【娘たちの衣裳準備】(1)

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淑子は教育委員会から送られてきた就学通知、日本国内の医師の診断書、そしてタイでもらってきた英文の診断書、それに成美が女児として記載されている、小学校の通知簿、健康診断票、を持って、予め電話連絡した上で教育委員会の学校教育課に行った。
 
「ああ。なるほど半陰陽でしたか」
と40代くらいの杉山という名札を付けた女性は淑子が持って来た書類を見て言った。
 
「私も夫も、出生届けを出す時に性別を保留できると知らなかったもので、男の子として出してしまったのですが、この子は幼稚園でも小学校でもずっと女児として扱ってもらっているので、中学にも女生徒として入れて欲しいんです」
 
「戸籍の方は?」
 
「正直この子の精神的な発達がどちらの性別になるか確認するために待っていたのですが、間違い無く女の子として発達してきているので、あらためて弁護士さんとも相談して時期を見て家庭裁判所に審判を申し立てるつもりです」
 
「分かりました。御本人の写真とかでもありますか?」
 
「これは夏にプールに行った時に撮ったものですが」
「あら、可愛い」
 
と言って、可愛いプリキュアの水着を着た3姉妹の写真を見た。教諭は特にそのいちばん上の子の股間をよくよく見たのだが、男の子のような盛り上がりなどは見当たらない。この子は胸もわりと膨らんでいる。髪も長くしており優しい顔立ちで、女の子にしか見えない。
 
「それとこちらは小学校で他の子と並んで撮ったものです」
と言って、成美が運動会で女児たちと並んでいる写真、鼓笛隊でスカートの衣裳をつけてファイフを吹いている写真、それに合唱で女子の並びに並んで歌っている写真を見せた。
 
「ああ、ふつうに女子として学校活動しているんですね」
「ええ」
「この合唱の並びは・・・ソプラノですか?」
「はい。あの子の声はソプラノです」
「声変わりとかする可能性は?」
「ありません。睾丸が存在しませんから」
 

「ねぇ、龍、コーラス部の助っ人やってくれない?」
と龍虎に声を掛けてきたのは、親友の宏恵である。
 
「コーラス部どうかしたの?」
「ソプラノソロを歌っていた鉄田さんが転校して行っちゃうのよ。それでクリスマスコンサートでソロ歌う子がいなくてさ」
「そんなの誰か代わりに歌えないの?」
「無理。誰もハイCが出ない。でも龍はこないだの修学旅行の時、確かハイDが出ていたよなと思ってさ」
 
「龍はハイEまで出るよ」
と隣で彩佳が言う。
「それは頼もしい。Eが出るならCなんて楽勝じゃん」
「でもボク声変わりするかも知れないし」
「それはあり得ない。龍には睾丸なんて無いし」
「ああ、やはり存在しないよね?」
 
「でもボク、年末はバレエの発表会もあるし、また入院検査もあるし」
と龍虎は何とか断ろうと用事を言う。
 
「バレエの発表会はいつ?」
「12月23日」
「入院するのは?」
「12月25日から30日」
「良かった。クリスマスコンサートは12月24日なのよ」
「おお、だったら、出てやりなよ、龍」
と彩佳は言った。
 

杉山はあらためて淑子が渡した診断書を読む。日本語の診断書は2枚あり、1枚は小児科医によるもので今年8月の日付、もう1枚は精神科医によるもので、9月の日付である。そして英文の診断書は11月の日付であった。
 
《患者は女児のように骨盤が発達しつつあり、身体は丸みを帯び、バストの膨らみもあって外見上は女児に見える。女性ホルモンの量は通常の思春期前期の女児並みである。睾丸は存在しないが陰裂も存在しない。外陰部の外見は性別曖昧である》
 
《クライアントの過去の成長歴を本人および保護者への聴き取りにより調査し、また本人との対話、行動観察などを見た結果、クライアントは心理的にも社会的にも女児として発達している。また学校や地域社会で女児として扱われている》
 
Her apperrance of body was sexuality ambiguous. As a result of one year examination, we judged she is psychologically a girl beyond doubt. So we performed the plastic surgery for her to live easier as a woman. We removed the outer shaft of penile-clitoris, built labia majora , labia minora, so that her pubic view is equivalent to that of a normal female. She is now perfectly a girl. She should be treated legally and socially as a woman.
 
《彼女の外見は性別曖昧であった。1年間にわたる検査の結果、彼女は心理的には紛れもなく少女であると判断された。そこで彼女が女性として生きていきやすいように形成手術を行った。陰核陰茎の体表外の軸を除去し、大陰唇・小陰唇を形成したので、彼女の外陰部の見た目は普通の女性のものと全く同じである。彼女はいまや完全な少女である。彼女は、法的にも社会的にも女性として扱われるべきである》
 
「なるほど。外性器が曖昧だったのをちゃんと普通の女の子に見えるように調整したんですね」
「そうなんですよ」
「だったら全然問題無いですね」
 
それで担当教諭はすぐに就学通知の性別を女に修正したものをその場で発行してくれた。また当該中学にもちゃんと女子であるとして通知するので、制服も女子の制服を作って下さいと淑子に言った。
 
そういう訳で成美は女子生徒として中学に通うことができることになった。状況次第では本人を連れて来て教育委員会の人に、いかに普通の女の子であるかを見てもらおうと思っていたのだが、それ以前の段階で認められたので淑子はホッとした。それで帰宅すると淑子は成美に言った。
 
「おめでとう。あんたちゃんと女子中学生になれるよ」
 

「おめでとう。もう龍はほぼ女の子になれたね」
と川南は嬉しそうに言った。
 
「この状態はあくまで一時的なものなんだよ。ボク身長をもう少し伸ばしたいからそのために敢えてこの1年ほど女性ホルモンを摂っていたんだ。目標の身長まで到達したら、ホルモン剤はやめるから、ちんちんは大きくなるし、胸は小さくなっていくと思う」
と龍虎は説明するのだが
 
「おっぱいもここまで大きくなれば絶対に男の子と間違われることはない。これで龍は中学にはセーラー服で通学することが確定したな。名前も“こ”の字は“虎(とら)”から“女の子の子”にあらためよう」
 
などと川南は言っている。
 
「だからさあ、年末の定期検診で誤魔化す方法を相談しているんだよ」
と龍虎。
 
「ふつうの女の子のように股間を偽装するのは、千里ができるよな?」
と川南は千里に尋ねる。
 
「うん。簡単だよ。今やってあげようか?」
と千里。
 
「そうじゃなくて、男の子の形を装いたいんだよ」
と龍虎。
 
「だったら、ちんちんを取り付ければいいね」
と千里。
 
「要するに***のこと?」
と夏恋が訊く。
 
「普通の***なら、ハーネスというのを使って取り付ける。取り付けているのが明快に分かる。ところが外国製のものにはハーネス無しで取り付けられるものもある」
「ほほぉ」
「でもそれお医者さんが見てバレない?」
 
「ちんちんを取ってしまったことを奥さんにバレないように、これで誤魔化していた人を知っている」
 
もちろん貴司のことだ!
 
