【春空】(上)

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12月31日に新幹線を使って、桃香と千里が帰省してきた。千里が勤めるファミレスは、今時珍しく12月31日から1月2日までは年末年始のお休みである。また、千里は(性転換したことで)実家から勘当されてしまったので、帰省する先はこちらしか無い。
 
「ちー姉、あの付近の調子はどう?」
「だいぶいいよ。青葉のお陰だよ。もうほとんど痛みは無いし。東京でアフターケアしてくれている病院でも、ここまで回復したらセックスしてもいいですよと言われた。セックスする相手のアテが無いけどね」
 
「私がディルドー使って、入れてあげようか?と言ったのだが、拒否された」
と桃香。
「せっかくペニバンと一緒に買ったのにな」
 
「お姉ちゃんたちセックスは全然しないの?」
「毎日のように指は入れられている」
「そのくらいは入れる」
 
朋子が呆れて「あんたたち、中学生の前なんだけど」と言うが、桃香は「いや、青葉の方がよほど進んでるから。彪志君とはもうしたんだろ?」
と訊く。青葉は微笑んで、ぬけぬけと
「うん、こないだしたよ」
と答えた。
 

1月1日には、桃香・千里、それに青葉が振袖を着て、朋子は訪問着を着て近くの神社にお参りに行った。今年は「去年歩くのしんどかった」という桃香の提案で、お屠蘇は日本酒ではなくみりんで作ったので、千里が車を運転しての往復となった。桃香も免許は持っているのだが、少々乱暴なので、千里がいる時はだいたい千里の方が運転することにしているらしい。青葉はしばしば、菊枝の運転、桃香の運転、そして少し遠い記憶になってしまったが曾祖母の運転の中で、誰の運転がいちばん荒っぽいだろうと考えてみたことがあるが、どうも甲乙付けがたい(丙丁付けがたい?)気がした。
 
「しかし昨年は青葉も千里も無事女の子になれた。めでたいめでたい」
と桃香が言う。ちなみに千里は既に戸籍の訂正も終え、法的にも女性になっている。青葉の戸籍訂正は20歳になるまで出来ない。
 
「私はふたりとも手術が無事済んだのでホッとしたよ。亡くなる人もいるんでしょう?」
と朋子。
「それはあるけど、お産で亡くなる人より確率低いよ」
と千里。
 
「でも娘3人いるのは悪くない。誰が最初にお嫁に行くかねえ」
「ちー姉」「青葉」「青葉」
と娘3人の意見。
 
「多数決で青葉だな」と桃香。
「いや、ちー姉は学校出て2〜3年したら結婚しそうな気がするけどなあ」と青葉。「それは許さん。阻止する」と桃香。
「おやおや」
 
桃香も千里も既に大学院の試験に合格し、春からは修士課程で学ぶことが決まっている。「学校を出る」のは2年後である。
 
「でも誰も桃香と言わなかったね」
「ああ。私がお嫁に行くのはあり得ん」
 
「と本人も言ってるけど、どうする?お母ちゃん」
「まあ、桃香のお嫁入りは諦めてるから。赤ちゃんだけ産んでくれたらいいよ」
「あ、それは産むつもりだから心配無く」
 
3人の娘の内1人は妊娠可能だが結婚する気が無い。2人は結婚する意志はあるものの子供が産めない。考えてみると自分たちって変な姉妹だと青葉は思った。 
桃香が「子供は産むつもり」と言ったのに、千里が笑っていた。
 
桃香は千里が去勢前に採取して冷凍保存している精液を使って子供を産むつもりなのである。桃香は、純粋に精子の提供だけ求めたので、実質的にAID(非配偶者間人工授精)と同等であり、養育費などは求めたりしないとは言っているが、ただ出産の前後は働けないから、その間だけ友人として支援して欲しいと言っており、千里もその線で了承している。一方、朋子は桃香が妊娠出産するのは恐らく30歳すぎと思っていたので、その頃もしもう青葉が社会人になっていたら、出産前後の桃香を経済的に支援してあげて欲しいと青葉に頼んでおり、青葉もその件はぜひ支援したいと言っていた。その子はいわば、桃香・千里・青葉の3人の子供のようになるのかも知れない。出産する機能を持たない青葉にとっても、その子供はちょっと楽しみであった。
 

お参りをしてから神社の境内の茶屋で休んでいたら、見知った顔の子が通る。 
「呉羽〜」
と言って呼ぶと、こちらにやってきた。呉羽は可愛いピンクのセーターに白い膝丈スカートを穿いていた。
 
「あら?呉羽ちゃん」
と朋子も笑顔で迎える。
「明けましておめでとうございます」
と言って恥ずかしがるような顔。勉強会で何度も家に来ているし、ここしばらくはずっと女の子の服を着ていたので、こういう格好を見てもすぐ朋子には呉羽を識別できた。
 
「明けましておめでとう。その服も可愛いわね」
と朋子が褒めると、呉羽は
「はい」
と言って、また俯いてしまう。
 
「なんだか今時珍しい純情な女の子だな」と桃香が言うが
「こういう格好にまだ慣れてないからよ」と朋子。
「ふだんは学生服が多いもんね」
 
「へ?まさか、この子?」
「うん。男の子よ」
「おお、青葉や千里の同類か」
 
呉羽はまた顔を赤らめるので、桃香が「可愛い、可愛い」と言っていた。 

呉羽にもお団子をおごってあげて、しばらく話をしていたが、その内、朋子がトイレに中座する。するとその背中を見送ってから呉羽が決意したように言った。
 
「ね、青葉、相談事があるんだけど」
「ん? じゃ、どこかで聞こうか?」
「今あまり時間が無いから、ここでいい。あのさ、私、おっぱい大きくしたい」
 
「ん?いいんじゃない。いよいよ男の子辞めて女の子になるのね?」
と青葉が言うと、桃香が横から口を出す。
 
「おお。君みたいに可愛い子は女の子になっちゃった方がいいよ。胸を大きくするのならだなあ、まずは牛乳を飲んで牛肉食べて、あと豆腐とか納豆とかも効くぞ」
「あ、はい」
「あとは乳の周辺をお風呂に入った時よくマッサージして、ツボ押しだな。青葉、乳がでかくなるツボを教えてあげなよ」
 
