【夏の日の想い出・第四章】(2)

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私は冒頭発言を求めて言った。
 
「私が言うと無責任に聞こえるかも知れないけど、また別のボーカルを入れてライブハウスなどで活動するというのが良いと思います。私も色々考えたのですが、私は今とてもライブハウスでの演奏にまで付き合う時間的な余裕が無いし、また私やマリが歌うとなると、ローズ+リリーのファンが詰めかけて来て興奮して、不測の事態もあり得る気がします」
 
「いや、横浜エリーナを瞬殺するアーティストがキャパ数百人以下の自由に入場可能な会場でライブをやれば、そもそも入口のところで大混乱が起きる。死者が出てもおかしくない。無理だよ」
と町添部長も言う。
 
「ライブハウスの中でも客が席で鑑賞する所はまだいいのですが、オールスタンディング方式の所では客が制御できません。将棋倒し事故が起きます」
と加藤さんも補足する。
 
「それで、この代理ボーカルの選考基準を考えてみると、結局、実力はあるのに売れてないユニットということになると思います。それは★★レコードとしても、そういうユニットの絶好のプロモーションになるので、協力したいと思うのです。良さそうなユニットがあれば、こちらからそこの事務所に話を持って行きます」
と町添さんが言った。
 
「そういう訳で《覆面の魔女》の後任のボーカルを選考したいのですが、案のある方はおられますか?」
 
「kazu-manaの産休明けはいつ頃ですか?」
「夏頃の予定です。彼女たちを使うと4月から6月くらいに掛けて活動ができないですね。それに彼女たちはシレーナ・ソニカ同様、鈴蘭杏梨問題があるので、できたら避けたいところです」
と私は言った。
 
「フェスで歌ってもらった鈴鹿美里は?」
「彼女たちは年齢的な問題があります。若すぎるのでおとな向けの歌詞を歌わせられないんです。フェスでも、そういう少しやばい曲は避けました。それに中学生は時間制限もありますね。21時までに帰さないといけないし、もっと根本的な問題として、タバコの煙があって酔客のいる所で中学生を歌わせたくないです」
とタカが言う。
 
「まあ、そういう訳で★★レコード所属あるいは所属予定、20代の現役女声デュオで、チケットを完売できないアーティストのリストを作ってみました。23組います」
 
と言って氷川さんがリストをパソコンに表示させ、プロジェクタでホワイトボードに投影する。
 
「この点数は?」
「歌唱力を10点満点で評価したものです。点数は私が実際に最新のCDを聴いて付けてみました」
「わあ、それはお疲れ様です」
 
「聴きだして10秒で停めたアーティストも多いですが。できたら点数で7点以上のアーティストが良いと思います」
「それは何組いますか?」
 
「5組ですね」
と言って、点数でソートしてウィンドウを調整して7点以上のみ表示させる。メンバーの名前と年齢、過去のCDセールス、ライブ動員、所属事務所が一緒に出ている。
 
これは要するに上手いのに売れていない人たちだ。しかし・・・・何だか私と個人的な関わりのある人たちが・・・いっぱい!
 
「ちなみにローズ+リリーなら何点ですか?」
とタカが訊いた。
 
「ローズ+リリー、XANFUS、KARIONは10点、スリファーズ、mapなどが9点。AYA、富士宮ノエル、シレーナ・ソニカ、などが8点、坂井真紅や鈴鹿美里、小野寺イルザ、槇原愛などが7点のイメージです」
と氷川さんは言う。
 
「じゃ7点ってかなり上手いんだ?」
「それ未満だとお客さんを失望させると私は思います」
と氷川さん。
 
「そんなに上手いのに売れてないのが5組もあるのか。しかしほんとに全部知らないユニットだなあ。どんな人たちか簡単に説明とかできます?」
とタカが言う。
 
「線香花火は歌唱力9点を付けていますが、ほんとに上手いんですよ。何かきっかけがあればブレイクすると思います。実は今年のサマーロックフェスティバルに、プロモーション枠で出場させようかという話もあったくらいです」
「へー」
「ふたりともクラシックの素養があるので、しっかりした歌を歌います」
「ほほぉ」
 
「ミルクチョコレートは歌唱力8点を付けました。静かな曲では音程が安定しているのですが、動きの多い曲ではやや不安定になります。音程より雰囲気優先という感じですね」
「なるほど」
 
「竹鳥物語は同じく歌唱力8点を付けています。リードボーカルの子はかなり歌唱力があるのですが、サブボーカルの子が微妙なので。でも凄く仲良しな感じなのが雰囲気いいですね。ちなみに仲良しといっても恋愛関係は無いと聞いています」
と氷川さんが言うと、タカが笑っている。私は頭を掻いた。
 
「ポップな歌い方をしますので、シレーナ・ソニカに比較的傾向は近いと思います。3度で歌うことが多いですし、ハーモニーは割ときれいですね。サブボーカルの子も3度で歌う時はわりと音程が安定しています」
 
「じゃ、初期のローズ+リリーに似てるのでは?」
「そんな気もします。そういう意味ではローズクォーツと親和性は高いかも知れません」
 
「アウグストは、○○プロ所属なので、多分ケイさんはご存じですよね?」
「はい。彼女たちの歌は生で聴いたことがあります。雰囲気が良いですね」
 
「歌唱力は7点にしてますが、過去に様々なバンドと組んでCDを制作したこともあって、私もタブラ・ラーサとのライブを見たことがありますが、セッションセンスが良いと思いました。高校時代から活動を始めてもう8年の活動歴があり、CDも10枚以上出していますが、未だに3000枚以上売れたことがありません」
 
「それはまたヒット曲に恵まれてないですね」
 
「普通ならもう契約切られてしまう所ですが、彼女たちのキャラクターが魅力的なので、○○プロ側のたっての要望で、★★レコードも毎年契約を更新しています」
「へー、面白そうだなあ」
とタカはかなり興味を持ったようである。
 
「最後にOzma Dream はローズ+リリーさんたちと同様に今大学4年生で、やはり卒論のために一時休養していますが、春からは使えます。2009年にデビューしたユニットで、無難にどんなジャンルの歌でもこなします。潰しの効くユニットですね。ふたりとも比較的歌はうまいし、ふたりの歌唱力がだいたい同じくらいなためコーラスとして雰囲気が良くなるので、それで重宝されてて、様々な歌手やバンドのコーラス隊としての活動もかなりあります」
 
「ってことはセッションセンスもいいですね?」
「はい、良いと思います。ヒット曲が無いのに、4年間メジャーアーティストとして活動してきたのは、そのお陰もあります。CD作る時に、バックコーラスとして参加したアーティストから結構曲を頂いているんですよ。ですから売れてないのが惜しい良い曲が多数あります」
 
