【女子大生たちの新入学】(上)

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2009年3月7日。千里が受験した千葉市のC大学の合格発表があり、千里は合格していた。落ちることは無いだろうとは思っていたものの、ちゃんと合格者のリストに自分の受験番号があるとホッとする。
 
入学手続きは13-14日ということであったので、母と一緒に千葉に出て行くことにする。母はお金が掛かるからJRの乗り継ぎで行こうと言ったのだが、千里は合格は確実と踏んで3ヶ月前に「特割」で航空券を買っておいたので「かえって飛行機の方が安くなるんだよ」と言って、飛行機で往復することにした。 
早朝、母が留萌からJRで旭川まで出て来て一緒に空港に行く。
 
「千里。色々お金要るだろうと取り敢えず30万用意してきたんだけど」
と言って母が封筒を渡したが、千里はそれを母に返した。
 
「大丈夫だよ、お母ちゃん。ちゃんと貯金しといたから自分で払えるよ」
「そうかい」
「未払い金とかの溜まってるのを払うのに使ってよ」
「そう?じゃ使っちゃうよ」
「うん」
 

あまり時間の余裕が無いので、手荷物を預けた上で、すぐ検査場に行く。 
「はい、お母ちゃんのチケット」
と言って航空券を手渡す。
 
「なんか色々小さい字で書いてある」
「どこからどこに行く便か、何時発の便かを確認しておけばいいよ。こちらは帰りの航空券ね。出発時刻の1時間前までにはチェックインしないと乗れないからね」
「そんなに早くこないといけないんだ?」
「都心から羽田まで1時間掛かるから、最悪でも2時間前には都内を出ないといけない。初めてで戸惑うかも知れないから3時間前に出た方がいいかも」
 
「飛行機って何だか面倒!」
「その分、乗ってる時間が短くて汽車の長旅よりは楽だから」
 
「この名前の後ろに書いてある 41F って年齢?」
「そうだよ。私のは、18F になってる」
「Fってのが歳って意味?」
「ああ、それは性別。男はMで女はF」
 
「あんた、Fじゃん」
「性別は合っているはずだけど。私性別Mの航空券なんて使ったことないよ」
「うーん・・・・」
 
母は少し悩んでいる。
 
「そもそも私の今日の格好で性別Mの航空券持ってたら、搭乗の時に咎められるしね。この切符違うって」
と千里は言う。
 
「ってか、あんたそういう格好で良かったんだっけ?」
と母は言う。
 
「私の普通の服装じゃん」
「確かにね」
 
千里はごく普通のセーターに、ごく普通のスカートを穿いている。
 
「あんた、大学に入ったらもう完全に女の子になっちゃうの?」
「私は女の子だよ」
 
母はまた少し考えている。
 
「あんた、もう性転換手術も終わってるんだっけ?」
「お母ちゃんに高校入る時約束したよ。20歳までは去勢もしないって」
「・・・・去勢はもう終わってるよね?」
「まだだよ。手術する時は事前に言うよ」
 
千里はそう言ったが、母は信じてないように思えた。
 

飛行機なんて乗るの初めてという母は、セキュリティチェックでお財布が引っかかり、携帯が引っかかり、家の鍵が引っかかって、最後にブラジャーのワイヤーまで引っかかった。
 
「こんな大変なの、もうやだぁ!」
などと音を上げていたが、千里は
 
「でも帰りは1人で乗ってよね」
と言っておいた。離陸する時も、あきらかに怯えている。
 
「あんた平気なの?」
と母。
「慣れた」
と千里。
 
「慣れるくらい乗ったんだっけ?」
「高校時代に40-50回乗ったと思うよ。もっとも自分で料金払ったことはほとんど無いけどね。マイルだけはたくさん溜まってクリスタルになっちゃったけど」
「クリス??」
 
母は上級会員制度のことは知らないようである。
 
「でもバスケで全国大会にも結構出たもんね」
「うん」
 
インターハイやウィンターカップでの激しい戦いが千里の頭の中でリプレイされる。あれはやはり自分にとって青春だよなぁと思った。
 

「でもさ、あんたその格好で入学手続きしたら、何か言われないかね?」
「問題無いと思うけど。私、受験票の性別は女だったし」
 
「・・・・・それって、学校の調査書と性別が違ったらまずいんじゃないの?」
「学校の調査票が性別・女だから、むしろ男と書いたら違うと言われる」
 
「調査票の性別、女にしてもらったの?」
「私、N高校では生徒手帳の性別も女子だったよ」
 
「えーーー!?」
 
母があんまり大きな声を立てたので、近くの席の人が何だろう?という感じでこちらを見た。
 

お昼前に羽田に到着し、空港連絡バスに乗って13時半すぎ千葉駅前に着いた。市内の路線バスで大学まで行き、手続きをする。あらかじめ準備していた書類を渡し、何やら書類をもらって、手続きはすぐに終わった。
 
「あっけないね!」
と母が言う。
 
「入学金と授業料は既に振り込んでいるし、こんなの書類を郵送するだけでもいいじゃんって気もするけどね」
「ほんとに!」
 
取り敢えず近くのファミレスに入って遅いお昼御飯を食べた後、一緒に不動産屋さんに行く。
 
「ああ、C大学ですか。合格おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「じゃ大学の近くがいいですよね」
 
