【娘たちの開店準備】(上)

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2010年4月、中学に進学した川上青葉は私服で入学式に出て行ったので先生から咎められるも「親から制服を買ってもらえなかったので」と言い、同級生たちも「この子、制服どころか御飯ももらってないんですよ」と青葉の家庭状況を説明した。それで先生が卒業生数人に連絡した結果、制服を譲ってもいいという女子が居たのでそれをもらって着て青葉は「女子中学生」として通学し始めた。 
ところが青葉の性別は4月の連休前に、担任の先生が小学校の時の担任に連絡を取ったことからバレてしまった。
 
それで青葉は「男子なら男子制服を」と言われて、やはり先生が卒業生に連絡して譲ってもらった学生服を渡されてそれで通学し、トイレや更衣室も男子トイレや男子更衣室をと言われてしまう。
 
これに青葉の同級生の女子たちが抗議し「川上さんはほとんど女子生徒です」と主張。あらためて小学校の時の扱われ方などについて小学校の時の先生と話したり、青葉の姉の未雨を学校に呼んで事情を聞いたりした結果、このような妥協的な扱いが決まった。
 
・授業中は「男子生徒」である以上「男子制服」を着ること。

・登下校や部活中は「制服」であればよい。

・トイレは男子制服の時は男子トイレで、女子制服の時は共用の多目的トイレで。

・体育の着替えは専用の更衣室を用意する。

 
それで青葉は女子制服で登校してきて、授業中だけ男子制服を着ていて、昼休みや放課後は女子制服を着て、女子制服で下校していくという、ややこしい生活を送るようになった。体育の着替えは専用更衣室でと言われていたものの、実際には女子の友人たちが「拉致して」女子更衣室に連れて行って着換えさせていた。 
実際問題として青葉の下着姿は女の子の下着姿にしか見えなかった。パンティにも変な盛り上がりは無かったし、胸も微かに膨らんでいた。
 
「その青葉の下着姿見ていたら、青葉を裸にしてみたくなった」
 
などと、当初は“男の子”の青葉が女子更衣室を使うことに抵抗感を持っていたものの次第に青葉自身への興味を深めて行きつつあった椿妃が言う。
 
「別に裸になってもいいけど」
と青葉はいつもの能面のような表情で言う。
 
「だったら、みんなで裸にならない?」
と小学校の時の同級生で、かなり青葉の実態を把握している元香が言った。 
「みんなで!?今裸になるの?」
「裸になるのはお風呂だよ。みんなで温泉に行かない?うちの親戚がやっている温泉、ゴールデンウィークが終わった後なら、安く入れるよ」
 
「はぁ!?」
「それ、私たちが男湯に入るの?それとも青葉を女湯に入れるの?」
「男湯に入ってみたい気もするが騒ぎになるだろうから、青葉を女湯に連れ込むんだな」
「それも騒ぎになると思うが」
 
「いや、多分何の騒ぎにもならない」
と元香は言った。
 

2010年春、千里は4月1日から11日までA代表の合宿に参加した後、12日の午前中に健康診断を受け、12日午後から大学の講義に出席した。今期は代表活動と重なった日程の講義は全て出席したことにしてもらえることになっているので、11日までの講義は全て出席扱いである。
 
ところで千里たちの大学では2年生まで体育の授業がある。1年生の前期ではソフトボール、後期ではサッカーを選択したのだが、2年生の前期では希望としてはエアロビクスで出していた。しかし、12日の午後に大学に出て行ったら、学生課の人から呼び出され「今期、エアロビクスの希望者が少なかったので、エアロビクスは行われないことになりました。バスケットに入ってもらえませんか?」と言われた。
 
「私、バスケットは日本代表候補にも入っていて、自分の専門なので、できたら授業では避けたいのですが」
と言ったのだが、
「ぜひその代表技を披露してください」
などと言われた。
 
それで仕方ないので、14日(水)に、千里は愛用のバッシュを持って大学に出て行った。バスケットの授業の参加者は40人ほどであったが、その中にC大のバスケ部に入っている人が男子で4人、女子で3人居た。
 
その中で女子で千里と同じ2年生の今畑さんという人が授業の冒頭、
 
「日本代表の村山さんの技を見せてもらえませんか?」
と言い出した。
 
先生も「ああ、それもいいかもね」と言ったので、結局千里を入れると女子が4人になって男子バスケ部部員と同じ人数になるから、各々に少し人数を足して試合をやってみようということになった。
 
「ちなみに村山さんは女子ですよね?」
とわざわざ友紀が訊いた。
 
「え?女子でしょ?」
と先生。
 
「山崎、何言ってんの?村山が女子に見えなかったら目がおかしい」
と紙屋君が言った。
 

中学や高校のバスケ部に入っていた人が男子で3人、女子でも2人居たので、自ら志願した元バレー部の友紀も入れて、男子7人 vs 女子7人(千里を含む)で10分ハーフ20分の試合をしてみようということになる。他の人は見学である。 
女子用の6号ボールを使うことにする。ティップオフは男子は2年生の186cmという立川君、女子は172cmのやはり2年生・室田さんが出て行った。立川君が勝って男子が攻めて来る。ボールを持った横峰君は敢えて千里の前に攻め込んできた。
 
千里は割とリラックスした雰囲気で対峙したのだが、横峰君は「うっ」と小さな声を挙げた。後で彼は「どちらから行っても停められる気がした」と言った。 
ドリブルしながら3秒近く迷うような顔をしてから、思い切って千里の左側に攻めてきた。
 
一瞬で千里がボールを奪い、今畑さんにパスする。今畑さんがドリブルで攻めていく。男子の八坂君が回り込んで停める。そして今畑さんからボールを奪ったのだが、ドリブルを始めようとした瞬間、千里が彼からボールを奪う。 
そして次の瞬間シュートする。
 
入って2点。0-2.
 

