【春逃】(3)
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(C) Eriko Kawaguchi 2022-10-14
千里さんが邦生を乗せて走らせる Mazda CX-5 は、金沢から東へ、8号線を津幡バイパス、津幡北バイパス、くりからバイパスと走って行っていた。
邦生は千里さんに訊いた。
「そういえば、私スコアとかもらってないんですが」
「ああ。曲目はお正月の時と一緒だから大丈夫だよ」
(↑“この千里”は10人くらい?居る千里の中でも特にアバウトな千里である)
「ああ、同じですか。じゃ何とかなるかな」
「次どこかに停まった時に譜面渡すね」
「よろしくお願いします」
などと言っていたら福岡IC前の信号で停まったので、千里さんは助手席に置いたバッグの中から、そちらを見もせずに、さっとファイルを取り出し、邦生に渡した。
「ありがとうございます」
「車内で見ると酔うから、向こうに着いてから見ればいいよ」
「そうします」
しかし千里さん、見もせず探りもせずに取り出したな。渡そうと思ってすぐ取り出せるようにしていたのかな。
この福岡IC前の交差点というのは、直進すると福岡ICに入り(能越自動車道に乗るハメになる)そのまま8号線を進むには左折しなければならないという、まるでトラップのような交差点なのだが、むろん千里さんは間違わずに左折して先へ行く。
そして六家交差点を右折し、7-8分でイオンモール高岡に到着する。この六家からイオンモールまでの道は混雑しやすく、どうかすると30分以上掛かるのだが、今日はさすが夜だけあり、スムースに辿り着けた。
ちなみに、イオン金沢(金沢市北東部:旧・金沢サティ)とイオンタウン金沢(金沢市北部:通称“示野”)も紛らわしいが、イオン高岡(高岡市北部の万葉線沿線:旧ジャスコ高岡店)とイオンモール高岡(高岡市南部の新高岡駅そば)も紛らわしい。タクシーで伝える時やカーナビにセットする時は注意が必要である。
このイオンモールで、日高久美子と田中世梨奈が待っていた。この2人を拾う。久美子はアルトサックス、世梨奈はフルートを持っていた。結局、邦生の楽器4つが最も場所を取る。
「くにちゃん、またよろしく〜」
などと久美子は言っていた。
「あれ〜?バイクスーツなの?」
と世梨奈。
「今日はバイクで金沢から富山市まで往復したから」
「それでまた富山方面って大変だね」
「まあいいけどね」
千里に頼まれて、世梨奈が全員のお弁当とおやつを買ってくれていた。それで車内でそれを食べて一息つく。正直、邦生は今日は富山で丸一日セミナーで頭が消耗し、それから金沢の〒〒テレビで会議をして、かなり精神的に消耗している。お弁当はあっという間に食べた。おやつのケーキも美味しかった。疲れている時は甘い物が効く。
久美子が
「そうだ、くにちゃん。忙しくて着替えが準備できなかったと千里さんから聞いたから、適当なの買っといたよ」
と言って、その着替えを入れたスポーツバッグごと邦生に渡した。
(邦生はそれを千里がいつ連絡したのか疑問に思うべき:でも疲れてて何も考えていない)
中を開けてみると、その中にまたレジ袋2つに入った着替えが入っているようだ。トートバッグまで折りたたんで入っている。結構な量である。
「ありがとう。いくらかかった?」
「えっとね。。。」
と言ってレシートを見ている。
「下着は念のため4セット、それにスウェットの上下を2セット、それに着替えを入れる用のスポーツバッグ、それに何か使うかもと思ってトートで合計17,490円」
「けっこう掛かったね。ありがとう」
と言って、邦生は彼女に2万円渡した。
「お釣りは手数料ということで」
「さんきゅ、さんきゅ」
それで出発する。
ここで席だが、邦生が助手席に移動して、久美子と世梨奈が後部座席に乗っている。
「じゃこれから仙台まで6時間くらいのドライブだけど、女4人だから気楽にしててね」
などと千里は言っている。
あの〜。俺の立場は?
でも久美子など
「ですよねー。男の子が居ないから、本音でおやつ食べられるし、着替えもできるし」
などと言っている。
あはは、まあいっか。
ともかくもそれで出発した。
イオンモールを出て、南側にある県道58号(片側二車線の快走路)を通り、小杉ICから北陸自動車道・新潟方面に乗る。0時過ぎに名立谷浜SAでトイレ休憩する。4人とも車を降りてトイレに向かう、
邦生が他の3人と別れて男子トイレに入ろうとしたら、世梨奈に捕まる。
「あんた。何寝ぼけてるのよ。そっちは男トイレだよ」
と言われて、女子トイレに連行される。
(邦生はそろそろ諦めるべき?)