「多少遠くてもいいですよ。それより家賃が安ければ」
「なるほど。ご予算はどのくらいですか?」
「1万円くらいでありませんか?」
「1万円!? それはさすがに無茶です。だいたい3万円前後が相場ですよ」
 
「少しくらい不便な場所でもいいです。お風呂無くてもいいし、トイレ共同でもいいですよ」
 
「ちょっと待ってください」
 
それで不動産屋さんは悩みながら物件を調べている。
 
「1万5千円じゃダメですか?」
「共益費込みですか?」
「別です。共益費が2千円必要です」
「じゃ、実質1万7千円ですね? もう少し安い所は?」
 
「うーん・・・・」
と不動産屋さんは悩む。
 
そしてハッと何かを思い出したような顔をする。席を立って奥の方にいる偉そうな人の所に行き、話をしている。それでその人と一緒に出てくる。
 
「あのぉ、事故物件はダメですよね?」
「自殺者の出た部屋ですか?」
 
「いえ、自殺ではないのですが、昨年末に向いの中華料理店がガス爆発を起こしましてね。その中華料理店の2階に居た人が軽い怪我をしただけで、死者なども出なかったのですが、その爆発でこのアパートも窓ガラス粉砕、大家さんの家の玄関も壊滅状態で、住人も全員退去したんですよ。その後一応の修復はしたのですが、雨漏りが酷くて。やはり建て替えなきゃいけないかなとは言っているのですが、爆発事故を起こした中華料理店からの賠償金がなかなか入らないし、大家さんも今手持ちが無いとかで、すぐには建て替えられないんです。ですから、入居なさる場合、建て替えの準備ができたら、速やかに退去してもらうという一筆を入れてもらうことが条件になります」
 
と店長さんらしき人は説明した。
 
「ああ。全然構いませんね、安いんだったら」
と千里は明るく言った。
 

「とにかく安い物件がいいんです」
と不動産屋さんで桃香は言った。
 
「安いというとご予算はどのくらいで?」
「五千円くらいの物件はありませんか?」
「それはさすがに無茶かと。C大学の周辺は1Kでも3〜4万しますよ」
 
「雨漏りくらいは平気ですよ」
「風呂無し・キッチン・トイレ共同でもいいですか?」
「バストイレ付きの2DKくらいがいいんですけど」
「2DKなら7万はしますよ!」
「そこをせめて7千円に負けられない?」
「無理言わないでください!!」
 
そんな押し問答をしていた時、事務所に疲れたような顔をしたスタッフが3人ほど戻って来た。
 
「あ、お疲れさんでした」
と声が掛かる。
 
「片付いた?」
「最低限だけです。あとはハウスクリーニングの業者に頼みます」
 
などとやりとりをしている。
 
「何かあったんですか?」
と桃香が訊く。
 
「あ、いえ。ちょっと事故がありまして」
「事故って自殺?」
「あ、えっと、そのぉ」
 
「ね、ね、自殺があったばかりの所なら超格安で借りられない?」
と桃香がキラキラした目で言うのを、母の朋子はとっても不安そうな顔で見詰めていた。
 

千里が契約したアパートの入居日は4月1日ということにした。物件は2階建てで各階に3部屋ずつあるが、千里が借りるのは1階中央の部屋である、実はここがいちばん雨漏りが少ないらしいのである。(2階は事実上居住不能らしい)お風呂は無いがトイレと小さなシャワールームが付いている。結局家賃1万円で、共益費千円、敷金1ヶ月分、礼金ゼロということになった。
 
その日は母と一緒に千葉市内のホテルに泊まる。
 
「お母ちゃん、先にお風呂入るといいよ。朝早くから出て来て疲れたでしょ?」
「うん。じゃ先に入るね」
 
などと言って母が先にお風呂に入ったが、ホテルの風呂って何だか入った気にならないなどと言っていた。伝統的日本人体質である。
 
「お風呂のガスのスイッチどこだっけ?と探しちゃった」
「ぬるくなってきた時は熱いお湯を入れればいいんだよ」
「でも余分なお湯使うのもったいないよ」
 
「そういうのって最近の日本人が忘れてしまった発想だなあ。日本人って元々エコな生活してたのに。まあ追い炊きするより熱いお湯を足した方が金銭的には安く上がるんだけどね」
 
「お前、友だちにメールか何かしてたの?」
「うん。何人かとやりとりしてた」
 
「あんたの友だちってだいたい合格したんだっけ?」
「みんな無理しなかったからね。全員目的の大学には通ってる。同級生には前期を落として後期試験を受けた子もいるけど、やはり女子は親が浪人に難色示すんで安全策で行った子が多いんだよね」
 
「蓮菜ちゃんは結局どこ受けたんだったっけ?」
「東大の理3。直前の模試ではB判定だったんだけど、私本番に強いからと言って受けて美事合格。まあ親には強気なことを言いつつ実は本人としては最後まで東京医科歯科大とどちらにするか、かなり悩んだみたいなんだけどね。一応滑り止めに□□大学も受けたけど、多分□□大学に通って東大落とした場合は浪人の選択してたと思う」
 
