【春四】(4)
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1月4日(水).
水川沙耶と鈴江月子(彪志)はこの日からお正月休みを出勤した代休に入る。この日は2人ともドローンスクールの卒業試験を受け合格した。そのあと続けて国土交通省の学科試験(オンライン)を受ける。これが正解率90%以上を要求される難関であったが、2人とも無事合格することができた。
2人は翌日1月5日には指定医療機関に行き、健康診断を受けた。健康診断を翌日にしたのは、試験を2つ続けて受けてから診断に行ったら疲れている状態で受けることになるので、色々異常が出かねない。今日はお風呂にでも入ってぐっすり寝てから明日体力を回復した状態で診察を受けようということである。
この検査をされる趣旨は
(1) 航空機を操縦するために必要な視力・色覚・聴力があること。
(2) 航空機を操縦するための運動能力があること。
(3) 操縦中に突然意識を失ったりする可能性のある疾患を持っていないこと
というのを確認するのである。これって若くないと取れないなあ、と彪志は思った。
結局鈴江月子で本人確認しているので、月子名義でドローンスクールを卒業し、学科試験も月子名義で合格したから、当然身体検査(健康診断)も月子名義である。心電図も女性として受ける。水川と一緒に病院に来たから受付番号も連続している。
ということで心電図も同じ部屋の続き番号になった。水川沙耶が検査している間に服を脱ぎ、彼女が終わった所で検査室に入り(当然お互いの裸を見る)、そして豊かなバストにクリップを付けられ検査された。内科診察も医師に聴診器をバストに当てられ聴診される。ここも水川と連続になったので、お互いの裸を見ることになる。もうこのあたりは開き直るしかないが、しっかり女の身体であることを見られた。
「月ちゃん、勤務時間もレディス着てていいのに」
「いやあ、そういう訳にも・・・」
「新しい部署ではもう“鈴江月子”で登録してもらうようにするから、ちゃんと女の服で勤務してよ」
「え〜!?」
「だいたい男子トイレではナプキン捨てるのにも困るでしょ?」
「ええ、まあ」
ともかくもそれで診断書を作ってもらい、提出した。
これで1ヶ月程度以内にライセンスが送られてくるはずである。
水川が課長に電話で報告した。
「2人共お疲れ様。よく難関の試験に一発で合格したね」
「いえ、まだ合格しただけで多分たくさん練習しないとなかなかモノにならないでしょうけど」
「それは車の運転でもそうだけどね」
「それで異動については?」
「その件はお正月休みに説明するよ。ところでお正月休みが試験受けたので減ったよね」
「それはまあよくあることですが」
「この分休みを延長するから。本来お正月に5日休めるはずが出てもらったから。休みは6,10,11,12,13 と5日間休みにして、土日のあと16日からの勤務にしよう」
「はい、分かりました」
「異動については16日に説明する」
「はい」
電話を切ってから水川が言う。
「ということで私たちは15日まで休み。勤務は16日から。その16日に異動通告らしいよ」
「どこ行かされるんでしょうね」
s「新規事業への投入っぽいけど、過労死したくないね」
t「同感です」
s「月子ちゃん結婚退職するなら今の内だよ」
t「結婚してます!」
s「まあそうだったね」
t「多分ドローンを使った薬の配送の仕事なんでしょうね」
s「どこか山奥か離島がたくさんある所か」
t「ああ、ドローンを使う意味のある所ってそういう所ですかね」
s「普通は車で持ってった方が楽だからね」
確かにそんな気がする。敢えてドローンを使うというこは、少量をアクセスの悪い所へ運びたい場合だ。バッテリー型ではなく、エンジンやGPSを積んでいるタイプかも。目視外飛行であるし、住宅地の上を飛ぶ可能性もある。一種ライセンスが必要な事案だ。
s「有人離島が多いといえば、長崎・沖縄・愛媛・鹿児島・東京(*13)」
t「でも寒くないですよ」
s「寒くて離島があるというと宮城か北海道」
t「山奥かもしれませんね」
s「秋田か岩手か青森か北海道か」
t「除雪車使うんでしょ?」
s「除雪車で道を啓開しながら拠点に辿り付き、そこからドローンで更に山奥の集落へ」
t「なんか凄い仕事場だ」
s「あまり凍死したくないね」
t「ヘリコプターが欲しいですね」
s「次はヘリコプター免許取ってくれと言われたりして」
t「それ1年掛かる気が」
s「グリーンランドとかでないことを祈るけどね」
t「え〜〜!?」
s「だってグリーンランドは寒い上に北部には凄い島が密集した多島海がある。実際あそこはヘリコプターがメインの交通手段なんだよ」
t「あはは」
s「あるいは南のケルゲレン諸島とか。ここも凄い多島海」
t「どこにあるんですか〜?」
s「南極の近くだけどね」
t「勘弁してください」
s「寒くなければパラオとかも多島海がある」
t「海外なんですか〜?」
s「うちの会社はあまり海外には展開してないから、大丈夫とは思うけどね」
t「国内がいいなあ。この際北海道でもいいから」
s「北海道でも歯舞(はぼまい)諸島だったりして」
t「え〜〜!?」
(*13) 少し古いが1998年時点での有人離島数ランキング
沖縄県のホームページ
長崎県 59
沖縄県 40
愛媛県 35
鹿児島県 27
山口県 22
香川県 22
広島県 18
岡山県 16
東京都 13
宮城県 9
伊豆諸島・小笠原のある東京が意外に少ない(多分、八丈島・伊豆大島・新島・三宅島・神津島・式根島・御蔵島・利島・青ヶ島・父島・母島・硫黄島・南鳥島)。
島根も4島しかない(多分隠岐4島だけ)。
北海道の6は、利尻島・礼文島・奥尻島・ 焼尻島・天売島・厚岸小島か。(大黒島と海驢島は無人島化した)
宮城県の9は牡鹿(おじか)諸島の5島(金華山・網地島・田代島・出島(いずしま)・江島(えのしま))、浦戸諸島の4島(桂島・野々島・寒風沢島(さぶさわじま)・朴島(ほうじま))、および宮戸島、気仙沼大島、で11島ありますね。あれ〜?