「奥さんを誤魔化せるのは凄い!」
「しかし奥さんがいるのに、ちんちん取ってしまうなんて大胆な」
 
「まあ例えばこういうものなんだけど」
と言って、千里がバッグの中から“接着型”の***を取り出すので
 
「用意が良すぎる!」
と言われる。
 
「しかし毛までついているわけか」
「この毛は本物の人間の毛なんだよ。だから誤魔化される」
「小さく誤魔化そうとするとバレるけど大きく誤魔化すとわりと気付かれない」
「うん。それは全ての誤魔化しに共通すること」
 
「しかしこれリアルだね」
「でしょ?だいたい2時間以上前から取り付けておけば体温が移るから生暖かい感じになって、触っても違和感が無い。この疑似血管の中に通っている液体が循環するからちゃんと先の方まで暖まるんだよ」
 
「じゃこれを取り付けておけば誤魔化せるかな?」
「但しこれを取り付けるにはクリちゃんと割れ目ちゃんが必要」
「う・・・」
 
「龍のこれは既にクリちゃんだと思う。もはや、おちんちんではない」
「うん。だからそれは行ける。でも割れ目ちゃんを形成しておかないといけない」
と千里が言うと
 
「それ女体偽装すればいいんでしょ?」
と夏恋が言う。
 
「そうなんだよね。但し普通のタックではダメ。ちゃんと開ける割れ目ちゃんを形成する特殊なテクニックが必要」
「それ千里できる?」
と夏恋が訊く。
「もちろん」
 
「あと、これは本来尿道口が女の子仕様で開いている人に適合する。クリちゃんの所からおしっこが出る人の場合、尿道を継ぎ足して本来の女性の尿道口まで導く加工が必要。でもそれも私できるよ」
 
「要するに千里は高校時代、性転換手術してしまったのを親に誤魔化すのに、こういうので偽装していたわけだ?」
「ノーコメント」
 
「結局、いったん完全に女の子になってもらってから男の子偽装すればいいんだね?」
と夏恋が言う。
 
「男の子偽装せずに、いっそ手術して女の子の形にして『ボク女の子になりました』と言えばいいのに」
 
と川南は残念そうに言った。
 

龍虎が参加しているバレエ教室では、年末の発表会用の衣裳の採寸を行った。ここで測った寸法で衣裳を準備するが、昨年同じ役をした子の衣裳が流用可能な場合は、そちらを流用する。
 
実は昨年のフランスの踊りのペアの衣裳も一昨年の『眠れる森の美女』から、シンデレラ、フォルチュネ王子、フロリナ姫などの衣裳を流用している。
 
龍虎は母に付き添われて、いつもの教室に行った。採寸はもちろん着衣のまま行うので、男女混合である。もっとも教室の生徒は圧倒的に女子が多く、男の子たちは肩身の狭い思いをしていたりする。
 

龍虎が着る中国の踊りの衣裳は、伝統的な中国の衣裳をベースにしている。中国の服というと、いわゆるチャイナドレス(和製英語)を想像する人もあるが、あれは清代に広まったもので、満洲民族の服であり、漢民族の服とは異なる。明代までの漢民族の服は、むしろ日本の振袖などに近い。但し丈は腰付近までであり、下にはスカートを穿く。要するに奈良・平安の日本の貴族の服にも近い!
 
むろん龍虎の場合はスカートではなく、同じ中国の踊りを踊る女子生徒のと同じ布を使用したズボンになる・・・・はずである!?
 
この衣裳はもし来年『シンデレラ』を演る場合はその中の『東洋の踊り』に転用するかもと先生は言っていた。
 

中国の踊りの3人はこの時点で、鈴菜が身長150cmくらい、龍虎と日出美が145cmくらいで、龍虎と日出美は同じサイズで行ける感じだった。先生はそれを見て
 
「これなら2人は去年の衣裳の流用で行けるかな?」
と言う。
 
「でも去年は男の子2人と女の子1人でしたが、今年は女の子3人でしょ?スカートタイプのを2着作らないと。あるいはスカートだけ作ります?」
 
と採寸してくれている洋服店のスタッフさんが言う。
 
「いえ、今年は男の子1人女の子2人ですよ」
 
「ああ、女の子3人だけではなくて、他に男の子もいるんですか?今日は来ていないんですね」
 
「いえ、こちらの子は男の子なんですが・・・」
「・・・・分かりました」
 
係の人の一瞬の“間”のことは考えるまい、と龍虎は思った。
 
しかし昨年の衣裳を出して来て合わせてみると、昨年の男の子の衣裳のズボンは大きすぎて龍虎が穿くとずり落ちてしまうことが判明する。
 
「ゴムを入れ直せば行けるよね?」
「ですね。じゃそれで補正するということで」
 
それで結局、前面中央で踊り身長も高い鈴菜の衣裳を上下とも新調し、龍虎と日出美の衣裳は昨年のものを流用調整することになった。
 
つまり中国の踊りの衣裳はこのようになる。
 
昨年の女1→調整して日出美が使用
昨年の男1→調整して龍虎が使用
昨年の男2(今年は不使用)
◎鈴菜の衣裳(女)を上下とも新調。
 

千里たちの高校、旭川N高校の比較的近くにあった公立高校、旭川M高校出身の中嶋橘花は、高校卒業後、茨城県のTS大学に進学し、ここのバスケット部で、松前乃々羽・中折渚紗・前田彰恵・橋田桂華と出会う。この5人は能力が卓越していたので“TS大学フレッシャーズ”の名前を与えられ、あちこちのオープン大会を荒らし回った。
 
