【夏の日の想い出・分離】(上)

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2016年の年が明けてすぐ、KARIONの4人に畠山社長から
「相談したいことがある」
という連絡があり、私たちは何だろうと思って事務所に集まった。
 
「実は福留彰さんのことなんだけど」
「どうかなさいました?性転換して女の子歌手になるとか?」
と美空が唐突に言う。
 
「まさか!?」
「福留さんの女装姿は想像出来ん」
と小風が言うが
 
「いや、福留さんが女装したらエリゼさんになるはず」
と美空。
 
「そんな話があったね!」
 
以前ネットにあった「バーチャル性転換サイト」で、福留さんが性転換した顔をコンピュータ内で数値的(?)に作ってみたらEliseさんそっくりになったという話があったのである。
 
「あ、いや。性別を移行するとかは個人的なことだから、作詞活動には関係無いと思うし、まあいいんだけど」
などと社長は言う。
 
むむ。作詞家は性転換しても別に仕事には関係無いのか。
 
「そうではなくて、彼がうちの事務所との作詞家契約を解除したいということなんだよ」
と社長は言う。
 
「あぁ」
と4人はため息のような声を挙げた。
 
福留さんは10年以上前からシンガーソングライターとして活動していたのだが、実際問題として全く売れていなかった。自主制作したCDをインディーズなどを扱っているレコード店に置いてもらっていたのだが、年間数枚程度しか売れていなかったらしい。
 
それをたまたま畠山さんが目に留め、その詩の世界観に惚れ込んだのである。この世界観はKARIONに合うと思った畠山さんは、この歌詞を使わせてくれないかと打診し、福留さんもまあアイドル歌手なら数万円程度の収入になるかもと考え、ほとんどバイト感覚で歌詞を提供してくれた。
 
その最初の作品がKARIONの転換点となった4番目のシングル『秋風のサイクリング』に収録された『嘘くらべ』(KARION版の作曲は相沢孝郎)で、この曲で福留さんが受け取った印税はカラオケや放送などの分を入れると150万円を越える。思わぬ大きな収入が入ったことから福留さんも、∴∴ミュージック側の「また歌詞を提供して欲しい」という要請に応え、KARION以外にも数人のアーティストに歌詞を提供するようになった
 
それで世間的には福留さんは「作詞家」とみなされるようになるのだが、本人としてはあくまでもシンガーソングライターの意識であったという。
 
それが昨年、自身で曲を付け歌った作品『遠来橋』がBH音楽賞を受賞。それもあって12月末時点でこの作品が既に10万枚を超えるセールスを挙げている。今までそもそも自身のCDが100枚も売れたことはなかったらしいのだが、それがいきなりのゴールドディスクということで「夢なら覚めないで欲しい」とテレビ局のインタビューでも言っておられた。
 
更にこの12月23日に出したメジャー第2弾『波』は既に50万枚を越えるセールスを挙げている。
 

「やはり今後シンガーソングライターとしての活動に主軸を置いて行かれるんですね?」
 
「うん。『遠来橋』は最初自主制作で出して、口コミで売れ出してから◎◎レコードからもリリースされて、その◎◎レコードから出た分だけで10万枚を越えた。更に先日の『波』はもう間違いなく今年の各種賞にノミネートされる作品。春のツアーもやろうという話が出ているんで、そちら中心に活動していくと、こちらへの歌詞提供までの余力が無いということみたいなんだよ」
 
「電話占い師はどうしたのかな?」
などと美空が言う。
 
「それは辞めてはいないらしいけど、実際なかなか待機に入れない状態らしいね」
「まあ仕方ないですね」
 
「その状態なので、申し訳ないけど、こちらまでは無理ということで」
「分かりました。シンガーソングライターとして頑張って欲しいですね」
「うん。僕もそう思うんだよ」
 
「じゃ今回のアルバムへの楽曲提供も結局無理かなあ」
と和泉は言ったのだが
 
「そうそう、その件。これが多分KARIONに提供できる最後の作品になると思うと言って詩を頂いている」
と言って畠山さんは私たちにレターペーパーに書いた詩を見せてくれた。折目が付いているので、郵送されてきたのだろう。
 
それは『雪の世界』という美しいソネットであった。
 
「これでポップスの曲になるよね?」
と社長が確認する。
「なりますよ〜」
 
ソネットは14行詩である。私はさっと見た感じ(Aメロ+Bメロ)×3+サビ、として使えそうだと思った。福留さんの作品なのでメロディーに合わせ付ける時の字数などは最初から考慮してあるはずだ。
 
「でもきれいな詩だ」
「まるで目の前に雪と氷の世界が広がっているかのようです」
 
「相沢さんが戻って来たら曲を付けてもらいましょう」
「相沢さん、いつ戻ってくるんだっけ?」
 
それについては社長が難しい顔をして言う。
 
「弟さんが亡くなった件の色々な事務手続きとかあるらしくて。申し訳ないけど1月24日まで休ませてくれという連絡が入っている。例によって演奏は妹さんを徴用してくれと。でもこれ曲を書いてもらわないと困るよね?」
 
「そうですね〜。できたらお願いしたいのですが」
「だったら向こうにこれFAXして打診してみるよ」
「お願いします」
 

今年も震災復興支援イベントをすることになっていた。
 
昨年が仙台でやったので今年は福島でやろうということになったようである。
 
「今回は2日間やるんですか!」
と私は町添さんの話に驚いた。
 
「3月5-6日の土日に、土曜日はアイドル歌手中心、日曜日は実力派歌手中心」
 
「要するに若い人とお年寄りですね?」
と私は言う。
 
「うん、人によってはそう思うかも知れない」
と町添さんは言いにくそうである。
 
「ローズ+リリーはお年寄り組ですよね?」
「すまないけど、そちらのヘッドライナーということで」
「いいですよ」
 
町添さんから見せてもらった計画表には次のような名前があがっていた。
 

■3月5日(土)復興支援ライブ(光)福島市みどり総合体育館 6000人
 
アクア 高崎ひろか 西宮ネオン 品川ありさ
森風夕子 丸口美紅 光丘ひなの 北野天子 松梨詩恩 春野キエ
篠崎マイ 遠上笑美子 南藤由梨奈 鈴鹿美里
 
■3月6日(日)復興支援ライブ(花)福島市みどり球場 2万人
 
Golden Six, Flower Four, 桜野みちる 川崎ゆりこ 坂井真紅 富士宮ノエル スリファーズ 槇原愛 丸山アイ ステラジオ 貝瀬日南
KARION, XANFUS, Rose+Lily
 