彪志は、マックを買って車の中で食べた。健康診断のため朝御飯を食べなかったのでベーコンレタスバーガーとフィレオフィッシュを食べた。そのあと伏木へのお土産と浦和の家の人へのお土産を買って16時頃、浦和の自宅に戻った。
「へー。ドローンのライセンス取ったんだ?凄いね」
と千里さんが言う。
各々の千里さんはみんな忙しそうなのだが、それでも大抵どれかの千里さんが1人だけリビングに居る。たぶんお互いにうまく調整しているのだろう。
「実際に使う前に忘れてしまいそうですけど」
「だったら適当なドローンを貸してあげるよ。伏木に行っている間に少し練習しなよ」
「すみませーん」
「それで無人偵察機にする?無人戦闘機?無人爆撃機?」
「あのぉ。一般的な、物を運ぶためのクァッドコプターで」
「そうだね。爆弾とか投下してたら叱られるし」
叱られるという問題か?
「クアッドコプターは播磨工務店や播磨林業でも使ってるんだよ。山奥で採取した竹とか運ぶのに、ヘリを往復させるより楽だし」
「なるほどー」
「それの余ってるの貸してあげるよ」
「助かります」
「でもそんな資格まで取らせたというのは、やはり転勤?」
「それなんですけど、転勤は確実ですが、行き先はお正月休み明けの16日に言われるみたいです」
「へー。どこになるんだろうね」
どうも千里さんは行き先を知ってるみたいだなと思った。だからバイクの免許を取るように言ったのだろう。でも訊いても何も言わないだろう。
それで正月休みで15日まで伏木に行ってくることにする。
まずは着替え等を用意した。
滞在日数が6-15と10日間になるが、向こうで洗濯してらえるし、向こうに置いている下着もあるから3日分+1日程度用意することにする。
ショーツ4枚、念のため生理用ショーツも1枚。キャミソール4枚、ブラジャー4枚。それにTシャツ4枚、トレーナーは2枚。靴下4足、念のためタイツ2足。
ジーンズのパンツ2本、念のためウールのロングスカート1枚。これに16日の朝直接会社に行けるように男性用スーツとブラウス・ネクタイ。彪志(月子)はバストがあるので、男性用ワイシャツが入らない、それで10月以来ブラウスを常用している。
一応15日の夕方までに浦和に帰って来るつもりではあるが、予定がくるって直接会社に行くことになるかもしれないので用意しておく。どうせ車に積んでおけばいいし。このあたりが車で移動する時の気楽さだ。
レディススーツは・・・・考えてみたが、それでどこかに出るようなことは考えられないので持っていかないことにした。
これらを車に積み込み、健康診断の帰りがけに買っておいたお土産の“虎屋の羊羹”を持つ。子供たちは冬休みの間全員で千葉の季里子さんの家に行っているので貴司さん・千里さんだけだが(桃香さんは寝ている)、一緒に夕食を取ったあと、夜中の十二時すぎ(1/6 0時過ぎ)に自分の車(フリードスパイク)で浦和を出る。
裏フリースのズボンを穿いていたのだが千里さんが
「運転中はスカートの方が便利だよ」
と言って、裏地付きのスカートをズボンの上に穿かされた。まあ誰かに見られるわけでもないからいいか(スカート姿を水川さんに曝してるけど:裸も曝してるけど!)
浦和所沢バイパスを走って所沢ICから関越に乗る。藤岡JCTを上信越道に分岐し甘楽PA(かんらPA)でトイレ休憩をした。トイレ(むろん女子トイレ)に行ってきてから車に戻り少し仮眠する。
1時間半くらい寝るつもりで3時半にアラームを掛けて眠った。
すると夢の中?に先月の23-26日の夢に出て来た白衣の女性が出てくる。
「じゃ月子ちゃん、採卵しようね」
と女性は言った。
さいらん??何のことだろう?と思う。新西蘭(*14)??
「麻酔打つから、あまり痛くないと思うから」
麻酔打つならいいかと思った。
それで手術台のような所に寝てじっとしている。
(*14) 新西蘭はニュージーランドのこと。またニュージーランド産の真麻蘭(まおらん)のことも言う。真麻蘭は“ニュー西蘭(さいらん)”とか“ニュー才蘭(さいらん)”、またニュージーランド麻/ニュージーランド・ヘンプともいう。古くは紙やロープの材料としてたくさん栽培されていたが近年では繊維産業の衰退で放置されている畑が多いという。
かなり長い時間待った。
「はい。終わりましたよ。元気な卵子が左右の卵巣から合計6個も取れたよ。これできっとママになれるよ」
と白衣の女性は言った。
(卵子は1個2個で数える。精子はミリ・リットルで測られる!)
卵子?あ。“採卵”だったのか。ってぼく、やはりママになるの〜?
「でも時間取らせてしまったね。車は適当な所まで進めておくね」
「ありがとうございます」
そう返事したところで目が覚めた。
身体を起こすとベッドではなく車の後部座席で寝ている。スマホを見るともう5時である。わぁ寝過ごしたぁと思う。これなら青葉んちに着くのはお昼くらいかなあ、などと思いながらもトイレに行ってこようと思う。
車を出る。
え!?
様子が違うのである。ここは甘楽PA(かんらPA)ではない。どこか広いサービスエリアである。取り敢えずトイレに行くが、個室がたくさんある。適当な個室に入って解放する。おしっこが出て行くのを放置したまま、夢のことについて考えた。しかし考えても仕方ない気がした。でも自分がママになるのなら、パパは誰??青葉にはちんちんなんて無いし。誰か他の男性の子供?それ嫌だなあ。青葉以外とセックスしたくなーい。
トイレを出てから商業施設に行ってみて、ここが有磯海(ありそ・うみ)SAであることを認識する。嘘〜!?なんでこんな場所に居るの?甘楽(かんら)PAから300kmくらい来てない?
(甘楽PAから有磯海SAまでは282.5km)
そういえば女性は「車は適当な所まで進めておくね」と言っていた。それでここまで来たのだろうか。
取り敢えず朝御飯を食べることにする。SAのまだ閑散としているフードコートでカツカレーを食べ、車に戻ると出発した。呉羽PAでトイレ休憩し、ここであの付近をよく拭いてから疑似ペニスを装着した。伏木にいる間はこれを付けておかなくちゃ。偽物だということは、いづれバレると思うけど、その時はその時かな。
ペニスを付けたあと着る下着に一瞬迷ったが、今更なので普通に女物の下着を着けた。それで普通にジーンズのスリムパンツ、トレーナーにフリースジャケットを着て運転席に戻る。しかし髭を剃らなくていいのは楽だという気もした。
車は小矢部砺波JCTを分岐して能越道に入る。JCTのすぐ先にある小矢部東本線料金所で高速料金をETC精算する。そのまま能越道(無料区間)を走り、高岡北ICで降りる。ランプを降りた所の信号を左に行く。途中で細かい道に入り、青葉の家に到着した。(1/6) 8時半頃だった。
駐車場に入り、突っ込んで駐める。ああ。もう自分は青葉に突っ込むことが出来なくなっちゃったよなあ、などと変なことを考える。
(駐車場からセックスを連想するとか嫌らしいわね!)
