、この日はたまたま仕事が無かったので、(熊谷の)自宅に居た。ところが彩佳から電話が掛かってきて
「制服採寸と一緒に生徒手帳の写真を撮るんだよ」
と注意され、結局、彩佳・桐絵と一緒に東京に出て、採寸会に行った。
龍虎は自分は男子なので女子制服は不要だから写真だけ撮って欲しいというのをきちんと説明できず、結局普通に“女子制服”の採寸をされて、サイズチェック用の女子制服ブレザーを着た状態で写真を撮られてしまった。
あらためて女子制服の制作は不要と連絡しようと思ったが、彩佳に唆されて、そのまま作ってもらうことにした!
アクアの新しい写真集の企画が持ち上がった。
アクアの写真集は、デビュー前の2014年秋に撮影して2015年1月にテレビ番組でのお披露目直後に発売した“AQUA in Hawaii”、昨年(2016年)春に震災復興イベントの会場で発売した"Fukushima 2016"がある。他に『ねらわれた学園』のスティル写真集があり、これにも多数のアクアが写っている。
実はアクアの写真集の企画はしばしば立てられては多忙を理由にキャンセルになっていたのだが、今回は“高校生になった記念に”とΛΛテレビが強く推して制作が本決まりになった。
写真集の仮題は『佐斗志・友利恵 in セーシェル』である。つまり“佐斗志”の写真と“友利恵”の写真を半々くらいで構成しようという企画で、案の定アクアに提示すると
「え〜?それって女装するんですか?」
とまるで嫌そうな言葉を発しながら、顔は嬉しそうにしていた!
本人はかなり乗り気だなと思ったので、コスモスとしても企画を受けることにした。
(最終的にはセーシェルではなくプーケットに変更された)
コスモスは当然自分も付いていかなければならないだろうと考え、今年夏に期限切れになるパスポートの更新を申請した。今所持しているパスポートは2012年にハワイで自身の写真集を撮影した時に作ったものである。当時20歳を過ぎていたので10年有効のものも申請できたのだが、5年後までアイドルをやっているとは思えなかったこともあり(当時は給料も安かったし)、手数料節約で5年有効のものを申請していた。今回は10年有効のものを申請する。
アクアのパスポートはデビュー前にハワイに写真集を撮りに行った時に作ったもので2014年10月作成。2019年10月まで有効なので、そのまま使用できる。
西湖のパスポートは5歳の時、2007年11月に作ったのが最初で、2012年に更新しており、期限は2017年11月であった。残存期間が半年以上あるので今回は現在のパスポートで海外渡航することができる。
鱒渕は初めての海外渡航となったので、企画が決まった2月の段階で申請し、初めてのパスポートを取得した。
貴司は男子日本代表として、2月10-11日、札幌市でイランとの国際強化試合に出場した。しかし今回の試合では貴司は見せ場を作ることもできず、本人としても不満の残る出場となった。
そしてこれ以降、貴司は少なくとも2017年は1度も代表に呼ばれることが無かった。
千里たちのレッドインパルスはプレイオフで2月18-20日に準々決勝・ビューティーマジック戦をしたのだが、1勝2敗で敗れてしまい、今年のレッドインパルスはBEST8(最終順位は5位)で終わってしまった。
千里は完璧に不完全燃焼の思いだった。
2017年2月上旬。千城台新体育館の設計書・工事計画書の審査が通った。それで“播磨工務店”のメンバーは姫路市内に確保した80坪の土地に鉄筋コンクリートによる基礎工事(べた基礎)まで施したところで、そちらはいったん中断し(ブルーシートを掛けておく)、千葉市千城台で体育館の建設を始めた。
なお、元々千城台の体育館は↓の図の左側のように建っていた。
播磨工務店のメンバーはまず、旧宿舎と、体育館裏の旧プール跡(千里たちがここを借りた2010年の段階で既に廃止されて水が溜まると危険なので水抜き用に堤が一部破壊されていた)を1晩で撤去し、同時に旧体育館を「よいしょ」と持ち上げて、敷地の端に“あまり”崩れないように、そっと置いた。
それで翌日練習に来た原口姉妹がびっくりして千里に電話して来たので「夜間に曳き家したみたいね」と答えておいた!この移動した旧体育館はさすがに移動の衝撃であちこち雨漏りしたが、すぐ雨漏り箇所は修繕してくれた(こういう“水回り”は清川が得意らしい)。
それから2ヶ月かけて3月末まで杭打ちなどの基礎工事をして、4月中に鉄骨を組み上げ、その間に“空いている土地”(どこだ?)に作業用の工場を建てて鋭意プレキャスト・コンクリート(PC)を製造していく。そして5月になってからそれを鉄骨に留めて行き、屋根も取り付けてしまう。6月中に壁材を貼り付け、床材も敷いて、その一方各種配管・配線もしていく。
このあたりは力仕事が得意なメンバーと、細かい作業が得意なメンバーが分担して作業を進めた。主導しているのは播磨工務店の8人のメンバーではあるが、実際に働いているのは彼らの知り合いの多数の精霊たちで、その総数はのべ50人ほどに及ぶ。実は工事に必要な、様々な法的資格を持っている人を集めたらその人数になった。
みんな物凄い腕力を持っているので杭打ちマシンもクレーンも必要ない。杭はギュッと地面・岩盤に押し込んでしまうし、鉄骨やコンクリートの板を手(?)で持って登っていき(飛んで行くのと投げて渡すのは禁止した)、1人が支えている間に別の1人がボルトで留めてしまう。熔接などしなくても腕力で圧力を掛けて金属同士を繋いでしまうし、鉄骨や水道管などを自在な形に曲げたりする。
結果的には騒音が少ない、とても静かな工事になったし、工作機械を動かすための電気や燃料もとても少なくて済んだ。
そして(2017年)7月には必要な検査も受け、消防署にも確認してもらって竣工となった。
新体育館が利用できるようになったら、翌日!の朝までに旧体育館は姿を消していて、またもや原口姉妹が仰天することになる。
この建設作業をする期間、姫路の住宅の方は作業がストップしており、作りかけで放置?されているので、近所の人たちは「夜逃げだろうか?工務店の倒産だろうか?」などと噂をしていたらしい。
姫路の家を8-10月の3ヶ月掛けて完成させてから、千城台新体育館の宿舎は鉄骨構造で11月に組み上げてしまった。基礎工事は最初に体育館と一緒に済ませておいたので、わずか一週間で建物ができあがり、内装工事も1週間で完了して検査を受け、12月中旬には使えるようになった。これもローキューツのメンバーは驚いていた。
この体育館の建築経験が、小浜のミューズ・シアターの建築(2018秋-2019夏)に役立つことになる。千里もどういう行為を禁止したら少しでも人間っぽくなるかを学習した。最初に禁止したのは、待ち時間に200kg程度の鉄骨でチャンバラごっこする行為である!