大学を卒業した後は東京都内の大学の大学院に進学したのだが、ここのバスケ部はあまり強くなかったし、そもそも学部生のみで院生は対象外と言われた。それで橘花は、この春以降、バスケを出来る環境が無くて、悶々としていた。
 
そんな時、昨年結婚して今年の春に赤ちゃんを産んだ河合麻依子から「一緒に練習しない?」という電話を受ける。
 
「江東区の体育館で、木曜日の夕方なんだよ。地下鉄の駅から少しあるけど、歩くだけで軽いウォーミングアップという感じ。今いるメンツが千里と秋葉夕子」
 
「千里!?あの子、今何してるの?」
「去年の春にローキューツを退団した後はフリーみたいね。日本代表の活動はやっているけど」
「所属チーム無し?」
「そうみたい。でも全く衰えてないよ」
 
「シューターって、自己鍛錬だけしてれば意外と行けるのかもね」
「うん。そうかもという気がした」
 
千里はスペインのチームに加入していることを秋葉夕子にさえ言っていない。言えば日本に居ることを説明できない。
 
「そのメンツなら参加したいなあ。あ、待って。(橋田)桂華もいい?あの子も練習相手が居ないってこぼしてて、今年は何度か手合わせしたのよ」
「へー!あの子なら歓迎されると思う」
 
それで江東区の体育館に木曜の夕方から練習するメンツに11月21日からは橘花と桂華が加わり、5人になったのであった。
 

12月1日(日)に千里と貴司は3度目の人工授精を行った。
 
貴司はこの週末は実業団リーグの試合は無いのだが、仕事の方で上海出張が入り、11月29日(金)の深夜まで掛けて、相手との交渉が終わった。それで朝一番の便で帰国する。
PVG 11/30 9:25 (CA164) 11:10 KIX
 
会社に戻って報告を済ませたら14時頃であった。千里との待合せ時刻は夕方だったので、それまで何しようかなと思っていたら、その千里から電話が掛かってくる。会社の外で待っているということだったが
 
「奥さんここまで来てるの?あがってきてもらえばいいよ」
と高倉部長が言うので、千里にそう言うと、あがってきて
 
「部長さん、休日なのにお疲れ様です」
と笑顔で挨拶する。部長も
「ごめんね。まだ新婚なのに、こき使っちゃって」
と千里に笑顔で言っている。
 
貴司はもう自分と阿倍子の結婚式に高倉部長や船越監督が出席したのかも知れないということは忘れることにした!
 
「これ通りがかりのお店で買ってきたものですが、よろしかったら」
と言って、千里はバレンシアの町で買ったブニュエロ(Bunuelo)を渡す。
 
「なんか大きなドーナツだね」
「ブニュエロというんですよ。スペインのバレンシア風のドーナツですね」
「へぇ。バレンシア・オレンジのバレンシア?」
 
「そのあたりが微妙で」
「うん?」
「バレンシアはオレンジの大産地なんですけど、バレンシア・オレンジというのはアメリカのカリフォルニア産のオレンジなんですよね」
 
「へ!?」
「カリフォルニアでオレンジの栽培に成功した人が、オレンジの名産地であるバレンシアにちなんで“バレンシア・オレンジ”というブランド名を付けただけなんですよ」
 
「じゃスパゲティ・ナポリタンとか、トルコ・ライスとか、天津飯とかの類いか!」
「まさにそれです」
「ブランドとして定着しちゃってるから仕方ないけど、今みたいなグローバルな時代だったら本家からクレームが入っていた所だね」
 
「ですよね。あ、お茶でも入れてきますね」
 
と言って千里は給仕室に行って部長にコーヒーを入れて来た。
 
「済まないね。社外の人なのに」
「いえ、○○さんとかに教えて頂いたんで」
 

そんなことをしている内に貴司の方は帰宅準備ができたようである。それで
「お先に失礼します」
と言って、一緒にオフィスを出た。
 
近くの駐車場にA4 Avantを駐めていたので、それに乗って少しドライブに出る。
 
「そうだ、千里。今年も年賀状頼める?」
「OKOK。ハガキは買った?」
「実はまだ買ってないんだけど」
「送る人は?」
「100人。例によってそれ以上送るのは禁止なんで」
「たいへんね〜。じゃハガキも買っておくよ」
「助かる。リストはあとで渡す」
「市川ラボの机の上に置いておけば回収しとく」
「了解」
 
と言ってから、貴司は常々疑問に思っていたことを訊く。
 

「あそこって、洗濯物も洗ってもらっているし、食事もほとんど食料品とか買いに出ることもないし」
「まあ、毎日のように行っているからね。毎日じゃないけど」
 
「でも千里とはなかなか会えない」
「私と結婚したら、毎日一緒に過ごせるかもね」
「うーん・・・・」
 
「貴司は千里(せんり)のマンションにはどのくらいの頻度で帰ってるの?」
「相変わらず週に1回、郵便物をチェックしにいくだけだよ」
「阿倍子さんと御飯とか食べないの?」
「全然」
 
「・・・・貴司、それ実は別居状態では?」
「うーん。。。僕としては元々同居するつもりが無かったし」
 
千里は少し考えたが、過度には期待しない方がいいと思った。
 
「まあいいや。私は、私と貴司の婚姻届けが提出できるようになる日を、気を長くして待つことにするから」
 
「すまん」
 

この日は姫路城を一緒に見て、夕食もその近くで取る。その後市川町に行き、ラボに車を停めて20時半すぎまで居室でイチャイチャしていた。その後、貴司は女体偽装!して女物の下着を着け、ドラゴンズの練習着を着て上に上がって行った。
 
「彼、かなり女装にはまりつつあるね」
と唐突に後ろから声があるが、千里は驚きもせずにそちらも見ずに答える。
 
「まあ浮気防止には効果があるみたいですし。アクアリリーさんでしたっけ?」
「ノンノンノン!その名前発音しちゃいけない!」
と向こうは慌てている。
 
しかし彼女(彼?)の声がとても清らかなので、それで千里はこの人の“格”の高さを感じ取った。
 
「でもたくさんお世話になっている。今の段階ではかえってNBLとかbjに行くより鍛えられている気がする」
「まあ彼は本当は強くなければクビになるという環境で鍛えられるべきだけどね」
「そうなんですよね〜」
 