車を降りて着替えとお土産を持って玄関に行く。ピンポンを鳴らす前にドアが開いて青葉が抱き付いてくる。そのままキス。青葉のお腹を圧迫しないように身体を引き気味にしてキスした。ちんちんを揉まれるので,お返しにおっぱいを揉む。
「だいぶ大きくなったね」
「だいぶ大きくなるね」
(この疑似ペニスはAIか搭載されており、揉まれたりして刺激を受けると勃起する)
それで中に入り、居間の椅子に座る、
「お疲れ様」
と朋子がねぎらってくれる。
「これお土産です」
と言って“虎屋の羊羹”を出す。
「ありがとう。ここの羊羹(ようかん)、ほんと美味しいよね」
と言って、お茶を入れる。それで羊羹を食べていたら青葉が言う。
「そうだ。播磨工務店の徳部(九重の仮名)さんが昨日、なんか大きな荷物持ってきたけど。家に入らないし重たいから結局車ごと置いてってくれた」
「昨日?」
それで庭に出て2tトラックの荷室を見る。巨大なヘクサコプターが収まっている。
「昨日の午後5時頃、千里さんにクワッドコプターを借りる話をしてたのに」
「徳部さんが来たのは6時頃だったよ。きっと播磨林業の輪島支店から持って来たんだろうね」
「借りる約束したのはクワッドコプターだったんだけど」
「これは6枚羽根だからヘクサコプターだね。もっともちー姉は羽根がいくつもついてるのは全部クワッドコプターと思っている可能性がある」
「可能性あるね!」
「そもそもちー姉は言葉の言い間違いが多い」
「奨学金を逮捕(貸与)するとか、アナウンサーが降参(交替)するとか」
「スケートでドリブル・アクセス(トリプル・アクセル)を飛んだとか、契約をクリーニング・オフ(クーリング・オフ)するとか」
「貴司さんが言ってた。『そのダンコン切って』と言われてギクッとしたけど、目の前に大根があったって」
「ちー姉の周囲の人はみんな慣れてる」
「でもこの手の言葉にはギリシャ語系とラテン語系があるよね」
「そうそう。ギリシャ語系が、モノ・ジ・トリ・テトラ・ペンタ・ヘクサ・ヘプタ・オクタ・ノナ・デカ。半分はヘミ。ラテン語系が、ウナ英語ではユニ、ビ英語ではバイ、トリ・クアトロ・クインク・セクス・セプテム・オクト・ノベム・デセム・半分はセミ」
さすが言葉については詳しい。
「何倍という言い方がラテン語系だね。トリプル・クアドラプル・クイントゥプル(*15)」
「化学(ばけがく)では割りとギリシャ語系使うね。二酸化炭素 CO
2 は carbon dioxide, 一酸化炭素 CO は carbon monoxide、スプレーに使われるジメチルエーテル(dimethyl ether "DME" (CH
3)
2O )、保存料とかに使われるエチレンジアミン四酢酸 ethylene di-amine tetra acetic acid (HOOCCH
2)
2 NCH
2=CH
2N (CH
2COOH)
2、ついでにとても危険な物質、一酸化二水素 Dihydrogen Monoxide (*16) とか」
「あはは」
「勢い余って“ジ亜塩素酸”(*17)」
「それマジで勘違いしている人ある」
(*15) ○倍の言い方
2 ダブル(double)
3 トリプル(triple)
4 クアドゥルプル(quadruple)
5 クイントゥプル(quintuple)
6 セクストゥプル(sextuple)
7 セプトゥプル(septuple)
8 オクトゥプル(octuple)
9 ノヌプル(nonuple)
10 デクプル(decuple)
100 セントゥプル(centuple)
(*16) 一酸化二水素 DHMO(Dihydrogen Monoxide) とは次のような性質を持つ化学物質である。
・酸性雨の主成分である。
・土地の侵食を引き起こす。
・多くの金属の腐食を進行させ、錆付かせる。
・電気事故の原因となり、自動車のブレーキの効果を低下させる。
・工業用の溶媒・冷媒として用いられる。
・防火剤・消火剤として用いられる。
・農薬の散布に用いられる。出荷されるも農産物にはDHMOが残留している。
・ファーストフードの食品に添加されている。
・毎年海辺や川でこれによる死亡事故が起きている。
・マウスにDHMOのみを与え続けたら死亡した。
DHNOの化学式はH
2O、つまり“水”である!
この話はいわゆる似非科学(えせ・かがく)の類いのうたい文句が如何にいいかげんであるかの例として、1997年にアメリカの中学生が発案したものである。
(*17) 次亜塩素酸 (HClO) は亜塩素酸 (HClO
2) より酸化数が1つ小さいから“次”が付いたものである。ジ亜塩素酸ではなく次亜塩素酸。ちなみに亜塩素酸 (HClO
2) は塩素酸 (HClO
3) より1つ酸化数が小さいから“亜”が付いたものである!
御御御汁(おみおつけ)とか部長代理補佐みたいな命名である。
英語では塩素酸は chloric acid、亜塩素酸は chlorous acid、次亜塩素酸は hypochlorous acid.
「しかしこれ重たそう」
「人の手では運べないから結局このトラックごと借りるしかないね。徳部さんがバッテリーはフル充電してますと言ってた」
「それは助かる」
取り敢えず操作説明書を読む!
