【春四】(2)

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12月2日(金).
 
彪志は課長に呼ばれて訊かれた。
「鈴江主任、大型特殊の免許は持ってたっけ?」
「いえ。持ってません」
「必要になりそうなんだよ。申し訳無いけど至急取ってくれない?」
 
課長の言葉が最初“子宮取ってくれない?”に聞こえてぎくっとした。
 
「急ぐから昼間の時間も使っていいから。自動車学校の費用も会社で出す」
「分かりました」
 
それで彪志はその日の内に自動車学校に入校した。もちろん鈴江月子名義である!
「あれ?お金が鈴江彪志名義で振り込まれていますが」
「兄がお金を出してくれたので」
「ああ、分かりました」
 
それで初日に実車1時間、そして翌日土曜日に2時間受けて第1段階を卒業する。金曜日の夕方に社内でも教習で使用しているようなホイールローダを使ってだいぶ練習をさせてもらったので、土曜日にはかなりうまく操作できるようになっていた、日曜日に第2段階の教習3時間を一気にやってしまう。その一方で土日にはフォークリフトの講習も受けた。
 
それで月曜日に卒業試験を受けて合格。火曜日(12/6)には、鴻巣市の運転免許センターで免許を取得した。もちろん鈴江月子名義である!普通免許と自動二輪のみの免許は1ヶ月も使わなかった。
 

ところで12月7日(水)にアクアの写真集『彫刻の森』が発売された時、世間で話題になったことがあった。
 
「アクアの手術跡が薄くなってる!」
 
また信濃町ガールズのコアなファンの間では
「広瀬みづほちゃんの足の傷跡が消えてる」
というのも話題になっていた。
 
広瀬みづほは加入して初期の頃はバックダンスの時にスカートを穿かず、いつもズボンだったので『男の娘?』『いや男の娘ならきっとスカート穿きたがる』などという声があった。その件については本人が
「私小学生の時に交通事故に遭って結構目立つ傷跡があるので、生足を曝してないんです」
とツイッターに書き込みそれで理解を得た。
 
「『こんな目立つ跡が残ったら女優さんとかなれないね』なんて言ってたんですけど、アクアさんが堂々と手術跡を曝してるの見てここの事務所なら採用してくれるかもと思って、信濃町ガールズり入団試験受けたんです」
と説明していた。
 
それで広瀬みづほの足に傷があることも信濃町ガールズのファンには知られていた。
 
またその後、男の子と誤解する人がいるからということで、みづほは不透明タイツとスカートというスタイルに変更した。
 
なお今年の映画出演では、『陽気なフィドル』と『お気に召すまま』ではロングスカート(昔は女性はロングスカートでショートスカートは男性の服だった)、『黄金の流星』では船上通信士なのでスラックススタイルで出演している。『竹取物語』では女房装束。
 
ところが今回の写真集では広瀬みづほが生足を曝していて、そこには傷跡が見られない。
 

この件についてファンの間では
「恐らくレーザー治療を受けたのでは?」
という推測をする人が多かった。
 
「レーザーで傷跡が消えるの?」
「傷跡が残るのは、人間の身体が傷を治す時に頑張り過ぎて皮膚の再生が多すぎるため。両側から皮膚を再生していき再生しすぎて盛り上がりができてしまう。これが傷跡。だからその多すぎる部分をレーザーで削ってしまう。すると運が良ければ傷跡は消える。完全に消えなくてもかなり目立たなくなる」
 
「へー。車の傷の補修に似てる」
「そうそう。同じ要領」
「人間の傷も車の傷も同じか」
「まあ車はヤスリで削って、人間はレーザーで削る違いはあるけどね」
「人間はヤスリで削るのは痛い」
 

アクアが情報を発信した。
 
「受けたのは傷を治す治療ではありません。ただある種の治療を受けたらその副作用で傷が薄くなりました。みづほちゃんも偶然似た時期に同様の治療を受けており、それで傷が消えたのだと思います」
 
「治療の詳細についてはご勘弁を。そのお医者さんの所にクライアントが殺到しかねないので。またこの件についてみづほちゃんに質問するのもご遠慮ください」
 
「彼女は自分でも傷が治ったのに驚いており、とても嬉しがっています。事故の後遺症自体が消えて、キック力(りょく)が回復し、ダンスの時にジャンプがうまくできなかったのができるようになり、また長くできなくなっていた水泳もできるようになったそうです。純粋に彼女を応援してあげてください」
 
後輩に配慮した優しい書き込みで、ファンも良識を守って詳細を質問するのは控えた。それでも傷のことで悩んでいるので教えてほしいという照会は多数あったが、スタッフの手で、普通の人には適さない治療であり、非常に特殊な条件の場合にだけ適用可能な治療であること、偶然にもアクアと広瀬みづほがその条件にあったこと、一般的にはレーザーなどによる治療がお勧めであることなどを記載して返信した。
 
ただ噂として流れたのが、この秋に偶然アクアも広瀬みづほもその治療を受けて、結果的にアクアの傷が薄くなったことから写真は撮り直しをしたらしいこと、広瀬みづほのは実は患者の取り違えだったらしいことが出所不明の噂として流れた。
 
実際10月10日(月祝)に、アクアや10人ほどの信濃町ガールズが神戸空港で目撃されていること、この日は“彫刻の森”が臨時休園したこと、などの情報が流れ、アクア周辺の情報筋もその日に写真集の再撮影が行われたことを認めた。
 
また、アクアの傷が薄くなったのは写真集を最初に撮った直後の8月末で、広瀬みづほの傷が治ったのは再撮影少し前の10月頭で2人は別のお医者さんに掛かったらしいという出所不明の噂も流れていた。
 
「別の医者って、そういう治療をしている医者が何人もいるのか」(*7)
「ひょっとしたら何かの一般的な治療なのか」
「実は性転換手術だったりして」(←鋭い!)
 