「でもボクたちも来年度いっぱいくらいまでは彼の相手をしてあげるよ」
「それ以降はドラゴンズ解散ですか?」
「この仲間、結構楽しくなっちゃったから、そちらがよければ、ずっとここに居ていい?」
「もちろん。皆さんのおうちも用意しましょうか?」
「欲しがる子がいたら相談させてもらおうかな。それより、彼の会社の方がたぶんやばい」
 
「・・・・」
 
「彼には言わないでね」
「それは守秘義務ということで」
「ふふふ」
 

彼女(彼?)も上に上がって練習に行ったので、千里はベッドに入って少し仮眠した。その後でバレンシアに行っている《すーちゃん》と入れ替わり、この日の試合(11/30 18:00-20:00, JST:12/1 2:00-4:00) が行われる会場に行って、試合に出場した。
 
戻ってきたのは朝5時頃である。机の上に年賀状の送り先を納めたUSBメモリーと1万円札があるので《せいちゃん》に渡す!
 
『例によって急ぐ順にリストを印刷するのと、ハガキ買ってくるの頼める?』
『OKOK』
 
朝御飯を作ってから貴司を起こす。
 
「おはよう」
「おはよう」
と言ってキスをする。
 
朝食を一緒に取ってからイチャイチャする。そしてそのまま射精させて採精容器に取る。ふたりとも眠ってしまうが、貴司は30分ほどで起きた。
 
「私寝てるから貴司、悪いけど届けてきて。今日は私ここに1日中居るから」
「分かった」
 
貴司は甘地駅から電車で往復して精液を病院に届けてきた。阿倍子はたぶん昼過ぎに病院に入り、この精液を子宮に投入してもらうだろう。
 
貴司が市川に戻ってきたのはお昼頃である。千里は11時頃に目が覚めてお昼を作って待っていた。ふたりは一緒にお昼を食べてから、しばらくおしゃべりをした上で、水泳1時間、バスケットを休憩を挟みながら4時間ほど練習した。
 
「千里、会う度に強くなっている」
「貴司も会う度に強くなっている」
「でも千里の方が伸びが大きい!」
「まあたぶん私の方が貴司より練習時間が長いだろうし」
「うーん・・・」
 
「来期こそNBLに行きなよ。やはり早い時期から各チームの動向を見ていて、自分を求めてくれそうなチームを探すんだよ」
 
「そうか。やはり闇雲に訪問してもダメだよな」
「もちろん。ポイントガードかスモールフォワードが足りてないチームを探すことと、そこの監督や経営陣のポリシーに納得できる所を探さないと」
 
と貴司に言いつつ、自分もWリーグのチームを探さないといけないよな、と千里は思っていた。
 

夕食に貴司が豚汁をリクエストするので、一緒に近くのマックスバリュまでA4 Avantで買物に行き、それから豚汁を作って食べた。食事が終わった後で
 
「私また少し寝る」
と宣言して下着姿になってベッドの左半分に潜り込む。貴司も下着姿でベッドの隣に潜り込んでくる。
 
「千里寝ちゃった?」
などと言っているので寝たふりをしている。すると貴司は千里の右手を勝手に取って自分の股間に当てている。千里は笑いをこらえて寝ているふりを続ける。
 
やがて貴司は千里の手の中で逝く。凄く気持ち良さそうである。それを感じて微笑ましい思いの中、千里は本当に自分を深い眠りの中に導いた。
 

20時半頃。貴司が目を覚ますので千里も起きる。貴司は例によって女体偽装してから練習着を着けている。
 
「じゃ次は私たちの結婚記念日、紙婚式にNホテルで」
「うん。僕も頑張るよ」
「一度ふたりともオールジャパンに出られるといいね」
「うん。行きたいね」
 
それでキスして貴司が練習に行くのを送り出した。こうして30時間ほどのデートが終わった。千里はそのまま地下に降りて、作曲作業室に入った。
 
貴司はほとんどこの市川ラボ1階の居室に住んでいる状態だが、実は千里も週末の試合の無い日には、日本の夜間になる時間帯はこの作曲作業室に居たりする(平日は日本の夜間はスペインでの練習時間に相当する)。
 
つまりこの時期、千里と貴司は“お隣さん”状態だったのである。
 
このことを貴司は知らない。この日はスペインの夕方18時(日本の午前2時)くらいまではここで作業し、その後スペインに移動する。ただし貴司の練習が終わる0時頃には夜食を届けておく(朝食も冷蔵庫に入れておく)。
 
千里が日本に来ている間はスペインには《すーちゃん》が居て、シンユウやサンドラなど、チームメイトに誘われて、町でショッピングしたり、お茶を飲んだりもしている。結果的にスペインで買った車・イビサは千里より《すーちゃん》の方が多く運転している。また、最近《すーちゃん》はスペインで千里の代役をしていることが多いので、ファミレスの方は《てんちゃん》《いんちゃん》あたりが代行していることが多い。
 

江東区の体育館で毎週1回練習しない?というのに誘われた橋田桂華は、新しいバッシュを買っておこうと思い、スポーツ用品店に行った。それでどれにしようかなあと迷うようにして見ていたら、近くにやはりバッシュを見ている女性がいるのに気付く。
 
「ステラ!」
「ダイ!」
 
ふたりは思わず抱き合って、勢いでキスまでしてしまう。
 
「待った待った」
「あんたレズっ気あったっけ?」
「それは否定しないが、今のは事故」
「じゃ今のは、なかったことに」
 
それは竹宮星乃であった。
 
ふたりは一緒にU18代表候補になっていたが、U18の時は直前に星乃が怪我して離脱し、桂華は代表になった。この時、桂華は星乃が怪我したから本来なら落ちるはずだった自分が代表になったと思っていた。U20の時は今度は桂華が直前に盲腸になり星乃が緊急召集されて代表になった。この時、桂華はこの2年間ずっと星乃に済まないと思っていたと語ったが星乃はそれを否定した。U18の時に落ちたのは自分の実力不足で怪我は関係無いと言った。
 
でもU21の時は最初から2人とも落ちた!
 