「取り敢えず加藤が昨夜組み立ててみた構成なんだけどね。まだ他のレコード会社との調整や、各アーティストへの出演打診もしていないけど、最初に元々のこのイベントの企画者であるケイちゃんたちの意見を聞こうと思って」
と町添さんは言う。
 
「西宮ネオンが黒一点か」
と政子が言う。どうもアクアは女の子に分類しているようだ。
 
「うん。そうなるかな。一応ヤング組は1997年度以降に生まれた子ということで」
などと町添部長も言っている。どうも彼の性別は忘れられているようだ。
 
「なるほどですね」
「18歳以下か〜」
「あれ?富士宮ノエルは1997年生まれですよね?」
 
「うん。でもライバルの坂井真紅が同じ1997年だけど早生まれで1996年度になってベテラン組になるから、別れたら可哀想だと思って一緒にベテラン組に入れた。実際彼女は充分なキャリアを持っているし」
 
「確かに」
 
「ヤングのラストは鈴鹿美里かぁ」
「2013年にデビューしたのが鈴鹿美里・丸口美紅・森風夕子の3組だけどセールスを考えると、彼女たちがいちばん重い扱いになるよ」
 
「あ、分かった。男の娘で始めて男の娘で締めるんですね」
と政子が言うと、町添さんは全然気づいていなかったようで
「あれ〜〜!?」
と言っていた。
 
「だったらぜひFlower Fourを2日目のトップに」
「うむむ」
 
私はしばらくこのリストを見てから言った。
「部長、アクアをここに入れたら、他の子のファンがチケット買えませんよ。アクアが出るのなら6000席は瞬殺です」
 
「うっ・・・・」
と町添さんは声をあげたまま黙り込んでしまった。
 

2016年1月11日(月)、★★レコードの持株会社★★ホールディングは報道発表し、★★ホールディングと大手流通会社トラゴンとの合弁会社TKRを設立し、★★レコードから合計20組のアーティストをそちらに移籍させるとした。
 
新会社の会長兼CEOは★★レコードの松前社長が兼任、代表権のある社長兼COOはトラゴン傘下の通信会社トリプルスターの森原専務、副社長が★★チャンネルの朝田常務で、森原さんと朝田さんは現職を外れてこちらの専任となるとされていた。
 
分離するアーティストは下記で各々新レーベルを作ることになった。
 
■マリンレコード
 アクア、品川ありさ、高崎ひろか、西宮ネオン
 つまり§§プロのアクア世代以下のアーティスト。
 
■ブロードレコード
 ステラジオ、キープロス、立山みるく
 つまりΘΘプロのステラジオ世代以下のフォーク系アーティスト。
 
■ヴェールレコード
 Cry暗いクライシス、ビヨンドシー、香宮由佳、田倉真一など。
 主としてファン層が20代の委託契約アーティスト。
 
報道発表で強調したのがヴェールレコードで、これは今まであまり積極的には売ってこなかった「セールスの小さなアーティスト」を主として配信方式で販売していくということであった。この手のアーティストはこれまで「将来性」を期待して投資するという考え方が濃く、売れ行きがあまりに悪ければ契約を切ることが多かったが、このレーベルではずっと将来に渡って少量でも構わないので、権利関係さえきちんとしている作品はどんどん売っていくものとした。販売チャンネルは自前の★★チャンネルのみでなく、他の配信会社やCDをオンデマンド方式で制作して大手通販会社に流すことも可能とした。他社も利用しやすいように敢えて合弁会社にしたのである。
 
「マリンレコードとブロードレコードの収益でヴェールレコードを運用するのでしょうか?」
という記者の質問に対して、松前社長は
「いえ。ヴェールレコードのみで採算を取ります。そのため徹底的な省力化をします。まあスタッフは兼任になりますけどね」
と答えた。
 
「ヴェールレコードってもしかして実質インディーズですか?」
「いえ、ちゃんとこちらで制作資金を提供して音源制作してもらいますし、ライブなども企画しますよ。原盤権の比率については相談に応じますけどね。もっとも今の時代は、もうメジャーとかインディーズとかで区分けする時代ではなくなりましたね。敢えてインディーズで活動するビッグ・アーティストも多いですし」
 

同日、2016年1月11日、§§プロは記者会見を開き、会社を分社化することを発表した。§§ホールディングという持株会社を作った上で、その配下に§§プロダクション、§§ミュージック、§§出版という3つの会社を置くものとした(手続き的には旧§§プロダクションが社名変更して§§ホールディングとなり、3つの100%子会社を設立する)。
 
§§プロダクションに所属することになるのが立川ピアノ(1983)、大宮どれみ(1984)、日野ソナタ(1984,副社長)、満月さやか(1989)、桜野みちる(1994), 明智ヒバリ(1997)。
 
一方§§ミュージックに所属することになるのが秋風コスモス(1991,社長)、川崎ゆりこ(1992,副社長)、品川ありさ(1999)、アクア(2001)、高崎ひろか(1999)、西宮ネオン(1999)である。
 
(上記の括弧内は生年度)
 
なお§§出版は権利管理会社である。
 
記者会見は§§プロ社長で§§ミュージックの会長である紅川さん、§§プロの副社長に就任することになった日野ソナタ、§§ミュージックの社長に横滑りした秋風コスモスの3人で行われた。
 
「まあ要するにお年寄りと若者の分離ですね」
と記者会見に同席した日野ソナタは言う。
「コスモスちゃんが社長やれてるんだから、あんたもお年寄り会社の社長やれと言われたんですが、私あまりビジネスセンス無いからと言って、副社長で勘弁してもらいました」
などと彼女は言っている。
 
「私もこの1年頑張ってきたのですが、やはり立川ピアノ大先輩とかは、私が社長だとやりにくい面とかもあるのではないかと思って会長に相談したところ、では会社を分けようかということになったんです」
とコスモスは言う。
 
