【夏の日の想い出・月の三重奏】(下)

前頁次頁After時間順目次

1  2 

 
ローズ+リリーとスターキッズが下がり、代わりにKARIONとトラベリングベルズが入ってくる。そしてXANFUSの『Dance, Don't Love』と『Triple Moon』を歌った。ここでピアノはKARIONのマネージャー、花恋が弾いた。花恋はこんな大きな会場での演奏は初体験だったが、あがらずにしっかり演奏することができた。
 
『Triple Moon』のギター三重奏は、TAKAOさんと、いづみと、もうひとり覆面をした女性が上手から出てきて弾いたので会場がざわめいた。それで演奏が終わり、いづみが挨拶をして4人がバンドメンバーと一緒に下がった(覆面の女性だけ上手に、他は下手に)後、代わってXANFUSの音羽と光帆が登場するが、ここで光帆がマイクを持ち
 
「今私たちの『Triple Moon』のギターを弾いてくれた人ですが、TAKAOさん、いづみちゃん、そしてらんこちゃん、つまり実は森之和泉・水沢歌月の共演でした」
 
と発言したので会場は「えーーー!?」となった。(さすがに昨日の今日なので覆面を見て、もしかしたら・・・と思った人もかなりあったようであった)
 
「そしてね。実を言うと、水沢歌月は一昨日の私たちのライブにも出てたんだよね。どこに出たかは内緒」
と光帆が言うと、会場は再び
 
「えー!?」
という声で埋まる。
 
かなりざわめいていたが、続けて神崎美恩と浜名麻梨奈が、パープルキャッツとともに登場すると会場は普通に拍手と歓声で沸く。そしてパープルキャッツの伴奏で、音羽・光帆・神崎・浜名の4人でKARIONの『僕の愛の全て』と『海を渡りて君の元へ』を歌った。
 
元々はどちらも割と静かな曲ではあるが、XANFUSに掛かると、どちらもダンスナンバーに変身していた。
 

XANFUSが下がった後、4人の女子が入ってくる。
 
客席は少し戸惑う空気もあったがすぐに
「コトちゃーん」「ひとえちゃーん」
という声が掛かり、琴絵と仁恵が手を振った。この2人はローズ+リリーの熱心なファンには充分顔が知られている。あと2人の名前は知られていない感じだったが
「ローズ+リリーちゃーん」
という掛け声も掛かって、小春と博美は会場に手を振った。
 
そして4人で演奏を始める。
 
小春がギターを弾き、博美がカホンを打ち、仁恵がエレクトーンを弾いて、琴絵はカスタネットを持ってダンスする。(仁恵はエレクトーンでキーボードパートとベースパートを同時にひとりで弾いていることになる)
 
曲は『神様お願い』である。
 
歌は、小春と仁恵のふたりで歌っている。カホンを打ちながら歌うのはやや大変である。琴絵にはさすがに歌わせられない。
 
客席は結構乗ってて、手拍子をしっかり打ってくれた。
 
演奏が終わった所で私と政子が出て行く。
 
「3月11日の福島突発ライブに来られた方がもしこの中におられたら、見たと思うのですが、こちらの『ローズ+リリー』さんと組んで、実は路上こっそりライブというのを一時期かなりやりました。このふたりが歌いながら演奏しているように見せて、実はふたりは演奏だけしていて、歌は観客に紛れ込んだ私とマリが歌っていたんですね」
 
かなりのざわめきがあった。
 
「ということで、私たちの友人たちです。ギター小春、カホン博美、エレクトーン仁恵、カスタネット&ダンス琴絵でした」
 
暖かい拍手があった。
 
「実はですね。小春が一昨日のXANFUSのチケットを幸運にもゲットできまして見に行って感動して、博美は昨日のKARIONのチケットをやはり運良くゲットできて、見て感動して、ふたりが凄く感動したから今日のチケット何とかならない?などと言うもので、相談してみたのですが、関係者枠も全部使い切ってて、席がどうにも無いということだったので、客席が無理ならということでステージ上の席を用意しました」
 
と私が言うと爆笑が起きた。
 
「小春のXANFUSライブのレポート、博美のKARIONライブのレポートはいづれも今朝『千葉情報』のサイトにアップロードされています。今日のライブレポートも明日の朝までには入っていると思います」
 
と言うと、小春がOKサインを出す。
 
「それでは再度、私たちの友人4人に、よろしければ拍手を」
と言うと、また大きな拍手があった。
 
それで4人が下がり、スターキッズが入って来て、後半に入る。
 

後半はいつも通り、電気楽器を使って演奏していく。
 
『ファレノプシス・ドリーム』『薔薇のささやき』『Spell on You』『影たちの夜』
『キュピパラ・ペポリカ』『恋座流星群』『ハッピー・ラブ・ハッピー』『疾走』
『間欠泉』『夜間飛行』
 
そして『ピンザンティン』でお玉を振って歌って幕が降りる。
 
アンコール。KARIONとXANFUSも入って来て、7人が並ぶ。月丘さん・夢美・noir・花恋が入って来て、4台のキーボードで、三味線・尺八・胡弓・箏の音を出し、七星さんが龍笛を吹いて『200年の夢』を7人で歌った。
 
そしてセカンドアンコール。
 
いつものローズ+リリーのライブのように、私とマリだけ残して全員下がるが、光帆だけは残る。スタッフが光帆に愛用のフルートを渡す。
 
私がピアノの前に座り、マリは私の左側に立つ。いつものポジションだ。光帆はピアノの横に立っている。
 
『あの夏の日』を演奏する。
 
華やかな音が私の弾くスタインウェイ・コンサート・グランドから響いていく。それに光帆のフルートが彩りを添える。
 
いつもなら七星さんにお願いしているパートだが、今回の3日連続ライブで光帆はパートのやりくりの都合で「素人ベース」と「素人キーボード」を演奏したので、光帆が得意な楽器での見せ場を作りたいと思い、ここでの演奏をお願いした。
 
しかし、ピアノの音って色彩豊かなんですね、と以前加藤さんが言っていたが本当にそう思う。電子キーボードやパイプオルガンと違い、音色はひとつの筈なのに実際弾くと、オーケストラを弾いてるのに近い感覚がある。
 