「あ。うん。えっとね。おっぱい大きくするのに効くツボはね。触るよ」
「うん」
「ここと・・・・ここと・・・ここと・・・ここ。毎日朝起きた時とお風呂に入った時と寝る前に5〜6回ずつ押すといい」
 
「ありがとう。でも私、春くらいまでに最低Aカップくらいの胸になれないかなあ、と思って」
と呉羽が言うと、またまた桃香が横から口を出す。
 
「ああ。特急で大きくするなら、美容外科に行って豊胸手術してもらうのが手っ取り早い」
「豊胸手術・・・でもあれ高いよね?」
「うん。80万円くらいかな」
「きゃー。とてもそんなお金無い」
 
「後はヒアルロン酸の注射を胸に打ってもらう手もあるぞ。これは少し安いし、シリコン埋め込むのほど痛くない」
「ああ。あれ幾らくらいかな?」と呉羽が訊く。
「1ccで1万円くらいだよ」と実際に打ってもらったことのある千里が答える。「でもあれ、目立って『胸がある』と感じるくらいにするには40ccくらいは打たないといけない」
「・・・ということは?」
「1ccで1万円なら40ccだと40万円かな」
「きゃー」
「しかも1年程度で身体に吸収されて元に戻ってしまう」
「うーん。。。40万円でもお金が無い」
 
「後は、少し時間が掛かるが女性ホルモンだな。注射してもらうか錠剤を飲むか。そもそも乳首や乳輪まで発達させるには、この方法しかない。シリコン埋め込むだけでは乳首は小さいままだ」と桃香。
 
「実は・・・女性ホルモンは飲んでるんだけど」
「おお。じゃ、もう男は辞めたんだ?」と桃香が訊くと、呉羽はこくりと頷く。 
「それなら、後は青葉に頼んで、気功で女性ホルモンの効きをよくしてもらうかだな。でも青葉の料金も高いぞ」と桃香が言う。
「うん。実はそれをお願いできないかと思って」と呉羽。
「青葉、女の子たちで胸が小さくて悩んでいる子たちにヒーリングして、胸大きくしてあげてたでしょ?」
「いいよ。既に女性ホルモン飲んでるんなら、こちらもやりやすい。何飲んでるの?」
 
「今はダイアン35。でも今プロベラを新たに注文して到着を待ってる所」
「ああ」
「青葉にヒーリングお願いした場合、どのくらい払えばいいの?」
「友だち特別価格で、1回につきおやつ1個」
「どんなおやつでもいいの?」
「その時の懐具合で」
 
などと言っていたらまたまた桃香が口を出す。
「あれって無料にはしないんだよね?」
「うん。無料では絶対に仕事はしない。無料ですることで心が甘くなってはいけないから。料金を取ることで責任感が出る」
「なるほどね。だけどこういう仕事している人の中には金を取ると金の亡者になってしまうから無料でやるという人たちもあるだろ?」
 
「それぞれの考え方だと思うよ。私は取る方針。それに過去に対処した人が新たな問題で悩んだ時に無料では申し訳無いと思って相談を躊躇したりしてはいけないからね。お金が無いから頼めないと思うほどの料金は私は取らないし」
 
「金持ちからはたくさん取り、貧乏人からは少ししか取らないって言ってたね」
と千里も言う。
「そうそう。年収3億の人とか、資産100億の人とかからは1回10万とか100万とか取ってるよ」
「おお」
「年収50万みたいな人には、お昼御飯を食べさせてもらって代金代わりにする。高岡は都会だから、こちらではそういうケース出てないけど、大船渡では畑で採れた野菜とか海で獲った魚とかで代金代わりにすることも多かった」
「なるほど」
「でも友だちはおやつ1個。買ったお菓子でもいいし、手作りクッキーとかでもいいし」
「ああ・・・手作りクッキー作ってみようかな」
「うん。それ勉強会のメンツで一緒に食べよう」
「うん」
 
青葉は早速呉羽のバスト・メイクのトリートメントをしてあげる。それをしている内に母が戻って来たが
「あら、ヒーリングしてるのね?」
と言ってから、桃香たちと色々話していた。
 
呉羽はトリートメントが終わると
「じゃ代金代わりに3日の勉強会に手作りクッキー持ってくるね」
と言って去って行った。
 

「でも、あの子、最近急に女らしさが増したわね」と朋子が言う。
「ああ・・・勉強会のメンツで盛んに、女の子になっちゃえと唆してるからなあ」
と青葉。
 
「ああ、そういうのを唆すのは良いことだ。可愛い男の子はどんどん女の子に変えてあげるのが親切だ。いっそのこと青葉、あの子を性転換しちゃえ」
と桃香が言うので青葉はちょっとだけ心が咎めたが、千里はまた笑っていた。 
青葉たちがまだしばらく茶屋でおしゃべりしていたら、小振袖を着た女の子の二人連れが歩いて来て、その内の1人が手を振ってこちらに近づいて来た。 
「明けましておめでとうございます、川上先輩」
「・・・・・田代!?」
「はい、そうです」
 
それはコーラス部の2年生男子でソプラノ(に正式に移動したらしい)田代君であった。
 
「あ、こちらは私のガールフレンドです」
「へー」
隣の女の子も会釈する。
 
「でもどうしたの?」
「いや、姉貴が振袖着ていたんで、いいなあとか言ってたら、あんたも着てみる?とか言われて、古いのを貸してくれたんですよ。なんか可愛いですね、これ」
「全然違和感無いよ」
「眉を削ったから、それで女の子に見えるみたいです。せっかくだからこれで初詣に行こうと言ったら、一緒に歩くの嫌と言われたんで、ガールフレンドを誘ったんです」
 
「あんた。彼氏がこんな格好でもいいの?」
「あ、可愛いのは全然問題無いです。この後、一緒に初売りで女の子下着を一緒に買おうかなんて言ってるんですよ」
「へー! 田代、女の子下着も着けるんだ?」
「いや付けたことないですし持ってないです。でも持ってないと言ったら、この子から、じゃ取り敢えず1組買ってごらんよと言われて」
 
