【夏の日の想い出・天使の歌】(2)

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震災復興イベント2日目の午後。15時からはFlower Fourである。政子がまたまた異様に興奮していた。ほんとに政子は男の娘好きである。
 
“准子”の中の人、森原准太は2月24日に結婚式を挙げた後、25日から3月8日までカナダに新婚旅行に行ってきた。帰国して1日おいてこのイベントに参加してくれている。全くお疲れ様である。
 
Flower Fourのメイクは各々自分でやるということで、政子がたくさん練習させている亮子(亮平)と、元々メイクができた!?らしい真樹以外のメイクはかなり酷い状態だったのだが、今年は桜野みちるが准子(准太)についてきてメイクをしてあげて、
 
「俺だけ酷いメイクになってる」
と言っていた道子(道雄)もついでにみちるがし直してあげたので、わりときれいな“女子”4人のユニットになっていた。
 
「みちるちゃん、准子ちゃんにお化粧の練習させなよ」
と政子が言うと
「そうだね。毎日メイクしてから出勤してもらおうかな」
とみちるも言っている。
 
「それ性的指向を誤解されるから」
 
そういう訳で、Flower Fourが出演の準備をする間“男の娘控え室”には、政子とみちるもずっと居た。
 

Olive LemonとFlower Fourが予定の時間より早く演奏終了してくれたので、KARIONは16:02から始めることができた。それでこれを16:55で終わらせて、XANFUS以降の演奏時間を予定通りに戻すことにする。KARIONの音楽活動は秋のツアー以来だが、昨年はアルバム『1024』を作ったのとそのツアーをしたの以外ではほとんどまともな活動ができていない。ローズ+リリーを復活させたらKARIONも頑張らなきゃと私は思った。
 
17時からのXANFUSの演奏を経て18時からはローズ+リリーの演奏となる。
 

演奏は私がギターを弾きながらふたりで歌う『城さんの赤ちゃんが風邪引いた』から始める。そして観客に挨拶した後、マリが赤ちゃんを産んだばかりなので、座って歌わせてもらうことを言い、拍手をもらう。
 
それからスターキッズ(但しKBは詩津紅で月丘はMarimba)を入れて、復興支援ソングとして定着している『神様お願い』を演奏する。
 
「震災から8年経って、常磐線などもかなり復旧して全線開通が見えてきましたけど、まだ立入できない地区もあります。国ももっと本腰を入れて復旧作業をして欲しいんですけど、文句ばかり言っていても仕方無いので、私たちは自分たちでできる範囲のことをして行きたいと思っています」
と私は言った。
 
政子に発言させるともっと過激なことを言うので、私があまり政治的な発言にならない範囲で意見を述べさせてもらった。
 
「それでは次は来月発売予定のアルバム『戯謔』から『H教授』」
 
新しいアルバムが発売予定というのは、ほとんどの観客に初耳だったようで、ざわめきもあったが、この長い曲『H教授』を歌っていると、かなり反応が良かった。この曲はこのアルバムに入れて正解みたいだなと私は思った。
 
この歌は実は最初悲劇的な終わり方をしていた。教授がひたすら時代遅れの研究を続け、奥さんはネットに触れて外の世界に戻り教授はひとり取り残される、というものだった。しかし千里の勧めでハッピーエンドに改訂している。そして今日の演奏を終えた後の観客の物凄い拍手を聴いて、やはりハッピーエンドで良かったようだと私は思った。伝書鳩を飛ばしたあたりで観客が凄く不安そうな空気になったのが、その後の展開でホッとした表情になったのである。
 
なお私が発音した「ぎぎゃく」という言葉の漢字が分かった人は皆無だったようである。国語辞典を引けば「戯謔」しか無いと思うのだが、ネットでは正解が分かるまで、偽逆、擬虐、技客、議脚、などなど多数の当て字が提示されて「どういう意味だろう?」と議論されていたようである。
 

宮本・香月・ゆま・世梨奈・美津穂・千里・葉月・レイアが入ってくる。
 
「それでは次は今年の秋か年末くらいにリリース予定のアルバム『十二月』に入れる予定の『ヴィオロンの涙』を演奏します」
 
と言って演奏する。続けて同じ『十二月』に入れる予定の『紅葉の道』を歌い、人気曲の『青い豚の伝説』『コーンフレークの花』と歌った。ここまで演奏陣は変わらないが『コーンフレークの花』ではXANFUSの音羽と光帆が出てきて、フェイクファーのコート→フリースジャケット→トレーナー→Tシャツ→スリップドレスまで脱いでくれた。脱ぐ度に歓声があがり、マリがしばしば振り返って見ていた。
 
その後、予定では『フック船長』を歌うつもりだったのだが、前奏が違う!?
 
見たら千里がバヤンを持ち、宮本さんがバラライカを持っており、始まったのは『雪を割る鈴』である。え〜〜!?と思いながら歌う。音羽と光帆はスリップドレスのまま、この曲のダンスを踊っていた。
 
そしてトラベリングベルズの黒木・木月・鐘崎・児玉の4人により鈴が運び込まれてくる。そして振袖を着たアクアが登場すると
 
きゃー!!!!!!!
 
という物凄い声。
 
この曲の前半が終わった所でアクアは「えい!」と声を掛けて剣を振って鈴を割った。
 
曲はアップテンポに変わる。そしてアクアは振袖のまま踊っている。音羽と光帆の踊りは前半のゆっくりした踊りと違い、激しい踊りに変わっていた。
 

そして終曲。アクアが振袖の袖の中からお玉を2つ出して私と政子に渡す。客席から「ピンザンティン!」という声が掛かる。
 
それで『雪を割る鈴』を演奏したメンバーが全員残り、各自お玉を振ったりしながら『ピンザンティン』を演奏した。客席でも多数のお玉が振られる。これはローズ+リリーのライブでは定着した光景である。この日はローズ+リリーのファンが多数「布教用」に余分にお玉を持って来ていて、他の人にも渡したりしたようである。
 