私もマリもその華やかな音に乗せて楽しく歌う。ふたりで初めて一緒に書いた曲。実際の詩は私が書いたのを政子が添削、加筆修正したものだが、実質的にはマリの詩だと思っている。それまで暗い詩ばかり書いていた政子が、私と出会うことによって書けた明るい詩だ。だから、この曲がやはりローズ+リリーの原点。
 
私たちはとても明るい終止でこの曲を歌い終えた。
 
大きな拍手と歓声の中、私たちは光帆も手招きして三人で前面に並び挨拶をする。そして幕が降りた。
 

ライブが終了した後、らんこ=水沢歌月の件で、あちこちのKARIONのファンサイトの掲示板、2ch, twitterなどが騒然としていた。
 
「取り敢えずらんこがギターも弾けるということは分かった」
「あの演奏、かなり上手かった。プロ級」
 
「しかし、らんこは初日のどこに出ていたんだ?」
「もしかして『花園の君』で演奏した覆面の弦楽器奏者の一人がらんこでは?」
「ということは、らんこはヴァイオリンも弾ける??」
「もしかしてトラベリングベルズで、らんこって、ピアノとヴァイオリンの両方を弾いているのでは?」
 
「ちょっと待って。アンコールで覆面の人がぞろぞろ出てきた時、9人いなかった?」
「えー? うそ!?」
 
本当は覆面の魔女2人、覆面の弦楽器奏者6人で、8人だった筈なのである。しかし、結構な人数が
「あ、俺もあれ? っと思って人数を数えたら9人いた」
という書き込みをしていた。
 
「じゃ、あそこに水沢歌月が紛れ込んでいたのか?」
「じゃ、ヴァイオリンを弾いた訳ではない??」
「いや、どうだろ??」
 

ロリータ・スプラウトの件に関しては、翌日★★レコードで記者会見を開いた。
 
ロリータ・スプラウトを始めた経緯を説明し、これまでプロフィール等を伏せていたことを詫びた。その場で、音声変形システムを稼働させて私とマリで歌ってみせると、記者席から「凄い」という声が起きた。またロリータ・スプラウトの4人のキャラの似顔絵を公募することも告げた。
 
「でも、そうするとローズ+リリーって、実はほとんど休養していなかったのでは?」
という質問が出る。
 
「実はそうです。本当に休んでいたのは2009年1月から3月くらいまでですね。その後、『長い道』の制作に入り、その後『雪の恋人たち』の新録音をしています。ここで『長い道』は実際にはかなり私たち自身が制作に関わっていますしタイトル曲の『長い道』は実はスタジオで新たに私たちの歌を録音したものです。『雪の恋人たち』は、伴奏も歌も全部私たちで演奏して録り直したものでした。当時は諸事情で明かせなかったのですが。そしてそれが終わるとロリータ・スプラウトのファーストアルパム制作に入り、年明けて2010年になってからはラジオ番組やってますし」
 
「ケイが休んでいたのって、2010年春に豊胸手術と去勢手術をした少し後と、2011年春に性転換手術をした少し後くらいですね」
とマリも笑顔で答えた。
 
「でもさ、タイで性転換手術終えて帰国したら、作曲依頼のメールが★★レコードから20曲分、来てたんだよ」
と私が言うと、記者たちから笑いが漏れる。
 
「音楽家って24時間365日勤務だね」とマリ。
「まあ、それ好きでやってるから」と私。
 
「じゃ、ロリータ・スプラウトというのはマリさんのリハビリのためのプロジェクトだったんですね」
「そうです」
 
「ではもう無くなるのでしょうか?」
「いいえ。毎年1〜2枚のアルバム制作は続けたいと思います。これはこれでロリータ・スプラウトというブランド名ということで」
 
記者たちは頷いている。
 
ひとりの記者が質問した。
 
「これを録音した時にですね。ケイさん・マリさんの未加工の生の声って、保存してないのでしょうか?」
 
私は同席していた則竹さん・加藤さんと顔を見合わせた。加藤さんはこちらに任せるという雰囲気だ。
 
「録音は存在します」
と私は答えた。
 
「それをリミックスして発売する予定は?」
「現在のところ、そういう計画はありませんが、もし要望が出てくれば検討してもよいと思います」
 

時間を戻して、昨日ライブが終わった後。
 
XANFUS, KARION, ローズ+リリー合同の打ち上げを行った。
 
大人数である。XANFUS, 神崎・浜名, パープルキャッツの4人で8人、KARION, Voice of Heartの4人、トラベリングベルズの5人 で12人、ローズ+リリー、シレーナ・ソニカの2人、スターキッズの7人、松村・更紗・夢美で14人。演奏者だけで34人。
 
これにXANFUS事務所の斉藤さんと白浜さん、KARION事務所の畠山さんと花恋、UTPの花枝と窓香で事務所関係者6人、★★レコードの南・滝口・氷川・加藤・町添に、今回のイベンターとなった★★レコードの子会社、★★公演事務の担当者2人と部長さん、でレコード会社関係8人。
 
以上合計48人で、もう「打ち上げパーティー」の雰囲気である。
 
圧倒的な数の女子組からの要望で「椅子に座れる場所」ということで、結局ホテルの披露宴などに使う会場を使い、丸テーブルに椅子で、適当に座って食べたり飲んだりしてね、ということになっていた。
 
「飲み放題・食べ放題ですか?」
とTAKAOさんが質問していたが
 
「一部『放題』にしないと怖いメンツがいるので、食べ放題、ついでに飲み放題になってます。テーブルに書いてある料理と飲物の種類でしたら、好きなだけ取ってください。但し明日の新聞に載るようなことはしないでくださいね」
と加藤課長が言う。
 
町添さんが乾杯の音頭を取って、みんなビールや烏龍茶で乾杯した。
 
「今年はこの3組のCDが08年組ジョイントのものも入れてシングル合計1300万枚、アルバム合計760万枚売れていて、金額にすると370億円。これはXANFUSの最新アルバムの先週末までの速報値の分まで入れた数字ですが、とにかく当社の売上の6割を占めています」
 