ここでトイレを出た後、おやつと飲み物を買って車に戻った。
「千里さん、運転代わりましょうか?」
と邦生は言ったのだが
「ううん。私は体力あるから平気。みんな寝てて」
というので、お任せすることにした。
それで邦生も眠ってしまったのだが、この後、千里の車は、新潟中央JCTから磐越道に入り、2時頃、阿賀野川SAで休憩する。今回は邦生も素直に最初から女子トイレに入った。
「千里さん、さすがに無茶ですよ。私はぐっすり寝ましたから代わりますよ」
と邦生が言うので、千里も
「そう?じゃお願い。交替は安達太良SAで」
「了解です」
それで千里には助手席で休んでもらい、車は邦生の運転で磐越道を走り、郡山JCTで東北道に入る。そして4時頃、安達太良SAで休憩した。トイレに行った後、飲み物などを買って車に戻るが、ここでそのまま全員1時間ほど仮眠することにした。そして5時過ぎに、あらためてSAの施設に入り、閑散とした食堂で朝食を取った。
「まあこのくらい粗(そ)であれば、感染の危険は無いね」
などと千里さんは言っていた。
そしてこの後は、千里の運転で、仙台南ICから仙台南道路に入り、長町ICで降りて、会場の若林植物公園に入った。
「お疲れ様〜」
千里が何かスマホで操作していた。(千里を含めて)4人各々のスマホにメールが着信する。
「今送ったメールに記載されているURLを開いたら、部屋の鍵が表示されるから」
「QRコードの鍵ですか」
「日々進歩してるなあ」
「物理的な鍵の受け渡しが必要無いからね。郷愁村の“さくら”もこれだよ」
「すごーい」
若林公園の宿舎は若葉が建てたものなので、同じシステムが導入されている。
「会場を案内したいから、お疲れの所悪いけど、各部屋に荷物置いたら、B2まで降りて」
「地下2階ですか?」
「そこに連絡通路があるんだよ」
「へー」
3人とも5階だったので、一緒に5階まで上がる。邦生は楽器が多いのでチューバとトロンボーンを千里さんが持ってくれた。スマホに表示されたQRコードで鍵を開け、中に入ると荷物を置く。スマホだけを持って外に出る。ここで久美子が
「あ、スマホ、部屋の中に入れたまま」
などと言っている。千里さんがマスターキーのQRコードで開けてくれた。
「ごめんなさい」
「いいけど、みんな気をつけてね」
「私、普通のビジネスホテルでもこれやっちゃったことある」
と世梨奈が言っていた。
「私が掴まらなかったら、クレールのオーナーの月山和実さんに連絡したら何とかなるから。彼女もこの2日間はこちらに居るから」
「わかりました」
それで結局4人でエレベータを地下2階まで降りる。「→織姫・牽牛」と書かれている通路入口をまたQRコードをかざして開ける。中は真っ暗だったが、入ると自動的に灯りが点いた。動く歩道になっていて、これは楽だなと思った。
通路の出口の所で再度QRコードをかざしてドアを開ける。結構セキュリティが厳しいようである。織姫・牽牛のエントランスはこの通路と同じ高さにあった。つまり地面より低い所にこの体育館は建っているようだ。
「今の時間帯は私のidでしか入れない」
と言って、千里さんはどうも別のQRコードを表示させて織姫の玄関を開けたようである。そして邦生たちを中に入れた。
「広ーい」
「消防署に届けている定員は15000人。実際には12000人程度で運用することにしているけど、コロナが終わらないと、実際の客は入れられない」
「今年中には終息しますかね」
「微妙だね。来年の震災イベントでは本当に客を入れられるかも知れないけど」
「そうなるといいですね」
「たくさんスクリーンが並んでいる」
「スクリーンは1万台あって、抽選で選ばれた1万人の観客とつながっている」
「スピーカーも置いてありますね」
「スピーカーは2万台あって、2万人の観客とつながっている。だからここのステージで演奏すると、本当に観客の声援の中で演奏することになるんだよ。手を振ってる姿も見えるし、逆に下手な演奏したら、がっかりしたような顔を見ることにもなるし」
「厳しいですね」
「でもそれでこちらも真剣勝負になる」
「スタジオライブとかも客の反応が無いからやりにくいと言いますもんね」
「このあけぼのテレビ方式は、やり方は公開してるし、真似していいと言ってるけど、真似する所は出ない」
「初期投資が凄まじいから、なかなかできないと思いますよ」
「まあ、このシステムを、織姫、深川、火牛、小浜の4ヶ所に設置するのに100億掛けてるからね〜」
「やはり他の所は真似できませんよ」
うーん・・・。やはり先日融資を申し込まれた80億って、千里さんにはハシタ金なのでは?と邦生は思った。きっと、自分の長期出張で銀行に便宜を図ってもらったお礼なのだろう。
「でもステージが前後にあるんですね」
「うん。交互に使って、他方を使っている間に消毒」
「徹底しているなあ」
「スクリーンとスピーカーは回転椅子に載ってるから、ステージが反転すると椅子も反転する」
「すごーい。ハイテク〜」
と久美子は言ったが
「ローテクだよ。このくらい小学生の工作レベル」
と千里さんが言うのに邦生も頷いた。回路や動作部分だけなら自分でもできると思う。ただ、1万台全てをエラーなく回転させるのは結構大変だという気がした。すると千里さんは邦生の心を読んだかのように
「たまに回転しない奴がいるから、市中見廻り役同心がチョチョイとつついて回転させる」
と言った。
「ああ、1万個もあったら、サボる奴いますよね」
「そうそう」
そうか、結局見回りが大事なのか。
「椅子はお洋服を着てるんですね」
「人間が実際に座っているような音響にするためだね」
「なるほどー」
これは小鳩ホールの音響の作り方と同じだなと邦生は思った。
「出番は明日の夕方だから、それまで寝てていいよ。食事は朝昼晩置き配されるし、おやつや飲み物が欲しかったら、地下1階に自販機もあるし、クレールに電話したら、やはり置き配してくれるから。雑貨とかの欲しいのもクレールに言ってね。調達してきてくれるから」
「分かりました」
「あと、宿舎は禁煙だから。たばこを吸うとスプリンクラーが作動して水浸しになるから」
「東北で冬に水浴びはしたくないなあ」
(クレールのメイドでやらかした子がおり「次やったら掃除代取るからね」と、和実に叱られたらしい)
タバコを吸う習慣のある子は居ないようで、これは問題無いようだった。
それで全員宿舎に戻って休んだ。
3月5日(土)の朝、深川アリーナのJER4事務局に、電話が掛かって来た。
この電話(JER4の電話)に着信があるのは珍しい。
ここはJER4 (Joyful-Gold, Edokko, Rocutes, 40-minutes) の事務所と 40 minutesの事務所を兼ねており、実はJER4には社員が存在しない。JER4という会社は深川アリーナを所有しているだけの会社であり、実務が無い。ほぼペーパーカンパニーである。従ってそこに連絡があるのもめったにない。
この日ここでお留守番をしていた荻野浩子(32)は電話を取った。
「おはようございます。JER4でございます」
「こちらは都知事秘書室でございますが、社長さんはいらっしゃいますでしょうか?」
都知事!?
「すみません。恐れ入りますが、どのようなご用件でしょうか」
「すみません。そちらは?」
「失礼しました。私はJER4の事務を委託されております。40 minutesの常務取締役で荻野と申します」
「常務さんでしたか。失礼しました」
「いえ。JER4というのは、ジョイフルゴールド、江戸娘、千葉ローキューツ、フォーティーミニッツという4つのバスケットボールチームが共同で設立した会社なので、職員もその4つの団体から派遣されているんですよ。ですから、内容次第で、担当役員などに連絡を取りますが」
「なるほどですね。でも常務さんでしたら、少し知事と直接話して頂けませんか」
「はい!」
都知事と直接話すの〜〜?私が!?