これが終わった所でいったん全員ステージから降りる。
 
アンコールの拍手が鳴り響く。
 
その間にマリはあやめにおっぱいをあげながら、自分では浪江焼きそばを“一気飲み”した!私は例によって飲み物だけ取る。
 
「行くよ」
 
それでまたさっきステージに居た人が全員でステージに戻る。
 
マリが観客にアンコールの御礼を言う。
 
「みんなアンコールありがとう!嬉しいよ!それでは皆さんの拍手にお応えして『女の子になろう』」
 
「ちがーう」
 
「『男の子にあって女の子にないもの』だっけ?」
「『影たちの夜』です。スターキッズの皆さん、よろしく」
 
それで近藤さんたちが笑って『影たちの夜』の伴奏を始めるので、私たちはそれに合わせて歌った。千里や葉月たちも一緒に歌ってくれた。
 

演奏が終わると、私とマリだけを残して全員ステージを降りる。
 
スタッフの手でスタインウェイのコンサートグランドがステージ中央に押されていく。私はその前に座り、マリはその左隣に座る。
 
『あの夏の日』を演奏する。
 
そしてその歌の余韻が消えた所で大きな拍手があり、私たちは立って挨拶する。それで終わり・・・・
 
と思ったら、そこにゴールデンシックス、オリーブ・レモン、フラワーフォー、KARION, XANFUS そしてアクアまで入ってくる。司会をしてくれている振袖姿の川崎ゆりこが自分のマイクで言った。
 
「それでは本当に最後の曲です。『花は咲く』。会場のみなさんも一緒に歌って下さい」
 
それで今日の出演者全員で『花は咲く』を歌って、今年の震災復興支援イベントを終えた。
 
大きな拍手の中、幕は降りた。
 

福島ムーランパークの体育館地下に大広間があるので、そこで打ち上げをした。宿泊できる部屋もあるので、そこで多くの人が泊まった!これはここが合宿所としても使用出来るように設計されているためである。
 
私と政子は翌日3月11日朝から新幹線で仙台に移動した。和実が入院している病院に行くと、病院の廊下に青葉と千里が居た。見ているとスマホを使っているので、千里3だと分かる。昨日演奏に参加してくれた千里はガラケーを使用していたので千里2である。
 
「もう少しで帝王切開が始まるよ」
と千里が言った。
 
「よくここまで無事で来たね」
「うん。奇跡だと思う」
と青葉は言っていた。
 
そして10:31 (2019.3.11 10:31)。「おぎゃー」という元気な産声が聞こえた。私たちは喜んでお互いに握手を交わした。
 
「青葉疲れたでしょ。少し寝てくるといいよ」
と千里が言う。
「そうする。しばらく、ちー姉お願い」
「任せて」
 
それで青葉は休憩室に行って少し寝るようであった。
 

「男の娘だったはずが2児の母か。凄いな」
と私が言うと
 
「私も2児の母」
と千里が言う。千里が言うのは、たぶん京平君と緩菜ちゃんだろう。この千里は早月ちゃんのことは認識していると思うが、由美ちゃんのことは認識しているのだろうか?後で千里2に訊いてみようと私は思った。その千里(千里3?)が
 
「冬だって2児の親だ」
と言うので、私は咳き込む。
 
「2児?それ詳しく」
と政子は言っている。
 
千里が言うのは、私が遺伝子上の父であるあやめ(母=政子)と、政葉(母=若葉)のことだろう。どちらも各々の母が私の精子を勝手に使って産んだものである!
 
「まあ私たち隠し子が多いよね。政子だって、さほりちゃんのこと隠してるし」
と千里が言うと
「ちょっとぉ!」
と言って政子が焦っている。
 
「さほりって誰?」
と私が訊くと
 
「冬は気にすることないよ」
と千里は言った。
 

産まれた赤ちゃんはすぐに保育器に入れられた。これから2ヶ月間、ここで育てることになる。和実と淳は産まれた子供に予定通り「明香里」という名前を付けた。
 
医師は「母・月山和実、父・月山淳」という出生証明書を書いた。淳がそれで出生届けを提出したが、淳は父親なのに女性の身体だし、母は元男性というので、区役所では出生届けの受け取りを保留し、職員が病院まで来て、事情聴取が行われた。
 
和実は自分は半陰陽であると主張。それで区役所側では希望美が産まれた時の記録なども確認して、和実には小さな卵巣があるという医師の診断書を確認の上、翌日、区長決裁で出生届を受理した。これで明香里は、淳と和実の実子として戸籍に記載された(希望美は特別養子縁組でふたりの子供にされている)。
 
千里も和実も子供を2人産んでいるが、千里は他の女性が産んだことにして諸問題を回避。それに対して、和実は正面突破をした感じである。
 
もっとも淳はもう性転換手術をしてしまったので、これ以上ふたりの間に子供が産まれることは無い。
 

アクアは今回は予定通り2月中旬までに『少年探偵団II』の撮影を終えて、下旬からは『ほのぼの奉行所物語II』の撮影に入った。『少年探偵団II』の最後の方は、また“アメリカから遊びに来たアクアの従妹のマクラ”を使って北里ナナ絡みの撮影をして映像合成の手間を省いたようである(後で私にグチをこぼしていた)。
 
さて今回の『ほのぼの奉行所物語』では“中町奉行所”を巡る騒動が描かれる。
 
江戸町奉行所は、初期の頃は町奉行に任命された旗本(ごく初期は大名)が自分の邸宅を奉行所として使用していた(御白州も奉行の自宅の庭である)が、やがて固定の場所が設定されるようになり、北町奉行所は常盤橋内、南町奉行所は鍛冶橋内に設定された。どちらも現在の東京駅八重洲口の近くである。鍛冶橋というと現在は近くにバスセンターがある。常盤橋は近くに日本銀行がある。
 
ところがここにもうひとつ町奉行所ができるところから話は始まる。
 
歴史的な経緯を言うと、それまで常盤橋内に北町奉行所があり、鍛冶橋内に南町奉行所があった所に、新たに3つ目の奉行所が呉服橋内にできた。ここは北町奉行所のある常盤橋より少し南、南町奉行所のある鍛冶橋よりは北なので「中町奉行所」と呼ばれた。
 
(北町奉行所・南町奉行所などは通称であり、正式にはどちらも単に「町奉行所」である)
 
それでしばらく3奉行所体制が続くのだが、1707年に北町奉行所が常盤橋内から数寄屋橋内に移転してしまう。ここは現在の有楽町マリオンの近くであり、鍛冶橋よりも南である。それでいちばん南にある奉行所を北町奉行所と呼ぶのは変だということで通称が変わってしまったのである。
 
数寄屋橋に移転した奉行所:北町奉行所→南町奉行所
鍛冶橋にあった奉行所:南町奉行所→中町奉行所
呉服橋に新設された奉行所:中町奉行所→北町奉行所
 
奉行の方も宝永4年4月22日(西暦1707年5月23日)付けで呼ばれ方が変わった。
 
丹羽遠江守:中町奉行→北町奉行
坪内能登守:南町奉行→中町奉行
松野河内守:北町奉行→南町奉行
 
しかし1719年に坪内が町奉行を退任すると、新たな中町奉行は任命されず、中町奉行所は消滅することになる。
 
この時期は実は本所深川奉行(定員2名 1693-1719)も設けられていたので、江戸の町を5人の奉行が管轄していたことになる。つまり1719年には5人からいきなり2人に減らされた。但し町奉行所に“本所方”(与力1名・同心2名)が設置された。
 