「あんたも□□大学受けたね」
「うん。私も蓮菜も合格はしたけど、授業料が違いすぎるもん」
「不況だもんね」
 
「親は東大が厳しいなら北大を受けたらと言ってたんだけど、東京に出て来たかったんだよ」
「あんたもその口だね」
「うん。まあね」
 
父は最後まで千里が関東方面の大学を受験するのには反対していた。願書のハンコも父がどうしても押してくれないので、母が代わって押してくれたものである。
 
「るみちゃんは素直に旭川なんでしょ?」
「そうそう。最初の頃は旭川医大の看護学科というのも考えていたんだけど、自分は性格的には看護婦無理かもというので、体育の先生を目指して北海道教育大の旭川校。荒っぽいしムラ気があるから、確かに患者さん5−6人殺しそうな気もする。体育の先生だと、少々男っぽくても容認されやすいから、《彼》にとってはその方が心地いいんだよ」
 
「るみちゃんは《彼》なんだ?」
「うん。実弥(さねや)君と呼んでるよ。ちなみに私はだいたい《彼女》という代名詞で受けられるよ」
「はあ」
 

千里もお風呂に入ってくる。髪まで洗うと旅の疲れが取れていく感じだ。あがると母は千里のパソコンで高校の卒業記念アルバムを見ていた。
 
「あんたの写真、男子制服着て写ってるのが無い」
「ごめんねー。入学の時には無理して男子制服作ってくれたのに」
 
「いいけどね。でもだいぶ髪伸びたね」
「まだ女の子としては短すぎる長さなんだよ。だから、もうしばらくはウィッグが必要」
 
千里は今日の入学手続きも不動産屋さんもショートヘアのウィッグを着けて行っている。自毛はまだかなり短い。
 
「どこまで伸ばすの?」
「胸くらいの長さかなあ。中学の時みたいに腰くらいまであると、さすがに面倒だから」
「トイレとかも苦労してたよね」
「クリップ持ち歩いてた。でも当時は女の子でありたいという気持ちが強かったから髪もできるだけ長くしておきたかったんだよ」
 
「今は?今でも女の子になりたいんでしょ?」
「うん。女の子になりたいというか、今は自分が女の子であることに確信を持ってる。だから心の余裕が生まれて、スカートでなくてもいいし、髪も超ロングヘアでなくてもいいという気分なんだよね」
 
母は1枚の紙を千里に渡した。
 
「これあげる。実際は用済みとは思うけど」
 
千里が受け取って見ると「手術承諾書」と書かれている。
 
《私、村山津気子は、患者、村山千里が. 去勢手術を受けることを、保護者として承諾致します。 平成 年 月 日》
 
印鑑も押されているが日付だけが空白である。
 
「手術受けたくなったら、自分で日付だけ書いて提出しなさい」
「うん。ありがとう。これ必要だよ」
 
と言って千里はちょっと涙が出た。
 
「性転換手術受ける時は事前に言って」
「うん。それは多分大学4年で受けると思う」
 
「そう。。。でもあんたの睾丸、もし存在するとしても機能停止してるんじゃないの?」
「してないと思うよ。だから声変わりしちゃったんだと思うけど」
 
「でも声変わりしてても、あんたが話してるの、男の子が話してるように聞こえないんだけど」
「ああ。和田アキ子さんみたいな人もいるしね〜」
「いや、あの人の話し方は男に聞こえる」
「かもね」
 
「あんた精液は出るんだっけ?」
「出るよ。だから私、父親になると思う」
「あんた、女の子と結婚するつもり?」
「まさか。法的に結婚するのは男の人。そして私、母親にもなるから」
「あんた、妊娠できるんだっけ?」
「内緒」
 

「結婚する男の人って、やはり貴司さん?」
「どうだろうね?」
 
「あんた、貴司さんとは結局どういう関係になってるんだっけ?」
「今はただの友だちだよ」
「やりとりはしてるんでしょ?」
「うん。友だちとしてね。そもそも彼、交際中の女性がいるし」
 
「もう好きじゃないの? バレンタインとか贈らなかったの?」
「誕生日のプレゼントもバレンタイン・ホワイトデーもしたよ」
「貴司さん、あんた以外に彼女がいても、ホワイトデーしてくれたんだ?」
 
「お互い友だちとしてだよ。それに元々どちらかが道外に出るか私に声変わりが来たら夫婦関係を解消する約束だったんだよ。だから今はふたりとも×1(ばついち)」
と千里は答えたが
 
「ほんとにもう好きじゃないの?」
と母は再度尋ねた。
 
千里はそれには答えず、窓の所に行って外を見た。
 
「なるようになると思うよ」
とだけ千里は窓の外を見詰めながら言った。
 

翌日。母は1日東京見物してから夕方の飛行機で北海道に戻るということであった。そして千里は、合格発表を見た時点で即予約を入れておいた自動車学校(合宿コース)に入校する。
 
シーズンなので一緒に入校する人が40-50人居た。大半が高校卒業したてという雰囲気である。説明を受けた後、視力検査を受け学籍簿と仮免用の写真を撮る。 
基本的な講習を受け、シミュレーターで練習した後、午後からは早速実車で練習である。
 
「村山さんは女子大生?」
と30代の女性教官から訊かれる。
 
「今月高校を卒業しました」
「ああ、それで東京方面に出て来たのかな? 大学生?就職?」
「大学生です。バイトとかで車使うかも知れないから、春休みの内に免許取っておこうと思って」
 
「ああ、確かに免許あるのとないのとでは仕事の選択肢も違うからね。でも今不況だけど女子大生のバイト求人は結構あるみたいだよ」
「うまく学業と両立できるものがあるといいんですが」
「確かに、中にはバイトだけをしていて学業は・・・って子もいるよね」
 