この体育館建築のために実際に千里が支払ったのは材料費(主として鉄骨・屋根材・コンクリート・配管配線具・防音材)1億円、本体工事をした4-7月の労賃(約100人月)1億円、山と製材所に掛けた8千万円、その他諸経費2千万円の合計3億円である。冬子には銀行から一時的に7億円借りたけど半年で返した、などと言っておいたものの、実は無借金で建築してしまった。
「鉄骨に結構お金が掛かった。千里、どこかの鉱山と製鉄会社買わない?」
「さすがにそこまでの資金は無い」
「仮想通貨で10兆円くらい儲けさせてあげようか?」
などと青池さんが言っている。
「仮想通貨?何か若葉が言ってたね。よく分からないから《たいちゃん》に任せているけど、こないだ『ごめーん。10億円分すった』とか言ってた」
「まあ、物凄く儲かるけど、そうやって大損失出すこともある」
「たいへんネ!」
と千里は他人事(ひとごと)のように言った。
なお、姫路の住宅だが、所有者が住む住宅として建設しているので、実際に居住する必要があった(住まない場合は税金などが変わる)。
それで千里は“旭川戸籍”の村山一家全員をここに転居させてしまった。それまではこの戸籍に対応する住民票は江戸川区葛西に置いていたのだが、これで村山一家は東京都の住民から姫路市の住人となった。むろん千里以外の3人はそのことを全く知らない!
2017年3月3日(金).
フェイの帝王切開による出産が行われた。フェイの膣は人工的に作ったもの(と本人は言っている)なので、赤ちゃんはそこを通過することができず、帝王切開しか選択肢が無いのである。妊娠自体が不安定なので8ヶ月目に入ったところでの帝王切開になった。
赤ちゃんは無事生まれ、女の子だったので、“父親たちの合議”により、歌那(かな)と名付けられた。フェイは「明天那蔵宇高妃寿」という名前を付けたいと言ったが無視された! (Αθηνα Γλαυκωπισ, Athena Glaukopis −“輝く目のアテナ”の音写。アテナは男性神であるゼウスが産んだことから、男の子である自分が産んだ子供というのでアテナと付けたかったらしい)
(フェイは出産前に戸籍の性別を(渋々)女性に修正したので、法的には普通に女性が出産したことになっている)
青葉と千里は出産の1週間くらい前から交替でフェイのそばに付いていて、最後は帝王切開の現場にも立ち会い、サポートをした。
3月3日は千里の誕生日でもあった。千里は青葉から「誕生日おめでとう」と言われてお花をもらったので、深川アリーナに飾っておいた。
フェイの出産が終わり、様子を見ていて大丈夫なようなので《いんちゃん》を念のため残して病院を出る。新幹線で移動して新横浜駅のAホテルに行くと24階まであがり、電話を鳴らす。ドアが開けられ貴司が笑顔で「入って入って」と言うので、千里は抱きついてキスをした。
普段は22日前後にデートするのだが、今回は3月3日が誕生日だったので、2月22日をパスして、この日にすることにしていたのである。
昨年秋の大浮気以来、性的な接触を拒否していたのだが(だから結婚記念日の2016.12.22に会った時もセックスしていない)、この日で解禁としたら、貴司が物凄く喜んでいるので「まるで貴司の誕生日みたい」と千里は言った。
「でも射精ってそんなに気持ちいいの?」
「気持ちいいよー。特に千里の中で出すのが気持ちいい」
「オナニーの方が気持ちいいのかと思った」
「僕はオナニーできないから」
「アクアみたいなこと言ってる」
「あの子、おちんちん無いんだからオナニーできる訳ない」
「まあ世間的にはそう思われているかもね。そうだ、貴司のちんちん取り外して私が持ってて、毎日射精させてあげようか?」
「それでは僕自身が気持ちよくない」
ああ、やはり取り外すの自体は構わないのね?と千里は思った。後ろで《こうちゃん》が医療用のハサミ(剪刀)を見せているが、無視する。
一息ついてから10階まで降りてロイヤルホストで予約していたディナーを食べ、その後部屋に戻って、朝までゆっくりとして時間を過ごした。貴司は
「ここ最近、毎年、バレンタインと合わせてで申し訳無いんだけど」
などと言って、今年はセリーヌの財布をプレゼントしてくれた。
■貴司が千里にくれたもの(抜粋)
2007(高1)誕生日 LizLisaのハート柄のお財布
2008(高2)結婚1周年 Suntoの腕時計
2008(高2)誕生日 ミッキーマウスのトートバッグ
2009(大1)11月 アクアマリンのプラチナリング
2010(大2)XMAS アクアマリンの18金イヤリング
2011(大2)誕生日 ミュウミュウのピンクの財布
2012(大3)婚約 ダイヤ(1.2ct)の18金リング
2013(大4)誕生日 アクアマリンのペンダントの付いたプラチナのネックレス
2014誕生日 ゴールデンパールのネックレス
2015誕生日 ロンシャンの大型バッグ
2016誕生日 スターリングシルバーのブレスレット
2017誕生日 セリーヌの財布
「それで阿倍子さんとの離婚届けは?私これ提出したいんだけど」
と言って2012年の結納式の時に書いた婚姻届を見せる。
「その件はまた今度」
と貴司は言っているが、千里はその“今度”というのが、あまり遠くない時期のように貴司の雰囲気からは感じた。
谷崎聡子がなかなか気付かないようなので、千里は谷崎潤子・聡子の姉妹を千葉の玉依姫神社に連れて行ってあげた。聡子は《パール》と《オニキス》をキャリーに入れて連れてきていた。
「こんな所にいたんだ」
と言って、聡子は神社の神殿前に立つ招き猫の前で立ち尽くし、涙を流した。キャリーは2つとも潤子が持ってあげた。
結局聡子は招き猫を抱きしめたが
「ルパン元気そう」
と涙目のまま言った。
「私も分かった。これはルパンだ。毎月のように来ているのに全然気付かなかったよ、ごめん」
と潤子が言う。
「飼い主本人しか気付かないかもね。亡くなったのいつだっけ?」
と千里が訊く。
