【女子大生たちの新入学】(2)

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千里が免許を取得した翌日。同じ免許センターで学科試験を受けている女学生の姿があった。桃香である。桃香も千里と同じ時期に別の自動車学校の合宿に行っていたのだが、金曜日の卒業試験で対向車がいるのに無理矢理先に右折するなどということをやって落とされた。それで月曜日に再度卒業試験を受けて今度は合格し、今日やっと免許センターに学科試験を受けに来たのである。
 
それで桃香は千里に1日遅れて3月31日にグリーンの帯の免許を手にした。桃香の誕生日は4月17日なので、桃香の免許証の有効期限は2011年5月17日になる。
 
桃香と千里は同学年ではあるが誕生日が3月と4月なので実際は1年ほど桃香の方がお姉さんなのである。
 
今日泊めてもらう予定の館山市内の伯父(桃香の父の兄)の所に移動する。
 
「桃香ちゃん、合格おめでとう」
と言って伯母は笑顔で桃香を歓迎してくれた。夕方伯父が帰宅する。
 
桃香の免許証を見て「あれ最近はグリーンなんだっけ?」などと言う。
 
「最初だけグリーンなんですよ。3年後にブルーになってその後、無事故無違反なら、その後はゴールドです」
 
「へー。ゴールドが創設されたのは覚えてたけどグリーンというのは知らなかった」
と伯父。
「あなたもゴールドになると保険料が安くなるのにね」
と伯母。
 
「日常的に運転していてゴールドってのは無理だよ。ほんっとにえげつない場所に警察って居るんだから。ゴールドなんてペーパードライバーがほとんどだと思うよ」
などと伯父は言う。
 
「そうだ。桃香ちゃん、ちょっとうちの車運転してみない?」
と伯父は言い出す。
 
「え?いいんですか?」
「ちょっと、あなた免許取り立てでまだ危ないわよ」
「練習しないとうまくならないさ。僕が助手席に乗ってあげるから」
 
それで桃香は伯父のカローラの運転席に乗り込む。伯父が助手席に乗り、伯母が後部座席に乗った。自動車学校で卒業記念にもらった若葉マークを車の前後に貼り付けた。
 
「木更津あたりまでドライブしよう」
と言って国道127号線に乗る。昨日まで自動車学校に居たから、充分身体が運転を覚えている。桃香は調子良く車を運転していた。
 
「おお、上手い、上手い」
と褒められる。
 
やがて車は君津市内に入る。やや渋滞気味である。
 
「こういうのは精神的に疲れるよなあ」
と伯父。
「慎重にね。歩行者の飛び出しとかにも注意して」
と伯母は言う。
 

それで君津市内のファミレスに車を駐め、一緒に夕食を取った。それから帰りもまた桃香が運転する。そして中心部から出ようとした時であった。
 
目の前の信号が突然赤に変わった。
 
え!?
 
慌てて桃香はブレーキを踏んだが、反応が遅かったので交差点のど真ん中で停まってしまった。やばー!と思って桃香は焦る。それで、こんな場所に駐めたら迷惑だろうと考え、桃香はまた車を発進させて交差点の向こう側まで進めてしまった。伯父が「あっ、ダメ」と言う声を聞いた。
 
そして交差点の向こう側に辿り着いた途端「そこの青いカローラ、停まりなさい」
というスピーカの声が聞こえる。
 
「うっ・・・・」
 
脇に寄せて駐める。パトカーが寄ってくる。運転席のドアをノックされるので桃香は窓を開ける。
 
「運転免許証見せて」
「あ、はい」
 
それで桃香はバッグから今日もらったばかりの運転免許証を取り出して警官に渡す。
 
「なぜ停められたか分かる?」
「えっと・・・今のって信号無視になりますか?」
「完璧に赤だったよ」
と警官から言われた。
 
そういう訳で桃香は免許取得初日にして、切符を切られるハメになったのであった。
 

千里は留萌まで戻って(実家に行く時は自粛して男装しておいた)数日両親、高校新2年の妹と一緒に過ごした後、母と一緒に旭川に出て、美輪子叔母の所に行く。千里は旭川に出る汽車の中で男装を解いていつもの女の子の格好にしてしまった。その服装についてその日母は何も言わなかった。
 
3年間過ごした部屋で荷物を整理する。
 
「千里ちゃん居なくなると寂しくなるなあ」
などと美輪子は言っている。
 
「あんたもそろそろ結婚したら?」
と母。
「そうだね。もう交際し始めてから5年だし、いい加減結婚すべきかなあ」
「恋愛って勢いなんだよ。本当は交際し始めてから1年以内に結婚するのがいい」
と母は言う。母と父は交際開始して半年で結婚したらしい。日々海に出ていて生命の危険がある仕事をしている故に父は早く結婚したかったんだよ、といつか母は言っていた。でもおかげで結婚前にデートって2回しかしたことがないらしい。
 