そういった経緯もあり、ふたりは深い友情で結ばれたのである。しかしこの春以降は、実業団に入った星乃は忙しそうにしていたし、いい入団先が無く、実質的に引退状態になってしまった桂華としては気分的に連絡しにくい状況が続いていた。
 
「ステラ、オールジャパンは惜しかったね」
と桂華は星乃に言う。
 
「まあその前に社会人選手権にも行けなかったからなあ」
「確かに実業団のトップの方はプロに近いレベルだけどね。でも今年はあまり使ってもらえなかったみたいだし、ステラがもう少し出られるようになれば」
 
「いや、それが私、クビになっちゃって」
「え〜〜〜!?」
「上の方と対立しちゃってさぁ」
「あらら」
「だから今は親の家に居候状態」
「バスケは?」
「10月以降は全然できてない。練習したいとは思うけどひとりじゃできないしさ。でもどこか公共の体育館とかでも借りて少しやろうと思って、それで気分一新するのに新しいバッシュ買いに来たのよ」
 
「だったら、私たちと一緒にやらない?」
 
「ダイはどこのチームに入っているの?」
と星乃が尋ねた。
 
「チームじゃないんだけど、取り敢えず毎週1回木曜日の夕方に江東区のS体育館で練習しているんだよ」
「へー」
 
「メンツは、中嶋橘花、溝口麻依子、秋葉夕子、村山千里」
 
「おぉ!なんかそれ凄いメンツだ。私が行っていいのかなあ」
「たぶんこのメンツの中ではステラが千里の次に強い」
「ダイの次にね」
 
それで次回の練習に桂華は星乃を連れて行き、大歓迎された。それで木曜日に江東区のS体育館に集まるメンツは6人になったのであった。
 

星乃が加入して6人になった日、秋葉夕子が言った。
 
「これだけ人数がいたらチーム名をつけてもいいんじゃない?」
「ああ。名前があった方が体育館の予約を入れやすい」
 
すると麻依子が言った。
「40 minutes(フォーティー・ミニッツ)」
 
「バスケットの試合が40分だから?」
「1日40分練習すればいいよ、という気楽なチームを目指す」
「あ、それもいいね」
 
「じゃマークは40分までしかない時計で」
 

そんな話になった所で千里は言った。
 
「ユニフォーム作ろう」
 
「予算は?」
 
「今参加しているメンツの分は私がお金出すよ。背番号の希望は早い者勝ち」
と千里。
 
「私はマイケル・ジョーダンの23」
「じゃ私はシャキール・オニールの34」
「だったら私はマイケル・クーパーの21」
「私は一度付けてみたいと思ってた1番かな」
 
「じゃ私は・・・」
と千里が言いかけた所で星乃が
「千里は33だ」
と言った。
 
「なんで?」
「平成3年3月3日生まれの3P女王で、コートネームもサンだから、33が最も千里にふさわしい番号だ」
と星乃。
 
「じゃそれで」
と麻依子が言い、千里の背番号は勝手に決められてしまった!
 
しかし千里としてはスペインのレオパルダで付けているのと同じ番号なので、混乱しなくて済んでいい!と思った。
 

「でも千里、そんなにお金あるんだっけ?」
「去年私結婚を目前に婚約破棄されたからさ。結納金が手付かずで残ってるんだよね。向こうのお母さんは返却不要と言った。だからそれを使っちゃう」
 
「いいの?」
と夕子が心配する。
 
「うん。婚約破棄記念で。私は恋よりバスケに生きる女だよ」
 
と千里が言った時“どこかで”着メロが鳴る。
 
曲は『恋するフォーチュンクッキー』である。千里は
「ちょっと御免」
と言うと、練習着の“中”に左手を入れ、胸の付近からフィーチャホン(T008)を取り出す。右手に持ち左手小指でオフフックすると、体育館の隅に言って電話を受けた。貴司からである。何だかみんながこちらを見ているので携帯と口の間を左手で覆い、小声で話す。
 
「あぁ。ウィンターカップ見に来る?うん。準決勝以降の日のチケットは確保できるよ。じゃ、前日にいつもの場所で。オールジャパンはどうする?来られる?じゃそちらも11日から13日までのチケット確保しておくから。そちらの詳細はまた27日に会った時にでも」
 

それで2分ほど話して切った。携帯をまた練習着の“中”の胸付近に戻す。それでみんなの所に戻る。
 
「千里、いくつか質問があるのだが」
と橘花が言う。
 
「な、なんだろう?」
と言いつつ、結構焦っている。
 
「千里、携帯どこに入れてんの?」
「ああ。ブラジャーの中。緊急の連絡が入った時にすぐ取り出せるんだよ。汗掻くけど、携帯は防水だし」
 
「ブラジャーの中!?」
「それはガラケーだからできるワザだな」
「同感。iPhoneではとても入らん」
 
「女子限定の入れ場所だよ」
「その言い方は誤解を招く」
「男子でもブラジャーすればできるよ」
「男子はたくさん入りそうだ」
 

「それより、もっと重要な質問なのだが」
「な、なにかな?」
と千里は冷や汗を掻きながら尋ねる。
 
「今の電話の相手、細川君だよね」
「え、えーっと・・・」
「さっき、恋よりバスケに生きる女だとか言ってなかった?」
「そうだよ。私は恋はすっぱり諦めて」
 
「嘘つけ!」
と言われて、千里はたじたじとなる。
 
「要するに彼氏が他の女と結婚しても、付き合い続けているのか?」
「ちょっと、こんな誰が聞いているか分からない所ではやめて」
 
「大丈夫。私は口が硬い。親友以外には話さない」
と橘花。
「私は人の秘密を無闇にもらしたりしないよ。仲間内だけに留めておく」
と夕子。
「私は放送局の異名がある」
と星乃。
 
「ちょっと待て」
 

ともかくも、そういう訳で 40 minutes のユニフォームは、ホーム用上下・ビジター用上下・練習用上下、それにパーカーのセットで、貴司からもらった結納金を利用して、いきなり50組も作ってしまったのである。
 