操作説明書はUSBメモリに収められているのでパソコンに取り込んで読んだ。
「あんな大きな機体はライセンスか何か必要なのでは」
と朋子が言う。
「それでライセンスを取ったんですが、実際に使うまでに忘れそうと言ったら、千里さんが貸してくれたんですよ。もっとも私は20-30cmの機体を想像していたのですが」
「ちー姉は程度を知らないからなあ」
「桃香がカップ麺ひとつ買ってきてと言ったら、段ボール箱で1箱買ってきたとか」
「食べちゃうけどね」
「でも桃香もあの子買物とかしないから、千里ちゃんが切干し大根を頼んだのが“切干し”が分からなくて青首大根買ってきたとか」
「いいコンビだという気がする」
取り敢えず昨日の15時頃まで(初海との打合せで)千里姉がここに居たことは言わない方がいいなと青葉は思った。
結局操作説明書を読むのに1時間かかる。特に自動操縦の設定がいろいろあるようである。
そして最後に
「白い段ボールに入っているのが操作練習用の小型機体だから、それで練習すると良い。またシミュレーション・ソフトがあるから。最初はそれで練習するとよい」
などと徳部さんの手書き文字?で書いてある。
「白い段ボール?」
それでトラックに再度行ってみると荷室の隅に白い段ボール箱がある。開けてみると10cmサイズの小さなドローンが収められている。実機と同じ形をしている。
「可愛い!」
「これなら家の中でも飛ばせそう」
シミュレーションソフトは操作説明書と同じUSBメモリの中に入っていた。プロポ(操作卓)をパソコンのUSBと接続し、ソフトを起動する。
起動すると徳部と清川の似顔絵が表示されたのでギョッとした。
「これ播磨工務店で開発したソフトなんだろうね」
「遊んでるなあ」
それでFPV用(*18) のゴーグルを着けてまず離陸から始めるが、いきなり墜落する!墜落の衝撃音までリアルっぽい(*19). 寿命が縮む思いである。母がびっくりして飛んできて
「何かあった?」
と尋ねた。
「シミュレーターでやって正解だったね」
「これしばらくシミュレーターで練習するよ。充分慣れてからその小型機で練習して、それから実機を使う」
「それが良さそうね」
(*18) FPV = First Person Vision (一人称視点)。ドローンから見た映像をモニターやゴーグルに表示させるシステム。ラジコンのように実機を目で見ながら操作するのではなく、遠くまで飛ばす“目視外飛行”(BVLOS - beyond visual line of sight) ではこの技術を使ってドローン側の視野を見ながら飛行させるのが一般的である。しばしばゴーグルを使って飛ばしている。ラジコン方式の10倍難しいと言われ、高度の技術が必要である。実際の飛行には100g未満の機体を除いて国土交通省の許可を得るかライセンスの取得が必要。
(*19) 九重の趣味。自分が墜落させて500万円の機体を壊した時の録音を使っている!
「だけどこんなののライセンス取らせるって、もしかして転勤?」
「それなんだけど、転勤は確実と思うんだけど、行き先についてはお正月休み明けに通告すると言われている」
「まあサラリーマンに転勤は付きものだけどねぇ」
「ぼくがどこに転勤になっても、青葉はここ伏木に居て」
「悪いけどそうさせてもらう」
「ドローンライセンスの他にも大型自動車と大型特殊自動車の免許も取った。あと千里さんの勧めで自動二輪の免許も」
「へー。つまり、ちー姉は彪志の転勤先を知ってるんだ」
「そうみたいだけど、聞いても絶対言わないだろうからなあ」
「まあそういう人だね。基本的に神様みたいに俯瞰しているだけ。でも助言は、してくれる。危なかったら即介入して助けてくれる」
「うん、そんな感じ。傘持ってけとか」
「ちー姉の傘勧告には助けられる。でもやはりドローンで薬の配送をするとか?」
「製薬会社の社員にドローンのライセンスを取らせるといったら、やはりそれを考えるよな」
「どこか凄い山の中なんじゃないの?そこに至る道路が存在しないとか」
「そんな所には人が居ないのでは」
「熊さんや鹿さんが受け取ったりして。でもちー姉がバイクの免許取らせたというのは、四輪では到達できない山奥だとか」
「そんな村あるんだっけ?」
「出勤するのにドローンが必要とか」
「ドローンに乗っていくの?」
「そうそう」
彪志は自分がクワッドコプターの荷台に乗っていくところを想像した。そしてその機体を自分がゴーグルとプロポで操作してたりして!?
「もしかしたら離島かも知れないと、一緒に講習受けた人は言ってた」
「ああ。離島なら有意義かも。ヘリコプター飛ばしたらお金掛かるもん」
「ドローンならヘリコプターほどお金が掛からないし、狭い所にも着地できるからね」
1月6日(金).
13:44と23:53 にS市を震源とし、最大震度4および3の地震があった。人形美術館はどちらの地震でも固定軸が外れた。昼間の地震はお客さんが入っている最中だったので、誘導してお客さんを外に退避させた。そのあと館内を点検してから再開した。マリアンは座り込み、スイスイ1号も自動停止していた。
夜中の地震では30分くらいしてから昇太と2人で見に行ったが特に被害は無いようだった。スイスイ1号・マリアンともに止まっていたので、歩行経路に障害物がないことを確認して再スタートさせた。
レストランのほうは、昼間の地震ではお客さんにテーブルの下に入るよう声を掛けた。例によって料理がこぼれたりしたものは無かった。コップがいくつか垂れたが、テーブルの下まではこぼれなかった。
揺れが収まってから
「お代は要りませんから気をつけてお帰りください」
と案内したが、全員が完食してから帰り、お代も押しつけていった。料理がまだ来てなかった人も「食べてから帰りたい」というので作って提供した。S市の人たちはもう地震慣れしている感じである。
夜中はもちろんレストランも閉店しているので、美術館を見た後そちらに回ったが特に異常は無かった。
1月7日(土).
12月24日に信濃町ガールズに加入してから休み無しで稼働していた氷川チャイムはこの日も他の子たちと一緒にテレビ局を既に3軒まわっていた。
「信濃町ガールズって凄い忙しいんだね」
「いやさすがにこんなに忙しいのは初めてだよ」
と朝から一緒に回っている斎藤恵梨香ちゃんが言う。
「百道十足事件で大量にタレントさんが捕まって、代役で出ていった信濃町ガールズが凄く使い手があったというので、どんどん『また頼む』と言われている状況だからね」
「特に一昨年(2021年)秋以降に入った子たちはトークのうまい子が多くて生番組にも強いのよね」
と知多めぐみ(2021“夏”加入)。
その時、水巻イビザが気付いた。
「チャイムちゃん調子悪い?お腹押さえてる」
「あ、いえ。お腹壊したとかではないと思うんですけど、なんか昨日あたりからお腹が痛い気がして」
「どの辺が痛いの?」
「この辺です」
数人が顔を見合わせる。
「生理が近いのでは?」
「え〜〜!?」
「だってその辺りが痛いと言えばねぇ」
「まだ生理の予定じゃなかった?」
「え、はい」
なんで私に生理とか来るの〜?
「きっと環境が変わったからタイミングがずれたんだよ」
「よくあることよくあること」
「ナプキン持ってる?」
「いいえ」
「だったらプレゼント〜」
「トイレ行って着けてくればいいよ。まだ15分くらい大丈夫だから」
「予定無くても、いつも持ってた方がいいよ」
「はい、分かりました」
チャイムは「なぜ〜」と思いながらもトイレに行ってもらったナプキンをショーツに取り付けてきた。
1月8日(日).