「パールとオニキスを飼い始めたのが2014年6月くらいでその1年ちょっと前に亡くなったから、2013年春。もうすぐ五回忌ですね。可愛い三毛猫だったんですよ」
と潤子。
白猫のパールと黒猫のオニキスはこの神社近くにダンボール箱に入れて捨てられていたのを千里が見付けて(正確には姫様が千里に教えた)潤子が保護し、それ以来聡子が飼っているのである。
「デートレイプされそうになった女の子を助けてあげたり、盗撮魔をやっつけたり、暴走族に絡まれそうになったカップルを守ったり、色々活躍しているみたい」
「あんた、頑張ってるね!」
と聡子は言った。
「時々来てあげるといいかもね」
「うん、そうする!」
と聡子は言った。その日はルパンが好きだったという、ちゅーるスティックをお供えしていた。
そして聡子は“ルパン”の前に2つのキャリーを並べて
「あんたの後輩だよ。嫉妬しないで優しくしてあげてね」
と言った。
玲央美は言った。
「アキちゃん、あんた合同練習の時は手を抜いてたね。実際はハルちゃんよりバスケが上手いじゃん。ジャンプ力も凄い」
「猫だから身軽だし」
「バスケットができる猫というのは初めて知り合った」
と言ってから、玲央美はハッとした。
バスケットができる猫って、誰かとそういう話をしたぞ・・・。
「ねぇねぇ。ちょっとバイトしない?報酬は払うからさ」
「じゃ銀のスプーンの小魚入りで。ハルが買ってくれるロイヤルカナンはヘルシーだけど味は微妙だから」
「ああ。でも長生きのためには、そちらがいいんじゃないの?」
「ボク、そもそも物理的な生命体ではないし」
「それは大した問題じゃ無い気がする」
「うん。ボクも気にしてない」
そんなことを話しながら、玲央美は『糖尿病とか高血圧症の龍とか麒麟ってのもいるんだろうか?』などと考えていた。
「そういえばアキちゃんって、ボク少女だったっけ?」
「違うよ。ボクは男の子だよ」
「三毛猫なのに男の子なの!?」
「たまに居るじゃん。だからボクは元々生殖能力は無かったよ。ちんちんはあるけどね。睾丸は機能していなかった。どっちみち去勢されちゃったけど」
「まあ飼い猫が去勢されるのは仕方ない」
「うん。だからボクは外見的には最初から女の子なんだけど。それに乗じて結構女装して出歩いている。女の子は可愛い服着れて楽しいし。ハルとお揃いの女子制服も着るよ。女子トイレ使うのは最初は恥ずかしかったけどだいぶ慣れた。ボク普通の男の子に生まれていたら女装男子になっていたかも」
それって、何かこないだ《すーちゃん》と話したまんまじゃん!!
3月11-12日(土日)に宮城ハイパーアリーナで“08年組”主催の東北復興支援ライブが行われた。これに千里も参加した。
例によって“利益”ではなく“売上”の全額(ぴあの手数料を除く)を寄付するイベントで、出演者は、ギャラ無し、アゴ・アシ・マクラ自腹で参加している。大量のボランティアに支えられたイベントであるが、会場使用料、著作権使用料やアクアのライブの警備費などは、ケイ・マリ・和泉・千里・コスモス・アクアの6人が個人的に負担している。
今回は★★レコードの協力が得られなかったため、TKRの社員が家族や友人などまで誘って宮城県に集結して手伝ってくれた。交通費はその家族・友人の分までTKRが出すという話だったが、経営規模の小さなTKRには極めて高負荷なので、背任に問われる恐れがあると思った、ケイ・マリ・千里・蓮菜・アクア・コスモスの6人が350万円ずつ支援させてもらった。それでTKRの負担は100万円未満で済んだはずである。その他、宮城県のテレビ局とFM局もスタッフを派遣してくれて、今回はそれがとても助かった。
「財政が厳しいので協力金とかが払えないので、労働力で」
などとテレビ局の常務さんが言っていたが
「いえ、その労働力がいちはんありがたいです」
とケイが常務さんに答えていた。
今回は本当に手作りイベントの感があった。
アクアは11日、12日の両日の午前中に登場して熱唱した。
2017年3月19-21日、前橋市で全日本クラブバスケットボール選手権大会が開かれ、千里がオーナーを務める 40 minutes が優勝し3連覇を達成した。準優勝は冬子がオーナーを務めるローキューツ、3位は上島雷太がオーナーを務める江戸娘であった。
千里と冬子は前橋までこの大会を見に行った(政子も付いてきた)が、上島は多忙のため欠席し、予算の執行などについては冬子に託していた。
3月20日(祝).
龍虎は母に付き添ってもらってC学園高校の入学説明会に出席した。龍虎は彩佳・桐絵と同じクラスになっていた。
他に歌手の松梨詩恩(本名:天羽飛鳥)、星原琥珀(本名:岩下静夜)などが同期になることが分かった。また芸術コースに入る男子は、龍虎の他はピアニストの武野昭徳くんと、ヴァイオリニストの田中成美ちゃんだった。成美ちゃんは女子制服を着ており、声変わりもしていなくて、普通に女子にしか見えなかった。
実際には龍虎もほとんど女子にしか見えないので武野は「男子は僕1人?」などと悩んでいた。
2017年3月22日(水).
アクアの8枚目のシングル『星の向こうに/ナースのパワー』が発売された。『星の向こうに』は岡崎天音(マリ)と大宮万葉(青葉)の作品、『ナースのパワー』は葵照子(蓮菜)と醍醐春海(千里)の作品である。
当日はいつものようにエレメントガードをバックにアクアが生歌唱してから会見となる。今回出席したのは、アクア、コスモス、青葉、千里、三田原課長である。
エレメントガードのメンバーが交替していることに気付いた記者があり、コスモスが交替の事情を説明した。
曲自体に関する質疑応答、第3シーズンに入る『ときめき病院物語』の話題も出た上で、青葉・千里のアクアとの過去の関わりの話にも質問が及ぶ。千里とアクアの出会いが極めてドラマティックであったことが明らかにされたことでこの後、その話を元に映画を作ろうという話に発展するのだが、それはまた後の話である。
4月1日(土).