などと教官と会話を交わす。しかし、こういう声で話してても、私、やはり女の子として認識されるのかな?と千里は思う。まあ入校申込書の性別の所は女に○付けといたけどね。
 
教官の指示に従って教習所内のコースを走るのだが、すぐに教官から言われる。 
「君、以前にも免許持ってた?」
「いえ、初めての取得ですけど」
「君、これまでも運転してたでしょう?」
「えー、運転は初めてですよぉ」
「嘘嘘。まあいいけどね。せっかくここまでお巡りさんに見つからずに来たんだから、ちゃんと免許取るまでは運転は控えるようにね」
「はい」
「でもこれならあまり教えることないな。仮免も本免も一発合格できるだろうけど、運転の基本を再度勉強してしっかり押さえるといいよ」
「はい、そうさせて頂きます」
 

講習が終わった後で、合宿生専用のバスに乗り、夕食を食べる場所(ゴルフ場の付帯施設のようであった。朝と夕はここで食べることになっているらしい)に行き、食後またバスで移動して宿舎に行く。見た感じは普通の賃貸マンションという感じである。不況の折だし、浮いてしまった物件か何かを丸ごと借りているのだろうか。
 
格安コースに申し込んでいるのでツインの部屋になっている。千里は703号室という紙をもらっていた。他の生徒の動きを見ていると、どうも、低層階を男子の合宿生、高層階を女子の合宿生に割り当てているようである。
 
もらっている鍵で703号室の鍵を開けて中に入ると先客が居る。
 
「こんにちは。こちらに今日からお世話になる村山千里と申します。よろしくお願いします」
と挨拶する。
 
「あ、こんにちはー。辛島栄子です。こちらこそよろしく」
と35-36歳くらいの感じの女性が笑顔で挨拶を返した。
 
取り敢えずコーヒーでもと言って辛島さんが入れてくれるので頂く。
 
「ルームメイトさんが昨日で卒業して行ったから、どんな子が来るのかなと思ったら若い子でびっくり」
 
「前のルームメイトさんは年齢が上の方だったんですか?」
「うん。52歳って言ってた」
「その年で免許取ろうというのは、それまで免許の不要な所に住んでいたんですかね」
「そうみたい。ずっと都会暮らしだったけど、旦那と離婚して田舎に帰るってんで、田舎じゃ車が無いと生活できないからって取りに来たらしい」
「わぁ」
「普通の人が2週間で取るところを3週間掛けて卒業。仮免試験を4回やったらしいから」
「きゃー。私も運動神経よくないから不安です」
「若い子は大丈夫だよ」
 
と辛島さんは言う。
 
ここの合宿コースは卒業が延びても追加料金は不要ではあるが、大学の入学式が4月8日なので、それ以前には卒業しておかないとやばい。
 
部屋は六畳2間の2DKの部屋である。片方を辛島さんが使い、片方を千里が使う。それで台所・トイレ・お風呂が共用スペースになるし、洗濯機も共用である。
 

「ところで千里ちゃん、だいたい何時頃に寝て何時頃起きる?」
「夜は12時くらい、朝は6時くらいですけど、夜はできるだけ音とか立てたりしないようにしますので」
 
「そのくらいなら大丈夫だよ。女子大生だっけ?」
「はい、4月から大学に入ります」
「なるほど。それで免許取りに来たのか」
 
取り敢えず辛島さんは私のこと、普通に女の子と思っているようだな、と千里は考えた。まあルームメイトが男だったら大変だけどね!
 
「辛島さんはOLさんですか?」
「そうだなあ。むしろOld Ladyかな」
「えー!? だってまだお若いのに」
「神社に勤めてるの」
「へー! 私も中学高校時代、神社の巫女さんのバイトしてたんですよ」
「お、凄い。だったら舞とかもやってた?」
「ええ。舞を舞ったり、笛を吹いたり」
「笛は篠笛?高麗笛?」
「龍笛です」
「おっ、それ一度聴いてみたいなあ。ね、ね、ここ卒業してからでいいからうちに一度来てみない? 千葉市内のL神社って所なんだけどね」
 
と言って辛島さんは自分の名刺を渡す。
 
「すごーい!巫女長さんなんですか」
「実は前任の巫女長さんが旦那の神職さんと一緒に水戸に転任しちゃって。私はなりたてなのよ。私も実はずっと都内の便利な所に住んでたから免許の必要性がなくって。でも千葉ではやはり免許が無いと不便だから」
 
「なるほどですねー。分かりました。一度お伺いします」
 

母が旭川の市役所で私の転出届を出してくれて、それで受け取った転出証明書を自動車学校気付けで送って来てくれたので、それを持って講義が2コマ、昼休みの前後に空くタイミングを利用し千葉市まで出て、転入届を出す。それで新しい住民票を発行してもらって自動車学校に提出し、現住所を書き換えてもらった。
 
辛島さんはその週の金曜日に卒業試験に合格して退出して行った。土曜日には今度は賑やかな女の子が入居してきた。
 
「女子大生さんですか?」
「大学行ってたけど首になっちゃった」
「あらあら」
「今バンドやってんだよ。そうだ、チサっち、聴かせてあげるね」
と彼女は言って、エレキギターを小型のスピーカーに接続して掻き鳴らす。千里は勝手に「チサっち」にされてしまった。彼女は自分のことは「モエっち」
と呼べと言っていた。
 
「モエっち、リズムが少し不安定。小節の長さが5%くらいの範囲でぶれてる」
と千里は彼女の演奏の問題点を指摘する。
 
「あ、私、それでベース首になってギターに回ったんだよ」
「へー」
「でもよく分かるね。私、その長さがぶれてるっての自体が分からない」
「そのあたりの感覚は鍛えるといいと思うよ」
 
「じゃさ、チサっち、ちょっとベース弾いてみてよ」
と言って彼女はベースを取り出してくる。こんなに楽器持って来てるって、全くこの子は何しに自動車学校に入って来たんだ?
 