背番号に関しては、初期に注文した分(この直後に加わった暢子を含む)はユニフォーム屋さんに入れてもらったが、その後加入した人の分は、そういうのが好きな橘花がレタリングしてくれた。40 minutesのロゴデザインは星乃である。
 
「取り敢えず作って余った分は常総ラボにストックしておこう」
と千里は言った。
 
「何それ?」
「ああ。私の私設体育館 Private gymnasium」
「そんなものがあるの〜〜〜!?」
 
それで千里のインプと麻依子のレガシーに分乗して、実際に行ってみる。
 
「狭いけど新しいし、きれい」
と星乃。
 
「まああまり使ってないからね。ここはいつでも自由に使っていいよ」
と千里は言ったのだが
 
「さすがに遠すぎる」
という意見が多かった。
 
「でもいつでも使えるというのはいいね」
「24時間使えるよ。使い終わったら電気消してね」
「つけっぱなしにしたら電気代が恐ろしい」
 
「じゃこのメンツには鍵のカードを配るよ」
「ああ。カードをスキャンしてたね」
 
それでカードを全員に配るが、桂華はここまで来る足が無いと言って返却した。
 
「もし来る場合は誰かに連れてきてもらうことになりそうだし」
「まあそれでいいね」
 
「ちなみにこのカードには各々個別idが入っているから、誰が入退室したか自動的に記録される仕様。もし電気点けっぱなしになっていたら電気代を請求するということで」
 
「怖っ!!」
 
「まあセンサーが付いてるから誰も居ない状態で10分したら消えるんだけどね」
「よかったぁ!」
 

龍虎はその日、彩佳・桐絵から
「制服の採寸に行こうよ」
と誘われて、近くのショッピングセンターまで出かけた。
 
「中学から送られてきた書類では、制服は3月までに用意すればいいけど、2月・3月は洋服屋さんが高校の制服の制作で忙しくなるから、公立中学に進学する生徒はできたら1月までに冬服だけでも作っておいて下さいと書かれていた」
と龍虎は言う。
 
「制服は高いから、家庭の経済事情次第では、とりあえず冬服だけ作っておいて夏服は4月になってからということにする所もあるだろうね」
と彩佳。
 
「宏恵はそれで行くと言ってた。冬服作るのも年明けてからにしてと言われたって」
「あそこはお姉さんが高校進学、お兄さんが大学進学なのよ」
「辛い。辛すぎる」
「3年間隔で子供ができると、同時に進学するから財布が悲鳴をあげる」
「悲鳴くらいならいいけど財布が死亡したりして」
「ああ、こわい」
 
「ボク西山君に聞いてみたんだけどさ、ふつう男子は学ランだから既製服で行けることが多いけど、ボクは身長もだけど体型が特殊だからたぶん既製服では無理って言われた」
と龍虎は言う。
 
「それは言えてる。龍は今ウェストが52だけど」
と彩佳が言うと
「細すぎ!」
と桐絵が言う。
 
「男子のズボンは普通ヒップをウェスト+20cmで作るんだよ。ところが龍のヒップは78cmあるんだな」
 
「入らないじゃん」
 
「だから、龍がもし学生服を着るとしても、オーダーしないと無理」
と彩佳は言う。
 
「なるほどー」
「まあそもそもウェスト52なんて学生服の既製品が存在しない」
「ああ。そうだろうね」
「男子制服の既製品はふつう小さいのでも64cmくらいから」
「ずり落ちちゃうね」
「西山君とか、かなり細いけどW70あるって言ってたよ」
「西山君、細いのに!」
 
「まあそういう訳で龍は間違い無くオーダーコース」
「そういうことになるか」
 

採寸はできたら1月6日までにと言われている。まだ時間的な余裕があるので、この日実際に採寸場に来ていたのは、龍虎たちの小学校の6年生では、この3人だけだった。ただ、市内の全中学の制服採寸をしているので、他の学校の女子も数名いた。
 
龍虎は「わぁ、みんな女の子ばかりだ」と思ったが、服の採寸は別に裸になったりする必要もないので、女子だらけの採寸会場に入っても特に緊張したりはしなかった。
 
「君たちはどこの中学?」
と係の女の人から訊かれる。
 
「QR中でーす」
「OKOK。じゃ測ろうね」
と言って、最初に彩佳のサイズを測る。
 
「君はこれもう注文していい?」
「お願いしまーす」
「冬服だけ?夏服も?」
「夏服もお願いします」
 
続いて桐絵が採寸してもらい、やはり夏服・冬服ともに注文する。
 
最後に龍虎が採寸される。
 
「身長147 バスト75 ウェスト51 ヒップ76 肩幅37 袖丈52 スカート丈53」
 
係の人が龍虎のウェストラインから膝頭より少し下までの長さを測った時、彩佳と桐絵は素早く視線を交わしたが、ふたりは放置した!
 
龍虎はぼんやりと係の人の言葉を聞いていたので「スカート丈」と言われたことに全く気付いていない。
 
「普通、制服は身長10cmくらいの余裕をもって作るんですけど、あなたの場合、かなり身長が小さいので10cm余裕をもつと、大きすぎる気がする。5cmくらいの余裕で作りましょうか」
 
「あ、はい、お願いします」
「ただ今後身長が伸びたら、中3くらいで作り直しになる可能性もあるけど」
と係の人が言ったが
 
「たぶん155cmくらいまで身長が伸びたら、誰か卒業生の制服をもらえると思う」
と彩佳は言った。
 

「ああ、それがいいかもね。147cmに5cmの余裕を見て152cmくらいで作る場合は、こういうサイズの人が少ないから、譲ってもらうのも難しいでしょうけどね」
 
「この子、小さい頃に病気したからだと思うんですけど、学年でいちばん背が低いんですよね」
「あらあ、病気したんだ?」
「でもこの1年でかなり身長伸びたよね」
「うん。去年だと小学3年生並みと言われてたもん」
 
「だったら・・・7cmくらいの余裕を見ておく?」
「それでもいいかもね」
 
「これすぐ注文してもいいかな?」
と係の人が訊いたのに対して龍虎は
「はい」
と答えたのだが、彩佳がストップを掛けた。
 
「すみません。この子の注文はいったん保留しておいてもらえますか?」
「いいですけど、遅くなると注文量が増えてきて、極端に仕上がりが遅くなる場合もありますよ」
「はい。数日中にはどうするか決めますので」
「分かりました。連休前の12月20日までに注文を頂けましたら、1月中には仕上がると思いますので」
「はい、よろしくお願いします」
 