と町添さんが言うと「おぉ」という声が出る。
 
「万一ここで爆弾テロでも起きたら、★★レコードやばいですね」
「怖いこと言わないで下さい」
「売上の6割が無くなったら社員も半分リストラ?」
「いや、私たち3組以外にも、マリ&ケイ作品歌ってるアーティストいるからここで全員死亡すると、その歌手やユニットの売上も消える」
「★★レコード倒産するかも」
「だから怖いこと言わないでください」
 
「でもそれだけ売上あがってたら、★★レコードからボーナス出ないんですか?」
という声が掛かるが
「そのあたりは後で当社と事務所さんとの相談で」
と町添さん。そういう予算は確保できそうな雰囲気である。
 
「でも私たちボーナスなんてのとは無縁だよねぇ」
「何年か前に金一封もらったことはあったけど」
「そのあたりはみなさんと各々の事務所さんとの話し合いで」
 

各ユニット毎に座っていたのは最初だけで、途中からどんどん入り乱れ始める。政子は夢美のそばに言って、私の昔の話を聞き出そうとしていたが、
「そういうのは本人に訊いてください」
と言われていた。
 
「川原さん、ヨーロッパはどの付近を回っていたんですか?」
と更紗が訊く。更紗も主として夏休みなどを利用して何度かドイツやフランスに留学してきている。
 
「一応向こうのお家はブリュッセルに確保しているんだけど、実際には色々回って、あちこちのパイプオルガン弾かせてもらいましたよ。ベネルクス内はもとより、ドイツ、オーストリア、フランス。あのあたりって、あまり国境を越えるって意識ないから、いつの間にか他の国に入ってたりしますね」
「ああ、確かに、確かに。特にユーレイルパス持ってると楽チン」
 
「学校は結局どうしたんですか?」
と政子が訊く。
「一応、日本では高校に入りはしたけど、中退扱いですね。向こうでは音楽ばかりやってたから、私、学歴は無しです」
「音楽歴があれば充分でしょ」
と更紗も言う。
 
すると政子が突然大きな声で言う。
「加藤さん!夢美ちゃんのCD出してあげてください!」
すると加藤さんが
「いいよ」
と即答した。
 
「おお、すごい!」
「商談まとまった」
「マリちゃん、プロデュースしてあげてよ」と加藤さん。
「了解!やります」と政子。
「おお!」
 
「だけど私、正直このまま日本の音楽大学を出るべきか、大学出ることにはこだわらずにヨーロッパのハイレベルな音楽を吸収してくるべきか悩んでるんですよね」
と更紗。
 
「凜藤さんくらいの腕があったら、できるだけ若い内に様々な先生に就いて鍛えるのがいいと思う。音楽ってひとりの先生にずっと付いてて習ってもダメですよ」
と夢美が言うと、更紗は大きく頷いていた。
 
「ただ、凜藤さんの学校は国際的にもかなりハイレベル」
「そうなんだよね! それで悩んでしまう。私アスカ先輩みたいにうまく辻褄合わせをして、こちらの大学の単位もちゃんと取りつつ、実質1年の半分近くはドイツで過ごして指導を受けるみたいな器用なことできそうもないし」
 
「そういうのも凄いね」
「アスカ先輩は、そういう辻褄合わせの術は冬さんから学んだとか言ってた」
「あはは」
 
「冬子さんも、随分色々な人からヴァイオリン習ってるよね?」
「あ、そのあたり詳しく」
 
「実を言うと、私に最初ヴァイオリン教えてくれたのは、夢美ちゃんのお姉さんなんだよ」
と私は古い時代の事情を明かす。
 
「それっていつ頃?」と政子。
「私が小学1年だから、冬子さんは小学2年生かな?」
「それは初耳だ! 冬って中学生の時からヴァイオリン始めたんじゃなかったんだっけ?」
と政子。
「いやぁ、正式に習ってた訳じゃ無いから」
 
「道理で。中学から始めたにしては上手すぎると思いました」
と松村さん。
「あはは」
 
「最初うちの姉が教えてたけど、すぐ姉では教えきれなくなって、私が1年くらい教えたんですよね」
と夢美。
 
「小学1年生が小学2年生に教えてたんだ!?」
「でも当時の夢美ちゃんは、音楽教室の中学生より上手かったよ」
「なんか凄い世界だなあ」
「更紗さんだって、小学校の低学年の時期既にそのくらいでしょ?」
「まあ、そんなものかな」
 
「私は、その後、東京に転校してレッスンが途絶えたんだよね」
と私は言う。
 
「それで中学になってから、アスカ先輩に習うようになったんですね?」
 
「まあね。正直本気で練習するようになったのはアスカさんに教えられるようになってからだと思う。3年半ブランクあったから思い出すのに少し掛かったけど。でもアスカさんも私も忙しいから最初の頃は週に1回やってたけど、その内、アスカさんが日本に居る間だけ、月に1回程度という感じになっちゃった。一方で中学時代は民謡習いに毎週名古屋に行ってたから、その時、夢美ちゃんにも何度か会って指導してもらってるね。アスカさんも夢美ちゃんもどちらも凄かったけど、アスカさんは雲の上の人だから、結構実力の距離が近い夢美ちゃんの指導は実用的だった」
 
「並行してスクールでも鍛えてますよね?」
と更紗から尋ねられる。
 
「ローズ+リリーで忙しかった時期を除いて、一応毎週顔出して、弾いてるの見せて、いろいろ注意を受けたり程度かな。あまり下手だとアスカさんに申し訳無いから、アスカさんに教えてもらえるレベルに自分を上げるために通ってたんだよ」
 
「でも私、冬子さんが女の子じゃないなんて、一度も思ったこともなかった。私が高校1年の時にドイツに居た時、例の騒動をニュースで聞いて知って『うっそー』と思ったんだよ」
と夢美が言うと
「やっぱり・・・」
と政子は納得するように頷いた。
 