この日は公立の学校はお休みなのだが私立のC学園では入学式が行われた。しかしそのお陰で公立高校の教師をしている龍虎の両親が入学式に出席することができた。
当日は1時間ほど第1体育館(黄金)で式が行われた後、各々の教室に入り、生徒手帳の配布と、全生徒の自己紹介が行われた。また各種委員の選任も行われたが、芸能人の生徒はさすがに委員会活動は無理なので外してあった。しかし武野君は美化委員に任命された。美化委員は男子も1人いると助かるが3人の男子生徒の中では武野君がいちばん時間が取れるかもという気はした。彩佳は図書委員に任命された。
ところで龍虎は彩佳に唆されて、女子制服を作ってしまったのだが、その制服が赤羽のマンションに送られて来た時、たまたま母が来ていた。母は龍虎が女子制服で通学するつもりなのかと困惑する。
龍虎は親に内緒で所有しておきたかったのでマンションの方に送ったのに、その到着日に限って母が来ているなんて、と思ったものの、見苦しい言い訳をする。しかしその言い訳をしている最中に唐突に思いついた。
「そうだ!この女子制服の上だけ着てさ、下は中学の時に穿いていた学生ズボンにしたらC学園の男子制服っぽくない?」
「はぁ!?でもそのブレザーは左前だよ」
「右前か左前かなんてボク気にしないもん」
「そうね。“あんたは”気にしないかもね」
と母は投げ槍に言った。
そういう訳で4月1日の入学式に龍虎は“自主的に設定した”男子制服で学校に行ったのだが、これを誰かが盗撮し、ネットにアップしてしまった。
あっという間に拡散する。
盗撮のため写真はピンぼけなのだが、それでもアクアの上半身が写っており、どこの制服であるかは“女子高生制服専門家”!の目には一発で分かった。
「アクアがC学園の制服を着ている!?」
「C学園って女子校だよね?」
「まさかアクア女子高生になったの!?」
「やはりきっと性転換していたんだよ。『時のどこかで』のラストはそれを意味していたんだ!」
ドラマ『時のどこかで』のラストはアクア演じる芳山和夫がトイレに行って仰天するシーンで終わっており、様々な憶測を呼んだ。
「たぶん男の娘タレントはやめて4月からは女の娘タレントになるんだ」
「女の娘って何??」
「女の子になったアクア様って、きっと可愛くて素敵よね」
「アクアが女の子になったんだったら、俺の嫁になってくれ!」
などとネットの噂は暴走していく。
コスモスは真夜中の2時!に龍虎のマンションにやってきた。
それで事情を聞いた。
「なーんだ。そういうことだったのか。だったらこうしようよ」
と言って、コスモスは今所有している女子制服のジャケットのボタンを左前仕様から右前仕様に改造することを提案した。
「あ、そういうことできます?」
「できると思うよ。誰かできそうな人を呼ぼう」
それでコスモスは少し考えてから、門脇真悠を呼び出した。
さすがに深夜なので出るまでに少し時間が掛かったものの、コスモスからの電話なので彼は出てくれた。
「おはようございます、門脇です。何かありましたか?」
「おはよう。真悠ちゃん、お裁縫できたよね?」
「わりと得意です。実は布を買ってきて自分が穿くスカートを手縫いで作ったりしてたんです」
「偉いね!」
「単にスカートを買いに行くのが恥ずかしかったからなんですけどね」
「ボタン付けできる?」
「できますよー」
「じゃ申し訳無いけど、今からこちらに来てボタン付けをしてくれない?実は女物のジャケットを男物に改造したいのよ」
「だったらミシンも持って行った方がいいかな」
「ミシン持ってるの?」
「はい」
「多分あった方がいい気がする」
「場所はどこですか?」
「赤羽のアクアのマンション。一方通行が多くて入り方が難しいから、赤羽駅の西口で落ち合おう。そこに私がいてタクシー料金も払うから」
「分かりました!」
それでコスモスは出かけて30分ほどで真悠と一緒に戻ってきた。真悠は可愛いライトブルーのブルゾンとミニフレアースカートを穿いている。アクアは思わず
「まゆちゃん、可愛い!」
と言った。彼は照れていた。
「このジャケットのボタンを左前から右前に改造したいんだけどできる?」
「30分もあればできますよ〜」
と言って、彼は作業を始めた。
まずは左前身頃に付いているボタンを全部リッパーで外してしまう。左右の前身頃を合わせ、右前身頃のボタン穴より少し低い位置にチャコで印を付けた。
「ずれてない?」
「ずらすんです」
「へー!」
ミシンを使って《ボタン穴かがり》をする。その上でかがった糸の中央の部分をリッパーとハサミで切る。この時切りすぎないように、端の所に待ち針をあらかじめ刺しておく。
「穴を開けてから、かがるんじゃなくて、かがってから穴を開けるんだ!」
とアクアが感心する。
「先に穴を開けちゃったら、かがれないよ。水を溜めてからダムの土手を作ったりはしないでしょ?」
と真悠。
「いや、私も知らなかった」
とコスモスも言う。
その後は左前身頃の元からあるボタン穴の下の部分にボタンを糸で留めていく。ここは手作業だが、真悠はとても手際が良い。
「そうか。元のボタン穴の下にボタンを付けるから、新しい穴は元の穴より少し低い所に開けたのか」
「穴が空いている所にはボタンは留められないからね」
それで結局20分ほどで左前の女子仕様のブレザーが右前の男子仕様のブレザーに変身してしまった。
「ありがとう!本当に助かる」
とアクアは真悠に御礼を言った。
「でも20分で女の子から男の子に変身するって凄いね」
「人間も20分で性転換できたらいいね」
「これ、元の右前身頃にもボタンホールが残っているから、ボタンだけ移せば元の女子仕様に戻せるよ」
「元の性別に戻れるってのもいいね」
「アクアさん、もし後で男の子に戻れるなら女の子への改造手術受けたいでしょ?」
「受けたい!まゆちゃんもでしょ?」
「絶対手術受けますよ」
「毎年性転換しちゃうかも」
「1年おきに男と女をするのもいいね」
などと2人が会話をしているのでコスモスは腕を組んでしかめっ面をしていた。
コスモスはΛΛテレビの鳥山編成局長に電話を入れた。
「夜分たいへん申し訳ありません。急な話で申し訳無いのですが、今日の朝の情報番組にアクアを出演させて、今ネットで騒ぎになっている制服問題について釈明させていただけませんでしょうか?」
「ネットで騒ぎに?ちょっと待って」
どうも鳥山さんはこの件をまだ知らなかったようである。しかしネットで検索してすぐ状況を掴んだようである。
「ぜひアクア君にインタビューしたい。でもしていいの?」
「はい。全く問題ありません」