こんな感じで試合をしたものの、5分経った所で、点数は4-24である。女子の24点の内、16点が千里の得点で千里はこの間にスリーも2本放り込んでいる。 
先生が長い笛を吹いた。
 
「この試合はこれで打ち切り」
と宣言する。
 
「コールドゲームだな」
などと先生は言っている。
 
「やり方を変えよう。バスケ部の男子4人・女子3人で1チーム。対するは村山と他の5人」
 
「あ、私たちも村山さんと対戦したいと思い始めてました」
と今畑さんが言った。
 

それで長身でジャンプ力もある友紀と、女子バスケ部の室田さんとでティップオフした。
 
これに友紀が勝ったものの、友紀のタップしたボールをキャッチしてドリブルで攻めあがった東石さんが、バスケ部の今畑さんにボールを奪われる。
 
それでターンオーバーとなって、今畑さんが攻めあがって来る。例によってわざわざ千里の所に来るが、千里は一瞬にしてボールを奪って、前方に居てこちらを見ていた小松君にボールを送る。小松君が速いドリブルで攻め込んで行く。バスケ部の男子ポイントガード西林君が追いついたが、小松君は西林君を巧みなフットワークで抜くと華麗なランニングシュートを決めた。
 
その後、向こうから攻めて来るバスケ部員たちはやはり千里との対決を望み、千里の前に攻め込んでくるのだが、誰も千里を抜くことができない。逆に千里が攻めて行った場合は誰も停めることができない。
 
更に千里はこの試合でも前半で3本、後半で4本のスリーを放り込んだ。むろん1本も外さない。
 
それで20分の試合で22-68というトリプル・スコアで千里たちのチームが勝った。バスケ部ではなくても、小松君と東石さんの2人がかなり上手かったので、千里を含めてこの3人が核になって、他の子もうまく活用してバスケ部チームを圧倒した。小松君も16点、東石さんも12点取っている。ちなみに友紀も6点取った。
 
「いや、村山さんがうちのバスケ部に入らなかった訳が充分分かった。私は天体望遠鏡ででも村山さんのしっぽが見えない」
などと今畑さんは厳しい顔で言っていた。
 
「まあ、俺らでは全く練習相手にもならないだろうな」
と千里とたくさん対峙して1度も勝てなかった横峰君も激しく息をしながら言っていた。
 
「まあ、それが日本代表でしょ」
と先生は言っていた。
 

「では残りの時間は2つのコートで10人対10人の試合をしますが、村山君、Bコートの審判やってくれない?」
と先生が言う。
 
「いいですよー」
 
ということで結局、今期のバスケットの授業では、千里は次回以降もずっと審判を務め、プレイヤーとしてはコートインしなかった。千里が代表活動で休んだ日は横峰君が審判を務めたようである。
 

「ところで、東石さん、結構うまいよね。うちのチームに入らない?」
などと千里は勧誘している。
 
「日本代表のいるようなチームに入れないですよぉ」
と彼女は言うが
 
「うちはバスケのルールもまだ分かってないような子もいるから」
「ほんとに?」
 
「初心者から元プロまで揃っていて、好きな時に好きな時間だけ練習すればいいというのが、うちのチームなんだよ。毎日10時間練習したい人はする、月に1度1時間汗を流したいなら、それでもいい。プロチームじゃないからお給料とかは出ないけど、スポンサーがいるからユニフォームは無償支給。スポーツ保険とかバスケ協会の登録費用もチーム持ち。遠征の交通費宿泊費も全部出る。会費は月1000円だけど、実質月に1度程度の食事会の費用」
 
「それもちょっと面白いかも」
と彼女は少し興味を持ったようである。
 
「なんかその条件なら、私もそちらに行きたいくらいだ」
などと今畑さんが言っている。
「その代わり大学生チームじゃないから、インカレとかには出られないけどね」
と千里は言っておく。
 
「東石さん、下の名前は何だったっけ?」
「聡美です」
「じゃ、聡美ちゃん、今度1度練習見に来ない?」
「見にいくだけ行ってみようかなあ」
 
と言って、結局彼女はローキューツに参加することになる。彼女はその後4年に進級する時に退団したものの、後に40 minutesに参加し、40 miunutesのマネージャー的な存在になっていくことになる。
 
「でも東石さんだけ勧誘するのね。小松君は勧誘しないんだ?」
と友紀が言ったが
 
「うちは女子チームだから」
と千里は言う。
 
「なるほどー。千里は女子チームに入っている訳か」
「私が男子チームに入る訳無い」
「そうだろうなあ」
 
などと言いながら、友紀は千里もけっこう開き直っているなと思う。
 
「小松君も性転換してくれるなら、参加して欲しいけど」
「いや、遠慮しておく」
 
などと言っていたら、横峰君が
 
「小松君、むしろうちのバスケ部に入らない?」
と勧誘していた。
 
「そうだなあ。性転換しなくてもいいのなら、そちらは考えてみようかな」
と小松君は答えていた。
 

2010年4月17-18日(土日)、岡山県全県で、中国高校バスケットボール選手権の地区予選が行われたが、新人戦でBEST8に入っている、倉敷K高校、岡山H女子高、岡山E女子高は、いづれも予選免除で県大会進出となった。
 