なお大岡忠相(大岡越前守)が南町奉行に任じられるのはこの大統合の直前1717年である。
 
今回はこの騒動(本来は17年間)が1年ほどの間に起きたことにして、圧縮して描かれることになる。
 

呉服橋内に新しい町奉行所ができる少し前、南町奉行所の与力・北山啓吾(演:光山明剛)が、捕り物の際に崖から落ちて大怪我をしてしまう。医者からは全治半年と言われ、それでは与力のお務めができないのでと、辞任を申し出た。その直後、北山の部下の同心・立花勘兵衛(演:佐川伝二)が“水戸黄門”こと徳川光圀公の御前で大失敗をして「お前、あれは切腹しないといけないぞ」と同僚から言われて青くなる。
 
しかし、病床の北山が息子の一太郎に背負われて奉行所に出てきて「部下の失態は上司の自分の責任である。自分が代わりに腹を切るので、自分の首を水戸光圀公に差し出して、代りに立花は許して欲しい」と御奉行に訴えた。
 
南町奉行・坪内能登守(演:風上信助)は「あの件は私も謝りに行ったが、ご老公は『よいよい』と笑っておられたぞ。光圀公はまことに寛容なお方じゃ。立花は謹慎半年」と言ってくれた。それで命拾いしたものの、立花は謹慎だけでは申し訳無いと言い、自主的に辞表を提出。それは認められた。
 
それで同心を辞めた立花は毎日北山の家にお見舞いに行き、病床の北山と囲碁を打って時間を過ごす日々となるが、それを立花のライバルであった北町奉行所の同心・山門新五郎(演:藤原中臣)や北山のライバルであった北町の与力・南川昇平(演:香川満夫)などは寂しい思いで見ていた。(アクアが演じているのは南川昇平の息子と娘の2役)
 
ここまでが第1回目である。
 
(今回のプロットは裏事情から言うと、実は坪内能登守を演じている風上さんが今年の9月から別の局のドラマで主演することになっており、来期以降このシリーズが続いても出演できないので、それに合わせて企画されたものである)
 

第2回目はその4ヶ月後から始まる。唐突にもうひとつ町奉行所を作るという話が出て、丹羽遠江守(演:沢田光蔵)が任じられる。新しい町奉行所は呉服橋内に作られた。これが、北町奉行所より南、南町奉行所より北にあることから中町奉行所と呼ばれることになった。
 
新しい奉行所ができて、そこの与力・同心が必要である。そこで南町奉行の坪内が大怪我して療養していたもののかなり体力を回復してきていた北山を与力として推薦。丹羽新奉行も面接をして彼を気に入り採用した。それで北山の口利きで立花も中町奉行所同心として復職したのである。それでここから今回の物語の中盤すぎまでは、南川たちの北町奉行所、北山たちの中町奉行所、そして北山の元部下の同心・藤沢理太夫(演:中橋智也)などのいる南町奉行所、という3つの奉行所の与力や同心たちの日常模様が描かれていく。
 

「でも懐かしい。僕は若い頃、この中町奉行所の同心役をしたことあるよ。役名も無い、その他大勢の同心だったけどね」
と藤原中臣さんは、アクアや葉月たちに語った。
 
「わりと有名な話なんですか?」
「いや、あまり知られていない。奉行所を巡る話では幕末近くに、北町奉行を務めていた遠山の金さんこと遠山景元が策略に引っかけられて大目付に左遷されたもののそこから大反撃して南町奉行に返り咲く話とかはわりと有名」
 
「すみません。知りません」
とアクア・葉月。
 
「まあ最近は時代劇あまりやらないからなあ」
と藤原中臣さんは嘆くように言った。
 

「今回描いている時期って、陰間茶屋ができ始めた頃だよね」
と藤原さんは言った。
 
「カゲマって、男装の女性でしたっけ?」
「女装の男性!」
「あ!今のは言い間違いです」
 
「江戸時代の芝居小屋では風俗の乱れを防止するため、女性の役者を使うことが禁止されていた。それで女役を演じる才能のある人が女形(おやま)となった」
 
「あ、そのあたりの話は聞きました」
「それで女形として修行中の役者さんは、女の仕草とかを自然にするため、普段から女の服を着て出歩いたりして、センスを磨いたんだな」
「なるほどー。それって女の人になりたい男の人とかではないんですか?」
 
「そういう人もいたかも知れないけど、むしろ女の服を着せたら美人になるような人だったと思うよ。アクア君みたいに」
「ああ」
「アクア君も時々スカート穿いて学校行ったりしてるんでしょう?」
「今通っている高校って男子が3学年で9人しかいないから、なんかスカート穿いても抵抗無いんですよねー」
などとアクアは言っている。
 
それ嘘だ。アクアさんは元々スカート穿くのに抵抗が無い、と葉月は思った。
 
「そういう修行中の女形たちの中で、まだ役をもらえていなかった若い子を、出演しないで楽屋にいて、他の役者さんのサポートだけをしているというので外に出ない者のいる部屋ということで陰間(かげま)と呼んだんだよ」
 
「へー!」
 
「それでその子たちって可愛いもんだから、その子たちを抱きたいと思う男たちが現れる」
「うーん・・・」
 
それボクもアクアさんも危ないよな、と葉月は思った。雨宮先生とか蔵田先生とは絶対2人だけにはなるなと山村さんから言われたし。
 
「それでお小遣いも稼げるし、結構そういう求めに応じる子も出てくる。そういうのが日常的に行われるようになって、結果的に、若い女形たちと遊べる場所が成立してしまったのが陰間茶屋だね。それがこの中町奉行所ができた頃のこと」
 
「そういう経緯でできたんですか」
「だから陰間茶屋の多くは芝居小屋の近くにあったんだよ」
「へー」
「当時はそうやって男の人に抱かれるのも女性的な感覚を発達させるのに良いということで、修行の一環として捉えられていたんだよね」
 
「うっそー!?」
「でも多分、アクア君とか、葉月ちゃんのお祖父さん(柳原蛍蝶)クラスは1晩500万円くらい取る。ボクみたいな下っ端は1晩30万円くらい」
 
アクアと葉月は顔を見合わせた。
 
「それけっこう料金が高くないですか?」
 
「そうだよ。可愛い陰間は貴重だから、花魁(おいらん)並みの料金を取る。下っ端の陰間でも、だいたい2時間くらい遊んで5万円。1日貸切ると30万円くらい取ったらしい」
 