それで朝のテレビへのアクアの出演が決まったのである。
「なんか大騒動になっているみたい」
「まあアクアは何をしても注目される」
「でもボクがスカート穿いて歩いていても誰も騒がないのに」
「その件は、私も不思議でならない。これはきっとズボンを穿いていたのが悪い」
「え〜〜!?」
「ああ、アクアさんが下もスカートの完全女子制服を着ていたらそもそも誰も盗撮しようとも思わなかったかもですね」
と真悠まで言っていた。
そういう訳で、朝5時にアクアはコスモスと一緒にテレビ局に入り、テレビ局のスタッフに事情を説明した。テレビ局ではすぐに必要な資料や写真などを揃えた上でアクア自身から学校側にも連絡を取って放送したい内容を説明して了承を得る(実際にはアクア自身がうまく説明できないのでコスモスが代理で説明した)。
それで4月2日(日)、6時のニュースの途中、7時の生番組冒頭でも予告し、ツイッターにも予告を流した上で7時半から10分間、コーナーを設けて“C学園・改造男子制服”を着たアクアに、女性アナウンサーが質問し、この学校の女子制服の写真と、アクアが実際に着ている“制服”の写真を並べたりして説明した。
・以下具体的な学校名を出すのはプライバシー上控えさせて欲しい。
・この学校は女子校であったが、今年から高等部の芸術科に限って最大5名まで男子生徒を受け入れることになった。一般入試ではなく自己推薦入試限定。
・まだ初年度でもあり男子の制服は定めておらず、学生らしい服装であればよいことにしている。
・それでアクアは女子制服のブレザーを買って、これを友人に頼んでボタンの左右付け替えの改造をした。今アクアが着ているのがこの制服である。下はスカートではなく一般的な男子用学生ズボン(市販品ではサイズが合わないのでオーダー品)を穿いている。
・昨日はこの改造が間に合わなかったため、暫定的に左前のブレザーを着ていた。
・アクアが性転換した事実は無いし、性転換する予定もない。女子高生になる意志もない。アクアは普通の男の子である。
この緊急インタビューの視聴率は凄まじかった。
この日は様々な仕事の予定もあるのでということで10分間のインタビューのみだったのだが、もっと色々質問したいという照会が、他の報道機関からも殺到したため、結局翌日、4月3日(月)の夕方から、わざわざホテルの会議室を借りて記者会見まで開いて、アクアの高校通学問題について質疑応答をした。
ここに至る段階、および記者会見の席でも、事務所側は報道各社に対して、高校生でもあるので、具体的な学校名は出さないで欲しいと要請。これは各社とも守ってくれた。
この4月3日の記者会見で騒動は鎮静化したものの、対応に苦労した案件だった。しかしコスモスの素早い対応が事件を簡単に済ませた感がある。
4月14日(金)、花園亜津子がWNBAに参戦するため成田からアメリカへ旅立っていった。同日、“須佐ミナミ”もNCAAに参戦するといって花園亜津子より1つ早い便でアメリカに向かった。
この時、空港で千里や冬子がお茶を飲んでいた時、上島雷太が多忙で実際には江戸娘のオーナーの仕事を全然できずにいて申し訳無いので、誰か代わってくれないかと言っていると雨宮先生から話があり、政子(マリ)が引き受けることにした。
ただし上島が負担していた、深川アリーナの建設費分担金(JER4の株)については、マリには買い取りきれないので、千里が引け受けることにした。建設費負担金は全部で58億円で、千里と冬子が15億円、上島が12億円、雨宮が10億円、KL銀行が6億円負担していた。この上島分12億円を千里が買い取ったので、千里の出資比率は27億円、46.5%になった。
しかしこの時千里は、12億円なんて上島さんには“はした金”だと思っていたので、買い取りを打診されたことに疑問を感じた。それで千里は上島さんの経済状況を調べさせることにした。
これがMuse Projectや松本花子プロジェクトにつながっていくことになる。
4月11日、ある週刊誌が「キャロル前田は既に去勢済み」という報道をした。
それによると、情報源は明かせないが信頼できる筋からの情報(**)で、彼は小学生の時に男性化防止のために外国で去勢手術を受け、それがバレないように代わりにシリコンボールを入れているというのである。
(**)この雑誌が「信頼できる筋」と言っても、この雑誌自体が不確実な報道が多く信頼できない、と多くの人から言われた。
しかし確かにもう中学2年生になるというのに、まだ声変わりが来ていないのは(高校生になったのに声変わりしていないアクアを除けば)極めて珍しい。
週刊誌の報道をもとに一部のテレビ局がワイドショーでも取り上げ、ネットでも結構な騒ぎになる。その中で手術はアゼルバイジャンで受けたらしい、などというまことしやかな情報まで流れることになる。
「でも10月にお医者さんが、キャロルにはちゃんと男性器があると言ってたじゃん」
「それは外見を見ただけだからでしょ。シリコンボールで誤魔化していたら、見たり触ったりしただけでは分からないよ」
騒動がどんどん大きくなっていくので、結局、キャロル前田は事務所の社長と一緒に4月16日、記者会見をすることになる。
「キャロルさんは既に去勢していて、睾丸の代わりにシリコンボールを入れているという報道がなされているのですが」
と記者が質問する。それに対して彼は答えた。
「半年前の記者会見の時は嘘をついて御免なさい。私は性転換手術は受けてないですけど、去勢しているのは事実です」
「去勢の理由は何でしょうか?病気治療のためとかですか?」
「男っぽい身体になりたくなかったからです。声変わりして男のような声になるのも嫌だったので、声変わりが来る前、小学5年生の時に去勢しました。手術は外国ですが、どこの国かとかは勘弁して下さい」
とキャロルは答えた。恐らく正規の医療では無かったのだろう。
「半年前の記者会見の時に私に男性器があると証言してくださったお医者さんをどうか責めないでください。代わりに睾丸と感触がそっくりの人造睾丸を入れているので、触っただけでは本物との違いは分からないと思います」
「それは区別するには例えば組織採取とかしないと無理ですよね?」
「そうです。睾丸に直接針を刺して組織採取して調べたりしない限りは分かりません。この人工睾丸は感触も本物そっくりですし、精索ともつないであって、普通の美容外科とかで入れてくれるシリコン製人工睾丸よりずっと精密なんです」
「キャロルさん、男っぽい身体になりたくないということは、もしかして女性らしい身体になりたいのですか?」
「そうなりたいです」
「女の子になりたいのでしょうか?」