千里がMazda CX-5で青葉邸にやってきた(つまりこの千里は姫路に住んでいる4番ロビンである)。
千里が見るとちょうど月子(彪志)がサンルームで小型のドローンを飛ばしていた。
「へー。月子ちゃん、ドローンに関心あるの?」
えーっと。
「会社に言われてドローンのライセンスを取ったのですが、実際に使うまでに忘れてしまいそうと言ったら“千里さんが”貸してくれたので練習してるんですが」
「へー。あっよく見たらこれ播磨林業で作ったヘクサコプターの練習用ミニ機体じゃん。きっとヴィクトリアあたりが私を装って徳部か清川を動かしたな」
「徳部さんが持って来てくれたよ。3mくらいある巨大な機体と一緒に」
と青葉が言う。
「実機まで持って来たんだ!」
と千里。
「借りてまずかったですか?」
と月子(彪志)が訊く。
「いや、月子ちゃんなら全然問題無い。使っていいよ。しかし何もこんな難しい機体でなくても。これ制御しにくいでしょ?」
「スティックをちょっと動かしただけで大きく動くんですよ。それでシミュレーターでやったらいきなり墜落させました」
「うん。普通そうなる。この子けっこう癖があるから、これを飛ばせたら国産のドローンならたいてい飛ばせるよ」
「そうなんですか!やはりこれ難しいんだ」
「良かったじゃん。これで練習してたらきっと仕事で使う機体も簡単に飛ばせる」
と青葉は言った。
「でも国産と外国産で何か違うの?」
と青葉が訊く。
「左スティックと右スティックが逆」
と月子(彪志)・千里が言った。
「なんでそんなのが逆なの〜?」
「理由は知らないけど外国式に設定できる国産ドローンもある」
「このプロポもどちらにも設定できますが、今後は多分海外で多いモード2が主流になるのではと思ってモード2に設定しています」
「うん。それでいいと思う」
「そうだ。月子ちゃんさあ。こないだイオンで買った安物のスーツ着てたでしょ」
「あ、はい」
「あれあんまり酷いから、もう少しいいの買ってあげるよ」
「えーっとそれで叱られたとか言って“千里さんが”青山のレディススーツを買って下さいましたが」
「青山〜?会社に入りたての新入社員ならそれでもいいけど、キャリアウーマンの女性係長さんが青山なんて着てたらダメだよ。青葉、真珠ちゃんか明恵ちゃんを呼んで。彼女たちに見立ててもらおう」
「分かった」
それで青葉が連絡すると、明恵と真珠が一緒に真珠のスペーシアでやってきた。
「マコちゃん、アキちゃん、月子ちゃんに係長さんらしい、ちゃんとしたレディススーツを見立ててやってもらえない?」
「いいですよ。予算はどのくらいの?」
「上場企業の係長さんだからねぇ」
「あのぉ、私まだ主任なんですけど」
「すぐ係長になるよ」
「へー!」
「女性係長としてテレビにも映るから、青山・AOKIは無いよね」
「ああ、それはあり得ません」
(済みません。筆者は、しまむらのレディススーツです)
「ぼく、テレビにレディススーツで映るの〜〜?」
そんなことしたら母が何と言うか。
「予算は20万くらいかな。それ色違いで2着。取り敢えず50万渡しておくね」
と言って千里さんはバッグの中からさっと札束をわしづかみにして(*20)真珠に渡した。
「ひぇー!?」
自分の男性用スーツだって西武で7万で買ったのに。
それで月子は明恵と真珠に連行されて行った。
(*20) 千里は札束をこういう取り方すると正確である。1枚ずつ数えると間違う。
青葉は(答えないだろうけど念のため)訊いてみた。
「ちー姉、月子ちゃんの転勤先知ってるの?」
「知ってる千里も居るみたいけど、私は知らない。でも転勤して係長待遇に昇進するはず」
「へー」
“係長待遇”ということは名称は違うのだろう。何かのプロジェクト的なものみたいだから、何とか研究室とか何とかデベロプメント・チームとか。Development Department for Drug Delivery by Drone "DDDDD", or "5D" とか?
「あと、この際転勤に乗じて性転換手術を受けて女性になれば女性係長になれる」
「私はそれでも全然構わない」
それ、ちー姉が月子(彪志)を性転換しちゃうんじゃないよね?
「だったらいいね。2人目の子供は彼女に産んでもらうといいよ」
「楽でいいね」
1月8日(日) 夕方、
「うっそー!?なんで私に生理が来るの〜?」
真っ赤に染まったナプキンを見て思わず氷川チャイムは叫びたくなった。
(初潮おめでとう!)
でも生理ってどこから出て来てるんだっけ??おしっこの出てくる所??
(もう少しちゃんと女の子の仕組みを勉強しようか?)
1月8-9日(日・祝).
10日から新学期が始まるところが多いので、冬休みの間東京に出て来てくれていたトラフィックのメンバーを1月8日夕方から9日に掛けて地元に送り返した。
1/8 夕方
Black 郷愁→能登 古屋きんつば・あんころ、入瀬コルネ、紺青セイラの弟2人
その後は真珠が氷見市のコルネを、明恵が中能登町のきんつば・あんころを、吉田邦生が射水市のセイラの弟2人を自宅まで送って行った。
射水市に行く途中で氷見市に寄ることは可能だが、というか完全に通り道だが、車を分けたのは、女性(入瀬コルネ)の家を男性(セイラの弟たち)に見せないためである。
1/9 午前中
gold 郷愁→神戸 竹中花絵・清水せぴあ
竹中花絵が神戸空港に自分の車を駐めていたのでそれで清水せぴあを自宅まで送って行ってあげてから帰宅した。せぴあはこの半月ほどずっと女の子の服で過ごして、テレビ局にも女の子の服で出掛けて、完全に女装生活に填まってしまったようである。(もう性転換確定?)
1/9 午前中
blue:郷愁→藺牟田 広瀬のぞみ・月城としみ
藺牟田飛行場から先は、としみの母が2人を乗せたまま都城に行って広瀬のぞみを降ろし、のぞみの母にも挨拶して、それから、としみと一緒に薩摩川内市の実家に運転して戻った。
1/9午後
水巻アバサは1月9日の午後、SCCの車で水戸の実家に帰宅した。
なお、女子寮に一時的に入っていてもらった男子寮の住人や外部に住んでいる人も1/8-9の間に退去した。
1月8-9日(日・祝).
