【夏の日の想い出・天使の歌】(4)

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2019年7月2日の皆既日食のデータは下記である。時刻はUTC(現地時刻)
https://eclipse.gsfc.nasa.gov/SEsearch/SEsearchmap.php?Ecl=20190702
 
▲日食帯の左端 37.7S 160.4W 18:01(7:01)(日出皆既)ニュージーランドの東2000km
▲最大食点(GE) 17.39S 109.00W 19:22:58.5(12:23) イースター島の北1000km
▲最大持続点(GD) 17.38S 108.62W 19:21:53.5-19:26:26.3 (12:21:53.5-12:26:26.3) [4'32.8"]↑の40km程東
▲上陸点 29.5S 71.3W 皆既20:38:17-20:40:53 (16:38:17-16:40:53) [2'36"] ラ・セレナの北45km
▲日食帯の右端 35.8S 57.7W 20:44(16:44)(日没皆既)ブエノスアイレスの南南東140km
 
恐らくイースター島の北1000kmの海上に船で見に行くツアーも募集されるのではないかと思われる。料金はかなり高額と思われるが!
 
青葉が皆既食を見に行ったチリのラ・セレナでは下記のようになる。
 
部分食始15:22:33 JST7/3 4:22:33
皆既食始16:38:14 JST7/3 5:38:14
皆既食了16:40:29 JST7/3 5:40:29
部分食了17:46:37 JST7/3 6:46:37
日没__17:56:58 JST7/3 6:56:58
 
太陽の方位角は皆既食の時間帯が307度(北西)で、日没方位は296度である。(方位角は、東90 南180 西270 北360=0 )チリは南半球で、ラ・セレナは西の海岸都市なので太陽は東の山から昇り“北”を通って西の海に沈む。日食がちょうど15時半から18時までで、ラ・セレナは西側が開けているのでとても観測条件が良い(曇らないことを祈ろう)。
 
チリ(CLT)の7月は“冬時刻”であることに注意。マジでラ・セレナあるいはもう少し持続時間の長いチュングンゴ(2'36")などまで見に行く人は冬用衣類を忘れないように!!
 
青葉は6月27日の★★レコード株主総会に出た後、29日は信次の一周忌法要に出て、30日は川島家で水鳥波留と会い、その足で成田から南米に渡った。一方、冬子たちが宮古島で流星群を見たのは日本時間7月3日の朝4-6時頃である。
 

6月27日の株主総会。
 
鈴木片子さんの動議が通り、村上社長らの退陣が決まり、町添らの新取締役陣が前に出て、その場で“臨時取締役会”をし、町添氏が社長に推された。それで町添氏は須丸氏と交替して議長席に立った。
 
町添さんは、まず挨拶した。
 
「思いがけないことで新取締役陣に選任され、まだ戸惑っておりますが、私は★★レコードの売上を3年で倍増させ、★★レコードを復活させるべく取り組んで行きたいと思います。新しい事業計画については早急にまとめたいと思いします」
 
と述べ、大きな拍手をもらった。
 
「議決事項が途中でした。第2号議案まで行きましたので、次は第3号議案、監査役選任の件ですが・・・」
と町添さんが言った時、ひとりの株主が起立して言った。
 
「株主番号3861番、高木真と申します」
 
会場がさわめく。東郷誠一先生なのである。
 
「第3号議案に行く前に、第1号議案の採決をすべきだと思います」
「あれは可決されているのですが」
「果たしてそうでしょうか?」
と言って東郷誠一先生は、見解を述べた。
 
「3時間ほど前、村上さんが第1号議案、第2号議案、と立て続けに読み上げたあと、事前投票の数字をちゃんと明かしてくださいという質問がありました。それで村上さんは第2号議案の数字は述べられましたが、第1号議案の数字はまだ述べておられません。その株主質問から第2号議案が審議しなおされた訳ですから、あの時、第1号議案も同時に審議しなおされるべき状態になったものと私は認識しておりました。ですから、あれは再度採決が必要だと思います」
 
会場がかなりざわめく。
 
そう言われればそういう気もするのである。
 
町添さんは隣にいる朝田さんと相談してから発言した。
 
「それでは第1号議案は再度この場に諮ってご承認を頂ければと思います。すみません。事務局の方、事前投票の数字を出してください」
 
事務局の人が数字を確認して町添社長に提示する。
 
「第1号議案については、事前投票では賛成が30.5%、反対が5.3%でした。ご承認頂ける方は拍手を」
と町添さんが言った所で、東郷先生は遮るように言った。
 
「投票を実施して下さい。会社合併は普通決議ではなく特別決議、つまり採決参加者の3分の2以上の票が必要です。拍手では数が分かりません」
 
町添さんは朝田さんと話す。
 
「分かりました。第1号議案、更に第3号議案の監査役選任についても、この場で投票を実施したいと思います。事務局の方、たいへんお手数ですが投票用紙の準備をお願いします」
 

議場にはため息が広がる。これであと2時間は掛かることが確定である。投票して結果が出るのは早くとも16時半頃になるだろう。
 
事務局で急ぎ投票用紙を作成する。それをまた議決権行使書を確認しながら投票である。
 
私は岩波弁護士からの電話連絡で、第1号議案には反対票、第3号議案には賛成票を投じて下さいと指示を出した。
 
また株主に軽食と飲み物が配られた。
 
全員の投票が終わったのは16時過ぎで、それから集計作業が進められた。その結果が出たのは、もう17時近くであった。数字を見て町添さんの顔が青ざめた。気を取り直して発表する。
 
「結果を発表します。第1号議案について議場で投票されたのは3018万3200株です。事前投票されたのが1764万0900株。合計4782万4100株で97.1%になり、定足数を充たしております。賛成は786万0800株、事前投票で賛成して頂いた方が1502万9400株で合計2289万0200株、投票総数の47.9%です。議場での反対票は2230万1000株、事前投票で反対なさった方が260万1800株で合計2490万2800株、投票総数の52.1%、無効票は議場21400株、事前投票9700株の合計31100株でした。以上をもちまして第1号議案は否決されました。従ってTKR吸収合併は行われません」
 
3分の2どころか過半数も取れなかった。
 
物凄いざわめきがある。怒号まで飛んでいる。記者らしき人がメールを打っている。数分以内に速報が流れるだろう。読み上げた町添さんは厳しい顔をしている。恐らく町添さんとしては出鼻をくじかれた気分だろう。さっき売上げを倍増させると発言したのはTKRの売上げを取り込むことを見込んでの上だったろう。
 
この件に付いては事前投票が圧倒的賛成であったのに対して、議場での投票は圧倒的反対だったのである。実際にはTKRの活動を評価していた人たち、外資系に主導権を握られるのを嫌う人たちなどから成る反対派が株を買い占めて総会で反対票を投じたというのが真実に近い。私もその一派だが!
 