浩子はむっちゃ緊張した。
「おはようございます。都知事の**です」
「おはようございます。フォーティーミニッツ取締役常務の荻野浩子でございます」
「常務さん、単刀直入にですね。今深川アリーナが建っている土地をそちらで買い取ってくださるようなことは考えられないでしょうか」
「買い取りですか!」
「私も元々の経緯をよくは聞いていなかったのですが、元々そこの土地に建っていた廃校の体育館を借りておられたのが、土地全体を借りられないかという話になり、どうもT元都議の口利きで、そちらが借りることになり、体育館を建設なさったということでしたね」
「そうなんですよ。最初はその体育館をお借りして練習していたのですが、やはり手狭でしたし、公式戦の開催にも使えないので、東京都区内東部のどこかに体育館を建てるのに必要な広さの土地を買うか借りるかできないかと言っていたんです。ちょうどそこにTさんからここを年間3億円で貸しても良いと言われまして、それで賃貸契約を結びました」
と浩子は答える。
今日の留守番が自分で良かったと思った。このあたりの経緯を知っているのは、自分と千里以外には少数しか居ない。そしてこの3億円は実は2億しか都には支払われておらず1億はT都議が着服していたことがT都議逮捕後に明らかになり、その後、振り込みは直接都の口座におこなうよう変更されている。
それで都知事の話は、可能なら賃料をもう少し上げるか、あるいは、いっそ買い取ってもらえないかという話だったのである。都知事が直接電話してきたということは、多分緊急にお金が必要なのかもと浩子は思った。たぶんオリンピックの後始末+コロナ対策で、今都の財政はかなり厳しくなっている。
浩子は
「多分買い取れると思います」
と独断で返事した。千里に言えば、ポンと買い取るだろう。今の千里の経済力なら多分200-300億くらいまでは出せる。さすがにそこまで高くは無いと思うけど。
「でも詳しいことは会長と話して頂けませんでしょうか。会長と至急連絡を取ります。何番に掛け直せばいいですか?」
「では****-****-****まで」
「分かりました。そちらへご連絡するよう申し伝えます」
「よろしくお願いします」
都知事との電話を終えてから、浩子は悩んだ。
千里の電話番号がいくつもあるけど、どれに掛けよう!?
えーい。適当に掛けちゃえ、というので多数並んでいる番号のひとつに掛ける。
「浩子ちゃん、お久〜。どったの?」
「今都知事さんから電話が掛かって来て、深川アリーナの土地を買い取ってもらうことはできないだろうかということだったんだけど」
「ああ。それは全然OK」
「と千里が言うだろうと思って、多分買い取りOKと言うと思いますと答えた」
「うん。それでいいよ。元々ここの土地は、体育館建てる時も、土地の買い取り求められたら買っちゃえばいいよねと言ってた」
「私もその話聞いてた。多分、千里とケイさんが会話してた場に私も居たんだと思う」
「そうかもね。それでいくらで?」
「詳細については、都知事さんと直接話してくれる?電話番号は・・・」
と言って、浩子は連絡先の電話番号を伝えた。
千里はその番号に掛けて、知事と直接話し、今日お昼から会って話すことにした。
千里は約束通り、ジャスト13時、都知事室を訪れた。服装はレッドインパルスの公式ジャケットスーツである!これは充分第一礼装なのである。
「すみません。今日は夕方から代々木第2で試合があるものですから、この格好で失礼します」
「あなた、もしかして東京オリンピックでメダル取りませんでした?」
「覚えていてくださってありがとうございます。女子バスケットボールで銀メダルを頂きました」
「大健闘でしたね」
「アメリカにはかないませんでしたが。それで私は舞通レッドインパルスの選手と、フォーティーミニッツのオーナーの兼任で、JER4の筆頭株主なんですよ」
「凄いですね」
(JER4資本構成→千里45% ケイ30% 雨宮15% KL銀行10%)
「あの体育館を建てる時は、最初は江戸川区に安い土地があるという話もあったのですが、そこにTさんの方から、江東区の土地を貸せるという話が持ち込まれてきまして。ちょうどそこに建っていた廃校の体育館を練習に使わせてもらっていたのもあり、お借りして体育館を建てさせてもらったんですよ。賃料も格安だったし。でもその時、共同事業者とは、ここ土地の買い取り求められたら買っちゃえばいいよねという話もしていたんですよね」
「なるほどですね」
「で、土地代、おいくらくらいなら売って頂けます?」
「120億円とかは無理ですか?」
あの付近の路線価からすると本来は100億円くらいの筈だか、知事は少し高い金額を提示した。しかし千里は言った。
「ああ。いいですよ。あそこ建てる時、この付近は平米あたり60万円くらいかなあと言っていたので、そのくらいは許容範囲です。売買契約書を作って頂けたら今すぐ振り込んでもいいですが」
あの土地は約1.6万平米である。
「今すぐですか!?」
と都知事のほうが度肝を抜かれた、
正式な売買には議会の承認が必要ということだったが、千里は買い手の企業資料として、フェニックストラインのIR資料、サマーガールズ出版の決算報告書、アクアシュラインの決算報告書、KL銀行のIR資料を渡した。
「では議会に掛けますが、もしかしたら少し金額が変動するかも知れませんが」
「多少の変動はOKです。いつでもご連絡ください」
「村山さんに直接連絡したほうがいいですか」
「私は試合で全国飛び回っていますので、事務局の荻野の方にご連絡ください」
「分かりました、そちらに連絡します」
「それではよろしくお願いします」
と言って、千里は都知事室を出た。
ということで、3月5-6日には、下記の千里が暗躍していた。
・代々木第2で試合に出た千里(多分3番)
・仙台で震災イベントに出た千里(多分2番)
・都知事に会った千里(恐らく5番)
・邦生たちを連れて金沢と仙台を往復した千里(性格が4番っぽい)
千里4?が運転するCX-5が仙台若林公園に到着したのが3月5日(土)朝7時頃で、会場を見学してきた後、邦生は取り敢えず寝ようと思った。その前にシャワーを浴びることにする。浴室で髪を洗い、身体を洗い、お股を洗う。お股はまたまた真珠の手で昨日朝、タックされてしまっているので、外見的にはまるで女子のようである。
俺、万一何かの間違いで性転換手術とか受けちゃったら(受けることはないとは思うけど、いまいち自信が無い!)、こんな感じになるのかなあなどと思いながら、そのスムースな股間を洗った。
足を荒い、足の指の間まで洗うと気持ちいい。
それでお風呂からあがり、身体を拭いて浴室を出る。部屋に洗濯機があるので(*6)着ていた服は放り込んだ。ついでに昨日のセミナーで着た、シャツとジーンズのパンツも洗濯機に放り込み、置かれている洗剤パックを1個放り込んで回した。
つまり着てきた服は、手洗いが必要なライダースーツと、使うかも知れないと思ったフリースジャケット以外、全部洗濯してしまった。
(*6) 基本設計がクレールの女子寮をベースにしているし、ここは高校生の部活の合宿などにも使われるので、長期滞在できるよう、小型の洗濯機と冷蔵庫が装備されている。洗濯機は小型なので、1人1日分の着替えを洗うのにもちょうどいいサイズである。
そして久美子が買ってくれた着替えの入ったレジ袋を開ける。
「うっ」
そこに入っていたのは、上着と“膝下スカート”のスウェット上下同色2セット、ビキニショーツ(M)よりどり3枚組×2セット、ゴールドベージュ系のミニスリップ4枚、ピンクベージュ系のブラジャー(B85)4枚、黒のタイツ(L)4足、フェイスタオル3枚であった。
しまったぁ・・・
洗濯機を回す前に着替えの中身を見るべきだった!!!!!