第70回富山県高等学校新人バケットボール選手権大会の1〜3回戦が行われた。女子の参加校は29校で、8日(日)に1回戦1試合と2回戦12試合が行われ、9日(祝)に3回戦8試合が行われた。H南高校はシードされているので3回戦からである。
3年生の抜けた1〜2年生だけのチームだが、3回戦は軽く勝って準々決勝に進出した。(メンバー表は後述)。この日は藤永弘絵も20分近く出してもらえた。日和は冬休み中の(自主)練習は欠席していたが昨日家に戻ったので今日は試合に出て来て、マネージャー登録してもらい、雑用係で走り回っていた。
1月11日(水)、金沢市内に住む古庄優子は女の赤ちゃんを出産した。歌声と名付けた。この子は、父親の夏樹にとって、自分の遺伝子を継ぐ子供の中で唯一、社会的に自分の子供となる子である。
(↑の図は子供から見て左がが父親で右側が母親)
来紗と伊鈴は単に精子を貸しただけであり、2人の社会的父親は桃香である。また美奈は自分が卵子と子宮を貸しただけで代理母として産んだ子である。
奏音は社会的には夏樹の子供だが、遺伝子的には信次の子供である。今回、夏樹が保存していた最後の精子を使って優子が妊娠した時、夏樹は「自分は決して奏音とこの子供を差別しない。等しく愛する」と宣言している。
夏樹が男性能力を放棄する前に保存していた精子はもう使い切ったので夏樹と優子の間にこれ以上子供ができることはない。
「私優子ちゃんの精子を保存してるけど。これをモニカちゃん(夏樹のこと)に人工受精すればまだ2人の子供が作れる」
と千里。
「そういう面倒なことはやめてくれ」
と桃香。
「桃香の精子も持ってるけど。だからそれを季里子ちゃんに人工授精して、桃香と季里子ちゃんの子供を作れるよ」
「・・・・・ねぇ、それもうしばらく持っててくれる?」
「いいよー。毎月送金する養育費がまた増えるけどね」
「そちらはすまん」
さて、月子(彪志)のほうだが、真珠たちはポールスチュアートのジャケットと膝丈スカート(セットアップ)、ネイビーとベージュを選んであげた。価格は2着で税込32万円ほどだった。
「オーダースーツは如何ですかとも言われたけど今すぐ欲しいからということでこれ買ってきました」
「ああ、オーダーは青葉に任せた」
「じゃ落ち着いてからオーダーしよう」
「あはは」
お正月休みの期間、彪志はかなりドローンの練習をした。シミュレーターで2日(6-7)くらいやった後、小型のドローンで家の中を飛ばすのを5日(8-12)やった。13日になってから、実機を海岸に持ち出して飛ばした。羽根を広げると3mほどある巨大なドローンが離陸するとかなりの迫力である。
山奥から竹を持ち出すのに使っているという話だったが、そんな重たそうな物を乗せても充分飛ぶだろうと思った。この日は万一墜落しても人に被害が出ないよう、ほとんど海の上で飛ばしたが、近くに居た人たちから歓声があがっていた。ただ海上で飛ばすのは気流が難しくかなり気を使った。
これを14日もやったが2日間もこういう巨大ドローンを飛ばすと、かなりの自信が付いた。
千里さんに電話して(どの千里さんか分からないけど話は通じた)、小型のドローンのほうとプロポ(操作卓)、FPVゴーグルをしばらく借りて、浦和の家でも練習させてもらうことにした。
1月14-15日(土日).
大学入学共通テストが行われ、こりを初海の妹の双葉、S市の遙佳、氷見市の舞花と愛佳などが受験した。4人ともすぐに自己採点し、最終的に受験する大学を決める。
竹本双葉は、バンザイシステムに自分の成績を入れてみると国公立は鳥取環境大学のみがB判定(ボーダーライン)、富山県立大がC判定(努力が必要)。他はD以下である。この段階に来てCというのは奇蹟が起きない限り無理。一方、姉が通ったG大学はA判定。ということで素直にここに願書を出すことにした。G大の場合共通テストの成績のみで判定されるので個別試験を受ける必要は無い。(共通テストが酷すぎたり風邪などで受けられなかった人は個別入試で再挑戦可能)
谷口愛佳は、国公立は全滅だが、金沢市の私立でG大学・H大学・S大学、また富山市のi大学などがAだった。
「模試より上がってる。あんた頑張ったね」
と母に褒められた。それでこの中で学費の安いG大学を受けることにした。ここなら、学費減免を申請して奨学金を受けると何とかなりそうなのである。(4年間良い成績を維持する必要がある)
そしてこの大学には女子バスケットボール部があるので、ここで4年間バスケットをしたいと思っている。
川口遙佳は、第1志望の金沢美大がC判定、第2志望の富大芸文がA判定、金沢のG大学もA判定である。
「国立の富山大学がAならもう金沢の私立は受ける必要無いのでは?」
と母が言う。
「私もそんな気がする。ここに賭ける」
ということで、遙佳は国立の富山大学・芸術文化学部のみを受けることにして毎日デッサンの練習をしていくことにした。このあと毎日母の車に乗ってS市近辺の色々な風景を写生する。
高田舞花は第1志望の富大芸文がB判定、第2志望の富山県立大学がA判定、第3志望の金沢のG大学がA判定である。
「あんたかなり頑張ったね」
と、こちらも母から褒められた。
「富大芸文は受けようと思う。でも実技で凄い子が来てた場合は落とされる可能性あるしなあ」
などと悩んでいる。
「だったら滑り止めに県立大を受けなさいよ」
と母が言っていたのだが、ここでとんでもない問題が発覚する。
妹(弟?)の晃が言った。
「姉ちゃん、県立大と芸文の入試日が同じ日じゃん」
「え〜〜〜!?」
ということで富山大芸術文化学部と富山県立大学はどちらか片方しか受けられないことが判明した。(もっと早く気付くべき)
「だったら芸文と念のため滑り止めにG大学かなあ」
「それ学費の払い込み締め切りは?」
「G大学の手続き締切は2/19。富大の合格発表は3/8」
「何とかならないの〜?」
「すぐに願書出さずに2期でG大学に願書出せば手続き締切りは3/13」
「あ、それがいいわ。あんた少し遅れて願書出しなさい」
「でも1期より2期は合格水準があがるんだよー」
「だから芸文の入試(実技)頑張りなさい」
「ううう。凄い人がいたら・・・」
「凄い人は美大を受けてるって」
ということで舞花は結局富大芸文のみに願書を出すことになった。これで舞花が大学でもバスケットを続けられる可能性はほぼ無くなった。
「どっちみち大学でのクラブ活動なんて無茶苦茶お金が掛かるし、芸術コースはかなり忙しいだろうから、きっとバスケットとかする暇無い」
「うーん・・・・・」
(愛佳もお金無いのでは?)