「私、線1本でしか弾けないよぉ」
と言って千里は本当に弦1本のみを使って、ルート音を四分音符で刻む。 
「あ、弾きやすい。助かる助かる。ちょっとそれで練習に付き合ってよ」
 
ということで、彼女との同居中、千里は彼女の練習に付き合うことになってしまった。
 
「でもベース自体には慣れてる感じ」
「高校時代にバンドしてたんだよ。もっともベースはあまり弾いたことなくてピアノとかフルートとかが多かったんだけど」
 
「へー。ね、ね。チサっち、センスいいし、うちのバンドに入らない? うちのバンド、リズムギターが居ないからさ。キーボードでもいいけど」
 
「ごめーん。私、理学部で忙しいから無理〜。他の友だちからもバンドに誘われたんだけど、そちらも断ったんだよね」
 
「そっかー。残念」
 

千里は順調に講習をこなし、仮免試験も卒業試験も一発で合格して27日の金曜日に自動車学校を卒業した(宿舎は28日朝に退去したので27日の晩までモエっちの練習に付き合わされた)。月曜日に運転免許センターに行って学科試験を受ければ免許を取得できる。
 
28日の土曜日は鮎奈や梨乃たちの呼び掛けで東京の貸しスタジオに集まった。この時、集まったメンツは、
 
蓮菜(東大理3)、梨乃(△△△大英文)、鮎奈(C大医)、千里(C大理)、花野子(Y国立大経)、京子(東大理1)、麻里愛(T芸大音楽)という7人である。
 
「北海道に残った智代・恵香・留実子の3人がTag Hood Kittens というのを結成するらしいんだよ」
「Tag Hood って札幌って意味?」
「そうそう。だからこちらも East Capitol Kittens ってやらない?」
 
「East Capitolで東京か」
「私パス。忙しくて無理〜」
とまずは芸大の麻里愛が言う。
「私も同じく。勉強無茶苦茶忙しいみたい」
と理3(医学部)の蓮菜も言う。
 
「私も忙しいみたいだけど、取り敢えず1年生のうちはやってもいいよ」
とやはり医学部の鮎奈。
 
「じゃ残りの5人でリードギター梨乃。リズムギター鮎奈、ベース千里、ドラムス京子、ピアノ花野子って感じかな」
 
「ごめーん。こないだも言ったけど、私、学費を自分で稼がないといけないから無理だと思う」
と千里が言う。
 
「私も同じく。学部に進学してからはとても時間が取れないみたいだから教養部に居る間に頑張ってバイトして貯金する」
と京子が言う。
 
「うむむ」
「3人では厳しいな」
「北海道の3人どうやるの?」
 
「恵香がギター、智代がベースで、実弥(留実子)がドラムス」
「恵香、ギター弾けたんだっけ?」
「練習すると言ってた」
「実弥は男の子の格好で活動するの?」
「ガールズバンドということにしておいた方が何かといいから、バンドする時は女の子だって」
「確かにガールズバンドと言っただけで聴きに来てくれる人はいる」
「あの子、女の子の格好すればちゃんと女の子に見えるからね」
「そのあたりが男の子の格好しても女にしか見えない千里との違いだ」
 
と突然こちらに火の粉が飛んでくる。
 
「芳香とか徳子は参加しないの?」
「振られたと言ってた」
 
「じゃこちらは花野子がドラムスを練習するということで」
 
「私、あまりリズム感良くないんだよねぇ」
と花野子は言う。彼女は音感は良いのだがリズム感が弱い欠点がある。アカペラで歌うと音程はズレないのに、だいたいテンポが最初に比べて速くなってしまう癖がある。
 
「鮎奈ベース弾く?」
「それしか無いかなあ。私がリズムキープするから花野子、それに合わせてドラムス打ってよ」
「頑張ってみる」
「あるいは誰かドラムスやベース弾ける人をスカウトするかだよね」
 
取り敢えずその日は折角スタジオ借りたしということで、リードギター梨乃、リズムギター鮎奈、ベース千里、ドラムス京子、ピアノ麻里愛、グロッケンシュピール蓮菜という7ピースで、蓮菜が受験勉強中に書いた歌詞に千里が自動車学校の合宿をしている間に付けた新曲『trois ans』(トワザン:3年間という意味−高校の3年間を振り返ったもの)を練習し、スタジオの技術者さんにお願いして録音してもらった。
 