「凄い」
「まあ庶民の男にはとても手が出ない存在だったのが陰間だね」
「へー!」
 
「私がその当時生まれていたら、それで稼ぎたい気分」
と葉月が言う。
 
「ああ。君がその時代にもし男の子として生まれていたら、一晩100万円くらい取る高級陰間さんになったかもね」
と藤原さんも笑って言っていた。
 

今回のドラマでは昨年同様、主題歌を神尾有輝子さんが、エンディングをアクアが歌う。
 
第1期エンディング曲は『鍛冶橋から呉服橋まで』という曲で、マリの歌詞に私が曲を付けて、ゴールデンシックスの花野子に調整してもらったものを使用した。
 
これは南町奉行所(鍛冶橋)の与力・同心だった北山と立花が中町奉行所(呉服町)の所属になったことを意味するが、実際の歌詞の内容は鍛冶橋のバスセンターで降りた、大阪から来たカップルが、呉服橋の付近まで歩いていく様子を描いたもので、この曲のPVでは、北山啓吾の息子役の松田理史君と娘役の岡原襟花ちゃんが、江戸時代の服装をして歩いて行く様子が使用されている。
 
(松田君のファンと襟花ちゃんのファンが悲鳴を上げていたが「僕たち兄妹役なんですけど」と松田君が困ったような顔でコメントしていた)
 
そして今回の番組中盤に描かれる奉行所移転騒動(15回目頃に予定)では、エンディングに第1期のと歌詞違いの歌『常盤橋から数寄屋橋まで』が使用される。同じくアクアが歌う。音源製作は一挙にやってしまい、こちらの曲は物語の展開に合わせて公開される予定である。PVは松田君と襟花ちゃんが、前作と同様、常盤橋から数寄屋橋までドラマの衣装を着けて移動する様子を撮影したものであるが、こちらは乗馬での移動にした。
 
(襟花は女性ではあっても武家の娘のたしなみとして乗馬はできる設定である。この撮影のため、ふたりは乗馬の訓練を受け、撮影にはとてもおとなしい性格の馬を使用した。なお、馬は自転車と同じ《軽車両》の扱いなので、車道の左端を通行しなければならない。念のため警察に照会して、問題ないことを確認してもらっている。但し撮影する日時を指定された)
 

第1期エンディング『鍛冶橋から呉服橋まで』については、加糖珈琲+琴沢幸穂の『白い霧の中で』というファンタジックな歌がカップリング曲となった。濃霧が発生している時に満月が昇ってきて、霧に月光が乱反射し、ホワイトアウトして、視界が全く効かなくなった中、恋人たちがお互いを求めて彷徨うという曲である。恋人たちはアクア自身が男女双方を演じている。むろん撮影では実際は今井葉月がボディダブルを演じたので、例によって「アクアと葉月は最後の所で本当にキスしたのか?」という論争を引き起こす。
 
インタビューされたアクアは「寸止めですよぉ」と答えていた。
 
第2期エンディングのカップリング曲は、加糖珈琲+琴沢の『集団旅行』という、かなり際どい歌詞の歌である。アクアも18歳なので『白い霧の中で』とは別の意味で“おとなの世界”を歌わせたものである。
 
歌詞の中には一切卑猥なことばは出て来ないのに、かなりエロティックなことが起きているかのように想像してしまうという、大学生時代のマリが結構書いたような歌詞を加藤珈琲(田代蓮菜)は書いていた。聞いたら、実は新婚の頃に書いたものらしい。「こういう歌詞は新婚の人にしか書けん」と言っていたが、だったらあの時期のマリは新婚気分だった??
 
この第2期主題歌を収録したCDには更にもう1曲、岡崎天音・大宮万葉の作品『ラブ・キャンディ』が含まれている。
 
実態としては『ラブ・キャンディ』と『集団旅行』をカップリングしたCDにおまけで『鍛冶橋から呉服町まで』の歌詞違いの曲を収録したものであった。
 
『鍛冶橋から呉服橋まで/白い霧の中で』は3月13日(水)に、『常磐橋から数寄屋橋まで/集団旅行/ラブ・キャンディ』は7月10日(水)に発売された。
 

3月22日(金)、龍虎の学校でも西湖の学校でも後期の終業式が午前中に行われたが、その日の午後、ふたりは都内の自動車学校に入校した。
 
合宿のバイク免許取得コースを受けるのである。龍虎にしても西湖にしても俳優志望なので、ドラマや映画の撮影では運転する場面を撮ることもある。その場合、免許を持っていないと不便である。それで免許を取らせて、定期的に練習もさせようと、私とコスモスは話し合った。但し事故防止のため、当面日常の運転は禁止として免許証を事務所で預かる。ふたりともまだ18歳未満なので、とりあえず普通二輪免許を取らせることにして、この日から行かせたのである。
 
二輪免許を取得するのに必要な教習時間は下記である。
第1段階 技能9時間 学科10時間
第2段階 技能10時間 学科16時間
 
それで第1段階は9÷2=5日、第2段階は10÷3=4日、それに卒業検定まで入れて10日掛かりそうだが、多くの合宿コースでは5日目午前中の第1段階最後の実車で「みきわめOK」になると、午後から第2段階の実車に入るのである。それで9日間で卒業できるようになっている。これが仮免試験のある普通車とは違うところだ。
 
つまり順調に行けば22日に入校すると3月29日(金)までに課程を修了。万一1日遅れたとしても30日(土)までに修了し、4月1日(月)に卒業試験を受けて合格すれば、4月2日(火)に運転免許センターに行って、そこで学科試験に通ると普通二輪免許を取ることができることになる。
 

入学時に必要な書類は住民票と写真付き身分証明書である。住民票はふたりとも取ってきているので提出する。
 
龍虎と西湖は同じくらいの時刻に入校手続きするつもりだったのだが、学校が終わる時間が違ったので、ずれてしまった。
 
龍虎は学校が11時半頃に終わったので、その後、緑川志穂の運転するVolvo V40で自動車学校に入った。これが12時半頃である。一方西湖はホームルームが12時過ぎまであったので12時半頃に桜木ワルツの運転するAUDI A3に乗って自動車学校に向かった。到着したのは13時頃である。
 