また経営陣から排除されたMM系の株主たちも意趣返しに反対票を投じたようである。MM系が賛成に回っていたら3分の2が取れなくても過半数は取れた可能性が高い(*1)。
 
採決をやり直させた立役者である東郷誠一先生は満足げな表情であった。それに対して第2号議案の修正で大きな役割を果たした鈴木一郎∞∞プロ社長や鈴木社長と並んで座っていた○○プロの丸花社長などは腕を組んで厳しい表情をしていた。たぶん賛成票を投じたのだろう(但し鈴木さんも丸花さんも週明けにはTKR合併反対派に趣旨変えした。鈴木片子さんも少し遅れてそちらに転換した)。
 
なお第3号議案の監査役選任の件は、問題無く承認された。
 

(*1)MM系の中で大きいのは無藤鴻勝氏が持つ125万株である。無藤氏は反対票を投じたものと思われる。賛成と反対の票差は201万2600株だったので、無藤氏が賛成に回っていたら反対票がマイナス125万、賛成票がプラス125万で、賛成票が反対票を上回っていた。議場に居た他のMM系株主も大半が反対票を投じたようである。もっとも合併は特別決議なので過半数では承認されない。
 
今回は後に“TKR守護八人の侍”と(丸山アイにより)命名された下記8人の大株主で発行総株数の35.5%(議決権総株数の36.0%)を押さえていたので、特別決議は確実に否決できたのである。
 
村山千里、雨宮三森、山吹若葉、中村博紀、久保早紀、八重龍城、唐本冬子、紅川勘四郎
 
この他に下記の3人も1桁少ないながら協力してくれていた。
 
峰川伊梨耶、川上青葉、蔵田孝治
 
ちなみに発行総株数と議決権総株数が違うのは、会社合併の際に生じた単元未満株のせいである。
 

(*2)2019年3月末時点での大株主(株数順・総会欠席者を除く) ◆TKR合併に反対票を投じた人 ○賛成票を投じた人
 
LionPairs 393万9400株 (7.88%)○
唐本冬子 246万7300株 (4.93%)◆
久保早紀 242万1000株 (4.84%)◆
村山千里 240万5600株 (4.81%)◆
八重龍城 232万6000株 (4.65%)◆
中村博紀 231万8200株 (4.64%)◆
山吹若葉 230万1800株 (4.60%)◆
鈴木片子 215万0000株 (4.30%)○
紅川勘四郎 201万2000株 (4.02%)◆
雨宮三森 149万8400株 (3.00%)◆
無藤鴻勝 125万0000株 (2.50%)◆
須丸秀秋 120万0000株 (2.40%)◆
松前慧子 _70万0000株 (1.40%)◆
丸花茂行 _70万0000株 (1.40%)○
高木真_ _60万0000株 (1.20%)◆
川上青葉 _40万0000株 (0.80%)◆
鈴木一郎 _35万0000株 (0.70%)○
町添幸太郎 30万0000株 (0.60%)○
◇◇◇銀行 30万0000株 (0.60%)○
峰川伊梨耶 20万0000株 (0.40%)◆
蔵田孝治 10万0000株 (0.20%)◆
佐田博栄 ____8200株 (0.02%)◆
村上時二郎 __7800株 (0.02%)◆
 
逆に言うと賛成票を投じたのは LionPairs、鈴木片子、丸花茂行、町添幸太郎、鈴木一郎、◇◇◇銀行である。鈴木片子にしても鈴木一郎にしても合併反対派の動きを知らなかったので、東郷誠一さんは何を寝ぼけたこと言っているんだ?と思ったし、投票結果に仰天した。冬子を含めて反対派は、この件について誰かと話すと「共謀した」とみなされて金融商品取引法違反に問われる危険があるので、友人・家族も含めて一切話さなかった。それで情報通の鈴木一郎社長さえも気付かなかったのである。
 

第3号議案の投票結果が発表(承認)された後、新取締役となった9人が各々3分程度のスピーチをした。この間に朝田専務がホテル側に懇親会の準備を依頼した。なお堂崎さんは1人で10分くらい話し、更に歌まで歌って、株主たちを大いになごませた。解任された佐田元副社長まで堂崎さんのパフォーマンスに顔がほころび、拍手をしていた。
 
全ての議事が終わったのは17時半近い。当初の開始予定時刻10時から7時間半という長丁場であった。町添新社長は閉会を宣言するとともに、株主たちに案内した。
 
「予定を大幅にずれ込みましたが、この後、懇親会を開きたいと思います。ささやかながら料理や飲み物も用意しております。お時間のある方は、どうぞご出席ください」
 
株主の間にホッとした空気が流れた。
 
総会運営スタッフとホテルのスタッフにより、懇親会会場へと株主を案内する。このまま帰る人にはお土産を渡す。
 
懇親会会場には既にテーブルが並べられており、食事がどんどん運び込まれてきている最中だった。会場に入る人には、シャンパン、ビール、またはソフトドリンクが渡される。
 
だいたいみんな入った所で町添社長が音頭を取って乾杯した。
 
懇親会では小野寺イルザと百瀬みゆきのスペシャルライブも行われたのだが、彼女たちは12時くらいに演奏する予定が6時間も待たされて、大変だったようである。お料理もお昼になる予定が夕食になってしまった。10時半の段階で「遅くなりそう」という伝達があり、仕込んだ食材を冷蔵庫に戻したり、氷を乗せて劣化しないようにして待機していた。料理人さんたちも全くお疲れであった。お腹が空いたという株主が多く、料理がどんどん無くなるので、かなりの追加オーダーをしたようである。
 
懇親会にMM系の株主の多くは参加しなかったが、一般株主は町添・朝田などの新経営陣とたくさん話したがり、周囲が物凄い人だかりになっていた。町添さんも笑顔で多くの株主と話し、色々提案してくれるものをどんどんiPhoneにメモしていた。ミュージシャンの株主は加藤銀河(制作部長に就任予定)とたくさん話し、加藤さんも、かなり笑顔が出ていた。
 

株主総会が終わった後の18時過ぎ、TKRは松前社長と森原会長の連名で、緊急声明を発表し、あわせて各所属アーティストの事務所にメールを送った。いわく
 
《ここ1ヶ月ほどTKRが★★レコードに吸収されたら、各アーティストの皆さんは自分はどうなるのだろうと不安だったと思います。しかし本日開かれた★★レコードの持ち株会社・★★ホールディングの株主総会で合併が否決されましたので、明日開かれるTKRの株主総会でも合併案は否決されるものと思われます。TKRは今まで通り、アーティストのためのレコード会社として運営していくつもりですので、今まで通りの感覚で制作をしてください》
 
ちなみにトリプルスターは合併について、★★ホールディングの株主総会で可決された場合は、合併に反対しないという方針を伝達していた。つまり★★側で否決された以上はトリプルスターも賛成しないので、議案は確実に否決される。
 

★★レコードの新経営陣グループもTKRの合併問題について週明けの7月1日(月)に見解を発表した。
 
・合併は否決されたものの、朝田が★★レコード専務とTKR副社長を兼任することで、両者の経営自体は協調的なものであると考えている。
 
・TKRの利益はそもそも持分法に従い★★レコードに還元されている。
 
・TKRは売上げの7割がわずか2組のアーティスト絡みのもので(*3)、売上げも大きいがリスクも高い。そもそもTKRを設立したのは何かあった時に★★レコード本体に影響が出ないようにするのが目的であった。
 
・TKRがネット関連事業で高い利益率を出しているのは、通信会社トリプルスターとの共同事業で、通信インフラを安価に使用できるからであり、そのインフラが失われた場合、新たな提携先を探しシステムを制作して現行システムから移行するには結局新たな事業を開業する以上の投資をすることになるし、業務の混乱も招く。日常的な経費は確実に今よりも増え、薄利少売型!のTKRで、現状ほどの利益率が出せるとは思えない。
 
・★★レコードは従業員1408名に対して、TKRは72名であり(5月末現在)、TKRはコンパクトな運営がなされていることで、高い利益率をあげている。
 
以上のことにより、新経営陣で再度検討した結果、TKRを合併するメリットは合併のために必要な新たな投資を越えないと考えられる。
 

(*3)TKRの売上は、アクアで6割、ステラジオで1割を占めている。そのほかヴェール・ブロンズ(セミプロアーティスト用レーベル)の売上が1割ある。
 

この見解の形成には、新たな社外取締役となった、ミュージシャンの堂崎隼人(元ロングノーズ)の意見の影響が強かったようだという噂が流れていた。同じロングノーズのメンバーだった松崎連鹿が、現在TKR制作部アドバイザーの地位にあり、最近TKRが元気のいい新人をどんどん開拓しているのは、彼の“耳”、そしてアーティストたちへの「煽り」があるとも言われている。TKRの設立当初はアクアの売上が8割だったのが6割に低下したのは松崎が発掘した新人が結構売れているおかげである。堂崎は松崎を通してそのあたりの事情を把握していた。その見解に新経営陣の核となった朝田、それに加藤・紙矢も賛成した。
 