舞花の場合も試験まで毎日母の車であちこちに出掛け、様々な風景の写生をすることになった。
1月15日(日).
彪志は今日でお正月休みが終わるので浦和に戻ることにする。それでお昼頃出て、いつものように北陸道・上信越道・関越道と走って帰ろうと思った。行程は500km(内高岡北IC-所沢IC 440km)休憩を2ヶ所(多分有磯海と上里)で1時間ずつ取ったとして7〜8時間だろう。お昼くらいに出れば夕方8時頃には浦和に帰れるはずだ。
それで出る準備をしていたら、青葉から
「初海ちゃんを送ってってくれない?」
と言われた。
「は?」
「初海ちゃんが§§ミュージックのカウンセラーになる話があってさ。詳しい説明を聞きに東京に行きたいんだよ。だから東京まで乗せてってあげて」
「えーっと浦和から先は?」
「彼女を五反野で降ろしてから赤羽に行くということで」
「会社に出るのは明日の朝なんだけど」
「だから今夜10時頃出ればいいよ。それに彼女も運転できるから、交替で運転していくと疲労も少ない」
「ちょっと待って。そもそも男女2人っきりで夜中に車に乗るというのは」
「ああそんなこと」
と言って青葉は笑った。
「第1に彪志は私の夫だから浮気などする訳ないし、そもそも彪志の性格として女性に嫌らしいことをすることはない」
「そりゃ信用されるのは嬉しいけど、竹本さんのお母さんがきっと変に思う」
「第2に彪志はほぼ女性だから同性の知人が同乗するだけで全く問題無い」
「ぼく女性なの〜?」
「月子ちゃんは女の子」
「うーん・・・」
「ちんちんはタックしとけばいいよ。私がしてあげようか」
「自分でしてくる!」
と言って彪志は車に行って車内でペニスを取り外してきた。
(取り外し可能なペニスって便利ね♪)
それで結局彪志はその日の夜出発することになった。午後はお風呂に入っておいた。運転直前に入浴すると居眠り運転の要因になるので、すぐ前には入らないようにしている。
初海は22日から大学の試験らしく、その前に行って来ようということで明日16日の面接になったらしい。一方、薬物事件の影響で、タレントが事件に関わっていない事務所は今月前半は多忙だったらしく、向こうも後半にしてくれということだったという。ちなみに土日は芸能事務所は忙しい。
初海は夕方バイクで青葉邸にやってきて、夕食も一緒に食べた。一息ついて、彪志も初海も仮眠してから22時頃出ることにする。朋子がおにぎりを作ってくれたので、それと缶コーヒー、クールミントガムを持って出発する。
その他初海は色々おやつを持っているようだし、車には非常食にカップ麺とか、カロリーメイト、サトウのごはんとレトルトカレー、暖めるだけで食べられるおでんとか、賞味期限の長いパンとかも積んでいる。紙の食器とか割り箸・ピクニック用のプラスチック・スプーンとかも多数ある。
今夜の服装だが、初海は青葉の家まで来る時はバイクスーツだったが、自分の部屋でお着替えして(真珠・明恵・初海は2階に部屋がある)、紺と白のボーダーのトレーナー・スカイブルーのウールのロングスカートと黒いウォームタイツ、グレイのフリースジャケットに青いロングのダウンコートである。面接用のビジネススーツ(23区)とブラウスはバッグに入れておく。
一方の“月子”はエンジ色のトレーナーにオレンジ色のウールのロングスカートと黒いウォームタイツ、ライトピンクのフリースジャケットに赤いロングのダウンコートである。それと千里さんが買ってくれた2着のレディススーツ(ボール・スチュアート)を持つ。
月子がスカートを穿くというのは青葉が要求した。スカートを穿くことで女性的な気分になり、初海も安心だし、月子としても気安い。また、道中“月子”で通し、彪志という名前は使用しない。また道中はずっと女声を使うことにした。
「で女同士ということで私のことはハッちゃんで」
「じゃ月ちゃんくらいで」
「運転しない側は寝てるということで」
「OKOK」
「だいたい1〜2時間おきに適当なPAかSAで休憩」
「できるだけPA使いましょう。SAはトイレまで遠かったりするし。寒いです」
「それはあるねー。食事とか給油とかするのでなければPAが使いやすいかも」
ということで最初は彪志が運転して出る。初海は後部座席で布団をかぶって寝ている。布団は月子用と初海用を別々に積んでいる。初海は“女同士だし”共用で構わないと言ったのだが、車を駐めて2人とも仮眠する場合も想定して2人分の毛布・布団を積んだ。
高岡北ICで能越道に乗り、小矢部砺波JCTで北陸道下り(*23) に進行し(*22) 新潟方面に進む。
(*22) 能登・氷見方面から東京方面に行く場合、小矢部砺波JCTまで行くのが遠回りになることもあり、国道8号を立体交差の鏡宮交差点(射水市)まで進み、そこから国道472号を南下して小杉ICから北陸道に乗る人が多い。時間的にはほとんど変わらないが、高速代が少し節約になる。また鏡宮交差点と小杉ICの間にあるイータウンで食料や衣類の調達など、旅のお買物も出来る。能登方面から来た人はわざわざ高岡北ICで高速をいったん降りて国道160号で国道8号まで行く。
しかし国道8号は混むことも多いのに対して能越道はたいてい閑散としている。更に月子(彪志)は先日小杉ICで降りた時に“藪入り”の迷路に入ってしまったこともあり、小杉ICを使わず小矢部砺波JCTから回り込むルートを使っている。
(*23) 北陸の重要交通ラインの上り・下りはひじょうに混乱している。
国道8号(新潟→京都)京都行きが下り
北陸自動車道(新潟→米原)新潟行きが下り
JR北陸本線(直江津→米原)米原→金沢が下り
北陸新幹線(東京→金沢)東京→金沢が下り
そういう訳で国道8号と北陸自動車道、JR北陸線と北陸新幹線は下りの向きが逆なのである。
だいたい北陸自動車道とJR北陸線は終点から起点に向かう側が下りという不思議なことになっている。
だからこれらの路線では他人が「上り」とか「下り」とか言っていても信用せず、どちらに向かうのかをちゃんと聞いたほうがいい。
なお能越自動車道は、自動車道としては“起点:砺波市(となみし)、終点:輪島市”となっているが、国道470号としては“起点:輪島市、終点:砺波市”となっており、自動車道としての上下と国道としての上下が逆になっている。
23時半頃、蓮台寺PAで休憩する。トイレに行くがむろん一緒に女子トイレに入る。
「夜中のトイレ使用ってひょっとして変な男が居たりしないかって一抹の不安があるんですが、2人だと安心です」