千里は自分と貴司って、結婚できる年齢で知り合っていたら結婚に至ったのだろうかと少し考えてみたが分からなかった。もっとも自分と貴司の場合、籍こそ入れていないものの、双方の母が承知の上で《結婚式》を挙げている。それから貴司が大阪に就職するため北海道を離れることになり《関係を解消》するまでの1年間、自分たちは確かに夫婦であるという意識を持っていた。そのことがお互いの心を物凄く安定させていた。自分にしても貴司にしてもバスケであの年あんなに活躍できたのは結婚していたからだと思う。
 
あの《結婚式》を挙げた時は、交際し始めてから4年近く経っていた。しかし法的には結婚できない年齢だからこそ貴司の母は自分を《嫁》として受け入れてくれたのかも知れないという思いはある。自分の性別問題は多分重い。
 

4月6日。千里はまた飛行機に乗って羽田に出て来た。そのまま千葉市まで行き、不動産屋さんで鍵を受け取る。荷物が到着するのは9日なので、それまでの夜用の寝具としてスーパーで毛布を1枚買った。千里と同じ高校の1年先輩でC大学に通う人の所を訪れて挨拶し、先輩が使っていた教科書を譲ってもらった。
 
「古本屋さんに売り飛ばしても二束三文だからね。後輩が使ってくれるなら、その方がいいもん」
と彼女は言っていた。
 
「これで足りないのが出たら言って。友だちに訊いてみるから」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
 
洗濯機と冷蔵庫を市内の電機量販店で買い配達を頼む。ホームセンターで6800円のママチャリを買う。千里が借りたアパートは大学から5kmほど離れているので、通学に自転車が必要である。旭川では冬期の自転車通学はギブアップしたものの、千葉なら1年中行けるだろうなと千里は踏んでいた。
 

夕食を取るのにどこか適当な所を探して夕方の千葉市内を歩く。マナ板や包丁に鍋などの調理器具は通販で買って近い内に届く予定だが、それまでは本格的な料理ができないので、数日間は外食に頼ることになる。(お昼は大学の学食で食べた)
 
小さな中華飯店があった。表に出ている食品サンプルを見る。あ、エビチリとかいいな。でもボリュームがあったら食べきれないな、などと思って眺めていたらいきなり誰かに後ろから手で目隠しされる。
 
思わず「きゃっ」と声を上げてしまった。
 
「だ〜れだ?」
 
「雨宮先生、びっくりするじゃないですか!」
と言って千里は振り向いて文句を言った。
 
「あんた声変わりしちゃったとか言ってたけど、今女の声で悲鳴あげたね?」
「気のせいでは?」
と千里は普段通りの男声で答える。
 
「東京に出て来たんなら、真っ先に私の所に挨拶に来なさいよ」
 
「お早うございます。雨宮先生。挨拶が遅れまして、申し訳ありませんでした」
「うん、お早う。取り敢えずどこかで居酒屋にでも行って飲み明かそうよ」
「私、未成年です!」
「世間的には18歳になったら飲んでもいいのよ。あんた18は過ぎたでしょ?」
 
「18にはなりました。それで運転免許も取りましたし」
「お。運転免許って大型二種?」
「大型二種は21歳以上、運転経験3年以上でないと取れません。普通免許ですよ」
 
「運転経験は3年以上あるでしょ?」
「免許取ってから3年ですよ!」
 
「ふーん。だったら車は買った?」
「買うお金無いですー。引越で20万使ったし免許取るのに20万使ったし大学の入学金授業料で70万。冷蔵庫・洗濯機とか他にも生活用品買ってたら、あっという間に120万です」
 
「あんた昨年の年収、500万はあるはずだよ」
「・・・・」
「それとも、あれ使っちゃった?」
「私そんな無駄遣いしません」
「無駄遣いしなくてもそれで性転換手術を受けたとか」
「500万も掛ける性転換手術って何ですか?」
「そうだなあ。朝青龍みたいな男性が大島優子みたいな女の子に変身したいと言ったらそのくらい掛かるかも」
「それって500万掛けても無理だと思いますけど。一度生まれ変わらないと不可能」
 
「まあ身体って小さいものを大きくするのは何とかなるけど、いったん大きくなったものを小さくするのは難しいからね」
「そうですね。身長を伸ばす方法は存在しても、縮める方法は存在しない」
 
「おちんちんもFTMの人は頑張って鍛えて、元々0.5cmくらいしか無かったのを3cmくらいまで育てる人がいるよね。でもMTFの人のおちんちんが縮んでいってクリちゃんサイズになることは無い」
「なんでそういう話になるんですか?」
「千里は、おちんちんが大きくならないように小さい頃からずっと気をつけていて、いまだに3〜4歳の子供くらいのサイズだったりして」
「・・・・・」
 
「よし、一緒に車買いに行こう」
「えーーーー!?」
 
と唐突な話の展開に千里は驚く。
 
「ちょっと待ってください」
「あんた正直に言いなさいよ。今貯金の額は?」
「400万円くらいです。でも高校行ってる妹の学資を送金してあげないといけないから全部使い切る訳にはいきません」
「そのくらいあれば充分じゃん。また稼がせてあげるからさ。さ、行こ行こ」
 