青葉はちょっとクラクラと来た。この子たちの感覚はよく分からない! 
「でも今はどんな下着付けてるの?」
「あ、和装だから肌襦袢ですよ。姉貴から古いのもらいました。下は裾除けってのを付けるらしいですけど、形がステテコと同じだからと言われて親父のステテコ1枚借りてきました」
「なるほど」
 
「だけど、声が女の子の声だね」と千里が言う。
「この子、ソプラノで歌えるんだ」と青葉が説明する。
「へー!」
「文化祭でもソプラノソロ歌ったよ」
「あれ良かったですね。惚れ直しました」と彼女。
「だけど、話す時にもその声使えるようになったのね?」
 
「はい、普通の会話でも出せるようになりました」
「へー。それで女装にも目覚めた?」
 
「いや、女装をするつもりは無いんですけどね」
「えっと、小振袖は充分女装だと思うけど」
「でもスカートとかは穿かないし」と田代君は言うが
「あ、スカート穿いたこと無いというから、うちで穿かせてあげるよと言ってるところなんです」と彼女。
 
「いや、そんなことしてたら女装が癖になりそうと抵抗してるんですけど」
「・・・・もう既に癖になってたりして?」
 
「あはは、そうかもですね。でも女の子になりたい訳じゃないし」と田代君。 
「そうだ。ソプラノで歌ってるんでしょ?女子制服着る?」
「あ、○○ちゃんから、卒業したお姉さんの女子制服を譲ってもらいました」
「ああ・・・」
「3学期からはそれ着て練習に参加してね、なんて言われちゃってどうしようと思ってるんですけど」
「それはやはりちゃんと女子制服着よう」
「あはは、この子からも散々それ唆されてます。一週間後の自分が怖い」
 
「いっそ今度女の子の服着てデートしない?なんて言ってるんですよ。女の子同士って結構便利そうだし。トイレの列にも一緒に並べるし」と彼女。 
「ああ、それはとても便利なのだよ」と桃香まで言う。
「それに女装にハマって、もしちんちん取ってしまってもレスビアンという手があるぞ」
 
「確かに。でもそれだと子供作れないし」
「精液を手術前に取って冷凍保存しておけばよいのだよ」
「ああ、そういう手があるか。だったら、おちんちん取ってもいいよ」
「いや、だから女の子になる気は無いって」
 
「・・・・なんなら、女の子になる手術してくれる病院、紹介しようか?」
「勘弁してくださいよぉ」
 
などと言いながら田代君と彼女は行ってしまった。

「明るいね」と千里。
「でも凄く可愛い。ちゃんと女の子に見えてた」と朋子。
「あれはもう女装にハマり掛けてる気がする」と青葉。
 
「いや既にハマってると見た。スカート穿いたことないなんて絶対嘘だ。女装経験の無い子が、いきなりあんな自然な雰囲気出せる訳ない」
と桃香が言うと、青葉も千里も「確かに」と同意する。
 
「ある程度女の子の格好で居ることに慣れないと自然さは出ないよね」と千里。「しかしさっきの子とは傾向が違うな」と桃香。
「呉羽は女性志向、田代君は女装趣味かも」
 
「彼女公認で女装というのは、多分かなーりハマるな」
「うん。あれどちらかというと彼女が随分女装を唆してるみたいだし」
「あるいは元々レズっ気のある子なのかな」
「かもね」
 
元日の朝はお雑煮を食べ、お昼は鰤のお刺身、そして夕方は鰤の照り焼きや筑前煮などを食べる。鰤は前年同様、氷見漁港に行って1匹まるごと買ってきたものだ。冷凍して少し千里に持って帰るように言った。
 
「お魚も美味しいが、明日はすき焼きにしよう」と桃香。
「ああ、お肉もいいよね」と朋子。
「とやま牛買って来ようか」と桃香は言うが、
「オージービーフでいいよ」と青葉が言う。
「じゃ、間を取って交雑牛で」と千里が言って
「うーん。まあその辺が落とし所かね」と朋子が言い、お肉のランキングは決まった。
 

その夜、久しぶりに「お仕事」が無かったので、青葉は早めに寝ようと22時には布団に入っていたのだが、夜中の2時頃、携帯の鳴る音で目を覚ます。こんな時間に何だ? と思ったら冬子だった。
 
「明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとうございます」
と新年の挨拶を交わした上で、
「どうしました?」
と訊くと
 
「実はね、とってもくだらない用件で申し訳無いんだけど、政子とふたりで遊んでて魚肉ソーセージを私のヴァギナの中に入れちゃったら、うまく取り出せなくなっちゃって」
「へ?」
と言って、青葉は相手の状況を「想像」してみた。
 
ああ・・・・冬子は政子をかばって「ふたりで遊んでて」と言ったが実際は寝ている冬子「で」政子が遊んでいたようだ。
 
「ああ。問題無いですよ。横になって、楽にして、携帯を子宮の上に置いて」
「了解」
 
冬子が携帯を(仮想)子宮の上に置いた感触があったので、青葉はそこから冬子の膣近くの筋肉に刺激を与える。膣の奥の方から始めて順に手前の方へと刺激していく。携帯に振動が伝わってきて、中に入っているソーセージが動いている雰囲気があった。
 
そして1分もしない内に、ソーセージは外に飛び出した。
 
「サンキュー!青葉」
「あまり変な遊びしないようにね」
「うんうん。夜中に御免ね」
「うん。おやすみなさい」
 

微笑んで電話を切った。でもヴァギナの中に変なもの入れて困るってのは結構あるらしいよなあ、と思う。そういえば美由紀が「ビール瓶を入れたら取れなくなって病院に駆け込んだ」なんて事件があったと言っていた。よくまあ、そんなものを入れるもんだと少し呆れた覚えがある。特にビール瓶や電球など「割れるもの」は危険だ。下手すると赤ちゃんを産めない身体になってしまう可能性もある。まあ基本的にはヴァギナには赤ちゃんの頭以下のサイズのものなら入るはずなんだけどね!
 