岡山県では倉敷K高校と岡山H女子高の2強時代がここ数年続いていたのだが、昨年の「お家騒動」の結果、K高校の生徒の一部がH女子高に転校して現在、H女子高の方が強くなっている。またK高校に居た高梁王子はE女子高に転校したものの、現在まだアメリカ留学中である。しかし高梁がE女子高に入ったという情報から、昨年も今年もE女子高に強い子が何人も入っており、E女子高もかなりの強豪となっている。
 
翌週24-25日に県大会が行われ、岡山H女子高が優勝、倉敷K高校が準優勝、岡山E女子高が3位で、この3校が中国高校バスケットボール選手権の本大会に出場した。5月8-9日に同大会は開催され、H女子高が準優勝、K高校はBEST4, E女子高はBEST8であった。
 
この大会で県BEST8になった学校はインターハイの地区予選(5月1-2日)を免除になる。県大会はその8校と地区大会を勝ち上がった16校との合計24校で、6月11-12日、19-20日に行われる予定である。
 
そして高梁王子は6月4日(金)に向こうの学校での終業式を終えて翌日6月5日の午後の便で帰国する予定である。到着は日本時間で6月6日(日)の夕方になる。 

男は精根尽きて、もうこのまま行き倒れしてもいいかもという気がし始めていた。 
もう一週間ほど何も食べていない。雪解けの水を飲んで、喉の渇きだけは何とかしているものの、しばしば視界がグレイアウトしている。その度に座り込んで体力を回復させていた。
 
北海道の4月はまだほとんど「真冬」である。
 
今日はもう既に4回くらいグレイアウトが発生していた。
 
「あんた、そこに座ってられたら迷惑なんだけど」
と声を掛けられた。見るとお肉屋さんの店先だ。
 
「済みません」
と言って立ち上がり、ふらふらとしながら立ち去る。
 
しかしそこから50mも行かない内に、男はまた倒れてしまった。
 
起き上がる力が出ない。ああ、ここでもう終わりかなあ、と男は思った。親戚と元恋人の所に置いてきた2人の子供の顔が浮かぶ。やむを得ずヤクザの所に置き去りにしてしまった末の息子の顔が目に浮かぶとともに心が痛む。あのヤクザ、子供は助けてやると言ってたけど、無事かなあと心が痛む。そして元恋人の顔が浮かぶ。
 
「みち、ごめん」とつぶやいた。
 
そのまま意識が遠くなりかけた所で、すぐそばで引き戸の開く音がする。 
「あれ?ここに人が倒れているよ」
という声がする。
 
同時に何かどぶのような臭いがしてきた。何だこの臭いは!?
 
「どれどれ」
と言って、別の人が出てくる。
 
「食べ物屋の前で倒れられているのは迷惑だなあ」
などという声もする。
 
ああ、ここは食べ物屋さんだったのか。しかし、なんつー臭いだ。
 
「あんた生きてる?」
という声がする。かなりの老人のようである。
「はい」
と男は答えたものの、あまり声らしき声になっていなかった。
 
「体調が悪いの?」
と老人が尋ねる。
 
「いえ。もう一週間ほど何も食べてなくて」
と男は何とか腕と膝を立てて OTL のような形を取りながら答えた。
 
「ほんとに疲れ切ってるようだね。うちのラーメンでも良ければ食べる?おごってやるよ」
と言われた。
 
ラーメン!何て素敵な言葉だろう!!
 
すると客らしき人が1人言った。
「もっともここのラーメン食ったら、あまりの不味さにショック死するかもね」
 
へ?と思ったものの、ラーメンがもらえるという話に男は最後の力を振り絞って立ち上がり、ふらふらとした足取りで店内に入った。
 
「適当な所に座って」
と老主人に言われるので、いちばん近い所にあるテーブルの所の椅子に座る。 
それでラーメンを出してもらった。
 
嬉しい。食べ物が食べられるなんて。客が不味いとか言ってたけど、どんなに不味いものであっても食べ物であるなら、ありがたい。きっと、この状況なら、どんな食べ物でも美味しく感じるだろう。
 
男は神に感謝する気持ちになっていた。
 
そして割り箸を取って、1口食べた。
 
その瞬間言った。
 
「不味い!!!」
 

2010年4月28日(水)。ローズ+リリー、およびケイ・マリの権利関係を管理するための会社《サマーガールズ出版》が設立された。当初の資本金は1億円で、株主構成は、唐本冬彦4900万円、中田政子1500万円、マリ&ケイ・フレンズ1800万円、RPL匿名組合1800万円であった。
 
マリ+ケイが64%で66%以下であること、ケイ個人は49%で50%以下であること、フレンズと匿名組合はいづれも18%で20%未満であることが“ミソ”である。 
出資比率が20%以上になると出資者はその会社を連結会社として経理処理する必要がある。50%を越える出資者は株主総会で決定権を持つ。3分の2(66.67%)以上の出資者は株主総会で重要事項を単独で議決できる。逆に3分の1(33.33%)を越える出資者は重要事項の決定に関する拒否権を持つ。
 
マリとケイの出資比率はその後の増資の際に調整され、最終的には2人は同額を出資(32%ずつ)する形になるが、この時点では1500万円がマリの出せる限界だった。実際にはマリはケイから700万円借りて出資している。
 