「御飯食べるんじゃなかったんですか?」
「晩御飯はその後、その後。一流ホテルのディナーおごってあげるよ。大学進学のお祝いに」
 

ということで千里は自動車屋さんに引っ張って行かれることになったのである。
 
「車のメーカーの好みは? ポルシェ?フェラーリ?BMW?」
「国産メーカーがいいです!」
 
「BMWとか格好良いのに。女の子が振り向くわよ」
「私、女の恋人は要りません!」
「レスビアンも楽しいわよ」
 
「・・・先生って、女の子とHする時、レスビアンの感覚なんですか?」
「そうだけど」
「そうだったのか」
「お互いにおっぱい弄り合っていたら興奮してくるわよ」
「・・・・・」
 
千里はこないだ貴司と会った時に貴司からたくさん乳首をいじられたことを思い出していた。千里にとってもHは1年ぶりだったから、あれは快感だった。ただああいう状況でのHは不本意だった。
 
それで結局、中古車を扱っているお店に行った。千里がどのメーカーがいいか良く分からないと言うので、色々なメーカー・車種が見られた方がいいし、それであらためて新車を買ってもいいしということにしたのである。電車で移動して都内に入り、江戸川区内である。
 

「これなんか格好よくない?」
と言って雨宮先生が言ったのは、マツダRX-8である。140万円の表示になっている。
 
「それ、後部座席が狭いという噂が」
「あら、良く知ってるじゃん。まあ事実上の2シーターだよね。後部座席は緊急用みたいなもの」
 
次に先生が示したのは日産スカイラインGT-Rである。320万の表示。
 
「さすがに予算オーバーです」
「いくらくらいの予算を考えているの?」
「そうですね〜。4〜5万とか」
「それだとタイヤ1個だけだね。一輪車みたいにして乗る? それで100km/h出せたらオリンピックに出られる」
「何の競技ですか!?」
 
その後雨宮先生は、三菱ランサーエボリューション、ホンダNSX、トヨタ・クラウンマジェスタと見せて行く。さすが雨宮先生が連れて来たお店だけあって、何だか高級車種、特にスポーツタイプのものが充実している感じだ。さすがに見ただけでパスしたがポルシェやフェラーリまであった。
 
「あんたAT限定免許じゃないよね?」
「違います。MTもATもどちらも乗れます」
 
その時、斜め後ろで《りくちゃん》が『千里、あそこの右斜め前』と声を掛けた。その声につられてそちらに行く。雨宮先生も続く。
 
「ほぉ。面白いのに目を付けたね」
「60万円って素敵ですね」
と千里は言った。
 
「いやに安いな。これ事故車じゃないよね? ちょっと来て〜!」
と雨宮先生がスタッフを呼ぶ。
 
それで千里が目を付けたインプレッサ・スポーツワゴンが、事故車ではないかの確認をする。
 
「前のオーナーが一度壁にぶつけてボンネットとかヘッドライトとかを交換しています。でもフレームに響くような事故ではありませんので、事故車にはなっていません」
とスタッフは説明する。
 
「なるほどね。どうする?」
と雨宮先生が訊く。
 
「これ気に入りました」
と千里は言う。
 
「よし。これ、50万円に負けてよ」
と雨宮先生。
 
「無茶言わないでください。このお値段でもかなりの出精価格です」
とスタッフさんは冷静である。
 
「今キャッシュで払っても?」
「ちょっと待って下さい」
 
とスタッフさんが店舗の方に行く。
 
「キャッシュで50万お持ちなんですか?」
と千里が訊く。
「100万持ってるけど」
「凄い!」
 
「女の子何人か呼び出してドンペリ開けてどんちゃん騒ぎしようかと思ってたんだけどね。あんたをおちょくる方が楽しそうだし」
「お手柔らかに」
 
それで店長さんらしき人と一緒にスタッフさんが出てくる。
 
「今キャッシュでお支払いになるということで?」
「うん。だから45万に負けてよ」
 
さっきより更に値切るつもりだ!
 
「54万円というのではいかがでしょうか?」
と店長さん。
「そうだね。じゃあんたの顔を立ててそれで」
と雨宮先生。
 
それで千里はこのインプレッサ・スポーツワゴンを買うことになったのである。
 

手続きをするのに店内に入り、千里が書類に記入していたら、
 
「あれ?未成年さんですか?」
と言われる。
「はい」
「申し訳ないのですが、未成年さんでは車の所有者になれないのですが」
「あっと・・・」
 
「あら。だったら私が所有者になるわよ。それで千里ちゃんは実質的な使用者。それでいいわよね?」
「はい、それなら問題ないです」
 
そういう訳で、この車は登記上は雨宮先生の所有車として登録されることになった。なお駐車場に関しては、車を雨宮先生の名前で登録してしまったので、駐車場も雨宮先生の御自宅ガレージで登録した。(その後の毎年の税金等も雨宮先生の所に振込票が送られてくるのを千里の所に回送し千里が払う方式である)
 