もっとも冬子のヴァギナにしても自分のヴァギナにしても、人工のものなので赤ちゃんの頭は通らない。どのくらいまで入るのかなと考えてみたが、すぐにダイレーターのサイズまでは大丈夫ということに思い至る。自分の場合、持っている最大サイズのダイレーター直径38mmのは入っているから、そこまでは入るはずだ(普段使っている留置き式のものは昼間使うのが28mm,夜間使うのが33mm)。 
「ビール瓶の直径ってどのくらいだ?」
 
唐突に青葉は確認したくなって、パソコンのふたを開けてネットで検索してみる。7cmから7.5cmか・・・・さすがにこれは入らないだろうな。
 
男性のペニスのサイズの方は、日本で売られているコンドームが直径35mmらしいので、だいたいそれ以下ということになる。今度、彪志のを測ってみようかな?などと考えてみた。
 
赤ちゃんの頭のサイズも検索してみると、10cmくらいが標準的で大きい子だと11cmくらい。12cmあると経膣分娩は諦めて帝王切開を選択するという感じのようである。青葉はけっこう赤ちゃんを産む気があったのだが、この問題を考えると、4cm程度までしか広がらない人工ヴァギナでは、経膣出産は無理っぽいなという気がした。帝王切開か・・・・
 
もっとも、天然女性の場合も、基本的に赤ちゃんの頭が、骨盤の穴を通るかという問題が先にある。どんなに膣が伸びても骨盤の穴より大きな頭を持つ赤ちゃんは通らない。1950年代頃は2500gくらいで赤ちゃんを産むことが多かったのが最近は3500gくらいが普通になっている。母親の身長が高くなっている(身長が高ければそれだけ骨盤の穴も大きい)分はあっても、帝王切開が多くなる訳だ、と青葉はあらためて思った。
 
ちなみに骨盤の穴の大きさに関しては、GIDの診断書をもらいにいった病院で検査されて「あなたの骨盤は形も穴も女性型」と言われている。第二次性徴期に女性ホルモン優位だったことから、女性様に骨盤が発達したのだろう。穴の問題もあるが「形」は更に重要で、女性型の骨盤を持っていないと、妊娠中に赤ちゃんを安定して維持することができない。「医学が発達すればその内男も赤ちゃんが産めるようになる」と言う人もあるが、男性の骨盤の形で妊娠の維持は不可能だと青葉は思う。
 
しかし彪志とは、自分が大人になったら、例の「夢」の中で避妊せずにセックスしてみようなんて言っていた。「夢」の中の自分のヴァギナって、人工ヴァギナなのだろうか、天然ヴァギナなのだろうかと考えてみたが、分からなかった。 
小さい頃、手術されて女の子の身体になった夢も見ているが、「女の子の素?」
を埋め込まれて女の子に変わった夢も見ている。もし後者の方が効いているのなら天然ヴァギナの可能性もあるが、前者なら人工ヴァギナだ。
 
もし人工ヴァギナだとすると、出産するにはやはり帝王切開が必要になる。「夢」の中までお医者さんは来てくれないだろうから、その場合、自分で帝王切開しなきゃいけないかも!?
 

3学期に入ってすぐ、私立高校の推薦入試の願書受付が始まり、中旬には一般入試の受付も始まった。美由紀が併願する私立高校R高校は少し遅くて月末近くの受付になったが、美由紀はそこの特進クラス志望ということで願書を出した。実際問題としてここの特進クラスはT高校やC高校を狙って落ちた子が来るためレベルが高いらしい。また、この高校の入試には、私立に行くつもりは無いが試験に場慣れしておきたいという子も結構受験する。星衣良と世梨奈もそういう趣旨で願書を出した。
 

1月30日水曜日。この日、青葉が昨年性転換手術を受けた病院で、歌手の花村唯香が性転換手術を受けた。冬子との関わりがある歌手なので、青葉は冬子から頼まれて、病院を訪れ、手術後のヒーリングを施した。
 
もっとも実際にはヒーリングというより、今日やるのはマイクロサージャリーである。青葉は患者が手術室から戻って来て、まだ麻酔から覚めない内に、新しいヴァギナとその周囲の血管や神経を、「鏡」で見ながらつなぎ始めた。 
ただ1本ずつつないでいくし、つなぐ時は必ず下流をつないでから上流をつながなければならないので、ひじょうに大変な作業である。1時間ほどその作業をしていたら、病室に松井医師が見回りに来た。
 
「あら、青葉ちゃ〜ん、こんにちは」
「こんにちは〜、松井先生」
「どうしたの? またおちんちん切りに来た?」
「そんなにおちんちんが何本もあったら困りますよ」
「それもそうね。知り合い?」
 
「この患者にこの病院を紹介したのが私の友人なので」
「へー、そうだったんだ。たくさん営業してくれてるのね」
「はい。頑張って可愛い子を連れて来ますよ」
「うんうん、よろしく」
 

2月に入ってすぐに公立高校の推薦入試願書受付が始まったので、青葉は予定通り、T高校に社文科志望ということで願書を出した。
 
2月7日は私立R高校の一般入試試験日だった。首尾を訊くと、美由紀は右手で○のサインを出して答えた。
 
「あそこの入試はさ、毎年公立高校の入試と傾向が似てるのよね」と日香理。「へー」
「だから、あそこを受けておくと本当に公立の予行練習になるんだよ」
 
勉強会のグループでも、そこの入試問題を解いてみる。日香理と呉羽が協力して模範解答を作ってくれたので、それで全員採点してみる。
 
公立の試験と同じ200点満点で採点してみたところ、青葉が180点、日香理が188点、呉羽が186点、美津穂174点、明日香170点であった。また実際に受験した3人は、自分が書いた解答を採点してみると美由紀が194点、星衣良は170点、世梨奈166点であった。全員T高校の合格圏内に入っている。
 
「美由紀の点数がすごー」
「うん。勘違いで誤答した所はあったけど、分からない問題は無かったよ」
「おお」
「美由紀、ほんとに頑張ったね」
とみんなから褒められる。
 
「この点数なら、この高校に入った場合、特待生になって授業料要らないよ」
「いや、それでもみんなと一緒にT高校に行きたい」
「まあ、この高校からは国立には4〜5人しか入らないからなあ」
と日香理。
 