「マリ&ケイ・フレンズ」とは、マリとケイの友人や親戚たちが出資したもので、参加している人数は100人を越える。1〜2万円の出資者が多いが、この会社の利益が凄まじいので、毎年参加者に結構な「お小遣い」を提供している。ただ、金額的には山吹若葉が大半を出しており、結果的に若葉は設立時にはケイに次ぐ第2株主だったし、現在でもケイ・マリに次ぐ第3株主である。 
このフレンズは経営方針を下記の匿名組合に左右されないための絶対的味方として策定した。つまり若葉はケイにとってホワイトナイトなのである。当時そんな話をしていたら
 
「うん。冬がお姫様で私が白馬の王子様でいいよ〜」
と若葉は言っていた。
「あんたたちの性別がよく分からん」
と前村貞子などは言っていたが。
 
「冬、私の赤ちゃん産んでね」
「さすがに産む自信は無い」
「若葉は精子あるのか?」
「努力してみる」
 

RPL匿名組合は誰が参加しているか自体を公開しておらずケイも知らないのだが、実際は、下記の6つの共同体が300万円ずつ出資している。
 
§§オータム、ζζパイン、○○△△、$$ストレジ、アクアDP、★★レコード。 
6者にしたのは1者あたりの出資比率を20%未満にするためである。
 
§§オータムは紅川社長の§§プロが280万、秋風メロディー・コスモス姉妹が10万ずつ出資したもの、ζζパインは兼岩会長のζζプロが250万、松原珠妃個人が50万出資したもの、○○△△は、丸花社長の○○プロが200万、津田邦弘社長の△△社と姉の津田アキさんの津田民謡教室が50万ずつ出資したもの。$$ストレジはドリームボーイズやAYAの事務所$$アーツと蔵田孝治の個人会社ストレジが150万ずつ出資したものである。
 
この会社に秋風姉妹が出資したのは、紅川さんが「こういう会社作るけど、誰か出資したい人いる?」と何気なく事務所内で訊いた時、たまたまその場にいたコスモスが「ケイ先生にはたくさんお世話になっているし」と言って出資を表明。最終的に「この会社有望そう」と言った姉と10万ずつ出しあったものである。それでふたりはこの会社の0.1%ずつの株主となった。
 
アクアDPは雨宮三森の個人事務所アクアシュライン(Aqua Shrine)200万、三宅行来の個人事務所ドラゴンフォックス(Dragon Fox)60万、村山千里の個人会社フェニックストライン(Phoenix Trine)40万と出資したものである。 
この会社設立の話が出た時、雨宮は千里に
 
「私は2本出すつもり」
と言って千里にも出資に乗らないかと誘った。
 
千里はアイドル歌手の運営会社なら、きっと資本金も100万円程度だろうから、先生は20万円出すつもりなのだろうと考え、4-5万円くらいなら出してもいいかと思って
 
「じゃ、取り敢えず先生がお出しになる額の2割程度で」
と言った。
 
しかし実際には雨宮先生の出資額は200万円だったので千里は40万円出すことになってしまった。それで千里はマリ&ケイの運営会社の0.4%の株主となった。最終的には匿名組合の1名義あたりの出資額が300万円に調整されたので、差額60万円を雨宮先生の“内縁の夫”である三宅先生が出した。それで三宅先生も0.6%の株主になった。後の増資で3人の出資比率は雨宮4:三宅3:千里3の比率になっている(つまり千里は0.9%の株主になっている)。
 
雨宮先生は、新島さんと毛利さんにも出資を誘ったが、新島さんは「そんな危険な投資はできない」と言い、毛利さんは「俺金無いです」と言った。
 
なおサマーガールズ出版の経理事務はζζプロが代行、営業業務は○○プロが中心になっておこなっている。経理事務をζζプロが担当した主たる理由はこの会社の初期の収入の大半が、実は松原珠妃の制作に関するものだったからである。 
最初の2年間、この会社の収入は、1位松原珠妃、2位スリファーズ、3位篠田その歌で、実はローズ+リリー関連の収入は微々たるものであった。この会社を作った時雨宮は「桃栗3年柿8年」と言ったが、ローズ+リリーが莫大な利益を上げ始めるのは3年目の2012年度からである。
 

一方、2010年6月10日まで、マリ・ケイおよびその関係者との接触を禁止されていた須藤美智子は、ふたりをプロデュースするための会社《宇都宮プロジェクト》(UTP)を2010年2月に資本金500万円で設立した。最初の事務所は常磐線の金町駅の近くの住居を兼ねたワンルームマンションで「ぎりぎり東京都内」という場所であった。資本金は全額須藤本人が出し、家族を名目だけの取締役にしている。 
須藤は接触禁止が解禁される少し前の5月、○○プロの浦中取締役と都内某所で密談した。
 
「ローズ+リリーが事実上フリーになったということで、最初は80社もケイちゃんちとマリちゃんちに押し寄せたんだよ」
「それは凄いですね。それだと話を聞くだけでも半月掛かるでしょ」
 
 
「それがケイは80社全部の話を1晩で聞いて、その内の65社に直筆のお断りの手紙を2日掛かりで書いた」
 
「ひゃー。なんつーバイタリティなんだ」
「直筆なら定型文章でもよかったと思うけど、1社1社にそこの事務所の事情に合わせた文章を書いた」
 
「私にはできん・・・」
 
「それがケイちゃんの凄い所さ」
と浦中は言う。
 

「まあ最初80社だったのがいきなり15社になって、その後どんどん振り落とされて、今も独占契約を狙っている所が3社ある。しかし、○○プロ、△△社、∴∴ミュージックなどは撤退したから」
 
「え?なんでですか?」
「ケイとマリが共同の個人事務所を設立したんだよ。実は僕らはその会社自体に出資させてもらった。だから契約する必要が無くなった。そちらの会社が★★レコードとも契約したし」
 