(*7) 性器の移植(ほんとに換骨奪胎)によって性別を変えている勾陳・九重のチームを除くと、この物語に登場している人?またはグループで性別を変えているのは下記。
 
(1) 奈良県E村N神社の代々の神様
人間の“表”の身体と“裏”の身体をスイッチさせることにより性別を逆転する。表の身体と裏の身体は常に存在していて独立に育っている。命(めい)の男の身体は瀕死の状態で神様にも救命困難であったため、本来は裏の女の身体を表面に出すことで命(めい)は生きている。
 
(2) 富士系の超越修行者が見い出したもの。
虚空(丸山アイ)と子牙(実は千里の一部)が使用する。この術は他人に教えることができない。性別軸を任意の角度に変更できる。使用頻度などには特に制限は無い。千里1が無意識に掛けてしまい、多数の犠牲者?を出しているのはこれと思われる。
 
(犠牲者:青葉・千里3・冬子・和実・真珠と明恵・夏樹・渚・星良・真倫と佐理・大崎忍・鈴鹿とクララ・Havai'i99の城野月・作曲家の三田夏美・★★レコードの八重垣虎夫・岬たちの先生の妻の依田智美・桃香の親戚の武石満彦・〒〒テレビ元バイト助手の青山広紀などなど)
 
(3)上記を少し安全?にしたもの。
これは他人に教えることが可能である。羽衣と千里(瞬嶽由来)が使用できる。実際に使用しているのは千里2と3。1も無意識では無く意識して使用する場合はこちらを使う。性別を基本的には逆転するが、術の途中で邪魔が入ると途中で止まってしまう。若返り効果がある。また一度掛けると1年間は使用できない。
 

(4) 乙和御前(の霊)が使用しているもの。
森元蓮には毎週注射をすることで女に変えてしまった。日和の場合はルーレットを回すと性別が変わった。これはどちらも被術者が夢に見た形なので、本来は同一のものであると思われる。
 
なお御前の侍女の中には元は男であった者も居るらしい。ある時、鎌倉幕府にとって危険な存在であるとして強力な修験者に消滅させられそうになったが「全員女になって日々お茶を飲み歌を詠み暮らします」と言って許された。その時、御前の警護をしていた武士たちが侍女に変えられたと聞く。
 
「女になるのと消滅するのとどちらがいい?」
「あのぉ、俺が女の服着ても女に見えないと思うのですが」
「大丈夫。ちゃんと女に見えるようにしてあげる」
 
彼女たちは最初はちんちん無くなったことで、しくしく泣いていたらしい。
 
この修験者が使ったのは(2)と同系統のものである可能性もある。
 
(5) 出羽山のH大神が貴人に伝授したもの。
貴人のエイリアスのうち数人が使用している。
 

(6) 留萌のP大神の力をルーツとするもの。
千里の中のオーラム(金色)グループの子たちが使用している。主に使っているのはいちばん下のアイン通称オーリン(魔女っ子千里ちゃん)である。
 
金色千里は少なくとも3人いるが、本当は何人居るかはその3人も知らないと言っている。安原祥子にフルートを指導したのが3人の中でいちばん上のアイン・ゾフ・アウル通称オーリタ(知識が広く音楽に強い)、竹下リルたちと毎日3000mを泳いでいるのが、真ん中のアイン・ゾフ通称オーロラ(運動能力が高く運転もうまい:基本的には千里4(ロビン)と同じ運動能力を持つ)である。
 
千里は本来の寿命である6歳の時にいったん死亡してからαβγの3つに別れて再生した。現在の1〜6の千里はαの系統だが、オーリンたちはγの系統である。
 
(7) A大神
多分この中で最強。
 
津幡の姫様は今の所性別の変更はしてないかも。
 
しかし千里はこの中のどの系統にも属さないものまで使用している形跡がある。
 

「取得してきました」
と言って、彪志は運転免許証の名前部分(“月子”と記載されている部分)に指が掛かるようにして、免許証を課長に見せた。写真が女性的に映っているが開き直る。
 
課長は言った。
「あれ?君、大型は持ってなかったんだっけ?」
「・・・いえ」
「ごめーん。それも取って。費用は出す」
「はい」
 
それで彪志は自動車学校に舞い戻る。火曜日(12/6)の夕方に大型免許のコースに再入学した。大型のコースは第1段階12時間、第2段階18時間である。
 
第1段階は1日2時間なので普通に勤務しながら受けられる。それで火曜日から日曜まで掛けて受けた。月曜日(12/12)は午前中に会社には出社せず修了検定を受けて仮免を取得する。この期間にも社内でトラックをたくさん運転させてもらって、早く免許を取れるようにサポートしてもらった。
 

「月ちゃん、大型持ってるものと思ってた」
と運転を見てくれた水川係長が言う。
 
「係長は持っておられたんですか」
「うん。大学院時代、佐川急便のバイトしてたし」
「よくそんなヘビーなバイトしながら博士課程を卒業しましたね!」
 
「君も博士号取らない?」
「とても大学院に戻る余力は」
「博士論文書けばいいんだよ。今でも年間2〜3枚論文書いてるでしょ」
「書いてはいますけどね.多くは知的所有権の防衛のためですが」
「充分博士号のレベルあると思うけどなあ」
 
水川(沙耶)さんは
「女の子同士だから私のことは“サーヤ”でいいよ」
と言っていた。
「ああ。女性社員はけっこう“サーヤ”ですね。でも可愛い名前だ」
「私らしくないでしょ?」
「そんなことないですよー」
「親が私の出生ホロスコープ見て『この子は絶対男勝りの子に育つから、せめて名前は可愛い名前にしよう』と言って“さや”にしたらしい」
「へー」
「やんごとなきお方みたいとも言われたけどね」
「確かに」
 
係長は彪志に
「会社で使う名前、女性名に変更しなくてもいい?」
とも訊いたが
「なんだか月子の名刺もらっちゃったし」
と答えた。
「確かにそれが使えるね!」
と言って笑っていた。
 

月曜日の午後から路上教習に出た。18時間だが、第2段階は1日3時間までだから、会社を少し早めに退出させてもらい、17時・18時・20時の教習を受けた。それで月〜土の6日間で教習を終える。日曜日は水川さんが付いててくれて“仮免許練習中”の札を下げてたくさん練習させてくれた。
 