お店を出てから龍虎が彩佳に訊いた。
 
「なんでオーダーを保留したの?」
「龍、サイズの控えを見せてごらんよ」
「え?これ?」
 
「ここにスカート丈と書かれているんだけど」
と彩佳が指摘すると
「男子制服のスカート丈って、どこの長さだっけ?」
などと龍虎は訊く。
 
「男の制服にスカートがある訳無い」
と桐絵。
「へ?」
「つまり龍は女の子と思われたんだな」
 
「うそー!?」
と龍虎が驚いているのを、本当に驚いているのか、驚いたふりをしているのか、彩佳も桐絵も判断に迷った。
 
「龍、だから女子制服を着たいのなら、そのままオーダーを入れればいい。男子制服を作ってもらいたいのなら、そう連絡しないといけない。私付いていって説明してあげるよ。さっきは、あの場で話してもすぐには龍、決められないかもと思って、取り敢えず保留してもらった」
と彩佳は説明した。
 
すると龍虎は困ったような顔をして
「ボクどうしよう?」
と言った。
 
「迷うのかい?」
と桐絵が呆れるように声をあげた。
 

龍虎たち3人がお店を出たのと入れ替わりくらいに、淑子と成美がこのお店に採寸に来ていた。
 
「どちらの中学ですか?」
「XT中学です」
と言って淑子は成美の就学通知を見せる。
 
「では採寸しますね」
 
「身長169 バスト85 ウェスト61 ヒップ84 肩幅44 袖丈59 スカート丈65」
と係の人はメジャーを当てながら言った。
 
「この子、結構身長高いですけど、大丈夫ですか?」
と母が尋ねる。
「大丈夫ですよ。もっと身長の高いお嬢様もおられますから。最近の身長の伸びはどんな感じですか?」
「今年くらいに入ってからは身長の伸びは緩くなった気がします」
「生理は来てます?」
「来てますよ」
「だったら、だいたいこのあたりでストップかも知れませんね。中学の制服はプラス10cmくらいで作られる方が多いのですが、お嬢さんの場合は多分2-3cmの余裕で作っていいかも知れませんね」
「では余裕3cmで」
「分かりました。これはこのまま注文を入れていいですか?」
「はい、お願いします」
 

結局龍虎が
「セーラー服を着るのは恥ずかしいから学ランにする」
と言ったので、彩佳と桐絵は龍虎に付き添ってお店に戻った。
 
もっとも「セーラー服を着るのは恥ずかしい」というのは絶対嘘だと彩佳も桐絵も言った。
 
「こんにちは」
「いらっしゃいませ。あら、さっき採寸した子たちね。何かあった?」
 
「こちらの田代の採寸なんですけど」
「はい」
「よく見たらスカート丈と書いてあって、もしかして女の子かと思われちゃったのではないかと思いまして」
「え?女の子じゃないの?」
「この子男の子なんですけど」
「嘘!?」
 
「この子、身体が小さいから、既製服の学生服が着られないんで、オーダーで作って欲しいんですよね」
「あら、そうだったの?ごめんなさいね」
 
「本人はセーラー服が着たいらしいですけど、男子のセーラー服はたぶん校則違反になるのではないかと」
「もしかして、女の子になりたい男の子?」
「本人は別に女の子にはなりたくないと言ってますが、結構な疑惑はあります」
 
「分かりました。ではさっき採寸した寸法で、学生服の上下を作ればいいですね?」
「はい、お願いします」
 
そういう訳でここまでの説明は全部彩佳がしてあげた。
 

係の人は端末に向かって注文の修正をしてくれたが、言った。
 
「でもあなた完璧に女の子体型よね?」
「そうなんですよね。この子、おっぱいもあるし」
「ブラジャーしてたよね!」
「ブラジャーしてないと歩いていて痛いらしいです」
 
「・・・あの、もし気が変わってセーラー服の方がいいと思ったら電話入れてくださいね。すぐ注文を切り替えますから」
 
「あ、はい」
と龍虎は返事をした。
 
結局ふつうの形でオーダーを入れると、龍虎の特殊な体型では、着られない服になってしまうかも知れないというので、龍虎は再度詳細な採寸をされた。
 

「これはもしかしたら、女子のコスプレ用の学生服に近いかも知れない」
と係の人。
「あ、たぶんそれで行けます。この子、ちんちんも無いからズボンの前開きは不要だし」
と彩佳。
 
「へー!もしかして取っちゃったの?」
「この子のヌードは女の子のヌードにしか見えません。だから温泉とかでも女湯に入るんですよ」
 
「・・・あなた、本当に学生服でいいんだっけ?セーラー服着ない?」
と係の人は再度念を押した。
 
「悩むけど、学生服でいいです」
と龍虎は答えた。
 
「でも前開きを使わないのなら、これは多分女子用の制服ズボンが使える」
と言って、係の人は試着用の服を出して来て穿かせてみた。実際女子用W55cmのズボンで全く問題無かった。
 
それでズボンは女子用の既製服を使用することにし、学生服上衣だけ制作することにした。これで費用を抑えられるのである。なお、上衣はバストにゆとりのある体型で制作する。
 
それで龍虎もオーダーを入れたので制服注文票の控えをもらったが、注文票は、女子冬服・女子夏服という所にいったん丸が付いていたのが二重横線で消され、男子冬服というところに丸が付けられた。
 
「男子の夏服って無いんだっけ?」
「男子はワイシャツだけだから。ズボンは冬服のがそのまま使える」
「女子はお金掛かるね!」
「全くだよね〜」
 

2013年12月21-23日の3日間、国士館でXANFUS, KARION, ローズ+リリーのライブが行われた。青葉は★★レコードとのコネでKARIONとローズ+リリーのペアチケットをもらったので、それを見るために出てきた。
 
12/21 高岡6:32-8:41越後湯沢8:49-9:55東京
 
また千里が22日のKARIONのチケットを2枚ゲットしたということで、22日は一緒に見ることにした(実際には千里はKARIONに多数の楽曲を提供しているので、その関係でもらった)。
 