でも確かに久美子なら、女物を買いそうな気がする。
いや。。。真珠が買っても、瑞穂や母ちゃんが買っても、峰代とかが買っても女物しか買わない気がする。俺に男物の服を買ってくる奴は居ない!!!
ということで、今邦生の手元には、穿けるズボンが存在しないのである!
男物の下着も無いが、これはまあいいことにする。
取り敢えずショーツを穿く。タックされているので、ピタリとフィットする。
うーん。この感覚、やみつきになりそう、と思う。
ブラジャーは取り敢えず黙殺!してミニスリップを着ける。キャミソールだとおへそが出るので、邦生がミニスリップをキャミソール代わりにしているのは、わりと女子の友人たちには知れ渡っている。久美子も知っていたのでこれを買ってくれたのだろう。
(ちなみに邦生はあまり意識していないが、彼にはあまり男子の友人がいない。呉羽も春貴も性転換しちゃったし!)
ここで風邪とか引いてはいけないのでタイツを穿く。そして、後はそれしかないので、仕方なくスウェットの上下(上着+スカート!)を着た。
まあ出番までは部屋に居ればいいし、明日の夕方まではにはジーンズのパンツが乾くだろうと考える。
少し休もうと思い、ベッドに横になり、寒くないように毛布も掛ける。
リモコンでテレビを点ける。
モニターは正方形だが、画像は横長に映り、上下は黒い。
あれ?
映っているのは、あけぼのテレビのようである。これは普通のテレビではなくネットテレビかと分かる。見ると、30インチくらいの正方形?モニターにスティック・レシーバーが差してあった。
これでイベントの中継が見られるのかな?
少しうとうとしていたのだが、イベントが始まった様子なのに目を開ける。
最初に主催者(08年組)を代表してXANFUSが開会宣言をした。
しかし彼女たちは東京のスタジオに居るようである。このイベントは1日目は§§ミュージックの歌手たち、2日目が08年組なので、XANFUSは多分今夜か明日の朝、仙台に来るのだろう。
その後、県知事さんの挨拶があるが、なんか退屈だなと思った。
そしたら途中で打ち切られた!
放送するイベントでは、各々の時間を厳守してもらわないと困る。
邦生は、リモコンに「L90゜」というボタンがあるのに気付いた。何だろう?と思って押してみたら、モニターの画面が90度回転した!
面白ーい!と思う。このためにモニターは正方形だったのかと理解する。でも邦生が寝ている向きからは上下さかさまである。
それであと2回押して見やすくした。最近のテレビは便利だなぁと思って、その状態で眺めていた。
知事さんの挨拶の後は、信濃町ガールズのパフォーマンスがあり、やがて、常滑舞音が登場する。
お、この子、可愛いよねと思って注目する。
歌に合わせて、信濃町ガールズたちが、様々な縁起物に扮して登場する。だるま、信楽焼の狸!、サルボボ、黒田武士?、ぶんぶく茶釜、金太郎!
なんかこの子たち、アイドルを捨ててるというか、女を捨ててるというか、よくやるなあ、と思った眺めている。舞音自身もいつの間にか猫の扮装になっていた。
結局2時間にわたる“コスプレショー”を最後まで見てしまった。
この後のスケジュールはこのようになっていた。
3/5
09:30-11:30 常滑真音
11:30-12:00 AT3:あけぼのテレビ3人娘
12:00-12:27 みなみ&甲斐
12:30-12:57 煌&ビーナ
13:00-13:27 ジョナ&水谷
13:30-13:57 七尾ロマン
14:00-14:27 ルビー&パール
14:30-14:57 川内みねか
15:00-15:27 西宮ネオン
15:30-15:57 高崎ひろか
16:00-16:27 品川ありさ
16:30-17:27 白鳥リズム
17:30-18:30 姫路スピカ
18:30-19:00 ロンド&カペラ&ポルカ
19:00-21:00 アクア
常滑真音のパフェーマンスが終わった所でお昼御飯の置き配があったので、それを食べた。
「さて、少し練習するか」
各部屋は防音構造だから、楽器を鳴らしていいと言っていたなと思うが、念のためカーテンも閉めた。
もらった譜面を見る。
「え〜〜〜!?」
と思わず邦生は声をあげた。
「千里さんの嘘つき!お正月には無かった曲目があるじゃん!」
お正月とだいたい似た曲目なのだが、お正月の時には無かった『金目鯛』と『Atoll-愛の調べ』が入っているのである。
まずはこの曲を練習しなくちゃ!