「途中抜けている世代があるんですね?」
「そうなんです。日野ソナタ(1984)と満月さやか(1989)の間に、春風アルト・夏風ロビンが抜けていて、秋風コスモスと川崎ゆりこの間に浦和ミドリが抜けてて、桜野みちる(1994)と品川ありさ(1999)の間に海浜ひまわり・千葉りいな・神田ひとみが抜けています。まあ明智ヒバリは少し特殊な位置付けで」
と紅川会長が説明する。
 
「明智ヒバリさんは引退しておられない訳ですか?」
「在籍しています。彼女は彼女なりの活動で、ちゃんと会社に貢献してくれていますし、彼女のCDは毎月1000枚以上売れています」
と紅川さんが言うと
「私のCDよりたくさん売れてますよ」
と日野ソナタが言い、記者席から苦笑が漏れていた。
 
「桜野みちるさんは、若者会社の方でもよかった気がするんですが、コスモスさんと折り合いが悪いとかですか?」
と少々失礼な質問が入る。
 
「仲良しですよ。こないだ一緒に温泉に行きましたし、一緒に女湯に入りましたよ」
とコスモスが答える。
 
「わざわざ女湯と言わなくても、まさか男湯には入りませんよね?」
 
「そうですね。私も桜野みちるさんも男湯はちょっと無理ですね。こないだアクアは男湯に入ろうとしたら『中学生の混浴は困ります』と言って摘まみ出されたと言って困った顔していたので『私たちと一緒に女湯に入る?』と誘ったんですけどね」
 
「アクアちゃん、女湯に入ったんですか?」
と記者から質問が入る。
 
「その先は秘密で」
とコスモスが言うので、記者席がざわめく。
 
「まあ、会社分割のほうですが、他が私も含めて活動状況が低迷している歌手ばかりなので、ひとり元気な子もちょうだいと言ったら、みちるちゃんをこちらにもらえることになったんですよ」
と日野ソナタが話を戻して言う。
 
確かに桜野みちるが居ないと、§§プロのアーティストというのは、ほとんど音楽活動をしていないアーティストばかりになってしまうだろう。
 
「ソナタさんもミニスカ穿いて新しいCD作ってライブしよう」
とコスモスが言うが
「いや、私はさすがにミニスカは勘弁して。代わりにアクアにミニスカ穿かせてよ」
とソナタは答える。
 
「賛成!」
という声が記者席からあがり、その後爆笑となる。
 
「じゃその件はアクアに提案してみよう」
などとコスモスは言っている。
 
「今回の分社化はあくまで事務手続きなどの処理だけの問題なので、芸能活動としては、§§プロのアーティストも、§§ミュージックのアーティストも、どちらも§§系ということで、一緒にやっていきますので」
と紅川さんは説明した。
 

そういう訳で、アクア・品川ありさ・高崎ひろか・西宮ネオンの4人は、1日にして、★★レコード・§§プロダクションのアーティストから、TKR(マリンレコード)・§§ミュージックのアーティストになったのであった。
 

「せいこちゃんはどちらに行くの?」
と政子はコスモスに訊いた。
 
コスモスはアクアの次のCDの件でその日打ち合わせに来ていた。先日発売した3作目のCDでは、青葉に1曲書いてもらったのだが、今彼女は受験勉強の真っ最中なので、4作目では再び私が書くことになったのである。東郷誠一先生のほうは引き続き書いてくださるそうなので、4作目は2作目と同じ組合せになることになった。
 
「今井葉月はアクアに憧れているので§§ミュージックの方に。ヤング会社ですね」
とコスモス。
 
「凄い憧れているみたいね。結婚してもいいとか言ってたし」
「もしアクアとせいこが結婚するなら、アクアが花嫁かなあ」
と政子は妄想気味に言う。
 
「どちらが花嫁でしょうね。別に男同士で結婚してもいいでしょうけど。うちは25歳までは結婚禁止ですが、それを過ぎたら男性とでも女性とでも結婚していいですよ」
とコスモス。
「いや、アクアは花婿になったとしてもウェディングドレスとか大振袖を着そうな気がする」
と私。
「ああ。するする」
と政子。
 
「あの子、欺されて着せられたとか言っている割に、振袖を喜んでいるみたい。かえってスカートとかより振袖が好きみたいだなあと思って見ているんですよね。何か小さい頃の思い出とかあるのかなあ、とかもチラリと思ったんですが」
とコスモスは言っていた。
 
「近所のお姉さんが振袖着てるのに憧れていたとか」
と政子。
「ひょっとして亡くなったお母さん(長野夕香)が振袖を着ていたのを覚えていたとか」
とコスモス。
 
そんな話をした時、私は唐突に小学5年生の時に静花さん(松原珠妃)とそのお母さんと一緒にレストランに居た時、立派なスーツを着た高岡さんと振袖を着た夕香さんが一緒に居るのを見て、私ちょっと嫉妬したよなというのを思い出した。当時アクアは1歳半くらいのはずだが、あの時は誰かに預けて何かの記念の食事にでも出てきたのだろう。
 
「いや、アクアのことだから小さい頃、自分が振袖着せてもらったのかも」
と私は言ってみる。
 
「あり得るなあ」
と政子はキラキラした目で言った。
 

「でも会社はやはりヤングとシニアなのかな?」
「日野ソナタ先輩は悪のりして、§§プロ・オールドと§§プロ・ヤングにしようと言っていたんですけど、それはさすがにまずいですよと言って日野先輩の会社が§§プロの名前を引き継いで、こちらは§§ミュージックになりました」
 
「コスモスちゃんって会社の株は持ってるの?」
「社長するんだから持ってなさいと言われて、無償で5%頂きました。昨年の配当は1万円でしたが」
 
「ささやかだね!」
と政子は言うが
「いや、株式を公開していない、内輪だけで株を持っている会社はしばしば利益を内部留保して、あまり配当しない傾向があるんだよ」
と私は説明する。
 
「全く配当しない会社もあるみたいですね。この業界には」
とコスモス。
 
「でも今年の配当は大きいでしょ。アクアの売上が凄まじいはず」
と私。
 
「会計士さんが悲鳴あげてましたよ」
「突然売上が100倍になればね」
「100倍まではいきませんが、10倍にはなったと思います。経理もこれまで溝上さんが1人でやっていたのをとても手が回らないので芸能関係の経理を経験している人と、もうひとり建設会社の経理していた人を入れました。実は芸能関係の経理と建設会社の経理って少し似ているんですよ」
 