「あらら」
 
「だからふたりはその個人事務所と委託契約を結んでマネージメントをしてくれる事務所を求めている。今ふたりとの契約を目指している3つの事務所もその線で交渉している」
 
「はい」
 
「しかしふたりはその3社とは契約する意志はない。実はね、マリちゃんのお父さんが、1年半前の件では須藤君が全ての責任を負って結果的にケイやマリの側は批判されずに済んだから、迷惑を掛けたおわびに再度芸能契約するなら、須藤君としたいと言っているんだよ」
 
「そうですか・・・」
 
「だから6月11日に取り敢えずふたりと会って欲しい。場所も確保したから。それで契約の話はそのまま進むはずだから。僕自身、ケイのご両親にも会ったし、町添君と一緒にバンコクまで行ってマリのお父さんにも会って、契約書もまとめた。これを須藤君から提示してふたりとご両親の署名捺印をもらえば、それで契約成立だから」
 
と言って浦中は印刷した契約書を3部須藤に渡す(ケイ・マリ・須藤の元に1部ずつ残る事になる)。
 
「ありがとうございます!ではお預かりします。どうも私は契約とかの文章書くのが苦手で」
 
などと須藤は言っていた。
 
実は2008年夏に須藤が作ったローズ+リリーの“暫定契約書”があまりにも穴がありすぎたので、○○プロの法務担当者や、紅川・兼岩・雨宮も入って、しっかりした契約書を作り上げたのである。
 
これはケイとマリが作詞家・作曲家としてフリーハンドを持てると同時に、KARIONの活動も妨げないように、微妙な記述が入っているのだが、そもそも須藤は結局この契約書の中身も読まずに、そのまま当日ケイ・マリに提示したので、実は契約内容が「専属契約」ではなく「委託契約」になっていることにさえ、1年ほど先まで気付かなかったし、ふたりが共同の個人事務所を設立したこと自体、認識していなかった!(浦中がちゃんと説明したのに) 

「なんでこういうメンツなんですか〜?」
 
とケイは円卓に並ぶ他の3人に言った。
 
「まあ、あまり深く考えずにとりあえず美味しい御飯食べよう」
 
と若葉が言う。
 
「これは不思議なメンツよね」
 
と雨宮。
 
「元々は丸花さん、俺、しまうらら、という3人だったのだけど」
 
と蔵田が言っている。
 
ちなみに席順は、蔵田−雨宮−ケイ−若葉となっている。これは若葉を雨宮の毒牙(?)から守るための席順ともいうべきである。
 
「私は和泉ちゃんから、代わってと言われて出てきた」
と若葉。
「私は三宅行来から、代わってと言われた」
と雨宮。
 
「どこら辺から和泉とか、三宅先生が出てきたのだろう」
とケイは疑問を呈する。
 
この当時、三宅と雨宮が実は夫婦であることをケイも蔵田も知らない。 
「洋子(ケイ)は誰に言われて出てきたの?」
と蔵田が尋ねる。
 
「私は∞∞プロの鈴木社長からローズ+リリーの活動再開について、蔵田さんほか数名と打合せしたいからと言われたのですが」
 
「なぜ鈴木さんが絡んで来る?」
「ケイ、∞∞プロとも関わってたっけ?」
「それがこれまで何の接点も無かったので不思議に思いました。∞∞プロには大西典香がいるから、ローズ+リリーは競合するのであまり興味を持っていなかったようなんですけどね」
 
「いや、大西とは競合しないと思う」
「うん。世代も違うし、ソロとデュオの違いもある」
「むしろ競合するのはボーラスでは?」
「確かに同世代だけど、あまり売れてないから関係無いと思う」
 

「あんた、神田のメイド喫茶に勤めているわよね」
と雨宮が若葉に言う。
 
「先日はご来店ありがとうございました。実はあの日が初勤務だったんですけどね」
と若葉。
 
「私はこの子がメイド喫茶でバイトするなんて言うから、驚くというより呆れたんですけどね」
とケイ。
 
「男性恐怖症だと言っていた」
と雨宮。
「それを少しでも直したいから、やってみることにしたんです」
と若葉。
「そもそもこの子の家、凄いお金持ちだから、バイトなんてする必要ないんですよ」
とケイ。
 
「俺はそちらの線で、この子のこと知っていた」
と蔵田が言う。
 
「うちの伯母の会社でイベントにドリームボーイズをお呼びしたことが何度かあって、その時、私が振袖着て、応接係をしたのよね。ある理由で男性は応接係ができないという話だったし」
 
と若葉が言うと、雨宮はニヤニヤしている。むろん男性が応接係をすると蔵田にレイプされかねないからである。
 
「ふつうの女の子と違う雰囲気持ってるから、もしかして男の娘?と期待したんだけど、男性恐怖症ということだった」
と蔵田。
 
「ふつうの男はダメだけど、蔵田ちゃんみたいな人なら問題ないんでしょ?」
と雨宮。
 
「女性に興味の無い人なら問題ないですよ〜。雨宮先生のように一見女性にも見えるような服装の人も割と平気です」
と若葉。
 
「一見女性に見えるとは、面白い言い方をする」
と蔵田。
「だって女装ではないですよね?」
と若葉。
「あんたはよく私のこと理解している」
と雨宮。
 
「しかし気をつけろよ。こいつ、無茶苦茶女に手が早いから」
と蔵田が注意している。
 
「上島には負けるけどね」
と雨宮。
 
「確かに、あいつの女への手の速さと、俺の男の子への手の速さは、いい勝負だと思う」
と蔵田。
 
「そんなナンパの速さじゃなくて音楽で勝負してくださーい」
とケイは言った。
 

「マリちゃんの精神的な回復状況はどうなの?」
と蔵田が尋ねる。
 
「かなり回復してますよ。今の感じなら、あと半年くらいで復活できるんじゃないかなあ」
「今すぐはダメか?」
 
「5月16日に、FMで鍋島先生の一周忌特集の番組の司会をマリとふたりでさせて頂くことになりました。私たちが歌った『明るい水』が、鍋島先生にとっては最後のゴールドディスクになったんですよ」
 