どちらも邦生の担当はトロンボーンである。まずは譜読みしてから、譜面に沿って吹いてみる。
あ、何とかなりそう。
でもこれほんと今日の内に譜面確認しておいて良かったと思う。どちらも30分くらいで吹けるようになった。
その上で、全曲目、通して練習してみた。お正月にも演奏した曲については、アレンジは変更されていないようである。ただ2ヶ月ほど経過して結構細かい所の記憶が曖昧になっている部分もあった。
楽器はホルン・トロンボーン・チューバと持ち替える。今回はトランペットが入っていない。せっかく持って来てはいるが、まあ小さな楽器だからいいかと思った(車に積んだのは真珠だし!)。
時刻は16時頃だが、少し仮眠することにした。ベッドに潜り込み、目を瞑ると疲れが溜まっているので、自然に眠りに落ちて行った。
目が覚めると、外はもうすっかり暗くなっていた。夕食が置き配されていたので(置き配されたものがあると、入口のランプが点いている)、それを取り込んで食べる。テレビを点けると顔がよく分からない女の子3人がなんだかトークしているが、つまらない(売れないシスターズである!)
消して寝ようかと思ったら、アクアが登場する。
おっと思い、起き上がって見る。
彼(彼女?)は可愛いドレスで登場していた。ほんっとに可愛い。その上、歌もうまい。お嫁さんにしたいタレント・ランキングで、2年連続(2020,2021)圧倒的トップというのがよく分かる。最近はかなり色気も出て来ている。2〜3年以内に「お嫁さんに行きます」と宣言してもおかしくない感じだ。
千里さんはこの子は150度、思春期前の少年くらいの性別軸だと言ってたことを思い出す。だけど既に完全に女性化してるよなあと思って眺めていた。やはりアロマターゼが過剰になり女性ホルモン優位になっているのだろう。去年出た鏡迷宮の写真集でも人魚姫のコスプレとか、豊かなバストが確認できたし。それに小さい頃の病気でペニスは取っちゃったらしいし、これだけ可愛かったらお嫁さんになってもいいんじゃないのかなあ。ヴァギナくらい作ればいいし?
それでも、本人の意識としては男の子なのだろうか。
性別なんて気持ちの問題だもんね〜。外見が男に見えるか女に見えるかとか、ペニスがあるかどうか、おっぱいがあるかどうかなんて関係無いことだし。
ひょっとしたらこの子、自分の状態に近いのかもと思うと親近感が湧いた。まあ自分はペニスは取ってないけど。
だけど俺、この子みたいにバスト膨らんできたりしないよね?
と少し不安になった。
でも千里さんはこれ以上女性化することはないと言っていたから大丈夫かな?完全な男にするというのは、何かうまく言いくるめられてしてもらえなかったけど、自分が適度に?女っぽいのは、真珠の好みのようでもあるし!
アクアは後半では王子様っぽい衣裳に着替えて歌った。やはり“女の子アクア”に絶大な人気があるから女の子衣裳も着けるものの、本人としては自分は男の子と思っているから、男の子衣裳も着けたいんだろうな、と思うとまたまた親近感が湧いた。
ちなみに邦生の銀行の制服は、女性仕様のものを着ていることに気付いた後、長谷さんに言ってみたものの「別にどっちでもいいじゃん」と言われて、結局、女性仕様のものをそのまま着ている。邦生も本人としてはわりとどっちでもいい。スカートはさすがに拒否したいけど。
(なぜ2ヶ月も左前の服を着ていることに気付かなかったのかは、筆者も不思議である)
アクアのステージの後はまたぐっすりと眠り、3月6日(日)の朝5時半頃に目が覚めた。まだ日は昇ってないようだが、もう外は明るくなっている。
スウェットはそのまま着ててもいい気がしたので、下着だけ交換する。着ていたミニスリップ、ショーツ、タイツを脱いで、新しいショーツを穿き、ミニスリップを着けて、タイツも履いた。脱いだ服は少量だけど洗濯しておこうかなと思い、洗濯機に入れようとして、ギョッとする。
しまったぁ!
昨日の朝洗濯したものをまだ取り出してなかった!
慌てて取り出して、室内物干しに干した。ズボンが夕方までに乾いてくれますように、と祈る。そして着替えた服を洗濯機に入れて回した。
「練習しなくちゃ!」
と思った。
再度1曲1曲、譜面を確認するかのように吹いていく。吹きにくいように感じた所は特に練習する。
途中で朝食が置き配されていったので、練習を一休みして食べる。洗濯機は終わっているので、今朝洗ったものも一緒に干した。
午前中いっぱい練習して少し休む。お昼を食べてから、ベッドに横になり、ローズ+リリーのCDを聴いてイメージトレーニングをした。
テレビは音を消して映像だけ眺めている。KARIONが出ている。
「この蘭子って、ケイさんだよね?」
と思った、
念のため自分のパソコンで、“蘭子 ケイ”とGoogle Chromeのアドレスバーに打ち込むと、検索候補として“同一人物”という検索候補が出てくるので、やはりそのようだ。
しかしローズ+リリーとKARIONを掛け持ちでやって、毎年100曲くらいの楽曲を書き、それで§§ミュージックの会長もしてるって、どんだけタフなんだ?と思った。自分なら、自分が4〜5人いないと、とてもやっていけないと思う。
(邦生は2月21日に放送された『作曲家アルバム・丸山アイ編』を見てない!)