「へー!」
「どっちみち経理自体は実務を経験している人でないと無理でしょうね。未経験の子に1から教えている余裕もないだろうし」
 
「そうみたいですよ」
 

「結局こういうことにしたよ」
と言って町添さんは震災復興イベントの新しい計画表を持って来てくれた。
 
■2月28日(日)12:00-14:00 復興支援ライブ(花)福島市みどり球場 2万人
 アクア
■2月28日(日)16:00-18:00 復興支援ライブ(鳥)福島市みどり球場 2万人
 ローズ+リリー
 
■3月5日(土)10:00-17:00 復興支援ライブ(風)福島市みどり総合体育館 6000人
 桜野みちる 高崎ひろか 品川ありさ 川崎ゆりこ
 森風夕子 丸口美紅 光丘ひなの 北野天子 松梨詩恩 春野キエ
 篠崎マイ 遠上笑美子 南藤由梨奈 鈴鹿美里
 
■3月6日(日)10:00-17:00 復興支援ライブ(月)福島市みどり球場 2万人
 Golden Six, Flower Four, チェリーツイン LLL 坂井真紅 富士宮ノエル  スリファーズ 槇原愛 丸山アイ ステラジオ 貝瀬日南
 KARION, XANFUS, AYA
 

「まだ一部を除いてアーティスト側に打診していないので多少顔ぶれが入れ替わるかも知れない」
と町添さんは言っている。
 
「4日間もやるんですか!?」
と私は最初その表を見て言った。
 
「違う違う。3日間だよ。2月28日は前半がアクアで後半がローズ+リリーの単独ライブ」
「それチケットは別なんですね?」
「当然」
「あ、3月6日のラストはAYAですか?」
 
「打診したらやってくれるということだった。こんな大規模なイベントのラストを締めくくれる人は、相応のアーティストでないといけないから。AYAは別途東京都内でイベントをする方向で企画が進んでいたんで、こないだは入れてなかったんだけど、こちらに合流してくれることになった」
 
「なるほどー」
 
「66000枚がソールドアウトした場合の売上は3億3千万円。これを岩手・宮城・福島3県に寄付」
「で費用は主宰者の手出し、ギャラ無し、交通費・弁当自腹ですね」
「うん。君たちのサマーガールズ出版の負担はたぶん2000万円くらいだと思う」
「OKです」
 
「会場スタッフも全員ボランティア。まあ彼らにはお弁当と宿泊費の補助までは出すけど交通費は自腹。但しアクアのイベントだけはお金を払って警備会社の人に入ってもらう」
 
「まあ、それだけは仕方ないですね」
 
「お金を払うのはそれだけだと思う。県も趣旨に共鳴して会場はタダで貸してくれるし。基本的にはこのイベントは売上を丸ごと寄付して、出演者やスタッフはいっさい報酬を受け取らないのがポリシー。★★レコードや◎◎レコードのスタッフもボランティアで参加してくれる社員でチームを組むから」
 
「例によってアイドルの子たちの自腹は可哀想だから、ローズ+リリー、KARION, XANFUS, Golden Six あたりでその子たちの交通費とお弁当代は出しますよ。先日から和泉、音羽、醍醐とはその件話して同意してもらっています」
 
「Flower Fourもそれに1口乗せてと大林君が言っていたよ。あと貝瀬日南君も」
「そのあたりは余裕があるでしょうね。ではそのあたりで均等割にして」
 
「アイドルの子たちの交通費・弁当代は計算してケイちゃんにメールするから」
「了解です」
 
「でもゴールデンシックスは何人で計算するの?」
と政子が訊く。
 
「うーん。あの子たち1人で3人分だ!とか言ってるし6人分でカウントしていいと思う」
「なるほどー」
「まあ実際には千里が4人分くらい出すんじゃないかな」
 
「冬が2人分出すのと似たようなものか」
「いや、それはケイが1人と蘭子が1人で。あくまでローズ+リリーのケイとKARIONの蘭子は別人で」
 
「その話は、もういい加減やめようよぉ」
と政子は言った。
 

1月中旬のある日、私は偶然放送局で長野支香に会ったので先日コスモスたちと話した振袖の件で訊いてみた。
 
「ちょっと気になったのですが、お姉さんが亡くなった時、遺品の服とかは支香さんが引き取ったんですか?」
 
「私、夕香とは全然服の好みが違っていたのよね。夕香の服はたぶんうちの母が全部持って行ったはず。その後どうしたのかは知らないけどね」
「へー」
 
「でもどうして?」
「いえ。こないだ唐突に生前の夕香さんがすごく綺麗な振袖を着ているのを見たことがあったなと思い出したんですよ」
「それっていつ頃?」
「私が小学5年生の時の3月、2003年3月ですね。高岡さんとレストランでデートしておられたんですよ」
 
支香は少し考えていた。
「3月何日か分かる?」
「ちょっと待って下さい」
 
私は自分の携帯の中に保存しているメモを確認した。
 
「2003年3月8日です」
「それは結婚2周年だよ」
「へー!」
「高岡さんと夕香は2001年3月8日に結婚式を挙げた。実は4月にワンティスのデビューが決まっていたから、駆け込みで既成事実を作っておきたかったんだよね」
「なるほど。でも婚姻届けは出さなかったんですか?」
「契約違反になるから」
 
その支香の言葉を聞いて、私は「結婚する」「結婚した」というのは、当人たちの意識の問題なんだろうなと思った。私と政子は法的には結婚できないが2012年3月に「結婚した」という意識を持っている。そして千里は・・・多分細川さんと結婚しているという気持ちでいるのだろう。たとえ法的な妻が別に居ても。
 
「龍虎ちゃんの出生届けを出さなかったのも契約の問題でしょうか?」
「それ私も考えて後から契約書引っ張り出して確認してみたことあったけど、私たちの契約に異性交遊と結婚は禁止条項があったけど、出産を禁止する条項は無かったよ」
 