「実際の駐車場は適当な所を探して契約すればいいわよ。あ、それも私がしてあげるね。多分未成年では契約できない」
「あ、そうですね。じゃよろしくお願いします。明日取り敢えず60万ほどそちらの口座に振り込みます」
「あ、いいよ。今月末に印税振り込む時、その分相殺するから」
「それでいいんですか?じゃ、よろしくお願いします」
 

それでタクシーで赤坂まで行き、なんと赤坂プリンスホテルに入る。
 
「これはまた凄いホテルですね」
と千里は言うが、あくまで冷静である。
 
「あんた面白くない。普通の女の子なら、キャーとかすごーっとか騒ぐのに」
「さすがに2年以上先生とお付き合いして、先生の流儀にもかなり慣れました」
 
高校時代、先生に何度突然呼び出されて飛行機に飛び乗ったろうかと千里は考えていた。
 
「ふふ。それでどう? 今夜このホテルのお部屋に付き合ったりしない?ここお部屋も豪華だよ。一度見ておいて損は無いから」
「先生のその誘い文句がジョークというのも承知してますから」
 
「全く面白くない。面白くないから、これゴールデンウィーク明けまでに曲を付けて」
と言って雨宮先生は、歌詞をプリントした紙を3枚渡す。
 
「分かりました」
と冷静に言って千里はそれを自分のバッグにしまった。
 
「今気付いた。あんた上品な香りしてるね。何の香水?」
「叔母から卒業祝いにもらったエリザベス・アーデンのサンフラワーです。香水じゃなくてオードトワレですけど」
 
「ふーん。あんたもセンスいいけど、あんたのおばちゃんもセンスいいんだね。嫌みのない香りだよ」
「結構気に入ってます」
 

「ところであんた実際の所、もう身体は直してるんだっけ?」
「まだです」
「おっぱいはあるよね?」
「ええ。小さいですけどね」
「あんた女性ホルモンまじめに飲んでないでしょ?」
 
「女子バスケ部部員として活動していた時期は、ちゃんとホルモン的に女の子でなければいけないだろうと思って本来飲むべき量を飲んでいました。でも、引退後はまた少ない量に戻しました。今飲んでいるのは、普通の人が飲んでる量の3分の1くらいです」
 
「だから声変わりが来たってことにしてるのね」
「声変わりは本当に来たんですけど」
「うそうそ。あんたちゃんと女の声も出るはず」
「練習はしてますけどね」
「男の声を出す練習でしょ?」
 
「先生は女性ホルモン飲んでおられるんですよね?」
「もちろん」
「それで立つんですか? 去勢も両方ともなさってからだいぶ経つし」
 
雨宮先生は2006年に睾丸を片方除去し、翌年には残る1個も除去してしまった。
 
「毎日しっかりオナニーしてればちゃんと男性能力は維持できるのよ」
「それは多分レアなケースだと思います」
「だって女の子の中に入れる快感ってすごいもん。ハマるわよ。あんたも一度経験してみるといいよ」
「立ちませんよー」
「立たないというより、実はもう存在しなかったりして?」
 
雨宮先生の意味ありげな視線に千里も意味ありげな視線で答える。
 
でも貴司は私の身体にハマっちゃったのかな、などと千里はふと思った。私ってしばしば貴司には踏み台にされてる気もするし、私としたことで彼女ともセックスしちゃったりしてね、などと考えたりした。
 
しかし・・・・貴司が他の女の子とHしてる所を想像したら・・・・
 
嫉妬しちゃう!!
 
そんなことを考えていたら後ろで《こうちゃん》が千里に話しかける。
『大阪に飛んでって邪魔してこようか?』
『勝手なことするな』
『はーい』
 

「取り敢えず飲まない?」
と言って雨宮先生が千里のグラスにワインをそそぐ。何やらフランス語が書かれている。赤ワインだ。
 
「頂きます」
と言って千里はワインを一気飲みした。
 
「よしよし。そうこなくちゃ」
 

その日は赤坂プリンスホテルのレストランの素敵なディナーを頂いたのだが、ふたりでワインを3本開けた。料理も美味しかったが、ワインも美味しかった。
 
「私、しばらく禁酒します」
と千里は別れ際に言う。さすがに脳の感覚が遠い。
 
「ふふふ。また飲もうよ」
「じゃ20歳になってから」
「私、そんなに待たないからね」
 

旭川から送った荷物は9日に到着することになっていた。寝具などはそちらを使うが、細々としたものはこちらで買う。千里は7日の日は町に出て、百円ショップやドラッグストアなどを巡り、ゴミ箱、ビニール袋、洗濯ロープ、また非常食のインスタントラーメンやミネラルウォーターなどを買った。水道の水が飲んでみるとかなり不味く、そのままではお茶を飲むのには使えないと判断した。浄水器買わないといけないなと思う。ミネラルウォーターが重たかったし、お米なども買ったので、千里は自転車で4回くらいアパートと町の間を往復した。
 