「なるほどー!」
 
「その番組の中で2人で生歌唱します」
「そのくらいはできるんだ?」
「観客の居ない所でなら、歌えるんですよ」
「ああ、その状態か」
 

「ローズ+リリーの問題点は、突然売れてしまったから、やむを得なかった面もあるのだけど、準備不足すぎたからな」
 
と蔵田が言う。
 
「お互いに思い込みがあったのは事実だけど、まさか親の承認を取ってないとは思わなかったのよね」
 
「結果的に△△社との契約書が無効と認定されたから良かったんですが、私は∴∴ミュージックとは母の口頭での承諾を得てKARIONをしていたので実質的な二重契約だったんですよ。それを津田社長に言って、停めないといけなかったのですが」
とケイが言うと
 
「うん。洋子(ケイ)が悪い」
と蔵田が言う。
 
「洋子はうち($$アーツ)とも、活動について親御さんと口頭での承認を得ている」
 
「まあケイはあちこちと口頭での親の承認を元に活動している」
 
「△△社だけ承認してもらっていなかったんですよ」
 
「だけど須藤君の暴走のおかげで、ケイがやっとデビューできたのは大きいと思うよ。だって、あの状態では多数のプロダクションがお見合いになって、いつまでもデビューできなかったと思う」
と雨宮。
 
「まあ、物事はけっこうああいう暴走型の人間によって動いていくんだよ」
と蔵田も言う。
 

「しかし今回は準備万端だな」
と雨宮。
 
「契約書は多数の人間が集まって完璧なものを作った。マリちゃんのお父さんが須藤君との契約を望んでいるから、あそこを窓口にする。マリちゃんの精神的な回復も進んでいるし、秋に出した『雪の恋人たち』など聴くと、歌唱力は、かなり上がっている。ケイの方もあの時点では去勢が済んでいただけで、性転換手術がまだだったから、オカマタレントと思われてしまった面があったけど、もう性転換も済んで後は20歳になったら戸籍の修正を申請するのを待つだけだから、女性歌手として何も問題無いし」
 
と蔵田が言った。
 
「済みません。まだ去勢も性転換もしてませんけど」
とケイが言うと
 
「何〜〜〜〜!?」
と蔵田と雨宮が言った。
 
「冬、このメンツの前で嘘つくことないよ。本来は18歳未満は手術してもらえないのを、こっそりやったから、まだ手術してないことにしたいんだろうけど」
と若葉。
 
「私、ほんとに手術してないけど」
「それはありえない。3月下旬に、政子ちゃんと2人で鬼怒川温泉に泊まったんでしょ」
「あ、うん」
「その時、既に冬にはおちんちんもタマタマもなくて、女の子の形だったって、政子ちゃん言ってたよ」
 
「いや、あれは何と説明すればいいか。って、あの話を若葉聞いたの〜?」
「おのろけでも言うように言ってた」
 
「あんたたち、レスビアンなの?」
「えっと・・・・お互い友だちのつもりですが、確かにあの晩はそういうこともしました」
とケイは少し照れながら言う。
 
「レスビアンできたということは、当然、性転換手術終わってるんでしょ?」
「まだです」
 
すると雨宮と蔵田と若葉はお互いに顔を見合わせた。
 
「だったら今すぐ性転換しなさい」
と雨宮と蔵田は同時に言った。
 
「え〜〜〜?」
 
「病院は私が予約してあげる。即手術してくれる先生知ってるから」
と若葉。
 
それは・・・・きっと、あの先生だ!
 
「ちょっと待ってね。今問い合わせてあげる」
と言って、若葉は電話している。何か調子よく受け答えしている。そして電話を切って言った。
 
「明日、手術できるそうだから、明日朝から病院に行ってね。今夜は21時以降食べ物も飲み物も取らないこと」
 
「え〜〜〜〜!? 明日!?」
とケイはさすがに驚きの声をあげる。
 
「性転換手術って今日予約して明日手術できるもんなの?」
と蔵田が訊く。
「普通は無理」
と雨宮。
 
「冬の性転換手術の予約は既に2007年12月に入っていたんです。それなのになかなか手術を受けに来ないから困っていたそうです。お母さんから承諾書ももらっていたのにって。やっと手術できると先生は張り切ってました」
と若葉は説明する。
 
「ちょっとぉ!!」
 
「よし。それでは洋子は、明日性転換手術を受けること」
と蔵田が言った。
「ケイもやっとこれでちゃんと女の子になれて、ローズ+リリーの再稼働に関する障害は無くなるわね」
と雨宮。
 