色々な意味でいちばん危険なことを知られているユニットなので、Ozma Dream の話にはできるだけ平静を装っていたつもりだったのだが、町添さんには私の表情を見抜かれてしまった。
 
「もしかしてケイちゃん、この子たちと知り合い?」
 
訊かれてしまったからには正直に答えざるを得ない。
 
「私が∴∴ミュージックに出入りしていた頃、知り合いました。実は私とこの2人の3人でKARIONのライブでバックコーラスしたこともあるんですよ。その当時一緒にお風呂にも入った仲ですね」
 
「ケイ、それって高校時代?」とタカが訊く。
「ええ。高校1年の時ですね」
「もちろん、女湯だよね?」
「まあ、彼女たちは男湯には入れませんね」
 
「ここにマリちゃんがいたら、不気味な笑い方をしていた所だな」とタカ。
「あはは」
 
「じゃ、ケイさん、このお二人とは親しいんですか?」と氷川さん。
「まあそうですね」
「歌はうまい?」とタカ。
「うまいですよ。まあ、マリとか、KARIONの美空程度に上手いです」
 
「なるほど。ケイと知り合いなら使いやすそうだし」
とタカが言う。
 
「ちょっと待って。ケイちゃん、もしかして他のユニットも結構知り合い?」
と町添さん。
 
ああ、お見通しか。
 
「まあ、知ってる人が多いですね」
 
氷川さんと加藤さんが顔を見合わせている。
 
「ケイちゃんの視点でお勧めは?」と加藤さん。
「えっと、アウグストか竹鳥物語で」
 
と私は言ったのだが、町添さんは笑って
「どうも、ケイちゃんが今外したOzma Dream, ミルクチョコレート、線香花火の中から選んだ方が良さそうだね」
と言った。
 
「その3組がケイと腐れ縁があるんだ?」
とタカ。
 
「あ、線香花火のこの子って、いつかケイちゃんが会わせてくれた子だ!」
と加藤さんがやっと思い出したように言った。
 

さて、私は大学2年生になったばかりの2011年4月に性転換手術を受けたのだが、大学時代の4年間に随分、自分と似た傾向の人との付き合いができた。
 
いちばん大きな付き合いは「クロスロード」とお互いに呼んでいるグループの交流で、私と、都内のメイドカフェで店長兼チーフメイドをしている和実、そのパートナーの淳、富山県在住の霊能者・青葉、千葉の大学院生・千里、埼玉の美容師・あきら、という6人のMTF/MTXとその「付き添い」たちである。
 
更に音楽業界内で交流が芽生えた、スリファーズの春奈、元アイドルの歌手・花村唯香、中学生歌手の鈴鹿美里の「姉」鈴鹿、などといった人たちもいる。音楽業界でいうと、実は大物、雨宮先生という人もいる訳だが、先生と私の付き合いはとても古く、高校1年の時からである。
 
「クロスロード」の交流が生まれた2011年6月の時点では性転換手術を終えていたのは私だけだったが、機会ある度に私がみんなを煽ったのもあるのだろう。2012年に、青葉・千里・和実・春奈の4人が相次いで性転換手術を受け、2013年初めには花村唯香も性転換して、《手術済み》の人が随分増えた。
 
また性転換手術はしていなくても、雨宮先生は2006年に去勢手術を受けたと聞いている。
 
残るメンツの中で、鈴鹿は2013年の年末に去勢手術を受けたし、18歳になったら性転換手術も受けることで保護者も同意している。淳は、和実と結婚して少し経つまでは男の身体で居て、と和実から言われているらしいので、恐らくあと3〜4年は性転換手術は受けないのだろう。この時期、私たちがいちばん注目していたのは、あきらだった。
 
そもそもあきらはMTFというよりMTX寄りで、明確に女性になりたいと思っている訳では無い。でも自分が男性という意識はほとんどなく、大学生の頃からほぼ女装して生活している。彼女が勤めている美容室のホームページの美容師紹介の所で、最初は性別・男性と記載されていたのが、その内性別不詳と書かれ、更には性別女性という記載になってしまった。実際、彼女は女声で話しており男声は自分でも出し方を忘れてしまったらしいし、男物の服は全く持っていないし、トイレは女子トイレを使うし、温泉などでも女湯に入る。
 
奥さんの小夜子さんとの性生活も初期の頃は男女型セックスもしたらしいが、最近ではレスビアン型セックスしかしていないらしいし、タックも常時していて、外すのは数ヶ月に1度程度らしい。また既にDカップサイズのバストを保持している。男性機能は一応まだある筈と本人は言っているが、小夜子さんとの間の2人目の子供を作った後は、一度も射精していないらしい。
 
それで奥さんからは「子供2人できたし、もう去勢してもいいよ。なんなら性転換しちゃってもいいよ」と言われているらしい。でも本人は迷っているようであった。そしてふたりの間の2人目の子供は10月19日に生まれた。それであきらはもう性転換する障害は何もなくなってしまったのである。
 
そういう訳で、私にしても和実にしても、あきらと会う度に「性転換しちゃいなよ」とたくさん煽って本人も一応、性転換手術を行っている富山の某病院で診察は受けてきたようである。あの先生も患者を煽るのが好きなので、さんざん「早く女の子になろう」「おちんちんなんて無くしちゃおう」と言われて、この時期、かなり心が揺れていたようであった。
 
「あきらさんも早く性転換しちゃえばいいのにね」
と政子は楽しそうに言っていた。
「世の中から、おちんちん無くしてしまってもいいと思うなあ」
「それじゃ人類が滅亡するよ。だいたい、道治君や貴昭君のおちんちんが無くなったらマーサだって困るんじゃないの?」
 
「そうだなあ。道治のおちんちんは無くなっても構わない気がする。レスビアンでもやっていけるよ。貴昭のおちんちんだけは保存しておきたいな」
「保存って冷蔵庫にでも?」
「冷凍室の方がいいかな?」
 
この時期、政子は男の子の二股をしていたのである。
 

政子は元々レスビアン寄りのバイなので、男の子とあまり長期間、関係を維持できない性格である。それで大学に入ってから作った恋人も、現在5人目くらい(私も多少不確か)で、1人目と2人目は1ヶ月程度で別れており、3人目の直哉君が5ヶ月、次の和則君が3ヶ月で終わった後、5人目の道治君とは大学3年の7月から、こんな話をした時点で既に17ヶ月も関係が続いていて、中学から高校に掛けて付き合った花見さんに次ぐ交際期間の長さになっていた。道治君が女装が似合う子だったので政子が面白がって女装させていたのも長続きしたひとつの要因だろう。
 