TKR内の特にヴェールレコード(*4)のレーベルと契約しているアーティストは自分が制作した楽曲をパソコンやスマホから WAVE/ AIFF/ MP3/ AAC/ FLAC などの形式でアップロードすれば審査後公開されてダウンロード販売されるようになる。これがコンピュータ的なものの操作に不慣れな人には案外難しい。
 
ミュージシャンには必ずしもコンピュータやアプリケーションに強くない人も多い。松崎連鹿に言わせると“馬鹿が多い”。ワープロとペイントの違いも分からないレベルが多い。
 
「俺も男の娘と女の子の違いは分かるがマックとアンドロイドの違いは分からん」
と松崎は発言して前川優作に
「せめてアイフォンとアンドロイドと言え」
と言われたことがあるらしい。
 
TKRのシステムをやっと覚えたのに、全く新しいのをまた覚えてくれと言われたら、嫌がる奴も多いと彼は主張したという。更に、TKRのミュージシャンには“テンションが低い”奴が多く、たまに気が向いたら音楽やってみようかな、というセミプロ未満の奴が多い。しかしそういう奴らが10万人集まって億単位の利益が出ている。システムを更新したら半数以上が脱落して、ここ数年間、そういう奴らを集めた営業努力が無に帰すと彼は主張したらしい。
 
実際、この噂(あくまで噂で堂崎自身は何も見解を出していない)が流れた後、「よかったぁ、TKRが無くならなくて」という安堵するような“セミプロ未満”“自称クォータープロ”のミュージシャンたちの声が多数ツイートされたのである。
 
その状況を見て、投資家たちの中にも合併否決の結果を好評価する人が増えた。
 

(*4)TKRは3つのレーベルから成っている。
 
●マリンレコード §§ミュージック系。主力はアクア。
 
●ブロードレコード ΘΘプロ系(三つ葉を除く)。主力はステラジオ。
 
●ヴェールレコード その他のアーティスト。3つのレベルに分かれる。
・ヴェール・ド・サンドリヨン メジャーレベルのアーティスト
・ヴェール・ダルジャン 実質的なインディーズ
・ヴェール・ブロンズ 実質的な委託販売。ダウンロード専門。
 
これらはペロー作 "Cendrillon ou la Petite Pantoufle de verre" (シンデレラまたはガラスの小さなスリッパ)から来ている。
 
サンドリヨンはシンデレラのマーク、ダルジャンは銀色のハイヒール、ブロンズは銅色のパントゥフルのマークである。これらの間は売上げ実績により昇格したり降格したりするが、ブロンズにはノルマが無いので1年に1〜2枚しか売れないというアーティストでも在籍しておくことが可能である。またブロンズアーティストでも有料会員になると、ダルジャンと同等のサービスを受けることができる。
 
ブロンズの契約者は10万人を越えており、そこからあがる収益は、ブロードレコード全体と大差無く、ヴェールレコードの中核になっている。
 

さて、株式市場の反応はこのようであった。
 
翌日6月28日(金)の東京証券取引所では、株価がそもそも高くなりすぎていたこともあり、売り気配の方が強く、昨日の終値6200円から暴落し始める。結局28日はストップ安の5200円で終わった。
 
週明けの7月1日(月)には、寄りつきから利確を狙う人たちの売りも相次いでいったんストップ安の4200円まで落ちたが、お昼に新経営陣の合併しないことへの見解が出ると、それを評価する人が増え、4800円まで戻す。更に、総会で自分たちの動議が否決されたライオン・ペアズが敵対的TOBを仕掛ける模様だという噂が流れ、株価は結局、ストップ高の6200円まで高騰して終わった。
 
その週は、憶測が憶測を呼んで株価は激しく変動する。火水はTOBは無いかもという憶測からストップ安となったが、木曜日には別の投資グループが大量に株を集めているという噂が流れてストップ高となる。しかし金曜日はその根拠が不明というのでまたストップ安となる。毎日の終値はこのようになった。
 
7/1 6200 7/2 5200 7/3 4200 7/4 4900 7/5 4200
 
ところが週明けの7月8日(月)、ライオン・ペアズが変更報告書を出し、同ファンドの保有株式数が7月1日付けで5%未満の4.9%になったことが明らかになった。
 
市場は唖然とした。
 
ちなみにいったん5%未満になってしまえば、その後は5%を越えない限り何%になろうとも報告書提出は不要である。恐らくは7月2日に残り全部も売ってしまったのではと想像した人が多かった。
 
つまり・・・
 
ライオン・ペアズは散々値段をつり上げておいて、あまり値段が下がらない内に全部売ってしまったのではないか?と多くの投資家が想像したのである。
 
同ファンドは1200-1800円の頃に8%に相当する400万株を購入している。それを仮に5500円で売った場合、60億円で買ったものが220億円で売れたことになり、差額160億円の儲けが出たことになる。
 
最初からそれを狙っていたのでは!?
 
と投資家たちは考えたのである。
 

アクアの小浜市でのライブ詳細は6月28日のTKR株主総会(出席者は町添氏とトリプルスター社長の2人)でも合併が否決され、TKRが★★レコードに吸収されないことが確定した時点で発表になった。
 
日時 8月31日(土)
場所 小浜市特設会場
交通 敦賀駅、小浜ICそば特設駐車場からシャトルバス
 
第1部(9:00-13:00)§§スターズ 9:00 桜野レイア 9:20 山下ルンバ 9:40 原町カペラ 10:00 石川ポルカ 10:20 桜木ワルツ 10:40 花咲ロンド 11:00 白鳥リズム 11:30 姫路スピカ 12:00 西宮ネオン 12:30 今井葉月
 
第2部(14:00-16:30)アクア
 
発売枚数 70,000枚(座席指定)
チケット発売
・ファンクラブ(4万枚) 6.28-7.01 抽選
・一般発売(3万枚) 7.6(土) 先着順
 

現地の施設の工事は7月いっぱいで終了する予定である。工事用住宅(通称"Muse Town")は8月20日までに全て撤去するので、ライブが行われる時点では作業員用のユニットハウスは姿を消しているはずである。跡地の利用について若葉は「なーんにも考えていない」と言う。
 
「別に無理して使う必要無いんじゃない?」
と言っている。
 
「まあお花でも植えようかな」
「ああ、それいいかもね」
 
ということで、広大な公園として整備されることになりそうである。
 

ところで私と政子・あやめは★★ホールディングの株主総会前日、6月26日に宮古島に行っており、株主総会も代理で出席してもらった岩波弁護士からの報告と、ツイッターに流れてくる様々な人の書き込みで状況を把握していた。
 
幸いにもこちらの意図通りに進行したので満足だったが、その夜は氷川さんから電話が掛かってきて、町添さんの社長就任、加藤さんの制作部長就任という報告に、驚いたふりをしておいた。なお氷川さんが課長になることが決まったのは週明けである。
 
27日は株主総会もあったので1日待機していて、28日は政子の島内食べ歩きに付き合った。
 

さて、宮古列島の主な島には下記の8つがある。
 
●宮古島 本島
 
●本島と橋で繋がる島
・伊良部島(伊良部大橋)本島の中央部の西
・池間島(池間大橋)本島の北。
・来間島(来間大橋)本島の南部の西
・下地島 伊良部島と狭い海峡(ほぼ川に見える)をはさんでいる。5本の橋で繋がる。
 
八重干瀬は池間島の北方に広がっている。
 
●大神島
 本島北端から東4kmほどの場所にある。島の大半が禁足地という神様の島。
 
●石垣島との間にある島
・多良間島 宮古島と石垣島のちょうど中間付近にある丸い島
・水納島 多良間島の北8kmほどの所にある島。
 

6月29日は宮古島から橋を渡って行くことのできる、伊良部島(いらぶじま)・下地島(しもじしま)・池間島(いけまじま)に行ってみた。下地島には下地島空港があるが、現在定期便は就航していない。しかしパイロット訓練のための空港として運営されている。
 