「どうも私たちどこか寒い所に行かされるみたいだよ」
と練習中にサーヤは言った。
「もしかして同じ所に転勤ですか?」
「それっぽい。どこかは分からないけどね。大特取らせたのは除雪車の運転が必要だからみたい」
「ひゃー」
 
(除雪車の運転には、大特または小特免許に加えて、その種類に応じた講習会の受講が必要である。また普通自動車または大型自動車の1年または2年の運転経験が必要である。大型2年の運転経験が必要なものは彪志は2年後まで運転できない)
 
彪志は“寒い所”というので青森とか岩手とかを想像した。岩手なんかに異動したら母は喜びそうだけど、青葉の所に行くのに大変だなあと思った。
 

そして彪志は月曜日(12/19) に卒業試験を受けて合格。翌日(12/20) また鴻巣市の免許センターに行き、大型免許を取得した。
 
彪志は再度名前の所に指が掛かるようにして新しい免許を課長に見せて報告した。
 
「お疲れ様。次々と申し訳無いんだけど今度はドローンの操縦資格を取ってほしいんだけど」
「ドローンですか!?」
「これあまり人には言わないでね」
「はい」
 
ということで、彪志はその日の夕方、都内のドローンスクールに行くことになったのである。
 

水川係長に呼ばれて個室に入る。
 
「やはり月ちゃんと私は同じ部署に行くことになるみたいね。ドローンスクールに行くよう言われたでしょ?」
「あ、はい」
「私は昨日入校した」
「係長もですか!」
「ドローンのこと詳しい?」
「いえ。なんか4枚の羽で飛んでるのを見るなあとか程度で」
 

(DIJ magic 3pro : dIJ社のホームページから引用)
 
「じゃ少し説明してあげるよ。私は昨日の講習に出て、あまりに知識が無いことを自覚して昨夜頑張って勉強した」
「頑張りますね!」
 

それで水川さんは説明してくれた。
 
基本的に人が乗り込んで操縦していない人工的飛翔物体をドローン(drone), または UAV = unmanned aerial vehicle という。
 
操縦士が居ないのなら、乗客として人間が乗っていてもUAVに分類される。空のタクシーのようなものが想定されている。
 
drone ということばは第2次世界大戦後に使われ始めた言葉で当初はミサイルの意味であった。しかし今日、世界的には自律性を持つ飛翔物体のことをドローンと呼び、日本では混乱しているが無線操縦のものはドローンに分類しない。。
 
droneという単語自体はオスのミツバチを意味したもので比喩的に役立たずの人を意味した。しかしそこから何故ミサイルの意味になったのかは不明である(ブーンというプロペラ音から?人間が乗る飛行機より能力が低いからドローンとか)。
 
また昔のANAの飛行機に描かれていたヘリコプター・マークのもとになった、レオナルド・ダ・ヴィンチのヘリコプターが現代の人の目で見ると、まさにドローンである。
 

 
「ダヴィンチってこんなんものを考えていたんですか。神様ですね!」
「凄いよね。人間の想像力を超えていると思う」
 

ドローンには固定翼タイプと回転翼タイプがある。アメリカ軍のMQ-1プレデター (Predator) 無人攻撃機は既にアフガニスタンやイラクで作戦に参加している。日本でも自衛隊が日立製の無人偵察機JUXS-S1、ボーイングのスキャンイーグル2などを運用している。
 
また近年、日本国内の農薬散布には無人ヘリコプターが使用されている。使用されているのは、ヤマハ、ヤンマー、スバルなど国内メーカーが制作したものである。
 
しかし近年何といっても注目されているのが回転翼タイプ。しかも3個以上の回転翼を持つものである。現在ウクライナ戦争はドローン戦争になっており、双方がドローンに爆弾を持たせて敵陣に飛ばし、自爆して大量の被害を与えている。それに使用されているのが、だいたいこういうマルチコプターである。しかもこれらは武器として開発されたものではなく、多くが普通にアマゾンなどで買える中国製のホビー用マルチコプターである。
 
基本的に複数の回転翼を持つ飛翔体をマルチコプターという。マルチコプターはローターの数により次のように呼ばれる。
 
3 tricopter トライコプター
4 quadcopter クワッドコプター
6 hexacopter ヘキサコプター
8 octocopter オクトコプター
 
中でもクワッドコプターの利用は多い。ここで“クワッドコプター”と“クアッドコプター”は現在表記揺れの状態にあり、どちらが正しいとも言えない。
 

マルチコプターは一部のローターが故障しても残りのローターを再構成することにより飛び続けることができるはずだが、この機能を持たずにどれか1個でも故障したら墜落するクワッドコプターが実は多い。
 
この再構成機能があることを前提とするとローターの数は多いほど安全性が高くなり、また大きな荷物を運べる。しかしその分エネルギーも使う。そのためバッテリー式のマルチコプターはローターの数が増えるほど航続距離が短くなる。バッテリー式のオプトコクターは15分程度しか飛べない。工事現場など以外では使い道が無い。
 
またドローンにはエンジンとGPSを積み、何十kmも先まで自律飛行できるタイプと、目視できる範囲で電波により操縦するものとがある。後者はつまりラジコンである。日本ではどちらもドローンと呼んでいるが。外国では一般に前者のみをドローンと言うことが多い。
 

近年ドローンが多く使われるようになったことから、制限が掛けられるようになり、空港・政府機関・外国の大使館や公館など・原子力発電所などの近くでは飛行が禁止された。その他色々な状況で飛行に制限が掛けられ許可制になったため、今度は国土交通省に、ドローンの飛行許可を求める申請が多数来るようになり、国土交通省の処理能力を超えてしまった。
 
そこで国土交通省はドローンの操縦に認証制度を導入し、大半の飛行にいちいち許諾を取るのは不要とする方針に転じた。そのためのライセンス制度が2022年12月から始まった。
 