「つまり未婚の母になるのは構わなかったと?」
と私が訊くと、支香は笑っていた。
 

そんな話をした数日後、支香から電話が掛かってきた。
 
「こないだ訊かれた件、私も急に気になったから仙台の母に電話して聞いてみたのよ。そしたら夕香の遺品はかなり処分したらしいけど、振袖は2枚あったのを取ってあるって。青い東京友禅のと赤い型押しのと」
 
「私が見たのは青いのです」
「じゃもしかしたらワンティスでデビューしてから買ったのかも知れないなあ。赤いのは成人式の時に着たやつだって、母は言ってたから」
 
「支香さん、お願いがあるのですが」
「うん?」
「その青い友禅の振袖、よかったら龍虎ちゃんにあげられませんか?」
「龍虎に? あの子、振袖なんか着るの? って、こないだから随分着せられてたね」
 
「たぶん、龍虎ちゃんはまだ幼い頃に、お母さんがその振袖を着ているのを何度も見ているんですよ。こないだから色々な振袖着せられているのを見てましたが、特に青い振袖を着た時に、凄くいい顔をしているんですよね」
 
「へー! 分かった。母に送ってもらうよ」
 

さてそのアクアであるが、『狙われた学園』の撮影は1月いっぱいで終了し、続けて『ときめき病院物語II』の撮影が始まった。
 
前回の視聴率が良く、次回も高視聴率が見込めることから予算も潤沢に使え、ギャラも良いので結局前回の主要キャストのほとんどが、そのまま出演できることになった。
 
当然アクアは高校に進学した佐斗志と、中学2年の友利恵という兄妹の双方を演じ、今井葉月(西湖)はそのボディダブルを務める。
 
友利恵の友人・舞理奈も前回通り馬仲敦美(ねらわれた学園の西沢響子役)、その兄純一の岩本卓也という配役もそのままである。ここで、友利恵と純一が「友だち以上恋人未満」の関係で、舞理奈と佐斗志は「相思相愛だけどお互いに言い出せない」関係という複雑な状況である。
 
また新しいキャラとして入院患者の女子中生に、ねらわれた学園でヒロインの楠本和美を演じた元原マミが出演し、そこに時々見舞いに来る友人として、ねらわれた学園に女生徒として出演していた3人の女子が設定されていた。この3人には役名は無いのだが、そのひとりを今井葉月が務めるということであった。
 

「今回、役名は無くて単に『友人3』なんですけど、セリフは2回に1回くらいあるよということだったので頑張ります」
と西湖は言っていた。
 
「でも女の子役なんだ!」
「監督が『お前は女顔だから女役』とおっしゃるので。でも映してもらえてセリフももらえるんだから嬉しいです」
 
「このまま、せいこちゃんはずっと女役のままかも」
と政子。
 
「え〜〜!?」
「その内、女役するのに違和感無いように、おっぱい大きくしろとか言われたりして」
「おっぱいかぁ・・・」
と言って西湖が少し考えているようなので
「やはり、おっぱい欲しいの?」
と政子が訊く。
 
「別に欲しくないです」
と西湖は言ったものの、何だか悩んでいる雰囲気であった。
 

「でも西湖ちゃん、女の子役するんなら、万が一にもヒゲとかあったらまずいでしょ?どういう処理してる?」
「もうそれはレーザー脱毛しちゃいました。足の毛もですけど」
「おお」
 
「男として生きていくとしても別にヒゲは必要無いし。むしろ毎朝剃らなくてもよくて便利かな、と」
 
「まあそれは言えてるよね」
 
「でも『男として生きていくとしても』ということは『女として生きていく』という選択肢もあり?」
 
「そんな。僕、別に性転換とかはするつもりないですよぉ」
「女の子になったら普段でも可愛い服着られるのに」
と政子が唆すと、西湖はまたまた悩んでいた。
 

「女の子役をする時は女の子下着を付けるんでしょ?」
「ええ、そうです。友人3役も、友利恵の代理する時も、ちゃんと下着から女の子のを付けてますよ。そうしないと女の子の気持ちになって演技できないんです」
 
「じゃ女の子下着は慣れた?」
「もうこれ1年やってますから。実は最初の頃は女の子パンティ穿いたりブラジャーつけたら立ってしまって困っていたんですよ」
 
「ああ、それは健全な反応」
「それで最初の内は監督に言われて撮影前に抜いたりしてたんです。一度抜けば半日くらいは立たないから」
 
「私、男の子の生理が分からないけど、そんなに半日ももつもの?」
と政子が疑問を呈する。
 
「え?違います?」
 
「うーん」と悩んでみたが、私も政子もそのあたりは不確かだ。
 
「アクアさんは、さすがで女の子の下着で別に興奮したりしないそうです。偉いなあと思っています」
 
「あの子の場合はちょっと・・・」
と私は言いかけたがやめておいた。
 
「でも男の子って大変ね」
と政子。
 
「今はパンティやブラ付けてもスカート穿いても全然平気になっちゃいましたけどね。やはり慣れですね」
と西湖。
 
「普段も女の子下着つけてる?」
「結構つけてますよ。慣れておかないといけないと思ったから。アクアさんからWingの商品券を分けてもらったんですよ。例の番組でもらったものらしいですが」
 
「なるほどー」
 
「それでアクアさんも愛用しているというプリリとか買ったんですけど、なんかいい感じですね」
 
「・・・」
「やはり、せいこちゃん、女の子下着にハマったね」
と政子が言う。
 
「え〜〜!?単に仕事のために練習しているだけですよぉ」
と西湖は少しギクッとしたような顔で言った。
 
「しかしそうか。アクアはプリリの愛用者か」
と言って政子は楽しそうな顔をしていた。
 

福留さんがKARIONに提供してくれる最後の詩となった『雪の世界』には1月20日になって「何とか曲を付けたよ」という連絡が相沢孝郎さん本人から和泉に直接あり、手描きの五線譜をFAXしてくれた。向こうは1月10日が弟さんの五十日祭(仏教の四十九日相当)だったらしいが、弟さんが実家で経営している旅館の社長を務めていたこともあり、その引き継ぎ問題などでかなり大変らしい。いったん孝郎さん自身が社長に就任したという話であった。
 