(筆者の友人の飛行機好き=マイル修行僧=数人が“未踏地解消”のため、10年程前にここに共同でチャーターした飛行機を乗り付けたことがある)
 
池間島は元は南北に走る狭い海峡(ただの谷間に近かった)をはさんだ東西2つの島だったが、現在は崖崩れなどにより海峡が埋まってしまい、結果的に一体化している。
 
。。。という話をしていたら唐突にマリが言った。
「ゆまちゃん、子供の頃、谷間があるのが嫌でさ。ガムテープ貼って閉じていたんだって」
「なんで、そういう話になるのさ。でもそれおしっこするのに困るでしょ?」
「そう。それが問題だったらしい」
 
6月30日は沖縄本島から明智ヒバリが様子を見にやってきたので、一緒にヒバリが精神力を回復させたという来間島(くりまじま)に行き、お花畑など見ながら、のんびりと過ごした。ヒバリと政子は、私には理解不能な言葉(?)で会話していた。
 
政子はヒバリが描いた《かぁいいアクアちゃんの絵》を見て喜んでいた。
 
「かわいい!ね、ね、ヒバリちゃん、アクアにビクトリア朝っぽいメイドさんの服着せてよ」
「OKOK」
 
とヒバリはリクエストに応えていた!
 

7月2日の夜、というよりも7月3日明け方のことであった。私の夢の中に青葉と千里が出てきて、千里は全裸で、青葉も下半身裸でサンバを踊っていた。ふたりが円を描いて踊っていたことから、私は那覇から宮古島に来る時に見たルカン礁を連想した。思わずその礁湖の中に引き込まれそうになったが、後ろからガシッと千里に抱き留められる。そして千里は私に
 
「これ、冬の落とし物」
と言って鈴をくれた。
 
目を覚ました時、私は何か感じた。政子を起こして言った。
 
「ちょっと外に出てみない?」
 
それであやめを抱っこして外に出ると、西の空で星がひとつ流れた。
 
「流れ星だ。願い事、願い事」
と言って、政子は一心に祈っている。
 
しかし星はその後どんどん流れた。同時に数個流れるものもある。
 
私と政子はそれから多分1時間以上、西の空を半ば呆然として眺めていた。
 
物凄い流星群の天体ショーだった。それはまさに「星降る夜」という感じだった。
 
そして私の頭の中に自分では読めないような漢字の列が、まるで電光掲示板のニュースのように流れて行った。
 
故於是天照大御神見畏、開天石屋戸而、刺籠坐也。爾高天原皆暗、葦原中国悉闇。因此而常夜往。於是萬神之声者狭蠅那須満、萬妖悉発。是以八百萬神於天安之河原神集集而、高御産巣日神之子・思金神令思而、集常世長鳴鳥令鳴而、取天安河之河上之天堅石取、天金山之鐵而、求鍛人天津麻羅而、科伊斯許理度売命令作鏡。科玉祖命令作八尺勾珠之五百津之御須麻流之珠而。
 
召天児屋命・布刀玉命而、内抜天香山之眞男鹿之肩抜而、取天香山之天之波波迦而、令占合麻迦那波而、天香山之五百津眞賢木矣根許士爾許士而。於上枝取著八尺勾珠之五百津之御須麻流之玉、於中枝取繋八尺鏡、於下枝取垂白丹寸手・青丹寸手而。此種種物者、布刀玉命布刀御幣登取持而、天児屋命布刀詔戸言祷白而、天手力男神隠立戸掖而。
 
天宇受売命、手次繋天香山之天之日影而、為鬘天之眞拆而、手草結天香山之小竹葉而、於天之石屋戸伏于気踏登杼呂許志、為神懸而、掛出胸乳、裳緒忍垂於番登也。爾高天原動而、八百萬神共咲。
 
於是天照大御神、以為怪、細開天石屋戸而、内告者。因吾隠坐而、以為天原自闇、亦葦原中国皆闇矣、何由以天宇受売者為楽、亦八百萬神諸咲。爾天宇受売白言。u汝命而貴神坐。故歓喜咲楽。如此言之間、天児屋命布刀玉命、指出其鏡、示奉天照大御神之時、天照大御神逾思奇而、稍自戸出而。臨坐之時、其所隠立之天手力男神、取其御手引出。即布刀玉命、以尻久米縄、控度其御後方白言。従此以内不得還入。故天照大御神出坐之時、高天原及葦原中国自得照明。
 

(*5)長野県の戸隠神社はこの時、天手力男神が投げ飛ばした天岩戸の戸が落ちた場所とされる。そこで戸隠五社の奥社に天手力男神(あめのたぢからおのかみ)、火之御子社に天宇受売神(あめのうずめのかみ)、中社に思金神(おもいがねのかみ)、というこの神話で重要な役割を果たした3神が祭られている。
 
長野市側から北上する道は厳しいので信濃町ICから行くのがお勧め。
 
奥社と地主神の九頭龍社、奥社の隣にある名札の無い神社には、駐車場に車を駐めて1時間ほど歩いて行く必要がある。休日にはここの広い駐車場が満杯になるので早朝の参拝推奨。
 
中社・火之御子社・宝光社はお互いに歩いていける範囲にある。但し宝光社は別途そちらの駐車場に入れた方がいいかも。
 
中社の駐車場は狭く行列に並んで入れるには忍耐が必要である。火之御子社の駐車場は2台分しかなく、入れられたら幸運である。火之御子社はとても優しい神社で筆者は大好きである。
 

2019年7月3日の朝7時頃
 
「冬子さん、政子さん、あやめちゃん、朝御飯ですよ〜」
 
と言って毬藻さんが呼びに来た時、モーニングコーヒーを飲みながらのんびりと“ヒバリ画集”(カラーコピーさせてもらった)を見ている政子のそばで、私は一心不乱に五線紙にボールペンを走らせていた。
 
この時書いた曲は、宮古島に来る時に見たルカン礁をモチーフにしたもので、東京に戻った後『Atoll-愛の調べ』のタイトルでリリースすることになる。Atollは“アトール”と発音し、環礁(*7)の意味である。
 
そうして私は昨年の夏以来1年にわたる不調から卒業し、また楽曲が書けるようになったのである。ただ私の書く傾向はやや変わったようである。
 

(*7)珊瑚礁はその形態により幾つかの種類に分類される。
 
●裾礁(きょしょう) Fringig Reef 陸地の海岸線に沿って形成された珊瑚礁。海岸からしばらく続く平らな部分(礁平面 reef flat / backreef)とその先の海底へ続く斜面(礁斜面 reef slope)から成る。礁平面の部分には礁池が形成される場合もあるが、池はあまり深くない。ほとんどの珊瑚礁はこのタイプ。
 
海岸からすぐに斜面が始まるようなものはエプロン礁 apron reef と言い、裾礁の初期段階のものと考えられる。
 
●堡礁(ほしょう) Barrier Reef 陸地から離れた部分に形成された珊瑚礁。島や海岸の回りに裾礁が形成された後、島が沈降あるいは海が上昇した結果、珊瑚礁が海面に近づこうと上に成長して形成されると考えられる。島の場合、礁池は深くなって礁湖(lagoon)となる。
 
オーストラリアのグレート・バリア・リーフ(大堡礁)は有名である。
 
●卓礁 Platform Reef / Table reef 大陸棚などに形成された頂上が平らな珊瑚礁。中央部に礁湖を伴う場合もある。また↓の環礁の中心に形成されることもある。
 
●環礁 Atoll 円環や星形など閉曲線状に発達した珊瑚礁。内部の礁湖の中に陸地が無い。島の周囲に堡礁が形成された後、中心にあった島が浸食・沈降・噴火などにより消滅して形成されると考えられる。但し環礁の中心部に↑の卓礁が形成されるケースもある。
 