「今月から始まったんですか!」
「それを取ってねということね。これは自動車の免許制度と似てるんだよ。ライセンスには1種と2種があって、私たちは1種を取らないといけない。基本的には自動車学校に相当するドローンスクールで2〜11日程度訓練を受けるとともに学科の勉強もして、卒業したらオンライン(CBT)で国土交通省の試験を受ける。既に凄い腕を持っている人は、一発試験を受けてもいい」
 
「私には無理だぁ。でもほんとに自動車免許と同じですね」
 
「まあそれを取ってねということみたいね」
「ほんとに取れるんですか」
「今の所どうもスクール出身者の合格率が半分くらいみたいだよ」
「厳しー!」
 

それで夕方、彪志はドローンスクールに行くことにしたが「あっ」と思う。
 
入校には本人確認書類が必要である

運転免許証は鈴江月子名義

鈴江月子で申し込むしかない

男の格好では参加できない

結局“お着替え”が必要
 
ということで彪志は会社が終わったあと(実際には16時であがらせてもらう)自分の車の中で男性用スーツから、トレーナーとジーンズのスリムパンツに着替えドローンスクールに向かった。現地で水川さんと会うが、いろいろバレているので、もう今更気にしない。
 
それで講習を受けたが学科の講習内容がなかなか難しくて「これはなかなか大変だぞ」と思った。スクール側もまだ制度が始まったばかりで手探りの部分もあるようである。
 

12月23日(金).
 
全国の多くの学校で終業式が行われ、冬休みに突入する。
 
普通は冬休みは26日からであるが、今年は24日(土)25日(日)となっているため24日から実質冬休みが始まる。それで23日に終業式が行われるのである。
 
§§ミュージックでは信濃町ガールズの一部の姉妹を呼び寄せた。また12月11日の昇格試験に合格した子が東京に引っ越してくる。それで各地にお迎えの飛行機を飛ばした。
 
●12/23 Gold:富山空港14:00(200km) 14:30郷愁-16:00五反野
川本浜菜(紺青セイラ)A301
 
浜菜はお母さんおよび弟さん2人と一緒に来た。お母さんは"Guest"という札をもらって首からさげたが、弟さん2人はチェキでインスタント写真を撮って貼り付けた“家族特別入館証”を作ってもらい。それを首からさげた。2人は寮内に入ると「女臭ぇ〜」と言っていた。
 

「お母さんも弟さんたちも、もし冬休み中東京におられるなら、家族用の宿舎に泊まっていいですよ」
と受付をした、三田雪代が言う。
 
(この日、三田は“寮長代理”という札を付けていた)
 
「それ料金は?」
「無料ですし食事付きです」
「凄い」
「ただし人混みに行かないことが条件になりますからあまり観光やお買物はできませんけど」
「ディズニーとかは無理かぁ」
「あそこは人が多すぎますね」
「あと、あけぼのテレビとかの番組に出演をお願いすることあるかも。通行人とかの役で」
「なんかそれが楽しそうだから、居てもいいかな」
と弟たちは言う。
 
「お母さんは?」
「亭主をひとりにしてたら途方に暮れそうだから帰ります」
「では春休みが終わる頃、弟さんたち富山空港にお届けしますね」
 
なお本人には新しい中学の制服(女子制服)・上履き・体育館ショーズ・体操服も渡した。家庭科セット・リコーダーなどは前の学校で使っていたもので良いという。
 

●12/23 Black:能登空港15:00(259km)15:30郷愁-17:00 五反野
真珠が入瀬コルネを氷見市から能登空港まで。
明恵が金沢で古屋おだんごを乗せ、中能登町できんつば・あんころを乗せて能登空港へ。
 
「コルネちゃんひさしぶりー」
9月に時代劇の撮影で会って以来3ヶ月ぶりである。
 
「おはようございます。古屋あんまん・おはぎ・きびだんごちゃんでしたっけ?」
「あんころ・おだんご・きんつば、なのだが」
「ごめんなさい!」
「でも器用な間違いかたをする。先頭だけ合ってた」
「東北新幹線“はやぶさ”に乗るべきところを“はやて”に乗っちゃう人だな」
「いやあれは酷いよ。2文字目まで一緒なんだもん」
「かつての“あさひ”と“あさま”(*8)よりはマシだけどな」
「それうちの母ちゃんがやったことあるらしい」
 
(*8) “あさひ”は上野発・新潟行き、“あさま”は上野発・長野行き、どちらも高崎までは一緒だが、それを過ぎてから乗り間違いに気付く。客の乗り間違いだけでなく、窓口での係員の聞き間違い・押し間違いによる発券ミスも多かった。結局“あさひ”は“とき”に改名された。
 

4人は機内でも楽しくおしゃべりして行った。
 
「でもほんと女5人姉妹って凄いですね」
「生まれた時は男の子だったけど出生届け出す前に性転換手術してもらって女の子に変えて女の子として出生届け出したからね」
「手術したんですか?」
「出世届出す前なら性別は自由に変えられるんだよ」
「そうだったんですか!?」
「生まれたての可愛い赤ちゃんの可愛いおちんちんを切り取って可愛いお豆さんと割れ目ちゃんに改造してあげると凄く可愛くなるんだよ」
「へー」
 
「ちょっとこの子信じちゃってるよ」
「本当は精液を遠心分離機に掛けてX精子とY精子に分離して、X精子で人工受精した」
「遠心分離機?」
「X精子のほうがY精子より重いからね」
「重さが違うんだ?」
 

「酸性とアルカリ性で産み分けるという方法もあるけど確実度が落ちるからね」
「酸性とアルカリ性なんですか」
「ヴァギナの中は雑菌の侵入を妨げるため酸性に保たれている。でもセックスの時に女性か感じるとアルカリ性の分泌液が出て中和される。そしてY精子は酸に弱い。X精子は酸に強い」
「へー」
「だから女の子がほしい時は、精液が薄くなるように頻繁に射精しておき、排卵日の2日くらい前に、浅い位置で女性があまり感じてないうちに射精する。逆に男の子が欲しい場合は、精液が濃くなるように5日以上禁欲しておき、排卵日ジャストに、女性が充分感じるように前戯もたっぷりしてから深い位置で射精する」
 
セックスの具体的な話を聞いて日和が真っ赤になっている。
 
「まあ中学生にはまだこういう話は早かったかな」
「ピンクゼリー、グリーンゼリーってのもあるね」
「女の子が欲しければ酸性になるピンクゼリー、男の子が欲しければアルカリ性のグリーンゼリー」
 
日和はゼリーを食べると男の子と女の子が産まれるのかなと思っている!
 