「まあ俺はこれまでも名前だけの専務だったんだけどね」
と電話の向こうの孝郎さんは言う。こちらはスピーカーモードにしている。
 
「そうだったんですか!?」
「だから名前だけの社長だな。取り敢えずは、うちのばあさんが会長なんで、会長を中心に運営していく」
 
「お祖母さん、おいくつですか?」
 
「80歳だけど、見た目はまだ60代に見える。凄い元気だよ。毎朝ジョギングしているし。スキーも上手いし。仕入れに行くのに今の時期はスノーモービルで走り回っているし」
 
「ひゃー」
 
「うちの親父のお姉さんと思われていたりする」
「凄いですねー」
 
「でも本当にお忙しい所すみません。でも凄くきれいな曲ですね」
と取り敢えず楽譜を斜め読みした和泉が言う。
 
「今まさにこちらは雪の中って感じでさ。その雪を見ながら書いたんだよ」
 
「歌詞もきれいだし、曲もきれい」
と私も譜面を見て言う。
 
「こちら少し揉め事が起きててね。申し訳ないけど、しばらく戻れないから妹を使って音源制作を進めておいてくれる? 妹は昨日東京に戻った。社長にもちょっと状況報告を別途しておくから」
 
「分かりました」
 

それでこの曲ではシンセサイザで出した風の音に、私と夢見のツイン・ヴァイオリン、風花のフルートをフィーチャーして、美しい演奏に仕上げた。ギターは例によって孝郎さんの妹の海香さんが弾いてくれた。
 
「私も名前だけと言われて常務にされちゃった。まあ私はあの旅館に関わるつもりはないけどね。社長やれとか言われたらもう旅館閉めちゃうよ」
などと彼女は言っていた。
 
「でも海香さんって、お勤めとかじゃないんですか? 多大な時間を取って頂いていて申し訳無い感じで」
「ああ。私は学生だから時間の自由が利くのよ」
と海香さん。
 
「あれ?学生さんですか。じゃかなり年の離れた兄妹なんですね」
 
相沢孝郎さんは1980年生まれの35歳である。
 
「うん。10歳離れている。でも私は今大学院博士後期課程」
「博士課程ですか!凄い」
 
「博士号取ってから、どこかの研究室に入りたいんだけどね」
 
「そんな凄い人とは思わなかった」
などと小風が言っている。
 
「凄くない凄くない。だいたい私、親のスネかじってゲーム三昧してる女とか思われていたりする。まあ実際は兄貴のスネかじってるけど」
などと海香さんは言っている。
 
「ご専門は何ですか?」
「音響工学」
「何か凄い」
「楽器の音の響きかたとか研究するんですか?」
「ああ、ライブハウスとかで演奏してると、つい一番音の響きの良いスポットはどこだ?と歩き回りながら探しちゃう」
 
「おぉ!」
 

私がローズ+リリーのほうの作業で結局11月いっぱいまで時間が取れなかったため、KARIONのアルバムの制作の方は、どんどんスケジュールがずれ込んでいたが、何とか1月中旬までには制作すべき楽曲が全て揃った。
 
今回は『メルヘンロード』ということで、童話の世界をテーマにしたアルバムである。
 
福留彰/相沢孝郎『雪の世界』
櫛紀香/黒木信司『青い鳥見つけた』
ゆきみすず/すずくりこ『まぼろしの君』
広田純子/花畑恵三『こぶたの姉妹』
樟南『長い夏休み』
マリ&みそら/春美『おむすびいっぱい』
岡崎天音/大宮万葉『白兎開眼』
スイート・ヴァニラズ『戦え赤ずきん』
葵照子/醍醐春海『ツンデレかぐや姫』
葵照子/醍醐春海『待ちくたびれたシンデレラ』
森之和泉/水沢歌月『白雪姫は死なず』
森之和泉/水沢歌月『目覚めた眠り姫』
森之和泉/水沢歌月『鬼ヶ島伝説』
森之和泉/水沢歌月『夏祭りの夜に』
 

櫛紀香/黒木信司『青い鳥見つけた』はメーテルリンクの『青い鳥』をベースに身近にあった幸せに到達したカップルの喜びを歌っている。ポップなサウンドで作曲者の黒木さんのサックスがなかなか素敵である。
 
ゆきみすず/すずくりこ『まぼろしの君』は幻想的な作品である。スローテンポな4拍子の曲に、黒木さんのソプラノサックスと風花のピッコロをフィーチャーして透明感を出した曲に仕上がった。
 
広田純子/花畑恵三『こぶたの姉妹』は「三匹の子豚」を下敷きにした作品だがここで出てくる4匹の子豚は女の子である。おっとりした長女、おしゃれに熱心な次女、甘いものに目が無い三女、変わり者の四女が出てくる。この曲に関してはローズ+リリーの『コーンフレークの花』のPVを制作してくれたスタジオにアニメーションのPVを発注した。
 

樟南『長い夏休み』は「二年間の休暇(別名「十五少年漂流記」)」を下敷きにした作品であるが、この作品の中では無人島に漂着した子供たちが「男ばかりではつまらないから5人くらい女の子になってもらおう」と言ってジャンケンで負けた数人が強制改造(?)されてしまうという無茶な展開になっている。但しイグニスという子はジャンケンをする前に全員一致で「君は女の子になれ」と言われてしまう。
 
(イグニスはラテン語で「火」を表し、ラテン語の「水」であるアクアを意識している)
 
見学していた政子は樟南さんに電話を掛けて許可を取り、歌詞の一部を改造して「より萌える」ようにしていた。イグニスという名前を入れたのも政子である。美空や小風もその改変に大笑いして賛同していたが、和泉が「ちょっとぉ、そこまで書いていいの〜?」などと言っていた。
 
曲としては軽快なファンクっぽいサウンドで仕上げた。政子はキハーダ(*1)で演奏にも参加しているが、政子によるとこの音は「ある物を潰す音」を表しているそうでその話を聞いたDAIさんが嫌そうな顔をしていた。
 
(*1)動物の顎の骨をそのまま使った楽器で、水戸黄門のオープニング冒頭のキシャ〜ンという感じの音が、これである。★★レコードが持っているものを借りだしてきた。
 

マリ&みそら/春美『おむすびいっぱい』は、マリとみそらが共同で書いた詩に「5人目のKARION」である春美(長丸穂津美:スリーピーマイスのLC)が曲を付けてくれたもので、昼寝している間におむすびが転がってきて私のお口に入ってくれたらいいな、などと「食の達人」(?)らしい歌詞が綴られている。
 