8日。入学式である。千里は手荷物で持って来ていた旅行鞄からピンクのレディスフォーマルを取り出して着て、パンプス(これはこちらで新しいのをひとつ買った)を履き、会場まで出かけて行った。
 
会場最寄りの駅で同じ大学の医学部に入学する鮎奈と落ち合う。
 
「おぉ、千里の普通の格好だ。でも良い服着てるね」
と鮎奈が楽しそうに言う。
「鮎奈こそ良い服じゃん。それヴェルサーチ?」
と千里も言う。
 
「うん。叔母ちゃんが貸してくれた。高そうで緊張するよ」
 
鮎奈の叔母が水戸に住んでいて、鮎奈が北大医学部を受けずにわざわざC大の医学部を受けることを親が認めてくれた背景には、その叔母が近くにいるからというのがあった。
 
ふたりで一緒に受付の所に行き、入学手続きの時に渡された受領書を見せて、学生証やいくつかの書類を受け取る。
 
「だけど千里、□□大学の医学部にも通ったのに、こちらにして良かったの?」
「あれは教頭先生との約束で受けただけだからね。約束を果たすのに根性で合格したけど、合格したことで義務は果たしたから。そもそも私立の医学部に行くお金が無いよ」
「まあ、確かに医学部って私立は学費の桁が違うよね」
「それに私って何でも頑張るの最初だけだから6年もテンション持たない」
「ああ、それはありそう」
 
と言って鮎奈は頷く。
 
「そうだ千里の学生証見せてよ」
「うん」
 
「ふーん。ちゃんと女の子の格好で写真は写ってるね」
「男の格好では写りたくないよぉ」
「学籍簿上の性別はどうなってんの? 学生証には性別が書かれてないんだね」
「まあ普通はそんなの書かなくても見れば分かるからね」
「千里は見れば女だと分かるよね」
「一応願書の性別は男にしていたはずだけど」
「それ単純ミスと思われて女に訂正されているかもね」
 
一緒にアリーナに入る。たくさんの椅子が並べられているので、真ん中付近の右手の方に座った。
 
男子は背広を着てネクタイをしている人が多い。女子は千里たちと同じようにフォーマルを着ている子もいればドレスの子もいる。中には振袖を着ている子も見た。振袖か・・・いいなあと千里はそれを見て思った。
 
やがて10時半になり、入学式が始まる。開式の辞の後国歌斉唱だが、千里はこれを《女声》で歌った。この場では自分の本来のあり方で居なければならない気がしたからである。しかし隣で鮎奈が「へー」という顔をして見ながら自分も歌っていた。それで歌い終わってから突っ込まれる。
 
「そういう声も出るのか?」
「だいぶ練習したよ。でもまだ試運転中。歌えるけどこの声でまだ話せない」
「声変わりする前の声と声質が違う」
「うん。あの声には多分戻れないと思う」
「でもちゃんと女の子の声に聞こえるよ」
「ありがとう」
 
国歌の後、C大学の学歌が歌われるが、これはメロディーが良く分からないので、千里も鮎奈も、ただ聴いていた。
 
学長が壇上に立ち、新入生総代の女性(振袖姿だ!)も壇に登って代表で学長から入学許可を受ける。そして学長のお話があった後、再度さきほどの総代さんが壇上に登って、新入生の決意のことばを述べた。
 
その後、来賓の挨拶、OB会の幹事さんの挨拶などがあった後、閉式の辞となる。入学式は1時間も掛からずに終了した。
 

意外にあっけなかったなと思いながら、席を立ち、表に出る。ふたりでおしゃべりしながら、人の流れに任せて玄関の方に向かう。
 
その時ふと千里は30mほど前を歩いている女子に注目した。いや最初女子なのかどうか判断を迷った。それは彼女が結構な短髪で、青いセーターにブラック・ジーンズなどという出で立ちで、その格好だけ見たら男かと思う状態だったからである。
 
『こうちゃん』
と千里は後ろの子に呼び掛ける。
 
『あの子だよね。やっちゃっていい?』
『やって』
 
それで《こうちゃん》は彼女の肩にぶらさがるようにしていた《もの》に飛びかかり、彼女から引き離すと、どこかに持ち去ってしまった。彼女があれ?あれ?という顔をして自分の肩を触っている。
 
《こうちゃん》は数分で戻って来た。
 
『食べるわけじゃないのね』
『あんなの食べたら腹壊す。処分してきた』
『ふーん。何だったの?』
『ただの幽霊ですよ。あそこまで念が強いと千里でも見えたでしょ?』
『ぜーんぜん。何か変なの憑いてるっぽいとは思ったけどね』
『あれ多分死んでまだ1ヶ月も経ってない』
『そんなのどこで拾ったんだろうね』
『自殺したっぽいから、たまたまその現場を通りかかったんじゃない?』
『ふーん。でもあの子、全然霊感無さそうなのに』
『美事に無いね。でも霊感が無くても憑かれる時は憑かれる。あんなのぶらさげてたことで、あの子、絶対運気が落ちてるから』
『運気落ちるとどうなるの?』
『カラスとかの鳥爆弾とかをくらいやすくなるし、運転しててお巡りさんに捕まりやすくなる』
『免許取ってすぐに捕まりたくないな』
 