ちなみに珊瑚礁の中には直径数m程度のドーナツ状の珊瑚礁が見られることがあり、これを小さな環礁のようだというので Microatoll ともいう。
 
●バリエーション
 
・ハビリ Habili 海面に姿を現さない珊瑚礁。結果的に暗礁になり航海に注意が必要。特に紅海で、このように呼ばれる。
 
・キー Cay 珊瑚礁の上に海流などで運ばれてきた砂が堆積してできた島。
 

この日はお昼前から、毬藻さんと2人の子供、私たち3人の6人で八重干瀬の遊覧に出かけた。大潮の干潮時間を狙って出る遊覧船があり、それに乗る。7月2-6日が大潮の時期で、7月4日が最も潮が引くのだが、その日は満員で席が取れなかったため、1日早い7月3日の便を予約していた。この日は13:52が宮古島の干潮時刻なので、12時に平良港(ひららこう)を出発して、池間島付近を見学、池間大橋の下を通って、北方の八重干瀬に向かう。
 
船の中で結構豪華なランチが出るので、政子が喜んでいる。私が海の景色に見とれていたら、いつの間にか私の分も無くなっていた!
 
やがて八重干瀬の領域に到達する。多数の陸地が出現している様子に船の中から多数の歓声があがる。
 
「これは凄いね」
と言って政子も感動しているようである。
 
「テレビで見たのとはインパクトが違う」
「テレビは結局平面にすぎないからね」
 
「昔は上陸するツアーもあったんですが、どう考えても環境保護によくないということで、現在は原則として上陸はしないことになっているんですよ」
と毬藻さんが説明する。
 
「いや、これ上陸してはいけないです。そういうツアーはとんでもないです」
と私は言った。
 
八重干瀬には主な珊瑚礁だけでも114個あり、その内の44個には名前も付いている。その全容は国土地理院の地図で見ることができる↓
 
http://maps.gsi.go.jp/?vs=c1&z=16#15/24.925769/125.278602/&base=std&ls=std&disp=1&vs=c1j0h0k0l0u0t0z0r0s0f2
 
遊覧船はひとつひとつの珊瑚礁のそばに停泊しては、ゆっくりと観覧し、それから次の珊瑚礁へと移動する。この日は8つの珊瑚礁を間近で見ることができた。
 
「冬、『出現』の続きが書けるのでは?」
「いや。全く別の曲を書いた」
と言って、私はABC譜で書いた楽譜を見せる。
 
『秘密の大陸』と書いている。
 
「その歌詞もいいけど、私が新たな歌詞を付けてもいい?」
と政子は私の歌詞を読んでから言った。
 
「よろしく〜」
 
それで政子は私が書いた詩とシラブル数がほぼ同じになるような詩を書いている。それを見ていて、政子も“復活”したなと思った。政子はさすがに妊娠中は、あまり良い詩が書けなかったのである。それなりの詩は書いていたが、あまり“一般向け”ではなかった。
 
「ここに人魚の格好をしたアクアを泳がせたいなあ」
「ああ。マリちゃんはそういう発想をすると思ったよ」
「おっぱいの所は貝のブラジャーで隠して」
「別にアクアは胸を隠す必要は無いけど」
と私が言うと、政子は顔をしかめて
 
「あの子、拉致しておっぱい大きくする手術を受けさせよう!」
などと言っていた。
 
政子が歌詞を書いている間に私は、別の曲の譜面を五線紙にまとめていた。それは今朝見た流星群を歌ったもので『星降る朝』というタイトルである。こちらはKARIONで使おうと思った。早く和泉に見せたいな。和泉はこの歌詞をどう書き直すだろうか。
 
私たちは7月4日は紅川さんの家の離れで1日のんびり過ごした上で、7月5日の午前中の便で東京に戻った。
 

7月6日(土)朝10時(*8)、★★レコードを退任したMM系の元取締役たちが新しいレコード会社MSMを設立することが明らかになった。7月中に設立し営業を開始する方針だという。
 
新会社の役員は、無藤鴻勝会長、村上社長、佐田副社長、黒岩専務、河内常務、といったものである。
 
MSMはMega-wave Stardom Musicの略とされたが、多くの人はMurakami Sada Mutoh ではないかと考えた。
 
★★レコードの社員でMM系の人が★★レコードを退職してそちらに移籍するのでは?という観測があった。大量の退職者が出ると★★レコードの業務に支障が出るのではという憶測、そしてライオン・ペアズによるTOBの可能性が消えたことから、★★ホールディングの株は7月第2週にはストップ安を続けて暴落することになる。投げ売り状態になって、数千万円単位の損失を出した人が続出したようである。
 
7.8 3500 7.9 2800 7.10 2300 7.11 1800 7.12 1400
 
私は証券会社の人から、★★ホールディング株の相場が下がっているが売らなくてもよいかと連絡があった。私はこの暴落で株を買い増すあるいは買い集める人が出る可能性を考え、TKR防衛のため、そのままキープしておきたいと伝えた。それで246万株をそのまま維持することにした。
 

(*8)例によってまともにボイド (7/5 15:24 - 7/6 13:24) の真っ最中である。
 

★★レコードでは、週明けの7月8日以降、MM系の社員の大量退職が始まった。この第2週はその影響で全く業務が行えなくなった。
 
★★レコードに所属していたアーティストの中で主として個人事務所に所属していたアーティストが20名ほど(最終的には100組ほど)、MSMが提示した好条件に釣られて、そちらに移籍することを表明した。
 
年度途中での移籍には違約金が必要である。しかしMSMはその違約金を代替負担するとした。なお移籍した場合、今後数年間は★★レコード時代にリリースした楽曲を録音することができない(ライブ演奏はOK)。また★★レコード時代に制作した音源に関しては、アーティストの意向と無関係に★★レコードが出版可能である一方、アーティスト側は自分が演奏した音源であるのに使用できない。
 
音源はそれを制作する時にお金を出した人のものなのである。
 
(ローズ+リリーやKARIONなどのようにアーティスト側が製作費をほとんど自分で出していて、代表原盤権を持っている場合を除く。★★レコードはこれが緩やかなのでそのような制作方法を認めている。大手レコード会社ではこの方式を絶対に認めない会社が多いが★★レコードは新興会社なので許容的である)
 

滝口さんが主宰していた戦略的新人開発室(村上系)、日吉さんが主宰していたメディアミックス推進室(佐田系)は、スタッフのほぼ全員と所属アーティストの中で芸能事務所に所属していないアーティストの大半がMSMに移籍した。
 
戦略的新人開発室が管理していたフローズンヨーグルツも移籍する。実は卍卍プロ所属のアーティストは全員移籍した。三ノ輪会長はMSM自体に少し出資したようである。
 
しかし、スタッフの中にもこちらに残った人がいる。戦略的新人開発室の副室長だった明智さんなどがそうである。メディアミックス推進室が管理していた三つ葉も★★レコードに残留する。三つ葉は明智さんが担当することになり、制作部に合流することになった。明智さんは制作部係長の肩書きを与えられ、三つ葉以外でも、戦略的新人開発室・メディアミックス推進室に所属していて、★★レコードに残留したアーティスト全てを当面担当することになった。
 
KARIONを担当していた土居さんは元々村上系の人なのでMSMに移籍したが、その後任はしばらく決まらなかった!会社側もとても細かい担当まで決めている余裕は無い状態だったであろう。
 

★★レコードでは、紙矢法務部長の指揮の下、セキュリティ対策プロジェクトチームUTAC“アンタッチャブル”or "Urgent Team for Access Control" (緊急アクセス制御チーム)が発足した。本来ならITに詳しい朝田さんか佐蔵さんが指揮すべき所を紙矢さんが指揮することにしたのは“嫌われ役”を引き受けたからである。新任の取締役を嫌われ者にしてはいけないとして紙矢さんが買って出たのである。
 