「でもいちばん確実なのは遠心分離機」
「私たち遠心分離機に掛けられてるから、遊園地のティーカップとか平気」
「凄いですね」
「もちろんジョークね」
 

4人はみんな荷物は旅行バッグ1個なので熊谷からはカローラ・フィールダー1台で充分乗った。身体の小さな日和が後部座席の真ん中に乗っている。両脇が高校生のあんころ・きんつばである。身体の接触が生じるが、いつも五月や美奈子に抱きしめられたり、おっぱいを揉まれているので特に何も感じなかった。
 
「うん。おっぱいは成長途中だな」
と高校1年のあんころに胸を揉まれる。
 
「春に入学した時はまだジュニアブラ着けてたんです。今年ブラジャーを3回買い直しました」
「ああ、女の子は胸が急成長する時期があるんだよ」
「男の子の胸が急成長することは無いだろうね」
「その場合はたいていお腹も急成長している」
「女の子でお腹も急成長したら大変だ」
「それきっと妊娠してる」
 
寮に着くと、日和(入瀬コルネ)は萌花(ホルン)の部屋C105、古屋姉妹は古屋あらたの部屋C203 および同じフロアのC209 に入った。
 

●12/23 Beach 400XPR 神戸空港16:00(400km) 16:30郷愁-18:00 五反野
 
西宮市の白石乙羽(清水スピリ)が母の運転する車で引越荷物とともに神戸空港まで来た。母及び引越の手伝いに弟2人共にビーチ400に乗り熊谷に移動する。これに姫路スピカの従姉・竹中花絵が同乗した。
 
乙羽は昇格試験の時は Honda-jetだっので、
 
「これ少し広いんですね」
と言っていた。
 
「古いですけどね。これは元々は40年くらい前に日本の三菱が開発した飛行機なんですよ」
と、この機体にも何度も乗っている竹中花絵が説明する。
 
「へー。その時代に日本で飛行機作ってたんですね」
「日本では売れなくてアメリカのビーチクラフトに身売りしてそちらでたくさん売れて人気機種になったんですよ」
「ああ、日本じゃ需要無かったでしょうね」
「中身も日々更新されてエンジンも新しいのにして、これは15年くらい前にうちの取締役(千里のこと)が買った機体を一度中身を換骨奪胎して最新のと同じ仕様にしたものですね」
「へー。換骨奪胎って凄いですね」
 

「まあ古い亭主を換骨奪胎して若い亭主に生まれ変わらせるようなものですね」
「あら、それいいわね」
「昼は元気に仕事して、夜は元気に“お仕事”して」
「私壊れちゃいそう」
 
「その時はお母ちゃんも換骨奪胎されてるよ」
「換骨奪胎して男女逆転したりして」
「あ、私男の側もやってみたい」
「亭主に女になってもらって子供も産んでもらって」
「ああ1人くらい産んで欲しい」
 
「そうだ。あんたたちも換骨奪胎してもらって女の子に生まれ変わったら?女の子の骨格に交換して女の臓器に交換して。お嫁さんに行けるよ」
と弟たちに言う。
 
すると小学3年生の椿季(つばき)は「いやだぁ」と言ったが、小学5年生の春佳(はるか)は恥ずかしそうに顔を伏せた。
 
ああ、換骨奪胎されてお嫁さんに行きたいのね、と花絵は思った。髪も長くしてるし。そのジーンズのパンツもシャツもレディスっぽいし。
 

夕方五反野の女子寮に到着する。花絵はいつもの通りスピカの部屋に入る。
 
白石一家はみんなで荷物をA302に運び込む。この時、母と春佳は"Guest"という札をもらって首から掛けたが、椿季はチェキでインスタント写真を撮られ、それを貼り付けて名前も記載された「家族特別入館証」を作ってもらい、首からさげていた。春佳との違いは見た目問題だなと乙羽は思った。椿季は「女臭ぇ」と文句を言っていた。
 
引越作業をしていたら“寮長臨時代理”の三田雪代が声を掛ける。
 
「何か足りないものがあったら私にでもフロントででも声を掛けてくださいね。生理用品とか無料で支給してますし、一般的な配線器具とかもお渡ししますから」
「へー、配線器具とかもですか」
「正直言って安物で配線されて出火事故とかあったら困るんですよ」
「なるほどー!そういうことか」
「100円ショップの延長コードとかの類いは使用禁止にしています」
「火事は怖いですよね」
 

三田が春佳に目を付ける。
「ね、君も信濃町ガールズに入らない?」
 
春佳は驚いたような表情で口に手を当てている。
 
「乙羽ちゃん、この子小学6年生?」
「まだ5年生なんですよ」
「5年生かぁ。残念。6年生なら卒業したらこちらにと思ったんだけど」
「今西宮の教室でレッスン受けてます」
「そうか。君には今年いっぱいで終了する姉妹特別枠を付与しておくから。1年後にでも、もしその気になったら東京に出て来てね」
「この子はやりたがるかも」
と乙羽も言った。よく誤解されてるけど信濃町ガールズに性別は関係ないし。もっともこの子は女の子になってから信濃町ガールズに入りたいかもね。
 
結局春佳は冬休み一杯こちらに居て、信濃町ガールズの活動を見学することになった。その間乙羽の部屋に滞在する。新しい中学の制服を乙羽はもらったが、向こうの中学の女子制服を“母が見ている前で”春佳にあげて
「自由に着ていいよ」
と言った。母の目の前で渡さないと『お姉ちゃんの服を勝手に着てる』と思われてしまう。
 