入校者へのオリエンテーションは14:00から始まるので、ふたりとも余裕で受付に行くことができた。
 

さて、龍虎の場合はこのようになった。
 
入校申請書を書き、住民票と一緒に出してパスポートを提示する。
 
「あなた性別が違いますよ」
と言って、入校申請書の性別欄が男になっている所を指さされる。
 
「私男ですけど」
「冗談はやめて」
「パスポートを見てください」
「あら、ほんとに男って書いてある。ごめんねー」
と言って受け付けてくれる。
 
「そういえばあなたズボンの制服着てるわね。でも女の子みたいな声なのに。戸籍が男って、性転換して女の子になったの?」
 
「別に女の子にはなってません。私、まだ声変わりが来てないんですよ」
「へー。17歳でまだって珍しいね」
「たまにいるらしいですよ」
 
「あなた学生さんよね?」
「はい。高校生です」
「だったら生徒手帳も見せてください」
「はい」
 
「これ苗字が違うけど・・・お嫁さんに行った?」
 
ボクお嫁さんには行かないつもりだけど〜と思いながら龍虎(龍虎M)は言う。
 
「いえ。私、里子なんですよ。それで戸籍名は長野龍虎なんですけど、学校では里親の苗字の田代を名乗っているんです」
「ああ、そういうこと?だったらOKです」
 
それで龍虎は性別を誤解されたものの、無事(?)男として入校することになった。
 

西湖は龍虎より30分ほど遅く到着した。
 
入校申請書を書き、住民票、パスポート、と一緒に提出した。
 
係の人は悩んだ(龍虎の受付をした人とは別の人である)。
 
入校申請書では性別が男に丸が付けてあるのだが、本人はどう見ても女の子にしか見えない。だいたいブレザーにスカートという女子制服を着ているし。パスポートを見ても sex F になっている。やはり女性なのでは?と思う。
 
「あなた学生さん?」
「はい、高校生です」
と答える声は女の子の声である。
 
「生徒手帳ある?」
「はい」
と言って、西湖は「天月西湖」名義の生徒手帳を出す。西湖は普段使いの“天月聖子”名義の生徒手帳と、身分証明書として使う“天月西湖”名義の生徒手帳を持っている。取り出す時に間違えないように“聖子”の手帳には白いユリのシール、“西湖”の手帳には赤いバラのシールを貼っている。
 
係の人が西湖が出した生徒手帳を見る。そもそもS学園の生徒手帳じゃん!と思う。ここは女子校のはずである。身分証明書欄を見ると《天月西湖・女》と記されている。それで係の人は言った。
 
「あなたこれ入校申請書の性別間違っているわよ」
「あれ?違ってました?すみませーん」
 
西湖がそう返事したので、やはり間違ったんだなと思い、係の人は入校申請書の性別を女に変えてしまった!
 
(龍虎の受付をした人も、西湖の受付をした人も住民票に記載された性別を見落とした。しかしパスポートの性別と住民票の性別が違うなんて、普通は思わない!)
 
それで西湖の書類は受け付けられ、無事(??)女として入校することになった。
 

初日は視力検査を受け、学科を受けた後で、シミュレーターでの教習と実車があった。夜19時まで教習を受けてからバスで宿舎に行く。一緒に夕食を食べる。
 
「転んだ?」
「ボク3回も転んだ」
「ボクは4回転んだ」
「けっこう難しいよね〜」
 
西湖と龍虎はお互いの部屋番号を確認した。
 
「へー。せいちゃんは8階か」
「相部屋だって言ってた。なんか混んでいるらしくて。龍さんは?」
「ボクは2階。ボクは個室らしい。でも春休みだから個室が足りないのかもね」
 
それで「また明日も頑張ろう」と言って分かれた。龍虎は2階の部屋に入る。押し入れに布団が1組だけある。それで個室であることを確認出来る。
 
「誰が最初にお風呂に入る?」
と訊くと
「私が最初」
と言って、Fがさっさとお風呂に入ってしまった。
 
「まあいいよね」
とMとNは話し、それで2人は“夕食を取りながら”、Mは自動車学校の教本を読み、Nは練習しておいてと渡されていた“北里ナナ”の次期シングルの譜面を読み始めた。
 
なお寝具については、《こうちゃん》があと2組の寝具を運び込んでくれたので3人の龍虎は6畳の部屋に布団を川の字に3つ敷いて寝た。寝る順序は奥からFNMの順である。
 
ちなみに龍虎が2階、西湖が8階になったのは、ここの宿舎では低層階に男性、高層階に女性を泊まらせるようにしているからである!
 

8階まで登って部屋に入った西湖は先に入っている女性がいるのに気付く。
 
「こんばんわー」
「こんばんわー」
と挨拶を交わす。
 
「私は佐藤ルミ」
「私は天月聖子です」
 
「女子高生?」
 
まあ女子校の制服を着ていてふつう男子高校生とは思わない。西湖は“女子”というのには引っかかったものの、普段から“女子高生”と言われなれているので「はい」と返事をした。
 
「春休みの内に取ろうと思って。そちらは女子大生さんですか?」
「そそ。でもこの時期に取りに来るって4月上旬生まれ?」
「いえ。まだ高校1年、4月から2年になるんですけど、普通二輪なんですよ」
「なるほどー。二輪か。でも女性ライダーって格好いいよね。私も夏休みに二輪取りに来ようかなあ」
 
そういう訳で西湖はその女子大生とすっかり仲良くなってしまった。ちなみに西湖は女性と同室であること自体には何の疑問も抱かなかった!
 
合宿中は洗濯した服をお互い部屋の中に干していたが、西湖は女性用の下着しか使っていないので、これも何も問題が無かった。
 
更には共同生活中、何度か西湖はルミにお風呂からあがったばかりの裸を見られたものの、西湖は“暫定的に”女性の身体になっているので、それも全く問題が無かった。
 
「聖子ちゃん、スタイルいい!それならタレントさんになれるよ」
などと言われた。
 
現在既にタレントであることは面倒なので言わなかった!
 

3月下旬。アナウンサーとしての就職口を探して就活をしていた青葉は、それまでも“金沢ドイル”の名前で番組に出演していた金沢〒〒テレビの石崎部長に呼ばれ、話し合いの結果、1年後の2020年度春から同放送局にアナウンサーとして採用されることが決まった。
 
「ではアナウンサー兼霊能者ですか?」
「川上青葉アナウンサーは金沢ドイルによく似た人という設定で」
「綾小路翔とDJ OZMAみたいなものかな」
 
「取り敢えず今年度はバイトのアナウンサーということで月15万円払うから。それで霊界探偵の方は、4月から正社員になってもらう皆山(幸花)君と一緒に、まあ局のスタッフ同士ということでよろしく」
 
「あ、はい」
 
それって、ひょっとしてスタッフとしての給料だけで出演料は無しってことかな〜?と思うが、アナウンサーとして採用してくれるのなら、まあいいかと青葉は思った。
 
「それと来年はオリンピックの年だし、スポーツ関係の特番も結構組むと思うんだよ。それの取材とかをしてもらえる?」
「はい。私が水泳関係に知人が多いし、姉はバスケ関係に人脈がありますから、その2種目は特にやりやすいと思います。他の競技も頑張ります」
「うん。それはよろしく」
 

3月26日(火).
 