しかし松村さんが少し考えている感じだったが言う。
「その小学3年から中学1年まで4年近く中断してたって話は嘘だと思う。中断期間なんてほとんど無かったと思う。ケイちゃんのヴァイオリンって、才能のある人が小さい頃からずっと練習を続けていて、初めて到達できるレベルを越えている」
 
「ああ、やはりまだ隠していることがあるな? 素直に吐くように」
と政子。
「えっと・・・」
 
と私はちょっと困った。
 
「きっと、女の子の冬ちゃんを知ってる人の話をしないといけないから隠してるんだよ」
と夢美。
「同感、同感」
と更紗。
 

近藤さんや鷹野さんは、TAKAOさん・SHINさんたちと飲み比べをやっていた。後で倒れなきゃいいけど、と私たちは遠くで見ていた。mikeさんたちは七星さん、滝口さん、氷川さんたちとグループができて、途中から小風も引き込まれていた。美空はマイペースでデザートを食べながら、XANFUSのふたりと話し込んでいた。Voice of Heart の子たちはバラバラで積極的にあちこちのグループに声を掛けて顔を売っていた。確かにこれだけのメンツと同席できるのは、営業の大チャンスだ!
 
私とマリは神崎・浜名組の所にも行った。
 
「どもどもー」
などと挨拶なのか挨拶でないのかよく分からない言葉を掛け合う。
 
「私たち最近3Kって言われてるらしいね」
「ああ、神崎・浜名、歌月・和泉、ケイ・マリで3Kってのでしょ」
「でも無理矢理っぽい。普通の並べ方と違うし。作曲者だけ並べた訳でもないし」
 
「でも以前事務所で偶然遭遇した時に5分くらい立ち話しただけだから、ゆっくり話す機会もそのうち持てたらと思ってたんでちょうど良かった」
 
「でもどうせなら和泉ちゃんも呼んでその若手三巨頭会談にしよう」
「おお、呼ぼう」
「3巨頭で3Kか?」
 
ということで浜名さんが「いづみちゃーん、こっちこっち」と呼ぶ。私たちがこちらに回ってきた時点でかなりアルコールが入っていた雰囲気だったので、気が大きくなっているようだ。
 
呼ばれてシレーナ・ソニカの2人と何やら話していた和泉がこちらにやってくる。
「水沢歌月さんが居ないのが寂しいけど、これで三巨頭って感じだね」
「三巨乳の方が良かったな」
「3巨乳でも3Kだ」
 
「胸か・・・」
と言って浜名さんが見回す。
「この中でいちばん大きいのはケイかな? それFくらいあるだろ?」
「うん、Fのブラ付けてる」
「シリコン入れてるんだっけ?」
「一時期入れてたけど抜いちゃったから、これはリアル」
「よく育てたなあ」
 
「浜名さんもEはあるよね?」
「去年まではD付けてたんだけどね。織絵(音羽)から、そのブラ絶対小さいと言われて、最近はE付けてる」
と浜名さん。
 
「いづみちゃんも結構あるよね?」
「ごめーん。これ上げ底。実物はCしかないよ」
と和泉。
 
「Cしか無いと言われると、Bカップの私の立場が無い」
と神崎さん。
 
「マリちゃんもDくらいかな」
「そうそう。高校時代は私ケイに勝ってたのに、大学に入った頃からどんどん大きくなって抜かれてしまった」
「高校時代はケイは全く胸無かったの?」
 
「私もそう信じていたんだけど、どうもケイは中学生の頃、既にCカップあったっぽい」
「さすがにCカップは無い。中学生の頃はAカップだよ」
 
「ああ、やはりかなり昔からホルモンやってたんだ?」
と浜名さんが訊くが
 
「ケイは小学5年生の時からホルモンやってたんだよ。それで声変わりもせずにソプラノボイス維持してるんだよ。これここだけの話ね」
と和泉が答えるので
 
「なぜ和泉ちゃんが知ってる?」
とツッコミが入る。
 
「いづみちゃんは、冬の小学生以来の親友と、高校時代同級生だったからね」
と政子が舞台裏を明かす。
 

「水沢歌月さんはバストどのくらい?」
と浜名さん。
 
どうも完全にバスト論議になっている。
 
「彼女もFカップあるよ」と和泉。
「すげー」
 
「じゃ、ケイも歌月さんも浜名も巨乳ということで、三巨乳会談でもいいな。まあ今日は歌月さんはいづみちゃんが代理ということで」
と神崎さんが言う。
 
「3人とも、おっぱいで曲を書いているんだったりして」
「男の子に揉まれると曲ができるとか?」
 
「ああ、私は男の子とHしてると詩ができることある」
と政子が大胆なことを言う。
 
「ああ、それは私もやったことある。彼氏からぼろくそ言われたけど」
と神崎さん。
 
「いづみちゃんは、そういうの無いの?」
「私、彼氏いないから」
「偉ーい!」
「今回の3組の中で恋愛禁止ルール守ってるのはKARIONの3人だけだしね」
 
「でも恋愛経験はあるんでしょ?」
「Hまではしてないけど、付き合ったことはあるよ。中学生の頃。中学生だからキスもしてない。その後、高校は女子高だっだし、1年生の秋からKARION始めちゃったから、もう8年間彼氏無しだなあ」
「ああ、私も2年くらい恋愛してないや」
と浜名さん。
 
「ここだけの話さ、『アメノウズメ』は歌月が男の子とHしながら書いたらしい」
「しながら??」
「バックでしながら、ボールペンで五線紙に書き綴ったと。私と小風で本人少し締め上げて吐かせた」
「すげー」
「さすがにそういう経験は無い」
「彼氏も寛容だなあ」
 
「私もHの最中に詩を思いついたら、そこでHは中断しちゃうなあ」
と政子。
「でもどうやって締め上げたの?」
「ああ、言わなかったら水沢歌月の写真バラまくぞと脅しただけ」
「なるほど!」
 
「しかし曲の出来た経緯を絶対に公表できない話だ」
「でも『DOWN STORM』も何だか凄い状況で書いた曲だという噂が」
 
「ああ、噂になってるね。具体的なことは誰も知らないみたいだけど」
「あれは私が手術されながら書いたんだよ。部分麻酔だったから頭は起きてたし、手は使えたから。執刀医の先生が呆れてたけど。万一血圧とかが下がったら中止してねと言われながら書き上げた」
と浜名さん。
 