穂津美さん自身のピアノ伴奏だけというシンプルな演奏で収録した。この曲の歌唱にはマリも参加しており、五重唱になっている。
 
岡崎天音/大宮万葉『白兎開眼』は「白兎海岸」(鳥取県)を敢えて字を変えたものである。ワニを欺して海を渡ろうとした白兎が、怒ったワニに皮を剥がされそうになるが、そこで開眼してスーパー・パワーアップし、逆襲してワニたちと戦うという荒唐無稽なストーリーである。
 
この曲のPVは実際の白兎海岸にあるウサギの形をした淤岐島(おきのしま)の映像もまじえて構成した。大宮万葉(川上青葉)は、受験勉強で忙しい中、この楽しい詩に明るい曲を「快く」付けてくれた(と政子は言っていた)。
 
この曲には篠笛をフィーチャーしており、風花が吹いてくれた。
 
スイート・ヴァニラズ『戦え赤ずきん』も、赤ずきんが狼に逆襲するという物語である。どうも最近は「戦う白雪姫」の映画が何本も作られるなどヒロインは戦わなければならないようである。
 
MINOさんのトランペットの聴かせ所がたくさんある曲である。
 

残りの6曲については実は私と和泉、千里の3人で話し合い、名義のバーターを行った(蓮菜はお医者さんの仕事が忙しいので千里に「任せる」と言ったらしい)。レコード会社の方から「森之和泉+水沢歌月」であまりおふざけして欲しくないという要望があったので、それに応えたものである。それで名義と実際の制作者が一部入れ替わっている(印税等は本来の作者に払う約束)。
 
『ツンデレかぐや姫』     名義:照海 実際:泉月
『待ちくたびれたシンデレラ』 名義:照海 実際:泉月
『白雪姫は死なず』     (名義通り泉月)
『目覚めた眠り姫』     (名義通り泉月)
『鬼ヶ島伝説』        名義:泉月 実際:照海
『夏祭りの夜に』       名義:泉月 実際:照海
 
『鬼ヶ島伝説』は美しい曲、『夏祭りの夜に』は熱い曲で、私はこんな曲が書けるというのは千里は今ほんとうに精神的に充実しているなと思った。前者はアコスティック的に、後者はリズミカルにまとめている。風花の篠笛、私の胡弓、寺入霧の三味線など和楽器を取り込んでいる。寺入霧(スリーピーマイスのティリー:穂津美の親友)は実は三味線が「名取り寸前」の腕前である。初期のXANFUSのアルバムでもその腕前を披露している。名取りになるには御披露目や上納金で無茶苦茶お金が掛かるので、名前は取らないことにしたと彼女は言っていた。
 
『ツンデレかぐや姫』『待ちくたびれたシンデレラ』『白雪姫は死なず』、『目覚めた眠り姫』の4曲は実はこのアルバムを企画した時に和泉が一晩で書いた4つの詩にもとづいている。和泉にしてはコミカルな詩である。正確にはこの4つの詩を書いたことから『メルヘンロード』というアルバム企画を和泉は思いついたのである。
 
この時実は、もうひとつ『戦う赤ずきん』というのもタイトルだけ考えたらしいのだが、それについてはエリゼに丸投げして、向こうで作ってもらった。エリゼはタイトルを少しだけ変えて『戦え赤ずきん』にして、戦わなければいけないけど怖いよぉ、という微妙な心情をうまく表出して、元気な曲に仕上げてくれた。
 
この和泉+歌月で書いた4曲はいづれも「拡大トラベリング・ベルズ」だけで演奏する形になっている。メンツは今回こうなっている。
 
Gt.相沢孝郎/相沢海香 B.木月春孝 Dr.鐘崎大地 Sax.黒木信司 Tp.児玉実 KB.長丸穂津美/川原夢美 Gl.森之和泉 Vn.水沢歌月 Fl.秋乃風花
 

このKARIONの音源制作は、12月・1月に精力的に進め、2月中旬までに全ての録音作業が終了した。相沢孝郎さんが忙しかったことから、彼が曲を付けた『雪の世界』が制作の順序としては最後になった。私たちはアルバムの曲順としても、この曲を最後に置こうと決めた。冒頭はやはり泉月の曲にしたいということで『白雪姫は死なず』にする。結果的に曲順はこうすることにした(括弧内は名目上の作者)。
 
前半
『白雪姫は死なず』(泉月)『目覚めた眠り姫』(泉月)『戦え赤ずきん』(SV)『待ちくたびれたシンデレラ』(照海)『ツンデレかぐや姫』(照海)『鬼ヶ島伝説』(泉月)『白兎開眼』(天万)
後半
『長い夏休み』(樟南)『おむすびいっぱい』(マリ&みそら/春美)『こぶたの姉妹』(広花)『青い鳥見つけた』(櫛信)『まぼろしの君』(雪鈴)『夏祭りの夜に』(泉月)『雪の世界』(福孝)
 

政子はけっこう私にくっついてスタジオまで来て、美空と色々おしゃべりなどしていたが、私が出かける時刻に政子が起きない雰囲気の時は、★★チャンネルに勤務していて、結果的に物理的にとっても近い所に居る琴絵か仁恵を呼び出し、政子の監視係をしてもらっていた。時には私たちの専任ドライバーの佐良しのぶさんが来てくれることもあった。
 
ともかくも「絶対にマリをひとりにするな」というのが松前社長からの厳命である。
 
佐良さんが来てくれている時は政子はけっこうリーフを出して運転の練習をしながら車内でたくさん歌って歌の練習も兼ねていたようである。
 
また「霊的に怪しげな」郵便物や贈り物などの類いをチェックするのに中村晃湖さんや、そのお弟子さんの船木冴子さんが交代で週に2回ほど来てくれていたが、年が近いこともあり船木さんは結構政子たちのおしゃべり相手を務めてくれていたようである。
 

船木さんは「ほぼ毎回」怪しげなDMの類いを1〜2通は回収して行っていた。そんなに高頻度に怪しいものが来ているというのは、私も驚きであった。その話を○○プロの中家課長としていたら
 