UTACは、退職社員によるデータ持ち出しを絶対にさせないため、7月6日にMSM設立が明らかになった直後、いったん全社員のパスワードとIDカードを一斉に無効にした。それで退職しない社員もコンピュータは使えないし、資料庫・倉庫などにも立ち入ることができず、何も仕事ができないので悲鳴があがった。
 
ライブなどのため、またCD発売などのためにどうしても必要なものは、UTACのスタッフが立ち会って作業させた。
 
UTACでは、町添系社員の多い制作部や、遵法精神の高い法務部などから順に1人ずつ面接しながら新しいパスワードとIDカードを渡していった。面接の際、辞めてMSMに行きたいのであれば正直に申告して欲しいと言った。その場合、即退職届を提出してもらうが、退職金も夏のボーナスも払うとした。しかし行かないのであれば、向こう1年は(特別な事情が無い限り)退職しないことと、あらためて会社の守秘義務や個人情報保護などの精神を遵守する旨、宣誓して欲しいと言った。それで宣誓書に署名した社員にだけ、新しいパスワードとIDカードを渡した。サインしてくれた社員には夏と冬のボーナスを20万円または3割(の多い方)上積みすることも約束した。
 
UTACは物凄く手際が良かった。恐らくは総会直後から準備を始めていたのだろう。セキュリティやネットに関するスキルの高い専門家、法律や労働問題に詳しいスタッフから構成されていたし、派閥色の強い社員は創業者系・MM系ともに含まれていなかった(それでMM系社員からも信頼された)。作業手順書や特権IDカードなども用意されていた。
 
しかしこういう厳しい体制で臨んだおかげで、顧客データ、音源、ソフトウェア資源(仕様書を含む)などの流出をほぼ防ぐことができた。
 

★★レコードは大量社員離脱をきっかけに社内改革を行った。
 
村上社長就任以来、実際問題としてほとんど同じ業務をする部署が複数できていたものが多くあった。町添新社長は7月12日、社内に業務整理プロジェクトチームを作り、それらをどんどん統廃合していき、社内の業務の流れを大胆に整理する方針を発表した。
 
機能不全に陥った大阪支店だが、経営陣は連休明けの2019年7月16日(火)に、神戸支店・京都支店と組織統合して、関西支店にすると発表。それで第3週の終わりまでには、何とか機能回復することができた。神戸支店長を新しい関西支店の支店長・制作部長、京都支店長を副支店長・営業部長に任命した。
 

★★レコード本社の制作部は取締役に選任された加藤次長が制作部長となり、南課長が制作部次長になって、氷川上級係長がJPOP部門の課長に昇格した。
 
「課長になったんですか!おめでとうございます」
と私は氷川さんに言ったが
「これで私の結婚は遠のいた」
などと本人は言っていた。
 
確かに結婚などしている暇が無いかも知れない!
 
「氷川さん、主婦やってくれる男の人を捕まえればいいです。女の人でもいいけど」
と政子は言っていたが
「そうだね。この際、主婦してくれるなら性別は問わないことにしようか」
と氷川さんも言っていた。
 
彼女はしばしばバイセクシャルっぽい発言がある。
 

宮古島に行って来て、私の作曲能力は回復し、ローズ+リリーの次期アルバム、KARIONの次期アルバムも制作出来るメドが立った。しかし私は取り敢えず新しいローズ+リリーのシングル『Atoll-愛の調べ』の制作に入った。
 
カップリング曲は八重干瀬で書いた『秘密の大陸』、そして上島雷太先生から頂いた『麹(こうじ)の力』である。
 
上島先生は休業中にたくさん曲を書いていたのだが、やはり事件の後なので、イメージ悪化を恐れて、使用をためらうアーティストが多い。また上島先生の曲は“早い・安い・易しい”というのが良い所だったのだが、その用途では松本花子さんの作品でもだいたい行ける。また松本花子さんは、歌手自身が詩を書いて、それを“持ち込み”しても、それにあわせた曲を付けてくれるので、20代の歌手にこれが結構好まれていた。
 
そういう訳で上島先生の作品は“余っている”状況なので、使わせてもらうことにしたのである。
 

『Atoll-愛の調べ』の音源製作は私が東京に戻った翌日、7月6日から始めて10日間、まさに★★レコードが大混乱になっている時期に進めた。
 
氷川さんはJPOP部門の課長になってしまったので、その混乱している社内を何とか落ち着かせるべく、たくさんの社員と面談をしたようである。これはかなり精神的に消耗する作業だったようで
 
「参った参った」
と言っていた。本当はローズ+リリーの制作に顔を出す暇も無かったはずだが、きっと息抜きがしたかったのだろう。
 
「先輩に誘われて行くか行くまいか迷っているという子に言ったのよ。迷うならやめとけって」
と氷川さん。
「それ恋愛なんかと同じですよね。付き合うかどうか迷う相手ならやめた方がいい」
と私が言うと
「女の子になるかどうか迷っているなら思い切って女の子になっちゃった方がいいよね」
などと政子は言っている。
 
取り敢えず政子の発言は黙殺する!
 

「それにさぁ。すぐにも営業始めると言っているけど無理だよね」
と氷川さんは言う。
 
「そんなに早く営業開始できる訳無いですね。何にも準備してなかったろうし」
「いきなり全国5ヶ所に営業所作ったみたいだし、それが全部大都市の一等地。物凄い家賃が必要」
 
「だけどそもそもテーブルとか椅子とかパソコンとか買うのでも適当に買う訳にもいかないし、レコード会社始めるなら、どこか他のレコード会社に、製造あるいは流通を委託するか、あるいはどこかの流通業者と契約しないといけないけど、火中の栗を拾うレコード会社があるとは思えないし、メジャーの流通をやっている業者は、いきなり設立されたレコード会社を相手にしてくれない」
 
「インディーズの流通業者とかディストリビューターを使うしかないですね」
 
「CDをプレスするにしてもどこかと契約する必要があるけど、大手はいつも枠一杯だから、中小の工場と契約するしかない」
 
「すみません。その枠いっぱいの所にいつも割り込んでいて」
と私はマジで謝る。
 
「音源製作するにも、ある程度の規模のスタジオと契約するか、あるいはスタジオも自前で用意するか。スタジオを作ろうとしたら音響機器、録音機器とソフト、楽器とかで軽く数千万円飛ぶし、そのスタッフも確保しないといけない」
 
「機器の調整と技術者集めるのだけで3ヶ月は掛かりますよ。そうそう数の出る機器ではないから、今日頼んで明日という訳にはいかないし、防音工事にも時間が掛かるし、良い技術者は希少です」
 
「下手すれば自主制作並みの品質になるだろうね」
「でしょうね」
 
「だいたい会社としてまともな業務をするのに、会計ソフト・受発注管理ソフトなどの業務ソフトを導入するにも、パッケージのカスタマイズ作業に数ヶ月かかる。音楽制作を管理支援するソフトは、セミオーダーに近くなるから使えるようになるまで半年以上は掛かる」
 

「どう考えても設立準備で1年掛かりますね」
 
「その間は普通ならせいぜい20人程度の少人数で進めるべきで、MM系の社員が仮に400人くらい一斉に移籍したとしたら、その人たちの給料・社会保険料だけでボーナスも含めて毎月平均3億円くらい必要。家賃だってあんな一等地に借りたら5ヶ所あわせて1億掛かる。でも400人にさせる仕事がある訳無い。当然売上げも上がらない。営業畑の人が多いけど、CD制作しないと売る物が無い」
 