「それはまた凄い状況だ」
 

「ケイも性転換手術されながら曲を書いたら名曲ができてたかもね」
「それは無茶! そもそも全身麻酔だし」
 
「あれって部分麻酔ではできないもの?」
「無理でしょ」
 
「いや、ケイのお友だちで、去年性転換手術受けた子が、部分麻酔でやってもらったんだよ。自分の手術経過を見たいからって。元々医学に凄く興味のある子で」
「それは凄い!」
 
「なんか執刀医の先生と楽しく医学用語交えて会話しながら、自分が手術されている所を見学していたらしいよ」
「信じられん!」
 
「自分も性転換手術を受けている性転換手術医って人が確かアメリカに居たよね?」
「うん。Marci Bowers って先生だよ。男性として結婚して子供3人作った後性転換して女になって、そのあと自分でも性転換手術をたくさん手掛けているって人」
 
「結婚して子供作ったってことは、男としての機能を使っている訳でしょ?でも女になりたかったんだ?」
「そういう人、ケイのお友だちにも何人かいるけど、女の人とセックスしてても、自分が相手側になって、今女としてセックスしている気持ちで、しているんだって」
「ああ、なるほど」
「相手に感情移入して、自分の男の身体の方は中身空っぽになって自動で動かしている感じだと言っていた」
 
「じゃ、やはり基本は女なのか」
「でなきゃ性転換手術までは受けないでしょうね」
「ふつうにバイなら、女装はしても性転換したいとは思わないだろうね」
「雨宮先生のタイプか」
「ああ、なるほど」
 
「雨宮先生って実は隠し子が5〜6人居るって噂も」
「あれだけ女の人とやりまくっていたら、そのくらい居ても不思議ではないかも」
 
「あれ?でも雨宮先生って、去勢してたのでは?」
「去勢以前から、かなりやりまくってたみたいだから」
「いつかパーティーで会った時に、去勢はしてるけど気合いで妊娠させちゃう、男の娘だって妊娠させちゃうよ、なんて言ってたよ」
「無茶な」
 
「いや、あの先生ならあり得るかも」
「でもさすがに男の娘は無理」
「いや妊娠できる男の娘も希にいるかも。たぶんケイは妊娠可能」
「不可能だよぉ!」
「だってケイって生理あるじゃん」と政子。
「えーー!?」
 

「うん。ケイが生理あるのは確か。私ケイにナプキン借りたことも貸したこともあるし」
と和泉。
 
「ケイって、もしかして元々半陰陽だったとか?」
「まさか。『200年の夢』ってこないだ出したでしょ。あれ、実は奈良県の山奥に隠棲していた凄い霊能者さんのことを書いた曲なんだけどね。今年の3月に126歳で亡くなったんだけど」
「126歳!?」
「凄い長寿だね」
 
「谷崎潤一郎と同級生だったらしい。それで吉野の山奥を60年間回峰行してたっていう、物凄い人。その人のヒーリング受けたら生理が始まっちゃったんだよ。今私の体内で女性ホルモンが生産されているから、私ここ2年半、女性ホルモンの製剤は飲んでない。生理周期が完全に出来ていてPMSまであるし。その後私を見てくれた別のヒーラーさんが、これどうやってやったのか分からないと言ってた」
「へー」
 
「私が半陰陽で無かったことは、手術前にMRIとかも取られて確認してもらってるよ。半陰陽の場合は、医学的にも法的にも扱いが全く違ってくるから」
「ああ、そうだろうね」
 
「ケイは半陰陽じゃなくて元々完全な女の子だったんだったりして」
と政子がいうと
「そうかも!」
という声が挙がる。
 
「でも生理あるんなら、やはりケイは妊娠可能なんだよ」
「うん、きっとそうだ」
「彼氏とやる時はちゃんとコンちゃん付けとけよ」
「うん。私も実はちょっと不安なもので、念のため付けてもらってる」
「それがいい、それがいい」
 
「今ケイが妊娠して仕事1年くらい中断したら、町添さんが青くなるよ」
 

「浜名さん、キーボード上手いんでしょ? 今回のライブでは披露の機会無かったみたいだけど」
「音羽ともうひとりの子と3人でバンド組んでたからね、昔」
 
「ケイもいづみもキーボード上手いよね」
「いづみは小学校から中学校に掛けて、ピアノコンテストの常連だったんだよ」
「国内の小さなコンテストばかりだけどね」
「ケイは楽器何でも出来ちゃう。キーボード・ピアノ、ギター、ベース、ドラムス、フルート、クラリネット、三味線、胡弓、ヴァイオリン、サックス」
 
「生サックスは吹けない。私が吹くのはウィンドシンセだよ」
「あ、そういえばヴァイオリンもしてたね」
 
「作曲の時は主として何使うの?ドラムス?」
「なぜわざわざドラムスで?」
「だって08年組のジョイントではいつもドラムス叩いてるし」
「他に叩ける子がいないからだよ。光帆が少し叩けるみたいだけど自信無いって言うし」
「ああ、みっちゃんのドラムスは私も見たけど、やや頼りない」
「私も腕が細いから、30-40分くらいしか叩き続けられないんだけどね」
「いわき市のイベントでは、それでLondaさんが休憩入れてくれたみたいね」
 
「まあ作曲は自宅にいる時はエレクトーンが多い。その曲のイメージに合った音で鳴らせるから」
 
「ああ、なるほど」
「浜名さんもキーボードでしょ?」
「うん。どちらかというとピアノが多いけどね」
「ああ」
 
「浜名の家って、グランドピアノ2台あるもんね」
「なぜ2台?」
「姉ちゃんがお嫁に行く時、自分のピアノを置きっぱなしにして行っちゃったから。2DKにはさすがにグランドピアノ置けないと言って」
「いや、姉妹で1台ずつグランドピアノ持ってたのが凄い」
「私と姉ちゃんがいつもピアノ取り合って喧嘩してたから、お父ちゃんがもう1台買ってくれたんだよ。あの時期はお父ちゃんの会社も景気良かったから」
「へー、すごい」
 