CDを聴いている内に、いつの間にか眠ってしまっていた。
目を覚ましたら16時だった(ちょうどオリーブ・レモンが終わった所!つまり邦生は明恵が出演しているのを見なかった)。
シャワーを浴びて身体を起こす。
身体を拭いてから、新しいショーツとミニスリップを着る。この時、何となく気分で、ブラジャー着けてみようかなという気がしたので、装着した。(きっと丸2日女物の服を着て、スカートまで穿いていた影響)
肩紐は最大に伸ばさないと自分の身体には合わないことを知っているので伸ばす。その上で両腕に肩紐を通し、後ろ手でホックを留める。ブラジャーなんて着けたのは久しぶりだったけど、ちゃんとできた。
ジーンズのパンツはまだ完全には乾いていない。あと1時間くらいで乾いてくれることを祈るしかない。
それで着替えた服はもう洗濯して乾かすことができないからと思い、レジ袋に放り込んでスポーツバッグに入れる(レジ袋に入っているものは洗濯すべき服という区分け:普段の出張とかの時の自己ルール)。
ショーツやミニスリップはもう乾いているので、そのまま丸くロール状にたたんでバッグに入れる。女物の下着って、スペース取らないのがいいよなと思った。
早めの夕食が置き配されてくるので、それを食べてから、気になる所だけ再度練習した。
17時すぎに、ドアベルが鳴る。
「クレールのスタッフの森本和絵です。楽器の移動をお手伝いします」
と言われる。
「ありがとう」
スカートタイプのスウェットを着たままだが、いいことにしてマスクをしてからドアを開けた。クレールのメイドさんなんだろうけど、ほんっとに可愛い服を着てるなあと思った。
彼女にチューバ・ホルン・トランペットを渡した。ホルンとトランペットの楽器ケースの持ち手は、ベルトを通して一緒に持てるようにしている。
「トロンボーンはもう少し練習したいから、後で自分で持っていくよ」
「了解です。お疲れ様です」
と言って、彼女は3つの楽器を持って行ってくれた。
出る準備をする。
楽譜・財布・名刺入れ、手帳の類い、スマホはトートに入れる。ライダースーツやフリースジャケットはパソコンと一緒にリュックに入れる。余った着替えはスポーツバッグに入れる。ジーンズのパンツは結局まだ完全には乾いていない!もう仕方ないのでスカートのまま行くことにした。どうせ衣裳に着替えるから、それまでの間だし。それでパンツはスウェットスーツの入っていたビニール袋に入れてから、スポーツバッグの中に入れた。
新しい2曲のトロンボーン・パートを再度練習してから、トロンボーンも楽器ケースに入れる。洗濯機の中を確認し、ベッドの上を確認し、そのほか忘れ物が無いか確認する。
17:25.
リュックを背負い、スポーツバッグを肩に袈裟懸けし、トートバッグとトロンボーンの楽器ケースを持ち、マスクをして部屋を出た。
(なお講習会の資料は真珠に渡している:真珠は資料が重いので放送局に置去りにした!)
それで出ることにする。邦生はスウェットの上下を着ているが、この方が衣裳に着替える時も脱ぎやすくていいはずである。
エレベータで地下2階まで降りる。昨日の朝教えられた通り、QRコードをかざしてドアを開け、織姫・牽牛への連絡通路に入る。邦生が入ると通路の灯りが点く。動く歩道で進んでいくので楽である。
結局、17:32頃に織姫に到着。ローズ+リリーの楽屋に入った。
「吉田さん、おはようございます」
と笑顔で白石マネージャーが言った。1月に初めて会って、そのあと2ヶ月ぶりなのに、よく顔見ただけで名前が出てくるなあと感心した。
「おはようございます、白石さん」
と邦生も挨拶を返した。
「まだローズ+リリーは来てませんが、伴奏者の方はこれに着替えて頂けますか」
と言って衣裳を渡されるので、控室内の着替えブースに入った。
やっとこれでスカートから逃れられる・・・と思ったのだが、衣裳もスカートである!!
ブースを出て、白石さんに尋ねる。
「あのぉ、ズボンの衣裳とかは無いんでしょうか?」
「あら、吉田さん、パンツ派ですか?結構そういう人も多いんですけどね。震災イベントでは、春っぽくスカートにしようということで、スターキッズの男性演奏者以外は、全員スカートにしたんですよ」
つまりズボンの衣裳は存在しない!?
まいっか。
それで邦生は「分かりました」と言ってブースに戻り、衣裳に着替えた。
春っぽい桜色のジャージ生地の上下で、胸には TOHOKU 2022 というロゴが入っていた。
なお、邦生がスカートの衣裳でホルンやトロンボーンを演奏している様子は『北陸霊界探訪』でも30秒ほども流されることになる!
ちなみに、男性用衣裳はもちろんあるので、邦生が「私男なんですけど」とか言えば、ちゃんともらえたはずである。もっとも男性用のズボンが邦生に穿けるとは思えない!(やはり女子衣裳を着るしか無かったかも?)お正月の時は寒いこともあり、女子用のズボン衣裳も存在した。
なお、男子にスカートを穿かせるのが大好きな某は、ヴァイオリニストの生方芳雄が来たら、何とかうまく乗せるか欺してスカートの衣裳を着せようと思っていたのだが、今回は生方さんは不参加で、計画は空振りとなった。
(生方さんと伊藤ソナタさんを予定していたが、どちらも他の仕事が入り、キャンセルになった。それで“身内”の鈴木真知子・愛弥子の姉妹を呼んだ)
邦生に関してはその某も普通に女子だと思い込んでいた。白石マネージャーも邦生を見てふつうに女性と思ったので、スカートの衣裳を渡した。だいたいここにスカート穿いて入ってきたし!!胸も膨らんでるし!(Bカップのブラをすれば普通に胸があるように見える)
ケイは「あれ〜、吉田さんがスカートを穿いてる」と思ったものの、やはりこの子、女の子になりたいのかなあ、くらいに思った(そういう人が関係者に多すぎる)。
邦生より少し遅れて久美子と世梨奈も楽屋に入ってきて衣裳に着替えたが、彼女たちは邦生がスカートを穿いていることに何も言及しなかった(もしスカート衣裳を着てたらその件は言わないようにしようと示し合わせていた!)。
千里さんが熊の顔のかぶりものを持っているので
「またミーシャですか?」
と尋ねた。
お正月のイベントでは千里さんは顔を出さずに「熊のミーシャ」を名乗って熊のかぶり物をして演奏したのである。何でもどこかから逃げてきた?とかでここに居るのが分かるとやばいからということらしかった。今回もまたどこかから逃げて来たのだろうか。
しかし千里さんは
「今回はくまのプーさん」
と言った。
「ミーシャはロシア国籍だから今回、日本のビザが取れなくて入国できなかったんだよ」
「はあ」
「ミーシャと顔が同じという気がします」
と久美子がツッコんでいた。(お客さんからも同様のツッコミ多数)
19:00.