「女の子になりたいです。ですから将来的には性転換手術も受けて女性になりたいと思っています」
このキャロルの発言に事務所の社長は厳しい顔をしていたが、ネットでも多くのファン、特に女性ファンから悲鳴があがった。
龍虎はキャロルの記者会見があっていた時間帯はドラマの撮影をしていたので会見を見なかった。しかし21時前に事務所から緊急連絡が入り、撮影から抜けさせてもらうことになった。
「今は時間的余裕があるから大丈夫だよ」
と監督は送り出してくれた。ボディダブル役の葉月も一緒に退席する。
それで事務所に行くと、キャロルの記者会見のビデオを見せられた。
「へー。キャロルちゃんは去勢していたんですか?。彼凄く女の子っぽかったですもんね」
「世間ではやはりアクアも去勢しているのは間違い無いという話になっているのだけど」
「去勢してませんよー」
「さっそく、去年『アクアの性別を解明する!』を放送したテレビ局から、アクアの性別検査を絶対に誤魔化しができないように生放送でさせてもらえないかという依頼が来ているんだけど。睾丸に針を刺しての組織検査付きで」
「痛そうだけどそのくらいいいですよ。こういう疑惑は早い時期に払拭した方がいいです」
「龍ちゃん、ほんとにそういう検査を受けても大丈夫?」
とコスモスは心配そうに言う。
「問題ありません」
と龍虎は断言した。
きっと《こうちゃんさん》が何とかしてくれるだろうと思っているのだが、こういう時彼がわざと何もせずにこちらを窮地に追い込むのが大好きであることを龍虎は理解していない。
「だったら、明日のお昼くらいに、学校を休んで病院で検査受けてもらってもいい?
「むしろ歓迎です。この状況では、ボクとても学校に出て行けません」
「そうだろうね!」
それで龍虎は「今夜の24時以降は食事を取らないように」と言われて、赤羽のマンションに帰還した。帰る時は鱒渕に車でマンションまで送ってもらった。赤羽駅まで行く西湖と一緒だが、西湖は
「とうとう女の子の身体になっていることを発表するんですか?」
と尋ねた。
「ボクは男の子だよぉ。明日の検査でちゃんとそれを確認してもらうから」
と龍虎は答える。
「そうなんですか?ボクてっきり、アクアさんは既に性転換手術を終えているものと思い込んでいました」
と西湖は言っていた。
まあ、そう思っている人は多いかもね〜、と龍虎は思った。
(むしろ西湖のほうこそ、昨年秋頃性転換手術を受けて本当の女の子になったのではと、§§ミュージックの寮では噂になっていることを西湖本人は知らない)
龍虎が帰宅してみると、母が来ていたようで、回鍋肉が作ってあった。それで龍虎は「24時以降は食事をしないで」と言われたから、今の時間帯なら、まだいいよね?と思い、料理をチンして食べようとした。
その時、突然物凄い音と光があった。
「わっ!」
と思わず声をあげて後ろにのけぞり、両手を後ろに突く。そして龍虎は目の前に居る2人の人物を見て
「君たち誰?」
と言ったが、目の前に居た2人も
「君たち誰?」
と言った。
「ボクは長野龍虎なんだけど」
「僕は長野龍虎なんだけど」
「私は長野龍虎なんだけど」
と3人の“龍虎”は言った。
「もしかしてボク3人になっちゃった?」
と言ってお互いの顔を見る。
「やった!私が3人居るのならさ、3人で交替で仕事に行かない?」
「いいね!それ」
「そしたら3日に1度仕事をして後2日寝ていられる」
「仕事→休み→学校、のサイクルかな」
「最近ちょっと仕事がきつすぎたよ」
「3人くらい居ないともたないと思ってた」
と3人は盛り上がる。
それで3人は話し合って、1人が学校に行き、1人が仕事に行き、1人が休むというのを3人で回していこうという話になる。また3人は自分たちのうち、1人は男の子、1人は女の子、1人は男の娘であることに気付いた。
それで明日の“性別検査”には男の子(龍虎M)が行くこと、今度のプーケットでの写真集撮影では、佐斗志は龍虎Mが、友利恵は龍虎Fが基本的に撮影に応じ、Nは男女どちらも撮られる交代要員になることなどを決めた。
ところがここで困った問題が生じる。それは3人でプーケットに行きたいのにパスポートは1つしか無い、正確には各々1つずつ持っているがクローンの状態なので、記録が連動するし、だいたい法務省のデータベースの処理上、出国したのに入国しないまま更に出国はできない。そもそも同じ番号のパスポートで航空券が3枚買えないという問題である。そこでこれは千里さんに相談しようということになった。
また3人の龍虎は自分が3人居ることに気付かれないように、必ず人前には1人ずつ現れるようにしようと話し合う。お互い脳間通信で話し合えること、どうも4〜5分より前の記憶はお互い共有しているようであることを認識して“離れていてもいつも一緒”という意識を持つようにした。おかげで龍虎が3人になったことに、いつも近くに居る《こうちゃんさん》でさえ、3ヶ月くらい気付かなかったのであった。(彼がわりと、にぶいのもある)
そういう訳で翌17日、龍虎Mは朝9時までぐっすり寝て体調を整えた上で鱒渕・コスモスと新宿区内の駅で10時半に落ち合い、一緒に病院に行く。ロビーでテレビ局のスタッフと落ち合う。これが11時前である。
テレビ局側は社長さんまで来ているのでびっくりする。社長さんがコスモスに「本当に検査を生放送していいか」と尋ねたが、コスモスは笑顔で
「全然問題無いです。アクアはずっと性転換疑惑・実は女の子疑惑、がずっとあったので、この際、厳密な検査を受けさせて本当に男の子であることを確認してもらった方がスッキリします」
と言った。
それで生放送は実行されることになった。
昨年はアクアのことを全然知らない医師が検査したが、今年は事前に診察する医師にアクアのこと、彼の既往症のこともきちんと伝えてある。それ故に逆に誤魔化しは困難なはずである。
12時。
生放送が始まる。レポート役の穐村アナウンサーが緊張した面持ちで
「アクアさんの性別検査を生放送します」
と言って最初に通りがかりのお婆ちゃんを呼び止めて
「この3つの箱の中のひとつを選んで下さい」
と言う。
お婆ちゃんがひとつ選ぶと、“愛のブレスレット”が2個入っている。これをアナウンサーはアクアの腕と自分の腕に装着した。お婆ちゃんには御礼のビール券を渡して解放する。アナウンサーは言う。
「これはご存知の方もあるかも知れませんが、同じ番号のブレスレットは世界にこの2つだけしか存在しません。カメラさん、この番号を写して下さい」