証券会社の担当さんから電話連絡があった。
 
「唐本さま。本日の大引けまでに★★ホールディング株、246万7300株買うことができました」
「ありがとうございます。結構行けましたね」
と私は返事をする。
 
「はい。240万株に少し足りないくらいで終わるかなと思ったのですが、値段がかなり高くなったので、ここで売り逃げしようという人が出たみたいで最後に大量取引が成立したんですよ。それで高値になりましたが7万株近く買うことができました」
 
「最後はいくらになったんですか?」
「終値(おわりね)は3478円です」
「随分上がりましたね!」
 
「よかったでしょうか?」
「もちろんです。今回は保有が目的だったので。平均取得価格はどのくらいになりましたかね?」
「正確な数値は今日中にレポートをお送りしますが、だいたい2700円くらいだと思います」
 
後でもらったレポートによると、平均取得価格は1株2641円。使用した資金は65億円ほどである。
 

2019年3月27日(水).
 
ローズ+リリーの28枚目のシングル『天使の歌声』が発売された。
 
3月上旬に企画が急浮上したのをこの日程で発売するというのは無茶苦茶なのだが、ローズ+リリーの発売ではこういう無茶なスケジュールでの発売が異様に多い。今回この日程で発売することにしたのは“年度内”に発売しておきたかったからである。つまり前回のオリジナル・シングルは2018年1月1日に発売しているので、これを4月1日以降に発売すると、2018年度には1枚もオリジナル・シングルが発売されなかったことになってしまうからである。
 
(2018年8月に発売した『お嫁さんにしてね』は既存のアルバムからの“シングルカット”扱いである。)
 

発売日に私とマリは★★レコードの会見場で発売記者会見を開いた。
 
マリはまだ産休中ではあるのだが、記者会見には出した。そして記者会見の冒頭では、マリの立体映像と私が並んで収録曲をショートバージョンで歌った上で氷川さんからの趣旨説明の上、質疑応答に応じた。
 
「マリさんはまだリアルでは歌わないんですね?」
「2月3日に出産しましたので、8月3日に産休明けとしたいと思います」
 
今回のシングルの収録曲は『天使の歌声』『恋愛自動販売機』『出現』『ねこ』の4曲である。ここしばらくローズ+リリーのシングルは4曲というのが定着している。
 
(『草原の夢』は『十二月』に入れることにした)
 
須藤さんがプロデュースしていた時代に“5曲入りシングル”の流れが定着していたのだが、正直シングルに5曲入れるのは辛いので、なしくずし的に曲数を減らそうとしている。2016年11月の『その角を曲がればニルヤカナヤ/来訪/雪虫』が4曲、2017年の『青い豚の伝説』が4曲、2018年1月の『Four Seasons』も4曲である。昨年8月の『お嫁さんにしてね』は3曲だが、このシングルは特殊な位置づけである。
 
今回の4曲は全てマリ&ケイでクレジットされているが、実際には『天使の歌声』、『出現』『ねこ』の3曲は私が単独で書いたものである。但し『出現』の歌詞は千里、『ねこ』の歌詞はマリが補作した。『恋愛自動販売機』は鮎川ゆまが青葉に依頼して“別のケイ”に書いてもらったものらしい。仕上がってきた作品が本当に私が書いたような作品になっていたので、私はびっくりした。
 

次のアルバムについての質問が出た。
 
「次期アルバムについて、ケイさんは過去に『十二月(じゅうにつき)』、『星たちの歌』という名前を言及しておられたのですが、震災復興イベントで『戯謔(ぎぎゃく)』という名前に言及なさいましたよね」
 
この件に関しては私は発言せずに、氷川さんが説明した。
 
「『郷愁』に続く6枚目のオリジナル・アルバムは『恋物語』というタイトルで年内くらいに制作予定です。『十二月』『星たちの歌』は構想中のアルバムですのでリリース時期については現時点では分かりません」
 
唐突に聞いたこともないアルバム名が出てきて、記者達は困惑しているようだった。嘘をつくのは心苦しいのだが、現時点ではやむを得ない。
 
「『戯謔』というのは?」
「それは来月発売します。これは通常のアルバムとは別の番外編とお考え下さい。そちらはもう既にほぼ音源製作は完了してプレスを待つだけです」
 
実はプレス工場が結構混んでいたので、そちらは無理しないことにしたのである。『天使の歌声』については、通常の倍の料金でプレスしている。余分に掛かった費用はサマーガールズ出版が負担している。氷川さんは★★レコードに出させますよと言ったが、出してもらうとその分原盤権の比率が変わってしまうので、痛い出費だが、こちらで出す。
 

『出現』の歌詞の意味が分からなかったというので質問がある。
 
「これは実は沖縄の宮古島の北方にある八重干瀬を歌ったものなんです」
と私は漢字をホワイトボードに書いて記者たちに示した。
 
「地元では“やびじ”と呼ばれています。南北17km 東西6.5kmという広い領域に渡っており、その中の筆島には灯台もあります。普段は大半が海中にあり、浅瀬の状態になっていて好漁場、ダイビングスポットになっていますが、大潮の干潮の時には海面に姿を現すことがあります。それで“幻の大陸”という異名もあるんですよ」
 
質問が予想されたので用意していたビデオを流すと「きれい」「すごい」と言った声があがっていた。
 
「プレス工場が立て込んでいて今日には間に合いませんでしたが、来週にも発売されるDVD付きCDには、そちらで撮った映像も収録される予定です」
 
実はまだ編集中なのである!明日にも工場に持ち込む予定である。
 

「全体的に昔のローズ+リリーに戻ったような雰囲気を感じたのですが。特に『恋愛自動販売機』は高校生頃のローズ+リリーを思わせますね」
 
という質問がある。この記者さんは昔からよく見る。長くローズ+リリーを見てくれているのだろう。
 
「やはり『郷愁』は迷路にはまり込んでしまったので、一度原点回帰ということにしました。『戯謔』もこれに近い路線で制作しています」
と私は笑顔で答えた。
 
「昨年も他の歌手さんに提供した曲にこの傾向の曲がありましたよね」
と言って、別の記者さんがいくつかの曲の名前をあげるが、私の知らない名前ばかりである!きっと誰かが“ケイ風”に書いてくれた作品だろう。
 
「そうですね。最近のローズ+リリーの楽曲には多数の楽器をフィーチャーしたものが多くて、結果的に不協和音が多くなってしまったので、ぐっと楽器を減らしてみました。それでハーモニーを回復した感じですね」
 
と私が答えると、記者さんはそれを支持するかのように頷いていた。
 

2019年3月29日(金)9:41.
 