しかし政子は道治君と恋人として付き合う一方で、高校時代の同級生であった松山貴昭君ともほぼ同じくらいの期間、恋人未満・友達以上の関係を続けていた。
 
政子は道治君とは基本的にデートの度にセックスしていたが、貴昭君との関係でも、この春に貴昭君が東京に出てきた時に1度デートし、9月にはイギリス旅行でストラトフォード・アポン・エイヴォンに行った時偶然(?)現地で会って一晩を過ごし、その後、11月にも一度デートをしていた。9月と11月にはふたりはセックスをしたようであった。
 
ただ貴昭君は大阪に住んでいるので、政子と貴昭君との関係はこの時点ではあまり進む気配は無かった。
 
「まあこの業界、全国ツアーする度に各地で一緒に寝る現地妻を持ってる男性歌手とか、よくいるし、貴昭は私の大阪での現地妻ってことでもいいかなあ」
「貴昭君が奥さんなの?」
 
「私、奥さんできないもん。でも私、やはり道治の方と結婚するかも」
「じゃ、貴昭君が他の女の子と結婚してもいいのね?」
「うん・・・・」
 
政子は少し悩んでいるような気がした。
 

11月10日。今年のBH音楽賞が発表された。ローズ+リリーは2008年に『その時』
で新人賞をもらい、その後、2009年に『甘い蜜』、2010年に『恋座流星群』、2011年には『神様お願い』、昨年は『天使に逢えたら』でゴールド賞をもらっており、今年の『花園の君』で、5年連続のゴールド賞、6年連続の受賞となった。6年連続受賞はローズ+リリーとAYAのみである。私たちは休養中ではあったが授賞式に出て行った。
 
授賞式には今年は福岡公演やPVで着た、花柄の衣装を着て出席した。授賞式では歌ってもいいし、歌わなくてもいい(その場合CD音源がそのまま流される)のだが、昨年までは政子が「パス」と言っていたので、歌っていなかった。しかし今年は「うん。歌ってもいいよ」というので、マイナスワン音源を使って歌った。司会者の人から「6年連続で受賞していて、初めての歌唱ですね」
と言われた。
 
KARIONも『アメノウズメ』で受賞して、やはり休養中だが授賞式に出てきた。しかしローズ+リリーにしてもKARIONにしてもアルバムの曲で受賞するのは異例で、そういうアーティストが2組も出たのも異例であった。
 
XANFUS, AYA, スリファーズも普通にシングルの曲で受賞していた。もちろんその3組にしてもKARIONにしても、ステージ上で歌っている。
 
出ていった順序が、スリファーズ、AYA、XANFUS、ローズ+リリー、KARIONという順序だった(ゴールド賞は10組だが、ちょうどこの5組が連続していた)ので、XANFUSが下がってローズ+リリーがステージに上がる時に、私たちはいつものようにハグしあって友情の儀式をした。しっかりその様子が全国に放送されるので、XANFUSの事務所社長の斉藤さんが頭を抱えていた。
 
私たちが降りてKARIONが登ってくる時は、私たちは握手を交わしたが、和泉は「ステージに戻って私たちと一緒に歌わない?」と小声で言った。「じゃ、10周年の時に」と私は言った。「その言葉忘れないからね」と和泉は笑顔で言った。
 

ステージでの表彰が終わってから8人と付き添いも入れて、ぞろぞろと会場の喫茶室に移動した。付き添いはAYAのマネージャーの高崎さん、事務所社長の前橋さん、XANFUSのマネージャー白浜さんと事務所社長の斉藤さん、KARIONの付き添い役・花恋と社長の畠山さん、ローズ+リリーの付き添い役・窓香と社長の須藤さん、という訳で付き添いも8人いる。
 
これだけのメンツが集まっていると目立つので記者たちに捕まって写真を撮られ、コメントなども求められる。その後で、記者さんたちには席を外してもらい、のんびりと束の間の交歓をする。
 
「08年組が物凄く好評でしたし、ローズ+リリーとKARIONの休養明けに、またジョイント企画やりません? ゴールデンウィークまでは忙しいだろうから、その後にでも?」
とXANFUSの事務所社長・斉藤さんが提案する。
 
「こちらは大賛成です」と畠山さん。
「うん。まあ、本人たち既にその気でいる感じだし」と須藤さん。
「あまり負荷にならない程度でしたら」とAYAの事務所の前橋さん。
 
各々の温度差はあるが、やはり昨年が物凄く売れたこともあるだろう、一応前向きの反応である。
 
「しかし08年組も来年は22歳になるから、そろそろ今後の路線で悩む必要が出てきますよね」
と前橋さんがほんとに少し悩んでいる風のことを言う。
 
すると唐突に政子が言った。
「ゆみちゃんは60歳までアイドルを続けるといいと思うよ」
 
「60歳まで!?」
 
政子はだいたい思いつきで発言するので、細かいことまでは考えてない。仕方無いので私が引き取ってフォローする。
 
「この業界ではだいたいアイドル歌手は20代前半くらいで引退したり、あるいは芸人などに転じたりするパターンが多いですけど、希に長く歌手として歌い続ける人もいます。沢田研二などは『TOKIO』のヒットが32歳の時。当時沢田さんは『40歳までアイドルを続ける』と発言し、『AMAPOLA』が36歳の時のヒット。本当に40近くまでアイドルを続けたと思います。松田聖子も『あなたに逢いたくて』をミリオンヒットさせたのは34歳の時ですね。保坂早穂さんも35歳ですけど、毎年アルバムが7-8万枚売れているから凄いです。AYAも『40歳までアイドルを続ける』と言ってもいいけど、いっそ『60歳までアイドルを続ける』なんてのもアリだと思います。60歳になっても『可愛い女の子』であり続ければいいんですよ。個人的な見方かも知れませんけど、由美かおるさんは50歳までアイドルであり続けたと思います」
 
「ああ、由美かおるみたいな路線はありかも知れないね」
と前橋さんも少し納得したような言い方をする。
 
「でもそしたら、私、60歳まで結婚できない?」
「まあ、ママドルという手もあるけど、そのあたりは社長さんとの話し合いで」
 
「私たちも60歳までアイドル続けるから、ゆみも頑張りなよ」
と政子。
「まあ、そうだね」
「ねえ、ケイ。60歳になっても、ミニスカでライブやろうよ」
「ああ、60歳でミニスカ穿けるように節制しておくのは良いことだね」
 