と言う。カメラが撮す。どちらも 86351324 という番号である。アシスタントがこの番号を穐山のTシャツに!マジックで書き写した。
選ばなかった2つの箱を開けてみせる。そちらにもやはりブレスレットのペアが入っている。不正ができないように、装着するブレスレットをこの場で第三者に選ばせたのである。
「このブレスレットを外す鍵を今、吉本アナウンサーに渡しました。吉本さん、それでは今から高崎まで行って、今日の製造年月日の入った焼きまんじゅうを買って下さい」
「分かりました。行ってきます」
と行って、彼はカメラマンと一緒に病院を出ていく。彼の行動はこの後、ずっとテレビ画面の左下にコーナーワイプで表示される。
そして病院側である。
「最初にこの人がアクアさん本人であることを確認するため1曲歌って頂きます」
と言って、アクアはその場で電子キーボードを自分で弾きながら、『希望の鼓動』を歌った。この曲は3オクターブの声域が必要な曲で、これを生歌唱できる人はそうそう居ない。これでここにいるアクアが本人で、そっくりさんの類いではないことが分かる。アクアの本人確認には、とてもいい方法である。
更にアナウンサーは今日の朝刊を手に持ちカメラに撮させた。これで確かに今日撮影しているということが分かる。
最初に尿と血液を採取するのだが、カメラは採血の場面を撮影する。更に尿に関しては看護師さんにカテーテルを入れてもらい、直接膀胱から採取させてもらった。絶対に誤魔化し不可能な方法である。
その後でリアルタイムMRIに入ってもらい、身体の中身を検査する。これで卵巣や子宮の類いが存在しないこと、前立腺が存在することが確認される。
その上で医師の診察を受ける。さすがに性器は撮さないものの、医師が性器のサイズを測っている所を、アクアの背中側から撮影させてもらう。
《今回はアクアさん側から性別疑惑を払拭したいという希望があり、御本人の希望でこのような撮影をしております》と書かれたメッセージボードをアシスタントが持っている所も撮される。。
「ペニスは長さ2cmですね。睾丸は8mlで、これは小学3-4年生くらいの睾丸のサイズです」
と医師は言う。かねがねアクアが言っている、自分の性器は思春期が始まる前くらいのサイズであるというのが、この医師の言葉からも裏付けられる。
アクアは陰茎を勃起させられないので、代わりに皮をいっぱいに引っ張った長さも測る。これが4cmで、もし勃起する場合はこのサイズになることが予想された。
「これセックスできますか?」
とアナウンサーが尋ねる。
「無理ですね。最低7cm程度はないと、女性の膣に挿入することができません」
と医師は言い、アクアが性的に未発達であることも再確認された。
彼の睾丸に針を刺し組織を採取して調べるという検査が行われる。アクアはまだ思春期の発毛が無いので、剃毛の必要はなく消毒と部分麻酔だけして針を刺す。
「これマジで物凄く痛いんですけど」
とアクアは本当に辛そうな顔で言った。
しかしおかげで組織は採取された。
「お股を鉄棒(かなぼう)で100回打たれたくらい痛かったです」
とアクアが言ったので男性の視聴者たちから
「身の毛もよだつ話だ」
などと言われ、またツイッターのトレンドに“鉄棒で100回”というのがあがる騒ぎになる。
医師が顕微鏡で確認する。
「生殖細胞は正常ですね。精子もいますよ」
と医師は言った。
許可を得てアナウンサーも覗いてみるか、素人の彼にも精子が確認できた。顕微鏡に取り付けられるカメラのアダプターを持って来ているので、アクア本人の許可を得て撮影させてもらう。
オタマジャクシの形をした精子が存在することがカメラの映像で確認できる。但し不活性である。ほとんど動いていない。
「1年前も2年前も性器が未発達と言われたということは、まだまだ思春期の到来には時間がかかるかも知れませんし、15歳でまだ声変わりもしていないのもそのせいでしょうけど、睾丸は確かに生きているので、いつかはちゃんと思春期が来て、男の子らしい発達をするようになるでしょうね」
と医師は診断した。
「男性ホルモンを投与すれば、思春期は早く来ますか?」
とアナウンサーは質問する。
「来ます。患者さん、それを希望しますか?」
と医師は答えてから龍虎に質問した。
「性ホルモンの投与は希望しません。ボクは自分の自然な発達に任せたいんです」
とアクアは答え
「本人がそう言っているから、それでいいでしょう」
と医師も言った。
最後にアナウンサーから上半身の裸を見せてくださいとリクエストされるので、アクアは上半身の服を脱いでみせた。
「まあ普通の男の子の上半身ですね」
と医師も言う。
実際、カメラには真っ平らで乳首も小さいままのアクアの胸が映る。この瞬間、
「ああ、アクア様には絶対おっぱいがあると思ったのに」
という女性ファンたちの嘆きの声が出ていた。
ただ頻繁に女装させられているおかげでブラジャーの跡もついている。それがかえってこれがアクア本人であることの証拠にもなった。
「あらためてアクア君に訊きますが、女の子になりたいですか?」
「ボクは可愛いとか女の子みたいと言われて、小さい頃からしょっちゅう女の子の服を着せられてきましたし、もうそれに慣れちゃって、スカートとかセーラー服も自分の普段着の一部という感覚になっているんですけど、別に女の子になりたい訳ではありません。普通に男性の俳優になりたいですし、女性と結婚して子供も作って普通の家庭を築きたいと思っています」
とアクアは笑顔でカメラに向かって述べた。
カメラは吉本レポーターのほうに切り替わる。彼はわざわざ切符で乗っており、その切符に 29.-4.17 という日付が印刷されている。ちょうど高崎駅に着くので下車した後、走って近くの焼きまんじゅう屋さんに入った。焼きまんじゅうを買い求めて、製造年月日を見せる。確かに 2017-04-17 という日付が入っていた。鍵を持っている所も見せる。鍵の番号も撮される。86351324 である。
カメラは病院の方に戻される。尿と血液の検査結果が出ている。それで染色体が間違いなくXYであること、男性ホルモン・女性ホルモンの量が思春期前の男児の標準値の範囲であることが確認された。
最後にアクアと穐村アナウンサーがつけているブレスレットの番号が番組冒頭で撮した番号 86351324 と同じであり、穐村アナのTシャツに書かれた数字とも一致することが確認されて、
「そういう訳でアクア君は取り敢えず今の所はまだ男の子であることが判明しました」
という穐村の報告で番組は終了した。
しかしアクアは撮影終了後、病院から出ようとしてロビーに大量のファンが押し掛けているのを見てギョッとした!