C高校かT高校か悩んでいる世梨奈について、日香理は言う。
「世梨奈は弱点が少ないからね。内申点は割と高いでしょ?」
「うん。先生からそう言われた」
「内申点が高ければ、試験の点数はこのくらいでも合格圏内だと思うよ」
「うーん。結構T高校に行きたい気分になってきた」
「じゃ世梨奈も勉強頑張ろう。各教科あと1問ずつ正解できたら安全圏だよ」
「なるほど。頑張ってみよう」
 
「ところで呉羽、最近もう完全に女の子の雰囲気だよね?」
「そうそう。平日でも勉強会では女の子の格好だし」
「呉羽も女の子としての合格圏内に入ったな」
「それだけ可愛かったらナンパされない?」
「・・・こないだされ掛かった」
「おお、やはり」
 
「高校には女子制服で通うの?」
「通いたい気分ではあるけど、無理だろうなあ」
「あ、でも女子制服は作っておくといいよ」
「えー、でもお金無いし」
「そこはやはりお母さんに相談してみよう」
「結局そうなるのか・・・・」
 

翌日。2月8日。青葉が朝御飯を食べた後、茶碗を洗っていたら、電話が掛かってきた。居間でネットを見ていた母が取る。
 
「青葉、慶子さんだよ」
と言う朋子から受話器を受け取る。何だろう?何か重大事件でも起きたのだろうか? 
「青葉さん、実はうちに野良犬が入って来て」
「はい」
「家の四隅に埋めてる結界の袋を掘り返しちゃって」
「ああ・・・・。どの方位のですか?」
「北東です」
 
それはまた最悪の所を掘ったもんだ。
「その犬、死んだでしょ?」
「死んでるみたいです。私怖くて近寄れない」
 
他の方位のなら死ななかったかも知れないけどね。北東の守りは強烈なんだ。 
「近寄らない方がいいです。結界の袋にも絶対触らないで下さい。触ると死にますから」
「きゃー! あれ?でも青葉さん、触ってましたよね?」
「ある特殊な修行をしている人だけが触れるんです」
「わあ」
と慶子は絶句した。
 
「でもこれどうしましょう?」
「そちらに行きます。私が行くまで家から出ないでください」
「分かりました。お願いします!」
 

青葉は受話器を置くと、ふっと溜息を付いて母に言った。
 
「ごめーん。私、緊急に大船渡に行って来なくっちゃ」
「いつ帰るの?」
「日帰りはさすがに辛いから明日。今日・明日、休むということで学校に連絡してくれない?」
「分かった。連絡しておく。取り敢えず高岡駅まで送るよ」
「ありがとう」
 
母が駅まで送ってくれるので、青葉はその車内で予約センターに電話し、一ノ関までのチケットを確保。クレカで決済した。
 
高岡駅で母に御礼を言って降り、予約していたチケットを受け取る。
7:35のはくたかに乗った。
 
しかし・・・そろそろ真穂にあの修法、覚えさせた方がいいかな?
もう、あれを覚える前提条件は揃ってたはずだもんな。
 

車内でぐっすり寝て13:13に一ノ関に着く。駅を出て、タクシーに乗ろうと少し歩きかけたところで後ろから呼び掛けられた。
 
「青葉〜!」
青葉は振り替える。
「冬子さん、政子さん」
と言って笑顔になり、ふたりの所へ歩いて行く。
 
「お仕事?」
とお互いに言ってまた笑顔になる。
 
「私たちはプライベートな旅行。これからレンタカーを借りて陸前高田まで」
「私は緊急に大船渡まで。陸前高田に行くなら、そこまで乗せてくれません?タクシーで行こうかと思ってた」
 
「タクシーで大船渡まで行ったら2〜3万掛かるんじゃない?私たちは自由スケジュールだから、大船渡まで乗せてってあげるよ」
「すみません。助かります!」
 
そういう訳で、青葉は冬子の運転する車に同乗させてもらい、大船渡まで行った。冬子たちは陸前高田で「ゲリラライブ」をしに行く所だったらしい。
 
「ゲリラライブですか!?」
「実は震災直後の5月から毎月東北のどこかでしてたんだ」
「へー!!」
 
政子は、震災の直後から、何か自分たちにできることはないかと考えていて、こういうことを思いついたのだと言っていた。自分たちが東北で普通にライブをしようとすると、どうしても関東圏とかから観客が押し寄せる。それは商業的には成功するだろうけど、自分たちは東北で今打ちひしがれている人の心を癒やし、頑張っている人たちを応援したいと思ったと言った。
 
「詩人」的な政子が、こういう長い文章をしゃべるのは珍しいなと青葉は思った。 
「そういえばローズクォーツの方でも避難所絨毯爆撃ライブやりましたね」
「あれも名前名乗らない、持ち歌歌わない、物を売らない、とやったけどね」
「あの月だけはローズ+リリーのゲリラライブはやってない。さすがにやる時間が無かった」
「でしょうね」
 
「今日が19回目なんだよね。来月3月11日に石巻で20回目のゲリラライブして打ち上げにしようと思ってる」
「なるほど」
「これまでマスコミとかにバレずにやれてきたこと自体が半ば奇跡みたいなもんだけど、バレると、なんかずっとしなきゃいけないみたいになるし、それに多分東北以外から見に来る客が増えて、趣旨が変わってしまうし」
 
「そうですね。潮時かも知れませんね」
 

青葉は佐竹家から100mほど離れた場所に車を停めてもらい、巫女衣装で現場に向かった。慶子に声を掛けると
「わあ、助かった! よろしく」
と言っていた。
 
家の東北に回る。犬が死んでいる。そばに穴が掘られていて、地面の上に繻子の袋に入れられた宝玉が転がっていた。青葉はやれやれと思い、その袋を手に取るとほこりを払い、持参した新しい袋に古い袋ごと入れてから穴の中に埋め戻した。封印の呪文を唱える。結界が再起動したのを確認し、慶子の家に入った。 
「無事、処理を終えました」
「助かった! これで買物に行ける」
「犬の死体は市役所に泣きついてみてください。野良犬が勝手に入り込んできて死んでしまったけど、女ひとりでは怖くて触れませんとか」
「泣きついてみます」
 