「やはり蓮菜は良い詩書くし、千里もきれいな曲付けるなあ。バンドに参加しなくても楽曲は書いてくれない?」
と鮎奈が言う。
 
「いいよ」
と蓮菜も千里も答える。
 
「レコード会社との契約は大丈夫なんだっけ?」
「自分たちのバンドのために書くことと、例の名前を使わなければOK」
「なるほどね」
 
「麻里愛も曲書いてくれない?」
「うーん。じゃ、私も時間があったらね」
 
ということで、East Capitol Kittens (ECK;後のゴールデンシックス)の楽曲はDRK (Dawn River Kittens) の時と同様、蓮菜・千里・麻里愛の3人で書いていくことになるのである。
 
なお East Capitol Kittens のリーダーは7人でジャンケンした結果、花野子が務めることになった(千里や蓮菜もバンドはしないと言っているのにジャンケンには参加させられた)。7人で回せるメーリングリストを作って連絡するということで、その日は解散した。
 

他の子たちと別れた後、千里は東京駅に行って新幹線に乗り込む。バンド演奏で少し汗掻いちゃったかなと思い、トイレで下着を交換した上で、高校卒業のお祝いにと叔母からもらったエリザベス・アーデンのサンフラワーを身体に少し吹き掛けておいた。
 
夕方新大阪に到着。改札口の所で貴司が待っていた。
 
手を振って近寄っていく。
 
「お疲れ様。それと大学合格おめでとう」
「ありがとう。そちらも準優勝、おめでとう。入れ替え戦惜しかったね」
「うん。手応えはあったんだけどね」
「惜しかったよね。10点差だもん。ちょっとした流れでひっくり返っていた」
 
貴司は大阪の実業団2部リーグのチームに所属している。実業団に入る選手は上位のチームだとほとんどが大学のバスケ部出身者だが、下位の方になると高卒の選手も混じっている。ただし下位の方は、実業団というよりは社員のレクリエーションに近いチームも多い。
 
貴司がここに入ったのは、貴司の中学の時の先輩・水流さんのお兄さんがこのチームに所属していて、インターハイで活躍した貴司の実績を元に推薦してくれたこと、そしてここのチームは3年前に社長が交代して以来スポーツ活動に力を入れていて、野球部と陸上部も創設した他、それまでレクリエーション並みだったバスケ部にも予算を投入して、練習環境だけは上位チーム並みになっていたからであった。
 
それまでは週に1回勤務時間後に近くの中学校の体育館を借りて練習し、試合もオフシーズンは2ヶ月に1度程度だったのを、廃部になった企業チームが使用していた専用体育館を借り受け、公式練習(午後3時で勤務終了後10時まで練習)・自主練習(定時退社後10時まで)を合わせて毎日練習をするようになり、コーチにも関東の有名大学の監督経験者を招いて体制を整備した。また実力があるのに所属していたチーム消滅などで活動の機会を失っていた選手を積極的に登用。また大阪の実業団は公式のリーグ戦は10月から1月に掛けての冬季に行われるだけだが、試合機会を求めて近隣の実業団チームや学生チームなどと積極的に練習試合を行っている。またその様子をリアルタイムでtwitterで報告し、試合の動画もyoutubeにあげていて、お陰で選手個人のファンがかなり形成されている雰囲気である。
 
それでこのチームは3部リーグで万年最下位争いをしていたのが一転して実力のあるチームに変身し、最初の年に3部リーグで優勝して2部リーグに昇格、昨シーズンは2部リーグで準優勝。1部リーグ下位チームとの入れ替え戦をおこなったものの、惜しくも及ばなかったのであった。
 

取り敢えず近くのカフェに入り、コーヒーを飲みながら一息ついた。
 
「でもありがとう。わざわざ男装してきてくれて」
 
千里は新幹線の中でウィッグを外し、アイブロウで眉毛を太めに描いて、下もズボンに替えている。トップもゆとりのあるワークシャツを着てバストを隠している。
 
「貴司の彼女に誤解を与えるのは本意じゃないから。私としては貴司とは友情でつながっているつもりだけど、私が女の子の格好で会っているのを彼女の友だちとかに見られたら、きっと浮気してるって誤解されるだろうからね」
 
「うん。悪いけど、僕も千里に今は恋愛感情は持っていないつもりだから」
 
「私、大学で恋人作っちゃうかも知れないけど、いいよね?」
と千里は念のため貴司に訊く。
 
「もちろん。その方が僕も安心して千里と付き合えるかも」
 
「バレンタイン送っちゃったけど、揉めたりはしなかった?」
「大丈夫だよ。ファンからの贈り物も何個かもらったから
「なるほどー。有名スポーツ選手の便利な所だね」
 
「もっとも他のファンからのバレンタインはチームのみんなでシェアしたけど千里からもらったのだけは自分で全部食べた」
「ふーん」
 
わざわざそんなことを言った貴司の思惑を探るように千里は少し微笑んだ。 
「ホワイトデーは伝票を即処分したから、こちらには証拠は残らないし」
「ふふーん」
 

貴司は現在所属しているチームの最年少選手として、企業の広告塔にもなっており、バスケ部のホームページの表紙にも写真が出ているし、会社の製品のCM(但し関西ローカル)にも出演している。どうかした選手なら、そういう扱いをされると先輩たちから嫉妬されたりするものだが、貴司は人当たりが柔らかく敵を作らないタイプだし、いじられやすい性格なので、むしろ先輩たちから半ばアイドル・半ばおもちゃのように扱われて、逆にチームの潤滑油の役割も果たしているようである。
 