生放送なので、映像からどこの病院かが分かってしまい、それでファンが大量に集まってしまったのである。病院はロピーの患者を待避させるのに苦労した。
テレビ局がスタッフの応援を頼み、多数の警備の人たちに守られて、何とかアクアは脱出してテレビ局の車で事務所まで送ってもらったが、この車はドアミラーが破損し、バンパーやフェンダーまで曲がっていた。またファンの圧力でテレビ局のスタッフ5人が軽症を負ったらしい。この件でテレビ局は病院側から、撮影の体勢がきちんとされていなかったとして強い抗議を受けて社長が病院まで謝罪に行くはめになる。
しかしここで“生のアクア”を見た人たちの報告で、検査を受けたのが確かにアクア本人であったことが追認された。
この生放送が12時から行われたのは、病院が本来は休んでいる時間帯を利用してスムーズに検査をしたかったことと、お昼休みの時間帯で視聴率が確保できることからであるが、実際物凄い視聴率になった。
そういう訳でアクアの性別疑惑は今年もクリアされたのである。
但し、今回の“性別検査生放送”は、たとえ本人の同意を得たものであっても、アクアが未成年でもあり、プライバシーの保護という面から極めて不適切であるとしてBPOから厳しい警告を受ける。それでテレビ局の社長がこれも謝罪する騒動となった! それで今後はこういう形の撮影はできないことになった。
しかしキャロル前田が去勢していて、将来は女の子になりたいと記者会見で述べたこと、一方でアクアは恐らく誤魔化しは無かったと思われる方法で性別検査を生放送して確かに男の子であることが確認され、本人も自分は女の子になりたい訳ではなく、将来は男の俳優になりたいとあらためて語ったこと。この2つのできごとは、視聴率の明暗を分けた。
アクアが出演(主演ではない)している『ときめき病院物語III』がこれまでにない高い視聴率を出したのに対して、キャロル前田主演『変身ポンポコ玉』は壊滅的に低い視聴率となった。
龍虎が性別検査を受けた4月17日の夜、タイまで日帰り往復、というよりとんぼ返りしてきた千里がマンションに来訪した。でもよく見たら千里ではない。
「よく分かるね。私は千里の代理のわっちゃん。今千里は工作活動中なのよ、状況次第でちゃんと千里に対処してもらうから、取り敢えず話を聞かせて」
と言って、状況を尋ねる。
そこで3人の龍虎が《わっちゃん》の前に並ぶと、《わっちゃん》は仰天していた。(この時、こうちゃんも工作活動中で不在だった)
龍虎はなぜか3人に分裂しちゃったけど、好都合なので3人で分担して仕事をしていこうかと思っていると正直にわっちゃんに説明する。しかし今週末にタイに行って写真集の撮影をするのをどうすればいいか悩んでいると言った。
「ああ、それなら問題無い。1人だけパスポートで渡航して、あと2人は転送してあげるよ」
それで3人とわっちゃんは“入れ替わり撮影”の計画を練ったのであった。
実は龍虎の3分裂と同時に千里も3分裂(正確には4分裂後0番と1番が合体)したのだが、龍虎たちが相談したのは3番の千里であった。
1番:胎動に苦しむ桃香を入院させた後、日本代表の合宿に戻る。
2番:大阪でインフルエンザの阿倍子を入院させ、京平を数日預かることにして東京に連れてくる。
3番:タイで立ち往生していた雨宮を連れ帰る。
龍虎たちから連絡があったのはタイに立つ直前で、帰国後《わっちゃん》を龍虎たちの所にやったのである。
3人の千里はアクア同様、パスポートの入ったバッグを持っている時に分裂したのでお互いクローンの関係にあるパスポート M1 M2 M3 を所持している。
翌4月18日(火)、龍虎は普通に学校に出て行った。しかしクラスメイトから取り囲まれてなかなか大変だった。
「テレビ見たよ〜」
「ほんとに男の子だったのね」
「てっきり龍ちゃんは女の子だと思ってた」
「男の子だよ〜」
「でも今日はスカートなんだ?」
「ズボンに朝カレーをこぼしてしまって。そのまま穿いては来られないから、こちら穿いてきた」
「ああ、それは悲惨」
「洗い替えを買っておきなよ」
「さっそく注文した〜」
「スカート注文したの?ズボン注文したの?」
「ズボンだよぉ」
「スカートの替えを用意すればいいのに」
実際にこの日、龍虎が注文したのは次のものを各1である。
・ブレザー左前(通常の女子仕様)
・ブレザー右前(左右交換版)
・学生ズボン(Mが採寸に行き、きちんと測って作ってもらう)
それで3人のアクアはこのように制服を着るつもりであった。
M ブレザー(左右交換)+ズボン(中学時代のもの)
F ブレザー(女子仕様)+スカート(先月作ったもの)
N ブレザー(真悠改造)+新たに頼むズボン
実際にはFがズボンを穿いて行ってしまいMがやむを得ず(?)スカートを穿いたりするような変則的(?)なこともしばしば起きた。
それで結局、更にブレザー(左右交換版)、スカート、ズボンを1着ずつ頼んで予備を作ることにした。
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【娘たち、男と女の間には】(3)