「しかし考えてみると物理的なものに対する防御がなさ過ぎたかも知れないですね」
「何か手はありますかね?」
「トゲトゲの出てるネコダメシートとかはどうかな?100円ショップで売ってます。あと、酢を撒いておくとか」
「酢ですか?」
「ただ、雨とかで流れちゃうから長持ちしませんけどね」
「うーん。超音波出す奴とかはどうでしょう?」
「それやると、本来の結界に穴を開けてしまうので」
 
「それは問題です! でも青葉さんが対応できないような時にこういうことが起きたらどうしましょう?」
「今度会った時に、真穂さんに件(くだん)の修法、伝えておきます」
「真穂ができるんですか?」
 
「こちらに来る途中考えていたんですが、あの修法を学べる条件を真穂さんは偶然にもクリアしてるんですよ」
「へー」
「真穂さん、自分は絶対拝み屋さんはしない、なんて言ってるけど、何にでも興味を持つタイプだから、これまでも結構色々なものを教えてきてますし」
「あの子、結局大学で友だちとかから、霊的な相談受けて、色々してあげてるみたい。学生アパートとか寮には怪談がつきものなのよね」
「ああ、そうみたいですね」
 

10分近く話して、慶子の家を出る。冬子の車に戻る。
 
「終わりました」
「お疲れ様」
 
政子から「処理の内容」について訊かれたので簡単に説明する。
 
「うーん。私たちは触らぬ神に祟り無しだな」
「それがいいです」
と青葉はにこやかに言った。
 
その時、政子が唐突に思いついたように言った。
 
「ねえ、せっかくここまで来たし、今日のゲリラライブは、大船渡・陸前高田・気仙沼の三連チャンにしない?」
「ああ。いいね。青葉も一緒に歌う?」
「あ、はい!」
 
「そういえば、気仙って言ったら、私は気仙沼のことかと思ってたんだけど、大船渡や陸前高田も気仙なのね?」
と冬子から訊かれる。
 
「そうです。元々は、このあたり一帯を気仙郡と言ったんですよ。今の行政区画だと、大船渡市・住田町・陸前高田市・気仙沼市ですね。岩手県と宮城県に分かれてはいますが、文化的にも経済的にも一体化してます」
「へー」
 
「あと『気仙沼』っていうけど、そういう名前の沼らしきものは無いよね?」
「ええ。結構そういう名前の沼があるものと思い込んでいる人はいますね。諸説ありますが、気仙沼湾の奥が深いので、まるで沼のように見えたからではとも言います」
「ああ」
 

そういう訳で、青葉は冬子たちのゲリラライブに付き合うことになり、まずは大船渡市内のサンシャイン公園に行った。震災直後はここもがれきの山になっていたが、きれいに整備が終わっている。ここで冬子はフルート、政子はヴァイオリンを取り出して『G線上のアリア』を演奏し始める。
 
青葉はてっきりローズ+リリーの曲を歌うのかと思っていたので戸惑ったが、取り敢えず「ラララ」で歌い始め、その内適当に歌詞を付けながら歌う。 
「人は小さな存在だけど、みんなで手を取り合って、力を合わせて
頑張れば、たくさんのことができる」
 
青葉の美しいソプラノボイスが響くと、通行人がひとり足を停め、ふたり足を停めする。そんな中に何と椿妃がいて手を振ったので、こちらも手を振り返した。 
ある程度歌った所で、冬子が突然吹いていたフルートを青葉に手渡し、気仙甚句を唄い始めた。さっき話題になった気仙地方で歌われている民謡である。フルートを押しつけられた青葉はえっと?と一瞬困ったものの、押しつけられたら吹くしかない!ということで適当に吹き出した。冬子が甚句を唄っているのでこちらはお囃子を入れるような感じにする。青葉はファイフは吹くものの、フルートの指使いはかなり怪しかったのだが、何とか根性で吹いた。政子は胡弓を弾くかのようにヴァイオリンを和音階で奏でている。なるほど。フレットの無い楽器はこういう使い方もあるんだな、と青葉は感心した。
 
その後は、お互いに楽器を交換しながら、楽器を持っていない人が歌う、というので回していった。
 
全部で7曲歌って演奏を終了する。観客から大きな拍手が来る。青葉は椿妃とハグしあった。
 
「何?こちらに戻って来てたの?」
「さっき緊急の用件で来たんだけど、すぐまた帰る。ごめーん」
「そうか。入試まだだよね?」
「うん。推薦なんだけど、13日に面接がある」
「おお頑張ってね」
「ありがとう。椿妃は?」
「5日に願書出した。試験は来月の7日」
「わあ。じゃ今追い込みだね。頑張ってね」
「うん。ありがとう」
 
ふたりは手を振って別れた。
 

陸前高田に移動する車の中で冬子が言う。
 
「結局さ、ヴァイオリンは私とマーサが弾けて、フルートは私と青葉が吹けるみたいだから、
 
・私が歌う時はマーサがヴァイオリン、青葉がフルート、

・青葉が歌う時はマーサがヴァイオリン、私がフルート、

・マーサが歌う時は私がヴァイオリン、青葉がフルート

 
ってことにすればいいんだよ」
と冬子はまとめた。すると
 
「まあ、適当に楽器回せばいいってことね」
と政子が言って分からなくしてしまう。青葉はつい吹き出した。そんな論理的思考は政子には無理である。彼女は思考せずに直観で結論を導き出すタイプだ。 
しかし陸前高田で歌った時は、弾けない楽器を手に困惑して楽器を振り回すパフォーマンスをする、などということにはならないようにうまく回った。多分冬子がきちんとコントロールしていたのだろう。
 
陸前高田で7曲、気仙沼で7曲歌ってから、車で一ノ関まで戻る。
 
「遅くなっちゃったね。もう富山に戻れないよね。うちに泊まる?」
と冬子が言うので
「あ、じゃ泊めてください」
と言うと冬子は更に
「彼氏を千葉から呼んで一緒に泊まってもいいよ」
などと言い出す。
「えー?どうしよう?」
 