ステージが始まる。
基本的にはお正月のライブと似た楽曲だが、何曲か入れ替わっている。但しアレンジは原則として同じである。また、今回は単独ライブではなく、他のアーティストとの共用ステージなので、大がかりな仕掛けなどは省略されている。また時間帯が夜なので、幼稚園児たちや、信濃町ガールズたちの出演もカットされていた。
冒頭、『いつも太陽があるように』について、ケイが
「なんでこんな時にロシア語で歌うんだ?とお怒りの方もあるかも知れませんが、私たちは、ロシア語を理解する人にこそ、この平和を訴える歌を聞いて欲しいからロシア語で歌うんです」
とコメントしてから始まった。背景に、お正月のイベントで早月ちゃんが描いた絵と、歌詞の日本語訳が表示されていた。
更にケイとマリは「Dona nobis pacem(平和を私たちに与えたまえ)」をラテン語で歌い、これもバックに日本語訳が表示された。この曲は知っている人も多く、唱和する声が会場に響き渡った。
この2曲のピアノ伴奏を務めたのは“くまのプーさん”である!
その後、前半はこのような曲を演奏していった。
『虹の願い』
『ぼくたちの秘密基地』
『歯磨き味のイチゴ』
『Atoll-愛の調べ』★
『Multiply』
『金目鯛』★
『白い雪・愛のテーマ』
『ガラスの靴・愛のテーマ』
『湖より・愛のテーマ』
『Burning Snow』
★が、お正月には無かった曲で、邦生はどちらもトロンボーンを吹いたが、無事ノーミスで吹くことができてホッとした。
出演者がいったんステージから下がり、Flower Sunshineの桜井真理子と安原祥子が2人ともアルトサックスを持って出て来て、サックスの“曲芸二重奏”を披露した。
吹きながら背中合わせで回転したり、足でサッカーのボールをリフティングしながら吹いたり、安原の肩の上に桜井が飛び乗って“二段吹き”をしたり、吹きながらバク転したり!
こういうアクロバット的なことをするため、サックスはストラップではなく、身体に棒のようなもので固定しているようである。
これは充分“芸”になっていると思い、控室で休んでいた邦生たちも大きな拍手を贈った。
後半は下記のような曲を演奏した。後半は全部お正月にも演奏した曲なので安心して吹くことができた。
『君に届け』
『H教授』
『青い豚の伝説』
『コーンフレークの花』
『フック船長』
『ピンザンティン』
ここまで演奏した所て、スターキッズ以外は出番終了である。時刻は20:43である。千里さんが、邦生、久美子、世梨奈に声を掛けた。
「帰るよ」
「もういいんですか?まだ少しパフォーマンスは続きますが」
「君たちの出番は終わったからね。できるだけ早く帰らないと、明日に響く」
「確かに」
なおこの後ライブは“サービスステージ”(リアルライブのアンコール相当)と、イベント・ラストの08年組全員・観客全員による『花は咲く』が演奏されるはずである。
それで邦生たちは荷物を持って楽屋を出た。服はステージ衣装のままである。つまりスカートのままである!邦生の楽器は、信濃町ガールズの太田芳絵ちゃんと、夢島きららちゃんが持ってくれた。
織姫の表に、大きな車が駐まっている。
「日産キャラバン?」
「そうそう。定員4名の」
「4人しか乗らないんですか!?」
「これは特別仕様車なんだよ」
と言って、千里さんがドアを開けると、ほぼフラットに近い状態になった座席?が3つだけある(助手席は最も前まで押されている)。
「このキャラバンは車中泊専用の車で、フルフラットにした状態で3人寝ることができる。但し、フルフラットの状態で走行すると、シートベルト違反になるから、違反にならないギリギリの角度まで起こしてある」
「へー!」
「いちばん奥、運転席の後ろに邦生(くにお)ちゃんが寝て。真ん中に久美子ちゃん、ドアのそば、いちばん手前に世梨奈ちゃん」
「分かりました」
「それと冷えないようにこれ穿いて」
と言って、千里さんはスウェットのパンツ(ズボン)を3人に配った。全員スカートは穿いたままパンツを穿いた。裏フリースで、凄く温かく感じる。
それで3人は寝たが、かなりフラットに近い状態ではあるものの、しっかりシートベルトが締められたし、更に足元に ┗┛ のような形の足押さえがあるので、そこに足を入れると、隣の人を蹴ったくらなくて済むし、身体も安定する感じだった(実際には世梨奈は久美子にかなり蹴られた模様)。
(邦生を最も奥にしたのは後述の降りる順序の問題と、女子の足を邦生が見る形にしないためである))
千里さんは3人に毛布を掛けてくれた。
「じゃ6時間ノンストップで走るから」
「大丈夫ですか?」
「平気平気。私はライブ中寝てたから」
「出演なさってたじゃないですか!」
「出演してたのはミーシャだよ」
「プーさんということは?」
「あ、そうか。プーさんだった」
それで車は太田芳絵・夢島きららに見送られて、出発したのである。
(出演したのは2番で。今ここにいる千里4番は本当に寝ていた)
邦生は疲れていたので、そのまますぐ眠ってしまった。
車が駐まる。
「トイレ休憩〜」
というので、全員いったん降りてトイレに行く。むろん4人とも女子トイレに入る。
「ここは・・・?」
「上川PA。ちょうど道の途中だね」
「千里さん短区間でも運転代わりましょうか?」
と邦生は言った。
「大丈夫だよ。君たちはお仕事のために寝てて」
「はい」
「でも眠くなりませんか?」
と世梨奈が訊く。
「その時は寝ながら運転するから平気」
「え〜〜〜!?」
冗談だよね?ね?ね?