「うーん。60歳でミニスカ穿く自信はさすがに無い」
と小風が常識的な反応をした。
 

11月下旬。私と政子は、ドイツにコンクールのために旅立つ、アスカと伴奏で付いていく美野里を成田に見送りに行った。
 
「頑張ってね」と私が言うと
「朗報を期待しておいて」
 
とアスカは言って美野里と一緒に手荷物検査場に消えて行った。
 
その後私たちは空港内で少し時間を過ごした後、到着ロビーの方に移動する。
 
やがて手を振る旧友の顔が見える。私は政子を促して彼女に近寄り
「**コンクール、優勝おめでとう」
と言った。
 
「ありがとう。でも久しぶりの日本だ」
「4年くらい向こうに行きっぱなしだったね」
「うん。日本語忘れてるんじゃないかと思ってたけど、覚えてるみたい」
「そう簡単には忘れないでしょ」
 
「ということで、夢美ちゃん、これ私のパートナーのマリ。マリ、こちらは私の古い友達で夢美ちゃん。オルガンのスペシャリスト」
 
「ローズ+リリーやKARIONの曲は、全部gSongsで買えるから、全部聴いてたよ」
「ありがとう。夢美ちゃんのCDも作らない? レコード会社の人紹介するから」
「そうだなあ。まあ取り敢えず半年くらい日本にいるつもりだから、その間に考えようかな」
 
「夢美さん、冬といつ頃からのお友だち?」と政子が訊く。
「私が小学2年生、夢美ちゃんが小学1年生の時からだよ」
「それは仲良くしなければ!」
「まあ仲良くするのは良いこと」
「夢美さん、冬が小学生の頃、どのくらい女の子っぽかったかって知ってますよね?」
と政子。
 
「うーん。むしろ、私は冬子さんが男の子だということを知らなかったというか」
と夢美。
 
「おぉぉ!」
と政子は嬉しそうな声をあげた。
 

ローズ+リリーのファンクラブは12月までの「準備期間の予備登録」の間に無料で登録できたこともあり30万人の登録者が出ていた。それで1月から有料登録に切り替えるに当たり、ローズ+リリーの春のツアーの日程が発表された。
 
全国24箇所というこれまでにない大規模なホールツアー、それと夏休みに入ってから、札幌・横浜・名古屋・大阪・福岡で7回(横浜と大阪は2回)のアリーナツアーをするということになった。チケット販売総数は、現在詳細を詰めている最中で暫定予想として、ホールツアー5万枚、アリーナツアーで7万枚の合計12万枚。その内、約3万枚をファンクラブ先行で販売するとした。
 
なお、今年夏のアリーナツアー3万枚を購入しようとして発売時間後1時間に電話した人の推定総数は60万人、ファンクラブに予備登録した人の中で有償会員に残る人の予測数は10万人くらいという数字も同時に公表した。
 
つまり、ファンクラブに残れば10万人で3万枚を争うので獲得確率は30%。それに対して一般発売を狙う場合、60万人で9万枚を争うので確率15%ということになる。ファンクラブに残れば約2倍の確率でチケットが確保できる・・・かも知れないという話である。またファンクラブに入ることで、ファンクラブ先行と一般発売の2度のチャンスに賭けることができるし、ファンクラブ先行は「抽籤」なので、仕事の都合などで発売日発売時刻に電話を掛けることのできない人も応募可能である。
 
ただ、ファンクラブに残る人の予測数は「外れたらごめん」と断ってある。
 
なお、有償登録しなかった人にも、情報メールは流し続けるし、今後も情報メールだけのための無料登録のオプションも残すことにした。
 
つまりファンクラブの特典は、チケットの優先予約、会員証の発行、会報の送付、限定コンテンツの閲覧、限定グッズの販売ということになる。
 

12月11日。バレンシアが2枚目のCDを発売した。前作が8万枚のヒットになったのを受けて、やはりポップロック系の曲で構成したが、こちらも比較的良い感じの出だしになっていた。
 
「やはりバレンシアとも委託契約にしたのが良かったのかなあ」
などとUTPの花枝は言っている。
 
UTP所属のアーティストの内、ローズクォーツは専属契約であるし、解散したワランダースも専属契約であった。
 
しかし、ローズ+リリーは、UTPと契約する以前にサマーガールズ出版という枠組みが作られていて★★レコード・JASRACと契約済みだったので、UTPはこのサマーガールズ出版とローズ+リリーの営業・ライブ活動・メディア露出などに関する業務委託契約だけを結ぶ形になった。
 
こういう仕組みになったのは、マリのお父さんが委託契約にしてマイペースで活動できる方式でないと契約に同意しないと主張したことと、ローズ+リリーのCD制作の資金がUTP単独では拠出不能であったことなどがある。
 
ローズクォーツの『萌える想い』は僅か80万円、アルバム『夢見るクリスタル』
も200万円で制作されているが、ローズ+リリーの『After 2 years』は宣伝費も含め1500万円掛かっている。
 
スターキッズは元々バンドを結成した時に報酬をみんなで分配したりするための会社(スターキッズ企画)を設立していたので、そことUTPが委託契約をする形でマネージングをしている。これはスターキッズの活動の大半が各メンバーのスタジオミュージシャンとしてのものなので、専属契約に馴染まなかったためである。
 
バレンシアをデビューさせる時に、社内で実はかなりの議論があった。専属契約のワランダースは全く売れないまま解散したし、ローズクォーツも2011年以外は毎年赤字を出しているのに対して、委託契約のローズ+リリーが事実上UTPの経営を支えていて、スターキッズも音楽活動の頻度は少ないものの収益率が高い。
 
そこで結局バレンシアも、半ばゲンをかつぐ意味で、委託契約方式にすることになった。UTPとサマーガールズ出版が共同出資したバレンシアの諸権利を管理する会社「バレンシアーナ」を設立し、そことUTPが委託契約を結ぶ形にしたのである。メンバーの給料もこの会社から支払われる。万一この会社の資金が尽きたら活動終了である。(そういう意味では専属方式より厳しい)
 
委託契約なのでメンバーにはUTPから提示された仕事の拒否権もある。ただし「バレンシアーナ」と各メンバーの契約で、通常の専属契約に準じるくらいの様々なルールが設定されている。メンバーの恋愛結婚に関しては、須藤さんの方針で「常識の範囲で」ということにしているものの、服装に関する規定や、ネットの利用に関する規定、車やバイクの運転に関する規定、守秘義務の規定、交友に関する規定などをしっかり定めている。
 