とは言ったものの、青葉は彪志にメールしてみた。
「すぐ行く!」
という返事。
 
「済みません。じゃふたりで泊めてください」
「おっけー、おっけー。夜は楽しんでね。私たちも楽しむから」と政子。冬子は笑っていた。
 

東京駅の新幹線改札のところで、彪志は待っていた。
 
4人で一緒に中央線に行く。
「あれ? 新宿区のマンションじゃないんですか?」
 
冬子のマンションに行く場合は、東京駅と一体化している大手町駅に移動してそこから東西線である。
 
「うん。政子の実家に行く」
「へー」
 
政子の家の最寄り駅で降りて、タクシーで家まで行った。
「こちら初めて来ました」と青葉。
「よほどの親友しかこちらには呼ばないからね」
「向こうは仕事場、こちらはおうちって感じね」
「へー」
「私たちの住民票はこちらにあるんだけどね」
「へー!」
 
何でも政子の両親が5年ぶりに帰国することになったということで、大掃除の真っ最中なのだそうである。
 
「手錠とか鞭とか注射器とか蝋燭とか亀甲ロープとか尿道カテーテルとか、だいたい親に見られたらやばいものは発見して処分したんだけどね」
と政子。
「ちょっと、マーサ。中学生の前でそういう話しない」
「あ、いえ。だいたいは分かります」
「今時の中学生は亀甲縛りとかもするのか?」
「しませんよ〜」
と言って青葉は苦笑する。彪志が戸惑うような顔をしていた。
 

冬子と青葉で協力して晩御飯のスパゲティ・ミートソースが出来上がる。その量を見て彪志が困ったように言う。
 
「さすがにこんなには俺入りませんけど・・・」
「あ、心配しないで。政子が食べるから」
「えーーー!?」
「あ、私、ギャル曽根の2代目と言われてるから」
「ひぇー!」
 
彪志もたくさん食べたが、政子が凄い勢いで食べるので、山のようなスパゲティがあっという間に無くなってしまう。青葉は1皿、冬子も2皿しか食べていない。 
「ほとんど下宿屋さんの食卓ですね」と彪志が感心したように言う。
「まあ似たようなもんだね」
「私、子供7〜8人作ろうかなあ」と政子。
「そんなに作ったら、私はもう食堂のおばちゃんだな」と冬子。
 
「でも8人も子供産むの大変ですよ。24歳から1年おきに産んでも最後の子が38歳の時」と青葉。「大丈夫。冬に半分産んでもらうから」と政子。
「産めないよぉ」
「受精卵をお腹の中に移植しちゃえば何とかなるんじゃない?」
と政子が言う。
 
「それで妊娠維持できるのは、多分青葉くらいだよ」と冬子が言うと
青葉は一瞬考え込んだ。
 
「ん?青葉産む気になった?」
「あ、産みたいですけど、まだ中学生なので」
「そうだな。大学出た後で産むといい。私も27歳くらいで最初の子を産むつもりだ」
と政子。
「でもさっき一瞬ですね」
「うん?」
「冬子さんと政子さんがたくさんの子供に取り囲まれて御飯食べているビジョンが見えたんです」
「へー」
「で、その一瞬見たビジョンの中にいた子供の数を数えたら8人いました」
「おお」
 
「しかしそうすると、私と冬は一緒に子供を育てるのかな」
「あ、それはそうだと思いますし、そのつもりなんでしょ?」
「うん、そのつもり。私は結婚はするかも知れないが子供は冬と育てる」
と政子が言うと
「なんで〜?」
と冬子は笑っていた。
 
「政子さんの遺伝子上の子供は4人、冬子さんの遺伝子上の子供も4人だと思います」
「ああ、ということはやはり私と冬が半分ずつ産むんだ」と政子。
「いや私は産めないって」と冬子は笑っている。
 
「ね、青葉。8人の子供の中に、私の彼氏の子供もいる?」と冬子が訊く。青葉は「いますよ」と即答した。
「私の彼氏の子供は?」と政子が訊く。
青葉は一瞬考えてから「いますよ」と意味ありげに答えた。政子がドキっとした顔をした。
 

その後、冬子たちから「行方不明の楽譜を探している」と聞いて、青葉は「じゃ探しましょうか」と言い、雑多な物が満ちあふれている部屋に行く。波動を確認するために、ふたりの手書きの譜面を1枚見せてもらう。青葉はそれと似た波動のある場所を探した。
 
「あ、ここにひとつある」
「それからこれ」
と言って、地図の間にはさまっていたもの、パンフレットが積まれている中にあったものを青葉は取り出す。そして、ベランダに積み上げられた雑誌の束の中からも1枚譜面を発掘した。
 
「うっそー!! これがいちばん欲しかった譜面」
「あぶなーい。これは完璧に捨てるところだった」
「よかったですね」
と言って青葉は微笑む。
 
青葉は更に4枚の譜面を発見した。
 
「料金は1枚10万円でいいです」
「ぶっ」
「捜し物も料金取るの?」
「捜し物は本職みたいなものです」
「ああ、そういえばそうだった」
 
「お金持ちからはたくさん取る主義ですから」
「了解。振り込んでおくね」
「よろしく」
 

翌日は午前中、花村唯香の実家を訪れた。お見舞いを兼ねてダイレクトにヒーリングをするためである。ヒーリングの時、クライアントを裸にするので、彪志には遠慮してもらい、新宿で待機してもらった。
 
冬子・政子と一緒に3人で訪問すると、お母さんが「いろいろお世話になっております」と恐縮したように言った。
 
「青葉さんのヒーリングで凄く楽になったみたいで」
 
実際には手術の直後にしたのは松井先生の手術の仕上げなんだけどね、と青葉は思う。性転換手術では、陰核や陰唇などは当然周囲の組織と縫合するし、特に陰核はしっかり血管や神経をつなぐが、膣は原理的にそういう作業が困難なので自然治癒を待つことになる。しかも傷の面積が圧倒的に広い。その部分で青葉は血管・神経をつなぎ、周囲の組織と固着させていった。こんな作業は将来マイクロマシンによる手術のようなものが出来るようになるまでは、医師には困難である。 
そういう作業を、青葉は自分の身体、そして和実・千里・春奈の身体でも行ったし、手術から既に3ヶ月経った時点で会った冬子の場合は、おかしな結合をしている所をいったん「剣」で切った上で、再度正しいつなぎ方に変えてあげた。 
しかし唯香の場合、そういう基本的な作業はもう完了しているので、今日するのは純粋なヒーリングである。青葉は唯香にパンティを下げさせ、お腹の服を少しめくって「仮想子宮」から陰部に至る付近を露出させて、その上で手を身体と平行に動かす「気の調整」を行った。唯香が気持ち良さそうにしている。こういうヒーリングは非接触式マッサージのようなものだから、受けている側はとても気持ち良い。
 