ともかくも全員座席に就き、千里さんが毛布を掛けてくれて出発した。
後で考えると、みんな眠かったこともあり、この上川PAでは誰も時計を見なかったのである。
邦生はまたすぐ眠ってしまった。かなり深く寝た気がする。
やがて車が駐まる。世梨奈の自宅前だったようで、世梨奈が
「ありがとうございました。お疲れ様でした」
と言って、降りた(邦生は夢うつつ)。
それから少し走って、また駐まる。久美子の家だったようで、久美子が降りた。
そうか。座席は降りる順序だったのか。
「じゃ後はくにちゃんだね。30分くらい掛かるから寝てて」
「はい」
実際邦生はまたすぐ眠ってしまった。そして
「あと10分くらいで着くよ」
という声に起こされる。
「真珠を呼びます」
「それがいいね。ひとりじゃ荷物持てないもん」
それで邦生は真珠に電話を掛けた。深夜だから熟睡してるだろうと思ったのだが、真珠はすぐ出た。
「もうすぐ着くけど、荷物が多いから、降りてきて手伝ってくれる?」
「了解了解」
やがて千里さんが運転するキャラバンは邦生のマンション前に到着した。
「本当にありがとうございました」
「朝までまだ少しあるから寝てるといいよ」
「はい」
それで降りる。真珠と明恵!が荷物を持つのを手伝ってくれた。
それで千里さんにお礼をしてから、3人はマンションに入った。
取り敢えず3人で7階まで上がり、荷物を部屋の中に入れた。
「でも早かったね。出番は午後だった?」
「いや、21時までだよ。正確には20:45くらいだったかな。最後のアンコールには出なかったから」
真珠と明恵が顔を見合わせている。
「だって、まだ11時すぎた所なのに」
「嘘!?」
と思って、居間のデジタル時計を見ると23:15である。
まさかわずか2時間半で、仙台から金沢まで来たの〜〜〜!?
平均速度240km/h??
「まあいいや。寝よう寝よう」
「うん」
「でもスカートとパンツを重ね着してるのね」
「足が冷えないようにズボン穿いた」
「ああ、なるほどね」
明恵たちは“スカート”の方にツッコミたかったのだが、いいことにした。
明恵がピザを解凍してくれたので、それを食べた。
「疲れてる時はこれがいいよ」
と言って、真珠が一番搾りを渡すので、たまにはいいかと思い飲むと完璧に酔った(疲れている所に飲んだら当然そうなる)。その後の記憶が飛んでいるのだが、真珠とセックスしたような気がする。
目が覚めたらもう7時近くである。
でもぐっすり寝た感じだった。
トイレに行く。ずっと後ろの方からおしっこが出るのはもう気にしない。かなりの量が出た。でも便座に座っていて、疲れも充分取れているのを感じた。
しかし・・・・タックが更に強固に補正されている気がするんですけど!?
「くーにん、今日は自分でバイク運転するの危ないよ。ぼくが送るよ」
と真珠が言うので、朝御飯を2人で一緒に食べて(明恵はライブと往復の疲れで、まだ寝ている)から、真珠に送ってもらって銀行に出社した。
かくして、邦生は金曜の夜から月曜の朝?まで掛けて仙台まで車で往復したのに、勤めを1日も休まなかったのである。(世梨奈と久美子は月曜日休ませてもらったらしい)
なお、明恵は、日曜日16時に(東京での)オリーブレモンのステージが終わった後
「明日学校があるよね?」
と言って、アイが熊谷まで送ってくれた。そしてそこからエキュレイユ2(ヘリコプター)に乗せて津幡火牛タウン!まで運んでもらった(能登空港はこんな遅い時間はもう閉まっている)。津幡火牛タウンのヘリポートが使用されたのはこれが初めてかも?若葉が「あると格好いいから」と言って作っただけで、特に使用のあては無かったのだが。
熊谷に着いたのが17時半くらいで、そこから1時間半ほどのフライトで津幡に到着した。それで明恵は真珠を呼び出して、金沢の“宿泊所”に一緒に戻った?のである(荷物があるのでNinja1000使用)。
明恵を迎えに行き、そのあとコンビニでおやつなどを買ったりしていたので、真珠は結局リアルタイムではローズ+リリーのライブを見逃した。でもタイムシフトで見ればいいやと思った。
そして
「くーにんが帰ってくるのはきっと朝だよ」
などと言いながら、真珠はビール、明恵もチューハイを飲みおやつを食べていたら、23時すぎに邦生が戻って来たので、びっくりしたのであった。
明恵は疲れが出て朝8時半近くまで寝ていたが、真珠に起こされ、結局、真珠のバイクに相乗りして大学まで行った。(明恵は自分のアパートに戻っていたら、多分お昼過ぎまで寝ていたと思う)
青葉たち津幡組は3月2-5日に、辰巳国際水泳場で、国際大会日本代表選手選考会に臨んだ。日本水連はその結果を受けて、3月7日(月)、下記のように、ブダペスト世界水泳の代表選手を発表した(↓は津幡組関連分のみ)。
1500m 川上青葉、竹下リル
800m 川上青葉、金堂多江
400m 竹下リル、金堂多江
400iM 金堂多江、川上青葉
200iM 金堂多江、竹下リル
男子
400m 筒石君康、山先龍男(ST)
1500m 星田英市(ST)、筒石君康
男子の山先さん、星田さんは大手のSTスイミングクラブ東京教場の所属である。実は金堂多江もSTスイミングクラブ仙台教場に所属しているのだが、2020年以降、自分のクラブでは全く泳がず、ずっと津幡で泳いでいる。これは自分のクラブでは多数の人と施設を共用するため、感染確率も高いし、そもそも長距離選手は充分な練習時間が確保できないからである。
ちなみに南野里美も大学を出たらSTスイミングクラブ東京教場に就職する予定だったのだが、練習を優先して大学を留年したため、入社の話がキャンセルになってしまった。それで結局、〒〒スイミングクラブに就職した。しかし彼女は津幡に来ていなかったら、東京五輪の代表には、なれなかったろう。大量の会員がいるクラブと少数精鋭(というか本来は青葉とジャネの個人的練習場!)のクラブでは練習環境が違いすぎる。
津幡プライベートプールでは、青葉・ジャネ・金堂・竹下・南野・筒石の6人は、専用レーンが設定されていて24時間好きな時に好きなだけ泳ぐことができるし、原則としてそのレーンは空いていても他の人は使わない。
(但し青葉が高岡に居ない時は千里が結構青葉のレーンを使っている。また、竹下リルの妹・ハネはしばしば土日には姉に付いてきて、姉の休憩中に泳いでいる。ハネは昨年のインターハイでは800mで3位に入っている:優勝はリルで、姉妹で金と銅を取った)
永井蒔恵は準大手のZZスイミングクラブ東京の所属である。スポーツ用品メーカーZZ社の関連クラブである。
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【春逃】(3)