更にメンバーには「少しでも迷ったら、花枝か夢花か私に相談しろ。夜中でもいいから電話を入れろ」というのだけ徹底させている。実際は花枝は結構怖いし、私は「忙しそうで申し訳無い」などと言って、夢花に電話するケースが多いようである。夢花も自分まで厳しく当たったらメンバーが相談しなくなるからと言って、優しく色々指導してあげているようだ。花枝と夢花はこういう点についてとても良いコンビになっていた。花枝も「夢花が仏になってくれるから私は鬼になれる」などと言っている。
 
「でも相談相手に私やみっちゃんが挙げられてないのはさすがだね」
などと政子は言った。
「みっちゃんは他人の話を聞くのが下手だし、マーサは変な事言うに決まってる」
と私は答える。
「やはり適材適所って奴?」
「まあ、そうだね」
 
そういう訳でバレンシアのデビューシングルは、夏フェスなどでの告知に加えてローズ+リリーのアリーナツアーに帯同したのが功を奏して8万枚売れて、制作費を上回る収益を得ることができたし、11月には全国8ヶ所のホールツアーを敢行したが、1500-2000人クラスの会場をほぼソールドアウトにすることができて、おかげで何とかメンバーの給料分も稼ぎ出すことができたのであった。
 

12月13日(金)。政子が午後から道治君とデートに出かけた。本当は翌週デートするつもりだったようだが、21-23日にライブの予定が入ったので一週早いクリスマスデートになったようであった。
 
私はきっと月曜の朝まで帰らないのだろうと思い、のんびりとその晩はグランドオーケストラのアレンジ譜を書いていたのだが、政子は金曜日の24時すぎにマンションに戻ってきた。
 
「どうしたの?」
「別れちゃった」
「なんで!?」
 
「なんでかなぁ。色々話してたら、いつしか別れることになってた」
「彼と結婚するつもりじゃなかったの?」
 
「うーん。その点については、少し前から意見が食い違ってた」
「ふーん」
「彼、一応結婚した後も歌手や楽曲制作を続けてもいいとは言ってくれてたんだけどね」
「うん」
 
「やはり私と一緒に暮らしたいみたいだったんだよね」
「普通そうだと思うけど」
 
「私には『奥さん』なんて出来ないもん。私は結婚してもいいけど、同居はしないと言っていた」
「それ絶対変だと思う」
 
「やはり、そんなこと認めてくれる男の人はいないのかなあ」
「まあ、日本に男は6000万人くらい居るから、その中に6人くらいはいるかもね」
「1000万人にひとりか・・・・私、そういう人を探そうかな」
「見つかるといいね」
「ちょっとシャワー浴びてくる」
 
政子はその晩、私を強く求めたので、私もしっかりと抱きしめ、しっかりと愛した。
 
「じゃ、マーサ、貴昭君と恋人になるの?」
「ううん。彼とは今まで通りだよ」
「なんで?道治君がいたから、貴昭君とは恋人にならずにいたんじゃないの?」
「・・・・貴昭とはね、もっとゆっくりと思いを暖めたいの」
 

ローズクォーツの4月からのライブハウスでの代替ボーカルは結局、Ozma Dream で決まってしまった。町添さんが直接∴∴ミュージックを訪れて話をしたら即OKしてくれたということだった。
 
それで翌日私と政子はタカと一緒に∴∴ミュージックに行き、珠里亜・美来子と会った。
 
「久しぶり〜」
などと言って、私がふたりとハグする。
 
マネージャーの花恋がびっくりしたように
「ケイさん、Ozmaのふたりとお知り合いだったんですか?」
と訊く。
 
「まあ昔一緒にお風呂に入った仲だよね」
「あの時、まさか、男の子だとは思いも寄らなかったけどね」
「いやあの時点で既に女の子の身体だったよね?」
「あはは」
政子もタカもにやにやしている。
 
「でもケイちゃんの代理だというので、私たちも凄くリキが入っちゃうよ」
「よろしく〜」
 
という感じで、私たちの会談は和気藹々と進んだ。畠山さんも楽しそうだった。
 
でも私の昔の実態がタカに知られそうで、こちらは気が重い!
 
「私もふたりと仲良くしたいなあ」
などと言って政子も何だか楽しそうであった。
 

さて、ドイツに渡ったアスカたちであるが、12月8日に行われた有名コンクールに参加。美事優勝に輝いた。これまで数々のコンクールに優勝してきたアスカだが、このコンクールの優勝で「上がり」という感じになる。今後はコンクールの審査員に魅せる演奏ではなく、世界中の多くの聴衆に魅せる演奏が求められることになる。
 
アスカは12日(木)早朝に帰国したので、私は政子を連れてこの日は羽田に迎えに行った。私たちが9月にイギリスに行った時、帰国に使った便である。
 
「忙しいのにお迎えありがとう」
「いや、トッププレイヤーの門出を祝福しないと」
「うん。これが出発点だよね」
「これからが大変だから頑張って下さい」
 
私たちは4人で握手をしあった。
 
「で、紹介、紹介」
と言って、私は同伴してきた男性を紹介する。
 
「課長、こちらがそういう訳で***コンクールで優勝した蘭若アスカです」
「初めまして、蘭若アスカです」
「アスカさん、こちらは★★レコードのクラシック部門の大高課長です」
「初めまして。大高と申します。この度は優勝おめでとうございます」
 
ふたりで名刺を交換している。
 
「なるほど、会わせたい人って、こういうことだったのね」
とアスカ。
 
「制作部長の町添さんが、アスカさんが私の従姉だってこと知ってたから、優勝のニュース見て即、私に連絡して来たんだよ」
「それで、ぜひ蘭若さんのCDを当社で出させて頂ければと思うのですが」
 
アスカの演奏CDは一応過去に自主制作してディストリビュータで販売したものが数枚の他、ドイツのレコード会社とスポット契約で制作したものが1枚あるだけである(日本国内にはほとんど出回っていない)。アスカは国内のコンクールにはあまり出ていないので、国内レーベルの反応が遅れた。
 
「まあ立ち話も何だし、アスカさんたち長旅で疲れてるだろうし、お茶でも飲みながら」
 
ということで、アスカとお母さん、美野里、私と政子、大高さんの6人で空港の喫茶店に入った。CDの制作に関しては費用負担や条件面などを双方で定期的に会って話していくということで、基本的には前向きに考えることになった。
 

アスカが帰国した3日後、12月15日(日)。5回目となる、私とアスカの年末ライブを開催した。従来は1000-1500人クラスの会場を使っていたのだが、今年初めて3000人クラスのホールを使用した。チケットは先週の段階では1200枚くらいしか売れていなかったのだが、コンクール優勝の報道で残りが一気に売れてソールドアウトした。
 