千里は入学式の後は鮎奈と一緒に市内のファミレスに行き、一緒にランチを食べながらおしゃべりして、そのあと「また会おうね」と言って別れた。
 

一方桃香は、入学式が終わった後、館山市内から出て来た伯父夫婦と落ち合い、入学祝いに、しゃぶしゃぶを食べに行った。
 
「でも桃香ちゃん、そんな格好で入学式に出たの?」
と叔母が言う。
 
「入学式だの成人式だの、出ること自体に意味があるのであって華美な服装をするのはよくないと思うのですよね。私は成人式もセーターとジーンズでいいと思っているんだけど」
と桃香。
 
「それはお母さんが悲しむよ。娘の成人式って親にとっても楽しみなんだからちゃんと振袖を着てあげなよ」
「そんな1度しか着ないものに金掛けるって間違ってると思うんですけどね」
 
「でも桃香ちゃん、日曜日に会った時より顔色がいい」
と叔母。
「そうそう。僕も心配してたよ。慣れない土地で風邪でも引いたかと思って」
と伯父。
 
「あ、それが入学式の会場に入るまでは肩が妙に凝ってたんですけどね。会場を出た途端、急に軽くなったんですよ」
と桃香。
 
「桃香ちゃん、もしかしてそれ何かの霊に憑かれていたとかは?」
と叔母。
 
「まさか。そんな幽霊とか妖怪とか居るわけがないです。あんなのみんな気のせいですよ」
と桃香は答えた。
 

食事が終わってから、叔母に尋ねられる。
 
「授業はもう明日から始まるの?」
「いえ。来週月曜日からです。その前に明後日金曜日にクラス分けの発表があって、クラス毎のオリエンテーションもあるから、それに出ないといけないですけどね」
 
「あら、だったら今日明日はうちに泊まらない? 御飯も安心だし」
「あ、そうさせてもらおうかな。昨日はインスタントラーメン作るつもりで鍋を掛けていたら眠ってしまって、鍋を焦がしてしまって」
 
「それ危ない! ガス?」
「ええ」
「桃香ちゃん、IHヒーター買いなさいよ。それで必ずタイマーを掛けるのよ」
「へー。そんなのがあるんですか?」
 
それで一緒に館山の伯父の家まで行くことになるが、ここでまた伯父が言い出した。
 
「桃香ちゃん、運転の練習。家まで運転していってごらんよ」
「あなた、ダメよ。こないだの信号無視ので、桃香ちゃん、お母さんからかなり叱られたみたいよ」
「確かに叱られました」
 
「でも運転してなかったら、上手にならないから。まあこないだのは初心者にありがちな焦りだったね。落ち着いて運転すればいいから」
 

それで桃香が運転席に座り、また伯父が助手席に乗る。若葉マークを装着する。高速に乗った方が信号とか気にしなくていいよと言われて近くのICから館山自動車道に乗った。
 
車は快調に高速道路を走っていく。この付近の制限速度は100km/hであるが車の流れが120km/hくらいだったのでそのままその速度で流れに乗って走る。やがて君津ICを過ぎると車線が1本に減り、制限速度は70km/hになるが、前の車がそのまま120km/hくらいで走っているので、桃香はそれに追随して120km/hで走っていた。
 
やがてその車が途中のICで降りて行く。
 
「少し速度を落とそうか」
と伯父が言うので、桃香は素直に「はい」と答えて取り敢えず100km/h程度まで落とした。
 
「あれ?ここ制限は何キロでしたっけ?」
「えっと、あれれ?80だったっけ?」
と伯父も不確かなよう。実際問題として伯父はここをいつも100km/hで走っていたのである。
 
「じゃ、このくらいならいいかな」
と言って桃香は85km/hくらいの速度で車を走らせた。
 
ところがそれで走っていたら、後ろの車が煽ってくる。かなり車間を寄せてくるし何度かクラクションまで鳴らされた。
 
「遅すぎますかね?」
と桃香が訊く。
 
「あの手の輩(やから)は気にしちゃダメだよ。特に若葉マークに煽るなんて最低な奴だから。マイペースで行こう」
と伯父。
 
「分かりました」
と桃香は答えたが、それでもバックミラーを見ると後ろに3台つながっているので、あと少しくらいは加速してもいいかなという気分になってしまった。下り坂で自然加速したのを機に90km/h程度の速度を維持する。
 