「いや、ケイちゃんたちの所に来る贈り物関係はうちでチェックしている訳だけど、物理的に怪しいものはチェックする度に2〜3個あるから、霊的に怪しいものだって、そのくらいあって不思議ではない」
 
と言っていた。ローズ+リリーへのファンレターや贈り物は○○プロ気付で送って欲しいことをファンクラブ会報やホームページでは告知している。
 
「そんなにありますか!」
 
「カミソリとか白い粉、あやしげな液体の入ったものとか、注射針を刺した跡のあるお菓子とかは日常茶飯事だしね。でもうちも霊的なチェックは考えた方がいいなあ。中村さんは余力は無いだろうか」
 
「かなりお忙しいみたいですが、お弟子さんなら何とかなるかも知れませんね。今度一度話してみますが、高いですよ」
 
「今いくら顧問料払ってるの?」
「月200万円です」
「ひゃー」
 
「実際には半分以上実費なんですよ。その手のものは処分するのも大変なんです。霊的に破壊または凍結封印した上で物理的にも破壊する必要があるから単純に焼却すればいいというものでもないんですよね」
 
「なるほど。でもやられたら損害はそんなものじゃ済まないもん。検討したいから連絡取ってもらえない?」
 
「いいですよ」
 
この件は中村さんの所ではとても余力が無いということで、結局栃木県在住の霊能者で中村さんや青葉の知り合いでもある村元桜花さんが対応してくださることになった。結果的にはローズ+リリーへの贈り物は村元さんと船木さんで二重チェックされることになった。
 

KARIONのアルバム制作作業はPVの撮影なども含めて2月下旬には完了した。それで私たちは、なかなか東京に戻ってこない相沢孝郎さんの様子を見るのも兼ねて、弟さんの霊前にお参りしてこようということで、日程を調整した結果、2月25日(木)に、相沢さんの実家を訪れることにした。
 
2月29日(月)が百日祭にあたるらしいが、平日なので2月27日(土)にその霊祭(仏式の法要に相当)が行われるということで、和泉たちはそれまで出てから日曜日に東京に戻ってくることにしたが、私は28日に震災復興支援ライブがあるので、27日の朝ちょっと顔を出しただけで、その後、大阪に出て新幹線で福島に入る。政子の方はその間、仁恵が泊まり込んでいてくれて、27日夕方に風花も来てくれて仁恵と政子の3人で福島に移動する。
 
つまり私はこういう日程になる。
 
2月25日(木)東京→奈良 26日(金)相沢さんの実家旅館に滞在 27日(土)奈良→福島
 

25日の朝、KARIONの4人とマネージャーの花恋、相沢海香さん、霊祭に出席するトラベリング・ベルズの他の4人(黒木・木月・鐘崎・児玉)、それに相沢さんと色々話したいということで畠山社長も入れて11人で東京駅に集まる。それで新幹線ホームに行くと、ちょうど到着した新幹線から千里が降りてきた。
 
「おはよう。奇遇だね」
と千里ともっとも古い付き合いである美空が声を掛ける。千里はびっくりしたようで
「おはよう。関西方面でライブとかあったっけ?」
などと訊く。
 
「いや、ちょっと法事なんだよ」
と美空。
 
「あれ?相沢さんが居ない。もしかしてその関連?」
と千里はそこにいる一同を見て言う。
 
「うん。実は相沢さんの弟さんが11月に亡くなって。アルバム制作中でお葬式とかも行けなかったし、ちょうど百ヶ日法要だから行って来ようと」
 
「へー。でも蘭子、今週末は福島なのにいいの?」
「福島のライブに出るのはローズ+リリーのケイで、ここに居るのはKARIONの蘭子だから問題ないらしい」
「まだその話やってんだ!?」
と千里も呆れている模様。
 
しかしそんな立ち話をしている内に、間もなく発車しますというアナウンスが流れる。
 
「あ、乗らなきゃ」
と美空。実際他のメンツはもう車内に入っていて残っているのは私と美空だけである。
 
「じゃ、私はこれで」
と千里は言ったのだが、美空は
「まあまあ」
と言って千里の手を引っ張って車内に連れ込もうとする。
 
「ちょっとぉ。私は東京に戻ってきた所なのに」
「いいじゃん。ちょっと車内でおしゃべりしようよ」
 
入口の所で揉めているので、駅員さんが寄ってくる。
「お客さんたち、乗るんですか?」
「乗ります!」
 
ということで、3人で列車内に入る。私たちが乗るとすぐにドアが閉まり、列車は動き出した。そういう訳で、千里は美空に連れられて、一緒に新幹線に乗ってしまったのである!
 

「千里、ごめん、東京で用事あった?」
と私は言う。
 
「ううん。私は大阪から戻ってきた所で。今は3月19日からの全日本クラブ選手権に向けてずっと練習している所だから今日1日休んでも何とかなるよ」
と千里。
 
大阪というのはきっと細川さんと会ってきたのだろう。
 
「だったら、千里も奈良まで付き合おう」
と美空。
 
それで結局、千里は車内で京都までの切符を買って私たちと一緒に座る。座席は3列の所に当初は 美空/小風/花恋、和泉/私/海香 と座る予定だったのが花恋が遠慮してくれて他の席に移動し(玉突き方式で結局畠山さんが千里が車内で買った座席に座った)、美空/千里/私、小風/和泉/海香 という配列になった。
 

「国盗りの移動見てたら、千里あちこち行ってるね」
と美空が言う。
 
どうも美空から勧誘されて千里も国盗りを始めたらしい。ふたりと川崎ゆりこ・秋風コスモス・カノン・リノンが同じ「同盟」に所属していて、千里は移動距離で得られる「城下町」のポイントをゆりこ・美空とシェアしているという。特に千里とゆりこの移動距離がハンパ無いので美空は「もうけ、もうけ。城下町の人口がどんどん増える」と言っていた。
 
「私はもう半分はレッドインパルスの選手みたいな扱いになってるから。先週はチームに帯同して鹿児島まで行ってきたし、27-28日は今度は秋田に行ってくるんだよ」
 
「南から北まで凄いね」
「じゃ27日には秋田に行かないといけないのか」
「じゃ明日26日までは私たちと一緒に奈良で」
「え〜〜!?」
 
 
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【夏の日の想い出・分離】(上)