「まさに。邪魔物を取っちゃうんだな」
と蔵田。
 
「心の準備が・・・」
 
「何を今更!」
と3人から言われた。
 
「だって6月11日には活動再開だからね。あまり時間無いよ」
と雨宮。
 
「あれ手術してからどのくらい静養してないといけないの?」
と蔵田が雨宮に訊く。
 
「ケイなら1週間もあればフルマラソン走れるよ」
と雨宮。
 
「それはさすがに無茶です」
とケイは言った。
 

男が一口食べて、いきなり「不味い!!」と言ったので、周囲では
 
「あはは、1週間物を食べてなかった人にまで不味いと言われてるよ」
 
と常連さんらしき人たちが笑いながら言っている。
 
しかし男はつい「不味い!!」と言ってしまったものの、その後、そのラーメンをまるで分析でもするかのように味わいながら食べて行った。
 
男はラーメンを完食すると、丁寧に手を合わせて
「ごちそうさまでした」
と言った。
 
そして続いて言った。
 
「おやじさん、ラーメンおごってくれてありがとう。本当に生き返った。だけどこのラーメンはあまりにも不味すぎる。これって、**をオリーブオイルで炒めてから2時間くらい煮た出汁と、生の**を3時間くらい煮た出汁をミックスして、塩、ニンニク、ホワイトペッパー、ターメリック、グローブ、コリアンダー、タイム、ローズマリーで香り付けしてますよね?」
 
「あんたよく、その調味料が分かったね」
 
「洋風ラーメンというのは面白いと思う。でも生の**はそのまま使うと臭みが残って味をぶちこわしてしまうんですよ。だから***と一緒に下茹でするとその臭みが取れる。それからコリアンダーとタイムはいいけど、ローズマリーはよくない。特にこんなに大量に入れるとバランスが崩れる。そもそも香り的にタイムとだぶってるし、どうしても使うなら使用量をタイムと合わせて今のタイムの量にして、代わりに・・・ローレルとか入れた方がまとまりそうな気がする。そのあたりは少し試行錯誤した方がいいけど」
 
「あんた何者?」
とおやじさんが驚くように訊く。
 
「実は2年ほど前に稚内の**軒で1年近く修行しました。それ以前に食品会社に10年ほど勤めていました」
「おぉ!」
 
そんなことを言っていたら、常連客のひとりが言った。
 
「あんた、そんな修行してるんだったら、おやじの代わりにラーメン作ってみない?」
 
「え?」
と男は一瞬驚いたような声を出したものの言った。
 
「うん。良かったら、僕に作らせてみて下さい。ある程度試行錯誤するかも知れないけど」
 
「いや、たぶんここのおやじのラーメンより不味いラーメンを作ることは不可能だ」
 
「だったらやってみます。でも良かったら、その前に店の隅の土間にでも2〜3時間、寝せてくれません?」
 
「いや、奥の座敷で寝てよ。でもその前に風呂にでも入る?」
「入れてください!」
 
そういう訳でこれがきっかけで、亜記宏はこのラーメン屋に住み込んでラーメンを作ることになってしまったのである。
 

「着換えも必要だな。あんたサイズはMかな?」
と常連客が言う。
「はいMです」
 
「じゃ俺の息子の古着でも持って来てやるよ」
「下着は俺が取り敢えず2着くらい、女房に買ってここに持たせてやろうか。そのくらいプレゼント」
「すみません」
 
「パンツはトランクスがいい?ブリーフがいい?」
「どちらでもいいですよぉ」
「何なら女物のショーツでも穿く?」
「えっと、それでも構いませんが」
「いや、あんた女装が似合いそうな気が一瞬したものだから」
「あはは。高校生時代、何度か女装させられました」
 
「ひげ生えてないよね」
「いや、実は僕の睾丸は機能停止してるんですよ」
「へー。悪いこと聞いたね」
 
「何ならスカート穿く?女房の古着でも良かったら持ってくるよ」
「いや、とりあえずズボンの方がいいです。その方が動きやすいし」
「あ、そうだよね」
 
しかし微妙なことを言ったせいか、仮眠から目が覚めると下着は女物を買ってきてくれていた!
 

政子は目を覚ますと、隣で熟睡しているふうの冬子を優しく見つめた。そんなことしちゃいけないとか、自分は明日には男ではなくなってしまうから政子に対して責任を持てないとか言うのを強引に誘って、結合・・・・できたかな?とやや疑問は残る。中学の時の彼氏とした時よりは深く入った気がした。多分・・・処女膜も3割くらい破れた気がする。少しだけ出血している。
 
そしてともかくも搾り取った!
 
中学の時の体験も入ったかどうか、かなり微妙だったのだが、あの時は彼はどう見ても射精に辿り着いていない。でも今回間違い無く冬子は射精した。実は冬子の睾丸が元気を取り戻すように、冬子がいつも飲んでいる女性ホルモン剤をダミーとすり替えた上に、何度もプールに誘って、睾丸が「冷える」ようにしていたのである。これは若葉とも話した上での作戦であった。
 
実を言うと性転換手術(活動再開まで時間が無いので造膣をしない、いわゆる簡易性転換手術を行うことにした)をしてくれる病院にはこの1月に改めて予約を入れ、同意書も冬子の母にあらためて書いてもらっていた。
 
今回「搾り取った」液を政子は予め用意していたスポイトで自分の身体の中から吸い上げた。もっとも射精は最終的に政子の手で起こした関係上、精液の大半は“外側”に溜まっていたので吸い上げやすかった。
 
政子はそっとベッドから抜け出すと服を着て、ホテルを出た。近くにある婦人科に駆け込む。時刻は9時。病院は開いたばかりである。
 
実はこの婦人科を調べて“ミッション”をやってくれそうであったので、実際に訪問して先生とお話をし、その上で近くのホテルを予約し、そこに冬子を誘ったのである。政子自身および母の同意書と、冬子の母の同意書も提出済みである。冬子本人の同意書も求められたのだが、結局政子はこれを偽造した! 
政子は受付で言った。
 