冒頭は恒例となっている『美しきロスマリン』で幕を開ける。例によってこのオープニングの曲だけは私のヴァイオリン《Rosmarin》で演奏する。
 
その後、司会の政子が曲を紹介しながら、前半は親しみやすい曲を演奏していく。今年はクリスマス系の曲や日本国内のヒット曲をたくさん演奏した。『星の界』
『まきびとひつじを』『王様の行進』など、そして音楽の教科書に載っているような歌で『荒城の月』『サンタルチア』『花の季節(長い道)』そして、KARIONの『アメノウズメ』、XANFUSの『Infinity Inaccessible』、ローズ+リリーの『花園の君』など、テクを要求する曲を華麗に弾いて観客をうならせた。
 
休憩をはさんだ後、今回のコンクールでピアノ伴奏をしてくれた美野里がピアノソロ演奏でリストの『愛の夢(Liebestraume)』第三番を弾いた。その後、アスカと凜藤更紗、私の3人で出て行って『パッヘルベルのカノン』を演奏する。
 
アスカは当然5億円の《Luciana》を弾いているが、私はアスカから借りた6000万円の《Angela》を使っている。そして更紗も2億円の《Tuala》という名前の楽器を弾いている。3台とも作者は違うが18世紀の銘器の競演である。
 
演奏の後で更紗と私を紹介した政子が「今弾いた3人の楽器のお値段が恐ろしいです。でも楽屋に盗みに来たら体格のとっても良い警備員さんに捕まりますからね」とコメントして笑いを取る。更紗が下がり、私は楽器をアスカの母に渡してピアノの所に座り、後半の曲目に行く。
 
後半はまずコンクールで弾いた曲、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲5番を全楽章演奏するが、これで2割くらいの観客が寝てしまう。そこで、その後、サラサーテの『ツィゴイネルワイゼン』、ファリャの『スペイン舞曲』と激しい曲を弾いて、モーツァルトで寝ていた観客を起こす!その後、『Amazing Grace』
『Andante Cantabile』『金婚式』『トロイメライ』などおなじみの曲を演奏し、最後はグノーの『アヴェマリア』で美しく締めた。
 
幕が降りてアンコールを求める拍手が来る。
 
また私と更紗とアスカの3人で出ていくが、ヴァイオリンを持っているのはアスカと更紗だけで、私はピアノの所に座る。そして黒うさPの『千本桜』を演奏する。客席から「えー!?」という声があがる。これでまだ眠っていた客がほぼ全員起きる。「アスカー!」「サラちゃーん!」ついでに「ケイちゃーん!」
なんて声まで飛んでくる。手拍子まで入る! 戸惑っている様子なのは多分純粋なクラシックファン。
 
熱狂の中で演奏が終わった後、アスカが自分で再度更紗を紹介し、更紗は下がる。最後の挨拶をした後、セカンドアンコール曲『タイスの瞑想曲』を私のピアノ伴奏で弾く。その甘いメロディーに聴衆が酔いしれて、ライブは終了した。締めのアナウンスを政子が入れた。
 

ライブの後でネットの書き込みを見ていたら、にわかアスカファンが大量に出来ているので私は微笑む。こういう一般向けのコンサートだけでなく、クラシックファン向けの本格的なコンサートも計画したいなという気分だ。
 
更紗に注目した人もかなりいたようだったし、「ケイのヴァイオリンも本職みたい」などという書き込みまであった。
 

さて、今年は休養中ということで年末年始の挨拶回りも基本的には遠慮させてもらい、振袖も新調していないので普段着(と言ってもイギリスで買ったお揃いの本場ローラアシュレイ)で上島先生の所に顔を出したほかは、★★レコードに行ったくらいだったのだが、松前社長から声を掛けられて、応接室で話をすることになる。町添さんも付いてくる。
 
「実は提携しているFMIレコードから『Flower Garden』の英語版を出せないかという話が来ているんだよ」
「英語版ですか!?」
 
「向こうの販売担当役員がFMIの親会社の関連で12月に来日して、その時、偶然『花園の君』を移動中の車内で掛かってたFMで聴いて何だこれは!?と思って、すぐアルバム買って聴いてみたら『砂漠の薔薇』に衝撃を受けたと言うんだよね」
と社長。
 
「『砂漠の薔薇』は、売れてはいないけど、ネットでも音楽雑誌でも論評の数が凄まじいですね」
と私も言う。
 
「『花園の君』は聴かれる曲、『砂漠の薔薇』は論評される曲だよね」
と町添さん。
 
「先方は英語版とスペイン語版を出したいと言ったのだけと、やるなら取り敢えず英語版かな、と」
 
「英語詩を作るのは問題無いと思います。マリは暇そうにしてるので。ただ録音にXANFUSが必要なので、彼女たちのスケジュール次第ですね」
 
この件では、政子は張り切って一週間で全曲の英語詩を書き(上島先生と雨宮先生の詩の訳についてはご本人たちの了解を取り)、XANFUSのスケジュールの空きを何とか確保してもらって録音。3月にアメリカ・ヨーロッパ・オセアニアで同時発売されることになった。ローズ+リリーの初海外発売アルバムとなった。
 
(プレオープンしたばかりの★★チャンネルや他のダウンロードストアgSongs,nora, Artemis などでも購入できるので国内でも結構ダウンロードされていた)
 
なお、XANFUSとのセッションでは念のためスペイン語バージョンも一緒に収録した。
 

2014年3月5日。『Rose Quarts Plays』シリーズの第8段『Sakura』が発売された。このシリーズとしては昨年6月に『Easy Listening』を発売してから約9ヶ月ぶりの作品である。今回もサマーガールズ出版が制作費を出し、私がプロデュースをしているが、大半の曲のバンドスコア作成は下川工房のイリヤさんに投げて、イリヤさん本人が書くか監修する形で作成してもらった。
 
(なお、これまでのPlaysシリーズは 2012.02 Rock, 05.Jazz, 07.Latin, 10.Classic, 12.Minyo, 2013.03 Girls Sound, 06.Easy Listening)
 
前作の『Easy Listening』は本当にグランド・オーケストラを編成して演奏したので、30万枚を越えるセールスを上げて2013年度のRC大賞企画賞を頂いてしまった。賞を頂いたことで、更に売上が伸びる勢いであった。
 
今回のアルバム『Sakura』に収録したのは下記のような曲である。
 
『さくら』(日本古謡)以前ローズクォーツのシングルに収録したこともあるが、その時と同様に日本音階で演奏している。日本音階に設定したキーボードをヤスが弾き、サトは尺八を吹いて、私が箏を弾き、マリが篠笛を吹いている。そしてタカは三味線を弾いたのだが、実は★★レコードが所有していたフレット付きの三味線をギターピックで弾いている! 音は三味線でも演奏はギターである。なおマキはお休み。私とマリが三度唱で歌う。
 