その状態でしばらく走っていた時
「あ、やばい。桃香ちゃんスピード落として」
と伯父が言った。
 
「え?え?」
と言いながらも桃香は速度を落として75kmくらいにする。
 
しかし後ろから白バイが近づいて来て、桃香の運転する車に停止を命じた。桃香が脇に寄せて停めると、後続の車3台が先に行く。
 
桃香は窓を開ける。
 
「運転免許証を見せて」
「はい」
と言ってバッグから取り出して免許証を見せる。
 
「ああ。先月末に免許取ったばかり? 免許取得してから1年以内に3点以上やると初心者講習を受けることになるからね」
と警官が言う。
 
「あのぉ、切符切られますか?」
「僕が赤ランプ付けて警告したのに君、全然スピード落とさなかったでしょ?」
と警官が言う。
 
「ごめーん。僕も気付くの遅れた」
と伯父。
「いや、ドライバーがちゃんとバックミラー見て、後ろにも気を配らなきゃね。並んで走ってた車みんな速度超過してたけど、いちばん出してた君に停止を命じたんだよね」
と警官。
 
こういう状況では先頭車が代表で(?)捕まるということまで、桃香の教習所の講師は教えてくれなかった。
 
「何km/hくらい出してたつもりだった?」
「えっと81km/hくらいかなあ」
 
「バイクの速度計で測ったので、92km/h。ここ何km/h制限か知ってる?」
「えっと80km/hじゃなかったんですか?」
「ここ70km/hなんだけど」
「えーー!?」
「標識ちゃんと見てなきゃだめじゃん。22km/hオーバー。点数2点。反則金15000円」
「あのぉ、少し負けてもらえませんか?」
と桃香は言う。
 
「反省してる?」
「はい。二度とスピード違反はしません」
「だったら今回だけは19km/hオーバーだったことにしてあげるよ。点数1点。反則金12000円」
「切符は切られるんですね」
「それは仕方無いね」
 
ということで、桃香は先日の信号無視で2点、今回のスピード違反で(負けてもらって)1点で、免許取得から10日もしないうちに累積3点となり、初心者講習を受けるハメになったのである。
 
桃香の母・朋子は桃香が電話で連絡すると、初心者講習を受けた翌日《はくたか》と新幹線を乗り継いで東京まで出て来て、桃香のアパートにやってきて、桃香から運転免許証を取り上げて高岡に帰っていった。
 
「免許が無いとできないバイトがあるよぉ」
と桃香は訴えたが
「免許の必要無いバイトを探しなさい」
と母は言った。
「ブルー免許に切り替わる時に返してあげるから」
 
「1年たったら初心者期間は終わるよ」
「2年間、交通規則を勉強し直しなさい」
 

一方千里は鮎奈と別れた後、市内で買物をしていたのだが、蓮菜からのメールが入る。会わない?ということだったので東京に出て行くことにする。
 
《そちら何線で来る?》
《京成かな》
《だったら京成上野の池之端口で待ち合わせ》
《了解了解》
 
千里が東京に出るのに京成を使うのは、むろんJRで行くより40円安いからである! 貧乏性の千里は、いかなる時でも安い方を選ぶというのが身体に染みついている。但し高校生活の3年間の間に、安く済ませられるものは済ませるが、必要だと思ったものにはお金を掛けることを惜しまないというのも、かなり覚えた。そのあたりは、暢子や京子などの友人達の影響、また作曲家の雨宮先生や神社の巫女長・斎藤さんなど《お仕事》で共同作業をした人たちの影響も大きい。
 
京成上野駅を降りて、不忍池方面の出口に行く。蓮菜が居て手を振るので、こちらも手を振って近づいていった。
 
「いい服着てるね!」
と蓮菜が言う。
「今日入学式だったから」
「あ、そうか! そちらは今日だったんだ」
「蓮菜の所は?」
「月曜日」
「へー」
 

取り敢えず近くのマクドナルドに入り、適当に注文して座った。
 
「蓮菜、川村君とはアパート近くなの?」
「うん。近くといえば近くかな。だいたい教養部の学生はみんなあの付近に住んでるから」
「確かにそうかもね」
 
川村君というのは蓮菜が1年ほど前から付き合っていた男の子である。蓮菜と同じ東大に合格しているが、彼は理1である(蓮菜は理3)。
 
「千里も大学の近くにアパート借りたんでしょ?」
「ううん。大学から5kmほどの所」
「なぜそんな遠くに。毎朝学校までジョギングして朝トレ?」
「まさか。そこが家賃安かったからだよ」
「へー。幾ら?」
「共益費込み、11000円」
「それ安すぎ! 幽霊付きとかじゃないの?」
「ううん。幽霊は居なかったよ。でも雨漏りが酷いんだって」
 
「居なかったよと平然と言う所が千里だな。でも雨漏りなんだ?」
「あまり遠くない時期に取り壊して建て直す予定だから、それまで安く貸すということらしい」
「なるほどー。台所とかトイレとかお風呂とかは?」
「台所とトイレは付いてる。お風呂は無いけどシャワールーム付き。畳み半分くらいの狭い所」
 
「それだけでもあるといいよね」
「うん。蓮菜は?」
「うちは台所・トイレはあるけど風呂無し。銭湯に通うよ」
「家賃は?」
「共益費込みで48000円」
「それでも格安物件という気がする」
「築40年だからね」
「それはまた凄い」
「雨漏りはしないみたいだけど、すきま風は結構ある」
「なるほどー」
 