「そしてその制作部門が弱いんですよね」
「大阪支店の鈴原制作課長は優秀な人だけどポップスやロックにはあまり強くない」
と氷川さん。
 
「強くないというより、ロックが理解できないみたいですよ。****なんてただの騒音だと言ってたし」
となぜかここに来ている鮎川ゆま。
 
「ひっどーい、私、****大好きなのに」
とマリ。
「まああの発言でかなり敵を作ったね」
「でも****はアンチも多いよ」
「まあそれはありますね」
 

「ポップスなら、滝口さんのチームと、日吉さんのチームの方が強いのでは?」
と私は言ったが
「あそこから出た人で売れた人いる?」
と氷川さんは尋ねた。
 
「三つ葉だけですね」
「三つ葉は★★レコードに残ると言明したからね」
 
これはΘΘプロのシアター春吉氏が報道各社にFAXを送り、
 
《三つ葉はΨΨテレビ、★★レコードと共同にて進めてきた企画で御座りますゆえ、MSMに移籍したりは致しませぬ。★★レコードにて制作を続けて参る所存にて候》
 
と花押!付きのメッセージを出している。
 
「まあそれで三つ葉に楽曲を提供しないといけない。シアターさんから直接頼まれた」
と私は言う。
「ケイ、Trine Bubbleにも頼まれているんでしょ?」
とマリが言う。
 
「そうそう。そちらは町添さんから頼まれた。最近★★レコードから出た新人の中では一番元気があるから。“新生★★レコード”の再建の核にしたいみたいですね」
 

「でもマリちゃんにならって、私も赤ちゃん産もうかと思ったけど、今年は無理っぽい」
などと氷川さんは言っている。
 
「氷川さん、誰の赤ちゃん産むんですか?」
と政子が訊くが
「それを今から見つけなきゃ」
 
と氷川さんは言っていた。しかし私には“精子提供者は既に居る”ように聞こえた。それでも今の状況ではとても結婚なんてできないだろう。
 
鮎川ゆまが
「真友子ちゃん、私の赤ちゃん産んでくれない?」
と言うと、氷川さんは
「精子があるなら」
と答えた。
 
「氷川さん油断しないで下さい。ゆまさんは既に何人かの女の子に赤ちゃん産ませてますよ」
と政子は言っていた。
 

「でもケイちゃんは復活したみたいね」
と氷川さんは言った。
 
「やはり宮古島の優しい空気が魂を癒やしてくれた気がしますよ」
 
「今、音楽業界は疲れている人が多いのよね」
と氷川さんは言う。
 
「そうなんですか?」
 
「昨年1年間、上島さんの楽曲制作分をカバーしなきゃというので、どの作曲家さんも頑張ったでしょ?だからその肩の荷が下りたらホッとして取り敢えず楽曲を作る気にならないという作曲家さんが多い」
と氷川さん。
 
「あらぁ」
 
「元気なのは上島さんだけって感じ」
 
「他には、ケイさん、琴沢幸穂さん、大宮万葉さん、丸山アイさん、カノンさん、鮎川ゆまさん、そのあたりかな。元気に活動しているのは」
と秩父さんが言っている。
 
「性別の怪しい人が多い」
と政子は言っている。
「カノンは怪しくないと思う」
と私。
 
でもそれ以外は確かに全員怪しい!
 
「醍醐春海さんも復活したよ」
と氷川さん。
「ほんとですか!よかった」
と秩父さん。
 
アイや琴沢幸穂が元気なのは、夢紗蒼依のお陰だろうなと私は思った。量産品はコンピュータに任せて、自分で使う分だけ本人が書く。しかし作曲家もデザイナーと似たような仕事の仕方になっていくのかも知れないという気がした。量産品、プレタテポルテ、オートクチュールと3段階かな?夢紗蒼依はプレタポルテくらいの位置づけなのかも知れない。絵で言うと、印刷、版画、直筆画という3段階か?
 
しかしそういう訳で昨年頑張りすぎた人たちのダウンで今年もまだまだ楽曲不足は続いて行ったのであった。そのおかげで、夏を過ぎた頃から、上島先生に楽曲を頼む人たちがぽつりぽつりと現れるようになった。
 

さて今回のシングルを作るに当たって、私は前作『戯謔』『天使の歌声』などの流れから、使用楽器の数を絞る方針で制作した。
 
"MAX10"という方針で、ひとつの楽曲で使用する楽器を最大10種類に抑えようというものである。スターキッズ(+美野里)だけで、
 
ギター、ベース、ドラムス、キーボード(ピアノ)、アルトサックス、マリンバ(ヴィブラフォン)
 
の6種類の楽器を使うので4つしか加えられない。一般的にヴァイオリンとフルートは欲しいので、残りは2つである。実際には下記の楽器を設定した。
 
『Atoll-愛の調べ』『秘密の大陸』トランペット・クラリネット
『麹の力』三線(さんしん)・琉球笛(ファンソウ)
 
琉球笛というのは、九州方面のお祭りなどでよく使用される明笛(みんてき)のバリエーションである。明笛は穴をひとつ竹紙で塞いで使用し、この紙が震えて金属的な音が出るが、沖縄のファンソウの場合この穴がそもそも開けてない。従って基本的な演奏法は同じでも音色が異なり、篠笛に近い音になるようである。
 
実際の演奏では、トランペットはスターキッズ&フレンズの香月さん、クラリネットは詩津紅、フルートと琉球笛は千里、ヴァイオリンは伊藤ソナタ、そして三線は明智ヒバリの友人の三線奏者で横浜在住の後浜門(くしはま)さんという人に参加してもらった。彼女の日程の都合でこの制作は7月13-15の連休におこなった。
 
なお、伊藤ソナタは2018年3月に音楽大学を卒業した後、1年間ドイツに留学していたのだが、最近日本に戻ってきて、現在は音楽教室の講師をしている。授業はだいたい夕方からなので、日中なら参加出来る。
 
美野里はアスカの専属ピアニストとしてアスカが勤めている音楽大学の助手資格になっているのだが「午後からならいいよ」と言って出てきてくれた。
 
(大学から出るお給料にプラスしてアスカからやや曖昧なお手当をもらっていて本人は「愛人生活」と言っていたが、アスカも美野里もレスビアンではないはず)
 
詩津紅は制作期間、また有休を取って参加してもらったが、マジで心配になって
「有休足りる?」
と尋ねた。
「日数は数えてないけど、有休届けは通ったよ」
と言っていた。
 
今回は早くリリースしたいというのもあり、楽曲を3曲に絞ったのだが、お陰でマスターが完成したのは7月16日(火)の夜で、それからプレスに回し、7月24日(水)に発売した。
 
ただし発売記者会見は、後述の理由により前日の23日(火)におこなった。
 

発売記者会見は★★レコード本社がある青山ヒルズ“1階”の貸し会議場で行った。ここを使うのは1年半ぶりである。
 
★★レコードは元々このビルの14-15階を使用していたが、ここ数年事業の一部を子会社や関連会社に移行させる処置が多く発生していて結果的にフロアに空きが発生していた。14階に設けられていた記者会見場も空いたスペースを利用しようと設置されたものである。
 
しかし町添社長は家賃も高い(1フロア3000万円/月)し、空いているのなら解約した方がいい決断。14階は使わないことにして全て15階に集中させる方針を決めたのである。引越は業務混乱もあったので、落ち着いてから、9月までに行う予定である。システム部門などは何も場所代の高い青山に無くてもいいのではということで大田区の貸しビルに移転させることになった。システム部を分離するのはセキュリティ対策もある。大田区に置くのは何かあった時品川駅あるいは羽田空港から全国の支店に急行する便も考えたものである。
 
そういう訳で今まで14階に設置されていた記者会見場が使えなくなったので2018年2月まで記者会見の際に使用されていた1階の貸し会議室を使うことになった。14階に作られていた会見場より広いし、また記者さんたちもわざわざ高層階にあがる必要が無い。
 