「2DKでも置けないことはないと思うなあ。槇原愛は自宅の5畳半の部屋にヤマハのC3置いてるしね」
「5畳半??」
「うん。あの家、ちょっと変則的なんだよ」
 
「でもさすがに5〜6畳の部屋にC3みたいな大きなピアノ置いたら、他は何も置けないのでは?」
「愛の部屋は自分の勉強机とCDケース、三味線やギター置く棚とかもあるよ」
「よく入るな」
 
「寝る時はピアノの下に布団敷いて寝てるらしい」
「ああ、そうなるよね」
「寝ぼけて起き上がって、ピアノに頭ぶつけたことは多数と言っていた」
「そりゃぶつけるよ」
 
「でも、線香花火の千鶴さんの部屋とか凄いよね」
と政子。
 
「うん。あれは凄い。4畳半の部屋に、C3とベッドと学習机が収まっている」
と私。
 
「入るの〜!?」
「ベッドに行くのにピアノの下をくぐり抜ける必要があるんだけどね」
「なるほど。しかし凄い」
 
「あれ?ケイちゃん、線香花火と知り合い?」
と浜名さんが訊く。
 
「ああ、浜名さんも線香花火知ってる?」
「私は名前だけ。CDは全部買ってるけど。なんであの子たち売れないんだろうね。実力あるのにもったいない」
 
「ケイはふたりと古いお友だちらしい。私にも詳しいこと話したがらないけど」
と政子。
 
「別に何も隠してないけど」
「だったら話してくれてもいいのに」
「いや、別に話すような内容もないけど」
「いや、きっと何か隠してる」
 
和泉が笑っていた。
 

12月29日。ローズクォーツのサト(月羽聡)が結婚した。サトがこんな時期に結婚したのはローズクォーツのスケジュールの問題がある。テレビのレギュラー番組を抱えていて、それが生放送なので、毎週1回拘束される。ところがお正月は特別番組が続くので、この日結婚して、1月の2日から9日まで休めるのを利用してハネムーンに行って来ようという魂胆なのである。
 
そして・・・サトの結婚相手であるが、なんと△△社の甲斐涼香さんだったのである!
 
私たちが新人の頃、しばしば私たちの付き人のようなことをしてくれていて現在は△△社のアーティスト部門の責任者(肩書きは制作課長)の地位にある。UTPの甲斐窓香の姉である。
 
「何がどうしたら、ふたりってくっつくことになった訳?」
 
「いや、ローズクォーツでスタジオで練習してて、それに窓香さんが付いててくれたんだけど、深夜に練習が終わって帰ろうという時に、同じ方角だから、送って行こうか? というので窓香さんを俺の車に乗せて帰ろうとしていたら、車内で窓香さんがお姉さんに電話したら、向こうもちょうど帰ろうと思ってたとかいうんで、じゃついでにお姉さんも乗せてくよ、ということで」
 
「で、お姉さんの方と出来ちゃったと?」
「うん。まあ。お腹空いたね〜、とかいうんで24時間営業のファミレスに寄って話をしてたりしたら」
 
「じゃ、サトさんと涼香さんのキューピッド役は窓香さんか?」
「さすがに私は仲人しないからね」
 

ということで、仲人は△△社の津田社長夫妻が務めてくれた。涼香の友人代表としては△△社の古い社員で、イベント運営部門の責任者である遠藤さんがスピーチをした。またサトの方の友人代表はタカがスピーチをした。乾杯の音頭はまた加藤課長が取ってくれた。
 
サトの方は、前務めていた会社の元同僚は特に呼んでいなかったが、自衛隊時代の友人が5人、中学高校時代の友人が3人来ていた。涼香の方は、△△社関連の人と中高生時代の友人とが半々という感じであった。出席者は60人ほどだった。
 
「しかし年末年始は恒例の東京年越しイベント、大阪新年イベントだから、新婚さんに悪いけど、使わせてもらうから」
と私は言っておく。
 
「お手柔らかに」とサト。
「まあ、それには私もピューリーズ帯同で行くけどね」と涼香。
「なんだ。結局夫婦で参加するんだ!」と政子。
「うふふ」
 
この年越しイベント、新年イベントでは、久しぶりに私がボーカルとして参加する。但し私はまだ休養中なので《覆面の魔女》を帯同して、彼女たちが2曲と私が1曲歌うことになっていた。
 
なお、甲斐涼香さんは結婚後も仕事は続けるし、営業上の便を優先して旧姓のままで業務を行うことになっている。
 
「いや、涼香ちゃんに辞められたら、うち困るから」
と津田社長も言っていた。
 
なお、私と政子はこの披露宴では『夜宴』をやはり私のピアノ伴奏で歌った。
 

「だけど涼香さんはローズ+リリーを最も古くから知っている人のひとりですよね」
「うん。ケイちゃん、マリちゃんって、設営スタッフとして入って来てそんなに経たないうちに、ローズ+リリーになっちゃったから、私、純粋に設営スタッフしてたケイちゃんを全然見てないんだよね」
 
「そうですね。基本的にあれはバイトしていたのはマリであって、私はマリが花見さんと一緒に遠出する時の付き添いでしたから」
と私は言う。
「あの時期、ケイは実際スタジオのバイトの方がメインだったもんね」
と政子も言う。
 
「だから私、ケイちゃんが男の子だってのも全然知らなくて。ある日唐突に、須藤さんから『この子たちを連れて大阪に行って来て』と言われて、その時に
『冬ちゃんが男の子とバレてしまうのは構わないということで先方と話は付いてる』と言われて、意味が理解できなかったんだよね」
と涼香。
 
「ああ、それは意味が分からないよね」と政子。
「何かこの子、男っぽい性格の子なのかな、とかしばし悩んだ」と涼香。
「戸籍上男の子だとは思いもよらないから」
 
「そうなのよ! でも後から考えると、当時もう肉体的には女の子だったんだよね?」と涼香。
「あ、涼香さんもそう思います? 私もそんな気がするのよねー。多分もうおちんちんは無かったんじゃないかと」
と政子は結構マジな顔で言った。
 