『花は桜、君は美し』(いきものがかり)
『sa・ku・ra』 (Girls Next Door)
『桜並木道』 (Whiteberry)
『さくら』(森山直太朗)
『桜』(コブクロ)
『チェリーブロッサム』(松田聖子)
『SAKURAドロップス』(宇多田ヒカル)
 
このあたりはだいたい原曲とあまり変えずに演奏している。
 
『桜の栞』(AKB48)元々のAKBの曲では合唱がとても美しいので、こちらも私たちの出身校、◆◆高校のコーラス部に出演してもらってコーラスを入れてもらった。
 
『Cherry Blossom Falling』(XANFUS)元々は格好良いダンスナンバーで、XANFUSのPVでは桜が舞い散る中でふたりが振袖を着て踊っているが、作曲者の浜名さんから「ローズ+リリーが歌うなら大きく変えてみて」と言われたので、私自身の手でアコスティックなアレンジにした。ドラムスを入れずに私とタカのアコスティックギターの二重奏、ヤスとサトのグランドピアノ二重奏、私とマリのヴァイオリン二重奏、私と七星さんのフルート二重奏を入れている。マキはお休みである。
 
『桜咲く日』(KARION)こちらは逆に森之和泉・水沢歌月さんから「コピーしてみて」と言われたので、原曲にできるだけ忠実に演奏した。下川工房で高校卒業見込み・4月専門学校に進学予定の超若いアレンジャー細川さんにKARIONのCDから「耳コピー」してスコアを作ってもらった。
 
「3声と思ったのに良く聴いたら4声だったのでびっくりしました」
と細川さんは言っていた。イリヤさんも4声とは気付かなかったらしい。
 
グロッケンはマリ、サックス・トランペット・ヴァイオリンはスターキッズの七星さん・香月さん・鷹野さんにお願いし、歌は私とマリが2回ずつ歌った。(私が和泉と蘭子のパート、マリが小風と美空のパート)
 
そしてアルバムの最後にはローズ+リリーの曲を入れた。
 
『桜のときめき』(ローズ+リリー)昨年のローズ+リリーのアルバム『Flower Garden』に収録されていた曲で、そちらではクラシックっぽいアレンジだったが、今回はギター・ベース・ドラムス・電子キーボード(チェンバロ音)で演奏している。長い冬に別れを告げ新しい季節の旅立ちを歌った曲である。ただこの曲のピアノパートは元々友人で音楽大学のピアノ科トップの成績である美野里を想定して書いたものなので非常に難しい! この曲を弾きこなすのに、ヤスは一週間の特訓をして「俺10年ぶりくらいに本気になった」などと言っていた。
 

さて、私たちは四季おりおりにふさわしい曲を演奏しようというので、春は『桜』、夏は『花火』、秋は『紅葉』、冬は『雪』あたりをテーマにした曲を演奏しようという漠然とした考えで、最初に『桜』を出したのだが、発売後、思わぬ反響が来て、私たちは驚いたし当惑した。
 
それは「これはケイちゃんがローズクォーツを卒業する記念のアルバムですか?」
というものであった。
 
確かに桜の歌というのは、別れを歌っているものが多い!
 
森山直太朗の『さくら』では「さらば友よ」なんて歌っているし、ホワイトベリーの『桜並木道』ではたくさん「バイバイ」と歌っている。ガルネクの『sa・ku・ra』
では「あの言葉、さよならの代わり」と歌い「ぼくは歩き始める」というのは、まるでローズクォーツがケイと別れて独自の道を歩き始めるみたいだ。松田聖子の『チェリーブロッサム』でも「新しい私」と歌っていて、新生ローズクォーツみたい。
 
更にいきものがかりの『花は桜、君は美し』では「冬が終わり」と歌い、アルバム最後に入れたローズ+リリーの『桜のときめき』でも「冬に別れを、新しい出会い」
などという歌詞がある。《冬》は私の名前だから、解釈のしようでは、私と分かれて新しいボーカルをローズクォーツに迎えるという意味にも取れる。
 
そこで私たちは、その問題について(私の休養期間明けの)4月1日に記者会見を開いて「発表します」という見解を3月24日・月曜日に出した。
 
この時期、ケイがローズクォーツを辞めるのか、ということについてはネットでも「やはり辞めるのは既定路線だよ」という意見と「いや、きっとケイは辞めない」
という意見が拮抗していた感じであった。
 

当日。4月1日。私はマリ、花枝、タカとサト、★★レコードの氷川さんと加藤課長、更に町添さん! そしてOzma Dream のふたりと一緒に記者会見に臨んだ。
 
記者さんたちは、この記者会見にわざわざ町添部長が同席したことでかなりざわめいていた。加藤課長が同席することはしばしばあるものの、制作部長が同席するというのは異例である。更には別の女性が2人いる。
 
この時点でかなりの記者が「やはりローズクォーツはボーカルが交替するんだ」
と思い込んだようであった。
 
それで記者会見の冒頭、照明を落としてビデオを上映する。ローズクォーツのデビュー曲『萌える想い』が流れる中、上島先生が登場してメッセージを述べる。
 
「ローズクォーツの結成に関しては元々営業サイドと制作サイドの意思疎通のズレがあったよね。2010年夏の時点で制作サイドではもうローズ+リリーの復帰作を制作する気が満々だったのに、営業サイドでは復活は当面無いと思ってケイちゃんを他のバンドと組ませてしまった。結果的にローズクォーツの活動によってローズ+リリーの復活が遅れて、それがファンの反発を招いた。でも、ケイちゃんはここまで何とか両方のユニットをうまく回すように良く頑張ったと思う。これ以上頑張り続けるのは消耗してローズ+リリーとローズクォーツを共倒れさせるだけ。そろそろ決断の必要があったね」
 
雨宮先生も登場する。
 
「まあケイは何でも言われたことをそのままやろうとする癖がある。良く言えば頑張る子、悪く言えば流されやすい子。ケイにローズクォーツのこと聞けば絶対『そちらも10年やります』とか言うだろうけど、それって絶対無理だから。こういう子の場合、やはり周囲が気をつけてあげてオーバーフローしないようにしてあげないといけないんだよ」
 
この他、○○プロの丸花さん、元クリッパーズのnaka、スイート・ヴァニラズのElise, サウザンズの樟南、スカイヤーズのYamYam, 渡部賢一さん、保坂早穂、更にはAYA, XANFUSの光帆、KARIONのいづみ、富士宮ノエル、坂井真紅、花村唯香、スリファーズの春奈まで短いメッセージをくれていた。
 