水戸市の水巻アバサにはSCCの車を迎えに行かせた。
 
本人は(男子)制服のまま車に乗るつもりだったのだが、女子の友人たちが
「東京行くのならちゃんと制服着なくちゃ」
と言う。
「ぼく制服着てるけど」
「男子制服とかで行っちゃダメだよ」
と言われ、女子制服に着替えてから車に乗ることになった。
 
「まあこの方が気楽だしいいか」
 
女子寮のフロントで、受け付けた三田雪代は
「イビザちゃんの部屋はA403に移動してるから。寝具は後で持っていかせるね」
と言った。しかし彼は
「ぼくまだ男の子なのに女子寮に泊まるのはやばいですよ」
と言う。
「そう?じゃカデットに泊まって」
と言ってそちらのキーも渡す。
 
しかし23時過ぎても部屋に滞在しているようなので
「やはり寝具入れるね」
と言って運び込ませた。でも結局彼は24時前に女子寮を出てカデットで泊まったようであった。カデットの玄関まで警備員さんが送り届けた。
 
彼はイビザから「お姉ちゃん」と呼ばれて嬉しそうにしていた。
 
彼はこの後、冬休み中、ほぼ女子寮に居て、ほんとに睡眠の時だけカデットに行っていたようである。5時にはこちらに戻って来るので朝夕の御飯も妹と一緒に食べていた。(そのまま女子寮で寝れば良いのに)。
 

都城市の広瀬のぞみは終業式が終わると母の車で約2時間掛けて薩摩川内市の藺牟田飛行場まで行った。ここで同市内に住む月城としみと合流する。そしてHonda-Jetblueに乗り熊谷の郷愁飛行場まで飛んだ。
 
●12/23 Blue 藺牟田15:30(960km)17:00郷愁-18:30五反野
 
ふたりは立場が似ていることもあり、道中かなりおしゃべりがはずんだ。
 
広瀬のぞみはC101広瀬みづほの部屋、月城としみはC103月城すずみの部屋に入って休んだ。
 

12月24日(土).
 
クリスマスイブなので彪志と青葉はお互いにクリスマスケーキを贈り合った。お互いに向こう側の住所の近くのお菓子屋さんに予約をいれている。当日は浦和では貴司が、伏木では真珠が取ってきた。ついでに真珠・瑞穂、明恵、初海も来て一緒にクリスマスを楽しんだ。(双葉は受験生なのでお勉強をしている)
 
貴司は自分で予約しておいたクリマケーキもあるので、2つのクリスマスケーキを抱えて帰ってきた。子供たちが嬉しそうにしていた。
 
この日は日本時間で夕方から百道事件の対応に追われたのだが、処理したのは関東司令室の千里6(グレース)と、グラナダの青葉(R) なので、浦和の千里(1,2A,3) も伏木の青葉(L) もそんな事件が起きているとは思わずのんびりとした日を過ごした。
 
彪志はまだ未確定のことなので、転勤になりそうと言う話は青葉にも、浦和の人たちにもまだ話さなかった。
 

24-25日は休日なので、彪志は浦和の家を出てから青山のレディスーツ(千里さんからもらったもの)に着替え、ドローンスクールに出掛けた。そして帰りも車内で男の服に着替えていた。彪志がレディススーツを着ているのを見て水川は言った。
 
「会社にもレディスで来ていいよ」
「いえ、自粛します」
「どうせみんなにバレてるのに」
「あはは」
 

岐阜県各務原市(かかみがはらし)の杉田由夏(鏡家トマト)は12/24(土)の午前中に小牧飛行場(県営名古屋空港)からHonda-Jetsilverで両親・弟とともに郷愁飛行場に飛んできた。
 
●12/24 Silver 小牧8:30(230km)9:00郷愁-11:30五反野
 
11時過ぎに女子寮に到着したが、12:00からのあけぼのテレビの番組に出てほしいので、すぐ海浜ひるがおを付けて五反野サテライトに向かわせた。
 
「遅くなって済みません」
と謝っていたが、クリスクスイブの土曜日であちこち渋滞していたのもあった。
 
ただ本当は渋滞を計算に入れた上での行動をしてほしかった。この点は後で花ちゃんに叱られていた。
 
荷物は御両親および弟さんの手でA303に運び込んだ。
 
「テレビ・冷蔵庫・洗濯機・電子レンジ・寝具・勉強机・本棚・衣裳ケースと揃っているというのは凄いですね」
とお父さんが感心していた。
 
「そんなのみんな使いますからね。故障したら交換しますし、いちいち買ったり運んだりしてたら面倒くさいですよ」
と海浜ひまわりが言う。
 
お父さんはまた寮の敷地内にコンビニ・ATM・ポスト・100円ショップ・ドラッグストア・ファンシーショップと揃っているのにも驚いていた。
 
「寮から出ずに生活できますね」
「そうできるように整備しています。感染リスクを減らすためというのが一番大きいですけどね」
 
2番目は信濃町ガールズたちを盗撮などから守るためというのもある。
 
母はその日、由夏の部屋に泊まり、弟と父はカデットに泊まって翌日(12/25) 3人で帰って行った。お土産に“信濃町ガールズ人形焼き”を買っていた。
「お嬢さんもこのラインナップに入るといいね」
「競争が厳しそう!」
 

2022年10月版の“人形焼き”メンツ
(22歳年度以下の§§ミュージック所属タレントで単純収入順Best24)
 
アクア・常滑舞音・今井葉月・東雲はるこ・町田朱美・白鳥リズム・
姫路スピカ・恋珠ルビー・鈴鹿あまめ・薬王みなみ・夕波もえこ・花貝パール・坂田由里・佐藤ゆか・南田容子・三田雪代・広瀬みづほ・立山煌・
水森ビーナ・三陸セレン・山鹿クロム・花園裕紀・水谷雪花・水谷康恵
 
(カペラやポルカが入ってない!)
 