「電車で通わないといけないような場所ならもっと安い所もあるんだけど、結局交通費が掛かると一緒じゃんという面がある」
「確かに確かに」
「千里も5kmも離れてたら交通費が結構掛かるんじゃないの?」
「自転車で頑張る」
「そうか。旭川でも自転車通学してたね」
「こちらだと多分冬も自転車で行ける」
 

「川村君とはこちらでもうデートした?」
「まだ会えないんだよ。どうもタイミングが合わなくてさ」
「ふーん」
「それでさ」
「うん」
 
と言ったまま蓮菜は3分くらい沈黙していた。千里は静かに蓮菜の言葉を待った。
 
「昨日雅文と会ったんだよ」
と蓮菜は千里の方を見ずに言った。
 
「まさか、したの?」
と千里が訊くと蓮菜は横を向いたまま頷いた。
 
雅文、つまり田代君というのは蓮菜の小学校の時以来のボーイフレンドである。しかしふたりは高校1年の時に「友だち」の関係に戻した。しかし友だちではあっても、しばしばセックスはしていた。
 
ただその後田代君にも彼女が出来、蓮菜にも川村君という恋人ができてからは、蓮菜もDRKの制作の時以外は田代君とは会わないようにしていたはずである。田代君がやっていたバンドのボーカルもその時点で辞任している。
 
田代君は都内の大学に進学してバスケット部に入るということであった。
 
「実はさ」
と千里は言った。
 
「うん」
「私もこないだ貴司としちゃった」
と千里は告白する。
 
「へー!」
「ふたりの関係は友だちに戻したつもりだった。貴司には今彼女も居るんだよ。でもこないだ会った時、私は嫌だと言ったんだけどさ。彼強引なんだもん」
 

ふたりはしばらくお互い無言のままだった。
 
「飲まない?」
と千里は言った。
「飲んじゃおうか?」
と蓮菜も言った。
 
それでふたりでビールを6缶とワイン1本買って、そのまま蓮菜のアパートに行った。
 
「じゃ取り敢えず乾杯!」
と言ってビールの缶を開けて乾杯する。
 
「蓮菜、それでどっちを選ぶ訳?」
「もちろん昇(川村君)」
「じゃ、田代君とは?」
「実はまた会う約束しちゃった」
「二股すんの?」
「たださ、昇とは恋人感覚なんだけど、雅文とはむしろセックスだけって感じがあるんだよなあ」
「まさかセフレ?」
「ああ、それそれ」
「でも蓮菜、高校時代も自分たちはセフレかもと言ってたね」
「あの時期は冗談で言ってたけど、なんかマジでそうなりつつある」
「うーん・・・」
「千里はどうなのさ? 細川君との仲復活させるの?」
「それは無いよ。私たちは友だち同士のつもりだった。今度彼女を紹介してよと言ってあるよ」
 
「だったら千里も細川君とセフレだ」
「うむむ」
 
「でも彼女に女友達とか紹介できるわけ?」
「私と貴司は男友達だよ」
「男友達は嘘だな。千里は女友達の筈」
「まあ性別なんてどうでもいいけどね」
 
「だけど、元カレ・元カノとセフレになっちゃうケースって結構あるらしいよ」
「そうなの?」
「だって、セックスの相性がいい人って得がたいじゃん」
「川村君とはセックスあまり楽しくない?」
「うん。雅文(田代君)の方がずっと巧いし、私を気持ちよくさせてくれる。昇のセックスは勝手に自分だけ逝ってしまうんだよ」
 
「ああ、でも男の人って、そういうセックスする人が多いんじゃない?」
「うん、そういう話は聞くけどね。だから、そういう男にしか当たったことないとセックスで実は女も気持ち良くなれること自体を知らない女も居る」
「それはもったいないね〜。すごく気持ちいいのに」
「ね?」
 
お互いにビール1杯目から半ば出来上がりモードで、千里も蓮菜もお互い、かなり大胆なことを言い合った気がする。お互いに何を話したのかはよく覚えていないものの、けっこうストレス解消になり、お互い
 
「けっこうスッキリしたね」
などと言ってその日は別れた。
 

千里が千葉に戻ったのはもう0時近くである。少し頭が痛い。ちょっと飲み過ぎたかなと思って毛布をかぶって寝ていたら、顔に水滴が掛かる。
 
慌てて飛び起きる。
 
雨漏りだ! 結構落ちてくる。ほんとにこんなに来るとは。だってここ1階なのに。1階でこれなら2階はどういう状態なんだ!?
 
取り敢えず教科書とかを守らなければならない。千里は教科書や着替えを入れている旅行用バッグなどを雨漏りがしていないふうの台所に移し、念のためその上に毛布の入っていたビニール袋を掛けた。
 
これで一安心!
 
よし寝よう。
 
ということで千里は台所で毛布にくるまって寝た。
 
 
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【女子大生たちの新入学】(2)