そして更に1月4日(土)には、トラベリングベルズのDAI(鐘崎大地)さんが結婚式を挙げた。この時期は、ほんとに結婚式ラッシュであった。
 
「七星さんたちから数えて結婚式三重奏だね」と政子は言う。
「『Triple Moon』にふさわしいね。月は結婚の象徴でもあるし」と私。
「ああ、Honey Moon だしね」
 
DAIさんのお相手は高校の時の同級生ということで、卒業後連絡が途絶えていたものの、1年ほど前に偶然再会して、それで交際するようになったということだった。
 
DAIさんは最初12月中に結婚するつもりだったのだが、国士館ライブや武芸館のワンティス代理ライブが入ってしまったので、1月に延期してくれたのである。近藤さんたちがローズ+リリーの休養期間に結婚したのと同様、DAIさんもKARIONの休養期間に結婚しようということだった。
 
トラベリングベルズのメンバーで、TAKAOさんとMINOさんはこのバンドに参加した時から既に結婚していた。HARUさんは2010年に結婚しているので、メンバーの中で独身はSHINさんだけになる。
 
「独身が俺だけってちょっと寂しいなあ」とSHIN。
「社長がSHINさん、まだ結婚しないのかなあ、とか言ってたね」と私。
 
「まあアイドルのバックバンドに独身の男が居るのはあまり好ましくないというのはあるんでしょうけど」と和泉。
「とは言われても、俺、彼女居ない歴=年齢だし」
 
「SHINさんはノーマルなんですか?」と小風が訊いた。
「俺、ホモに見える〜?」
「うーん。どちらかというと女装っ子指向とか?」
「あ、そうそう。スカート穿かせると似合いそう」
「髪長くしないんですか?」
「俺、そちらの趣味は、ねぇよ〜」
「あ、やはり、おねぇ、なの?」
「ちがーう!」
 

ところで2010年のHARUさんの結婚披露宴には、私は堂々と参加している。実は結婚式場所属のピアニストみたいな顔をして、ずっとピアノの前に座っていて、新郎新婦の入場では結婚行進曲を弾いたし、お色直し後の再入場・キャンドルサービスでは当時出たばかりのKARIONの新曲『白猫のマンボ』を弾いた。また、余興で歌う人たちのピアノ伴奏を務めた。
 
披露宴には、芸能関係者や数人の芸能記者も来ていたが、参加者同士はお互い顔を見たりするものの、誰も式場スタッフにまでは注意を払わないので、私がその場にいたことは、ほとんど誰も気付かなかったのである。当時は私の写真がそんなに出回っていなかったこともある。その時、唯一人私に気付いたのが余興で歌を歌おうとしてピアニストに曲名を告げた青島リンナだった。
 
彼女は私に気付いて、ギョッとした顔をしたが、私が口に指を立てて「しー」
というポーズを取ったので、笑って「『My Favorite You』お願いね」と言い、彼女の持ち歌を私のピアノ伴奏で歌った。
 

さて、私は今回のDAIの結婚式には、政子を連れて2人で出席した。KARIONとローズ+リリーは充分仲良しなので出ても悪くないハズ、ということで押しかけて行った形にした。私たちが出るという話を聞いて、XANFUSの2人まで出席したので、最初2〜3人しか居なかった芸能記者が、披露宴が終わる頃には20人くらいに増えていた。
 
私たちやXANFUSの写真ばかり撮られて、新郎新婦にはちょっと気の毒ではあったが。
 
ちなみに政子は披露宴の美味しい料理が食べられてご機嫌であった。今回は余興では私たちは『花園の君』を歌った。KARIONは『アメノウズメ』を歌い、XANFUSは『The Ball Lover』を歌ったので、超豪華な余興になり、青島リンナから「あんたたち、凄すぎるよぉ」などと言われた。
 
なお、この3曲は式場のピアニストが弾けなかったので、『花園の君』の伴奏は和泉が、『アメノウズメ』と『The Ball Lover』の伴奏は私が務めた。
 
「ケイちゃんって、『アメノウズメ』は水沢歌月っぽく、『The Ball Lover』はパープルキャッツの noir っぽく弾いたね」
と Ozma Dream のジュリアに言われた。
 
「ケイってコピー演奏の天才だから」
と政子が言って笑っていた。
 
ところで、この結婚式でも、加藤課長が乾杯の音頭を取ってくれた。
 
「加藤さん、私が結婚する時も乾杯の音頭を取ってください」
と私は言ってみたが
「それはきっと、町添部長がしたいと言うよ」
と加藤さんは言った。
 

「ところで私、金額見てなかったけど、サトさんとDAIさんの御祝儀はいくら包んだの?」
と政子は後で訊いた。
 
「七星さんはもうスタッフというより独立したミュージシャンと考えていい状態だから芸能人同士ということで300万包んだけど、サトやDAIは彼らたちの年収を考えても一般人に近いから、まあ普通の相場かな、ということで、どちらにも70万包んだよ。サトはローズクォーツで身内、DAIもKARIONで身内だしね」
と私は答えた。どちらもマリ・ケイの連名である。
 
「うーん。。。私も一般の御祝儀の相場が最近分からなくなりつつあるけど、70万って、一般人の相場とは懸け離れている気がするよ」
と政子。
 
「そうだっけ??」
 
でも後で和泉がDAIさんの結婚式に50万包んだと聞いて、ちょっとホッとした。(小風と美空は10万ずつ包んだらしい)
 

DAIの結婚式があった翌日。某テレビ局が「08年組特集」という3時間の企画番組を放送した。08年組の5つのユニットに30分(CMなどを除いて25分)ずつ時間を割り当て、最初の30分は、解説者としてドリームボーイズの蔵田さん(39歳)と、ナラシノ・エキスプレス・サービスの海野さん(42歳)という、上の年齢の男性ミュージシャン同士の対談をさせていた。
 