メンツは半年に一度改訂される。広瀬みづほ、セレン&クロム、花園裕紀は映画のギャラで跳ね上がった。佐藤ゆか・南田容子・三田雪代・坂田由里はギャラよりスタッフとしての報酬が大きい。
 
東雲はるこ・町田朱美、水谷姉妹はたとえ単独の仕事であっても各々ギャラを完全等分しているため収入が等しい。葉月はアクアのギャラの10分の1をもらう契約になっている。しかし常滑舞音の収入はそれを越えている。実は今回映画の主題歌・劇中歌を多数歌ったギャラが大きかった。
 

舞音はアクアや葉月同様に、学費や生活費として日常的に使用する金額以外は全て資産運用グループの管理に委ねている。そのため舞音の口座には毎月50万円しか振り込まれない。
 
「高校生が何億というお金を自由にできていたら、ろくなもんにならない」
というのが、ケイ・コスモス・千里の一致した意見である。
 
資産運用グループまで付いていなくても、収入が概ね2000万円を超える子は、生活費以外を強制的に貯金させる“現金コントロール”をしている。
 

トマトまでは、あけぼのテレビ五反野サテライトに急行して
クリスマス特集番組に出演した。
 
お昼の時点でまだ来てない子が1人いる。海浜ひまわりは非常に不愉快な気分になった。予定していた番組に遅刻して出られないというのは、あってはならない事態である。
 
来ていないのは埼玉県伊奈町の大館蒔乃である。近くなのに!彼女はクリスマスの番組が終わり、多くの子たちが戻って来た後、15時すぎになってやっと到着した。
 
保護者が借りたレンタカーのワゴン車に荷物を積んで運んできたらしい。伊奈町から五反野までは通常1時間かからない。多少渋滞していても、かなり遅れて家を出たことになる。
 
「遅くなって申し訳ありません」
と本人は言ったが
 
「あんたいいからもう帰りなさい」
とひまわりは言った。
 
「そんなこと言わずに何とか加入させてください」
と謝っている。
 
「遅刻するにも限度があるよ。11時までには来てと言ってたのに」
「本当に申し訳ありません」
 
この押し問答を10分くらいやっていたが、最後は両親と姉まで土下座して謝るので
 
「2度と遅刻しないように。やむを得ず遅れる場合は連絡すること」
というのを強く言い、始末書の提出で勘弁してやった。
 

どうも朝一番に出るつもりがお父さんが突然会社から呼び出され、運転免許を持っているのがお父さんだけなので帰宅を待っていたらしい。
 
「そんな時は荷物は後からにして本人だけでも来なきゃ」
「それが交通手段が無くて」
「そういう時にSCCの車を呼ぶんだよ」
「あ、そういうので使ってもいいんですか」
「おやつ買いに行くのでも彼氏とのデートに行くのにでも使っていい」
「伊奈町みたいな田舎までも来てくれます?」
「遠い所は協力会社の車やヘリコプターをやる場合もあるけどね」
「へりですか!」
「どんなことをしても本番に間に合わないというのは絶対に許されないから」
「はい」
 
しかし後で彼女が小さい頃からの遅刻の常習犯だったことが判明し、コスモスは彼女に“氷川チャイム”という芸名を付けてしまう。
 
「始業のチャイムではなく、優勝を告げるチャイムにしよう」
とコスモスから言われていた。
 

さて遅刻の件を何とか許してもらった後、彼女はとんでもないことを言い出す、
 
「じゃ君のお部屋はA304にするね」
と言って用意していたidカードに部屋番号を設定しようとした時のことである。
 
「もしかしてここ女子寮ですか」
「そうだけど何か」
「ぼく男の子なんですけど女子寮でいいんですか?」
「何〜〜!?」
 
だってこの子、スカート穿いててバストは(見た目)膨らんでるし、髪は長く、前髪をパッチン留めで留めているし。女の子にしか見えないじゃん。声だって女の子の声に聞こえる。
 

これが花ちゃんが受け付けたのであれば用賀の男子寮に行ってくれと言う所だ。もっとも、花ちゃんだったら遅刻を絶対許さなかったろうなと思った。花ちゃんは仕事に対して厳しい。ひまわりは適当な性格である!そして受け付けたのが稲田姉妹とかだったりしたら?などと考える、(あの人?たちに受付させることはあり得ないけど)
 
ひまわりは確認した。
 
「あんた女の子になりたい男の子?」
「なりたいですー」
 
こういう子はいったん男子寮に入れても自分で身体を改造して女の子になってしまい、1〜2年後には女子寮に移ってくる。そして女子寮に移動した元男の娘たちって、なぜかそれを契機に売れなくなっている。
 
直江姉妹にしても、長浜夢夜にしても理由が分からないが仕事が激減した。
 
だったらこんな子は最初から女子寮に入れちゃえばいいんじゃない?この子が他の女の子を襲ったりすることはまず考えられない。どうせ1〜2年後に女子寮に来るのなら引越の手間を省こう。それに男子寮は満杯に近いし。
 

「だったら面倒くさいから今すぐ女の子になる手術受けてよ。そしたら普通に女子寮に入れてあげるから。そして1月からはセーラー服着てこちらの中学に通学すればいい」
「今すぐ女の子になる手術受けるんですか〜?」
「お股に付いているの邪魔でしょ」
「邪魔です」
「無くなればいいのにと思ってたでしょ?」
「物心付いたころから無くしたかったです」
「じゃ取ってあげるから今日はこのまま女子寮に入りなさい」
「いいんですか〜?」
 
「御両親やお姉さんも、この子女の子に変えちゃっていいですかね」
 
「この子ずっと女の子になりたがってたから全然構いません」
「こいつを男らしくしようと努力した時期もありましたが諦めました」
「この子のことは妹と思ってますから」
 
ということで大館蒔乃(氷川チャイム)は即性転換するということで女子寮に入れることにしたのである!
 