と初海が言うので、自分はその“変な男”ではないよな?と思うが、まあいいことにする。確かに夜は特に女性は怖いかもと月子も考えた。
初海が軽く体操をしている。それから車に乗るが今度は初海が運転席に就く。月子は後部座席で毛布と布団をかぶる。実はここから先は上信越道の毎晩濃霧が出る区間なので、そこを若い初海が運転するように、最初は月子が運転して出たのである。
名立谷浜(なだちたにはま)SAのそばを通過し、上越JCTから上信越道に分岐する。少し走ると濃霧になるが、ちょうど100mほど先を車が走っていたので、初海はその車のテールランプを目印に追随して走って行った。
「でも月ちゃんもここの濃霧地帯はもう慣れっこでしょ?」
と初海は話しかけてくる。眠気冷ましに少し話したいのだろう。ここのゾーンを走り抜ける時、居眠り運転は怖いから蓮台寺まではしっかり仮眠を取っていたようだし。
「はじめて濃霧の中を走った時は怖かったよ。前が全然見えないんだもん。前の車のテールランプだけが頼りで」
「そうそう。テールランプが見えてると安心ですよね」
「それからはできるだけ明るい内にここを通過するようにしてるんだけどね」
「それが安全ではありますね」
「まあいっそ長岡から回り込む手はあるけどね」
「でもあちらも関越トンネル付近が少し怖い」
「関越トンネル自体も少し怖いね」
「私は長岡経由より、いっそ東海北陸道・中央道を通る方が好きです」
「あ、ぼくも」
「意見が一致しましたね」
「長岡経由は道が単調で刺激が少ない」
「東海北陸道の方が楽しいですよね」
特にバイクはそうだろうなという気がする。
「東名も静岡付近が単調で眠くなりやすい」
「だから中央道のほうが楽しい」
「でも飛騨トンネルの前でトラックの後ろとかになると『あ〜ぁ』と思う」
「あれは諦めの境地ですね」
飛騨トンネルは10.7kmもあるのに片側1車線の対面通行で追越できない(道交法上禁止される)。遅い車の後になったらひたすら我慢してその後を追随していく以外無い。あれは一種悟りの境地である!
気の短いドライバーは飛騨トンネルを通ってはいけない。
飛騨トンネル及びその前後では事故も多い。トンネルをもう1本掘って4車線化をという声はあるが、現在のトンネルを掘るだけでも物凄い難工事だった場所であり(建設中の死亡事故ゼロだったのが奇跡的)、4車線化すべき交通量を大きく下回っているので、NEXCOも消極的な模様である。
「でも結局霊界探訪に関わり続けることになったのね」
「そうなんですよ。勝手に『霊界探訪・関東支部長』って名刺を作って渡されました」
「支部長は偉い」
「でも1人だけです。一応前々から協力関係にある『関東不思議探訪』の事務局に机と棚を用意してくれるそうです」
「ああ。谷崎潤子ちゃんの番組ね」
「今回も面接の後、谷崎潤子ちゃんと会ってくる予定です」
「まあ支部長頑張ろう。でも無給なんだって?」
「そうなんですよ。夕方からのお仕事なら昼間は稼働できるでしょ、とか言われて」
などと言っているが楽しそうである。
元々が高校までは他の女子からは少し浮いている子だったらしい。それが大学に入ってから、明恵となんか馬が合ったので、明恵が霊界探訪の編集部に誘い込まれた時、一緒に付いてきた。
実はまともに友人として付き合った女子は明恵が初めてだったらしい。一方で男にはもてて、中高時代に10人くらいの男と付き合い、セックスも5回くらい経験していた。しかし大学時代には例のバイクを借りてた男の子のみと交際して「自分が3年間も同じ男性との関係を維持できたこと」に驚いたという。
彼とは日常的にセックスしていたし、ひょっとして結婚することになるのかなという意識もしたが、「大学卒業するし、ぼくたちも関係を卒業しようか」と言われて別れたらしい。
そのあたりの話は初海が自ら語ったが、月子はあまりコメントせずに聞いていた。
「月さんは青葉さんと長いんでしょ?」
「そうだなあ。ぼくが高校1年、青葉が小学6年の時に知り合ったんだよ」
「へー、しました?」
「小学生としたら犯罪だよ!」
「あ、そうかもね」
「でもぼくの父がすぐ転勤になって、1年半会えなかった。だから最初にしたのはぼくが高校3年・青葉が中学2年の時かな」
「中学生にもなればセックスOKですよねー」
「そ、そうだよね」
この話をすると大抵、中学生とのセックスなんて犯罪だと言われるのだが、初海はどうも倫理基準が他の人とは違うようである。
「だって昔は初潮が来たらもうお嫁さんになってたんだもん」
「ほんとそうだね」
「初潮が来てから10年以上待ってから結婚するという今の時代がおかしいですよ」
「そうかも」
「でも女同士のセックスも気持ちいいよね」
と初海は言う。
「えーっと」
初海はどうも青葉と月子(彪志)は女同士の夫婦と思っているようである。彼女の話を色々聞いていると、どうも今青葉が妊娠中の子供は彪志が男性時代に保存しておいた精子で妊娠したものと思われているようだ(*24).
「高校時代に半年ほど女の子と付き合ったことあるんですよ」
「へー」
「3回セックスしたけど、男とのセックスじゃここまで気持ち良くなれないと思った」
えっとその3回ってさっき中高時代に5回セックスしたというのの数には入ってるんだろうか、別枠なのだろうか。
「まあ男と女では性感のカーブが違うからね」
「そうそう。女はゆっくり上がっていくけど男は急上昇する。でも自分だけ逝っちゃって女は放ったらかしという男が多いのよ」
「そういう男多いかもね。でもそういうセックスからは女の子が生まれやすい」
「ですねー。女が充分感じてから射精しないと男の子は生まれにくい」
「だけどそんな男に限って、うちの女房は女しか産まんとか言いがちかも」
「自分が下手な癖にねー」
(*24) 性転換前に保存しておいた精液でパートナーの女性に子供を産んでもらうというMTFさんはわりと多い。自らも性転換した性転換手術の専門医として有名な Christine Noelle McGinn などもそれで子供を2人設けている。↓は彼女が運営している Papillon Center のサイト。多数の before/after の写真も掲載されている
(閲覧注意:会社等他人の目に触れる所では開かないこと)。
Papillon_Center
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