もっともそのお陰で色々変なこともやらされているようだ。
 
「フリースロー外した罰と言われて、褌一丁で会社の玄関にバケツ持って2時間立たされたのは参った」
「ああ、私は絶対に貴司のチームには入りたくないな」
 
「そうかと思えば女装で御堂筋を歩かされたりもしたし」
「それ写真無いの〜?」
「少なくとも僕は持ってない。パンプスってあんなに歩きにくいとは思わなかった」
「つま先だけで歩く感じになるから、トレーニングにもなるよ」
「へー」
「でもよく貴司の足に合うパンプスがあったね」
「女装用品のショップで買ってきたらしい」
「ほほぉ」
 

そういう訳で、少なくとも大阪近辺では貴司の顔を知っている人が結構いる可能性があるので、そういう人が貴司が千里と会っている所を見て誤解するとまずいしということで、貴司の車に乗ってドライブしながら話すことにする。千里は助手席は彼女専用にしておきなよ、と言って後部座席に乗った。 
「千里、大学ではバスケしないの?」
「うん。私としては中学高校の5年半で燃え尽きた気分」
「大学に女子バスケ部は無いの?」
「あるみたいだけど、私もう男の子になっちゃったから」
 
「千里、今日は男装してるから、何とか男の子に見えないこともないけど、普通の格好してれば女の子にしか見えないと思うよ。女子選手としての登録カードも持ってるよね?」
 
「うん。宝物」
「それがあるんだから、普通に女子選手として大学のバスケ部にも登録できるはず」
「声変わりも来ちゃったしね」
「それでも千里は女の子だと思うよ」
「・・・・・」
 
そんなこと言われたら、私・・・・。
 
高速に乗って明石海峡大橋(パールブリッジ)まで行き、その美しい夜景を眺めながら、たくさんお話をした。話題はほとんどバスケのことで、浮いた話は全く無かった。貴司が熱くバスケのことを話すのを千里は微笑ましく聴いていた。つい夢中になって話していたらもう24時を回ってしまう。
 
「ごめーん。遅くなっちゃった。そろそろ帰ろうか」
「うん」
 
取り敢えずトイレに行く。
 
「千里そういう格好してても女子トイレ使うんだ」
「えー、私が男子トイレ使う訳ないじゃん」
「確かにそうだ」
「私男子トイレ最後に使ったのは中学の時だよ」
「千里、立ってはできないよね?」
「物心付いて以来立ってしたことはない」
「何センチくらいあるの?」
「1センチ未満だと思うけど」
「実は0センチとか?」
「ふふふ。一緒にお風呂に入って確かめてみる?」
 
貴司がドキっとした顔をする。ふたりは高校時代に何度もセックスはしているが実は一緒にお風呂に入ったことが無い。
 
ともかくも駐車場の方に戻るが、デートスポットだけあって、何だかあちこちにカップルが居るし、過熱して結構濃厚なことをしている子たちも居る。明らかに結合中のカップルまで居る。千里はそういうカップルたちを見て、ちょっとドキドキしていた。
 
やがて車の所まで来る。貴司がドアをアンロックする。それで千里が後部座席に乗り込もうとした時
 
「千里」
と貴司が声を掛けた。
 
千里は返事をせずに貴司を見た。あ・・・。
 
と思った時は既にふたりはキスしてしまっていた。
 
キスしてしまってから貴司が「ごめん」と言う。
 
少し気まずい雰囲気のまま貴司は車をスタートさせた。来る時はたくさんおしゃべりしてたのに、帰りはお互い沈黙である。千里も今のキスの後で、何を話していいか正直分からなかった。
 
「あ、えっと、千里ホテルは大阪市内?」
「に確保してたけど、連絡入れてなかったらもうキャンセル扱いになってると思う」
「ごめーん」
「いいよ。ネットカフェにでも泊まるから」
 
本当はホテルなど確保していなかった。安いの大好きな千里は、最初からネットカフェに泊まるつもりだったのだが、ここではそんなこと言わない。
 
「どこかに一緒に泊まらない?」
と貴司は言った。
「私、貴司の愛人になるつもりは無いからね」
と千里は言った。それは貴司の《元妻》としてのプライドだ。
 
しばらくふたりを沈黙が包む。
 
やがて西宮名塩SAが見えてくる。貴司は中に入ると、SAの施設からかなり遠い場所に車を駐めた。お互いに沈黙したままである。
 
「千里。僕は今千里が欲しい」
と貴司は言う。
「恋人でもないのにHしたくない。私たち、友だち同士だったはず」
と千里は答える。
 
「その友情を壊しても千里が欲しい」
と貴司は言う。千里は答えなかった。貴司は車をロックした上で靴を脱いで後部座席に来た。千里の唇にキスをする。
 
そして千里のシートベルトを外して座席に押し倒す。千里は抵抗しなかった。しかし積極的な行動もしなかった。貴司が千里の服を脱がせて行く。自分も脱いで行く。
 
「彼女ともHしてるんだよね?」
と千里は訊く。
 
「実はまだしてない」
「どのくらい交際してるの?」
「9月からだから半年」
「高校生じゃあるまいし半年付き合ってセックスしないって普通じゃない気がする」
「何度か彼女から遠回しにホテルに誘われたけど、はぐらかした」
「なんで? 普通の女の子には立たないなんて言わないでよね」
「実はまだ千里のことが好きなんだよ」
「私は男の子だよ」
「それだけは絶対嘘だ」
 