「これ新しい中学の制服ね」
と言って女子制服を渡すと蒔乃は嬉しそうな顔をしていた。
 
「ちょっとその制服に着替えて一緒に来て」
「はい」
 
彼女はブラウスを持っていないと言ったので、備品から出してあげた。スカーフが結べなかったが、お姉さんがしてあげた。
 
それでひまわりはたまたま在室していた石川ポルカを呼び出すと“寮長代理”の札を渡し、荷物の運び込みは両親とお姉さんに任せ、蒔乃本人を連れて外に出る。花ちゃんのバイクに乗り、信濃町の事務所まで行く(ひまわり自身のバイクや車にタレントさんなどを乗せることは禁じられている!)。
 
そしてうまい具合に居たコスモス社長に遅刻の件で直接謝罪させた。
 
「最初の仕事でいきなり遅刻とか私なら首にするけどなあ」
とゆりこ副社長が言っているが、コスモス社長は
 
「ひまわりちゃんからかなり厳しく搾られたみたいだし、今度だけは許してあげるけど、2度とこのようなことが無いように」
と言われ
「本当に申し訳ありませんでした」
と謝った。ケイ会長まで
「お仕事って厳しいから、しっかり自覚してね」
と声を掛けてきて
「申し訳ありませんでした」
と再度謝った。
 

両親とお姉さんはカデットに泊めた。そして本人には
「手術するからお風呂に入った後、その付近の毛を全部剃っておいて」
と言って、新しいハサミと電動シェーバーを渡しておいた。
 
23時頃彼女の部屋に行くと、ドキドキしているようだ。
 
「じゃ女の子になる手術しちゃおうね」
「あのぉひまわりさんが手術するんですか」
「ドクター八重といえば、その世界では知る人ぞ知る性転換医だよ。これまでに可愛い女の子に変えてあげた男の娘の数は4000人近い」(*9)
「そうだったんですか!?」
 
「では手術を始めよう」
と言って、ひまわりは使い捨てのビニール手袋を着け、まず陰茎を握ると後ろのほうへ引っ張って紙テープで仮留めする。ひまわりに触られてもピクリとも反応しないので、ああ女性ホルモンやってるなと思う。
 
陰嚢の皮を左右からひっぱり中央で合わせては瞬間接着剤で接着していく。接着したら1分くらい押さえておき乾いたところでその先を作業する。これで陰茎が完全に陰嚢皮膚で覆われる所まで進めた。結果的には縦にきれいな接着跡が残る。
 
(実弟の秋人(現・秋代)を使ってかなり練習した時期があるので、これができる。接着跡をまっすぐ作るのに結構な練習が必要)
 

「きれーい」
「見た目は女の子だよね。君のペニスはもう使用できない」
「でもおしっこする時はどうするんですか」
「このままできる。トイレに行ってみてごらん」
「はい」
 
それでトイレに行って来たが、
「ちゃんと出来た!」
と言って感動していた。
 
「君はもうペニスがないし割れ目ちゃんによく似た綴じ目ちゃんがあるからもう女の子だよ」
「はい!」
 
「じゃねー」
 

(*9) “ひまわり女子高”の生徒手帳に応募してきた人は1万人を越えていたが、抽選で3900人にだけ“生徒手帳”を発行した。
 
3学年×26クラス×出席番号50
 
ほぼ全員が男性(女性は44人で全員1年A組にした)だったので、プロのメイクアップアーティストの手で女性的な顔に装い、女子制服(ほぼ全員がお買い上げ)を着て生徒手帳の撮影をしている。
 
撮影会は、札幌・仙台・東京・名古屋・金沢・大阪・岡山・福岡・那覇の全国9箇所20回に分けて行われた。
 
ちなみに女子制服は上は“男性サイズ”のS・M・L・XLを用意したが特注サイズも受け付けた。スカートはW60-90を用意したが、W60やW63のスカートを穿いた人が結構居たので感心した。
 

さて蒔乃は、タックされた股間に感動し、ヌードになって自分の身体を鏡に映してたくさん記念写真を撮った。
 
お股にぶらぶらするものが無いって素晴らしいなあと思った。
 
それでその日は寝ようと思い、再度トイレで女の子っぽい位置からおしっこをしてお布団に入る。どきどきしながらあの付近に触る。邪魔なおちんちんは無い。ほんとに女の子になったみたいなスッキリした股間がある。
 
それに感動して眠りに落ちて行こうとしていた時、12時の時報が鳴る。
 
と同時に部屋の中に小学生くらいの女の子が出現した。
 
「わっ君誰?どこから入ってきたの?」
「こんばんわ、まきのちゃん、ぼくは男の娘の味方“魔女っ子千里ちゃん”だよ」
 

「なんで私の名前知ってるの?」
「ぼくは男の娘が困ってたりしたら呼ばれて出てくるよ」
「特には困ってなかったんだけど」
「あれ〜?だったら何かの間違いかな」
 
うん。君は間違いが多い。
 
「そうだ。君女の子にしてあげようか」
「何を唐突に」
「ぼくを呼び出す子はたいてい女の子になりたがってるんだよ」
「でもぼくお股をきれいに整えてもらったんだよ。まるで女の子みたいに」
「どれどれ見せてご覧」
「うん、まあいいけど」
 
蒔乃は相手が小学生くらいの女の子ということで気を許した。この子がまさかもう20年以上小学生をしているとは思いも寄らない。
 

「ああ、これはきれいにタックされてるね」
「これタックっていうの?」
「そうだよ。スカートのウェストのところを折りたたんで詰めるでしょ?」
「なるほどー。これも折りたたんで詰めてる」
「でもタックだと毎日メンテする必要があるよ。メンテなんてしなくていい本物の女性器に変えてあげようか?どっちみち、ちんちんは要らないんでしょ?」
「確かにちんちん要らないけど」
 
蒔乃は一瞬考えた。自分は今日のお昼。性転換手術を受ける覚悟をした。どちらかというと、今はその覚悟が宙ぶらりんになっている。この子が本物の女性器に変えてあげると言っている。この子はどんなことをするんだろう。
 
それで興味半分で
「だったら女の子に変えてもらおうかな」
と言ってしまった。
 
「OKOK、じゃ眠っててね。その間に女の子に変えるから。それと役場にも届け出さないといけないから、これに記入してお父さんかお母さんのサインももらって明日の夜、ぼくに渡して」
 
そう言って“魔女っ子千里ちゃん”は『性別訂正届』という紙を渡してくれた。それで蒔乃は眠りに落ちて行った。
 
 
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【春四】(2)