朋子はローズ+リリーの方は彪志さんと一緒に見たらいいと言ったので、氷川さんに連絡したら、名義を書き換えてもらえることになった。それで青葉は東京に着くとそのまま青山の★★レコードに行き、ビル1階のレストランで氷川さんと待ち合わせした。
 
ところが氷川さんを待っている間に、相席になった女性2人組がフライング・ソーバーと同じ横浜レコードからCDを出しているということが分かり盛り上がる。彼女たちのユニット《ゴールデンシックス》のCDを1枚頂いてしまったのだが、それをちょうどやってきた氷川さんと一緒に聴いたら、物凄く出来がよかった。氷川さんは彼女たちに興味を持ち
 
「ちょっとお仕事しません?」
と誘い、これがきっかけでゴールデンシックスは★★レコードからデビューすることになるのだが、それはもう少し先のお話である。
 

千里は20日14:00-21:00(=日本時間20日22:00-21日5:00)にスペインでチーム練習に出て、日本時間の21日11時すぎまで寝る。起きた後、ミラで千葉駅に朋子を迎えに行き、桃香のアパートに連れて行った。夕食を作り、東京から戻ってきた青葉と一緒に夕食を取る。
 
その後バイトがあると称してアパートを出て、スペインに移動。スペイン時間18:00-20:00(JST 12/22 2:00-4:00)にカナリア諸島ラ・パルマで今年最後の試合に出場した。試合後《すーちゃん》を身代わりに置いて日本に戻り、葛西のマンションで10時頃まで眠る。葛西の駐車場からインプレッサを出して千葉市内で桃香・朋子、青葉・彪志を拾って、建設中の神社を見に行った。朋子が
 
「あら。昨日の車と違う」
と言ったが
「借り物ですよ〜」
と言っておいた。実際ミラでは5人乗らない!
 

神社を見た後は、彪志をバイト先まで送って行き、そのあと千葉駅に行って駅近くの駐車場にインプレッサを駐め、4人で総武線に乗り両国駅まで行き、国士館でKARIONのライブを見る。ライブは21時過ぎに終了し、22時過ぎには千葉駅に戻る。千里は「今日もバイトがあるから」と言って、インプレッサで青葉を彪志のアパート、桃香と朋子を桃香のアパートに置いてから、関空に転送してもらった。
 
実は貴司が3日前から韓国に出張に行っていて、今夜帰国したのである。うまい具合に貴司の帰国便(仁川21:00-22:45関空)と時間が合った。
 
それで貴司を迎えて、一緒に電車で移動して、予め《いんちゃん》にチェックインしておいてもらった、Nホテルに入る。1時間ほど部屋の中でイチャイチャしてから、大阪市内で深夜まで営業している居酒屋に入って“非結婚1周年”のお祝い(?)をした。そのあとまたホテルに戻り、紙婚式ということで、紙製品を贈りあった。
 
貴司から千里へは韓国で買ってきたマッコリのフェイスシート、千里から貴司へはスペインの雑貨屋さんで買ったバスケット模様のメモ帳であった。
 
「まあ日常的に使ってしまえるものがいいよね」
 

「ところでセックスできないよね?」
と貴司が言うので千里は吹き出した。
 
「結婚している男性とセックスとかできません」
と千里は言う。
 
「そこを1周年記念で」
「これに今すぐサインしたら考えてもいい」
と言って見せるのは離婚届の用紙である。
 
「うっ・・・」
と貴司は声をあげる。
 
「これはちょっと保留させてね」
と言って、貴司はその離婚届用紙を自分のカバンにしまった。
 

ふーん。捨てるとか私に返すとかじゃなくて、しまうのかと千里は思った。それで千里は“妥協”することにした。
 
「私が男役ならしてもいいけど」
「え!?」
「貴司、実はそちらが好きなんじゃないの?」
「そちらの趣味は無いよぉ」
「そう。残念ね」
と千里が言うと
 
「待った!今夜はそれでもいい」
「ふーん」
 

それで貴司が持っていた避妊具を出してもらうとそこに指を入れる。
 
「3本くらいがいい?4本?」
「そんなに入らない気がする。取り敢えず1本で」
「遠慮しなくてもいいのに」
 
それで指1本で入れてあげると、何だか物凄く悦んでいるようである。
 
「全然痛くない。千里、入れ方うまい」
「貴司こそ、こんなにスムーズに入るってふだんから開発してるんでしょ?」
 
それで10分ほどしてあげていたら
「逝った気がする」
と貴司が言う。
 
「え?出てないのに」
「たぶんこれドライというやつ」
「ドライ?」
「射精せずに逝くことをドライというんだよ。射精するのはウェット」
「へー!!」
「前立腺を刺激されて逝く場合、ドライで逝くこともあるんだよ」
「それは知らなかった」
 
「女性の場合はほとんどドライ逝き」
「ああ。女は射精しないもんね」
 
と言いながら、桃香はあれ絶対射精してる、などと思う。
 
「女性のウェット逝きがいわゆる潮吹きだよ」
「なるほどー!」
 
「潮吹きって精子が入っているんだっけ?」
「まさか。女に精子は無いよ」
「なるほどー」
 
しかし桃香のは絶対精子が入っているよなと思う。
 

1本で気持ち良くいけたので、気を良くして2本入れるとさすがに痛いと貴司は言っていた。それで3本入れてあげると「痛い、痛い、やめてー」と本格的に痛がっていたようである。
 
痔になったらたいへんなので、終わった後オキシドールで拭いた上で、ナプキンを1枚恵んであげた。
 
「何ならタンポン入れておく?」
「それは抜けなくなって更に痛い思いをする気がする」
「なるほどー。入れてみたことがあるのか」
「無いよぉ!」
「いや。抜けなくなるというのを知っているということは絶対経験がある」
 

結局3時頃、いつものように下着になり5cm間を空けて並んで寝た。先に寝たふりをしていたら、千里の手を勝手に使って自分でしていた。あれだけしてあげたのに、やはり射精したいのかね〜?と少し呆れたものの、男の子ってそういうものなのかもね〜、と微笑ましく思った。それで千里も気持ち良く眠ることができた。
 
 
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【娘たちの衣裳準備】(1)