結局ふたりとも裸になってしまう。貴司は千里の乳首を舐める。快感に千里も心が暴走してしまいそうだ。更に貴司は千里が堅く閉じているお股の上のあたりに指を当てると回転運動を掛ける。
 
「やめて、お願いだから」
と千里は言うが貴司はやめない。千里の脳はもう陶酔物質で満ちている。 
「お願い。やめようよ。今ならまだ未遂だから、何もなかったことにできる。今日もししちゃったら、私たちもう会えなくなるよ」
「たとえそれでもいいから、したい」
「馬鹿ね・・・」
「うん、僕馬鹿だと思う」
 

貴司は自分のバッグから避妊具を取り出した。そして装着する。
 
「最後に。もう一度考えて」
「ごめん。今から千里をレイプする」
「そんなこと言ってからするなんてずるいよ」
「千里から訴えられたら罰として去勢されてもいい」
「私が訴えないと思ってたら考え違いだからね」
 
それでも貴司は強引に千里の足を広げて、自分のを千里の中に入れてきた。千里はため息を付いた。
 
貴司は千里を抱きしめ、キスをしてピストン運動をする。貴司に「そこ」に入れられたのはもう何度目かな・・・と千里は考えていた。初めて入れられた時はそうでも無かったけど、慣れてきたせいだろうか。結構気持ちいい気もする。 
1年ぶりだったせいだろうか。貴司はあっという間に逝ってしまった。そして疲れていたのだろうか。そのまま眠ってしまった。彼の90kgの体重がまともに千里の身体の上に掛かる。
 
もう。。。。せめて抜いてから眠って欲しいなと思ったものの千里も取り敢えず眠ることにした。
 

貴司が目を覚ました時、もう外は明るくなっていた。しかも車は走っている!? 
「あ、貴司目が覚めた? 私をレイプした罰として去勢しちゃったからね」
「え!?」
 
貴司はまだ裸のままである。自分の股間を見ると、本当におちんちんもタマタマも無い。そしてお股には割れ目ちゃんが見えている。
 
うっそー!?
 
チンコ切り落とされた!??
 
焦った貴司はお股に触ってみると、割れ目ちゃんはフェイクであることが分かる。 
「これ接着されてる・・・・」
「うふふ」
「あ、この中にチンコと金玉が入ってる」
「面白いでしょ。女の子の形に見えるでしょ?」
「千里、こうやっていつも隠していたのか」
「そうそう」
「でも今はもう本物の女の子のお股になっちゃったんだよね?」
「どうかな」
 
「昨夜、僕が入れたの千里のヴァギナだよね? スマタの入り方じゃないと思った。もちろん後ろの穴に入る角度でもなかったはず」
 
貴司は昨夜千里の両足を横に広げてから結合したはずというのを思い出していた。スマタは両足を閉じてないとできない。また後ろに入れるなら膝を立てたりさせて足を上向きにしないと難しいはずだ。
 
「もし貴司が昨夜、私のヴァギナに入れたんならそれってレイプだから、私、告訴するからね」
と千里は運転しながら少し怒ったように言う。
 
「・・・・」
 
「でも私は男の子だからヴァギナなんて存在しないから、レイプも成立してないけどね」
と千里は一転して明るい口調で言った。
 
「千里・・・・」
「だから昨夜は何も起きなかった。だから、私たち友だちのままだよ」
 
貴司は少し考えているようだった。
 
「分かった。それでいい」
 
「またゴールデンウィークとかに会おうよ」
「うん」
「今度は彼女を紹介してよ。男友達に彼女を見せるのは問題ないでしょ?」
「千里、また男装してくるの?」
 
「私、男の子だから、男の子の服を着てくるよ」
 
やがて桂川PAが見えてくる。千里はそこに入れて車を駐めた。
 
「えへへ。ちょっと無免許運転しちゃった」
「まあお巡りさんに見つからなくて良かったね」
「私、京都駅から帰る。ごめんねー。こんなところまで運転してきて」
「いいよ。八つ橋でも買って帰るよ」
 
「でも高速を飛ばすのって気持ちいいね。私、安いのでもいいから車買っちゃおうかな」
と千里は言う。
 
「あまり安すぎるの買うと危ないよ。最低でも100万以上にした方がいい」
「そんなに? このアウディは幾らしたの?」
「500万。5年ローンだけど」
「きゃー! 私はやはり5万円の車を探そう」
「そんな車、高速を走っててブレーキが利かなくなったりしても知らないよ」
 

千里は結局京都で貴司と一緒に八坂神社を訪れ、先斗町界隈まで散歩し、少ししゃれた日本料理店でお昼(1人1万円もした!)を食べてから京都駅まで送ってもらい別れた。なお、避妊具の入ったゴミ袋は途中でコンビニのゴミ箱に捨てた。
 
新幹線で東京に戻り、その日は神田のネットカフェで夜を明かした。朝御飯を近くのうどん屋さんで取った後、千葉に戻って免許センターに行き学科試験を受ける。それで合格して、千里はグリーンの帯が入った運転免許証を手にする。もちろん免許写真はきちんとお化粧して、可愛い服を着て写っている。千里は3月3日が誕生日なので、免許証の有効期限は2012年4月3日である。
 
千里は免許証を受け取るとそのまま羽田空港に向かう。いったん旭川と留萌に戻って引越準備である。
 
 
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