「でもかなり顔色がいいね」
「青葉さんのお陰です。でもこれ他人には言わないことが条件なんですね」
と唯香。
「そうそう。希望者が殺到したら、私パンクしちゃうから」
と青葉。
「特に今受験の最中だもんね。そろそろ内定通知だっけ?」
「まだこれからです。13日に面接を受けて、結果通知は18日になります。でも正式な合格発表は3月19日だから、それまでは私は公式には休養中です」
 
「でも、私みたいな無茶言う人に頼まれてこうして仕事してる」と冬子。「だから特に内緒で」と青葉は笑って答えた。
 

唯香の家を出た後は、いったん新宿に出て彪志と合流する。冬子・政子と4人でお茶を飲んでから別れた。青葉は彪志とそのまま新宿でデートを楽しむ。 
「何時の新幹線で帰るの?」
「今日は飛行機で帰る。試験前だから身体の負担ができるだけ小さい方がいいとお母ちゃんから言われた」
「ああ、確かにそれがいい」
「20時の飛行機に乗るから、18時くらいに羽田に移動する」
「じゃ羽田まで付いていく」
「うん」
と言ってから青葉は思いついたように
「ね、ね、面接の練習相手になって」
「ああ」
「どこかカラオケ屋さんに入ろうよ。それで彪志、面接官になって色々質問してよ。想定問答集持って来てるから、それに沿って訊いて」
「OK、OK」
 

カラオケ屋さんに入り、密室なのをいいことにまずはキスしてから面接の練習をする。
 
「名前と出身中学、性別と受験番号を言って下さい」
「性別までは訊かれないと思うけどなあ」
「答えなさい」
「川上青葉、◎◎中学、性別・女、受験番号37です」
「確かに性別女ですか?」
「えっと男に見えますか?」
「証拠を見せなさい」
「証拠って?」
「胸を見せるとかお股を見せるとか」
「そんなの見ようとする面接官はセクハラです。訴えますよ」
 
最初から脱線ぎみの面接官である。
 
「本校を志望した動機は?」
「先生たちが指導に熱心で、生徒も意欲が高い生徒が多いと聞いたからです」
「好きな教科・嫌いな教科」
「好きな教科は英語です。嫌いな教科は特にありません」
「好きな人はいますか?」
「それを訊くのはセクハラです」
 
「高校卒業後は、進学希望ですか?就職希望ですか?」
「大学への進学希望です」
「どこの大学に進学したいと思っていますか?」
「名古屋大学の法学部です」
 
「えー?名古屋に行っちゃうの? 富山から離れるなら関東圏においでよ」
「できるだけ大きく言っとけと中学の先生に言われたのよ。東大文1はさすがに恐れ多いし、一橋法でもとても私の頭では通らない。あんな所に行けるのは、冬子さんの彼氏みたいな凄く頭の良い人だよ」
「青葉も充分頭いいと思うけどなあ。どう考えても俺より頭の出来がいい」
「そぉかなぁ?」
 
「うーん。社会に出てからはどんな職業に就きたいですか?」
「アナウンサーを志望しています。実際この秋から大阪のアナウンススクールに月1度通っていて、4月からはそこと同系列で金沢に新規開講するアナウンススクールに毎週1回通うことにしています。法学部を志望するのも、マスコミ関係で活動するのに政治の仕組みについて学ぶとともに、弁論を鍛えたいと思っているからです」
 
「何歳頃結婚したいですか?」
「それ訊くのもセクハラです」
 
そんな感じでカラオケ屋さんでの時間は楽しく?過ぎていった。
 

2月13日(水)。推薦入試の面接が行われる。青葉は中学の制服を着て、T高校へと出かけた。最近はどこの高校も優秀な生徒を推薦で取ろうとする。ここに来ている子もだいたいハイレベルの子が多いのだろうと、青葉は控室で思った。日香理や呉羽も成績優秀だから、推薦を選択できるはずだが、どちらも実力でT高校に入れるというのを実証して親にアピールするという目的があるので、ふたりとも一般入試を選択している。
 
やがて自分の順番となり、面接室に入った。
 
「失礼します」と言って戸を開け、きちんと閉めてから席まで歩いて行き、着席する。膝をきちんと揃えて背筋を伸ばす。中学名と氏名、受験番号を言う。 
この学校を志望した動機、高校生活でどういうことをしたいか、将来の夢、自分の長所と短所、また中学でどのような活動をしてきたかなど質問される。全て想定問答の範囲なので(彪志面接官にも訊かれて答えたことばかりだ)、しっかりと答える。試験官の先生たちは青葉の答えに頷いていた。
 
「何かそちらから質問などありますか?」
と訊かれる。これは面接でありがちな質問だが、訊かれた方は戸惑う質問のナンバーワンである! しかしこれも想定問答集の範囲である。
 
「そうですね。ご縁があって合格させて頂いた場合、入学までに準備しておいた方が良いこととか、学習しておいた方が良いことがありましたら、お教え下さい」
 
試験管は頷き言った。
「やはり中学での学習範囲の再復習をしておいてください。それが高校での勉強の基本になります。それから受験前は勉強のために生活時間が不規則になっていたかも知れませんが、可能な限り朝型の生活時間に戻しましょう」
 
「分かりました。ありがとうございます。頑張ります」
「これで質問は終わりです」
「ありがとうございました。それではよろしくお願いします」
 
しっかりとお辞儀をしてから立ち、ドアの所まで歩いて行き、面接官に向かって一度礼をしてからドアを開け外に出て、また礼をして閉める。
 
面接終了!
 
青葉はふっと大きく息をついた。内々定しているといっても緊張する!! 
 
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