沖縄県うるま市内の病院で上島茉莉花(春風アルト)さんが最初の赤ちゃんを出産した。女の子で美音良(びおら)と名付けられた。上島先生は物凄い喜びようだったという。他の女性との間に既に4人も子供を設けている上島先生ではあるが、結婚したアルトさんとの間には子供ができていなかったので、これまで申し訳無い気持ちでいっぱいだったと言った。その件ではアルトさんの方こそ、子供が出来ない原因の大半は自分にあるのではと思っていたので、上島先生の正直な気持ちを聞いて涙が出たらしい。
 
UTPの悠子が産んだ美季(2018.7.3)
青島リンナが産んだ夏絵(2018.8.3)
千里が実際には産んだ緩菜(2018.8.23)
Eliseが産んだ帆笑夢(2018.9.6)
若葉が産んだ政葉(2018.10.11)
仁恵が産んだ純花(2018.10.12)
川島さんの忘れ形見・由美(2019.1.4)
政子が産んだあやめ(2019.2.3)
和実が産んだ明香里(2019.3.11)
 
そしてこの美音良ちゃんが同じ学年になる。
 

同じ3月29日の午前中。作曲家協会の会長は定例の記者会見の席上、
 
「現在謹慎中の上島雷太君のことですが」
と言って、特に上島先生の件に触れ
 
「彼は才能ある作曲家なので、また頑張って良い作品を生み出して欲しいと思う」
と述べて、事実上、不祥事による謹慎が解除になった。
 
これを受けて上島先生は夕方、那覇市内のホテルで記者会見をし、自分の認識の甘さから、多方面に多大なご迷惑をお掛けして申し訳無いと、あらためてお詫びした上で、作曲家協会会長から暖かい言葉を頂いたので、また頑張りたいと述べ、取り敢えず謹慎期間中に書いた作品が100曲ほどあるので、それをもし使ってくれる人があれば提供したいと述べた。
 
(記者たちは上島先生が沖縄にいること自体知らなかったので、この日UDPからのFAXで知った報道各社は沖縄の系列報道機関の記者に指示したり、一部は福岡などから記者を沖縄に向かわせて対応したようであった)
 
この上島先生の記者会見を受けて、この1年ほど、上島先生の代替をすべく運用されてきたUDP (Ueshima Diversion Project)は活動終了することになり、協力してくれた作曲家さんに新たな発注はしないことにした。現在依頼中の作品が揃った所で代替業務終了。あとは印税の処理だけをする機関に規模縮小することとなる。
 
なおUDPの活動終了に伴い“紅石恵子”も終了するが、これはこの後、三つ葉のためだけの名義としてだけ使用していくことにした。
 
「呉田軽穂(*1)みたいなものですか?」
と波歌は言ったが
 
「あんな神様みたいな人の名義と並べてはいけない」
と私は答えた。
 

(*1)「呉田軽穂」は松任谷由実が松田聖子に提供した曲に付けたクレジット。名前はもちろん伝説的ハリウッド女優、グレタ・ガルボのもじりである。
 

同じ3月29日夕方。
 
★★レコードの北川奏絵・上級係長が退職した。
 
大学卒業後★★レコードの制作部に入り、これまで数百名のアイドルを担当してきている。2016年春には子宮癌が見つかったが、最新の光線力学療法という治療法で手術せずに治療することができて、彼女は妊娠能力を失わずに済んだ。その代わり約半年にわたる入院をしている。
 
5月に結婚することになっているのだが、相手は高校の同級生で、都内の流通関係の会社に勤めているらしい。
 
北川さんの後任の上級係長について、町添制作部長(専務)は仙台支店の奥山制作課長を本社に転任させて、上級係長に任命した。それで氷川さんと2人で南課長を補佐する。この人事に制作部ではホッとした空気が流れた。
 
実は大阪支店の鈴原制作課長が転任してくるという噂があったのだが、彼は大阪支店長の黒岩さんに近い。黒岩さんは村上社長の腹心のひとりであり、村上さんは自分の周囲を固めるために、できるだけ早く黒岩さんを本社に呼び戻したがっているのだが、町添・松前派のみならず、佐田派からも抵抗されて、なかなか呼び戻せずにいるのである。
 
その黒岩さんに近い人が本社の制作部門に入ってきたら、大混乱が起きるのは必至であった。
 
町添さんは黒岩さんの影響力をあまり出されたくない佐田副社長をうまく抱き込んで、鈴原さんではなく仙台支店の奥山さんの転任という案を通してしまったようである。
 
もっとも奥山さんは仙台支店ではあまり派閥とは関係無くみんなが和気藹々とやっていたのに、本社に来ると派閥抗争が凄まじい感じで「やだぁ!」と思ったらしい。
 

3月30日(土).
 
町添さんがうちのマンションを訪れてきた。
 
「ケイちゃんお疲れ様。この1年間は物凄いペースで曲を書いてくれたね」
と私をねぎらうが、実際には私は8月以降はほとんど曲を書いていないので少し良心が痛む。
 
8月以降、私の名前で発表されていた曲は、実際には青葉、琴沢幸穂、丸山アイ、絹川和泉、鮎川ゆま、福井信一などの代作である。また夢紗蒼依のシステムが生成した曲を、千里や丸山アイなどが、まるで私が書いたかのように調整した曲もけっこうあるはずである。
 
「何かこの1年は忙しすぎて、自分の制作ができなくて。だからローズ+リリーもKARIONも制作が止まったままだったんですよ」
 
「それは申し訳無かった。でも村上社長から聞いたけど、今年は『恋物語』というタイトルのアルバムを作るんだって?」
 
「そうですね。取り敢えず今月から11月までスタジオを借りる契約を結びました」
 
「頑張ってね。でもほんとにお疲れさん。昨年はいちばん書いたのがケイちゃんで、JASRACで検索したら723曲あった。次が松本花子さんで546曲、実際問題としてこの2人で上島君の作曲量をほぼカバー出来た。あとは東郷誠一さんが316曲、夢紗蒼依さんが214曲、望坂拓美さんが143曲」
 