そしてビデオが終わって、記者たちがとっても発言したそうにしていた所で、私は笑顔で言った。
 
「お集まり頂きありがとうございます。それからメッセージをくださった方々にもこの場を借りて御礼を言いたいと思います。それで本日の記者会見の内容ですが、これをわざわざ4月1日という日付で開いたというので、趣旨をご理解頂きたいのですが」
 
私の発言に爆笑が起きた。
 
「やはりケイさん、卒業しないんですね?」
と某写真週刊誌の記者さんが言う。5年前に私の「正体」を暴露した雑誌の当時の編集長で、今は社長になっている人だ。わざわざ来てくれたようである。マリの「呪いの人形」で骨折した人である。
 
「私もマリも大学は卒業しましたが、私はローズクォーツからは離れません」
と私は明言する。
「ケイは多分あと5年はローズクォーツのボーカルを続けると思います」
と町添さんも発言した。
 
私は常々20年と言っていたのだが、そこを町添さんの感覚で取り敢えず5年に修正してくれたんだろうと思った。将来本当に卒業することになった場合の布石だ。
 
数人の記者が部屋から出る。第一報を流すためだろう。
 
「そちらの2人の女性を紹介して頂けますか?」
と大手音楽雑誌の記者さん。この人はOzma Dreamを知っている筈だが、他の記者さんたちのために敢えて質問したのだろう。
 
「はい、ご存じの記者さんも多いと思いますが、Ozma Dream というデュオです。こちらがジュリア、こちらがミキ。実は私の古い友人です」
 
ひとりの記者から質問が出る。
 
「私はOzma Dreamの取材をしたこともありますが、ケイさんと知り合いという話は聞いていませんでした。いつ頃からのお付き合いなんですか?」
 
「2008年の1月に、実は私とジュリア・ミキの3人で、KARIONの全国キャンペーンのコーラスを務めたんです」
 
記者の間でざわめきが起きる。
 
「当時ケイちゃんの歌を聴いて、なんでこんなに歌のうまい人がバックコーラスなんかやってるんだろうと思いました」
と珠里亜が発言する。
 
「でもいづみちゃんから、私たち3人ともすぐに歌手デビューできるよ、なんて言われて、ちょっと頑張ろうかなと思いました」
と美来子も発言する。
 
「ちなみにその時、途中から私がヴァイオリンに回ったので補充のコーラスとして参加したのが後にスリーピーマイスでデビューした、エルシーさんですね」
 
と私が言うと、また記者席にざわめきが広がる。
 
(記者会見の後で当時の写真が無いかと報道各社も探したようであるが、当時KARIONはそんなに注目されていなかったため、どこも写真を見つけることはできなかったようである。KARIONのファンサイトでも捜索が行われたが写真は全く出てこなかった。記念写真などを撮ったケースでも、みんないづみ・みそら・こかぜの3人と撮っており、バックバンドやコーラスの人まで撮影していないのである)
 
「それで、今日の記者会見の趣旨ですが、ローズクォーツでは昨年の8月から休養中の私に代わって《覆面の魔女》のおふたりが、代理ボーカルを務めてライブハウスなどに出演していたのですが、私が休養は明けても、多忙なのはむしろ前以上なので、引き続きどなたかに、ライブハウスやイベントなどでの演奏の際に代理で歌って頂けないかということで、探していました所、古い友人でもある、このふたりが引き受けてくれたので、1年間、お願いすることにしました」
 
と私は説明した。加藤さんが補足する。
 
「そういう訳で、ローズ+リリーが本格的に活動再開するのに加えて、マリ&ケイが他の歌手などに提供する楽曲の制作もたくさんあることから、ケイのスケジュールが非常に厳しく、ケイをボーカルとしたローズクォーツでは、ほとんどふだんの演奏活動ができない状態なので、ケイは音源制作とホール以上のコンサートでの演奏だけに限定して、代わりにOzma Dreamのふたりを代理ボーカルとしてフィーチャーしたバージョンで、来年の3月までローズクォーツは主としてライブハウスやお祭りなどでの演奏をさせて頂くことになります」
 
「そうすると、来年はもしかしてまた別のデュオをフィーチャーするのですか?」
「私の多忙状態が続いていたら、そうなるかと思います」
 
「それも1年限定ですか?」
「Ozma Dream は本来の自分たちの演奏活動をしながら、こちらも兼任でしてくれますので、結構負荷が高いです。1年以上はさすがにお願いするのは気の毒だと思っています。それで来年はまた他の方にお願いし、その場合も1年限定になると思います」
 
そこでタカが発言する。
「覆面の魔女をフィーチャーしたローズクォーツはローズクォーツFM, 昨年の夏フェスでやった鈴鹿美里をフィーチャーしたのはローズクォーツSMでしたが今年はローズクォーツOD だね、と言ったら、Mを付けるのが面白そうだから、ローズクォーツOMにしようという話になりました。OzmaでOMですね」
 
サトも言う。
「マリによれば、ケイとマリが入ったローズクォーツは、ローズクォーツKMなんだそうです。やはりMで終わる」
 
「Mには何か意味があるのでしょうか?」
「マリが、ローズクォーツの影のプロデューサー、マリのイニシャルと言っていました」
「マリちゃんは、ローズクォーツのプロデューサーだったんですか?」
 
「はい、私は《影のプロデューサー》と自称しています」
とマリが笑顔で答えた。
 
「それで私がローズクォーツの次のシングルのタイトルを決めました。『セーラー服とさくらんぼ』です」
 
記者席がざわめく。
 
「このシングルでは、覆面の魔女をフィーチャーした曲と、Ozma Dreamをフィーチャーした曲も1曲ずつ入れる予定です」
と私。
 
「あの〜、そのタイトルですが、もしかして演奏者が全員セーラー服を着るなんてことは?」
「期待していてください」
とマリは笑顔で言う。
 
タカも笑っていたが、サトが凄く嫌そうな顔をしていた。
 

「でもあの会見で、Mがリーダーのマキさんのイニシャルではという意見は出なかったね」
と後で政子は言った。
 
「あ、それ、俺も忘れてた」
とタカ。
 
「でも、また女装なんですか?」
とサトが本当に嫌そうに言う。
 
「今回はスタジオの中だけにしようか」
と私が提案する。
 
「ま、それでもいいか」
と政子。
 
「タカさんは中学か高校の時に着たセーラー服持ってきてね」
「そんなの持ってないよ!」
「じゃ、私が見繕ってあげるよ」
「えーーー!?」
 
 
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【夏の日の想い出・第四章】(2)