同世代の見方、女性の見方とは、全然切口が違うので、結構面白い対談になったようであった。
 
「8人とも歌がうまいけど、色気が無いよなあ」
「そうそう。エスコートしたくなるけど、デートしたくはならない」
 
などと、セクハラまがいの発言もあったが、08年組の10代・20代のファンからは「おじさんたちだし〜」と比較的許容的な反応が出ていたようであった。
 
「だけど、あの子たち、ちょっと関わりが無いこともないんだよなあ」
と蔵田さん。
「ケイちゃん、うちのバンドのバックダンサーを何度かしてもらったこともあるんだよ。振り付け覚えるのが凄く速くて。急な欠員が出た時とかに随分重宝した。それで覚えてた」
 
「うちのバンドのバックダンサーには、AYAちゃんがいたことあるんだよ。何か個性の強そうな子だなと思ったんで、俺も記憶に残ってた」
と海野さんも言う。
 
「あの子たちって、デビューしたのは2008年でも、その数年前くらいから結構この世界にはまり込んでいた感じだよね」
「まあ昔風に言えば、下積みを数年やった上でデビューした感じだよね」
「それだけにポッと出のアイドルとは一線を画すパワー持っているんだろうな」
 

「冬、ドリームボーイズのバックダンサーの件については少し追求したい」
と政子はテレビを見ながら言った。
 
「はいはい、女の子の格好で踊ってましたよ」
と私は答えた。
「今日は素直じゃん! どうしたの?」
「まあ、お正月だしね」
 
「じゃ、お正月ついでに、この写真についても追求したい」
 
と言って政子が(最近ある理由で買い換えた新しい)iPhoneの画面に表示させたのは、ビキニの水着を着て、青い海を背景に立っている私の写真だ。
 
「ぶっ」
「ねぇ、ねぇ、これ何年生の時の写真? このきれいな海は沖縄か奄美か。多分中学生くらいだよね?この感じ。トリミング加工されてるみたいで、サイズが変則的だし、撮影日時がJPEGのデータから消されてて分からないんだよね」
 
「さ、さあ、どうだろうね。他人の空似じゃない?」
 
「それはあり得ない。これ絶対冬だよ。でさ、このビキニ着ている胸がどう見てもBカップはある気がするんですけどぉ」
 
「さあ、知らないなあ。きっと他人の写真だよ。私のおっぱいは中学生の頃はほとんど無くて、平らな胸だったよ」
「また、バレてる嘘をつかないでよ。話が面倒」
 

蔵田さんと海野さんの対談の後は、XANFUS, AYA, ローズ+リリー、スリーピーマイス、KARIONの順に編集されたライブビデオが流された。XANFUSはパープルキャッツ、AYAはポーラスター、ローズ+リリーはスターキッズ、KARIONはトラベリングベルズと一緒に、それぞれ演奏したもので、12月上旬に各々の時間の空きを使って各事務所の責任で収録・編集して放送局に持ち込んだものを無編集で放映してもらった。
 
スリーピーマイスの3人はアイスホッケーのゴールキーパーが付けるようなお面を付けていた。またKARIONのバックバンドの中でもキーボード奏者も猫のお面をしていた。
 
KARIONの編集ビデオの最後には1分半ほど、和泉とスイート・ヴァニラズのLondaの短い対談が入っていた。
 
「今日のビデオで顔を隠しているキーボード奏者が水沢歌月=蘭子ちゃんだよね?」
「はい、そうです」
 
「蘭子ちゃんって、実はKARIONのデビュー以来、ずっとキーボード弾いていたんだって?」
「そうなんです。だからトラベリングベルズの最古参メンバーなんです」
 
「トラベリングベルズはすると、最初和泉と蘭子が入って、それからTAKAOさんとSHINさん、それからHARUさん、DAIさん、MINOさんの順序かな?」
「はい、その順序で、KARIONがデビューしてから半年ほどで、だいたいメンバーが固まりました」
 
「歌の方にもそしたら、実はかなり頻繁に参加してたんじゃないの?」
とLondaが訊く。
 
「水沢歌月は、∴∴ミュージックと何かの契約とかを結んでいる訳ではなくてあくまで私との友情に基づいて楽曲の制作や伴奏をしてくれているだけなので基本的に、情報をあまり出さないでほしいという本人の希望もありまして出していなかったのですが、実はこれまでに発表したKARIONの四声の曲、ほぼ全てに蘭子は歌唱参加しています。参加していない曲を数えた方が早い。あの子、器用なので毎回声や歌い方まで変えて歌ってるんです。実は様々な声の出し方の練習も兼ねていたらしくて、中には当時は出たけど今はもう出ない声もかなりあるみたいです」
 
この和泉の発言に、見ていたKARIONファンがかなり衝撃を受けたようであった。あちこちのファンサイトで行われていた、蘭子が参加している四声の曲はどれとどれか?という議論を全て水泡に帰すような発言だ。
 
しかし、KARIONファンは更に次の和泉の言葉に、もっと大きな衝撃を受けることになる。
 
Londaが
「KARIONの四声の歌って結構多いよね。最初ラムコがいた時は別としてデビュー以降は3人しか居ないのになんで四声で編曲するんだろうと昔から不思議に思ってた。四声の曲ってどのくらいの比率かな?2〜3割?」
と訊いた。
 
それに対して和泉はこう答えた。
「五声や六声以上の歌以外の全てが四声です。実はKARIONがこれまで発表した曲の中に三声しか使われていない曲は存在しません。どの部分が蘭子の声かというのについては『KARIONのボーカル収録ではいっさい多重録音はしていない』
というのと、私の声も蘭子の基本の声も、合唱部で鍛えた均質で、訓練している人なら、誰のでも似たように聞こえる声であるということをコメントしておきます。ですから実はKARIONは《4つの鐘》という名前の通り、最初からいづみ・みそら・らんこ・こかぜ、4人のユニットだったんです」
 
和泉はそうにこやかに答えて最後に「時間です」という小さな声に応じてカメラに向かい笑顔で手を振り、それでKARIONのビデオ、そしてお正月の08年組特集の放映は終了した。
 
 
前頁次頁After時間順目次

1  2 
【夏の日の想い出・月の三重奏】(下)