と町添さんは多作な作曲家の名前をiPhoneのメモを見ながら言っている。
 
しかしそれって全部“ブランド名”であって、個人で書いている訳ではないよな、と私は思った。それを町添さんがちゃんと認識しているのかどうか、私は疑問を感じる。
 
「でもふと気付いたんだけど、昨年はアクアちゃんのCDにケイちゃんは曲を書かなかったのね」
 
「ええ。大量に曲を書いていたので、アクアに提供するような高品質の曲を書く自信が無かったので、大宮万葉と琴沢幸穂さんにお願いしました」
 
「琴沢幸穂さんって最近目立ってきているね。いい曲書いている。ケイちゃん、会ったことある?」
「ありますよ。彼女は海外拠点で活動しているので、あまり日本のマスコミには登場しないんですよ」
「そうだったんだ!」
 

「だったら今年はケイちゃん、アクアちゃんにも書く?」
と町添さんは言った。
 
「いや、それが大量に書いていた後遺症で、今まともな曲が全然書けないんですよ」
「え、そうなの!?」
 
それで取り敢えず今マリと和泉から作曲を禁止されていることを言う。いつから禁止されているかは言わなかった。
 
「それは大問題だ!」
 
そうでもない気がするけど、と私は思う。これで困っているのはKARIONだけである。
 
「ちょっとその件、何人かに呼びかけて対策を練るよ」
と町添さん。
 
いや、大丈夫ですけどと言いかけて私はやめた。名義貸しの件を話すとややこしくなるし、町添さんは“エース”だから、そういう闇の中のことには関わらせない方がいいと思った。
 
思えば、私の周囲の、ゆま・千里・雨宮先生・蔵田さんたちは、今まで私をそういう闇の世界に関わらないようにしてくれていたのだろう。しかし昨年度はとても余裕がなくなり、名義貸しの世界にどっぷりはまり込むことになった。
 
町添さんは何人か人を集めて、私が今品質の高い作品を書けなくなっている問題について話し合うと言っていた。
 
実際にその会議は4月中旬に開催され、町添専務、氷川上級係長、雨宮先生、葵照子、醍醐春海(千里1)、鮎川ゆま、近藤七星、Elise、和泉、更にはマリまで出席したらしい。
 
しかしその会議を契機に千里1は霊的な能力と作曲能力を回復させることになるので、会議は無駄では無かったのである。
 

3月29日(金).
 
龍虎と西湖はこの日の夜までに、自動車学校の全ての課程を修了した。この後は卒業試験に合格すれば卒業だが、卒業試験は平日にしか行われないので、4月1日に受験することにする。
 
3月30日はオフになるかと思ったのだが
「今日空いてるなら北里ナナのPVを撮るから」
と言われて都内のスタジオまで行くことになった!
 
「ボクたち全然休めないね」
と龍虎は西湖とグチを言い合った。
 

北里ナナの新曲は『招き猫の歌/白雪姫』である。楽曲の収録はまだなのだが、先にPVの撮影をすることになった。
 
『招き猫の歌』は加藤珈琲・琴沢幸穂のペアが書いたもので、右手を挙げた黒い招き猫と左手を挙げた白い招き猫がボサノバのリズムに乗って踊るという楽しい歌である。PVの半分はアニメーションだが、黒い衣装を着て黒い猫耳カチューシャ!を着けたアクアと白い衣装を着て白い猫耳カチューシャを着けた葉月が一緒に踊る実写も入れる。
 
これは合成しない。普通の動きなら合成して双方がアクアであるように編集できるのだが、組んで踊っている所は役割を入れ替えて踊っても、どうしてもピタリとは合わないのである。それで葉月の顔がそのまま残ることになった。
 
「それに右手を挙げた招き猫は男の子で、左手を挙げた招き猫は女の子だからね。アクアちゃんが男の子で、葉月ちゃんが女の子だから、ちょうどいいよね」
 
などと撮影しているディレクターさんが言っていたが、最近葉月は完全に女の子扱いされてるな、とアクアは思った。
 
もっとも「仕事場に行く時は制服」というルールで、アクアはC学園の(自主的に設定した)男子制服を着てきたが、葉月はS学園の(当然)女子制服を着てきていたので、葉月をそれで男子と思えというのが無理である。
 
実際今日の衣装は身体にピタリと吸い付く衣装なので、この日踊ったのはバストの無いアクアMであるが、葉月は偽装バストを着けたまま衣装を着たので、女の子のボディラインが、かなりくっきりと出ているのである。
 
(公開後「アクア様のおっぱいが無い」と女性ファンの悲鳴があがり、大量に女性ホルモン剤が送られてくることになる!)
 
なお、お股の付近は線が出ないように、ふたりともホットパンツを穿いている。これはアクアの“男性器の盛り上がり”は絶対に映してはいけないことになっているからである!が、結果的に葉月のお股の形状も隠されることになった。
 

『白雪姫』は岡崎天音(=マリ)と大宮万葉(青葉)が書いた曲である。
 
赤いリンゴをかじって白雪姫が崩れるように倒れる所から、小人たちの悲しみ、王子様の来訪、王子様の部下が棺を持ってつまずき、棺が落ちて白雪姫が目覚める、という『白雪姫』物語のラスト部分を歌ったものである。
 
とても静かなアコスティックの音と青葉は指定した。それでこの曲のスコアでは、エレメントガードのヤコとエミがアコスティックギターを持ち、ナツもグランドピアノを弾くというアレンジになっていて、3人は今必死に練習しているところである! ドラムスのユイは普通にドラムスである。更にゲストミュージシャンを入れてヴァイオリンとヴィブラフォンの音を入れることになっているのだが、音源製作では桜野レイアがヴァイオリンを弾き、桜木ワルツがヴィブラフォンを演奏する予定で、そちらも今練習している所である。
 
PVでは、白雪姫・王子以外の登場人物はアニメで、この2人だけが実写となる。むろん演じるのはどちらもアクアであるが、撮影時には葉月がボディダブルとなって、役割を交代して2度演じる。
 
ディズニー版のように王子の口付けで白雪姫が目覚めたりはしないので、キスシーンも無い。正直キスシーンを入れると、ファンが騒ぐので葉月の身の危険が生じる!
 
白雪姫の衣装は真っ白なシルクのプリンセス・ドレス。王子様の衣装は煌びやかな中世ヨーロッパ風の衣装である。どちらもとても高価なもので、2着は作れない。それでアクアと葉月は同じ衣装を交替して着ている。むろんふたりはとても仲良しなので、お互いが着た衣装を着るのは全く抵抗が無い。実際にドレスを着たのはアクアF、王子様の衣装を着たのはアクアMだったので、女らしい白雪姫、男らしい王子様になって、ディレクターさんを感心させていた。
 
PVの撮影は3月30日夜遅くまで続き、ふたりはクタクタになって都内のホテルに泊まった。
 
 
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【夏の日の想い出・天使の歌】(2)