そしてもっと重要なことは、本社のエリア内に外部の人間を入れなくて済むことである。この時期は絶対MSM側のスパイが活動している。
 

マリは本当は8月3日から産休が終わって活動再開する予定だったが、もう間近なので、今日は普通に記者会見に出たし、私と一緒にスターキッズの伴奏に合わせて歌った。
 
この記者会見時の演奏は音源製作と同じメンツで行った。クラリネットを吹く詩津紅と、三線弾きの後浜門(くしはま)さんにもお休みを取って参加してもらった。昼間なので伊藤ソナタさんも参加出来た。
 
「マリさん元気ですね」
と記者から声を掛けられて
「元気です。逆立ちもできます」
などというので
「やってみて下さい」
と言われ、本当に逆立ちをした(私が足を支えた)。
 
“アトール”の意味について質問があったので環礁のことであると答え、実際のルカン礁の写真(木ノ下大吉先生の知り合いにドローンを飛ばして撮影してもらった)を見せると「きれーい!」という声が多数あがっていた。
 

だいたいの質疑応答が終わった所で私はアルバムの件に言及した。
 
「ローズ+リリーの次期アルバムの件では、色々混乱を招く発言をしていて、大変申し訳ないのですが、最終的に今年制作するアルバムは『十二月(じゅうにつき)』にすることになりましたので、過去の発言についてお詫びします」
 
「それ、★★レコードの社内の混乱が背景にあるのでは?」
という質問もあるが
「その件は私もよく分かりませんね。私たちアーティストは黙々と音楽制作をしていくだけです」
とコメントしておいた。
 

MSMを巡る★★レコードの混乱だが、7月13-15日の連休の間に、★★レコードを退職してMSMに移籍する社員数は結局170名程度(全社員の8分の1程度)に留まることを★★レコード広報部は発表した。MM系は本来500人ほど居たはずだが、思ったより少なかったことから、経営に大きな影響は無く、恐らく半年程度の内に業務は正常化するだろうと、多くの投資家が判断した。
 
実際、MM系であっても、混乱を引き起こすような退職には反感を持つ人たちも多くいた。むしろ業務妨害で訴えるべきだと憤慨していた人もいた。また氷川さんも言っていたように、何の準備もなくいきなり会社を作って何百人もの社員がする仕事がすぐにあるのか?給料を払っていけるのか?と疑問を持つ人もあった。特に佐田元副社長の系統の人にはそういう人が多かった。
 
MSMには佐田氏自身は参加したものの、佐田氏の親友であるはずの島長元取締役は参加していなかった。むしろ★★レコードの顧問に就任したことが発表されて、これは残留した社員を勇気付けた。更に佐田氏の“息子”(?)も残留したが、本人は
 
「ボクは親父に勘当されてるから関係無い」
と言っていた。実際“彼”(?)は営業部次長の鬼柳さんに心酔しているのである。これまで営業部の係長の職にあったのだが、無用の混乱を防ぐため、似鳥部長付にして、実際は鬼柳さんの助手的な仕事をしている。
 
「鬼柳さんの奥さんになりたいくらい」
「僕んちの家庭争議を引き起こさないでよね」
「深夜作業になってもホテルに誘ってくれたりしないのよね」
「そんなことしたらセクハラだよ!」
「ボク、セクハラされたいのに」
 
しかし“彼”(?)が残留したのも残留派を勇気付けた。
 
三つ葉を担当することになった明智さんのように、村上系の人脈でも★★レコードに残留した人は結構いた。明智さんも氷川さんと似たような見解のようで
 
「そんな海のものとも山のものともつかぬ新会社に賭けるのは危険じゃないですか」
などと言っていた。
 
実際30-40代の社員には住宅ローンを抱えている人も多く、この人たちの多くが★★レコードに留まった。
 
また★★レコードは2014年秋に社員の性別移行を許容するプログラムを開始していたが、村上さんはこの制度に何度も不快感を表明していて、その内この制度は廃止されるのではと危惧する人たちもいた。しかし村上さんが新会社に移動したことで、彼ら・彼女らは安堵したし、元々MM系の人でも性別を移行した人、移行を考えていた人たちは全員残留した。この人たちが残ってくれたのも大きかった、
 
MM系社員は営業部門に多いものの、こういった残留組のおかげで何とか業務の停止は免れた。結局7月第4週には、★★レコードの機能はほぼ回復した。
 

また村上社長の時代は機能が重複する組織がやたらと作られた一方、40-50代の社員への退職勧奨や子会社・関連会社への出向なども随分行われていたのだが、170人もの退職者が出て手が足りないので、退職した人を対象に(給料は安いし、年下の上司の下で仕事をする必要があるがと断った上で)復職希望者を募った。
 
すると50代でリストラされた社員の多くが次の仕事を見つけられず、コンビニのバイトや建設作業員などをして食いつないでいたようで、復職希望者がかなり出た。面接をして50人ほど採用したが、即戦力なので彼らの働きで、残留社員の負荷が随分軽減された。彼らはここ数年世間で苦労していたこともあり、かつての部下の下に配属されても、分をわきまえた行動をしてくれて、随分社内の雰囲気を良くしてくれた。
 
「老いては子に従うの気分だね」
と彼らは言っていた。
 
ちなみに退職した後、性別が変わっていた人がこの50人の中に10人もいた!(性別変更で、ますます新しい仕事を見つけられなかったらしい)
 
これ以外に出向していた子会社・関連会社から(緊急処置で)本体に復帰してもらった人も30人ほどあり、これでだいたい人員不足は解消されることになる。
 
KARIONの担当も関連会社に出向していた鷲尾海帆さんが復帰して担当になってくれたが、小風が「山村美喜さん以来8年ぶりにまともな担当さんになった!」と喜んでいた。鷲尾さんは実はKARIONがデビューした頃に担当してくれた人である。当時は固定の担当は決まっておらずその都度色々な人が担当してくれていたのだが、鷲尾さんにはかなりお世話になっていた。山村美喜さんが固定担当になったのはデビューから半年経った2008年7月で、2011年6月まで3年間担当してもらった。
 

7月24日(水).
 
新経営陣は全国の★★レコードおよび子会社を24-26日(水木金)を一斉に臨時休業にした上で、バイトを含む社員たちを東京・大阪・名古屋・岡山・仙台・札幌・福岡・那覇の全国8ヶ所のホテルの大広間に集め、食事も提供した上で、通信回線を通して町添社長、朝田専務など、新取締役9人の全社員へのメッセージを伝えた。(町添・朝田が東京で他の7人が他の7ヶ所)堂崎取締役のメッセージでは、かなり笑いが起きていた。
 
町添さんは冒頭《社員全員クリエイター》という社是を挙げ、ひとりひとりが音楽家やパフォーマーになった気持ちで、想像力を持って制作していこうと呼びかけた。
 
社員からの質問も受け付けたが、それに丁寧に答えていく町添さんや朝田さんの姿勢に社員たちはモチベーションを高めた。各地の会場に赴いた新取締役たちは会場内を巡回しながら、懇親に務めた。
 
MM系社員が多かった大阪には常務になった似鳥さんが行って以前居た会社から営業畑一筋50年の彼ならではの話でノリの良い関西人社員たちと連帯感を深めた。加藤制作部長が行った福岡では加藤さんに「やっと部長になったね」とみんなが声を掛けて祝賀会ムード、堂崎さんが行った札幌では飲めや歌えの宴会と化した!また中林さんが行った仙台では、女性社員の一部が中林さんの「性別問題」を追及?し、彼女はあっさりバラしたが、その内容は「個人情報保護法に基づき非公開」として、他の部署には広まらなかった。
 
こうして、大量退職者で目が回る思いをしていた残留社員たちは、一丸となって新しい会社の体制を作り上げていこうというムードになったのであった。
 
結果的に8月中旬以降、特にフロアが15階にまとめられた9月以降、業務は完全に正常化された。かなり短期間で混乱が収拾されたことを好感して、一時は700円程度まで落ちていた株価は中間決算前の9月下旬には2000円台まで回復した。
 
 
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【夏の日の想い出・天使の歌】(4)