「済みません。先日お伺いした中田です。精液の採取をしてきたので、冷凍保存をお願いします」
 
そういう訳で“ミッション”は本人も知らない間に、政子・若葉・冬子の母の3者の話し合いで進められていたのである。
 
もっとも若葉は自分が協力して冬子の精液を高校1年の時に採取して冷凍保存中であることまでは(嫉妬されそうだったので)政子に言っていない。それを政子に打ち明けるのは7年後のことである。
 
結局、冬子の精液はこの日の昼の手術で睾丸が除去されるまでの間に、政子の手で1個、若葉の手で4個、奈緒の手で1個、作られた。この中で本人も知っていたのは若葉の手で保管された4個のみだが、当時冬子自身は、もうその精液は保管依頼の更新をしなかったので破棄されているものと思い込んでいた。
 

5月15日(土)。大船渡の○○中・1年女子の8人が学校前に集まった。メンツは、青葉、早紀、椿妃、元香、蒔枝、一美、留香、海鈴といったところである。 
この中で実は元香と蒔枝の2人は昨年の修学旅行の時に、青葉の裸体を一瞬だったが目撃していて「既に性転換済み」に見えたものの、本人からフェイクであることを説明されている。
 
逆に青葉と元々親しい早紀は、青葉の水着姿は何度も見ているものの、裸は小学2年の時以来見ていない。当時はパンティに盛り上がりがあったので、青葉ってやはり男の子なんだと思っていたものの、最近、女子更衣室で見る青葉のパンティ姿にはそのようなものが無いので、そのあたりどうなっているのだろうと思っている。
 
留香は昨年の夏、盛岡のプールで青葉と遭遇し、青葉の上半身ヌードを目撃して、青葉の胸が微かに膨らんでいることを知っている。女性ホルモン飲んでるの?と尋ねたが、青葉は「内緒」と言った。
 
椿妃と一美・海鈴はほとんど興味本位である。この3人は4月初め、体育の時間に青葉が女子更衣室に来たのを「あんた男のくせに女子更衣室使うの?」と追及しようとしたメンツである。
 

一行は送迎バスに乗って、元香の親戚が経営する温泉宿にやってきた。そうたくさん食べるとは思えない女子中生の集団だし、親戚だし、ゴールデンウィークが終わってオフシーズンということもあり1泊2食付き1000円という格安料金にしてもらっている。お金の無い青葉の分は早紀が出してあげた。 
「さあ、お風呂行こう、お風呂行こう」
と言って荷物を部屋に置いて大浴場に行く。
 
「青葉、女湯に入るけど大丈夫?」
と心配する声もあるが
 
「青葉は修学旅行の時、実は女湯に入っている」
と早紀と元香が指摘すると
 
「なんだ。だったら大丈夫だね」
と言って連れ込まれる。
 
服を脱いで行くが、青葉に視線が集まる。しかし青葉はいつもの能面のような表情で、静かにフリースとスカートを脱ぎ、カットソーを脱ぎ下着姿になる。この下着姿を見ても女の子の下着姿にしか見えない。
 
更に女の子シャツを脱ぎ、ブラジャーを外す。
 
「胸が微かにだけどあるね」
と一美が言う。
 
「ちっちゃいけどね」
と本人。
 
「やはり女性ホルモン飲んでるの?」
「そんなお金が無いよ」
 
「青葉は、気功に似た手法で体内に女性ホルモンを増やしているんだと登夜香が言ってた」
と元香は言う。
 
登夜香というのは青葉たちの元同級生で青葉と一緒に将棋部に入っていたのだが、昨年花巻に転校して行ったのである。彼女のお婆ちゃんはこの地では名の通った拝み屋さんで、まだ大船渡に残っている。
 

「まあ問題は次だな」
と椿妃が言うと、能面のような表情だった青葉が一瞬笑いそうになってから、すぐに元の表情に戻し、パンティを脱ぐ。
 
「付いてないね!」
「やはり性転換手術しちゃったの?」
 
という声があがるが
 
「それがフェイクなんだよ」
と蒔枝が言った。
 
「みんななら近づいて見てもいいよ」
と青葉が言うので近寄って見る。
 
「あ。これ接着剤で留めてる?」
「うん。実はそう。全部体内に押し込んで、出てこないように接着剤で留めているんだよ」
 
「なるほどー。それで付いてないように見えるのか」
「でもこれおしっこする時、どうするの?」
「これしている間は我慢」
「それ大変そうだ」
 
この時期、青葉がしていたのは、いわゆる「潜望鏡式」のタックであり、排尿がそのまま可能な「後方折り曲げ包み込み式」は翌年千里に教えられて覚えることになる。
 
「実はそのままでもできるんだけど、かなりよく拭かないといけないし、おしっこした後は外れやすくなるんだよ」
 
「ほほお」
 
「まあ、でもこの状態なら、女湯に入ってもいいと思わない?」
と元香が言う。
 
「そうだね。青葉って心は女の子だし」
 
「うん。それは分かってたけど、さすがにだからといって、おちんちんぶらぶらさせたまま女湯には入ってもらいたくないと思っていた。でもこれならまあ認めてもいいかな」
 
そういう訳で、数人腕を組んで判断保留している感じの子はいたものの、青葉はクラスメイトの多くに、女湯に入ることを認めてもらったのであった。 
 
 
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